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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

new最近の更新

・「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(3/22・毎週水曜昼12時更新)
最新→ -102-
目次

・【魔法少女レムリアシリーズ】「アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~」
(3/25・毎週火曜・土曜更新)
最新→ -083-
趣旨と前書き・目次

bookお話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
drama魔法少女レムリアのお話(現在15編)
night超感覚学級委員理絵子の夜話(現在6編)

●短編集
cafe大人向けの童話(現在10編)
heart01恋の小話(現在13編)
virgo妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
ng(分類不能)「蟷螂の斧」

penリンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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2017年3月25日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-083-

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 背後に駆け寄る足音二つ、程なくガチャッと音がし、長銃が二本、女に向いた。
 以下、分かり易いようセンテンスを刻んで警告。
「動くな。それを拾うな。全部録画している。警察に言う。お前に食わせるものはここにはない。情報は全ての避難所にばらまく。ここで死ぬか、日本から出て行くか選べ」
 相原からピン。
『不逞の輩か』
「まぁそんなところ。どうしよう」
『トレースだけして丸裸にして放り出せ。殺人は罪だしな。正当防衛の結果落命したら知らんが』
「了解。おい、服を脱げ」
 レムリアは容赦なく言った。背後で子供達が見ている。一部始終見ている。
「なに言う……」
「まだ隠しているだろうが。クソ泥棒女が。殺すぞ」
『容赦ないな』
 これはラングレヌス。唇の端を歪めて苦笑いする様が見えるよう。
「女だからさ」
 レムリアは吐き捨てるように言い、女につかみかかり、力任せに服を破いて女を全裸にする。本当に丸裸にしてしまう。下着の中からも現金や装飾品が出てきて散らばった。
 胸元と下腹部を隠す。しゃがみ込んで泣き顔で首を左右に振る。『もうやめて』そんなところか。
 母国語で何か言うがテレパシー使うのもおぞましい。
「この期に及んで恥ずかしがるタマか。女に分類されるな虫酸が走るわ。出せ。まだ、ある、だろう?あ?レントゲン撮って浣腸しようか?」
 書くまでもあるまい。レムリアは女に飛びかかって押し倒し、指突っ込んでほじりだした。但し子供達には見えないよう、自らの身体で目隠しをして。
 無表情な少女がのしかかってきて股間に手を入れてくる。相応の恐怖であったようで女は失禁した。
「汚ぇな馬鹿女郎(じょろう)が。徹頭徹尾クソだなしかし。微生物の栄養になるだけクソに失礼か。失せろ。一度だけ言うが、お前は監視している。同じことをしようとすれば死ぬことになる」
 
(つづく)

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2017年3月22日 (水)

天使のアルバイト-102-

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 実は今、エリアは超感覚を用いた。女の子の事情もそれにより判じた。
 封印されているはずの、彼女本来の力が働いたのだ。ただ、エリアにとって、それは元々当然のことであるため、変化していることには気付いていない。
「あなたは彼を好きかも知れない。でも、彼はあなたが好きではない」
 エリアは把握した状況をいきなり口にした。女の子の身体がびくりと震え、心臓の拍動が乱れるのが如実に判る。
 その身体をエリアは強く抱きしめる。
「最後まで聞いてちょうだい。彼はあなたに痩せろと言った。でもそれは彼が、女性を外見でしか見ていない証拠。中身のない人間は、自分の中身を見られたくないから、相手にも外見だけが全ての存在を求める。
 だから、私には判る。その可愛い彼女もいつか飽きられ、捨てられる。慰めなんかじゃない。軽薄な人間には軽薄なことしかできない。でも、あなたは違う。ボロボロになるまで無理して痩せようとして、死のうとまで思った。それはあなたが真剣に物事を考える女の子である証拠」
 女の子の身体から力が抜ける。
「今すぐ諦めろとは言わない。でも、命捧げるほどの相手じゃあ絶対にない。彼のために無理をして……それで安らぎがあった?不安と、闇の縁のような絶望感に苛まれていただけじゃないの?」
 女の子が次第にエリアに体重を預けてくる。
「死ぬほどの勇気があったら生きてみようよ」
 エリアは言った。まるで女の子が旧知の友であるかのように親しげに。
「人間は死ぬために生まれてくるんじゃない。それだったら最初から生まれないのと同じ。でも生まれる。それは生きろということ。だったら徹底的に生きてみようよ」
 女の子はそこでエリアに目を向けた。
 赤くなり、腫れ上がった瞼が、しかし希望の夜明けが来たように開かれる。
 
(つづく)

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2017年3月21日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-082-

