2019年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

最近のトラックバック

めーるぼっくす

無料ブログはココログ

創作物語の館・総目次のページ(最新状況はこちら)

手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

最近の更新

【魔法少女レムリアシリーズ】「転入生担当係(但し、魔法使い)」(9/18・隔週水曜更新)

最新→ -11- -12- -13- -14- -15-
-01-05- -06-10-  

【理絵子の夜話】「圏外」(9/14・毎週土曜日更新)

最新→  -16- -17- -18- -19- -20-
-01-05- -06-10- -11-15-

お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在8編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

リンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -15-

←前へ・次へ→

「じゃ、空飛んでみる?」
 レムリアは背後の船を指さしそう返した。諏訪君は任して大丈夫であろうし、容態が落ち着くまで少しかかる。
「あの、どういう……」
 女性が困惑の表情を浮かべる。まぁ、自分たちの会話は常識的には非常識だろう。
「これ、空飛ぶんですよ。数分で済みますので、お嬢さんを空の散歩に連れ出してもよろしいですか?私(わたくし)はこういう者です」
 IDカードを見せる。この船に乗り組む前から所属する国際救助ボランティアは世界的な知名度もあり、大丈夫であろう。
「メディア……。え、ちょっと待って下さい。医療派遣団にいる日本語ペラペラの女の子って……魔法の国のお姫様と……」
 そうやって日本の雑誌で紹介された。
「ええ、魔法の国の姫様です。でも、帰化しました」
 女性は目をまん丸に見開いてレムリアを見つめた。
 少し整理する。彼女レムリアの生来の名は前述の通りメディア・ボレアリス・アルフェラッツという。欧州東端の小国で、中世魔女の輩出で知られたアルフェラッツ王国のれっきとした王女である。日本にいて異国の娘と気づかれないビジュアルをしているが、日本語は話せる言語の一つに過ぎない。数年オランダで一人暮らしをし、国際救助ボランティアに属して看護師として活動、縁あって結婚前提で日本に帰化した。なお、空飛ぶ船は更に別途所属している極秘救助チームの所有物であり、レムリアはそちらで使うコールサイン。
「私だけってのは、だめ」
 女の子が両腕で大きなバツ印を作った。
 レムリアは小さく笑った。その意図を判じたからだ。
「私は動けるからまだいい。でもずっと寝たきりの子もいるし、出し抜いて私だけとかイヤだ。魔法なら、全員にかけて」
“魔法の国のお姫様”は驚愕事項ではないらしい。
 そして、志の表出であろう言動は立派の一言。
「判りました。みんなの病室を回るよ」
「じゃぁ、ついてきて」
 女の子は自ら車いすのホイールを回してエレベータの方へ向かう。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -20-

←前へ・次へ→

 田島が言う。
「三つ叉沢に行っちゃいけないっていつも言ってたのは、単にそこが深いから危ないっていう意味だけじゃなかったんだ」
「そういうこと。でもみんな、おばあちゃんの話聞いてくれてありがとうね。“肝試し”って、大抵おもしろ半分なんだろうけど、その実、人の“死”を弄んでることだと思うのね。最近若い人が来たかと思うと『三つ叉沢はどこですか?』ばかりでね。おばあちゃん、若いあなた達が来るって聞いて疑心暗鬼になっててね……」
 女将さんが恐縮したように。
「いいえ。よく判りました。その沢の方へは行かないようにします」
「ごめんなさいね。そうそう、あとでとっておきの出してあげる。作業はここ使ってね。食べながらやっていいよ。ちょっとワサビ採ってくるから。綾ちゃん、留守番頼める?父さんもうすぐ戻ると思うし」
「は~い」
 雰囲気を戻そうとしたのだろう。女将さんは声のトーンを変えて言うと、厨房の勝手口からサンダルを突っかけて外出した。
「本物、だったわけだ」
 大倉が言った。
「おいお前まさか……」
「ううん。確かに怖い話は好きだよ。でも本物だってなら話は別。素人の本物相手は身の破滅、これ定説」
「そういや、りえ部長さっき何言ったんですか?」
 竹下が訊いた。真言のことだ。
「あれの文言だよ」
 理絵子は食堂隅に貼られた御札を指差した。
「ある程度勉強しておかないと、そっち方面の話リアルに書けないでしょ」
「なんだそういうことか。あたしはまたあのおばあちゃん急に黙ったもんだから、部長がエスパーかましたのかと……」
「残念でした」
 理絵子は舌をちょろっと出した。
 と同時に、自分たちの会話のテンポが、いつものパターンに戻って来ているのにホッとした。
 これがいつもの自分たちだと思うし。
“怖い”気持ちは“怖い”エネルギーを引き寄せる。
 経験上。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -19-

←前へ次へ→

 しかし、実際には、老女の話は、冷えた麦茶がすっかりぬるくなるほどの、時間を要した。
 それは運転手の言っていた、金鉱山に関係があった。戦国時代、この地で金が見つかり、現代風に表現するなら“従業員住宅街”が形成された。
 増加する富と男手は、やがて遊郭をこの地に欲した。遊女は全国各地の貧農から供出された女の子でまかなった。要するに人身売買市場から少女を買い集めたのである。
 だが、金鉱山という富の源の存在は、当然ながら他国の攻撃目標となりうる。
“彼の国で金が出ているらしい”…そういう噂が周囲に広まっていると知った時の大名は、金山の閉鎖を命じた。この際、遊女達の“処置”が問題となった。
 自由の身とすれば、彼女たちは故郷へ戻るであろう。しかしそれは、全国各地に向かって“ここに金があります”と宣伝しているようなものだ。
「まさか……」
 先が見えたか、窪川が乾いた声を出した。
「その通りさ。鉱夫たちは、この上の“三つ叉沢(みつまたざわ)”に縄で吊った舞台を用意し、最後の酒宴と偽って遊女を全員集め、舞いを踊らせた。そして、縄を切って舞台ごと沢に落とした。娘達の歳は14か15か、そんなもんだろう」
 少女達は息を呑んだ。
 自分たちと同じ年頃の少女達が、欲望のために金で買われ、欲望のために殺された。
「だからこの土地は弔いの地だ。三つ叉沢に行ってはならぬ、奥底を見てはならぬ。塚より奥に行ってはならぬ。塚の石をいらってはならぬ」
 老女はそれだけ言うと、後ろを向き、去った。“いらう”とは弄ぶの意味だ。
「……ありがとうございました」
 理絵子は言った。
 入ってはいけない領域がある……それは、“彼女達”がまだこの地にいるという意味だ。
 御札の意味がよく判った。そして同時に、今、こうして老女に話を聞いたことが、何かの転機になるという気もした。

