創作物語の館・総目次のページ(最新状況はこちら)

手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

new最近の更新

・【大人向けの童話】「謎行きバス」
(2/21 毎週水曜更新)
-01-05- -06-10-
最新→-11- -12- -13- -14-

bookお話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
drama魔法少女レムリアのお話(現在15編)
night超感覚学級委員理絵子の夜話(現在7編)

●長編
yen「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
cafe大人向けの童話(現在10編)
heart01恋の小話(現在13編)
virgo妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
ng(分類不能)「蟷螂の斧」

penリンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-14-

←前へ・次へ→

 
 そこへ佐伯運転士。
「どうかしました?ああ、出ましたか。ほぉ、雄一君はそういうのも大じょうぶなんだ」
 そう言って笑う佐伯運転士を見るや、尚子さんがササッとその背後にかくれた。
「毒はなさそうですよ」
「そういう、そういう問題じゃないです~」
 尚子さんはくちびるが真っ青である。よほどコワイと見える。
 そのまま、佐伯運転士を盾(たて)のようにして、後ずさりしながら退室。
「あらあらあら」
 佐伯運転士も引きずられ退室。
 ふすまがビターンと大きな音で閉まり、ついで、ろうかを走り出す音。
 センター長はゆっさゆっさと体をゆすって笑った。
「尚子さん、あれでも慣れた方なんだよ。ここは見た通り山里でしょ。最初のうちはね、こっちにカエル、こっちにクモって感じで、そのたびにあっちでキャー、こっちでキャー、ってね。悲鳴でどこを歩いてどこに行ったか、分かるくらいだったんだから。おっと、冷めてしまうな。座って座って。ヘビ君もいっしょだ」
 センター長は、座卓の上に、ご飯一式が乗ったお盆(ぼん)を置くと、雄一の向かい側にあぐらで座った。
 そして、その尚子さんが持ってきたカサを、座卓の上にさしかけた。
「これは?」
 雄一はたずねた。部屋の中でカサ差してご飯食べるほど、きみょうな光景はあるまい。
 オマケに、うでにはヘビがいるのだ。
「樹液が落ちるのでね」
 センター長は当たり前のように言った。
「なるほど。……あの」
 雄一は湯気立つ麦ご飯をじっと見た。
 とつぜんの、しかもマチガイ訪問なのに、ちょっと申し訳ない気もするが。
「じゃぁ、いただきます」
「はいどうぞ」
 割りばしを割る。クリ入りのたきこみご飯、おみそしるに、なめこと大根おろしの和え物、シャケの切り身。
「そのクリは山で取ったものだ。固いかも知れないが味はいいはず。なめこはセンターで育てたものだよ」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-13-

←前へ次へ→

 
 その座卓の下。いっしょに出てきた、
 ヒモ……じゃない。
「あ~あ~あ~!」
〝あられもない〟という表現は、こういう時使うのだろうか。こわれて勝手に水がもれる水道のじゃぐちのように、尚子さんの口から、悲鳴があふれた。
 
 
「ほお~」
 センター長が〝ヒモ〟をじっと見つめた。
 ヘビ。ただし、大蛇(だいじゃ)ではなく、その長さ雄一のうでよりも短い。赤地に黒のシマシマというか、まだらというか。
 舌をぺろぺろ。元気である。
「わかるかい?」
 センター長は雄一をふりかえった。
 種類は何か、という意味だろう。だとしたらわけない。
「ジムグリ……ですね」
「ヤマカガシでは……」
「じゃぁないですね。ヤマカガシなら赤いほうが斑点(はんてん)になりますし、アゴの下が黄色っぽいです。こいつはジムグリの幼体です」
 雄一は安心してジムグリの幼体、すなわち子どものヘビをひょいとつかんだ。ちなみに、ヤマカガシは先にも書いたが毒ヘビと考えた方がよい。雄一は経験で区別が付くので、平気でつかんだだけ。
 なれない人はまねしないこと。
 ジムグリは最初身をくねらせ、じたばた暴れたが、雄一が首の下に手をそえ、指先でなでるうち、すっかり慣れたのか、右うでにクルクルと巻き付いた。
 左手にナナフシ、右うでに幼なヘビ。
 尚子さんの悲鳴再び。
「む、む、む!へ、へ、へ!」
「虫もヘビもイヤだと」
「あ、はい」
 ナナフシは木にもどす。その間にセンター長が座卓をセット。
 問題はジムグリ。居心地がいいのか知らないが、うでに巻き付いたまま、じっとしている。
「ちょっと外へ行っても……」
 雄一はジムグリを指さして言ったが。
「ああ、まぁいいじゃないか。そのままで。尚子さん、それそこへ置いてもらえますか?」
 尚子さんは部屋に入らず、ろうかから部屋のすみにお盆を置いた。ヘビと同じ部屋にいることすらイヤ。そんな感じ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-12-

←前へ次へ→

 
 ちょっと待て。
 雄一は目を窓際の一点で止めた。
 枝の根元に、すま~した顔でへばりつき、じっと身を固めている、茶色のそいつ。
「何かいるかい?」
 センター長がのぞきこむ。雄一は手をのばし、そいつをつまんだ。
 細い枝を組み合わせて作ったような、〝線状〟とでも書けばいいか、昆虫(こんちゅう)。
 ナナフシ。茶色の個体。雄一につまんで持ち上げられたせいだろう。〝私は枝です〟とばかり、胴体(どうたい)と脚をピンとつっぱって、じっとしている。
Hi380232
(〝私は枝です〟とばかり、胴体と脚をピンとつっぱって、じっとしている@ウチの娘)
 
