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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

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・【大人向けの童話】「謎行きバス」
(6/20 毎週水曜更新)
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●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
drama魔法少女レムリアのお話(現在15編)
night超感覚学級委員理絵子の夜話(現在7編)

●長編
yen「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
cafe大人向けの童話(現在10編)
heart01恋の小話(現在13編)
virgo妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
ng(分類不能)「蟷螂の斧」

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色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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【大人向けの童話】謎行きバス-31-

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 ヤマカガシ。二〇世紀の末まで、無毒と言われた、ほぼカエル専門に食するヘビ。
 その目はくりっとして丸く、そのせいか顔立ちは可愛らしい。スズランの花といっしょで、ぱっと見て毒があるとはとうてい思えない。
「え?じゃあ……」
「毒ヘビですよ。ハブより強いというのが最近の説です」
 雄一は言いながら、ガケの中程に足をかけ、じっとしているヤマカガシの背後に手をのばした。
「どうするんだい?」
 心配そうなセンター長。ちなみに、ヤマカガシは舌をべろっと出して動かない。死んだフリ。
「基本的におとなしいヘビです。よほどいじめつけない限り、キバを立てたりはしません」
「だからって……」
「つかまえてお見せします。ちなみに、かまれると、そのうち、びぃんとしびれてきて、ずきん、ずきん、としてきます」
「かまれたことあるのかい?」
「小さいヤツですけどね。半日ズキズキしてました。でも大じょうぶ、それまではふつうにつかまえて遊んでましたし、その時は、ちょっと、ひどいことしましたからね」
 雄一は言い、自分の背よりも長いそのヘビの、首根っこをひょいとつかんだ。
 おおっ、という声があがる。ヘビはあわてて体をくねらせ、のたうち、雄一のうでにからみつき、口をカッと開いた。
 その表情はまさに肉食のどうもうさ。
「おい雄一君!」
 センター長の声が、心配する親父のそれに変わった。
 しかし、雄一は平気である。この辺は経験だ。なお、雄一はかれこれぴきからのヤマカガシを手づかみした経験がある。だから、体であつかいを覚えているのである。でもそれは、毒ヘビとされていなかったから出来た話。今はちがう。
 雄一はヤマカガシを持ってガケから降りた。
 
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★死亡例もあるので、絶対に真似してはいけない。これは青大将の子供
 
(つづく)

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【大人向けの童話】謎行きバス-30-

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 それは雄一の経験に基づく、単なる実感。
 しかし、センター長は感心したように、目を丸くして大きくうなずいた。
「君が命を大切にあつかう理由がよく分かった」
「……そうですか?」
 言いながら、雄一は水そうのすみっこに文字通り〝巣食った〟寄生バチのマユを、アオムシのなきがらごと、棒でからめとった。
「そうだよ」
 センター長が言う。
「選ばれて生きているという実感があるから、むやみに殺せない。君も『命を大切にしなさい』っていうのを良く聞くと思うけど、そう言われたから殺さないだけ、ではダメなんだ。重みがちがうんだよ。ゲームの主人公が死なないようにするのとは、わけがちがう。
 おかしな話だが、〝死ぬ〟ってことがどんなことか分かってこそ、〝生きる〟ってことの重さに気付くんだよ。その点で最近はペットとか……」
「センター長!ヘビがいた!」
「すっげーでっけーやつ!」
 男の子たちの声が、割って入った。
 
 
 センター長もふくめた、ご一行様で向かったのは、運動場のすみっこ。そこは雑木林のはしっこに当たり、小さなガケが立ち上がっている。ガケは赤土がむき出しで、わき水がちょろちょろ流れ、周辺の土はしめってジメジメ。
 そのジメジメに生えている草の中に足をふみ入れたら、小さなカエルがぴょんぴょん飛んだ。アカガエルの未成熟なヤツだろう。なるほどヘビがいて変ではない。
「ほらこれ!こいつ!」
 男の子がガケの真ん中を指差す。赤黒模様で相当に長い。雄一の身長より確実に長い。
 じっと動かない。センター長がのぞきこむ。
「これはさっきの……」
「いえ、ヤマカガシです」
 雄一は言った。
 赤黒がほぼシマシマのパターンをえがく。ニジマスの腹部の模様に似ている、と書いた方が、分かる人には分かるのではないか。
Tw1
レッドデータブックなごや2015 動物編 より。デジカメ時代になってから見てないわ)
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-29-