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「お姉ちゃん、誰か来るぜ」
 発見の声に振り返り、指さす先を見ると、近づいて来る手こぎボート有り。
 信用ならぬ。超感覚の警告。
「ボランティアてす。おてつらいします」
 書き間違いではない。日本語の発音がおかしい。そして一人で手こぎのボート。
 若い女性である。レムリアは超感覚が勝手にバリアを張るのを感じた。怪しいと直感的に思った人物を近づけたくないという心理は誰にも作用するものだが、超感覚の次元ではバリアの体を成す。
『どうしました?』
 テレパシーで繋がっているセレネから反応。レムリアは耳穴からピンを送って大男達に注意喚起。同時に胸元タブレットのカメラで録画開始。
『どうした』
 この問いは船長。
「介抱泥棒の類い。多分」
 小声で答えていると、女性はボートで岸に上がった。件の漂流している遺体に目もくれなかったことでテレパスの回答を確信する。
「私どもは食料も医薬品も充分です。行政の一次対応が整い次第移送します。どうぞ他の困っているところへ」
 穏便にお断り。とは言え、行かれたら先方が困るのだろうが。
「てもあの、わたし看護師」
 てめえ泥棒だろうが。一喝するのは簡単である。が、後々を考えると証拠が欲しい。及び、今の看護師という自己申告はウソである。
 一計。
「あら、だったらご自身の体調が優れないのはお気づきではないですか?徹夜であちこち回ってらしたのでしょう。ちょっと体温測ってみませんか?」
 ウェストポーチから体温計出して近づこうとすると、果たして女性は身を翻して逃げだそうとした。
 流れ着いた瓦礫に足を取られて転ぶ。その胸元ポケットからばらばらとこぼれる金属の輝き。
 多数の指輪。
「……!!」
 女が何事か叫ぶ。しまった!系の言葉と思うが何を言ってるか判らない。レムリアは12の言語を操るが、そのレパートリーに存在しない。反射的に出た母国語というところか。
 

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2017年3月18日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-081-

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「田老も……」
 子供達はその町の名を知っているようである。まるで試合で味方の敗戦を聞いたかのように肩を落とす。最も、津波を知ることは三陸沿岸で呼吸の如くであり、その“先端”である田老の対応は知っていて当然。ちなみに同地区は明治三陸・昭和三陸と繰り返す津波被害に10メートルの堤防を2重に形成、万里の長城とすら言われた。それはチリ地震津波では確かに町を守った。
 しかし今回、津波は15メートルを越し、堤防を乗り越え、破壊し、町に流れ込んだ。
Eq4
(岩手県サイト「津波対策施設の復旧、整備箇所【No.27 田老海岸】現地写真、津波被害状況および復旧方針」より)
 後に判ることだが、この堤防が“万全の対策という誤解”を町に与えた可能性は否定できまい。堤防自体は“避難までの時間稼ぎ”程度に捉える方が適切であろう。
「私は、みんなが生き延びてここにいる、そのことに大きな意味があると思っています。大人は子供に何か話すとき、“これは子供だからやめておこう”と勝手に決めるんですよ。すると子供達は何も知らないまま実際その場面に遭遇し、大きなショックを受けて本当に必要な行動を取ることが出来なくなってしまう」
「“津波てんでんこ”ってそういう意味か」
 男の子が得心したように拳を作った。
 聞いていたのだろう、相原からピンが来た。
『津波が来たら自分の命をまず守れ。人は気にせず自分が逃げろ。という極限サバイバル標語。「てんで」、は、てんでに、個々にという意味』
 レムリアは頷いた。
「そういう意味でしょうね。ショックで立ち止まっていてはダメ、ということで良いと思います。目の前で誰か死のうとしていても立ち止まらず走れ。みんな、そういう説明は受けていないでしょう。大人が勝手にそうしたんです。でも、みんなは、子供の目で、実際を見た。だから“津波てんでんこ”の真剣な思い、ギリギリの恐ろしさを教えることが出来る……」
 

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2017年3月15日 (水)

天使のアルバイト-101-

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 許してくれるようである。エリアは安堵と共にもう一度頭を下げた。
「はい。すいませんでした」
 運転士と車掌が指差呼称で安全を確かめ、それぞれの持ち場へ戻って行く。
 その間、エリアは女の子の肩を抱える。小さな警笛があり、電車が動き出す。安全確認のためか最初はスローで、橋を渡り終えてから加速を始める。
 エリアはそれを見届けると、女の子を連れて堤防、すなわち最初エリア自身が助けてもらった草の上に上がった。
 女の子をじっと見る。女の子はきょとんとしている。
 何が起こったのかよく判っていないらしい。
 このバカ娘!……エリアは一喝したくなる。こっちには、生きていたいのに病魔によってそれすらも不確かな娘がいるのだ。そして、彼女の命を守ろうと、多くの人が昼夜を分かたず八方手を尽くしてくれているのだ。
 それなのに、それなのに……やすやすと命を絶とうなんて。
 しかし。
「どうしてあんなところに立っていたの……」
 エリアの口をついて出たのは、迷子の幼子を迎えに出た母親の口調であった。
 女の子の濡れた髪の毛を絞りながら、自分が着ていたカーディガンを羽織らせながら、ゆっくりと尋ねる。見れば痩せぎす。頬は落ちくぼみ、骨ばっていて、ゴボウのようにどす黒く細い手足は、まるでミイラかガイコツ。
 女の子がワッと泣き出す。そのままエリアにしがみつき、恥も外聞もなく大声でわんわん泣く。
 エリアは女の子をそのまま抱いている。理由がフラッシュバックの映像で見えてくる。
 憧れの異性がいてその彼に痩せろと言われた。それで無理をしたら気持ち悪いと言われ、挙げ句に彼には既に可愛い彼女がいた……。
 弄ばれたのである。
「だからって、死ぬほどのことはないよ」
 エリアはゆっくり言う。女の子はエリアの肩のところで小刻みに震えている。
 