「良く見つけたねぇ」
 センター長はニコニコ。
「本物初めて見ました……」
 雄一は手のひらにナナフシを乗せた。ナナフシは6本の脚で手のひらに立ったが、それはそれでそのまま動かない。あくまで枝のつもりなのだ。
 センター長は、手のひらのナナフシを、観察するようにじいっと見ると、上の方を見上げた。
「あそこから入ったんだな」
 見れば天井板にも一部穴が開いている。この木の枝は、そこからさらに外へ出ているということか。
「ドングリが熟すとリスも来るよ」
「リスですか……」
 すると、ろうかを歩いてくる足音。
「はいはいお待たせしました。お父さん、座卓(ざたく)出しておいて下さればいいのに」
 尚子さんである。お父さんと呼ぶからには、センター長とは親子、いや、年が近いっぽいからご夫婦なのであろう。手にした四角いおぼんには、朝ご飯一式。
 と、手首には黒い……
 雨ガサ?
「いやぁすまんすまん、ほれ、この子がこれを見つけてね」
 センター長の示した雄一の手のひらを見、尚子さんはまゆをひそめた。
「……あらヤダ動いた。何これ虫じゃない。いやいや。やめて」
「どうもうちの女神たちはダメだなぁ」
 センター長は引き続きニコニコしながら、おし入れのふすまを開け、四角い座卓を引っ張り出した。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-11-

←前へ次へ→

 
「ぼくは、まちがえ……」
「いいのいいの。センター長が『部屋へ来てくれ』と言ったでしょう?ご招待じゃないか」
「はぁ……」
 別にフツーに、〝単なるまちがい〟と言ってもいいと思うのだが。
 背後に足音。
「おお、まだここだったかい」
 丸顔の男性。ということは、この人が、このしせつ、〝木の実センター〟のセンター長。
 一番えらい人。だからであろうか、太陽が高くなり、夏みたいな気温に上がってきているのに、紺(こん)色の背広を着、ネクタイもきちんとしている。
 と、書くと、ピシッとした服装みたいな印象だが、その実背広もネクタイもヨレヨレで、さらに背広は体より明らかに小さく、ピシッではなく、ピチピチ。
 丸顔のセンター長は、クツをぬいで上がった。
「さぁこっちへ。さぁさぁ」
 ニコニコ顔で急かされる。
 雄一は、背中をグイグイおされてろうかを歩き、右に曲がり、一番おくにある部屋へ通された。
 そこは、『センター長室』と、表札みたいに小さく書いてあるが、カタカナの役職とは裏腹に、入り口にはふすま。
 旅館の和室か何かみたいだ。雄一は思った。
 センター長がふすまを開く。
「さぁどうぞ。ここがぼく、木の実センターのセンター長、布引源一郎(げんいちろう)の部屋だよ」
 雄一はぽかんと、口を開けた。
 タタミの部屋に木が生えている。
 見まちがいではない。部屋の角のタタミが丸く切り取られ、そこから木の幹が顔を出し、枝葉がカベに沿い立ち上がり、天井(てんじょう)をおおうように広がっている。
「これ……」
「コナラだよ。建物を建ててから生えてきてなぁ、仕方なく」
 丸顔のセンター長は笑った。
 雄一は思わず見回す。確かにコナラである。クワガタなどがよく見られ、秋にはドングリが出来る。実際、9月とあって、もう緑色のドングリがあちこちで成長中。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-10-

←前へ次へ→

 
「気をつけて」
 丸顔の男性は手をふると、雄一の顔をのぞき、ついでバスの運転士さんを見た。
「ちょっとクルマをしまってくるから。佐伯(さえき)さん、虫博士をぼくの部屋へ」
「かしこまりました」
 バスの運転士さんが頭を下げる。
 男性はクルマの窓から顔をひっこめ、バスの横を走って行った。
「どうぞ」
 運転士佐伯さんが先に立って案内する。と、建物の中から聞こえる、大人数の「ごちそうさま」。
 ワイワイガヤガヤとおしゃべりが聞こえ、お皿をガチャガチャ重ねる音。
「食事が終わったようですね」
 佐伯運転士が言い、ほどなく、しせつの庭の方へ、たくさんの子ども達が飛び出してきた。まるで学校の昼休み。
 何人かが雄一に気付いた。
 足を止めて雄一を見る。よそ者に対する視線であり、〝かんげいするよ〟という感じではない。
 佐伯運転士は建物のわき、ふつうの家と同じような形の、げんかんドアを開けた。
「尚子(なおこ)さ~ん」
 佐伯運転士が呼ぶと、おくの方から、「は~い」という、〝おばさん〟の声がし、スリッパでスタスタ歩いてくる音。
「さ、上がって」
 佐伯運転士は自らクツをぬぎながら、雄一に言った。
「はい。では……」
 雄一がクツに手をかけると、前方、ろうかの向こうから、腰に前かけをした女性。
「はいはいはい……。あら、ようへい君は今日じゃないんじゃ……」
「あ、この子はですね……」
「雄一です。花村雄一」
 雄一は名を問われているのだと理解し、そう言って頭を下げた。
 学校名を告げ、5年生だと付け加える。
「あらまぁそれはそれは遠いところ…ようこそ、いらっしゃい」
「センター長の招待でね。申し訳ない。この子の朝食をセンター長の部屋まで」
「あ、はいはい」
 尚子さんというその女性が、回れ右してもどって行く。
 雄一は何で?という顔で佐伯運転士を見上げた
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-09-