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「これ」
 と、女の子が持ち上げた水そうの中には、キャベツの葉っぱと。
 すみっこで、がんじがらめに糸がからまり、動かないモンシロチョウのアオムシ。
 アオムシの体の前には、黄色い糸の小さなマユが、ズラズラいくつも並んでる。
 あーあ。雄一が最初に感じたのはそれ。
「これ、幼虫を見つけて取ってきたの?」
 女の子はうなずいた。
 だったらまちがいない。
 残念ながら。
「あのねぇ、これ、アオムシ サムライ コマユバチってヤツに、体の中食われちゃったよ」
「え?」
 女の子は泣き顔。
「ああ、ちがうのかい」
 センター長が口をはさんだ。アリジゴクのウンコについての説明を聞きながら、こっちにも耳をかたむけていたわけだ。
「ええ、寄生バチにやられてます。この小さいマユ一つ一つがそれぞれハチになります」
 女の子は泣き出してしまった。
「チョウチョになると思ったのに~」
「そう泣かないで。ぼくも良くやられたよ」
 雄一は言った。
「モンシロチョウってなかなかうまく行かないんだ。卵からなら大じょうぶだろうと思って取ってきても、半分死んだりしてね。そのせいかも知れないけど、モンシロチョウは卵を百以上産むんだ。生まれてきて、生き延びて、ちゃんとサナギになって、そして成虫のチョウチョになる。その全部が命がけ」
「ほぉ。そんなに死ぬかい」
「ええもうそりゃあっさりと。なんで?ってずいぶん思ったんですが、その代わり卵たくさん産むって聞いて納得しました。選ばれて選ばれて、本当に体がじょうぶで、運のあるやつだけが生き残るんだって。生きているだけすごいんだって。だからそれはしょうがないし、君のせいじゃないよ。生き残るだけで大変なことなんだから。だから今度は、卵を見つけて10個くらい取ってきてごらん。3つか4つはサナギになるよ」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-28-

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 指先に乗るサイズ。なのに似つかわしくない、どう猛(もう)そうなアゴ。そこだけ見ればメスのクワガタのようだ。そして、サングラスをかけているみたいな、大きな複眼(ふくがん)。
「ハンミョウだよ。人の歩く先を先回りするみたいに飛ぶから、道教えともいう」
「へぇ~」
「きれい」
「あ、かみ付かれると痛いよ。これの幼虫もアリジゴクみたいに土の中にいて、近づいた虫をこう、ガッと」
 雄一は手指を使って、体をのばしてエサをつかまえる、という様子を説明した。ちなみに、ハンミョウの幼虫はイモムシタイプで長い穴の中にひそむ。穴のそばを虫が歩くと、スケートの〝イナバウアー〟よろしく、体のけぞらせて穴から現れ、親ゆずりのでっかいアゴで虫をつかまえるのだ。
「にがすよ」
「うん。ハンミョウさん。ばいばい~」
 手をつっこんで指先に乗せ、網から出してやると、大あわて、という感じで、ハンミョウは飛び去った。
 つーっと飛んで少し先に降りる。
 女の子たちは面白そうに、ハンミョウを追って走って行った。
 その向こう、子ども達といっしょにしゃがみこんでいるセンター長の姿。
 センター長が自分に気付いた。
「先生に聞いてごらん」
「せんせー」
「せんせーこれってサナギ?」
「あ、センター長。アリジゴクってウンコしないんだって」
「ほうそうかい。おやこらまたずいぶん探検隊が増えたなぁ」
 センター長は笑って言った。
 そのやりとりに雄一はすごいと思った。ふつう、大人の人はいきなりアリジゴクのウンコの話をされたりしたら、面食らってイヤがるものだが。
「どうしてウンコしないのか教えてもらったかい?……ところで先生、この小さいマユがモンシロチョウのサナギかどうか、見てもらえるかい?」
 センター長は、下級生の男の子にたずねながら、別の女の子が持っている飼育用水そうを指差した。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-27-

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「虫とかってさぁ、手のひらとか乗せるとすぐウンコとかしねぇ?」
 自分と同学年くらいであろうか。いつの間にか背後からのぞきこんでいた、男の子が言った。
「こいつ、腹の中ほとんどウンコ」
 雄一はアリジゴクの腹部をエノコログサでつんつんして言った。
「マジ?」
「なにそれ」
「ずーっと土の中で待ってるわけだから、ウンコするところがない。それと、つかまえたアリの体液を吸うから、ウンコの元になるもの食わない。だから、ウンコが少ない。成虫になるとき初めてウンコする。それまで腹にためこむ」
 雄一は言うと、アリジゴクを砂の上に下ろした。
 アリジゴクが、早速そのアゴで、砂をはじくようにして穴を掘り始める。尻(しり)から砂にもぐると、体の上に砂がサラサラ落ちてくるので、そのままアゴではじき飛ばすのだ。
このくり返しで、穴を深くして行く。
「おもしれぇなぁ」
「あとは放っておけば元通り」
 雄一はアリジゴクの作業が順調に進んでいるのを確認すると、立ち上がった。
 気が付けば背後には子ども達が何人か。
「あ、せんせーだ」
 向こうで声がし、自分を見る幼い目。
 女の子が何人か。
「これ、何?」
「きれいな虫」
 土の上を指差す。
「あ、飛んだ!」
 見れば確かに何かが地面から飛び立ち、つーっと向こうへ、そして降りる。
 翅のきらめきで雄一は何か知った。
「あ~近づかないで。また飛んでっちゃうよ」
 雄一は、網が届くぎりぎりまで近づき、網をふるう。
 素手だと難しいが、網があれば、わけない。
 網の中でバタバタ暴れ回る。にげ出さないように網ストッキングの根元を手でにぎり、しぼるようにして、すみの方へ追いつめて行く。
 進退きわまった。緑に赤に、いろんな色がキラキラ光るきれいな背中。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-26-