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2017年3月14日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-080-

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 現実を前に、レムリアは歯を食いしばる。
 そして、子供達を見回した。
「悲しいことをお知らせしなくてはなりません。ものすごい、数の方が、亡くなったそうです。1万人を超えるとか」
「いちまん!?」
 子供達は一様に目を見開き、中には目に見えて身体震わせる姿も。
「ええ。だから、君たちは、生き延びて、この状況を伝えて、二度と、同じことが起こらないように、しなくちゃならない」
 そうだ。レムリアは自分の言葉に頷いて言った。
「多くの悲しみと、ショックが、みんなの目の前で起こるでしょう。それは多分、何度も繰り返し夢に出て来るようなショックになるでしょう。PTSDという言葉を聞いたことがあるかも知れません。もちろん、見たくなければ、避けていいのです。この船の中にいて、外へ出なければ、見ることはありません。無理に心に傷を作る必要はありません。ただ、船は動けるようになれば病院船として活動しますし、みんなも手伝ってくれてる。そうなると、今後も、見ることになります。目の前で、お亡くなりになる、そんな状況も、あるかも知れません。お年寄りかも知れないし、赤ちゃんかも知れない。それは多分、気が狂いそうな気持ちになります」
 すると。
「お姉ちゃん、そういうの、見たことあるの?」
 幼い声にレムリアは迷わず頷いた。
「ええ。そして、そんな悲しみを少しでも減らしたい。それが私の願い。だから、今、ここにいるんだ。でも、この船一隻にはあまりにも相手が大きすぎた。北海道から、千葉県まで、津波による犠牲者が出たそうです。そして、全体で何人になるか、まだ見当が付きません。空から見たら全部流されて、それだけ判った。そんな町がいっぱいあります。田老(たろう)って知ってますか?大きな堤防で囲まれている……そこも津波に飲まれたそうです」
 

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2017年3月11日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-079-

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 船の前では炊き出しをしているので、まず、帆を広げて風よけ。次いで大男達の力を頼み、木箱と武器庫のご遺体を浜辺へ移動する。これらはヘリが接近し、ローター音に合わせた行動であったせいか、子供達が覗きに来たが、どのみち判る話で隠すものではあるまい。亡くなった方々を運びますと言ったら、揃って手を合わせてくれた。なお、一帯の水が引かないのは、地盤の沈下、伴う海岸線の進入、河川堤防の破壊、下水等排水設備の損壊全ての複合による。
 ヘリが降下。但しスペースの都合で着地はせず、空中静止し、一人ロープで下りてくる。
 レムリアは船を下りて“海岸”へ走る。ローターの作る風が凄いが、浜辺の砂は吸い込んだ水分の影響で半ば凍っており、砂埃が舞うようなことはない。
 ただ、音が凄い。
「先ほどの槇村です!姫君!」
 敬礼。身分はバレている。以下ローター音に負けないよう大声だが、応じた記号は省略する。
「お疲れ様です。搬送お願いいたします。あと、可能であれば医師を派遣下さい。この船は病院として利用できます」
「判りました。伝えます」
 会話中に遺体を木箱へ。ヘリからロープを下げてもらい、槇村隊員がフックに引っかける。
 槇村隊員は木箱の縁に乗り、ロープにつかまる。
「では」
「ありがとうございます。どうかご家族の元へ」
「承りました」
 ヘリは槇村隊員そのまま、木箱を下げて“島”から遠ざかっていった。
「あっ……」
 傍らで一連を見ていた男の子から声が上がる。少し離れた位置、水面から出た人の手。
「あれって……まだ……」
 子供にご遺体を見せてしまった。しかし、レムリアは隠そうとはしなかった。
 同じことは多分どこでも起こっている。今後も、この子達も目にする。
 そして、その意味するところは、この子達にだけ目隠しをすることではなく。
 

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2017年3月 8日 (水)

