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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

最近の更新

【魔法少女レムリアシリーズ】「転入生担当係(但し、魔法使い)」(1/22・隔週水曜更新)

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【理絵子の夜話】「圏外」(1/18・毎週土曜日更新)

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お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在8編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

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色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -24-

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「トンキンって呼び捨てかい」
「そこ突っ込むかい。真剣勝負。私は鼻くそほじりながら見てるよ。どう?やる?」
 ボレアリスは双方の目を見た。
「トンキン覚悟なさい。星の命で成敗いたす」
 メリディオナリスがステッキを振り下ろし、地面(ステージ)を指し示す。指揮棒サイズからステッキにシュッと伸びる。
「え?すげぇ」
「おもちゃじゃないの?」
 “おもちゃを手品で取り出した”その認識を超える事象であると気づき始めた子供達が数名。
「いいだろう。本気だぜ」
 トンキン大魔王が足を前後に広げて身構える。
「スタート」
 ボレアリスの指パッチンがいやに大きく響いた。
 トンキン大魔王は男の子の機動力にまかせて車いすの影を踏みに回った。
 一方車いすは左右の車輪を逆向きに回すなど、人体では不可能な急旋回・逆進を交えて逃げ回った。
 圧倒的かつ短時間と見られた勝負は白熱した。
「おおすげぇ」
「トンキン頑張れ。ああ逃げられた」
 男の子の中には大魔王の応援に回る子も出るほど。
 大魔王は次第に息を荒げた。当然、彼の病気を考えるとこの辺が潮時。
 メリディオナリスがステッキを弓のようにつがえる。
「チェックメイト」
 これでアニメでは虹色のビームがほとばしって敵がぐえー、となる。
 ボレアリスは左の人差し指を自らの唇にそっと当てた。
 誰にも聞こえない声でつぶやく。それは呪文なのであるが、意味だけ記す。ただ一つ強く思うこと姿を現せ。
 すると。
 遠くで何かに反射したようで、太陽光線がキラリと部屋の中に射し込み、ステッキ先端端の“ダイヤ”をプリズムにして、7色に分かれた。
 ビーム、でこそないが、天井を七色の光が波打つように走った。
 トンキン大魔王、バタリ。
「すげー」
「魔法みたい」
 勝負としてはこれでノーサイド。
 3人はステージに整列した。
「これで私たちのショーは終了です。最後まで見てくれてどうもありがとう。最後にこのお菓子もらっていってね」
 ステージ上のぬいぐるみを指さした後、頭を下げる。指をパチンと鳴らすとぬいぐるみの手にお菓子があふれ出してステージからこぼれ落ちるほど。
 拍手をもらう。お開きとなり、子供達が帰り始める。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -38-

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「いやぁいいなぁ、女の子ばっか」
「おじさん露骨に鼻の下伸びてるよ」
「そうかい?。あ、そうだ、さっきの巫女ちゃん写真、オレのケータイに転送してくれよ」
 お構いなし。この時、エロゲバという言葉を何人が想起したかは定かではない。

10

 深夜。
「りえぼ、りえぼーってば」
 しきりに揺さぶられて、理絵子は目覚めた。
 問うまでもなく、異変が生じているのだと判る。
「どうしたん……」
 コーンという、石と石がぶつかる音。
「今の?」
「うん、竹下が気持ち悪いって言ってさぁ」
「部長~」
 起きているのはその竹下と大倉である。
「女将さんと……」
 主人氏は?と理絵子は訊こうとし、階下からの大いびきに気づく。女の子集団にデレデレの主人氏は、ピッチ良く日本酒をあおりデロデロ。女将さんも彼女たちのあまりのノリの良さに、“身内が来たみたいだ”とお気楽モードに入ってやはりデロデロ。
 理絵子は気づいた。また傍若無人な者共が塚を壊しに来たのではないか。
 テレパシーで探ろうとする。しかし、あいにくと結界の中では感度が悪い。
「見に行く?」
「えっ?」
 大倉が目を剥く。理絵子は立ち上がり、川に向いた側の窓を開けにかかる。
 建て付けが悪い。
 ドンガン窓を叩いているうちに田島が起き出した。
「うるさい~」
「あ、ごめん、窓開けたいんだけど」
「それコツがいるんだよ」
 田島が身体を起こす。
 が、半分寝ぼけていたのか、メガネを外していたせいか、隣の窪川に蹴躓き、仲間達の上に倒れ込んだ。
「……!」
 田島の(迫力ある)ボディアタックと、それを食らったメンバーの悲鳴とで、結局は全員が起きてしまう。
「深夜戦なんて聞いてね~」
「窪川ギブアップであります」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -37-