 少女達を包む空気は一気に重苦しいものになった。
「ごめんねぇ。せっかく来てくれたのに…」
 女将さんは困ったように言いながら、麦茶を新しいものに淹れなおしてくれた。
「ちょっと、ショック」
 窪川が言った。同じ年代の女の子達が口封じのために殺される。それが一体どんな気持ちであったか、容易に想像が付くのだろう。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -14-

←前へ次へ→

 その時。
「あなたってアトレーユなの?」
 可愛らしい声が傍らから発せられた。
 レムリアは立ち止まり、声の主のたる車いすの女の子に目を向けた。
「ゆみちゃん、お姉さんは忙しいのよ」
 車いすを押している女性が軽くたしなめる。だが、レムリアは諏訪君を医師と大男に任せ、女の子前で膝を折った。
 アトレーユ。長編ファンタジーで知られる“ネバーエンディングストリー”の主人公である。
 実は空飛ぶ船を見られたことが過去何度かある。その場合、大体の反応は“ピーターパン”であった。それならネバーランドだが。勘違い?
「ドラゴン、あの子連れてどっか行っちゃうよ?」
「ゆみさん、失礼ですよ……ごめんなさい。あの、先生の所へ行かれて下さい。この子は……」
 女の子の言葉と付き添いの方から判ることは二つ。
 女の子は良く本を読む。そして、この種の発言を“失礼”とは思わず繰り返している(繰り返してしまう)。
 その結果、多分、女の子の本質に対して様々な誤解を生んできた。
 すると?自分が男の子に見える?
「男の子に見える?」
 レムリアは自分を指さして聞いてみた。
「うん。おっぱいないじゃん」
「これ!」
 付き添いの女性はたしなめるが。
 イコール、付き添いの方にもそう見える。
「あっはっは……」
「あとね、強いから。絶対に信じてるから。ヒーローのように」
 それはレムリアの苦笑を真顔に戻させることになった。確かに、“とりあえず逃げる”という心理は芽生えたことがない。それら情動と、諸々の“女の子らしくない”部分が男の子のように感ぜられたか。
 否、自分は真の困難に出くわしたことが無いのかも知れぬ。
「私、歩けないんだ」
 女の子は唐突に言った。
 その足に目をやると細っこく、応じた筋肉がついていないと判る。
「頭もおかしいって」
「これ!」
 付き添いの方はそうやって幾度この子をたしなめてきたのであろうか。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -18-

←前へ次へ→

 理絵子の超絶の感覚が、敵意と拒否の心理を背後に捉える。理絵子は女将さんと共に、しかし女将さんより一瞬早く、その方向を振り向いた。
「また覗きに来おったか!」
“老婆一喝”とでも書こうか、しわがれ、ささくれだった老いた女声が、彼女たちのポップで華やかな雰囲気を一変させた。
 少女達がびくりと身体を動かし、声の主を見る。
 その白装束は理絵子の語彙では“浴衣”と変換された。和装の白い寝間着に身を包んだ老女。
 乱れた白髪に目は血走り、形相は般若を思わせる。その姿は失礼ながら“鬼女”と表現したくなる。
「おばあちゃん……」
「何が“肝試し”だ。何も知らないよそ者が汚し(けがし)に来おって……」
 困惑する女将さんの声を遮り、老女が罵る。
「罰当たりめ。お前ら……」
「きゅうきゅうにょりつりょう」
 理絵子が呟いたフレーズが、老女から流れ出る罵倒の語をせき止めた。
 陰陽師扱う真言(呪文)である。
 理絵子はこの辺りの知識を有する。彼女が幼い頃の話になる。“見えないものが見える”彼女の能力の正体を見抜いたのは、小学校の遠足で訪れた東京郊外、高尾山(たかおさん)に集う修験者(しゅげんじゃ)であった。修験者は彼女にその能力の何たるかを説き、“力持ちたる者の心構え”を教えた。そして、“力持つがゆえに狙われる”として、身を守る術をも伝えたのである。
 要するに理絵子は真言密教のレクチャーを一通り受けている。関連で密教由来の多い陰陽道の呪文も把握した。これは扱うもの(超自然のエネルギー)が同一であること。及び、日本国内に併存し、相互に影響し合っていることから、持っていて損はないと判断したためだ。
 果たして理絵子を見る老女の目が一変した。髪の毛逆立たんばかりの勢いは失せ、毒気を抜かれた表情で理絵子を見る。理絵子の一言は、“素人の遊び半分ではない”というサインになったのである。
「この辺りに悲しい言い伝えがあるらしいことは、ここに来る道すがら聞きました。私たちの目的はそれではありません。でも、滞在中の私たちが、禁忌に触れる行動を取ったり、行ってはいけない場所に間違って行ってしまわないとも限りません。よろしかったら、何があったのか、そして何をしてはいけないのか、教えて頂けますか?」
 理絵子は言った。女将さんが驚きの目で自分を見ていることが判る。今この時、自分の言動以上に的確な応対は無かったと知る。
 そしてやはり、タブーが存在したことも。
「いいだろう」
 老女は、言った。
「じゃぁおばあちゃんここへ…」
 女将さんが立ち上がり、席を譲ろうとする。
「いいよ。それほど長くない」
 老女は言い、立ったまま、話し始めた。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -17-