天使のアルバイト-100-

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 それと同じ現象が今、起きた。
 刹那。
 気が付くと、直近にそれこそ“まんまる”に目を開いた女の子の顔がある。
 背後から接近する光芒と圧力。
 橋から走って逃げる時間などない。
 躊躇は一瞬たりとも許されない。
 エリアは女の子の手を取り、川面に引き込んだ。
 二人の身体が宙に舞う。
 線路を離れ、その直後、急ブレーキに伴う摩擦の火花を散らしながら、通勤快速が二人のいた位置を通り過ぎる。
 着水の音がして水柱が上がる。
 但し水深は深くない。女の子はバランスを崩してしりもちをついたが、エリアは身が軽いこともあって立ったまま降り立った。
 すぐに女の子の手を引き、立たせる。
 長々と、ブレーキライニングのキーキー音を響かせ、橋梁上で、がくんと、電車が止まった。但し、先頭は遙か向こう、橋の上にあるのは、10両編成の9両目。
 乗客達が何事かと窓を開け、こちらへ顔を出す。
「おい。大丈夫か」
 誰かが言った。
「はい、大丈夫です」
 エリアは答える。
 と、列車の前後方向からそれぞれ砂利の上を走ってくる音。
 車掌と運転士。
「おい!」
 列車後尾から出て来た車掌が、二人を見つけるなり怒鳴る。怒りを帯びた声と心配を含んだ表情。
「大丈夫です。私の友達です。ご迷惑をおかけしました」
 エリアは機先を制して答え、深々と頭を下げた。
「責任を持って連れて帰りますから……」
 車掌は腕組みして二人を見、そして舌打ち。
「しょうがねえな……お客様!外へ出ないでください。安全が確認されましたのですぐに発車します」
 車掌は電車の前後に向かって大きな声で言い、息せき切って駆けつけた運転士に説明。
 二人がこちらを一瞥。
「すみません!」
 エリアはサッと頭を下げた。
「全く……」
 運転士が言い、二人は何やら相談。
「ちゃんと帰れよ」
 

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2017年3月 7日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-078-

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「JSDF殿、お久しぶりです。いつぞやのその船、撃たれた当人です。当船は駆動能力は失いましたが船内環境維持は出来ています。救急処置を行える拠点として活動できます。人工透析、呼吸補助を必要とする方をそれぞれ4名2名受け入れられます。なお、食料の原材料補給と、当船で安置しているご遺体の回収を願いたい」
 日本語で普通に喋る。秋葉原の一件。それは相原も口にしたが、核ミサイル誤射騒ぎがあり、騒ぎの火付け役と誤認され世界中追い回され、秋葉原に不時着したことがあるのだ。自衛隊が対応し、ゆえにアルゴ号は日本の安全保障関係に存在は周知されている。無論、誤認は解消している。(※JSDF:自衛隊の英称 Japan Self-Defense Forces)
『了解しました。当方槇村(まきむら)と申します。安置人体の垂下搬送は可能か?どうぞ』
 つまりヘリからぶら下げて運べるか。
「そばの実の木箱が使えるだろう」
 船長が応じる。前記そばの実を収めていた木箱である。2メートル四方。念のための焚き火燃料用であったが、電力で保温可能であるし、船の所在が伝わった以上、必要に応じて暖房装置補給も受けられるであろう。
 レムリアは頷く。
「垂下搬送可能です。2メートル四方の木箱に収めます。十分な耐荷重のフックがありますので、それでお願いします」
『了解しました』
 大男達を呼び戻す。センサの位置へカメラを向けると、彼らは島を横切る“山脈”の向こうにあり、夜間に強盗団と接した浜辺にボディバッグを並べていた。プラズマガンが転がっており、瓦礫が幾らか片付けられて水面が見えている。恐らく、少々瓦礫を“吹き飛ばし”て、近場の方の身体を引き寄せたと見られる。
 

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2017年3月 4日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-077-

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「は?」
 レムリアは思わず問い返した。原発が、なぜ?
 その声は子供達のいくらかが目を覚ますほど。
 反射的にカメラの向きを変える。ガレキから青空へ。福島がある南南東へ。映りはしないだろうが。
「メルト……」
『スリーマイル島と同じだ。4機あるからタチが悪い。政府がぐちゃぐちゃ言っているが、何が起こってるかサッパリ掴めない。対放射線防御態勢に入れるようセンシングはお願いする』
「そんな……」
 レムリアは以降の言葉が紡げず、ただ涙だけがぽろりと出た。
 地震、津波、火事、犯罪、原発事故……一体、どれだけの災害が出続ければ、事態は収まるというのだ。
 この国が、世界に何か悪さをしたか?
 平和を理念とし、人的、金銭的貢献を続けるこの国を災害が襲う理由は何なのだ。
 まさか太平洋戦争の報いというわけではあるまい。
「相原。センシングは作動した。ヨウ素とセシウム、ガンマ線をカウントしている。放射線通常値があれば送って欲しい」
 船長の回答。応じてモニタの左下に数値枠が出現する。
『放射線の生データは忘れたが0.05マイクロシーベルト毎時くらいが平均と記憶している。日本の基準は年間1ミリだ。越えそうなら警報と避難者の船内収納を』
『承知した。警戒レベルの設定、傾向管理アラーム設定を行った』
 頭の上で飛び交う会話。それは“泣いてるヒマなどない”と言外に言われているようであった。
 そう、実際泣いてるヒマなどないのだ。電力は確保できた。ある程度救援活動に設備を使える。
 涙拭き取ったモニタ画面にヘリコプター。
『自衛隊だ』
「モールス入電。貴艦は秋葉原の不時着船とお見受けする。回答願う」
 シュレーターが解読した。
「貸して」
 レムリアはPSCのマイクを無線に繋ぎ。
 

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2017年3月 1日 (水)