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「巫女だねぇ」
「だろ?俺の目は間違いなかった」
 夫婦してしげしげと眺められる。古来巫女は少女が担ったが、理絵子はどちらかというと幼い顔立ちの娘であり、純白の装束に流れる黒髪と、そして何より漆黒の瞳が物を言って、巫女装束は確かに似合う。超感覚の有無以前の問題。
「そうですか?」
 理絵子は照れた。
「これ腹に一物ある奴見たら逃げるぜ」
「うん、悪い奴お前直視出来ない。正月のバイト巫女とはひと味違う」
「お前実は巫女だろ」
「あのね」
「でも……同じ供養祭やるなら、向坂より嬢ちゃんだな」
 主人氏が言った。
「えっ?」
「いやいや、やれって話じゃないよ。でも、神々しさという点で全然違う。それに祝詞(のりと)なんかも知ってるようだし」
「やって欲しいって聞こえるよ」
 女将さん。
「あの……」
「はっはっは。冗談。さ、もういいよ。いや~いいもん見させてもろた。さぁ、シャブやるか」
 主人氏は上機嫌で降りて行く。なお、“シャブ”とは覚醒剤の隠語ではなく、しゃぶしゃぶのことであるので念のため。
「脱いだらおいでね」
 女将さんが続く。
「私、脱いだらひどいんですってか」
「それ今日2回目」
 理絵子はクールに言い、脱衣にかかった。
 装束を畳み、作業をキリのいいところまで進めた後、階段を下りて行く。食堂には、お祓いの“売約金”であるしゃぶしゃぶセット。
「今日の釣果」
「部長っておいしいなぁ」
「じゃあ来年の部長は若井と」
「なるのはイヤ」
 女将さんが手をパンパン。
「はいはい。座って座って。じゃぁ部長さんは特等席」
 鍋直近。
 集中する羨望の眼差し。
「私の売り上げに何か質問でも?」
「いえ。ありません」
 と、主人氏が卓上に一升瓶をドン。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -23-

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 テレビアニメだと二人は赤と青のコスチュームに変身“星の命で成敗いたす”と決めぜりふを言って、以下、古い表現を使うなら“女だてらに殴り合い”の戦闘、となるが。
 レムリア改めボレアリスは大魔王の傍らに膝を折ってしゃがんだ。
「どうせ成敗されるの判ってるなら戦わないでお菓子返してくれない?」
 敵方の決めぜりふは“話し合いなど無駄だ!力こそ全て”なのだが。
「え?それなに?話し合い?戦わないの?」
「そう話し合い。見ての通り相方ケガしててさ」
 ど派手な戦闘転じてちまちました話し合い。このコンセプト全否定は子供達を大いに笑わせた。
「泣きべそかいて帰りたくないでしょ」
 負けた敵は泣きながら土の中に消えて行く。
「いやそれは……てゆーかこのお菓子食っていいか」
「だめ」
 突如現れた漫才のしばき用具“ハリセン”で軽くぺしっ。
「武器禁止!暴力反対!」
 大魔王は両の手で頭を抱えて泣き真似。
「お前がゆーな!」
 子供達から爆笑付きで突っ込み。
「これは話し合いなど無駄なようだな」
「来た!」
「来た来た」
「じゃんけんで」
「その手でやるのか?」
 大魔王は台所で熱い調理器具を持つ時に使うミトンを付けている。親指とそれ以外の4本に分かれたタイプであり、“チョキ”が作れない。
「あらかわいいお花のアップリケ」
 メリディオナリスが挑発しながら車いすで駆け寄る。
 そこでボレアリスは立ち上がる。
「“影踏み”で勝負。いかが?」
 射し込む陽光に出来た影、ボレアリスは指さした。
 車いすでも出来る。
「トンキンは車いすの影を踏みなさい。メリディオナリスは“ターミネーションステッキ”でトンキンの影をつつく。一発勝負」
 ボレアリスは両の手を合わせ、左右に開き、宝石プラスティックキラキラのステッキを出現させ、メリディオナリスに持たせた。
 看護師らがハッとした顔で見る。その作法はアニメのやり方そのものだが、実際にやってみせるのは手品の範疇。
 だが、子供達はなまじアニメと同じが故に現実の異常性に気づいていない。ちなみに、“ステッキ”と称するが、番組中では指揮棒サイズで取り出し、釣り竿よろしく振り出すことでステッキサイズに伸びる。おもちゃとして指揮棒サイズが販売されており、先端に大きなダイヤ様の透明プラスチックが輝いている。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -36-

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 作業に入る。最も苦労すると見られたストーリー作りが午前中で終わったため、具体的な作画、および理絵子は文章の作成を行う。服装がどうの、背景がどうの、絵と文章の一致を図りながら作業を進める。特段脱線するでもなく、夕刻を迎える。
 和服のサンプルが欲しい。何せ落語。
「おばちゃん」
 田島が頼み、女将さんに用意してもらったのは。
 浴衣及び巫女の装束。
「随分古そうな…」
「おばあちゃんが着てたものだもん。それこそ供養のためよ。昔は各家持ち回りで巫女やってね。こだわる理由はその辺にもあり」
 女将さんの説明。
「へぇ~」
 そこへ主人氏が上がってきた。
「何オンナだけで盛り上がって……こらまた随分古いの出してきたな」
 巫女装束を持つ。
「そうな。昔は女の子これ着させてなぁ……」
 主人氏はそこで理絵子を見た。
 理絵子は目を剥いた。
『よっぽど凛として巫女らしい』
 まさか。
「着てみ」
「えっ?」
「あ、面白そう」
「似合う似合う。髪長いし」
「お清めも受けたことだし」
 7人が理絵子ににじり寄る。
「ちょ……ま……貴様らっ!」
 理絵子は超感覚能力者(エスパー)と言って過言ではないが、念動力保有者(サイコキノ)ではない。
 7人相手では抵抗する術もなく、ジーンズとTシャツの上からではあるが、巫女装束を着せられた。
 巫女理絵子。
「すっげー」(7人一斉)
「そーお?」
 理絵子は自分を見回した、着ている中からでは外観の判断付かない。
「写メ写メ」
 中井がカバンをゴソゴソし、ケータイのカメラで激写される。
「どうよ」
 見せられる。サイズ的にはちょうどいいらしい。
「ほえ~……」
 女将さんが感心したように上から下まで見回した。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -35-