←前へ次へ→

 
 由美さんが言い、雄一はまたしても、みんなして見つめられる。
 部外者とか関係者以外とか、そんな言葉が、雄一の頭の中をぐるぐる。
 雄一は、いたたまれなくなった。
「あ、あの、ごめんなさい!」
 さけぶように言い、頭を下げる。
「ぼく路線バスとカンチガイして……その、さようならっ!」
 雄一は思い切り走り出す。追いかけられても、つかまらないように。
 しかし、丸顔ぼうず頭の男性は、追いかけるでもなく、クルマの窓からニコニコ笑って。
「まぁ待って待って。走って行ったら何日もかかるよ」
 と、雄一の背中に向かって言った。
「え?」
 雄一は立ち止まってふり返った。
 なに?ここそんなに遠い……。
「君のとこから二つとなりの県だよ。後で送っていってあげる。まぁ、まずは落ち着いてお茶でもどうだい。その前に朝ご飯は食べたかい?ずいぶんと早い出発だったはずだよ?」
 朝ご飯。雄一は言われて、さっき入ったおなかのスイッチが、ぐぅと音を立てて反応。
 由美さんが学校へ行こうというのだ。8時かそこいらであろう。
 虫は虫でも腹の虫が聞こえたようだ。丸顔の男性はハッハッハと笑った。
「家には連らくしてあげるよ。心配いらない」
「そうそう。私に付いた変な虫取ってくれたお礼もしたいしさ。やっぱ男の子は女性の味方でなくちゃ」
 由美さんが、マルカメムシを放したススキの方を指差す。お礼と言うほどでは……。
「ほう、ぼくは虫が平気か」
 男の人は丸い顔がますます丸く見えるニコニコ顔で言った。とにかくずっとニコニコしている。それが雄一の印象。
「……ああ、はい」
「ところで由美ちゃん学校大じょうぶかい?」
「え?あ、大変、行ってきます!」
 由美さんは、うで時計を見て目を丸くすると、あわててしせつの建物にかけもどった。そして、クツにはきかえ、スポーツバッグを背負って、道をおくの方へと、走って行った。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-08-

←前へ次へ→

 
 その由美さんからであろうか、何かいいにおい。出かける時の母親と同じような。
 何か、香(かお)りの出るものを、つけているのだろうか。
 そんなんでコイツなんかさわったら……。
「テントウムシじゃないのかい?」
 運転手さんがたずねる。確かに、大きさと形状は似ているかも知れないが、テントウムシではない。
 その虫が紙に脚(あし)をかけたところで、雄一は素早く紙を引き寄せ、その中に包んだ。
 とりあえず、道の反対側、のび始めたススキの葉の上に放す。ふだんなら、1秒も待たずにふみつぶすところだ。でも、今ここではダメだ。
 なぜなら。
「こいつはマルカメムシです。さわったら最後、石けんでこすっても取れないくらいクサイですよ。大じょうぶですか?」
 そんなもん、手でパッパッ、なんてやったりしたら最後だ。由美さんは、指先から悪臭(あくしゅう)をまき散らすことになる。いいにおいどころか、クサイキライと言われてしまう。
 ましてや、つぶすなんてもってのほかだ。一度まちがえて指でやったことがあるが、残りのニオイで飯も食えなかった。
 飯……雄一は自分の空腹に気付いた。何せ家を出たのは日の出前、朝ご飯なんか食べてない。
「そんなにクサイの?」
 由美さんがおそるおそる、マルカメムシの止まっていたセーラーのエリに鼻を近づけ、理科の実験で習ったように、手先であおいで、ニオイをかいだ。
「…あ、大じょうぶ、みたい。ありがと。…で、あなたはだあれ?」
「あ、はい…」
と、そこで、背後からクルマのエンジン音が近づき、クラクションがプップ。
「おーい、どうしたんだい?」
 肉付きのふくよかな、丸い顔でぼうず頭の男性が、大型国産乗用車の窓から顔を出し、こちらを見て言った。
「その子は?ようへいくん?」
「じゃぁないそうです」 
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-07-

←前へ次へ→

 
「ん?いらないいらない。このバスは、センターが送りむかえに使うバスさ。路線バス風に仕立ててあるだけ……聞いてないのかい?」
 それはすなわち、謎行き、どころか、路線バスでもない。
 このセンター独自のバス。
 え……え……。雄一は、〝なんかマズイことになってきた〟という気持ちがしてきた。自分は、何か、来てはいけないところに、来てしまったのではないか。
「今度はその子?」
 センターのしきちの中から声がし、夏用セーラー服に三つ編みのお姉さんが、サンダル姿で走ってきた。白い半ソデのその白が、目にまぶしい。
「ああ由美(ゆみ)ちゃん出がけにごめんよ。センター長は?」
「さっき、ようへい君が取りやめってクルマで……あれ?じゃぁこの子は?」
「え?バス停で……。君、かのうようへいくん…だよ、ねぇ」
 運転手さんと、由美さん……というらしいそのお姉さんに、雄一は見つめられる。
 つまり自分は、本来、〝ようへい〟が乗るべきバスに、勝手に乗ってきた……
「あ、あの」
「きゃぁ!」
 実は……、と、言おうとした雄一の声を、由美さんの悲鳴に近い声がさえぎった。
「虫、虫、いやぁ!」
 セーラー服のエリ元に付いた小さな虫を、手ではじき飛ばそうとする。
 その虫は……
「ちょっと待って!さわっちゃだめっ!」
 雄一は、自分でもおどろくような大きな声を出して、由美さんの動作をストップさせた。
「へ?」
 由美さんは丸い目。
「それ、手でさわると大変なことになります。ティッシュありませんか?」
「え?ええ、ああ」
 由美さんは気持ち悪そうに、動き回る虫を目で追いながら、ポケットティッシュを一枚取り出した。
 雄一は受け取るとねじってとがらせ、その虫の歩く頭の前に、先っぽを置いた。
 由美さんはイヤそうな目でえり元を引っ張り、雄一の作業を見つめる。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-06-