天使のアルバイト-099-

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 その明かりに頬を照らされ、作り出す風に髪を任せながら、何か無いかと彼女は考え続ける。助けてもらって、住む場所に仕事まで。今こそ、そのお返しをするべき時のはず。
 背後へと走り去った上り列車の音が聞こえなくなった。
 少しの静けさ。
 それから続いて、後ろから電車が接近してくる音。
 再びのヘッドライトの光芒。照らされる自分の背中、浮かび上がる前方と、伸びる自分の影。
 前方。そこは彼女が最初“落ちていた”場所である。川を渡る短い橋梁が掛かっているところ。
 後ろからの電車がプアーンと警笛を鳴らした。
 良く、テレビドラマなどで、電車が出てくると必ずと言っていいほど警笛の音を出すが、実際に電車が警笛を鳴らすのは危険防止のためで、しょっちゅう鳴らすものではない。
 危険防止……。
 ぼうっとしていたせいで自分が危険に見えたのだろうか。エリアはまず電車と自分を見た。もちろん何の問題もない。
 では、前か。エリアはヘッドライトの光芒の照らす方向を見る。
 すると。
 エリアは発見する。
 見間違いではない。川に架かる鋼鉄の橋、ガーダーブリッジと呼ばれる、枕木とレールが剥き出しになった橋の上に人影。
 自殺!
「ちょっと!」
 エリアは叫び、走り出す。同時に後方すぐで電車が長々と警笛を鳴らし、バシャッという空気の吐出音が、驚くほどの大きさで周囲に響く。
 非常ブレーキ。
 間に合うか……エリアは人影までの距離と電車を見比べながら考えた。
 間に合わない。
 でも助けたい。
 助けなければならない!
 次の瞬間、エリアは当たり前のように、使者として当然の動作として、大地から跳躍した。
 全身が炎を噴いたような感触が、一瞬、存在した。
 これか!エリアは思い出すと共に確信した。そう言えばあの夏の日、ロックされているはずの車のドアを開ける時、この感覚がこの身に生じた。
 

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2017年2月28日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-076-

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 降りてすぐ、武器庫にはロックが掛けられることからご遺体を安置している。トリアージ黒札。医師の判断を経ないものは“心肺停止”と表現されるが、逆に誰が見てもという状態の場合“即死”と書かれる。ここに安置しているのは後者である。津波は水によって溺れる、のみならず、トンの単位の物体が複数流される。それらに人体が巻き込まれたら大きな損傷は免れない。遺体の状況は凄惨を極め、身元確認は難しい。津波を描いた過去の絵画はそうした点を強調し、だから、揺れたら逃げろ、或いはそもそも住居を作るなと強く諫めている。
 船がゆっくり動く。津波か、地震か。
 レムリアは子供達のいる操舵室に戻った。
 
11
 
「主コンピュータ電源回復。充電開始」
 シュレーターの声で目覚める。いつの間にか自分のコンソールで突っ伏して眠っていた。
 マストが3枚とも展帆している。モニタに映った船外はブルー。すなわち快晴。気温は0度。消火膜代わりの第2マストの帆も元の位置。男達が戻したのであろう。
 第2マスト頂部にあるカメラを動かす。
「おお……」
 大きな衝撃と小さな声が乗組員を捕らえる。
 引かぬままの水面を埋め尽くす瓦礫と、見え隠れする多数の遺体。
 上空を飛ぶヘリコプター複数。
「アリス、ラング。出来るだけ回収を。データリンクを再開する。相原、鎌倉宇宙機製作所応答せよ」
 船長アルフォンススの声がし、大男達が操舵室を出て行く。
 正面モニタは相原の会社のテレビ会議室を映した。
 作業服着たメガネの男。即応する辺り寝ていないとレムリアは判じた。
『はい相原。アルゴ号の位置と状態は把握している。ウチの連中が反水素貯蔵ユニットを持って出るので航行可能になる。しばし待たれよ。概況を伝える。震源は宮城県沖。マグニチュードは暫定値8.8。最大震度7。津波によりおびただしい人命が失われた。アルゴ号周囲の状態が沿岸一帯で見られると考えていただいて良い。東京でも建物の屋根が落下して人死にが出た。犠牲の全容は不明だが1万では済まないだろう。なお、福島第一原子力発電所が電源を喪失し冷却不能。メルトダウンの恐れが高い』
 

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2017年2月25日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-075-

