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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

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【魔法少女レムリアシリーズ】「転入生担当係(但し、魔法使い)」(11/13・隔週水曜更新)

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【理絵子の夜話】「圏外」(11/16・毎週土曜日更新)

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お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在8編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

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色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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【理絵子の夜話】圏外 -29-

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 流しそうめんを食べ終わった後、理絵子を除く少女達は川へ降りていった。
 夫婦がその、陰陽師向坂を迎えるための準備を始める。鯛の尾頭、酒を用意し、玄関を清掃して塩を盛る。
 それは、儀式の後に、陰陽師某が“飲んで食う”のが定番になっていることを意味する。
 俗っぽいことこの上なし。
 午後1時33分。
 クルマが宿前の砂利道に入ってくる。ゴムが砂利を弾く音から、そのクルマは重いと判る。
 クルマの左側から下車する。桜井優子宅所有と同じドイツ製の高級車であろう。
 理絵子は断じた。こいつは決してまっとうな陰陽師ではない。
 夫婦が迎えに出る。
「こちらです」
「お待ちしておりました」
 ドアが閉まり、某が歩いてくる気配。理絵子は玄関脇に正座し、頭を垂れ、一言も発しない。見もしない。
“汚れて”いるから。
「お前か」
 映画の安倍晴明の真似か、とでも言いたくなる、甲高い声が上から降ってきた。
 理絵子は頷くのみ。漆塗りの木靴だけ見える。平安装束に身を包んでいるようだ。衣冠束帯(いかんそくたい)というヤツである。ちなみに安倍晴明(あべのせいめい)は、平安期に活躍した著名な陰陽師だ。
「他の者は」
「それが……午前より外へ出ていまして。この娘さんだけ残ってらしたので、部の代表ということで。なにぶん、携帯が通じませんので、どこにいるやら」
 女将さんはこわごわ、という感じで言った。全員呼び戻せ言われるのではないか、というわけだ。
 でも理絵子には判っている。それはあり得ない。
 なぜって時間が掛かるから。その点で携帯不通は説得力有り。女将さんグッジョブ(good job)。
「……よかろう」
 案の定。1人でも8人でも、お金がもらえて飲み食い出来ることに変わりはない。しかも短時間で済めば“時給”も高い。
 では早速、となり、2階に上がって、神棚の前で夫婦と正座。
 儀式が始まる。
 理絵子は、気づいた。
 某が意識をこっちに向けている。それは経験のある方もいるであろう、“コイツ背中でモノ聞いてるな”という印象そのもの。超自然的な感知能力……テレパシーで探りを入れに来ているのである。
 その時もし、霊的なパワーの状態を磁力線のように表すことが出来れば、陰陽師某から理絵子へ向かう磁力線が、理絵子を避けるように迂回し、後ろへ流れる。そんな様子が見えたであろう。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -19-

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 肩で息をし、声が紡げない。相当慌てたと見える。
「……ああ、良かった。びっくりした……」
「ごめんなさい。その、相原さんの手品見逃したくないなって。それから、みわちゃん、どんな。前はこんな」
 諏訪君の質問に医師が頷いた。
「伊藤さん、叱っておくから戻っていいです。……みわちゃんは骨髄移植をしました。姫さんにはCMLと言えば判りますね」
 レムリアは納得した。みわちゃんは透明ビニールシートで覆われ、それは無菌シート。更に呼吸補助装置をはじめ、数々の機器とチューブや電線でつながれている。
 CML:chronic myelogenous leukemia……慢性骨髄性白血病。日本語の字面を嫌ってロイケミアと呼ぶ向きもある。
「今は、眠っています」
 医師は小さく告げた。
「無理矢理起こすのは可哀想だよ」
 レムリアは言った。とはいえ、薬による眠りであるから、起こすという選択肢は存在しない。
「みわちゃんだけ後で、じゃだめ?」
 レムリアは小首を傾げて尋ねたが。
「いつも、みんなと一緒じゃないんだよ。一度くらいみんなと……」
 ゆみちゃんはだだをこねるように言った。
 一緒じゃない。それは、感染症防止のため、が趣旨だとレムリアは理解している。
 ただ、それは、そばにいるのに接触出来ないという状況を作る。
「魔法を使いますかね」
「えっ?」
 驚く声は同時複数。
 レムリアは手のひらを握り、ひらく。
 毛糸のリング。真珠を模した白い球が2つ。
「ミサンガ」
「あら懐かしい」
 それは医師と看護師。これをおまじないとして手首に付けるのが流行ったのは1990年代。
 レムリアは片方を握り、無菌シート越しにみわちゃんの手首を握り、手を開いた。
 シートを越えてみわちゃんの手首にミサンガが装着される。
「どうやって……」
 手首に通したわけでも、解いて結んだわけでもない。
 シートもめくらず。
「手品ですから。まぁ細かいことは気になさらず……こっちはゆみちゃんが付けて」
 同じく握って開けばこちらもミサンガ装着完了。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -28-