←前へ次へ→

 
 バスが動き出す。ゆっさゆっさと左右にゆれて、バス停をはなれ、広域農道をギアチェンジしながら加速し、真っ直ぐに西へ。
 見慣れた景色が後ろに流れ、だんだん、あまり見ない景色へと変わって行く。
 しばらく走る。となりの学区。知らない中学校。花見のニュースでよく見る桜並木。
 左折、右折、国道を横切る。高速道路をくぐって、鉄道のふみきりを渡(わた)って。
 適当にゆれながらバスが走る。そのゆれと、背後からの日差しが心地よい。今の雄一は、連日の早起きでちょっと寝不足(ねぶそく)。そして、バスに乗れてひと安心したところ。
 心地よいのに任せているうち、雄一のまぶたが下がって行く。
 
 
「ぼく、ぼく」
 呼ばれているのが自分で、かたをゆさぶられていることに、雄一はようやく気付いた。
 いっしゅん、置かれているじょうきょうが、理解できない。
 自分をのぞきこむ、シワとしらがのおじいちゃん。
 えーと。
「終点ですよ」
 謎行きバスに乗ったことを、ようやく思い出す。
 がばっと身を起こす。自分はどうやら、横長5人がけの座席に横たわり、くてんくてんになって、ねていたようだ。
「あの……」
「気にしないで。センター長がお待ちですよ」
「センター長?」
 よく分からないが、終点ということなので、とにかく降りなきゃならない。
 乗った時と同じドアから降りると、目に飛び込んできたのは、考えてもいなかった景色。
 おおいかぶさって来るような木々、木もれ日。夏の名残のセミの声。
 ツクツクボウシが輪唱している。
 その中の、細い道に止まっている、布引バス。
 目の前には、小さい学校と言っていいような、建物と運動場からなるしせつがあり、『木の実センター』と木のカンバンに書いてある。
 センター前のセンターは、これのことか。
 そういえば。
「あの料金は……」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-05-

←前へ次へ→

 
 他に、だれか乗っている感じはない。
「お乗りになりますか?」
 左手よりの声に雄一は少しおどろき、体をびくりとふるわせた。
 見ると、制服にぼうしの男性。自分の父親よりずっと年上。おじいちゃんと言ってもあながち外れてはいない感じ。運転手さんか。
 雄一を見てニッコリ笑うと、顔中にシワ。
 その表情に、雄一は亡くなった自分のおじいちゃんを思い出した。夏や冬の休みに遊びに行くと、新幹線のホームでこんな笑顔でむかえてくれた。
 似た感じ。優しそうな感じ。
 どこかへ連れて行かれる、〝謎行きバス〟という感じではない。
「あ、はい」
 雄一は思わず答えた。ジャージのポッケに入っている五百円玉を、ぎゅっとにぎりしめる。
「そうですか。ではどうぞ」
「はい」
 乗りこむ。ステップを上がるコツコツという自分の足音。自分の重さで、バスがわずかに左右にゆれるのを感じる。
 少しツンと来るにおい。油というか、ペンキというか。……ちなみに、ゆかの木の板にぬられた、ニスのにおいなのだが、雄一はそうとは知らない。
 乗客の姿は無し。
 プシューと音がして、前のドアが開く。
「お好きな席へどうぞ」
 やはり運転手さんである。男性は、開けた前のドアから乗り込みながら、雄一に言った。
「はい」
 雄一は一番後ろの、横長シートの窓際に、腰(こし)を下ろした。この席は、カーブやデコボコを通ると、グワングワンゆれるのでオモシロイのだ。シートの下からブルブル伝わってくる、エンジンのしんどう。
 運転手さんがイスに座る。
 前のドアがプシューと閉まる。
『センター前行き発車時刻です。本日はご利用ありがとうございます』
 スピーカーからの声が聞こえ、プーとブザーの音がして、後ろのドアが閉まった。
『発車します。次は終点センター前です』
 え、と雄一は思った。
 次は終点?
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-04-

←前へ次へ→

 
 ふと思う。自分が体の小ささをウンヌン言われて傷つくように、彼女も、体格のことをとやかく言われて傷ついているのではないか。他の女子より大きくて、連中が言ったように、もうおっぱいがおっぱいと分かる。
 自分が、〝女にたすけられているヤツ〟と言われ、気にしているように、彼女も実は、自分を助けるたびに何か言われて、それをイヤと感じているのではないか。
 できれば、自分を放っておきたいのではないか。
 それなのに。
 彼女は、自分を、助けてくれようとする。
 強くなりたい。雄一は思った。せめて弱虫と言われないように見返してやりたい。
 だったら。
 