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 部屋の奥から足音。
「そうだよ」
 おばあちゃん。
「あの塚には、埋めてあるんだ。亡骸がね」
 少女達は息を呑む。
 朝の話には続きがあったようである。すなわち、舞台を落としたはいいが、そのままでは女の子達の遺骸が見える。そこで、上から石をガラガラ落として埋めた。
 後年、地震で山津波(土石流)が発生、遺骸はバラバラになった。さすがに可哀想だという話になり、拾い集めた遺骨を埋め、供養した。それがあの塚。
「なんかあたし腹立ってきた」
 若井が言った。
「塚で花火って、そんな過去のある場所を面白半分で扱うってことでしょ?…可哀想」
「うん」
 頷き合う少女達に、おばあちゃんは小さく笑った。
「あんたらみたいなのだったら、浮かばれるのかも知れんな……」
 おばあちゃんが奥の部屋へ戻る。ちなみに、後で田島に聞いたところによると、おばあちゃんは体調が優れず、洗面等以外は部屋で寝ているという。
「なんか、恥ずかしいわ」
 女将さんが床に座り込んで言った。
「因習というか、古くさい陰湿な部分ばかり見せてしまってる気がして」
「いいえ。私たちが如何に幸せか、しみじみと思い知らされます」
 と竹下。
「そうなぁ、リアルに少女の人身売買って現代でも存在するからな。それに比べりゃうちらは……」
 話が続かなくなる。
 プリンも完食。
「どうも、この話になると、雰囲気下がるわね」
 と女将さん。
「いいえ。そろそろノリだけで時間潰すのやめて、真剣に作品制作にかかるべきだと思ってましたから」
 理絵子は言った。
「そーお?」
「ええ。おい野郎共、行くぞ」
 へ~い。と7人が男の声を真似し、一列でゾロゾロと本来の作業スペースである2階へと上がって行く。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -22-

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「みんなにはお菓子を配りますね。後ろの扉から、助手のゆみちゃん」
 客席後方の扉を指さす。引き戸が開いて車いすに乗ったゆみちゃんと。
 さてここで彼女が変身している正義の味方について、実在の商標名を避けるため仮称を与える。二人ペアで活動するが、“ボレアリス”と“メリディオナリス”とする。
「メリディオナリスだ!」
 女の子達が気づいて声を上げる。
「車いす乗ってんじゃん」
「ケガしたんでしょ」
「ちょっと待て、後ろなんかいるぞ」
「ナリス!後ろ後ろ!」
 番組中ではそれぞれ名前の後ろ3文字、アリスとナリスで呼び合う。応じた子供達の指摘。
 メリディオナリスが振り返る、と、“トンキン大魔王”はドア影に隠れる。
「誰もいないよ?」
 メリディオナリスはみんなに言った。
「違うって。ドアの影に隠れた」
「そう?」
 メリディオナリスはドアを開ける。
 引き戸を開け。向こう側に回り、廊下を歩いて前のドアから戻ってくる。
「誰もいないよ?」
 その背後。
「いるって!後ろ後ろ」
 メリディオナリスは後ろのドアの方へ目を向けた。
「違うよ。背中!背後!振り向いて!」
 やりとりしてる間に“大魔王”は姿を消した。
「んもー!」
 焦れた子が後ろのドアから廊下へ飛び出す。
「あれ?」
「ね?誰もいないよ」
 その時子供達は、看護師や補助の方まで、全員が廊下を見た。
 刹那。
「あ!いた!」
「がはははは。とんきーん!」
 大魔王の決めぜりふと共に、ステージに座らせたぬいぐるみは大魔王に変わっていた。
 お菓子いっぱい抱えて。
「大魔王がおかし取った!」
「これは“成敗案件”じゃないすかアリス」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -34-

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「そのタイミングで笑う?おじさん。ひどい…」
「そうじゃない。思わず吹き出したんだよ。君たち本当に面白いなぁ」
「これでも学校ではお嬢様集団で通ってますのよ。ホホホ」
「おじさまもご一緒にいかがです?」
「もうアッー!はいいよ、お腹一杯」
「今里プリンいらないそうです」
「そのお腹一杯じゃなくてさ」
「でもさっきイモリを生でたらふく……」
「食うか!」
「あれイモリじゃないよ。サンショウウオ」
「どっちでもいいよ。キショイ」
「君に言われたくありません。byサンショウウオ」
「ぬ・け・が・け」
 理絵子は先んじてスプーンをプリンに立てた。
「あ、ずるっ」
「せこっ」
「ぶちょー見損ないました」
 少女達が慌てて席に着き、そのままティータイムになる。プリンは通常の20個分だそうだが、彼女たちにはどうという量ではない。
 その時。
「あら?」
 女将さんが裏口に置いた理絵子の帽子に気づく。
「びしょびしょじゃない」
「あ、しまった。すいません、プリンに気を取られて干すの忘れて」
「ん、了解。陽もあるし出しておけば乾くでしょ」
「そういやそれワサビ田の向こうに落ちたんだよね」
 田島が言った。
 女将さんが理絵子を見る。気にする理由は一つ。
「いえ、塚より奥には行ってません。って、あそこを荒らすわけですよね……」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -33-