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 そこは、確かに位置的にはアリジゴクがいそうな場所。ただし図鑑の記述であって、実際に見たことはない。
 雄一はプールの上から下級生たちと飛び降りた。
 下は砂地。雄一はそれだけではは~んと思った。まずマチガイなく、そこにいるのはアリジゴク。
 果たしてカベ沿い、兄妹の指差す方向を見ると、砂に作られた、小さなすりばち。
 そばに生えていたエノコログサ(ねこじゃらし)を引っこぬき、すりばちの中心をつん。
 手ごたえあり。
「何か動いた?」
 エノコログサを引き上げがてら、すり鉢の中に手をもぐらせる。
 この遊びをアリジゴクつりという。別の図鑑で見て覚えていたのを、実行してみたまで。
 白っぽい虫が出てくる。まず目立つのはギザギザした大きなアゴ。クワガタを思わせるスタイルで、その大きさは体のサイズと同じくらい。それは、人間で言うなら、胴体と同じサイズのクワガタみたいなアゴが、首から上についている、そんな感じ。
 巨大(きょだい)アゴ生物。これで図体がデカければ、相当コワイ怪獣(かいじゅう)状態のはずである。
でも、その体は指先に乗る程度。
「アリジゴクちゃんで~す」
 雄一は言って、手のひらに下ろした。
 アリジゴク。ウスバカゲロウの幼虫。
 カゲロウが成虫でいられるのは数日から1週間、というのはよく知られているが、幼虫はこのアリジゴクの状態で、2~3年を過ごす。その過ごす長さは食べられるエサの量で変わる。エサが豊富なら早く成長するが、少ないと長くなる。ちなみに、1年もの差が出ることで分かるように、エサが少ない個体は、空腹でエサを待つ期間が長くなる。その期間が1ヶ月に及ぶ場合もあるという。
「指出したらはさまれそう」
「ツメの間とかに歯が入ったらマジ危険かもね」
 手の上でごそごそ後ずさり。アリジゴクの移動はバック一本やり。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-25-

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 ショウリョウバッタを水から出す。バッタは〝何すんのよ!〟と、おこったかどうか、水にぬれた目や触角(しょっかく)を、必死に前脚でふきふき。
 ゲンゴロウもろともにがす。
「へぇ、本当に博士だなぁ」
「え?でもこのくらいなら図鑑に書いてない?」
 雄一が持っているのは〝原色日本昆虫図鑑〟。上下2巻に分かれ、ラテン語の学名も書かれた〝ドカーン〟とばかりに存在感のあるすごい本である。
 ただし50年も前のもの。お父さんが東京神田(かんだ)の古本祭りで買って来てくれたものだ。
対し、しせつにあるのは〝ようちえん向け〟とかで。
「尚子おばさんがキャーって言うから……」
「あまりくわしいのとか、たくさん絵がのってるのは、気持ち悪いって…」
 彼らの表情は、さえない。
 だったら。
「それじゃ今度オレの……うおギンヤンマだ!」
 雄一は視界を横切るいっしゅんで、その虫を見ぬいた。
 証(あかし)は、胸の部分の水色だけで十分。
 ギンヤンマ。赤トンボなどより一回り大きいトンボである。高速で飛ぶことで知られる。
 雄一は網を持った。これとアオスジアゲハだけは、どうやってもつかまえられない。
 ヤゴから育てれば成虫そのものは手に出来るだろうが、それではプライドが許さないのである。〝飛んでいる〟のをつかまえたいのだ。
 しかし。
 雄一は2度3度と網をふるったが、ギンヤンマはまるで小バカにするがごとく、網のわずか数センチ先をかすめ飛んでかわし、挙げ句にはプールから飛び去ってしまった。
「にげちゃった」
「あれだけはどうやってもつかまらなくて」
 すると。
「ねーせんせぇ」
 プールの下から、別の男の子の声がかかった。
 
 
「はい?」
 鉄さくの上から下をのぞきこむ。
「これってアリジゴク?」
 男の子が、その妹だろうか、幼い顔立ちの女の子と立っており、プールのカベの下方を指差している。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-24-

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「空気の気と、入場門退場門とかの門ってあるでしょ。くっつけて気門。単なる穴なんだけどさ、昆虫はその穴がお腹にいくつか開いてて、そこで息してるんだ。あとでバッタでもつかまえて見せてあげるよ……って、いるじゃん」
 近くのススキの葉っぱにショウリョウバッタ。
 大形で長い、緑または茶色のバッタだと言ったら心当たりのある人も多かろう。オスメスの体格差が非常に大きく、オスはキチキチと音を立ててすばしこく飛び、メスは飛ばない。
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 のが、常識とされていたが。
 今雄一が発見したメスのショウリョウバッタは、図鑑がウソ付きと思うくらいに良く飛んだ。
「まただ」
 雄一は思わずつぶやく。21世紀になった辺りから、こういう〝良く飛ぶメスのショウリョウバッタ〟が増えている気がするのだ。それより以前は、一生けんめい翅を広げてバタバタしているが、容易につかまる。そんなのばかりだった。
 温暖化で飛ぶ力が付いてきたのか?
 とはいえ、まだまだオスほど飛行能力がないのは確かである。網を使わず、次はつかまえた。
「ほい」
 翅をめくってお腹を見せる。相手がメスだけにスカートめくりしている気もするが。
「お腹に点々があるでしょ」
「うん、あ、ふくらんだりちぢんだりしてるね」
「この点々が気門。オレらは鼻から息するけど、こいつらはこの気門の点々から、そのふくらんだり縮んだりに合わせて、空気が出入りする。だから」
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※これはトノサマバッタ
 