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 田島の勢いが急落する。
「りえ……」
「半ダース」
「3ダース!?」
「ちがう!半分ダース!6本」
「ちぇ」
「ほら、綾っぺ」
「は~い」
 マックスコーヒーで買収された田島は主人氏を追い、しぶしぶ玄関から出た。
「しかし部長ってそっち方面詳しいみたいですね」
 竹下が言った。
 理絵子は苦笑した。この方面、そういう経緯から独学の部分もあるが、一般向けにはもう一つの理由の方を話している。
 すなわち。
「どうしてもホラ。父親の仕事が仕事でしょ。仏様がついて回るわけよ。母方の実家が震え上がっちゃってさ。南無阿弥陀仏。否が応でもお勉強してしまうという」
 理絵子は言った。『“死”が日常茶飯事になる。これは怖い』という父親のつぶやきが強く印象に残っている。
「え?仏像持ち歩くんですか?」
 竹下が目を円くした。
「バカ。お亡くなりになったお方のことだよ。死体。シカバネ。ムクロ」
「きゃー!」
 生々しい大倉の台詞に、竹下が耳を塞いで顔を背ける。
 が、その動作でテーブルに身体をぶつけ、麦茶の入ったグラスを倒した。
 テーブル上に麦茶池。
「うわお前バカ」
「絵が、絵が~」
「綾~!」
 今里が田島を呼ぶ。彼女たちは慌てて描きかけの絵やレポート用紙を引っ込めた。
 ちなみに彼女たちが使っている水彩色鉛筆は、“水彩”の文字からも判るように、水彩絵の具的な一面も持っており、水分に触れると溶ける。
 飲み物をこぼすのは致命傷なのだ。
「どうした?」
 田島が勝手口から顔を出す。
「ごめん、こぼした、雑巾」
「ああ、はいはい」
「あ~滲んで行くよ……」
「見ろ、絵がゴミのようだ……」
「言葉を慎みたまえ。君はりえ部長の前にいるのだ」
「それじゃ自分同士」
 描き直し。なお、彼女たちの台詞の2,3は、著名なアニメからの援用である旨付記しておく。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -27-

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 かと言って夫婦の、この宿の立場を悪くする必要もない。
「おばちゃん。この際りえぶに任せた方が良くない?……だってあのおばあちゃんが納得するくらいだし……」
 田島が言った。“おばあちゃんが納得”が、強い説得力を有するフレーズであることは、論を俟たないであろう。なお、“りえぶ”はりえ部長の意味である。
 女将さんはふう、とため息をついた。
「ごめんねぇ。何か巻き込んじゃったみたいで」
 それはすなわち、理絵子にお任せ、に気持ちが傾き始めている。
「いいえ。お世話になるわけですから」
 理絵子は言った。むしろ巻き込んで頂いた方がありがたい。予感のこともあるし、その陰陽師の釈然としない言い回しも気になる。直接会った方が何か得られる。
「じゃぁ今夜はしゃぶしゃぶにしちゃおうかな」
 女将さんのその一言に、メンバーは拍手喝采し、理絵子を取り囲む。
「さすが我らの部長だ」
「いやぁ頼りになるなぁ部長」
「部長」
「部長」
「ブチョー」
 みんなして古代の礼拝の如く、理絵子に向かってひれ伏し座礼を繰り返す。
「もうよろしい下僕共……てなわけでしゃぶしゃぶで売却されました」
 理絵子は言った。ふと思う。自分たちのこの軽いノリは、絶対に事態を深刻にさせない。
 女将さんと主人氏が頷き合う。“それで行こうか”。
「ごめんなさいね。1時半って言ってた」
「承知しました」
「じゃぁ松阪牛を買ってこようかね」
 拍手に送られ、女将さんが再び外出。
 次は主人氏が動く。
「やれやれ。このコンピュータ時代に、と思うよ。綾っぺ。そうめん手伝え」
「えー何であたし?」
「腕力」
 強調するようで彼女には悪いが、BMIという数字で出てしまっている。
「ひどい。レディに向かって言う言葉じゃないわ」
「それも取り柄の一つだと思えば」
「部長が人身御供になって下さるというんだ。我ら下僕共も何か奉仕するのは当然でしょうが」
「そういうお前は何だー!お前は!お前は!お前はっ!」
 田島が一人ずつ指差し、差された側は目を背ける。
「マックスコーヒー」
 理絵子はひとこと言った。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -18-

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「魔法は一朝一夕で使えるようにはなりません」
 と言って、袖口掴む手を広げ、手のひらで包んで握らせる。
 おまじないを掛けるように指先を向けてくるくる。
「まず、助手をやって下さい」
 指先で握り拳を1回つん。
「開いて」
 ゆみちゃんが言われるまま開くと、マシュマロが一個入った小袋。
「あ!」
「出来た。素質はあるよ。一緒に行きましょう」
 すると、また、袖口を掴まれる。
「ん?」
「隣の部屋。みわちゃん」
 彼女は日曜朝に放映される女児向けアニメが好き。変身して悪と戦う。
「ああ、そのグッズなら少しあるよ」
 レムリアはそのままマシュマロを再度握らせた。指つんで開くと今度はそのアニメキャラの缶バッジ。
 ゆみちゃんは首を左右に振った。
「違う。変身させたい。服があるんだ」
 車いすを動かしてレムリアを先導する。隣室引き戸をノックして、しかし返事を待たずに開ける。
「ゆみだよ。こんちは」
 再度声を掛けるが返事はない。ゆみちゃんは勝手知ったるとばかり、部屋に入ると壁際を指さした。
 ハンガーで変身コスチュームが下げてある。
 誰かいる。
「え?相原さん?」
 ちょっと鼻の詰まったような声だが諏訪君だとすぐに判った。その声の故は鼻の穴に酸素チューブを挿しているから。ベッドの傍ら車いすに座っており、背後に酸素ボンベが立っている。
 彼の目が見開かれた。
「あ、先生……」
「抜け出しは感心しないな」
 少女二人と共に立つ医師が手を腰に怒った表情。つまり、諏訪君は許可無しで病室を出て来た。
 廊下を慌てて走ってくる足音。
「小倉先生!諏訪君がいなく……」
「ここよ」
「え?」
 息を荒げた看護師が飛び込んで来、みわちゃんの病室へ顔を突っ込む。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -26-