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 呼応してか、消滅している感覚がある。宿を決めたと聞いた時点より存在した嫌な感じであり、警告だ。田島の顔に缶コーヒーがかかった不思議な現象、それにまとわりついていた違和感も消えた。
 その代わり、たった今感じているのは願い。あるいは思い。
希求。
 風はそう、結界が存在するがゆえに、思いを風に託した結果。さっきも、そして今も。
「りえぼ?」
 一言も発しない理絵子に田島が首をかしげる。不安と不思議が田島の中に芽生え、場所が場所ゆえ、まさかの思いが頭をもたげる。
「なんてね」
 理絵子は笑って振り向いた。“取り憑かれたのではないか”そんな思いが田島に生じたのだ。
 風の思いに応じてあげたいが、仲間の不安を煽るわけにも行かぬ。
「びっくりした……」
 田島は言うと、帽子を取ってうちわのようにパタパタ扇いだ。
「あら綾ちゃん。帽子取っちゃだめじゃん」
 理絵子は自分の麦わら帽子を田島にかぶせる。
 沢水に濡れた麦わら帽子を。
「……!」
 悲鳴が田島の口をついて出、理絵子は逃げ出す。
「待てっ!りえぼー。人が真剣に……」
 あとでね、と思いながら、理絵子は走り出す。そう、ここには再度来なくてはならぬ。
 いや、来ることになる。I'll be back.

9

 お三時の時刻。
 水遊びから帰った少女達を待っていたのは、両腕で抱きしめたくなるような、巨大なプリンであった。
「すっご~」
「バケツプリン。名古屋の方で作ってる店があるらしいって聞いて取り寄せてみたの」
 女将さんがニコニコ言う。とっておきの正体はこれか。
「ば、バケツですか」
「そうあれ。感心したよ。できるもんだねぇって」
 流しの角に小型のバケツ。小さい子が水遊びに使うサイズ。
「……ところでさっき、出来の悪い雑巾が破れるような悲鳴が聞こえたけど?」
「絹を裂くような声ならわたくしが出しましたが」
 田島、姫君の如く気取って言う。
「絹を裂くような声など聞こえていませんが」
「ゴリラが吠えてたなぁ」
「北京原人の生き残りという話も」
「北京原人に失礼だ」
 主人氏が笑った。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -21-

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「次、ゆみちゃんはね……」
 変身ヒロインのうちの一人。車いすのまま衣装をチェンジ。
「え、でも……」
 アニメのそれはバトルアクションがある。
「ヒロインだってケガくらいするでしょ。そこで私が美味しいところかっさらって行くから。所々に手品を混ぜます。セリフは適当で」
「適当て」
 助手二人は顔を見合わせた。
「こういうのってお決まりのセリフあるでしょ。それでいいから」
「ええっと……よろしいかしら?」
 専属の保育士さん。子供達が待ってるんだけど。
「ええはい今行きます。みわちゃんこれを配って回って」
 レムリアはゆみちゃんの膝の上にハンカチを敷き、その上で両の手のひらを組み合わせ、タマゴ割るように開いた。
 山のようなキャンディーやビスケットなど、一粒ずつ小袋に入ったもの。
「まず私たちが出て行って、これを配ります。諏訪君は後からコソコソついてきて」
「それってあれか、『後ろ!後ろ!』ってやつか」
「その通り」
 レムリアはウィンクを返し、自らホワイトボードをガラガラ押して舞台を開けた。
 とんがり帽子で魔女の格好。
「だっせー、魔法使えよ」
 観客の男の子の突っ込み。彼は先回自分のショーを見ている。
「使うとHP減るのよ。さて皆さんこんにちは、一部の方には初めまして。私は魔女のレムリア。今日は手品を見せつけに参りました」
 帽子を取って胸に手を当て一礼。すると帽子の中からバラバラとステージに散らばるトランプやら造花やら。
「あらこぼれちゃった」
「だせー」
「タネ見えてやんの」
 ゲラゲラ笑って突っ込みが来る。が、その中にひとつ、明らかに帽子より大きなぬいぐるみ。
 足下に座らせる。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -32-