 
「とびきり早起きして走る」。翌日から、雄一はそう言って朝の4時に家を出るようになった。
 有名なプロ野球選手が、「強くなるには走りこむこと」と、言っていたからであるが、目的はもう一つ。
 例のバスに乗ってやろうと思ったのだ。
 分かるのは時刻だけだから、毎日通うしかなかったのである。
 そして始めてから10日目。土曜日の朝であった。
 もやの向こうに、赤いランプと、ガラガラというバスのエンジン音。
 雄一は近づいて行った。バスは白い車体に青いストライプ。バス停にあったように〝布引バス〟と確かに書いてある。パッと見、ごくふつうの路線バスと変わらない。
 そばまで行く。バス停の前に確かに止まっており、車体の真ん中にはドアが開いている。ガラガラっとスライドして開くヤツだ。他に、前の方にも、折りたたみ式のドアがある。
 ドアから中をのぞきこむと、木のゆかに、色あせた座席が並ぶ。それは「昔の」という言葉がピッタリというか、かなりくたびれた、古びた感じを受ける。入り口ステップ左側には整理券発行機があるが、白い塗装(とそう)がはげはげで、アカンベェみたいに出ているはずの券も見えない。動いてないのか、始発だから券を出していないのか。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-03-

←前へ次へ→

 
 それが、どうしてこういう展開になったのか、全く理由が分からないのである。今は9月だから、始まってちょうど1年過ぎたあたり、になるか。
 雄一のかたを、ポンとたたく手があった。
 ふり向くと、一学年上かと思うような背の高い女子、堀長(ほりなが)。雄一はクラスでも背が低い方なので、その高さはひときわ強く感じる。
「あんなのほっとけよ。すっげー評判悪いんだぜ」
「う、うん」
 雄一はためらいがちにうなずく。この堀長という女子は、家が近くて小さいころから顔なじみだから、であろうが、こうやって自分をかばってくれる。ありがたいと思う部分もあるにはある。しかし、実は堀長には悪いのだが、そういう気づかい、雄一としては少々困るのだ。
 
〝女にたすけられてるヤツ〟
 
「おー堀長雄一!」
「らぶらぶ~。それともお母さんかな?」
「堀長、小さなカワイイゆう君に、おっぱい吸わせてやれよ」
「うるせーぞてめーら!」
 堀長はどなって、教室の後ろのドアへとズカズカ歩いていった。
「うわ!プロレスラー恵(けい)がおそってきた!」
 連中が何事か、堀長をはやしたてながら逃げて行く。堀長はどなるが、追いかけるようなことはしない。
 ちなみに、雄一の名字は花村であって、堀長ではない。
 連中は、雄一が堀長と結婚(けっこん)し、名字を変えるという意味でそう言っているのだ。なお、堀長恵は堀長のフルネームである。
 ここで自分が、〝弱虫〟でないなら、堀長に対して、〝オレのことはほっておけ!〟と言うのが、カッコイイのだろう。
 でも、雄一は、堀長が口調と外見はさておき、性格そのものは、全くふつうの女の子であることを知っている。そんなことを言えば、彼女は、多分泣いてしまう。実際、小さいころは、自分の方が彼女を良く泣かせた。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-02-

←前へ次へ→

 
 声をかけようとした雄一を見るなり、3人はそう歌ってはやし立て、ゲラゲラ笑いながら、教室を出て行った。
 雄一は悲しい気持ちになった。
 虫好きというだけで、なんで、こうも言われてしまうのか、わけが分からないのである。
 3年生までは仲が良かったのだ。ところが、4年の夏休みからこういうのが始まった。それが5年生になった今も続いている。
 きっかけは、多分、なんだが、みんなで学校の裏山に遊びに行った時のこと。
 70年前、戦争をしていたころに掘られた、ひなん用の穴、防空壕の中に入って、電子ゲームをしようと言い出したのだ。
 確かに穴の中ならすずしいだろう。
 でも、防空壕は古く、いつグシャッとくずれるか分からないので、入ってはいけない、ときつく言われている。
 おまけに、雄一の知識によれば、毒を持つ様々な生物がひそんでいる可能性がある。マムシやヤマカガシといった毒持つヘビ。ムカデにクモに、毒持つガの類。
 ついでに言うと、雄一自身は、みんなと同じようなゲーム機を持っていない。だから、入ったとしても、みんながピコピコやっているのを、ただ見ているだけ、になる。そんなのツマラナイ、というのもある。
 それもあって、やめようよ、と言ったのだ。
 返った言葉が、「お前、弱虫だろ」
「そうじゃなくて、禁止だし、変なのいるかも知れないし」
「やっぱり弱虫じゃねぇか」
「これまで何年もこわれてねーんだ。だからこわれねーよ」
「もういいよ。お前帰れよ。どうせゲーム持ってねーんだし」
「そうだよ。弱虫でゲームも出来ない幼いお子様は帰って結構」
「しっしっ」
 まるで野良犬のように追いはらわれ、翌日から始まったのが、書いた歌である。雄一としては、ツマラナイ、はさておき、、実際問題として危険であるから、そう言ったまでなのだ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-07・終-