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 と、そこで主人氏が勝手口を開ける。
「言えるかいそんなこと。最初っからこの子ら疑ってるみたいなもんじゃねーか」
 主人氏曰く、鮎の時期ではない今頃にこんなところに来るのは、憑いた悪霊に吸い寄せられて来たに相違ない。「お祓いをさせろ」と言われたと。
 少女達は顔を見合わせた。悪霊憑き?私たち……
 理絵子はその向坂なる人物の物言いが気になった。
 理屈に合わないのだ。霊的世界は非科学として否定されてはいるが、体系自体は論理的なのだ。それで行くと、非業の死を遂げた女の子達に、悪霊が近寄って行くというのは、何か噛み合わない。
 新約聖書だったと思うが、イエスの悪魔払いを見た偽善者が、『お前にそんなことが出来るのは、お前が悪魔の手先だからだ』と罵倒するエピソードがある(作者註:福音書にある)が、それに近い。
“彼女”たちが、殺された怨嗟を抱えた悪霊的存在であるとして、悪霊憑きがなぜ悪霊の住処……塚を壊す?
「オレはどうにも気に食わないんだ、あの拝み屋。いいよ、午後はこの子ら川遊び行っちゃって留守にってことにすりゃいい。あんな芝居がかったお祓いとやら、悶々やらせるこたない。カネ払って遊びに来て下さってるのに失礼だ」
「それは……」
 女将さんの表情が曇る。それはそうだが、向坂に刃向かうと後々町内で立場が悪くなる、そんなところか。
「あのう…」
 理絵子は口を挟んだ。
「差し出がましい物言いかも知れませんが、部長の私が代表で、ということでどうでしょう」
「え?でも……」
「そっち系は免疫がありまして。かけまくも かしこみ すめみ おんやかむ いざなぎのみこと(掛巻も畏み皇御祖神伊邪那岐之命)」
「そういえばそんな言い回し聞いたなぁ」
 主人氏が言った。この手の真言は軽はずみに使うものではなく、乱用防止の観点からは明確に書き留めるには向かないが、理絵子が口にしたのは『高天原のみなさまコンニチハ』に相当する部分であり、問題はあるまい。
「でも、時間掛かるし……」
「構いません。聞き流してストーリーでも煉ってます。この子らとやってると骨抜きにされるんで」
「ここでそれ言うかこの部長は」
 理絵子は夫婦にニコッと笑って見せた。実際問題、お経の親戚をメンバーに聞かせるのは苦痛である上に。
 時間の無駄だ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -25-

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「はっはっは。で?ウチのは?」
 女将さんのこと。
「あ、ワサビ取りって」
「そうか。じゃぁちょっと仕掛けをつくるわ」
「は~い」
 主人氏は勝手口から出た。
「そうめんそうめん~」
「いいから描いてね」
「そう言う部長殿はどこまで書いたよ」
「手書きでそんなに早く書けるわけないでしょ」
「エピソードだけ羅列すりゃいいんだって。小説化はあと。どうせパソで合成すんだから。絵に合わせて適切に文章化してくらはい」
「……判ったよ」
 書き物をする音が続く。シャープペンシルであり色鉛筆であり。
「この水彩色鉛筆っていいよな。消しゴムで消えるし」
「汗垂らすとにじむから気をつけようね」
 サンダルを突っかけて歩く音が聞こえ始め、次第に近づいて来、
 女将さん帰宅。
「あ~あ」
 溜め息。
「どうかしたの?おばちゃん」
 田島が尋ね、理絵子は書く手を止めた。
 ちょっと気になる。
「いやあのね」
 女将さん曰く、昨晩何者かが沢に侵入、おばあちゃんの話した塚(慰霊碑)が荒らされており、その際踏みつけられたかワサビがダメになっていたという。
「連中、沢の真ん中まで行こうとしたらしいのよ。そうすると川を歩いて行くしかないわけじゃない。それで……」
 流れの中に自生していたワサビが。
「しかもさ。塚の辺りで花火か何かやったらしいのよね。だからもう向坂(さきさか)さんがカンカンでさ」
「それで町内会……」
 田島が言った。向坂なる人物は陰陽師であり、その塚の“霊的な”管理をしているという。
 ゆえに冒涜行為に怒り心頭。町内会役員を集めて再発防止の徹底を、というところのようだ。主人氏はそれに参加していたのである。
「そう。特にウチなんか宿じゃない。泊める者に絶対行かすなと。そういや、あとで向坂さん来るって父さんから聞いた?」
「え?……い~や?全然?」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -17-

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「わぁ」
「あらすごい」
 それはゆみちゃんと医師の感嘆。
 ただ、この男の子にあめ玉をあげるのは困難。
 あめ玉を両の手で包む。開くとずんぐりむっくりにデフォルメされたおもちゃの電車。
「701系とか」
 それは東北地方を走る電車の型式。
 男の子に変化が生じる。それは電車を見ようとし、手にしようとする動き。
「大丈夫。はいどうぞ」
 横たわる男の子の枕元、視界に電車を置く。
 男の子の表情筋が動く。弛緩が見え、笑みを作ろうとしていると判る。
「良かった。じゃぁまたね。みんなの所を回るんだ。短くてごめんね」
 手を振りバイバイ。
「ではお隣へ……どうされました先生?」
 レムリアが隣室への案内を求めて医師を見上げると、医師は刮目、といった表情で見返していた。
「先生?」
「ああ、ごめんなさい。りきと君は電車好きだったんだ。どこで?」
 初対面のはずなのに電車好きと知っている。そこに驚いたらしい。
「いえ、フィアンセの曰く男の子は電車かクルマ出せば間違いないとか」
 握る、開く、あめ玉。握る、開く、電車。握る、開く、ミニカー。
「なるほど……」
 それは嘘では無いが、レムリアは全容を言ってはいない。
 医師は左手首の腕時計を見やり、
「来れそうにない子は24人。諏訪君は気道拡張の処置中。昼休みには間に合うと思う」
「じゃ、みんな回りましょう」
 個室を回って行く。お菓子が大丈夫ならお菓子だし、男の子は乗り物。女の子は。
 アニメキャラクタのキーホルダー、携帯機器用のストラップ。
「作ったの?」
「いえ、市販品。東京駅にこういうの扱うお店が集まってるんです」
「高いんじゃないの?こういうキャラクター商品って」
「フィアンセにたかってますので」
 と、左手の袖口をくいくい引っ張る手指有り。
 ゆみちゃん。
「ん?」
「どうやってるの?」
 手品の種を教えろ。
「そりゃ企業秘密ですぜ」
 レムリアは口の端でニヤリと“魔女の微笑み”を作り、首を左右に振った。
「私も魔女になって何かしてあげたい。いつもされるばっかり」
 そう言われると降参である。レムリアは天使の笑顔を作った。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -24-