 雄一はショウリョウバッタの頭を水の中につっこんだ。
「あ、死んじゃう」
「大じょうぶ。息してるのお腹だもん。オレらフロに入って首までつかっても、頭だけ出てれば大じょうぶでしょ?それと同じで、こいつらはお腹さえぬれなきゃ大じょうぶ」
「ふ~ん」
「つーても、虫にとってはエライめいわくだぁね。はい、ごめんよ」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-23-

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 受け取った網を水中にしずめる。上に向けて静止させ、通過するのを待つことしばし。
 横切る黒いかげ。
 体が勝手に反応する。8年間の虫取りの経験が、自動的に〝網〟を動かす。
 ばしゃっ!
「やった!」
 下級生たちから声が上がる。持ち上げた網の中でもぞもぞ動く姿。
 早速取り出す。
 ゲンゴロウ。図鑑(ずかん)の中だけのマボロシの存在かと思った、大形の水生昆虫。
 雄一にとっての〝ランキング〟は水の中のカブトムシに相当する。実際、甲虫(こうちゅう)というくくりで見れば、同じ仲間である。
 手に持つと、泳ぐ力をアップするために毛の生えた脚をもがいて、にげようとする。その力の強いこと。しっかり持っていないと取り落としそうだ。それから、つやつやと光り、手のひらとほとんど同じくらいの大きさを持った、長丸形の体の美しさ。
「へぇ……」
 しばらくながめてしまう。ふつうなら容器に入れてお持ち帰りだ。でも多分、こいつは、このプールの中で、のびのび泳いでいた方がいいのだろう。
 下級生たちがのぞきこんできた。
「でっけーなぁ」
「せんせーすげーなぁ。オレらつかまんねーもん」
「ほい」
 雄一は男の子の一人の手のひらにゲンゴロウを乗せた。
 ちなみに、これが魚類であると、水から出すと死んでしまうわけだが、水生昆虫は空を飛んで別の水場へ移動するほどであるので、そういった心配は全くいらない。
 ゲンゴロウが男の子の手のひらをごそごそ動く。そもそも泳ぐ脚なので、歩く動作はあまり格好の良いものではない。
「わぁくすぐってぇ……あれ?案外軽い?」
 そのことなら。
「背中がへこんで、翅との間に空間が出来てるんだ。だからでしょ。そこに呼吸するための空気をためるんだ。その空気のおかげで水中でも身軽だし、長い時間もぐっていられる。だから気門の穴もそっちに開いてる」
「きもん?」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-22-

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 雄一は言った。それは単なる肉食動物の〝捕食〟が、人の目の前で行われた。ただそれだけ。
「かわいそうかどうかは?」
「ああいうの、見慣れちゃってますからね。それに、ぼくらが肉や魚を食べるのと同じだし。ただ、かわいそう、という気持ちは、そう感じなくなったら終わりかな、とは思ってます。だって、自分たちだって命を食べて生きてることを、何とも思ってない、てことになるわけですから」
「ほぉ」
 雄一の意見に、センター長はまず大きくうなずき。
「なるほどな。ちなみに、雄一先生は、今朝のセンターの朝ごはん、シャケの切り身を、骨以外とてもきれいに食べました。ぼくはこれを大変大切なことだと思いました。なぜでしょう。…ではこれを今日のみんなへの宿題にしたいと思います。答えは、雄一先生と、いろんな虫を見ながら考えてみてください。では解散!」
 センター長は言い、手をパンとたたいて、歩き出した。
「ゆーいちせんせー」
「せんせー」
「せんせープール行くの?」
 弟みたいなのがたくさん集まってきた。
 
 
 暑くなったので雄一はジャージをぬいだ。白一色の体操着、半そで半ズボン。
 5~6人の下級生を連れて、雄一がまず向かったのはプール。
 プールサイドに盛られた土は草ボーボー。のびたススキの葉には赤トンボの一種、アキアカネが飛んだり止まったり。プールはのぞきこむと水草が生え、いろいろ動くやつらがおり、プールのおもかげは全くない。
……待て。
 雄一は気付いて土の上に手を付き、水の中をじっと見つめる。
 その丸み。サイズ、泳ぐ速さ。
 少~し緑っぽくも見える、なめらかな黒い背中。
「ゲンゴロウ」
「うん、いるよ」
「せんせーこれ使う?」
 男の子が〝網(あみ)〟を差し出す。とはいえ、店で売っているものではなく、竹ザオに針金ハンガーを輪にして取り付け、女性用のストッキングをかぶせた手作り。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-21-