←前へ次へ→


 寝転がって訊いたのは窪川。
「圏外だよ」
「あ~じゃあ全滅だぁ」
 曰く、8人は電話会社も電波方式もバラバラだが、どれも圏外。
「だったら電池切っておいて方がいいよ。圏外の方が電池食うんだって」
 理絵子は言い、率先して切った。圏外だと、電話は電波を最大出力にし、接続可能な地上局を探す。従って、電波が繋がっている時より電力を食う。
 張り込みの多い父親から聞いた知恵だ。
「あ~あ。阪神速報見れない」
「何しに来たのキミは」
 と、階下で女将さんが柏手のように手をパンパン。
「姫君達、酒まんじゅう食べるかい?」
 ぐでっとしていた姫君達は瞬時に身体を起こした。
「はいっ!」(8人一斉)
「じゃあおいで」
「はいっ!」(同上)
 昇る時の3倍くらいの速度で階段を下りて行く。建物がビリビリ振動したが、彼女たちの名誉のために仔細な描写は控える。なお、酒まんじゅうは、この地方ではポピュラーなおやつである。
 食堂へ入る。テーブルに文字通りてんこ盛りにまんじゅうが積み上げられ、グラスに入った麦茶が用意されている。
 甘酒のそれに似たいい匂い。
「おいしそう~」
「朝がおにぎり一個じゃね」
「いただきま~す」
 どうぞと言われる前にぱくつく。この年頃の少女達に“しおらしさ”は無縁である。
「さてと。え~部長さんはどなた?」
 女将さんが訊いた。理絵子はまんじゅうをくわえたまま、右手を小さく挙げた。その仕草は可愛らしく、写真に撮っておけば絵になるだろうが、彼女は怒るだろう。
「一応お約束だからね。宿帳に学校名と代表者の名前を」
「ふぁい」(食べながら)。
「合宿だって?」
「ええ、物語を一つ作るんです」(飲み込んだ)
「あら素敵。どんなお話?」
「それがこれからなんです」
 宿帳に書きながら、理絵子は苦笑した。彼女が用意していたストーリーは純愛ものだが、バス内の会話のおかげですっかりその気は失せた。
 エロゲバだ腐女子大好物だというフレーズが頭に残った状態で、夕暮れの横浜港で初恋が……でもあるまい。
 その時。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -13-

←前へ次へ→

 女性の声。諏訪君が背中でぴくりと動き、主治医だったと判ずる。
『担当医師の小倉です。今どちらにお見えですか?』
「病院の真上です。降ります」
『はい。こちらも用意を……真上!?』
「ヘリコプターみたいなもんです。お願いします」
 答えながらPSCのボタンを押す。これは船内通知用。許可が出たので下ろして。
 セレネが答える。
『了解。屋上ヘリポート位置に降下……しますが、人がいます。滑空モードで降下します』
「構いません。滑空モードで」
 滑空モード。レムリアはカメラ画像で屋上を見やった。車いすの子供さんとそれを押す付き添いの大人。
 この船は国際レベルの機密だが、暴風は出せない。クローキング……すなわち光学迷彩で姿を隠す機能は持つが、滑空に必要な気流を遮断してしまう。
 仕方がない。
 甲板の前中後、3本配されたマストの帆を広げて風をはらむ。
 水平に近い角度まで広げて船は空を滑る。1回旋回し、応じて影が屋上を横切り、屋上の二人が見上げる。
 驚愕に極限まで見開かれた瞳。
 船はわずかな音を立てて船底を病院屋上に付ける。帆を畳んで、船体の側面、海行く船なら喫水線の下に来る位置にある扉がスライドして開く。
 金髪碧眼の大男におんぶされた男の子、その傍らに酸素ボンベとショルダーバッグを下げた女の子。
「驚かせてしまって申し訳ありません。小倉先生の了解をいただいて諏訪利一郎の診察に伺いました」
 テレパスが感知する。屋上に出る扉が開く。
 車いすと付き添いの二人が呆然としているその奥、小屋のような部分で鉄の扉がギイと開いた。
 風に揺れる桜色の着衣。結んだ髪が背後を流れる。
「信じられない」
「喘息の発作を起こしチアノーゼを呈しました。今はこれの“機動衛生ユニット”の呼吸器を付けています」
 レムリアは大男と主に歩み寄りながら、これ……背後の船を指さした。なお、“機動衛生ユニット”は自衛隊が所有している航空機搭載型のミニ病院である。分かり易いと思いそう言っただけ。アルゴ号の場合“生命保持ユニット”と呼ぶ。
「あと、お願い出来ますか?」
 半ば呆然としている小倉医師の目を見ながら、レムリアは言った。
「え。あ、はいはい。こちらへ」
 スイッチが復帰したように小倉医師が身体の向きを反転させる。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -16-