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「破壊と創造。ブレイクアンドデストロイ」
「壊して壊しまくってどうすんの!」
「でもこうやってるとアレですね。教科書に書いてあった“作文の作り方”って嘘ですね」
 窪川が言った。
「そりゃそうさ。マニュアル通りに物語創れりゃみんなマンガ家小説家だよ」
「あらすじ作って肉付けなんてかったるいことやってられっか」
「でも私たち部長さんのお話に肉付けして作ってる気が」
「ちがう。骨がない!」
「骨抜きにしたのどいつらよ」
 7人一斉挙手。理絵子は脱力。
「くすん。いいけどさ。あのね窪川。私が思うに、教科書の書き方には肝心なことが抜けてる」
「えっ?」
「手順はどうでもいい。楽しく創る。ってね」
「……なるほど」
「おいしいとこ持って行かれたぜ」
「部長ですから」
 理絵子はちょっと澄まして言った。ちなみに、彼女たちはここで“自由な発想を求め、次第に収斂させて行く”という手法を取ったわけだが、これはビジネスの世界で“ブレインストーミング(brain storming)”と呼ばれる、確立された立派な発想・創造手法である。興味ある方は多くのビジネス向け書物が出ているので参考にされたい。
 勝手口がノックされ、ドアが開いた。

 女将さんではない。男性。ランニングシャツにねじり鉢巻き、肩の上には木のタライ。
「おう、よく来たね」
 ここの主人氏である。
「おじゃましてま~す」
「ごめんよ。お客様がいらっしゃるのに主人が留守して。急に町内会の会合があってな」
 主人氏は言うと、肩のタライをドンと降ろした。
 中はかち割り氷。
「お昼は流しそうめん」
 8人から拍手喝采。
「……元気いいなぁ」
「それしか取り柄ありませんから」
「私、脱いでもひどいんです」
「ちっ、先に言われた」
「争うところが違うだろ」
 主人氏は大笑い。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -23-

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 2分。
「優勝に対抗出来るのは爆笑だ」
 田島。
「韻を踏んでいるかどうかの問題じゃ……」
 そこまで来て、理絵子は折れた。
「いや、爆笑で感動って設定、できる」
 半分あきれながら、理絵子は言った。
 もう、いい。出会い、ときめき、別れ、涙。いかにも中学生が考えそうなトゥルーラブストーリー。
 私の考えた物語。横浜までロケハンして、せっかく考えてきたけど、このメンバーじゃ、無理。自由に発想させた私がお馬鹿さん(いつか自分で書く)。
「あのね、老人ホームというか、お年寄りの介護施設で一席打つの。頑固で全然笑わなかった、身寄りのないお年寄りが、ニッコリ笑って大団円」
 お~、とメンバーから感嘆の声。
「素晴らしい。落語でお年寄りなら無理がない」
「高齢化社会という問題提起も入ってるわけですな」
「高尚だなぁ」
「じゃぁ筋立て直そうか。コンテ描こう。文字でゴチャゴチャ書くより、印象深いシーンのイメージをサッと絵にして並べた方がいい」
「あ、でもそうなると“女の子が男の子を好きになる”きっかけどうするの?」
「どうする作者」
「誰がじゃ。ん~……それじゃあその女の子は、厳格な家の育ちって事にしようか。転入生歓迎会の一席で、彼女の家にない“笑い”に触れてホロリ」
「なるほど~」
「そうすると何、私たちがこれから紡ぎ出す作品は、読み手を爆笑させながら、しかし私たち世代に起こりうる家庭教育問題と、将来社会に出て直面する高齢化問題との両方を盛り込むという、極めて高度な作品ということになるわけですね!」
「竹下落ち着け。ぜってー校長賞はありえねー。凝りに凝りまくって大人社会を茶化すんだから。逆に言うと校長賞なんか取っちゃあならねぇ。そういうのは生徒には受けねー。クラシック作曲家の顔は落書きのベース。修学旅行の寺はただ数こなすだけ。違うか?」
「そうそう。狙うのはただ一つ“ウケ”だ。それを忘れちゃなんね」
「ようし固まった」
「絵は私たちが起こすからりえぼー小説書け」
「え~っ?」
「原作者でしょ」
「もう全然違うじゃん」
「どこが。輪郭と髪型と眉と目と耳と鼻と口変えたみたいなもんじゃん」
「何も残ってないじゃん」
「絵は集団で描けるけど文章は一人で書かないと文体が変わるんだよ」
「そう、変態するの。ア……」
「………ーッ!ネタはもう結構!しくしく。自分で創った話自分で壊すのね」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -16-