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 雄一のうでをはなれ、すばらしい速度で、音もなく、身をくねらせ、ホールの片すみへ、文字通りつっ走る。
 そのスピードと勢いは、うでにいた時の姿がウソのような、ありのままの野生の姿。
 野ネズミが気付いてにげ出そうとした。
 しかし、ワックスでつるつるのホールのゆかは、ネズミにはすべるようだ。
 全身が足であるジムグリはわけなくネズミをとらえ、そのアゴがまさかと思うほど開いて、ほぼ一口でくわえこんでしまう。
 くわえこまれてなお、口の中で動く野ネズミ。口からはみ出して、めちゃくちゃなまでにふり回されるしっぽ。
 そのしっぽの動きはネズミの抵抗(ていこう)。しかし、ネズミの体は、ゴリゴリという、こわいような音と共に、次第にヘビの中へと送られ、合わせてしっぽが口の中に消え、見えなくなった。
 ごくり。
「うげぇ!」
「すげー」
 表情からする子ども達の反応は二分。気持ち悪い、かわいそう派。そしてヘビに味方する派。
 ジムグリは〝ごちそうさん〟とばかりに、舌を一回ぺろりと出すと、ゆか面近くの通気用窓から、外へ出て行き、姿を消した。
 しーんとしたふんいきが、子ども達を包む。
「ほう、すごいのが見られたねぇ」
 センター長はまず一言。そして立ち上がって、着ている背広や手のホコリを、パンパンとはたく。
「かわいそうだと思った人」
 女の子を中心にほぼ半分の手が上がる。
「ヘビってすげーなぁと思った人」
 こっちは男の子が多いか。古来より、猛獣(もうじゅう)をかりでしとめる、というのは、勇気の証明として、王族や英雄(えいゆう)が好んで行ったが、この反応の差は、そうしたところにもつながっていようか。
「雄一先生はどう思ったね?」
 センター長は雄一に聞いた。
 どうもなにも……
「はい。そうですね。ネズミはあのヘビのエサですもん、ふだん見えないものが目の前で見えた、ただそれだけだと思います」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-20-

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「まずはプールかなぁ」
〝生徒〟から、な~んだというあきらめの声。
「雑木林はあとで。だめかい?」
 雄一が言うと、口をとがらせていた生徒は「うん」とうなずいた。
「決まったようだね。じゃぁみなさん朝のあいさつ会を始めます。おはようございます…」
 子ども達が、おはようございます!の大合唱。
 今から始めるの?と、雄一はおどろき半分、感心半分でセンター長を見上げた。これがたとえば自分の学校の朝礼だったら、子ども達が声を出した時点で、「静かにしろ!」だし、自分のしょうかいなんか、後回しだ。
 もっとも、それ以前に、ヘビをうでに巻いて朝礼に出ることはないが。
 そのヘビがもぞもぞ動く。巻きついていた体を解き、首をのばす。
 何か探している?
「……今日は由美さんがクラブの練習で学校に行っているので、帰って来るのは5時、どうしたね雄一先生」
 雄一はしゃがみ、うでをゆかに付けた。うでから出て行くなら、いつでもどうぞ。
「ヘビが動くかね?」
 センター長がいっしょになって姿勢を低くし、雄一の視点から、ヘビの見ている方向を見る。
……それは、学校であれば、朝礼の最中にとつぜん、校長が体育館のゆかでハイハイ、ということになろうか。
「何か見つけたようです」
 言って程なく、ジムグリが、うでからはなれた。
 このヘビが捕食(ほしょく)するのは、主として地中のモグラやネズミなど。
 そもそもジムグリという名前自体〝地もぐり〟から来ている。
 センター長は子ども達に向かって、指を口に当て、シーッとやった。
 はう、という声が、尚子さんから上がる。
「ね、ねずみ……」
 かすれた声で、おそるおそる指先で差し示す。どうやら尚子さんは、〝小さくて動くモノ〟は基本的にダメらしい。
 雄一は尚子さんが指差すその方向に目を向けた。するとなるほど、タタタタタと、小さな足音を立ててカベ沿いを走る野ネズミ。
ジムグリが、動いた。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-19-