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 ちなみに、遺体から奪い取るという発想自体は、近代日本人は思いつかないであろうとレムリアは思っている。
『畜生はどの文化圏にもいるし、入り込むさ』
 相原が言った。そうだ、という肯定の意が生じ、胸の痛みが潰れるように消える。死という結末は後悔するに値しないであろう。相手の数が数である。まず武器を奪う、無力化する以外に選択肢はあるまい。相手はそれを避けて死んだ。それだけだ。
 それだけだ。サッと結論づけたが自分は残酷な考え方だろうか。沢山の“あっけない”死に接してマヒしたか。
『ラング帰投せよ。膜はそのまま火除けに置いておけ』
 船長の指示にレムリアは我に返る。
 自分の心理などどうでもいい。
「警察力が低下してるわけだね。だったら寝ずの番がいるね。似たようなのまた来るかも知れない」
 レムリアは言った。それこそ無法の地の体験はいくらでもある。体験からのアンサーがこれ。
「それなら俺たちが……って言っても聞かねぇだろうなおめさんは」
 アリスタルコスが隣でニヤッと笑った。
「よくご存じで」
 レムリアはニヤッと返した。そして気付く。ウソでも何でも“笑い”の余裕が出来た。
「だけどな魔女さん。おめぇさんには子供達のそばにいて欲しいってのはあるんだ」
 優しい嘘。レムリアはフッと笑った。本当は少女である自分には戻れと言いたい。されど、子供扱いになる。結果のアンサー。ちなみに救助した子供達はそれこそ安心と疲労の故に深く寝入っている。PTSD的症状が例えば悪夢や不眠として現れるのはむしろ明晩以降。
「判った。戻るよ」
「任せろ。こっちは人生こんなのばっかだしよ」
 レムリアはそれを聞き、大男達を置いて船内への階段を降りて行く。
 

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2017年2月22日 (水)

天使のアルバイト-098-

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 エリアも正直なところ同じ気持ちである。しかし自分たちは、“お願いしている”のだ。文句を言える立場じゃない。
「いいえ、レジじゃ全然……だったし。14枚も持って行ってくれたなんてすごいと思います。助かりました」
 エリアは笑顔を作ると、山のような残りのビラをスーパーのビニールに収めた。
 若い母親がフッと笑い、エリアの手を握る。
「そうね。私の赤ちゃんをあなたが助けてくれたように、あなたのお友達を助けてくれる人がきっといる。私はそう信じる」
 エリアは握られた母親の手に、心からの温かさを感じた。
 その手を強く握り返す。寒空の下、二人とも素手である。理由……ビラを持って行ってくれた人に、握手で謝意を表したいから。
「明日また配りましょう」
「はい。ありがとうございます」
 エリアは答えた。正直言って、今日の14枚が直接事態の解決につながるとは思えない。
 ただ、少なくとも、手をこまねいているよりはマシだと思える。
 もちろん、それは単なる自己満足なのかも、何かしている“つもり”でいたいだけなのかも知れないが。
「じゃあ」
 ビラ配りの許可をくれた駅事務室に一礼し、二人はそれぞれ家へ向かった。ちなみに、赤ちゃんは母親が実家から出て来て面倒を見ているとのこと。
 エリアの場合、家へは線路沿いの田んぼのあぜ道を歩いて行くのが近道である。当然街灯など無く、一般的には若い娘が夜歩くべき場所ではない。しかし、そんな懸念は元よりエリアにない。
 最も、知っていたとしても、彼女はそこを通っただろう。なぜなら彼女の思惟は“由紀子を救う方法はないか”それ一点に占領されており、その他の行動は全て自動的に近い状態で行われているからだ。
 正面から光芒。電車である。都心へ向かう上り最終が接近し、轟音と共に行き過ぎる。
 

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2017年2月21日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-074-

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 ラングレヌスは帆柱基部に自らの腰部安全ベルトのフックを掛ける。
 帆柱を根元から外して持ち上げ、その腰のベルトに載せる。
 質量は80キログラム。
 そのまま、右舷まで歩き、柵を倒して立つ。
「レムリアくれ」
 プラズマ銃のこと。
 渡したら、彼は帆柱担いだまま宙に身を投げ、同時に銃を地面に向かって発砲した。
 銃から火の玉が走り、反射的に帆柱もろとも彼の身体が浮き上がる。
 銃の反動を小型ロケットエンジンのように使った。
 雑木林を越えて炎の沿岸へ。“龍神花火”という相原のイメージを知る。
『展帆!』
『アイ』
 空中で帆膜が開き始め、体の良いグライダー。
 帆膜は一気に広がり、炎上部を覆うには十分なサイズであった。帆膜の耐熱性は元々宇宙航行用であり非常に高い。ちなみに一度メルトダウン状態の原子炉至近に閉じ込められ、1000度を超える高温に晒されたが、問題は生じていない。
『帆膜センサが高温警告……消えた』
『了解。対人反応あるかどうぞ』
『管制システムが検出したのは16。現在確認ゼロ』
『俺のセンサも反応しない』
『わたくしです。火事場泥棒はいずれも火炎やガスの吸引、水没による窒息、心臓マヒ等で絶命しています』
 セレネの報告。つまり強盗団はいずれも死亡。
 レムリアは少し胸が痛んだ。しかし。
『おいおい』
 強盗団の船を覗いたラングレヌスから報告。
 それは凄惨な内容であった。宝飾品・金歯の類いを遺体損壊の上、奪ったらしい。
 フラッシュバックがレムリアの脳裏を走る。それは以前在籍した救助隊で何度か遭遇したことがある。“人間の尊厳”が存在しない、価値観が違う地域はある。蓋し。
「日本なのに……」
 呟かざるを得なかった。強盗団は人道に関わる葛藤は捨て去ったか、元々ないか。
 

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2017年2月18日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-073-