←前へ次へ→

 理絵子ははぐらかすようにポケットに手を伸ばした。女将さんが“御札に気付いた自分”に、敏感に反応したことがよく判った。アンタッチャブル、ということだろうか。
 とはいえ、到着の連絡を入れる必要があるのは確かである。折りたたまれたケータイをぱかっと開く。
“圏外”。この山奥では仕方がないか。
「あ、ここは携帯電話だめよ。その電話使って」
「あ、はい。お邪魔します」
 靴を脱ぎ、女将さんに渡し、上がり込む。
 すうっと温度が下がるのを感じる。“御札”より奥へ入ったからだ。
“涼しい領域”がこの宿…家の中に構築されていることが判る。ついでに言うと、涼しい領域は、この宿を囲む形で存在しているようだ。知識として、まず間違いなく、お札は五芒星(ペンタグラム)を描くように配置され、その描く五角形の内側の領域は温度が低い。
 結界、すなわち霊的なパワーの侵入を防止するシールドバリアである。この宿が、何らかのそれ系攻撃に晒されているか、晒された過去がある証左だ。女将さんが触れられたくないと思う理由もその辺だろうか。
 風が吹き込む。沢風の気まぐれといえば涼を呼ぶ表現であるが、結界に気づいた理絵子への、何者かからの応答と書いた方が、この場合は恐らく正しい。彼女が義か賊か探っている、そんな感じ。
 理絵子は電話脇に10円玉を置いて、顧問へ電話した。通話10秒。
「りえぼー。こっち」
 階段上から田島が顔を出す。
「何か言われた?」
「ごくろー。がんばれ。以上」
「あそ」
 階段を上がって行く。上がってすぐの鴨居下に神棚が配置されている。1階のお札が描く五芒星の領域は、そのまま五角柱の結界として上方へ延伸しており、この神棚の位置までが作用範囲。
「この6畳とそっちの8畳使っていいって」
 田島が指差す続きの二部屋では、座卓が4台くっつけられ、作業エリアが出来ている。そして、さすがに早朝からの長旅がこたえたか、女の子達がてんでにぐでっとしている。
 荷を降ろす。
「りえ部長。ケータイつながります?」

(つづく)

体裁崩れについて

かなりの数のページでココログの改修に伴う体裁崩れが発生し、非常に読みづらくなっているのを確認しました。

「行変え」が「段落変え」になっているのが主要因で、対策としてはネチネチ段落替えタグを消して行くしかありません。

順次やって行きますが時間掛かります。えらいすんません。

【理絵子の夜話】圏外 -15-

←前へ次へ→

 フラットな荷物室。
「はいどうぞ。女の子の8人。これだけあれば充分」
 宅配便の荷物のように運ばれるというわけだ。もちろん、違反である。
 8人が同じ思いを抱くが口には出さない。これに1時間より、おもろいバスで正解だった……。
 さて、乗る段となると、女の子とはいえ8人である。小さく縮こまらないと全員は無理。
 いわゆる“体育座り”で全員収まったところで、女将さんがワンボックスをバックのままで動かして行く。けっこうな振動がゴツゴツと尻に伝わる。
「自衛隊のクルマで移動って、こんな感じなんだよね」
「そこでそういう例えが出るか?普通」
 砂利道を下って、ワンボックスが止まった。
「着いたよ。ようこそ、旅荘塙へ」
「部隊整列!」
 ワンボックスの後ろのドアが開くや、田島が言った。“自衛隊”の今度は隊員というわけだ。
 彼女たちはテキパキとワンボックスを降り、横一列に並んだ。
「黒野部長以下文芸部8名。ただいま到着であります。宿営地隊長殿、お世話になるであります」
 このコントに女将さんは乗ってきた。
「元気で礼儀正しく結構であります。部屋は2階の奥です。荷物を置いたら下へ降りてくるように」
「了解!」
 敬礼しあう女性達の上を、青い翼のオオルリが滑って行く。

“旅荘塙”は民宿であって、“宿”と看板が出ていなければ、見てくれは2階建ての民家である。
「おじゃましま~す」
 従って、玄関先で靴を脱いで上がり込む際の台詞は、自ずとこうなる。
「はい~。遠いところようこそ。綾ちゃん、案内お願いね」
 女将さんが改めて頭を下げ、少女達の脱いだ靴を次々下駄箱に収めて行く。
「あ~涼しい」
「こっちだよ」
 田島がメンバーを階段へと連れて行く。
 理絵子は列の最後から上がり込もうとし、鴨居のそれに気付いた。
 御札。陰陽道(おんみょうどう)において封印に使われる札。
「どうかしました?」
「あ、いえ、顧問に到着の連絡を……」

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -12-

←前へ次へ→

 

 アルゴ号は“光子ロケット”を動力とする。詳細は省くが本来は恒星系間航行用の亜光速宇宙船である。ただ、“燃料”である“陽電子”が容易に得られる段階ではなく、しかし速力が得られることから、全地球規模で活動する救助ボランティア船として運営している。
 都内から福島県、諏訪君の入院していた病院まで数秒で達する。レムリアが病院へ電話する方が時間が掛かるほど。
「先に小児病棟でちょっとお手伝いさせていただいた相原姫子と申します。そちらに3月まで入院していた諏訪利一郎くんが喘息の発作を起こし、チアノーゼを呈しています。主治医の先生に取り次ぎをお願いしたいのですが」
『ちょっと待って下さい』
 応対した女性はこう返した。レムリアの物言いは情報量が多すぎである。
『その諏訪……という方の診察券番号は判りますか?』
「大変な状態で聞き出せないからお願いしています」
 なおこの間に船は病院の屋上、ヘリポートの位置に降りた。
『親族の方ですか?』
「友人です」
『東京へ……』
「その通りです。が、すぐ来られる位置で発作を起こしてしまったので連れてきました」
 彼の制服胸ポケットに手を入れ、生徒手帳をペラペラめくる。緊急連絡先とか何か無いか。
 が、新年度でありまっさら。
『申し訳ありませんが確認が取れないとなんとも……』
 そりゃそうかもしれないが面倒くさい。
 呼吸補助装置が警告ブザー。
『レムリア!』
 反射的にセレネが呼んだ彼女の名前に、強く反応したのは電話の向こうであった。
『レムリア……ひょっとしてあの時の魔女さんですか!?』
 魔女のレムリア……彼女は小児病棟や孤児院でマジックを披露する時そう名乗る。
「そうです。今、諏訪君と同じ学校に通っていて……」
 および。
「……諏訪です。お久しぶりです……綾部(あやべ)さん」
 諏訪君はそれだけどうにか口にして失神した。
 慌ただしくなったのは電話の向こう。婦長か小倉(おぐら)先生は見えませんか?3月まで当院にいた諏訪君らしいです。あの時の魔女さんも一緒です。
 受話器が手と手の間を渡る音。
『もしもし?』