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 理絵子は印象を語った。
「痴漢か」
「いやそう決めたわけじゃ」
「それっぽいんだろ?それってことじゃん」
「そーゆーの世間じゃ論理の飛躍って言うんだよ」
 理絵子は会話にクスクス笑いながら、流れの中を少し歩いた。
 気持ちいい。水は透明でどこまでも涼やか。
 この上流で悲劇があったなんて。
 風が渡る。
「あっ」
 虚を突かれたような、ゴウッと吹く強い風である。理絵子は帽子を持って行かれた。
 上流へ向かってふわり。流れを挟んだ向こう側。
 理絵子は気づく。それはワサビの自生地の少し向こう。
 女将さんの言う、“いけない領域”との、ちょうど境目くらいか。
“呼ばれた”。そんな言葉が脳裏をかすめる。
 気付く。風の主は、宿に入る時に建物を吹き抜けた、あの風の主と同じ。
 悪意は感じない。
「おいおい」
“禁忌”の領域へ向け、躊躇無く歩き出す理絵子に、田島が戸惑いがちに声をかける。
 理絵子はワサビを踏まないように注意しながら、その向こうへ。
 足を止める。そこが境目。ここにも結界の存在を感じる。
 理絵子は水面の帽子を取り、結界の方を見やる。右手奥にこんもりとした部分があり、屋根が掛けられて一見四阿(あずまや)風になっている。
 四阿の中には石が積んである。供養塚だ。屋根があるのは、川に落とされた彼女たちがこれ以上濡れることのないように、というところか。ちなみに結界はその四阿に張られているようだ。塚への外からの侵入防止か、或いは中から出ないためにか。
 悲劇の起こったという“三つ叉沢”は更に奥であろう。が、川の流れを追うと、塚よりやや上流で左方に曲がっており、そこまで見通すことは出来ない。
 むしろ見えない位置に塚を築き、限界標とした、と見る方が正解であろうか。
 田島達が追いつく。
「あ~驚いた。沢まで行くかと思った」
「塚ってそれ?」
 理絵子は四阿を指差す。結界があり、道から階段で降りて行けるから相違あるまいが、確認。
「そうだよ」
 感覚が何かを捉えている。理絵子はその感覚に集中する。
 自分を呼んでいるのだと理解する。求めているのだと判る。
 悪意はない。底意もない。
 最前まで拒否の念はあった。しかし、自分たちに共通認識…おばあちゃんの話を聞いた感想…が生まれてから、それは消えた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -31-

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「ああ腹立つ。こうしてやる」
主人氏が玄関先に塩をぱっぱ。
「どう?率直。向坂さんの印象」
女将さんが訊いた。
「私なら“さん”付けで呼びません」
理絵子は言った。見知った修験者みたいな厳しさと謙虚さはカケラもない。
形ばっかり。
「……そうか。私でもヤだもんね。年頃の女の子だと尚ヤだよね」
女性は本能として“危険な男”を察知する能力を持っている。女将さんが言っているのはそれである。
主人氏が愚痴る。
「なんかそぐわないんだよ。急にフラッと来て、ああせぇこうせぇと。この土地は呪われているってな。過去が過去だろ。過疎化が進んで人も減って来てたし、地区じゅうの年寄りがビビりあがっちまってな。先生先生って崇め奉ってるけど、オレにはそうは見えねぇ。嬢ちゃんの方がよっぽど凛として巫女らしいわ」
「……恐れ入ります」
理絵子は照れながら言った。多分、高天原では神々が爆笑しているであろう。いや、八百万の神々は“爆笑”なんてハシタナイことはしないか。
女将さんが安堵の表情。
「さ、堅苦しいのはおしまい。ちょっとの間だけどさ。川に行っておいで。水が綺麗なことぐらいしか売り物無いけどね。せっかくだし。あ、帽子忘れないでね。涼しくても太陽の光まで弱いわけじゃないから」
「はーい」
理絵子は荷物の中から麦わら帽子を取り出した。
「そういえば行っちゃいけないのは……」
「目安はワサビのところ。野生のワサビ見たことある?ってまぁ、今日はそれこそ踏み荒らされてるからね。すぐ判るよ。そこより奥はNG」
「判りました」
理絵子は帽子をかぶった。
宿の裏口からサンダル履きで川へ降りて行く。川と言っても沢に近い。水は少なく、足首ほどもない。
程なく、少し上流の方に遊ぶ、仲間達の姿が見えた。
「りえぼー」
仲間達が自分を発見し、手を挙げて応える。
「どうだった?」
「あんたらだったら、逃げる」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -20-

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「これはミサンガと言います。仲良し二人が付ける時、切れると二人の願いが叶います。その時私が必要であるなら、私はそこに呼ばれます。これではダメですか」
 ゆみちゃんは少しの間何も言わず、ただ、自らの手首を見つめた。
「二人の願い……」
「そう、みわちゃんの願いでもあるし、ゆみちゃんの願いでもある」
 ゆみちゃんはレムリアに目を向けた。
「私の……」
「そう」
 ここでレムリアは合点がいった。
 彼女は、ゆみちゃんは、自分のことは自分でしたい。可哀想な女の子と見られたくない。
 彼女の願い。
「助手を頼める?さっきも言ったけど」
 目を見て笑みを返す。
「いいけど、助手って何を?」
「一人でヒョイヒョイお菓子出しても、それだけで終わっちゃうから、二人で面白いコトする」
 ヒョイヒョイと言いながら、レムリアは自分の手のひらを交互に開閉し、都度お菓子を出してぽろぽろこぼした。
「ああ、こぼれてるよ……」
 諏訪君が拾いに掛かる。
「諏訪君も助手その2で」
「え?」
「あはは、お兄ちゃんなのにその2!」
 ゆみちゃんは笑った。

 館内放送があって程なく、食堂に集まってくる子供達。
「今日はホスピスのお年寄りも見えています」
 小倉医師はレムリアに目配せを交えた。
 入院している子供達と、お年寄りとの交流機会を持たせる医療機関、施設が増えている。相互に刺激になったり、思い出話を通じた過去の伝承など、身体的・知性的にプラスになる面が多いという。
「判りました。あまりビックリするような内容にならないように。えっとね……」
 助手二人に段取り説明。諏訪君は“魔人トンキン大王”。みんなに配ったお菓子を取り上げてしまう。ちなみに病院として寸劇は時々やるようで、小高いステージがあり、ホワイトボードを利用して緞帳の代わりに目隠しされている。
 なので下半身は客席から見える。
「配ったお菓子横取りして歩くの?」
「みんなの間を歩き回るだけでいいよ。これ着て」
 指をパチンと鳴らすと衣服が替わる。黒マントに福岡市の郷土芸能“博多にわか”の垂れ目マスク。