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 火が壁となり小島に迫る。何か火を避ける、封じる方法はないか。
 現在津波は僅かに引き波。
 すなわち湾内から小島へ向かう方向。火の壁が波に乗り近づく。
「学!」
 レムリアは叫んでいた。
「学、助けて!」
 解答は無いかも知れぬ。しかし他に手は無かった。
『帆膜でフタしろ!海面を覆え』
 意に反し、相原からの学は即座であった。
『宇宙航行サイズに広げて蓋をし、酸素の供給を絶て』
 タブレットに画像が投じられる。それは天ぷら火災などの際、広げて被せれば良いという、膜状の消火器具であった。
 帆膜で同じことをしろと。
 アルゴ号の帆膜はサッカーコートのサイズに広がる。
 その状態で火の壁を上から覆え。
「レムリア、持って降りろ」
 ラングレヌスが上からプラズマガンをベルトでぶら下げて寄越す。
 レムリアは受け取る。ずしりと来る荷重。ベルトで肩から下げる。
 意図は判じた。そして、心配だが止める気は無い。
 彼にしか出来ない。
「船長。俺が持って飛ぶ。第2マストの固定解除と、俺の合図で展帆願う」
『許可する』
 二人の会話を聞きながら、レムリアはマストのハシゴを下りて行く。途中から滑り降り、更に甲板に飛び降りる。
 肩から下げた銃がガチャリ。
 その横にラングレヌスがどん、と音を立てて着地。
『船長いいぞ』
 ラングレヌスは不死身である。身体が粘土のような耐衝撃吸収性を有し、刃物弾丸の類いは食い込まない。水中でもそのまま溶存酸素を呼吸できる。熱に対する感受性も低い。ただ、真空の宇宙に放り出されたらどうなるかは知らぬという。
 その身を活かして今彼はマストてっぺんから10メートル超を飛び降りて平然としており、続いて帆膜を自ら炎の上に下ろしに行くのだ。彼はレムリアを見ると、親指を立てて見せた。レムリアの顔が心配で歪んでいるのであろう。実際その旨言いたい。が、それでも何も言わなかった彼女に感謝。の意だ。
 

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2017年2月15日 (水)

天使のアルバイト-097-

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 ただ、表情にあの頃の軽薄さはあまりない。
「そんな、いいですよ。元気になって良かった」
 エリアはいつもの笑顔で言った。そんなこと気にしない。赤ちゃんが助かった。それが嬉しい。
「それで……」
 母親が口ごもるように続ける。
「はい?」
「……聞いたんだけど、このビラ、配るの手伝わせてくれないかなって」
 母親は手にしたビラを指差した。
 エリアは息を呑む。
「え……」
「赤ちゃん助けてもらったし、何て言うんだろ、命がどんなものか、よく判ったから……」
 言葉が出ない。ただ、なんて素敵なんだろうという、陳腐な表現を使えばそんな思いが心臓の辺りに風船のように膨らんでいる。
 彼女に抱きついてしまいたい。
「ありがとうございます!」
 エリアは気持ちを抑制してそれだけ言い、勢いよく深々と頭を下げた。でも、声が大きくなってしまって衆目が集まる。
「じゃ……残りも持って行っていいね。駅で知り合いが働いてるから配らせてもらう」
「はい。はい!ありがとうございます。私もあとで行きます」
 エリアはもう一度頭を下げた。
 少し前までの、塞ぎ込んでいた自分がウソのように思えてくる。
 門が開いた。上り坂の向こうに真っ直ぐな道が見えた。そんな感じ。
 大丈夫だ。と思う。
 努力は必ず実を結ぶようにできている!
 
16
 
 結局、エリアは閉店までいたあと、着替える時間すらも惜しく、スーパーの制服を着たまま駅へ走った。北風があり、正直寒かったが、何か着るでなく、若い母親と深夜0時近くまでビラを配った。
 持って行ってくれた人は14人。
 途中「自分もバンクに登録している」と手伝ってくれた人がひとり。
 もちろん、余った枚数の方がはるかに多い。
「もっと持って行ってくれると思ったんだけど……」
 若い母親は缶コーヒーを飲みながらつぶやいた。
 

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2017年2月14日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-072-