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -14-

←前へ次へ→

「へ、蛇っ!」
 その爬虫類(アオダイショウである)と認識するや、8人は小さく固まった。恐怖も度が過ぎると声が出なくなる。

Desb1y8u8aaiysg

(アオダイショウ。但し幼蛇。まねしないで下さい)

「どうするの?」
「どうもこうもこの向こうだもん」
「まぐ?」
「勘弁」
「おのおの方、うろたえるでない」
 時代劇調なのは大倉。
「一番後ろから何を偉そうに」
「蛇は確か騒いで音を立てると逃げるんだよ。だからみんなで地面をどかどかやってワーワー喚けば……」
 実行に移す。女の子が8人。ガニ股になって四股踏みよろしく地面をドカドカ蹴り、声を限りにワーキャー喚く。
 蛇はむしろ、声よりは大地を伝わる振動に反応する。かくて蛇は動き出し、するすると道の脇に姿を消した。
「ああ、いなくなった」
「誰かに見られてないよね。端から見たらバカ集団だよ私たち」
「何を今さら」
 周囲を見回し、無人であることを確認して歩き出す。緩い上りの坂道であり、左へとカーブしている。
 と、カーブの奥からいわゆるバン、業界で言うワンボックスカーが走ってくる。ドアに“旅荘塙”の文字が入っている。
「あれ?」
 田島が発見し、手を振る。
「おばちゃ~ん」
「なんだよ。言ってくれれば駅まで行ったのに」
 ワンボックスが止まり、運転席から、割烹着の女性が顔を出す。女将さんだ。
「ワーキャー言ったのあんたらかい。熊でも出たのかと思って飛んできたよ」
 8人は互いを見つめ合った。
 恥。見られてはいないが聞かれてしまった。
「……まぁいい。乗りな。少しだけどさ」
「え?でも6人乗り……」
「大丈夫よ」
 女将さんは一旦降りると、ワンボックス後部のハッチドアを開け、中に入って座席をたたんだ。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -13-

←前へ次へ→

 バスは川べりの橋の前に止まった。橋のたもとには、“旅荘塙に行くには橋を渡れ”旨、看板が立っている。バス通りとはここでお別れ。
「ありがとうございました。とっても楽しいバス旅でした」
 理絵子は紙幣を手渡しながら言った。距離と人数があるので、結構な額になり、料金箱に紙幣はNG。
「こちらこそ。久々に面白かったよ。帰りも会社に連絡くれれば、当日の担当にココに止めるよう言うよ。あーこんなにいらない」
 運転手は500円返してよこした。
「え?」
「君たちは100円の回数券を5冊買いました」
 1冊当たり1枚分、すなわち100円サービス。5冊で500円サービス。
「どうもすいません」
「いいえ。良かったらオバケ情報教えてね。会社のホームページからメール出せるようになってるから」
「は~い」
 バスが走り去る。手を振る彼女たちに、運転手はクラクションを2回鳴らして応え、カーブの向こうに消えた。
 静かになる。橋の下のせせらぎだけ。
「さすがに涼しいね」
「これだけ山奥だとね」
「あとどのくらい?」
 理絵子は田島に訊いた。
「歩くと10分くらいかな。いつもは車で来るから見当つかない」
「まぁ10分ならいいか」
「出発~」
 川を渡ると車一台やっと通れる道である。アスファルトもひび割れてボコボコであり、もう何年も修復していないのが一目瞭然である。両側から樹木が覆い被さり、木のトンネル状態。
「確か“赤毛のアン”にこんなシーンがあった気が…」
 竹下のその台詞に、そばかす娘の中井がすかさず反応する。
 道の真ん中に立って。
「まぁ、なんて素敵なのかしら。私、ここに名前を付けたわ」
「現実はそう素敵でもなかったり……」
 中井の台詞を今里が遮った。
 立ち止まって行く手を指差す。道路を横切るロープ。
 否、ロープ状の生命体。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -11-

←前へ次へ→

「ごめん、諏訪君を窓際へ。救助を来させる」
 この言葉に反応した級友があった。
 去る3月、遠足で訪れた遊園地で首記した“救助”を目の当たりにした、同じ班だった娘達だ。
「姫ちゃん、救助って」
「お察しの通り。保健室で救急車待つとかまだるこしい。……その黒板の文字が何なのか後で聞かせて」
 “その”を顎をくいっと傾けて示した刹那、テレパス一閃。
-レムリア!大丈夫ですか!状況は把握しました。船を下ろします。
 その女(ひと)は、名……コールサインをセレネという。
「はい。お願いします」
 声に出すが、出す必要は本来ない。ただ、変化が起きるという予告のためだ。
 ドアが開いて担任の気配。
「ケンカと聞きました。どうし……」
 瞠目したままその動きが止まった。
 突如、轟と唸って風が舞い、教室の中を吹き抜けていろんな物をバサバサと飛ばす。
 突如の暴風は悲鳴と恐怖を惹起する。窓から逃れる、焦って転ぶ級友も。
 その風を吹き出す正体。窓の外に浮かぶ船体。
 超高速救助ボランティア“アルゴ・ムーンライト・プロジェクト”が所有する飛行帆船アルゴ号。
 風圧で中空に静止する。伴う暴風である。薄茶色の船体側壁が接近し、甲板高さが窓に合わされ。
 大男が歩いてきて、大ぶりな木の板……生徒である彼らは跳び箱で使うジャンプ板を思い出した……を船体と窓枠の間に渡した。
 金髪碧眼で、やや紅潮させたようにも見える顔色の男がニヤッと笑う。
 コールサインを“アリスタルコス”。
「どうした」という英語。
「友人が喘息で強い発作を起こした。病院へ行く」
 レムリアは諏訪君をおんぶする動作をしながら言った。風に向かう短い髪が暴れ放題。
「待った。この……船に運べばいいんだな」
 背後からのそれは平沢。
「ええそう」
「任してくれ……なんかすげえな。映画みたいな」
 平沢が諏訪君をおぶって、風圧に目を細めながら窓際へ歩く。
 大男アリスタルコスがしゃがんで諏訪君を抱え上げる。
「身体を寝かさないように。腫れた気道が潰れるから」
「オーケイ」
 片腕で抱きかかえ、レムリアが乗り込むのを待ち、空いた手で教室に渡した板を外す。
「どこへ……」
 平沢が尋ねる。この状況でそれしか言葉が見つからなかった。そんな感じ。
「諏訪君が入院してた福島の病院。ありがとう。離れて。また暴風が吹きます。副長乗船しました。発進願います」
 この間にアリスタルコスが耳栓装置PSCの新しい物をレムリアに渡した。
『了解』
 セレネから声があり、ピン、と耳に甲高い電子音。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -12-