Eks5jzlu4aaw7yw
 みわちゃん爆笑。
「魔王!これで魔王!!」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -30-

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 理絵子は避けていた。やり方は簡単。全然関係ないことを考えればよい。それこそストーリーでも練ればよいのだ。
 しかしそれでは“探られてると判っている”ことが、相手に判ってしまう。
 せせらぎの音に意識を向ける。音からイメージしたせせらぎの映像を心の中に置いておく。ツマラナイから川の音を聞いています……。
 終わった。
「口を開けなさい」
 某が、人の形に切った白い紙切れを差し出す。
 ヒトガタ、である。霊的な依り代。古代は人形であり、更に太古は生身の人間による生け贄であった。
 理絵子が口を開けると、某はヒトガタを理絵子の舌に触れさせた。
 痴漢にでも遭遇したような不快感。
 ヒトガタを何やら箱に収める。
「面(おもて)を上げなさい」
 これで終了である。理絵子の中の“汚れ”がヒトガタに移り、箱の中に封じた。
 よって理絵子は顔を上げて良く、口を聞いても良い。
 理絵子は瞼を開く。“疚しいところがある人にはブラックホールに見える”と言われる瞳孔拡大状態の目で真っ正面から某を見てやる。“たらふく肉食ってるだろおっさん”……そんな印象の男である。脂が滲み出て来るというか、既に滲んでいるというか、ギラギラした印象。陰陽師と称し、超感覚による探りを入れてきた辺り、確かにそれ系の力はあるようである。しかし、同じ力を持つにしても、どっちかというと“餓鬼”に近い。
 おっと見透かされる。
「ありがとうございました」
 理絵子は神妙に頭を下げる。ここまで一連のお祓いのシーケンス。自分の知らない流儀であるが、まぁ、いろいろあるのだろう。ちなみに、生け贄の時代、悪霊を移された生け贄は、当然、悪霊もろともそのまま殺された。
「うむ」
 某は頷き、次があるとかで、それでもしっかりと鯛と酒と祈祷料は持って、そそくさと去った。
 高級車の走行音が聞こえなくなる。
「はぁ。堅苦しい」
「申し訳なかったな」
 女将さんと主人氏が続けて言った。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -29-

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 流しそうめんを食べ終わった後、理絵子を除く少女達は川へ降りていった。
 夫婦がその、陰陽師向坂を迎えるための準備を始める。鯛の尾頭、酒を用意し、玄関を清掃して塩を盛る。
 それは、儀式の後に、陰陽師某が“飲んで食う”のが定番になっていることを意味する。
 俗っぽいことこの上なし。
 午後1時33分。
 クルマが宿前の砂利道に入ってくる。ゴムが砂利を弾く音から、そのクルマは重いと判る。
 クルマの左側から下車する。桜井優子宅所有と同じドイツ製の高級車であろう。
 理絵子は断じた。こいつは決してまっとうな陰陽師ではない。
 夫婦が迎えに出る。
「こちらです」
「お待ちしておりました」
 ドアが閉まり、某が歩いてくる気配。理絵子は玄関脇に正座し、頭を垂れ、一言も発しない。見もしない。
“汚れて”いるから。
「お前か」
 映画の安倍晴明の真似か、とでも言いたくなる、甲高い声が上から降ってきた。
 理絵子は頷くのみ。漆塗りの木靴だけ見える。平安装束に身を包んでいるようだ。衣冠束帯(いかんそくたい)というヤツである。ちなみに安倍晴明(あべのせいめい)は、平安期に活躍した著名な陰陽師だ。
「他の者は」
「それが……午前より外へ出ていまして。この娘さんだけ残ってらしたので、部の代表ということで。なにぶん、携帯が通じませんので、どこにいるやら」
 女将さんはこわごわ、という感じで言った。全員呼び戻せ言われるのではないか、というわけだ。
 でも理絵子には判っている。それはあり得ない。
 なぜって時間が掛かるから。その点で携帯不通は説得力有り。女将さんグッジョブ(good job)。
「……よかろう」
 案の定。1人でも8人でも、お金がもらえて飲み食い出来ることに変わりはない。しかも短時間で済めば“時給”も高い。
 では早速、となり、2階に上がって、神棚の前で夫婦と正座。
 儀式が始まる。
 理絵子は、気づいた。
 某が意識をこっちに向けている。それは経験のある方もいるであろう、“コイツ背中でモノ聞いてるな”という印象そのもの。超自然的な感知能力……テレパシーで探りを入れに来ているのである。
 その時もし、霊的なパワーの状態を磁力線のように表すことが出来れば、陰陽師某から理絵子へ向かう磁力線が、理絵子を避けるように迂回し、後ろへ流れる。そんな様子が見えたであろう。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -19-