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「これは私の部屋にいた……なんだっけ」
「ジムグリです」
「という毒のないヘビだ。この博士にすっかりなついてしまったらしいんだな。というわけで、今日は特別講師に来てもらった。隅除(すみよけ)小学校5年、花村雄一くんだ。みんな知っての通り、当センターには、あまり虫にくわしいスタッフがいないからね。2つとなりの県から、わざわざ来てもらった次第だよ。そしたら見ての通り、ヘビだって一発で慣れてしまった。どうだいすごいだろう?」
 へぇ~、という、なかば感心のまなざしに、子ども達が変わった。
「今日は先生に園内を好きなように歩いてもらう。みんな質問があればどんどん聞いて。先生連れ出してどこかに行ってもいいぞ」
「え?本当ですか?」
 2年か3年か、男の子が言った。パッと見たところ、「ぜひ!」という感じなのは、そのくらいの学年の子が多い。高学年の子は、あまり気が乗らないようだ。まぁ確かに、同じ学年か、ヘタしたら低学年の自分を、〝先生〟などとは呼びたくないだろう。
「ただしお昼を食べてからな。日暮れまでにきちんと帰ると約束出来るなら」
「はーい」
「はーい!」
「せんせえよろしくおねがいしま~す」
 あっという間に話が決まってしまったことに、雄一はあ然とした。オレ何も言ってないのに。
「というわけで雄一君」
 センター長がいきなり呼んだ。
「は、はい」
「任せるから、まずは君の好きなように、このしせつで虫を探して見てくれないか……ここで君ならどんな虫を探す?」
「そうですねぇ」
 雄一は考えた。野山だ。雑木林だ。まずなんと言ってもカブトクワガタ。それに、プールに住みついているという水生昆虫類も見てみたい。山すそに多いチョウの仲間もターゲットだろう、カラスアゲハにオオムラサキあたりか。
 ただ、雑木林の探検は時間をかけたい。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-18-

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「あ、はい。分かりました」
「ありがとう!いや~子ども達喜ぶなぁ」
 センター長はニコニコ。本当に喜んでいるようである。
 自分でいいのなら。雄一は少しうれしくなった。
 
 
〝木の実センター〟は、元々ここにあってつぶれたスポーツしせつを、センター長が買い取ったものだという。管理人室だった部分に、いくつか部屋をつぎ足したのがセンター長の家。しゅくはくしせつが子ども達の部屋。バスケットとバドミントンのコートがあった体育館がホール。
 庭は元々テニスコートだったそうだが、ほじくりかえして土べたの運動場に。プールは周りを土で囲んでほったらかしにしたところ、いろんな虫やカエル、さらにはイモリまで住みつくようになったとか。カエルがいればヘビが来るし、結果として、人以外の生き物の方が、数が多くなったという。
 午前9時。
 ホールの真ん中あたり、固まってワイワイしている子ども達の前に、雄一はセンター長と共に立った。人数は、ザッと見て雄一のクラスの半分くらいであろうか。幼い感じの子が多く、雄一と同じくらいの子は一人二人、6年生以上はいない感じだ。
 そして、子ども達の後ろには、運転士の佐伯さん、尚子さん、あと、お手伝いの方だろうか、割ぽう着の女性が二人。
 子ども達が自分を見てあれこれしゃべってるのがよく分かる。ちなみに、ジムグリはうでに巻きついたままだ。そりゃ、変だろう。でも、はなれてくれないんだから、どうにもしょうがない。
 ヘビのしっぽが動いた。
「うぉあのヘビ生きてるぞ!」
「信じらんねぇ!かまれるぞ」
「毒ヘビだ毒ヘビだみんな逃げろ」
 わーきゃーと大パニック。
「はいはい大じょうぶだよ」
 センター長が落ち着いた声で言い、さわぎは一発で収まった。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-17-

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 雄一は目が丸くなり、手先がビクッとふるえて、はしを落とした。
「ここは子ども達の家代わりさ」
 それを聞いて、雄一は思わずうつむいた。
「どうしたんだい?」
「ぼくそんなしせつに遊び半分で……」
「あっはっは。気にしなくていいよ。だれかウチの者が、君をじゃま者だ、と言ったかい?それにむしろ遊びに来てくれて大かんげいさ。今君が言ったような気持ちを……みんな思うのかなぁ、ウチに遊びに来てくれる子どもさんがいなくてね。そんなの、それこそ、ウチの子たちが〝かわいそう〟だよ」
 雄一は部屋のコナラのこずえの向こう、運動場で遊ぶ子ども達の姿を見た。みんなこうして見ているぶんには、〝かわいそう〟には見えない。
「それでね」
 センター長の言葉に雄一は目をもどす。
「せっかく来てくれたんだ。雄一君には今日一日、昆虫博士として特別講師をお願い出来ないかな」
 講師……それはすなわち。
「ぼくが先生、ですか?」
「そうさ。ここは見てのとおり山の中だ。虫はそれこそ山のようにいる。子ども達も虫が大好き。でも尚子さんも由美ちゃんも虫がキライでねぇ。私もある程度までは付いて行けるんだが、少しくわしいことになるとダメだし、そう毎日毎日の山を歩き回るわけにも行かなくてね。この体だし」
 センター長は見事なおなかをぽんぽんとたたいてハハハと笑った。
「君のご両親と学校には、私から電話しておく。今夜には無事にお宅までお送りするとね。9時からホールであいさつ会があるんだ。そこにいっしょに出てくれるかい?」
「何か……じゅ、授業するんですか?」
「いやいや。そんな、おぎょうぎのいいもんじゃないよ。子ども達がいろいろ聞いてくるから、つきあってやって。それだけさ」
 その程度なら。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-16-