←前へ創作物語の館トップへ→

 
「え?涼?……涼だ。本当に涼だ……」
 涼の姿を見るなり、男の子は言って小さく笑みました。
「リクエストはこのボク?」
 涼は私に訊きました。
「そう」
 私は答え、手品の要領でバイオリンを手にします。
「やれやれ……」
 呆れたように、足音もなく、言いながら入ってきたのはミレイさん。
 手にはフルート。
 つまり、何のかんの言いつつ、協力してくれる意思表示。
「いつでも」
「え?曲を知って……」
「るよ。何でも」
「涼、『未来へ』聞きたい」
 男の子が言いました。
「え?私はいいけどでもあれ早いよ。ギターと打ち込みだし……」
 BPM148のギタートラック冒頭を私は演奏してみました。
「すごい……」
「足りなきゃピチカート。準備良ければ」
「あ、ちょっと待って」
 涼は少し発声練習。
 前奏無しでいきなりサビのリフレインから入るので涼に合わせて付いていきます。♪信じて開いた扉の向こうは絶望の崖だったなんて生きていれば何度もあること……
 男の子は笑みを見せ、リズムに合わせて首を振りながら聞き入り、やがて幸せそうに目を閉じました。
 そしてCパート、終曲前のリフレインでフッと姿が消えます。
♪朝日が照らす君の未来を。
「……男の子は?消えちゃったけど?」
 汗をにじませ、荒い息で、涼は私に尋ねました。
「安心して、天国へ行ったよ」
「は?」
 言わなくてはならないでしょう。
「ここは、本当の天国に来る少し前、心だけが先に来るところ。大好きと、幸せの中で、心は身体から少しずつ離れて行く。そして、天国へ旅立つ」
「天国へ旅立つって……」
「文字の通りです」
「じゃぁ、この男の子は……」
「大好きな涼の歌を聞きながら、天国へ」
「そんな……」
 涼は口元を抑え、その両目から涙がぽろぽろと。
 そして、叫びました。
「だったらそう言ってよ!もっと、もっと一生懸命歌ったのに。一緒に踊ってあげられたのに!めいっぱい楽しませてあげたのに!」
 良く通る声でそれだけ怒鳴り、次いで涼は私を睨み、そして気付いたように目を見開きました。
 ある種の示唆……天啓の類いが彼女を訪れたと知ります。
「私……歌うことが大好きで、聞いてもらえることが嬉しくて、オーディションに応募したんだ」
「うん」
「でも……なんだろ、そのうち、だんだん、“仕事”になっちゃった。一定時間、その場所にいて、ニコニコしてるだけでいい、みたいな。そういうの、見透かされるよね。自分も判るもんね。あ、こいつ真剣じゃねーなって。嫌ってたくせに、自分がなっちゃった」
 その目に涙一粒。但し意味の違う涙。
 私は頷いて、
「私、翅で人間さんの世界とここを往復して200年」
 それだけ言いました。そして、フッと理解が訪れます。それ以上何か言う必要は無いこと。
 私たちの間に永遠の別れが近づいていること。
「呪文を唱えます」
「はい」
「あなたは再び歩き出す。大丈夫、戻っても誰もあなたを責めない」
「信じるよ」
「ありがとう。じゃぁ、行くよ、リクラ・ラクラ……」
 呪文の最後は、涼には聞こえなかったでしょう。
 
 “鼻につく態度”をスキャンダラスに書かれていたトップアイドルが、深夜、病院を訪れたらしいというネットのうわさ。
 
アイドル/終
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【大人向けの童話】謎行きバス-01-

 

●前書き

 
本作は2007年当時存在した自費出版専門の会社が募集していた懸賞で「奨励賞」をもらったものです。担当氏曰く「1000を越える応募があるので、1回目で奨励賞って相当なものですよ」……そうかいな。まぁ、「本という物体で世に出したい」人は多いわな。ちなみに賞金2万円でしたが、プリウス1台分の価格で出版して下さるとローン返済プランを出されました(そっちがメイン)。イヤちょっと待てよこの長さで本とかペラペラやぞ。丁寧かつ強力にお断りしましたら「ではお帰り下さい」と。あのね本を出したい人、丸善とか大規模書店の自費出版サービスなら50万円くらい、電子書籍にしてアマゾン置いてもらうならもっと安いから。ちなみに出版は宣伝媒体としてのマスコミと分かちがたく結びついているので、思想信条がそぐわない物は門前払いを食らいます。
ではスタート。
Dpklmmfvqaelwhl
 
-1-
 
 バス停にはただ『布引(ぬのびき)バス』。
 行き先として、『センター前』。
 発車時刻は、朝の4時37分という、モノスゴイ時間に、一本こっきり。
 しかも。
『運転日はお問い合わせ下さい』
 そのくせ、連らく先は書いてない。
 という、変なバス停は、学校前の坂を下りて、〝広域農道〟を二百メートルほど行った、鎮守の森、鳥居の前にぽつんと立っている。
 分からないことだらけなので、みんないろいろ勝手なことを考えて言う。いつしか付いた呼び名が、〝謎行きバス〟。
「雨の夜に待ってると〝トトロ〟が出てくるんだろ?」
「待ってる人も乗ってる人も見たことないぜ」
 親も先生も、だれに聞いても、何も知らないと言うだけ。
 仕方がないので、〝布引〟と付く交通業者をインターネットで調べると、大昔に短い間だけ営業した鉄道会社が出てくる。でもそこがバスを持っているわけではないらしい。
『センター前』じゃ、ありきたりすぎて何も出てこない。
 情報がなさ過ぎて不気味。そのせいか、変なウワサを立てる人もいる。
「乗せられると変なところへ連れて行かれて、帰って来られない」
「反対方向へ行くバス停も時刻もない」
 そういう、こわいウワサに限って、あっという間に広がり、いつしか、それが事実としてあつかわれる。
 だから。
「あのバス乗ってくるヤツがいたら、〝神〟だよな」
 クラスの男子達はそんなことを言い始める。つまり、神様と呼んでいいくらいの勇気の持ち主じゃないと、あのバスに乗ろうとなんかしないだろう……。
 まるでキモ試し。
「つまり雄一(ゆういち)くんには絶対ムリって事だ」
「むしむしくんと仲良くしてるのが一番いいもんな」
 