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 エレベータの扉が開いて先ほどの小倉医師。
「ああ、まだここにいたのね。あら、ゆみさんと一緒?」
「小倉先生。この人、魔女だそうです」
「知ってるよ。王女メディア・ボレアリス・アルフェラッツ。彼女が子供達に笑顔をもたらした時、それは奇跡の始まる合図。だからそう、人は彼女をこう呼ぶ、ミラクル・プリンセスと。当院へようこそ。あなたの御心のままにハイネス」
 それは先回自分がここへ来て以後、何者なのか詳細に調査された結果。
 ごちゃごちゃ説明する必要はない。
「ご快諾いただきありがとうございます。わたくしは子供達に笑顔になってもらうことがライフワーク。お昼休みあたりでどこかでみんなに集まってもらうか、個々の病室を回ることは可能ですか?」
「お昼は食堂ですので、告知して、興味ある子には残ってもらうつもりです。でも、動けない子もいます。そうした子達には……」
「今からでも病室を訪ねていいですか?」
 小倉医師はフッと笑った。
「もちろん。姫君、あなたの言葉には、あなたとの会話には限りないポジティブを感じる。何でも可能になると思わせる強さを感じる。どうぞ」
 小倉医師はエレベータのボタンを押した。
 4人で乗り込み、ケージが降りて行く。
「魔法って何が出来るの?」
 ゆみちゃんが訊いた。
「飛べる?」
「ほうきにまたがるんじゃなくてさっきの船だけどね」
 リンゴーン、とでも表現するか、電子チャイムと共にエレベータケージが停止。
 ドアが開いて声一つ聞こえない。ただ、耳を澄ますと幾らか電子機器の動作音。
 生命維持、呼吸アシスト、そういった機器類。生きることにそうした機器類が絶対必要な子供達。
 個室のドアをノックして訪なう。
「巡回です。こちらメディア王女。2階の笹倉あゆみさん。糸田さん」
 糸田さんはゆみちゃんの付き添い担当の方のこと。
 あゆみ?ゆみじゃなくて?
「先生やめて。私はゆみ。歩けないあゆみなんてシャレにもならない」
「ごめんなさい、ゆみさん」
 その部屋は男の子。ベッドに横たわり、機器類とホースやケーブルで接続され、動けない。
 レムリアは正面に回る。
「こんにちは。今日はマジックショーを見てもらいに来ました」
 手のひらを見せ、握り、開き、あめ玉。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -22-

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 仕方ない。理絵子はストーリー製作の手がかりになれば、くらいの気持ちで、考えてきたあらすじを披露した。
「あのね」
 病弱な女の子が、療養を兼ねて田舎の学校に転校する。そこにいた男の子は、幼い頃将来を誓い合った近所の子だった。
 二人は恋に落ちる。しかし甲子園を夢見る彼は、遠い高校へ行くことに。二人は再び将来を誓い合うが、2度目の再会は訪れないことを暗示して、物語は終わる。
「暗い!」
 田島が一刀両断。
「でも……ときめいて、想い通じて、感動して、涙して、ラブストーリーに必要な要素は全て入ってるな」
「感動しました部長」
 若井が涙目。
「恋愛物お得パッケージになってるのは確かではあるね」
「抱き合わせでエロゲバとアッー!を」
「やめんか」
「だけどラブストーリーって一話完結には向いてますよ。出会いと別れがあるから」
「じゃぁこれをラブコメに改造するか」
 待てコラ。
「まずエンディング。女の子殺すんじゃなくて男の子の方をどうにかする」
「交通事故」
「却下。唐突だしステレオタイプ。いかにもご都合主義っぽくて、“ああやっぱり中学生だな”になっちゃう。それでは面白くない」
「ではアッー!を取り入れて新宿二丁目」
 補足説明。ゲイバーが多い。
「それ行こう。ぜってーあり得ねー位でちょうどいいんだよ。でもそうすると野球アッー!ってのもありきたりだな」
「ありきたりか?」
「甲子園目指して、は、ありがちってこと」
「じゃぁお笑い目指して大阪」
「採用」
「でもそうするとエースに育って行く彼と、彼のカノジョであることに対する周囲のやっかみの処置は?」
「落研(おちけん)にすればいいじゃん。そんで生徒会長になるんだよ。爆笑生徒会長で人気者」
 田島が言った。ちなみに、落研とは落語研究部のことである。
「スランプに陥って炎天下一人練習、熱射病で献身介護のエピソードは?」
「ドリアン早食い大会でお腹壊して彼女が代理落語」
「それだったら闇鍋の方が良くないすか?スリッパとか」
「闇鍋はいいが、“スリッパを食う”という設定に無理がある。いくら闇鍋でもあんな物噛み切れないだろう。確実に間違えて食べてしまって、確実に腹をこわすものでなくちゃ」
「ヘビ」
「かえって健康増進になりそう、却下」
「ゴキブリ」
「無害だと保健所のホームページに……」
「マジかよ」
「ああ、そういうの実際食べて調べるらしいよ」
「カタツムリ」
「寄生虫マジ死ぬからやりすぎ」
「んじゃミミズ」
「それで行こう」
「真剣な議論が続いております」
「どこがじゃ」
「闇鍋なら、真夏の我慢大会ってことにすれば、季節設定変えなくて済みますね」
「いいこと言うね。汗くさい男達って雰囲気も維持出来る」
「さわやかだなぁ」
「しょっぱすっぱ」
「やめい!。でもそうするとクライマックスどうする?彼がとっておきの魔球を披露して大会で優勝。落語じゃ感動クライマックスがない」
「う~ん」
 議論(?)はそこで詰まってしまった。