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 肩で息をし、声が紡げない。相当慌てたと見える。
「……ああ、良かった。びっくりした……」
「ごめんなさい。その、相原さんの手品見逃したくないなって。それから、みわちゃん、どんな。前はこんな」
 諏訪君の質問に医師が頷いた。
「伊藤さん、叱っておくから戻っていいです。……みわちゃんは骨髄移植をしました。姫さんにはCMLと言えば判りますね」
 レムリアは納得した。みわちゃんは透明ビニールシートで覆われ、それは無菌シート。更に呼吸補助装置をはじめ、数々の機器とチューブや電線でつながれている。
 CML:chronic myelogenous leukemia……慢性骨髄性白血病。日本語の字面を嫌ってロイケミアと呼ぶ向きもある。
「今は、眠っています」
 医師は小さく告げた。
「無理矢理起こすのは可哀想だよ」
 レムリアは言った。とはいえ、薬による眠りであるから、起こすという選択肢は存在しない。
「みわちゃんだけ後で、じゃだめ?」
 レムリアは小首を傾げて尋ねたが。
「いつも、みんなと一緒じゃないんだよ。一度くらいみんなと……」
 ゆみちゃんはだだをこねるように言った。
 一緒じゃない。それは、感染症防止のため、が趣旨だとレムリアは理解している。
 ただ、それは、そばにいるのに接触出来ないという状況を作る。
「魔法を使いますかね」
「えっ?」
 驚く声は同時複数。
 レムリアは手のひらを握り、ひらく。
 毛糸のリング。真珠を模した白い球が2つ。
「ミサンガ」
「あら懐かしい」
 それは医師と看護師。これをおまじないとして手首に付けるのが流行ったのは1990年代。
 レムリアは片方を握り、無菌シート越しにみわちゃんの手首を握り、手を開いた。
 シートを越えてみわちゃんの手首にミサンガが装着される。
「どうやって……」
 手首に通したわけでも、解いて結んだわけでもない。
 シートもめくらず。
「手品ですから。まぁ細かいことは気になさらず……こっちはゆみちゃんが付けて」
 同じく握って開けばこちらもミサンガ装着完了。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -28-

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 田島の勢いが急落する。
「りえ……」
「半ダース」
「3ダース!?」
「ちがう!半分ダース!6本」
「ちぇ」
「ほら、綾っぺ」
「は~い」
 マックスコーヒーで買収された田島は主人氏を追い、しぶしぶ玄関から出た。
「しかし部長ってそっち方面詳しいみたいですね」
 竹下が言った。
 理絵子は苦笑した。この方面、そういう経緯から独学の部分もあるが、一般向けにはもう一つの理由の方を話している。
 すなわち。
「どうしてもホラ。父親の仕事が仕事でしょ。仏様がついて回るわけよ。母方の実家が震え上がっちゃってさ。南無阿弥陀仏。否が応でもお勉強してしまうという」
 理絵子は言った。『“死”が日常茶飯事になる。これは怖い』という父親のつぶやきが強く印象に残っている。
「え?仏像持ち歩くんですか?」
 竹下が目を円くした。
「バカ。お亡くなりになったお方のことだよ。死体。シカバネ。ムクロ」
「きゃー!」
 生々しい大倉の台詞に、竹下が耳を塞いで顔を背ける。
 が、その動作でテーブルに身体をぶつけ、麦茶の入ったグラスを倒した。
 テーブル上に麦茶池。
「うわお前バカ」
「絵が、絵が~」
「綾~!」
 今里が田島を呼ぶ。彼女たちは慌てて描きかけの絵やレポート用紙を引っ込めた。
 ちなみに彼女たちが使っている水彩色鉛筆は、“水彩”の文字からも判るように、水彩絵の具的な一面も持っており、水分に触れると溶ける。
 飲み物をこぼすのは致命傷なのだ。
「どうした?」
 田島が勝手口から顔を出す。
「ごめん、こぼした、雑巾」
「ああ、はいはい」
「あ~滲んで行くよ……」
「見ろ、絵がゴミのようだ……」
「言葉を慎みたまえ。君はりえ部長の前にいるのだ」
「それじゃ自分同士」
 描き直し。なお、彼女たちの台詞の2,3は、著名なアニメからの援用である旨付記しておく。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -27-

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 かと言って夫婦の、この宿の立場を悪くする必要もない。
「おばちゃん。この際りえぶに任せた方が良くない?……だってあのおばあちゃんが納得するくらいだし……」
 田島が言った。“おばあちゃんが納得”が、強い説得力を有するフレーズであることは、論を俟たないであろう。なお、“りえぶ”はりえ部長の意味である。
 女将さんはふう、とため息をついた。
「ごめんねぇ。何か巻き込んじゃったみたいで」
 それはすなわち、理絵子にお任せ、に気持ちが傾き始めている。
「いいえ。お世話になるわけですから」
 理絵子は言った。むしろ巻き込んで頂いた方がありがたい。予感のこともあるし、その陰陽師の釈然としない言い回しも気になる。直接会った方が何か得られる。
「じゃぁ今夜はしゃぶしゃぶにしちゃおうかな」
 女将さんのその一言に、メンバーは拍手喝采し、理絵子を取り囲む。
「さすが我らの部長だ」
「いやぁ頼りになるなぁ部長」
「部長」
「部長」
「ブチョー」
 みんなして古代の礼拝の如く、理絵子に向かってひれ伏し座礼を繰り返す。
「もうよろしい下僕共……てなわけでしゃぶしゃぶで売却されました」
 理絵子は言った。ふと思う。自分たちのこの軽いノリは、絶対に事態を深刻にさせない。
 女将さんと主人氏が頷き合う。“それで行こうか”。
「ごめんなさいね。1時半って言ってた」
「承知しました」
「じゃぁ松阪牛を買ってこようかね」
 拍手に送られ、女将さんが再び外出。
 次は主人氏が動く。
「やれやれ。このコンピュータ時代に、と思うよ。綾っぺ。そうめん手伝え」
「えー何であたし?」
「腕力」
 強調するようで彼女には悪いが、BMIという数字で出てしまっている。
「ひどい。レディに向かって言う言葉じゃないわ」
「それも取り柄の一つだと思えば」
「部長が人身御供になって下さるというんだ。我ら下僕共も何か奉仕するのは当然でしょうが」
「そういうお前は何だー!お前は!お前は!お前はっ!」
 田島が一人ずつ指差し、差された側は目を背ける。
「マックスコーヒー」
 理絵子はひとこと言った。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -18-