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『発砲!』
 ラングが声と共に引き金を引き、タブレット一面が真っ白になった。
 レムリアは画面の中を見、操舵室を出、舷側通路から甲板へ駆け上がり、更にマストへ昇って行った。
 画面では情報が限られる。目で見て把握すべきと思ったのである。
 駆け上がると照明弾は火の玉となって空中にあり、タブレットにはマスト頂部のカメラ画像が映し出されていた。ここは小島の状態にあり、船のある側は砂浜。真ん中は小高く山脈のようになっていて木々が見え、向こう側、すなわち反対側の海岸は、ガレキが多数漂着しており、海と地表との境目は見えない。
 その海上には漂う多数のガレキと、縫って走る数隻の小型船があり、その船上に腹ばいになり、身を潜めているように乗っている男達。ラングレヌスの報告通り。
 レムリアは最も高い第2マスト、ラングレヌスの足下に達した。超常の視覚を使う。舟艇の中は慌てている。照明弾を確認し、何事か身振りを交えてやりとり。
 船の針路が変わる。
「逃げます」
『させるか』
 アリスタルコスの声があり、船の前寄り、第1マスト頂部からレーザ光が幾本走る。人体攻撃は不可能だが、その手にした武器類に正確に照準することが可能である。
 驚き、であろうと思われる声が船の方から上がり、人影が次々船から這い出て海へ入る。“あろうと思われる”のは日本語ではないから。
 散り散りになって逃げる気だ。……思った瞬間、予想外のことが起こった。
 照明弾が海面に落下し、覆っていたであろう油膜に着火したのだ。
 厳密には可燃性の気化ガスが表面を覆っていたのかも知れぬ。炎は意志持つようにさーっと馳せて広がり、
 火事場泥棒の者達に悲鳴を生じさせたのみならず、火の壁がこの離れ小島に迫ってくるという事態を生み出した。
 者達の乗っていた漁船が次々に火に包まれ、遅れて爆発する。
 

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2017年2月11日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-071-

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 ロクなことじゃない。ベッド下から這い出したレムリアのイヤホンにピン。同時に操舵室最上部、船長席にLEDランプ点灯。
『レムリア。何かあったか』
 船長が通信機経由の小声で寄越す。
「ダンナから。本船に外部から船が近づいていると」
『ハッキリ言う。火事場泥棒。武装盗賊の懸念あり』
 かぶせてきた相原の言葉にイヤホンにピンが2発聞こえ、船長が動き、ピンが2発返ってきた。
 返してきたのは甲板上の大男二人である。徹夜の監視だ。
『私だ。相原より入電。内容につき真偽確認願う』
 即座に船長が指示。
『聞こえた。甲板からは山林のため見通し不良。第二マストより確認する』
 アリスタルコス。
『シュレーター。ビーコン動かして良いか?』
 続く船長の問いかけに、ピン2発が割り込んだ。
 ラングレヌスだ。レムリアの液晶にも彼の目線カメラ表示。
『船長。舟艇を確認した。一見漁船だが腹ばいになって乗っている者あり。全身黒ずくめ。刀剣類所持。明らかに避難者でも救援者でもない。方位324より上陸と推定』
『上陸拡散されると手間だ。上がる前に仕留めろ』
『アイ。ドクター火器管制許可願う。多点ターゲティング使う。プラズマ照明弾用意』
 火器管制。それは武器と照準、妨害装置のコントロール。
『許可する。レムリア、保持ユニット機能制限良いか。灯火管制』
『いずれの機器もレベル1以下で使用。大丈夫だと思います。ユニットは船内に格納されており灯火漏洩無し』
 現在、大電力を消費して動いている機械はない。正確に言うと心電図モニタをしているお年寄りがあるが、薬を投与して落ち着いてきたのは見えていた。
 問題あるまい。
『防御せよ』
 タブレットに赤文字が出る。防御モード。火器管制。
 

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2017年2月 8日 (水)

天使のアルバイト-096-

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 引き替え、両親の強さはどうだ。
「……ごめんなさい」
『怒鳴ったりしてごめんよ。あんたの気持ちも判ってるんだ。でも今は頑張る時。信じること、そしてあきらめないこと』
「うん」
『それじゃね。人様には“関係ないこと”なんだから、無理言わないの。いいね』
「はい」
『午後も頑張って』
「はい。すいません」
 電話が切れた。
 エリアは下唇を強く噛んだ。
 全く持って言われた通りである。くよくよしたところで、状況が変わるわけではない。
 由紀子も頑張っている。自分も頑張る。出来ることは、ただそれだけ。
 そして、仕事は仕事で私事とは別のこと。ご両親がお店のお客さんに泣き言を言っているわけがない。
 この店にいる間は、それはそれ。これはこれ。
 その時。
「エリカちゃん」
 同じレジ係の22歳フリーター娘から声がかかった。
「はい?」
「お客さん。受付のところ。……ねぇ、ちょっと今日大丈夫?変だよ」
 顔を上げたエリアに、フリーター娘は用向きを伝えると、心配そうに表情を変えた。
「大丈夫。気の早い花粉症だから」
 エリアは言うと、コップ一杯の水だけ飲んで社員食堂を出た。
 通路を通って店内に入る。
 小走りで店の入口、受付へ。
 と、そこにいたのはベビーカーを押した若い母親。
 そして。
「あ……」
 エリアはその赤ちゃんを見てすぐに気付いた。
 あの時の子……真夏の車中に置き去りにされ、瀕死の状態でエリアが救い出したあの赤ちゃんである。
「そうか~、元気になったんだね~」
 エリアは思わずしゃがみ込み、赤ちゃんに指先を出した。
 赤ちゃんがはしゃぐように笑って手を伸ばし、エリアの指先を掴む。
「あの……助けてくれたのに……お礼もしないで……」
 若い母親が恥ずかしそうに小声で言った。
 エリアはすっと立って母親を見た。相変わらずの濃い化粧に金髪、厚底サンダル。
 

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