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 なんてかわいそうな連中だろう。
「イヤなら追いはらえば済む話、殺すことはないと思うんです。人間だって、キライだというだけで殺されたら、たまりませんもん」
 雄一は言い、言いながら、結局自分のしていたことは、不快か、そうでないかの線の引き方が人とちがうだけで、不快だから殺す、そのものだったと気付いた。
「ますます感心だなぁ」
 センター長は、うんうんとばかり、大きくうなずいた。
「最近は何でも店で買えるからなぁ。虫を動くおもちゃ程度にしか思っていない。死んでも使い捨ての電池切れと変わらないんだ。そこ行くと君の虫のあつかい、接し方には、虫も同じ命を持った存在だという尊厳の意識を感じる。尊敬の気持ちを感じるよ。あ、いや、言葉が難しかったかな?要するに君は命を大切に出来る素敵な男の子だ」
「でもみんなには弱虫って言われますよ」
 あまりにほめられたせいか、そんなことない、と思う気持ちが、かくしておいたその言葉を、思わず口に出させた。
 このセンター長が、「どうせ虫」などとは、決して言わない人だと、よく分かったせいもあるだろう。
「おやどうしてだい」
 センター長は座卓の上に身を乗り出し、雄一の目をのぞきこんだ。
 ジムグリがちろっと舌を出し、ひじの内側をくすぐる。ひやりと冷たく、くすぐったい。
「実は……」
 雄一は防空壕の出来事、そして、みんながバスをこわいと思っていること。だからこのバスに乗れば弱虫と言われないと思って……と、全部話した。
「そうだったのかい」
 センター長は、にっこり。
 そして、はしの止まった雄一に食事の続行をすすめながら。
「ウチはね、いろんな事情で、学校へ行けなくなったり、家にいられなくなったり、親がいなかったり。そういう子ども達が暮らすためのしせつなんだ」
 センター長は、言った。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-15-

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 クリを一つ。たしかに、固くてガシガシかみしめる必要はあるが。
 味が〝濃(こ)い〟。お母さんがスーパーで買ってくる〝あまぐり〟とは「格」が違う。
「すごくおいしいです。お店のクリなんか食べられなくなりそう」
「君はこういう野性の木の実なんかは初めてかな?」
「はい…」
 雄一の町は、200万人が住む県庁所在地のとなり。田んぼの中にじわじわ住宅が増えてきたところで、雑木林はない。整備された自然公園みたいなものはあるが、木の実を取って食う、なんて経験はない。
 と、説明すると。
「都会のとなりか。それにしちゃ、虫や動物にくわしいみたいだねぇ」
「小さいころは周りにいっぱいいましたし、おばあちゃんが埼玉(さいたま)の秩父(ちちぶ)の方に住んでいて。それで」
「あのSL走ってるところだな?」
「そうです」
「そうかそうか。それであつかいも慣れてるんだな。さっきの由美ちゃんの虫…何て言うんだい?」
「マルカメムシです」
「カメムシか、なるほどな。そういう、〝そこにいる〟というだけできらわれるのを、不快害虫っていうんだが、むやみに殺さず大切にしたもんな。都会っ子にしちゃ立派だよ」
 立派。言われて雄一はおどろいた。虫のことで立派だと言われたのは初めてだ。それに、マルカメムシだって、ふだんなら、ふみつぶす。あんなもんクサイだけだし、カメムシ…すなわち草木のしるを吸って生きるのだ。特にコイツはマメ科によく付くので、枝豆などを農家の人が育てていると思うと、1ぴきでも少ない方がいいんじゃないか、と思うからだ。
 でも、そういう風に言われてしまうと、殺してやる、という気がだんだん無くなってくる。ちなみに、不快害虫とは、カやハエなどとちがい、ニオイや外見が気持ち悪い、ただそれだけの理由で殺される昆虫や虫たちのことである。その点で、彼らがかわいそうだ、と思う気持ちは、雄一にもある。例えばガはチョウと同じ仲間であるが、方や愛(め)でられ、方や足でふまれる。もっと言えば、同じチョウでも地味で茶色のヒメジャノメや、翅(はね)の形がパピヨン形をしていないセセリチョウなんか、ガとまちがわれてやはり足でふまれる。クモやゲジゲジも同じ。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-14-

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 そこへ佐伯運転士。
「どうかしました?ああ、出ましたか。ほぉ、雄一君はそういうのも大じょうぶなんだ」
 そう言って笑う佐伯運転士を見るや、尚子さんがササッとその背後にかくれた。
「毒はなさそうですよ」
「そういう、そういう問題じゃないです~」
 尚子さんはくちびるが真っ青である。よほどコワイと見える。
 そのまま、佐伯運転士を盾(たて)のようにして、後ずさりしながら退室。
「あらあらあら」
 佐伯運転士も引きずられ退室。
 ふすまがビターンと大きな音で閉まり、ついで、ろうかを走り出す音。
 センター長はゆっさゆっさと体をゆすって笑った。
「尚子さん、あれでも慣れた方なんだよ。ここは見た通り山里でしょ。最初のうちはね、こっちにカエル、こっちにクモって感じで、そのたびにあっちでキャー、こっちでキャー、ってね。悲鳴でどこを歩いてどこに行ったか、分かるくらいだったんだから。おっと、冷めてしまうな。座って座って。ヘビ君もいっしょだ」
 センター長は、座卓の上に、ご飯一式が乗ったお盆(ぼん)を置くと、雄一の向かい側にあぐらで座った。
 そして、その尚子さんが持ってきたカサを、座卓の上にさしかけた。
「これは?」
 雄一はたずねた。部屋の中でカサ差してご飯食べるほど、きみょうな光景はあるまい。
 オマケに、うでにはヘビがいるのだ。
「樹液が落ちるのでね」
 センター長は当たり前のように言った。
「なるほど。……あの」
 雄一は湯気立つ麦ご飯をじっと見た。
 とつぜんの、しかもマチガイ訪問なのに、ちょっと申し訳ない気もするが。
「じゃぁ、いただきます」
「はいどうぞ」
 割りばしを割る。クリ入りのたきこみご飯、おみそしるに、なめこと大根おろしの和え物、シャケの切り身。
「そのクリは山で取ったものだ。固いかも知れないが味はいいはず。なめこはセンターで育てたものだよ」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-13-