♪むしむし 大好き 無視して 泣き虫 弱虫 毛虫 はさんで すてろ
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-06-

 
 山の中腹、ほぼ平らになった部分に広がる一面の芝生。城壁はなく、白い大理石のお城があります。ここはいつも、冷たく冴えた空気が流れ、でも寒くはありません。雲の中ならゼウス様がお住まいかしらと思うようなたたずまい。ここは妖精と人が共に暮らしたギリシャ神話の時代、そのままです。
「うわぁ、本当にお城だ」
 城の前、芝生に降り立ち、涼の手を取って歩いて行きます。天井高い玄関ホールの大理石に足を置くと、冷たさが足の裏から伝わり、私たちの足音が、トン、っと僅かに響いて広がります。
 すると、門番小屋(と、私たちが呼んでいる)小部屋から飛び出してくる私と同じ白装束の姿あり。
「まーた人間の女の子連れてきて!」
 ぷんぷん状態はミレイさん。人間さんの企業・工場なら守衛さんに相当する役どころ……であり、地球の精霊、ガイア様の秘書官。
「聞いてないけど」
〈頼んだ。自分頼んだ。涼に頼んだ〉
 私はホバリングしてそう言うヒバリに手のひらを向け“この通りでございます”。
「エウリーって結構なし崩しにルール破るよね。地上禁止になっても知らないから」
「ガイア様のご沙汰を待つよ」
 文句言いつつ、静止はされません。私たちは中へ入ります。石造りの大きな建物内奥ですから、例えばビルだと照明がなければ真っ暗でありましょう。でもここは、かなり中に入っても、大理石の色そのままにほんのり白く、歩くのに不自由はありません。入り組んで迷路のようになった通路を右へ左へ。
 日の当たるところへ出ました。草むらで、ちょうちょが多数ひらひら舞い飛んでいます。
 ベッドが一つ。男の子が横たわっています。
 6歳位。小学校の体操服という着衣でしょう、白いシャツに名札の縫い取り、黒い短パン。
 まどろむような目で。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-05-

←前へ次へ→

 
 えーと。
「子どもが、不思議な夢を見る。聞いたことある?」
「ああ、うん。私の今がそうかも、って思ってるとこ」
「あれね、多くの場合、心だけ、ここに来てるんだ。“物心つく”っていうのは、そういうのが不可能な状態になること、と考えてくれればいいや。でね、ヒバリが言いたいのは、そうやって来ている子どもがいるから、安心して欲しいので歌を聞かせたい。それを涼に歌ってほしい。そういう意味」
〈そういう意味、そういう意味。涼、歌って、歌って。涼、歌う人〉
 涼はため息。諦めたような。
「歌う人、か」
 ヒバリがじっと見つめて答えを急かします。涼は小瓶のハチミツを一口、指に絡めて舐めて。
「いいよ。どこ」
〈王宮、こっち、こっち〉
 飛び立ちます。とはいえ彼女は人間。空飛んで付いて来いと言われても。
「ちょっと待って。私飛べ……」
 地上の人間世界なら当然無理。しかしここは。
「大丈夫」
 私は涼を抱きかかえ、背中の翅に羽ばたけ。
 実のところ私の体重は1キロも無いので、40キロオーダーであろう人間さんを飛ばすのは一苦労。
 が、不可能ではありません。遠い遠い昔、人間さんの世界において、妖精の存在が認められていた頃には、その力を使って迷子を送ったり、落下事故に対応したり。ギリシャ神話にあるように人間さんと結婚した仲間すらも。
 しかし今、妖精なんかいないとされています。なので、大いなる意志が認めた場合以外は、人前への出現は許されていません。
 ヒバリを追います。草むらを抜け、高度を上げ、山の上にある白いお城へ。
「腕一本で抱かれているだけなのに、それはとても怖いことのはずなのに、何だろう、この安心というか、癒やされ感」
「それは、ここも天国の一部だからでしょう」
 涼の独り言に、私はそう答えました。
 城に近づき、緑に囲まれた姿が次第に視界を圧します。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【理絵子の夜話】差出人不明-15-終

←前へ

 
「まだあれに見られている気がする」
「かもな。俺が死神だったらやっぱりお前殺そうと思うもん。だってお前いたら悪巧み全部バレバレじゃん」
 理絵子はハッとして桜井優子の顔を見た。
「どうしたよ。俺何か変なこと言ったか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
 理絵子は、自分の力が何物であるか判った時のことを桜井優子に話した。小学校2年、それこそオレンジストライプの電車の終点、国定公園・高尾山(たかおさん)に遠足で訪れた際、滝行の修験者にそれと言われたのである。
「その時言われたのは、決して人に喋るな。なぜなら人は不気味がるから。その力を意図して使うな。なぜならそれは自分のために使うものじゃないから。そして……何のためにその力が備わっているのか、それはその時になれば必ず判る。だから、その時まで言われたことを守りぬけ」
 理絵子は話した。そして今、彼女は思い至ったのである。
 なぜ、この力が自分に備わっているのか。
 そういう存在に引き込まれ、命を失う人が出るのを阻止するためだ。
 合点が行く。彼奴は、自分のこの自覚を阻止するために、今夜のこの瞬間を私に与えないために、私を亡き者にしようとした。
 理絵子は自覚を言葉にする。と、それに呼応するかのように風が吹き渡り、神社の中の森がざわめき、何かの鳥が不気味な声を出す。
「悔しがってる」
 理絵子は呟いた。それはそう、言うなれば彼奴の歯軋り。
 しかし今はもう怖くはない。彼奴が接近を図るならすぐに判ると自信を持って言える。
「線路に立つ子を無くす……それが私のなすべきこと」
 理絵子は言った。
 それは私なら出来ること。
 私しか出来ないこと。
「そうだな。それがお前の力の使い道として最も高貴な使い方じゃないかな。誰にもない力なら、一番高度な使い方をすべきだ。すなわち、愛と命だ」
 桜井優子が言い、そして続けて。
「なんてな」
 照れ隠し。理絵子は思わずぶっと吹き出し、次いで少女たちはあははと笑った。
 木立の間から覗くキラキラと輝く星々。
 理絵子は遠く、そして長い時間が始まった気がした。
 その踏切が廃止され、陸橋が設置されたのは、3ヶ月ほど後のことである。
 ただ、陸橋の下に花束が絶えることはない。
 