←前へ次へ→

 閑話休題。実際、バスの行く手はそこから上り坂がきつくなり、道も狭く、カーブも急になった。
 軽薄そのものだった運転手だが、ハンドルさばきとギアチェンジを間断なく要求される区間とあって、顔つきが厳しくなった。前方に、そしてミラーに気を配り、バスを進めて行く。プロフェッショナルそのものである。
「こーゆーの見ちゃうとクラスの男子達ってガキだよね」
「エロさとタッパ(身長)だけはオトナだけどね」
「エロい。ほんっとエロい。イヤになるくらいエロい。死ねって位エロい。尻と乳ばっか見てんじゃねーよおめーら、みたいな」
「でもオヤジに聞いたらさ、その歳でエロくなかったらそれはそれで問題だと。男性本能が目覚めていないか欠如しておると」
「腐女子大好物か」
 田島が内股の姿勢を取り、右手の甲を左の頬に添えた。
「うん。でもってエロいはエロいで基本的に頭の中そればっかなんだって。だから、中学生で純粋な恋愛なんか無いものと思えと。『男子本懐の男子本懐たるは押し倒せ』」
「言い切り?」
「すごいオヤジさんだな」
「現にオレもそうだったと。いかに言葉巧みに誘い出して押し倒すか、そればかり考えていたってさ。だけど女の子は見透かすなぁとも」
「しかしそうすると何、中学生の男の子ってエロゲバか腐女子好物のどっちかってこと?」
「それで、『男女交際は二人きりにならないように』と生徒手帳にもございますわけですな」
「幻滅してきた」
 口さがない会話に理絵子は苦笑した。おたく少年土崎がエロゲバや腐女子大好物系には見えないし、別の男の子は、詩人の感性なのだろう、“風の音が聞こえるか?”と理絵子に訊いてきたことがある。男子すなわちエロゲバか腐女子大好物系と決めつけてしまうのは正直どうかと思う。
 運転手が咳払い。
「コホン。ハタチ過ぎて現役エロゲバよりご案内申し上げます。このバスは間もなく“旅荘塙(はなわ)”前に停車します。荷物は忘れても良いですが、運賃はしっかりと徴収しますのでご用意ください」
「はーい」(8人一斉)

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -11-

←前へ次へ→

 ちょっとした広いスペースでバスは5分停車となった。スペースの中心に“乗り換えターミナル”と看板があり、別路線のバスの到着待ちとか。とはいえ、名前こそターミナルだが、バス停一つ、屋根付きの待合室一つ、自動販売機1台。仮設トイレ1機。以上。
 女の子達が柔軟体操などしている間、運転手は寝ころんでバスの床下に潜り込んだ。そして、カナヅチでトンカンして再度調べた後、納得の表情で出てきた。
「問題ないわ、石踏んで、石は川に落ちたってとこだろ」
「爆弾はなかったわけだ」
 竹下が言った。随分前、バスに取り付けられた爆弾を、ヒーローがこのように潜り込んで外すという映画があった。車輪付き台車に寝そべって、走りながら。
 運転手は自販機でペットボトルを2本買った。
 炭酸飲料を彼女たちに投げてよこす。
「はい、迷惑代。悪いけど安月給なんでみんなで回し飲みしてくれ」
「おーし。酒盛りするぞ野郎共!」
「お~!」
「プハ~。夏はコレだね」
「くぼっちリアルすぎるんだけど」
「大丈夫、ハタチになったらスパッとやめるから」
「逆!」(7人一斉)
 と、そこでバスの中から無線の声。
「おっ?」
 運転手がバスに戻り、何やら喋る。
「出るよ」
 運転手はドアから顔を出して言った。
「隣町でイノシシが走り回ってて交通規制なんだと。客もいないし先に行けと」
 要するに待ち合わせている乗り換えバスが動けないのだ。こっちから乗り換える客は当然なく、従ってそのバスの到着を待つ必要はない。
「は~い」
「しかしなんか路線バス乗ってますって感じじゃないよね」
「知り合いの兄ちゃんとどっか行く、みたいな」
「ヘルシンキ症候群だっけ。立てこもり犯を怖がるあまり、好きになっちゃうっていう」
「ストックホルム症候群。映画で見た」
「オレは誘拐犯か?」
「コーラ1本で女子中学生は釣れねーべよ」
「わたし、黄色いケースに入ってるバッグ買ってくれたら、考えてもいい。それなら、もし、おつきあいがダメになっても、ネットオークションに出せば、現金になるじゃない?」
「それってエンコーと大差ないんじゃ…」
「オトナが中学生とおつきあいするとインコーでタイホだよ」
 運転手が笑う。
「ガキは勘弁。高校生なら考えてもいいけどな」
「あ、聞いてしまった。理絵子のお父さんって確か…」
「警視庁組織犯罪対策部、世間で言うところの“マル暴”におりますが何か?」
「……間もなく発車します。この先カーブが多いため、お立ちのお客様はお座りになるか、握り手等におつかまり下さい。なお、わたくしは警察につかまりたくはありません」
「おかしい、スマホの録音機能いつスタートしてたんだろう」
「わーっ!」
 運転手の負け。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -10-