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 その座卓の下。いっしょに出てきた、
 ヒモ……じゃない。
「あ~あ~あ~!」
〝あられもない〟という表現は、こういう時使うのだろうか。こわれて勝手に水がもれる水道のじゃぐちのように、尚子さんの口から、悲鳴があふれた。
 
 
「ほお~」
 センター長が〝ヒモ〟をじっと見つめた。
 ヘビ。ただし、大蛇(だいじゃ)ではなく、その長さ雄一のうでよりも短い。赤地に黒のシマシマというか、まだらというか。
 舌をぺろぺろ。元気である。
「わかるかい?」
 センター長は雄一をふりかえった。
 種類は何か、という意味だろう。だとしたらわけない。
「ジムグリ……ですね」
「ヤマカガシでは……」
「じゃぁないですね。ヤマカガシなら赤いほうが斑点(はんてん)になりますし、アゴの下が黄色っぽいです。こいつはジムグリの幼体です」
 雄一は安心してジムグリの幼体、すなわち子どものヘビをひょいとつかんだ。ちなみに、ヤマカガシは先にも書いたが毒ヘビと考えた方がよい。雄一は経験で区別が付くので、平気でつかんだだけ。
 なれない人はまねしないこと。
 ジムグリは最初身をくねらせ、じたばた暴れたが、雄一が首の下に手をそえ、指先でなでるうち、すっかり慣れたのか、右うでにクルクルと巻き付いた。
 左手にナナフシ、右うでに幼なヘビ。
 尚子さんの悲鳴再び。
「む、む、む!へ、へ、へ!」
「虫もヘビもイヤだと」
「あ、はい」
 ナナフシは木にもどす。その間にセンター長が座卓をセット。
 問題はジムグリ。居心地がいいのか知らないが、うでに巻き付いたまま、じっとしている。
「ちょっと外へ行っても……」
 雄一はジムグリを指さして言ったが。
「ああ、まぁいいじゃないか。そのままで。尚子さん、それそこへ置いてもらえますか?」
 尚子さんは部屋に入らず、ろうかから部屋のすみにお盆を置いた。ヘビと同じ部屋にいることすらイヤ。そんな感じ。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-12-

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 ちょっと待て。
 雄一は目を窓際の一点で止めた。
 枝の根元に、すま~した顔でへばりつき、じっと身を固めている、茶色のそいつ。
「何かいるかい?」
 センター長がのぞきこむ。雄一は手をのばし、そいつをつまんだ。
 細い枝を組み合わせて作ったような、〝線状〟とでも書けばいいか、昆虫(こんちゅう)。
 ナナフシ。茶色の個体。雄一につまんで持ち上げられたせいだろう。〝私は枝です〟とばかり、胴体(どうたい)と脚をピンとつっぱって、じっとしている。
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(〝私は枝です〟とばかり、胴体と脚をピンとつっぱって、じっとしている@ウチの娘)
 
「良く見つけたねぇ」
 センター長はニコニコ。
「本物初めて見ました……」
 雄一は手のひらにナナフシを乗せた。ナナフシは6本の脚で手のひらに立ったが、それはそれでそのまま動かない。あくまで枝のつもりなのだ。
 センター長は、手のひらのナナフシを、観察するようにじいっと見ると、上の方を見上げた。
「あそこから入ったんだな」
 見れば天井板にも一部穴が開いている。この木の枝は、そこからさらに外へ出ているということか。
「ドングリが熟すとリスも来るよ」
「リスですか……」
 すると、ろうかを歩いてくる足音。
「はいはいお待たせしました。お父さん、座卓(ざたく)出しておいて下さればいいのに」
 尚子さんである。お父さんと呼ぶからには、センター長とは親子、いや、年が近いっぽいからご夫婦なのであろう。手にした四角いおぼんには、朝ご飯一式。
 と、手首には黒い……
 雨ガサ?
「いやぁすまんすまん、ほれ、この子がこれを見つけてね」
 センター長の示した雄一の手のひらを見、尚子さんはまゆをひそめた。
「……あらヤダ動いた。何これ虫じゃない。いやいや。やめて」
「どうもうちの女神たちはダメだなぁ」
 センター長は引き続きニコニコしながら、おし入れのふすまを開け、四角い座卓を引っ張り出した。
 

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