つづく

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【理絵子の夜話】圏外 -21-

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「さ、怖いのはこのくらいにして話創ろ。とりあえず何でもいいから浮かんだフレーズじゃんじゃんキボーン(希望ん)」
 理絵子は言って、まんじゅうをもう一つ口にした。ちなみに“何でもいいから”と言ったのは、最初から“これ”とテーマや方針を決めてしまうと、発想の方向が固定され、思いつきの内容が貧相になるから。
 冗談がポンポン出てくるこのメンバーの場合、言いたいように言わせた方が、豊富なネタが得られると思うのだ。
「まんじう怖い」
 早速、竹下がおちゃらけ、同様にまんじゅうを口にくわえる。
「ああ確かにこのまんじゅう皮固いねぇ」
「それは強(こわ)い」
「落語ネタを更にひねるかこの者共は」
「話かぁ」
 今里が深呼吸する。
「ウチらのテンションなら絶対コメディーだよね」
「ラブコメ?」
「あきたこまち」
「言うと思った、却下」
「農林21号」
「それコメじゃなくてイモだし」
「コメもあるんだよ。酒にすると美味いらしいんだけど、栽培が難しいんだって」
「なんでそんなこと知ってるんだよ」
「父親の実家農家だもん。最近アイドルが米作りの番組やってるもんだから、総合学習の子ども達が結構来るんだって」
「話が脱線してるぞ。以下銘柄は却下」
「じゃコメ兵(こめひょう)」
 補足説明。名古屋を本拠とするリサイクルショップ。21世紀になって東京エリアに出店。
「最近はパソで変換してもちゃんと出るんだよ」
「別にそういう突っ込みは期待してないわけで……」
「コメディーねぇ」
「うちらのこの会話で良くね?ビデオに撮って、パソでキャプチャすれば充分使える」
「誰がそれ作業やるの?動画編集ってけっこう高性能なパソが必要だって父ちゃん言ってたぞ」
「ストーリーは?」
「マジで考えるなよ」
「でも、コメディーって一話完結ものだと難しくないですか?始まりと終わりの処理とか」
 竹下が言った。
 その一言でみんな黙ってしまう。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -15-

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「じゃ、空飛んでみる?」
 レムリアは背後の船を指さしそう返した。諏訪君は任して大丈夫であろうし、容態が落ち着くまで少しかかる。
「あの、どういう……」
 女性が困惑の表情を浮かべる。まぁ、自分たちの会話は常識的には非常識だろう。
「これ、空飛ぶんですよ。数分で済みますので、お嬢さんを空の散歩に連れ出してもよろしいですか?私(わたくし)はこういう者です」
 IDカードを見せる。この船に乗り組む前から所属する国際救助ボランティアは世界的な知名度もあり、大丈夫であろう。
「メディア……。え、ちょっと待って下さい。医療派遣団にいる日本語ペラペラの女の子って……魔法の国のお姫様と……」
 そうやって日本の雑誌で紹介された。
「ええ、魔法の国の姫様です。でも、帰化しました」
 女性は目をまん丸に見開いてレムリアを見つめた。
 少し整理する。彼女レムリアの生来の名は前述の通りメディア・ボレアリス・アルフェラッツという。欧州東端の小国で、中世魔女の輩出で知られたアルフェラッツ王国のれっきとした王女である。日本にいて異国の娘と気づかれないビジュアルをしているが、日本語は話せる言語の一つに過ぎない。数年オランダで一人暮らしをし、国際救助ボランティアに属して看護師として活動、縁あって結婚前提で日本に帰化した。なお、空飛ぶ船は更に別途所属している極秘救助チームの所有物であり、レムリアはそちらで使うコールサイン。
「私だけってのは、だめ」
 女の子が両腕で大きなバツ印を作った。
 レムリアは小さく笑った。その意図を判じたからだ。
「私は動けるからまだいい。でもずっと寝たきりの子もいるし、出し抜いて私だけとかイヤだ。魔法なら、全員にかけて」
“魔法の国のお姫様”は驚愕事項ではないらしい。
 そして、志の表出であろう言動は立派の一言。
「判りました。みんなの病室を回るよ」
「じゃぁ、ついてきて」
 女の子は自ら車いすのホイールを回してエレベータの方へ向かう。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -20-

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 田島が言う。
「三つ叉沢に行っちゃいけないっていつも言ってたのは、単にそこが深いから危ないっていう意味だけじゃなかったんだ」
「そういうこと。でもみんな、おばあちゃんの話聞いてくれてありがとうね。“肝試し”って、大抵おもしろ半分なんだろうけど、その実、人の“死”を弄んでることだと思うのね。最近若い人が来たかと思うと『三つ叉沢はどこですか?』ばかりでね。おばあちゃん、若いあなた達が来るって聞いて疑心暗鬼になっててね……」
 女将さんが恐縮したように。
「いいえ。よく判りました。その沢の方へは行かないようにします」
「ごめんなさいね。そうそう、あとでとっておきの出してあげる。作業はここ使ってね。食べながらやっていいよ。ちょっとワサビ採ってくるから。綾ちゃん、留守番頼める?父さんもうすぐ戻ると思うし」
「は~い」
 雰囲気を戻そうとしたのだろう。女将さんは声のトーンを変えて言うと、厨房の勝手口からサンダルを突っかけて外出した。
「本物、だったわけだ」
 大倉が言った。
「おいお前まさか……」
「ううん。確かに怖い話は好きだよ。でも本物だってなら話は別。素人の本物相手は身の破滅、これ定説」
「そういや、りえ部長さっき何言ったんですか?」
 竹下が訊いた。真言のことだ。
「あれの文言だよ」
 理絵子は食堂隅に貼られた御札を指差した。
「ある程度勉強しておかないと、そっち方面の話リアルに書けないでしょ」
「なんだそういうことか。あたしはまたあのおばあちゃん急に黙ったもんだから、部長がエスパーかましたのかと……」
「残念でした」
 理絵子は舌をちょろっと出した。
 と同時に、自分たちの会話のテンポが、いつものパターンに戻って来ているのにホッとした。
 これがいつもの自分たちだと思うし。
“怖い”気持ちは“怖い”エネルギーを引き寄せる。
 経験上。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -19-