←前へ次へ→

 “福島のピカ”
 黒板に大書きされたその文字を、レムリアは理解出来なかった。
 ただ、諏訪君に対する最大限の揶揄であることはすぐ判った。
 なぜなら。
「あ……あ……」
 諏訪君が浅く短く呼吸し、咳き込みはじめたからである。喘息の発作だ。

・喘息で呼吸困難等の「発作」を起こした時の対処
1.医師から処方された所定の薬があればそれを使う
2.壁にもたれさせるなど楽に呼吸がしやすい姿勢をとる
3.学校なら保健室、一般的には病院へ
4.チアノーゼや意識混濁は危険兆候。1.2.3.全て実施
5.何か飲める状態であれば紅茶がよい

「薬は?発作に備えた薬は持ってないの?」
 訊くも、彼は目が中空の一点に止まって小刻みに震え、恐らく聞こえていない。
「誰か保健室へ走って!。運ぶから手伝って!」
 カバン放り出して叫ぶ。が、みんな自分たちを遠巻きに見るだけで何らアクションを起こさない。
 レムリアは眉根を吊り上げた。
「……彼を殺す気!?」
 とりあえず腰を下ろさせようとする。が、彼は小柄とは言え男の子である。しかも発作によって身体はこわばっており、少女の力では無理がある。
 そこへ。
「相原さんどうした?大声が聞こえたけど」
 平沢であった。
「諏訪君が発作起こした。悪いけど保……」
 諏訪君が空気嚙むように口を動かし、その口元に持って行こうとする手指に紫色の変色。
 チアノーゼである。こうなると保健室では手に負えない。救急車を呼んで処置を待つとかもどかしい。
 最速の手段は一つ。
 ウェストポーチに手を伸ばす。取り出したのは一見、白銀色の耳栓。
 中身は無線機。しかも“人体に装着していては起こりえない変化を捉えると緊急信号を飛ばす”。
 その機能を使おうというのである。窓から投げ捨てればよい。突然の速度と高度変化。異常の条件を満たす。
 問題は自分の力で外まで投げられるか。投げると言えば日本へ越す前、フィアンセがアムステルダムに来た際、暴漢へリンゴを投げつけた姿が印象深い。野球の投法。
 野球。
 レムリアは平沢の意識にアクセスした。
 テレパシーである。この種の力を彼女は使いこなす。
 彼の意識にある遠投フォームをなぞり、真似する。振りかぶって、足を上げ。
 開いてる窓に向いて。
 屋外へ投げる。
 指先がブンと音を立て、血が集まって痛くなり。
 そして耳栓……正式名称PSC(Psychology-direct-reflection Synchronization Control-unit)はシュッと風切り音を立てて指先から発射され、春風の校庭へすっ飛んで行った。
 運動エネルギを乗じた円弧の一部を成すように舞い踊る髪の毛とスカートの裾。
「すげぇ……」
 呆然と言ったのは他ならぬ平沢。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -10-

←前へ次へ→

 理絵子の台詞のこの後は、書いてしまってはつまらないので書かない。興味ある方は調べて入手して頂きたい。ちなみに、優子とは理絵子のクラスメートにして友人の桜井優子(さくらいゆうこ)である。風体動作いずれもいわゆる“不良少女”であり、留年の2年生であることから、クラスでは疎外されている。しかし、であるがゆえに、理絵子は彼女と懇意にしている。マックスコーヒーは、優子の親戚が千葉に住んでいることに伴う。なお、あらかじめ申し上げておくが、本編に彼女は登場しない。
「綾が気に入ったって言うから半ダース上げました。で、今日ペットに入れて持ってきたと。綾、ちょっと大倉に飲ませてあげて」
「味確認するだけだよ」
 田島がペットボトルを差し出す。ゴクゴク飲まれないかと目を光らせながら。
 運転手が戻ってきた。
「今、『ぬお~』って断末魔のマンモスみたいな声が聞こえたけど」
「いえ、かわいいナウマン象の雄叫びです」
 大倉が応じる。ぬお~の当事者は彼女である。
「……なるほどマックスだわ。あんたが好きな理由、よく判る」
 大倉は驚愕の目でペットボトルを田島に戻した。
 運転手は無線で何か会社と話しをしている。
「あと1ダースあるわけです。消費が進まないわけです」
 理絵子は言った。
「え?だったらちょうだいよ~」
 と、田島。
「ダメです。理由を説明します。スマホをお開き下さい」
「え?あ、うん」
 理絵子に言われて、田島はポケットから取り出した。
「便利機能のメニューに電卓があるでしょ」
「……うん」
「体重の数値を入れるべし」
「え?あう」
 田島は数字が見えないように、手で隠しながら入力した。
「入れたよ。で?」
「身長何センチ?」
「155」
「では体重を1.55で割りましょう」
「割った」
「もう一回1.55で割りましょう」
「……割ったよ」
「25以上ならあなたはへこまなくてはなりません」
「何で?」
 そこで運転手が無線のマイクを所定に戻す。無線通信は終わったようだ。
 そして振り向きざま一言。
「肥満。だな。BMI25」
「びーえむあい?」
「走りそうな……」
 運転手は首を左右に振りながら続けて、
「そりゃBMW。BMIってのはボディ・マス・インデックス指数と言ってね。体重を身長で割ってるわけでしょ。答えの数字が大きいほど、身長の割に体重がでかいことになる。25以上なら肥満。会社でも24以下にせぇ言われてるからね。太い奴が乗るとそれだけ燃料を食うからって。我ながらせこい会社だよ」
 果たして田島は通路に座り込んだ。
「えーえーどうせ燃料消費少女ですよ。いいんだ。私なんか夕暮れの材木座(ざいもくざ)に裸足で座って、サーファー眺めながらひとりマックスコーヒー飲んでればいいんだ。彼氏も出来ず、みんなにデブデブと後ろ指を刺され、ほめられもせず、苦にもされず、サウイフモノニ、ワタシハナリタヒ」
 いじいじと通路に“の”の字を書く。ちなみに彼女が援用したのは、言うまでもなく宮澤賢治の“雨ニモ負ケズ”である。
「賢治は太ってません。むしろ1日に玄米4合と味噌と少しの野菜の食事を貴女にお勧めします」
「なんでいきなり湘南の海辺で千葉のコーヒー飲む設定なわけよ」
「そっちの方だと“マイコーヒー”ってのがあるらしいですよ。マックスとの対決をネットで見た気が……」
 若井が言った。
「はいはい発車しますから、ばばっちい椅子に座って下さいな」
 運転手がエンジンを掛けた。
「結局何だったんですか?」
「それが判らん。石もないし道に凹みもない。見て回った限り異常なしなんだよ。それでちょっと会社に指示をね。リコールとか車の欠陥でもなさそうだ。まぁいかんせん中古だからね。動かすよ」
 バスが走り出す。別段異常はないようだ。でも理絵子は心理的に引っかかった。
 心霊ネタを喋っている時に、起こったからだ。