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「魔法は一朝一夕で使えるようにはなりません」
 と言って、袖口掴む手を広げ、手のひらで包んで握らせる。
 おまじないを掛けるように指先を向けてくるくる。
「まず、助手をやって下さい」
 指先で握り拳を1回つん。
「開いて」
 ゆみちゃんが言われるまま開くと、マシュマロが一個入った小袋。
「あ!」
「出来た。素質はあるよ。一緒に行きましょう」
 すると、また、袖口を掴まれる。
「ん?」
「隣の部屋。みわちゃん」
 彼女は日曜朝に放映される女児向けアニメが好き。変身して悪と戦う。
「ああ、そのグッズなら少しあるよ」
 レムリアはそのままマシュマロを再度握らせた。指つんで開くと今度はそのアニメキャラの缶バッジ。
 ゆみちゃんは首を左右に振った。
「違う。変身させたい。服があるんだ」
 車いすを動かしてレムリアを先導する。隣室引き戸をノックして、しかし返事を待たずに開ける。
「ゆみだよ。こんちは」
 再度声を掛けるが返事はない。ゆみちゃんは勝手知ったるとばかり、部屋に入ると壁際を指さした。
 ハンガーで変身コスチュームが下げてある。
 誰かいる。
「え?相原さん?」
 ちょっと鼻の詰まったような声だが諏訪君だとすぐに判った。その声の故は鼻の穴に酸素チューブを挿しているから。ベッドの傍ら車いすに座っており、背後に酸素ボンベが立っている。
 彼の目が見開かれた。
「あ、先生……」
「抜け出しは感心しないな」
 少女二人と共に立つ医師が手を腰に怒った表情。つまり、諏訪君は許可無しで病室を出て来た。
 廊下を慌てて走ってくる足音。
「小倉先生!諏訪君がいなく……」
「ここよ」
「え?」
 息を荒げた看護師が飛び込んで来、みわちゃんの病室へ顔を突っ込む。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -26-

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 と、そこで主人氏が勝手口を開ける。
「言えるかいそんなこと。最初っからこの子ら疑ってるみたいなもんじゃねーか」
 主人氏曰く、鮎の時期ではない今頃にこんなところに来るのは、憑いた悪霊に吸い寄せられて来たに相違ない。「お祓いをさせろ」と言われたと。
 少女達は顔を見合わせた。悪霊憑き?私たち……
 理絵子はその向坂なる人物の物言いが気になった。
 理屈に合わないのだ。霊的世界は非科学として否定されてはいるが、体系自体は論理的なのだ。それで行くと、非業の死を遂げた女の子達に、悪霊が近寄って行くというのは、何か噛み合わない。
 新約聖書だったと思うが、イエスの悪魔払いを見た偽善者が、『お前にそんなことが出来るのは、お前が悪魔の手先だからだ』と罵倒するエピソードがある(作者註:福音書にある)が、それに近い。
“彼女”たちが、殺された怨嗟を抱えた悪霊的存在であるとして、悪霊憑きがなぜ悪霊の住処……塚を壊す?
「オレはどうにも気に食わないんだ、あの拝み屋。いいよ、午後はこの子ら川遊び行っちゃって留守にってことにすりゃいい。あんな芝居がかったお祓いとやら、悶々やらせるこたない。カネ払って遊びに来て下さってるのに失礼だ」
「それは……」
 女将さんの表情が曇る。それはそうだが、向坂に刃向かうと後々町内で立場が悪くなる、そんなところか。
「あのう…」
 理絵子は口を挟んだ。
「差し出がましい物言いかも知れませんが、部長の私が代表で、ということでどうでしょう」
「え?でも……」
「そっち系は免疫がありまして。かけまくも かしこみ すめみ おんやかむ いざなぎのみこと(掛巻も畏み皇御祖神伊邪那岐之命)」
「そういえばそんな言い回し聞いたなぁ」
 主人氏が言った。この手の真言は軽はずみに使うものではなく、乱用防止の観点からは明確に書き留めるには向かないが、理絵子が口にしたのは『高天原のみなさまコンニチハ』に相当する部分であり、問題はあるまい。
「でも、時間掛かるし……」
「構いません。聞き流してストーリーでも煉ってます。この子らとやってると骨抜きにされるんで」
「ここでそれ言うかこの部長は」
 理絵子は夫婦にニコッと笑って見せた。実際問題、お経の親戚をメンバーに聞かせるのは苦痛である上に。
 時間の無駄だ。

(つづく)

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