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 しかし、実際には、老女の話は、冷えた麦茶がすっかりぬるくなるほどの、時間を要した。
 それは運転手の言っていた、金鉱山に関係があった。戦国時代、この地で金が見つかり、現代風に表現するなら“従業員住宅街”が形成された。
 増加する富と男手は、やがて遊郭をこの地に欲した。遊女は全国各地の貧農から供出された女の子でまかなった。要するに人身売買市場から少女を買い集めたのである。
 だが、金鉱山という富の源の存在は、当然ながら他国の攻撃目標となりうる。
“彼の国で金が出ているらしい”…そういう噂が周囲に広まっていると知った時の大名は、金山の閉鎖を命じた。この際、遊女達の“処置”が問題となった。
 自由の身とすれば、彼女たちは故郷へ戻るであろう。しかしそれは、全国各地に向かって“ここに金があります”と宣伝しているようなものだ。
「まさか……」
 先が見えたか、窪川が乾いた声を出した。
「その通りさ。鉱夫たちは、この上の“三つ叉沢(みつまたざわ)”に縄で吊った舞台を用意し、最後の酒宴と偽って遊女を全員集め、舞いを踊らせた。そして、縄を切って舞台ごと沢に落とした。娘達の歳は14か15か、そんなもんだろう」
 少女達は息を呑んだ。
 自分たちと同じ年頃の少女達が、欲望のために金で買われ、欲望のために殺された。
「だからこの土地は弔いの地だ。三つ叉沢に行ってはならぬ、奥底を見てはならぬ。塚より奥に行ってはならぬ。塚の石をいらってはならぬ」
 老女はそれだけ言うと、後ろを向き、去った。“いらう”とは弄ぶの意味だ。
「……ありがとうございました」
 理絵子は言った。
 入ってはいけない領域がある……それは、“彼女達”がまだこの地にいるという意味だ。
 御札の意味がよく判った。そして同時に、今、こうして老女に話を聞いたことが、何かの転機になるという気もした。

 少女達を包む空気は一気に重苦しいものになった。
「ごめんねぇ。せっかく来てくれたのに…」
 女将さんは困ったように言いながら、麦茶を新しいものに淹れなおしてくれた。
「ちょっと、ショック」
 窪川が言った。同じ年代の女の子達が口封じのために殺される。それが一体どんな気持ちであったか、容易に想像が付くのだろう。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -14-

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 その時。
「あなたってアトレーユなの?」
 可愛らしい声が傍らから発せられた。
 レムリアは立ち止まり、声の主のたる車いすの女の子に目を向けた。
「ゆみちゃん、お姉さんは忙しいのよ」
 車いすを押している女性が軽くたしなめる。だが、レムリアは諏訪君を医師と大男に任せ、女の子前で膝を折った。
 アトレーユ。長編ファンタジーで知られる“ネバーエンディングストリー”の主人公である。
 実は空飛ぶ船を見られたことが過去何度かある。その場合、大体の反応は“ピーターパン”であった。それならネバーランドだが。勘違い?
「ドラゴン、あの子連れてどっか行っちゃうよ?」
「ゆみさん、失礼ですよ……ごめんなさい。あの、先生の所へ行かれて下さい。この子は……」
 女の子の言葉と付き添いの方から判ることは二つ。
 女の子は良く本を読む。そして、この種の発言を“失礼”とは思わず繰り返している(繰り返してしまう)。
 その結果、多分、女の子の本質に対して様々な誤解を生んできた。
 すると?自分が男の子に見える?
「男の子に見える?」
 レムリアは自分を指さして聞いてみた。
「うん。おっぱいないじゃん」
「これ!」
 付き添いの女性はたしなめるが。
 イコール、付き添いの方にもそう見える。
「あっはっは……」
「あとね、強いから。絶対に信じてるから。ヒーローのように」
 それはレムリアの苦笑を真顔に戻させることになった。確かに、“とりあえず逃げる”という心理は芽生えたことがない。それら情動と、諸々の“女の子らしくない”部分が男の子のように感ぜられたか。
 否、自分は真の困難に出くわしたことが無いのかも知れぬ。
「私、歩けないんだ」
 女の子は唐突に言った。
 その足に目をやると細っこく、応じた筋肉がついていないと判る。
「頭もおかしいって」
「これ!」
 付き添いの方はそうやって幾度この子をたしなめてきたのであろうか。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -18-

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 理絵子の超絶の感覚が、敵意と拒否の心理を背後に捉える。理絵子は女将さんと共に、しかし女将さんより一瞬早く、その方向を振り向いた。
「また覗きに来おったか!」
“老婆一喝”とでも書こうか、しわがれ、ささくれだった老いた女声が、彼女たちのポップで華やかな雰囲気を一変させた。
 少女達がびくりと身体を動かし、声の主を見る。
 その白装束は理絵子の語彙では“浴衣”と変換された。和装の白い寝間着に身を包んだ老女。
 乱れた白髪に目は血走り、形相は般若を思わせる。その姿は失礼ながら“鬼女”と表現したくなる。
「おばあちゃん……」
「何が“肝試し”だ。何も知らないよそ者が汚し(けがし)に来おって……」
 困惑する女将さんの声を遮り、老女が罵る。
「罰当たりめ。お前ら……」
「きゅうきゅうにょりつりょう」
 理絵子が呟いたフレーズが、老女から流れ出る罵倒の語をせき止めた。
 陰陽師扱う真言(呪文)である。
 理絵子はこの辺りの知識を有する。彼女が幼い頃の話になる。“見えないものが見える”彼女の能力の正体を見抜いたのは、小学校の遠足で訪れた東京郊外、高尾山(たかおさん)に集う修験者(しゅげんじゃ)であった。修験者は彼女にその能力の何たるかを説き、“力持ちたる者の心構え”を教えた。そして、“力持つがゆえに狙われる”として、身を守る術をも伝えたのである。
 要するに理絵子は真言密教のレクチャーを一通り受けている。関連で密教由来の多い陰陽道の呪文も把握した。これは扱うもの(超自然のエネルギー)が同一であること。及び、日本国内に併存し、相互に影響し合っていることから、持っていて損はないと判断したためだ。
 果たして理絵子を見る老女の目が一変した。髪の毛逆立たんばかりの勢いは失せ、毒気を抜かれた表情で理絵子を見る。理絵子の一言は、“素人の遊び半分ではない”というサインになったのである。
「この辺りに悲しい言い伝えがあるらしいことは、ここに来る道すがら聞きました。私たちの目的はそれではありません。でも、滞在中の私たちが、禁忌に触れる行動を取ったり、行ってはいけない場所に間違って行ってしまわないとも限りません。よろしかったら、何があったのか、そして何をしてはいけないのか、教えて頂けますか?」
 理絵子は言った。女将さんが驚きの目で自分を見ていることが判る。今この時、自分の言動以上に的確な応対は無かったと知る。
 そしてやはり、タブーが存在したことも。
「いいだろう」
 老女は、言った。
「じゃぁおばあちゃんここへ…」
 女将さんが立ち上がり、席を譲ろうとする。
「いいよ。それほど長くない」
 老女は言い、立ったまま、話し始めた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -17-