(つづく)

【理絵子の夜話】圏外 -09-

←前へ次へ→

「儲かりそうな路線ですね」
 理絵子は言った。普通に言うとイヤミだが、このちょっとおちゃらけた運転手なら大丈夫だろう。
「ああ、ここは元々金山の金を甲州街道に出す。それだけのために出来た道だからね。金鉱で寸止まりで、山向こうへ抜けてるわけでもなく、閉山で道だけ残った。鮎釣りしか能が無くなったから、鮎が下っちゃったら誰も来ないさ。最も、最近は夜になると、若者がクルマで来るらしいけどね」
「夜釣りですか?」
「なんかえっちい予感……」
「ハッテン場とか」
「違う違う。なんか有名らしいんだよ。心霊スポットって」
「え?」
 理絵子はピンと来た。
 予感、それだ。
「心霊スポット?」
「まじっすか?」
 女の子達が興味津々とばかり運転席に寄ってくる。過去現在を問わず、女の子は多くこの手の話が好きである。
 みんなで運転手を見つめる。無言の圧力“詳しく”。
「……オレ興味ないから詳しく知らないんだよ。何か悲劇らしいけどね。宿の人なら判るかも知れない」
「なんだつまんない」
「君ぃ。そういう沿線スポットの情報を詳しく説明できることが、乗客増加につながるのではないのかね?」
 ペットボトル片手の田島が言う。
「参っちゃうなどうも」
 運転手が苦笑する。
 と、穴ぼこか、それとも石か、何か段差を通過したらしく、バスがドシンと揺れた。
 ペットボトルの中身が跳ね、田島の顔にぴちゃっ。
「わう!」
 運転手がバスを止める。
「大丈夫かい?ケガした?」
「いいえ、でもメガネに“マックスコーヒー”が…あ~ん、べたべたになるよ~」
「んなもの入れてくるからでしょ」
 理絵子は言った。
 運転手は安堵の表情。
「ケガ無くて良かった。ちょっと見てきていいかな。パンクだといけない」
「はーい」
 運転手が降り、少女達が答える。
「マックスコーヒーって?」
 大倉が訊いた。
「千葉の辺りだけで販売の缶コーヒー。優子に一箱もらったん。そりゃもう何がマックスって……」

71nrqbr2cl_sy606_

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -9-

←前へ次へ→

 その教員が更に遅れてきたどこかの生徒といがみ合う。
「ダメだ。何年何組だ」
「何でだよ。あいつら聞かなかったじぇねーか。汚え」
「遅刻した分際で威張るな……」
 うるせえよ。
「……まぁいい。近所に迷惑だ。早く行け」
 このやりとりに諏訪君は振り向いた。
「チェッカー珍しく優しいですね」
「ウチらの所為にされたらたまんないじゃん」
 遅刻生徒が後ろから走ってくる。二人を追い抜きざま顔を見て行き……彼女レムリアに目を向け、
 小さく口を開く。驚いたように。
「……お、すげえ」
 遅刻生徒は思わずとばかりに口にした。男子生徒であり。
 何が起こったかレムリアは承知している“誉れ高き美少女転入生”に初めて遭遇したのである。自分の容姿に対するウワサは知ってる。そうなることは相原学が予告していた。
「おいおいオバケかわたしは。こけるよ」
 果たして遅刻生徒はよそ見のまま歩くが故に昇降口との段差に蹴躓いた。
「あっ!」
「言わんこっちゃない」
 が、前のめりになるも、転ぶことはない。そこからドリルのように身体を宙でくるりと回してバランスを取り直し、両足で着地成功。
「着地完璧」
「え?は?」
 遅刻生徒は目をぱちくりしておのれを見回し、彼女を見る。
 何が起きたか把握していない。何が起こったの?と問う目。
「急いでどっか行って下さい。相原見てたら遅刻したとか言い訳にされたら困るんで」
「お、おう」
 遅刻生徒は気を取り直してわずかな距離を走り、下駄箱で靴を履き替え、廊下を疾走。
 バタバタバタバタ……。
「誰だ!走ってる奴は!」
「うるせえ馬鹿野郎!」
「何だと!?」
 罵られた教員がトサカに来たようでガラリと戸を開け見回すが、遅刻生徒の姿は既に無い。
 代わりに、自分たちの方に目が向いた。
「君か今のは」
 んなわきゃあるか。
「うるせえ♡馬鹿野郎♪」
 しなを作って女の子~な声で言ってみる。罵るの意ではなく比較してご覧あそばせ……通じるか。
「そうか、そりゃすまん。遅刻だぞ」
「ええ。担任には話してあります」
 大嘘。
「そうか、判った」
 トサカ教員は自分の教室に引っ込んだ。
 隣でクスクス笑い。諏訪君である。
「何か面白い?」
「姫……ちゃんさんといると何だか色々面白い。ゲームのスキル発動してない?」
 嘘はつきたくないので微笑み返し。
 悪い予感。

(つづく)

«【理絵子の夜話】圏外 -08-