差出人不明-終-
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-04-

←前へ次へ→

 
「すごい……ことだよね。妖精、だもんね。そうだよね」
「ハチミツはあの辺」
 私は構わず、大きな栗の木、根元の穴を示します。中に大きな、そうマンションとでも呼びたいような、ミツバチの巣。
 ぶんぶんハチたち飛び交っていますが、彼女ら(働きバチはメスです)が、私たちに敵意を持つことはありません。
〈エウリーさんだ〉
〈エウリーさん〉
「ハチミツを少し下さいな」
〈いいですよどうぞどうぞ〉
〈あ、人間さん?人間さんの女の子?〉
「ですよ~」
 私は答え、手品の要領で袖口から小瓶を取り出し、巣の中に手を入れて、紙細工のようなその一部をめりめりっと破って拝借。
 搾り取ったミツは小瓶の半分はあるでしょうか。
「お行儀悪く指でぺろぺろどうぞ」
 渡すと、涼は面白そうに笑い、指先を入れ、そのようにぺろり。
「……美味しい。何これ、全然違う。濃いし」
「混ぜ物無いとそんな感じ。ハチたちありがとね」
〈いいえ~〉
〈女の子さん元気になってね〉
「え……」
 涼は目を丸くし、飛び交うハチたちを見上げました。
「判るの?私の体調」
「生き物は気配を察知出来て当然。気配って、存在感、でしょ」
「なるほど」
 と、答えた涼の頭上にそれこそ気配。
〈女の子、ハチミツなめたか?もう終わったか?〉
 先ほどのヒバリです。そういえば『後でまた来る』と言ってはいました。
「はい、なあに?」
 私は手のひらを出し、ヒバリを止まらせます。ちなみに地上を歩き回る鳥なので、スズメやツバメのように電線や木の枝に止まるような足の構造になっていません。
 ヒバリは降りて来、涼の顔を見つめて目をぱちくり。
〈歌って〉
「え?」
〈天国へ迎える子がいる。迎える子がいる。来られるように歌って〉
 私はヒバリの意図と目的を理解しました。ですが、どう説明しましょう。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

【理絵子の夜話】差出人不明-14-

←前へ次へ→

 
「およそバカバカしいでしょ。笑って」
「そんなことねーよ。お前の勘というか鋭さはハンパねぇと思ってた。お前がそういう力の持ち主だと聞いて、ああなるほどなぁと納得してるところだよ。やっぱりお前はエスパーだったんだ」
 理絵子は頷いた。
 何度も何度も涙と共に頷いた。
 やっと判ってくれる人が現れた。その思いに満足しながら、安心しながら。
 桜井優子はしばらくの間、片腕で理絵子を抱き、頭をなでてくれた。
 そして、随分と時間が経った頃、桜井優子がゆっくり訊いた。
「それで?死神が?」
「私を、殺そうとしていた」
 理絵子は、ようやく収まった目の下の洪水を拭き取りながら、答えた。
 今にして思えば、あの“意識の内なる声”、「後悔しているのか」と意識の内に問うた者こそ、死神の意識そのものだったのだと判る。誰にでも起こりうる心理的動作……自問する自我……に似せて理絵子の意識に忍び込み、巧みに誘導し、線路に立たせたのである。
 そして、そうしたことが出来るくらいだ。他の人の心にしのび込んでウソ手紙書かせるくらい造作もないだろう。従って当然、“彼”など、ここに来てもいないし、ましてや自殺などもしていない。
 差出人が不明なはずである。
「いつのまにか心を操作されるわけか。おいおい冗談じゃねーな」
 桜井優子は語気を強めた。
 理絵子は頷く。さもあろう。自分の“考え”のつもりが、いつの間にか何者かに好き放題“誘導”され、本来の自分ならあり得ない結論を導き出される。
 自分が自分でなくなるのである。
「よぉ、ひょっとして通り魔とか、よくあるナントカ喪失で無罪になっちゃうひどい事件って……」
「かも、知れない。あれは死を望む存在だから。何か隙間があればそこに入り込む。たとえばあの踏み切りだったら、傷ついた心持つ人が近づくと現れ、その心の傷口から忍び込み、更に追い込み、攻め立て、線路の上に立たせている。そんな気がする。だから……」
「だから自殺が多い」
「恐らく」
 理絵子は言った。
 そして、自分は、その死神に狙われた。
 心に隙間……それこそ思い上がりがあったためか、それとも別の理由か。
 どっちにせよ、あんなのに目を付けられている、ということ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

«【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-03-