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 寝転がって訊いたのは窪川。
「圏外だよ」
「あ~じゃあ全滅だぁ」
 曰く、8人は電話会社も電波方式もバラバラだが、どれも圏外。
「だったら電池切っておいて方がいいよ。圏外の方が電池食うんだって」
 理絵子は言い、率先して切った。圏外だと、電話は電波を最大出力にし、接続可能な地上局を探す。従って、電波が繋がっている時より電力を食う。
 張り込みの多い父親から聞いた知恵だ。
「あ~あ。阪神速報見れない」
「何しに来たのキミは」
 と、階下で女将さんが柏手のように手をパンパン。
「姫君達、酒まんじゅう食べるかい?」
 ぐでっとしていた姫君達は瞬時に身体を起こした。
「はいっ!」(8人一斉)
「じゃあおいで」
「はいっ!」(同上)
 昇る時の3倍くらいの速度で階段を下りて行く。建物がビリビリ振動したが、彼女たちの名誉のために仔細な描写は控える。なお、酒まんじゅうは、この地方ではポピュラーなおやつである。
 食堂へ入る。テーブルに文字通りてんこ盛りにまんじゅうが積み上げられ、グラスに入った麦茶が用意されている。
 甘酒のそれに似たいい匂い。
「おいしそう~」
「朝がおにぎり一個じゃね」
「いただきま~す」
 どうぞと言われる前にぱくつく。この年頃の少女達に“しおらしさ”は無縁である。
「さてと。え~部長さんはどなた?」
 女将さんが訊いた。理絵子はまんじゅうをくわえたまま、右手を小さく挙げた。その仕草は可愛らしく、写真に撮っておけば絵になるだろうが、彼女は怒るだろう。
「一応お約束だからね。宿帳に学校名と代表者の名前を」
「ふぁい」(食べながら)。
「合宿だって?」
「ええ、物語を一つ作るんです」(飲み込んだ)
「あら素敵。どんなお話?」
「それがこれからなんです」
 宿帳に書きながら、理絵子は苦笑した。彼女が用意していたストーリーは純愛ものだが、バス内の会話のおかげですっかりその気は失せた。
 エロゲバだ腐女子大好物だというフレーズが頭に残った状態で、夕暮れの横浜港で初恋が……でもあるまい。
 その時。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -13-

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 女性の声。諏訪君が背中でぴくりと動き、主治医だったと判ずる。
『担当医師の小倉です。今どちらにお見えですか?』
「病院の真上です。降ります」
『はい。こちらも用意を……真上!?』
「ヘリコプターみたいなもんです。お願いします」
 答えながらPSCのボタンを押す。これは船内通知用。許可が出たので下ろして。
 セレネが答える。
『了解。屋上ヘリポート位置に降下……しますが、人がいます。滑空モードで降下します』
「構いません。滑空モードで」
 滑空モード。レムリアはカメラ画像で屋上を見やった。車いすの子供さんとそれを押す付き添いの大人。
 この船は国際レベルの機密だが、暴風は出せない。クローキング……すなわち光学迷彩で姿を隠す機能は持つが、滑空に必要な気流を遮断してしまう。
 仕方がない。
 甲板の前中後、3本配されたマストの帆を広げて風をはらむ。
 水平に近い角度まで広げて船は空を滑る。1回旋回し、応じて影が屋上を横切り、屋上の二人が見上げる。
 驚愕に極限まで見開かれた瞳。
 船はわずかな音を立てて船底を病院屋上に付ける。帆を畳んで、船体の側面、海行く船なら喫水線の下に来る位置にある扉がスライドして開く。
 金髪碧眼の大男におんぶされた男の子、その傍らに酸素ボンベとショルダーバッグを下げた女の子。
「驚かせてしまって申し訳ありません。小倉先生の了解をいただいて諏訪利一郎の診察に伺いました」
 テレパスが感知する。屋上に出る扉が開く。
 車いすと付き添いの二人が呆然としているその奥、小屋のような部分で鉄の扉がギイと開いた。
 風に揺れる桜色の着衣。結んだ髪が背後を流れる。
「信じられない」
「喘息の発作を起こしチアノーゼを呈しました。今はこれの“機動衛生ユニット”の呼吸器を付けています」
 レムリアは大男と主に歩み寄りながら、これ……背後の船を指さした。なお、“機動衛生ユニット”は自衛隊が所有している航空機搭載型のミニ病院である。分かり易いと思いそう言っただけ。アルゴ号の場合“生命保持ユニット”と呼ぶ。
「あと、お願い出来ますか?」
 半ば呆然としている小倉医師の目を見ながら、レムリアは言った。
「え。あ、はいはい。こちらへ」
 スイッチが復帰したように小倉医師が身体の向きを反転させる。

(つづく)

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