創作物語の館・総目次のページ(最新状況はこちら)

手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

new最近の更新

・「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(5/24・毎週水曜昼12時更新)
最新→ -111-
目次

・【魔法少女レムリアシリーズ】「アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~」
(5/23・毎週火曜・土曜更新)
最新→ -100-
趣旨と前書き・目次

bookお話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
drama魔法少女レムリアのお話(現在15編)
night超感覚学級委員理絵子の夜話(現在6編)

●短編集
cafe大人向けの童話(現在10編)
heart01恋の小話(現在13編)
virgo妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
ng(分類不能)「蟷螂の斧」

penリンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-111-

←前へ・次へ→

 
18
 
 彼女は目を開いた。視界にはベッドで仰臥し、ゆっくりと呼吸する少女があった。
 17歳。年齢相応にして健康そうな、やや細身の体躯を備えた、可愛らしい少女である。ただ、肌の色は白っぽく、髪の毛は金に近い茶色。
「由紀子ちゃん」
 彼女は友の名を呼んだ。でも、友の声を聞く前に、この場を去らねばならぬと判っている。
 なぜなら、自分は既に、この世界で生きてゆくための身体を失った。
「あなたは……」
 誰何する声があり、彼女はゆっくりと目を向ける。
 母親。彼女と共に最も強く由紀子を愛し、最も悲しんだもう一人の女性。
 この場で意識を維持している唯一の人間。
 彼女は母親の、その見開かれた瞳に映じた自分の姿を見る。それはさながら光で彩られ、描かれた人の身体。
 彼女本来の姿。
「わたくしは元々、人間の皆さんと共にいて、その心の相談役となるよう仰せつかっている者です。名をエリアと申します」
 彼女は言った。存在する次元の違いから、エネルギーの差分が光として現れ、自分から周囲に絶え間なく放射されているのが判る。そして、その光の発散する姿……オーラライトを、母親が“翼”という印象で捉えているのが判る。
「天使……」
 その言葉が、母親の口をついて出た。
「古来、人間の皆さんにはそう呼ばれてきました」
 エリアは頷いた。
「隠していて申し訳ありません。でも、それは、わたくしにそう名乗る資格がなかったのです。今回わたくしは、不正を犯し、皆さんと共に暮らすことによって、心の更正をなさいと命じられ、皆さんの元へお邪魔することになりました」
 エリアはそこで母親の手を取った。
 母親がハッと息を呑む。なぜならこの時、母親には、エリアの心が自分の心のように見え、把握できているからである。
「エリカちゃん……」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-100-

←前へ・次へ→

 
 相原は自らにも言い聞かせるように言った。例えば土石流災害を“蛇”と表現するのは日本のあちこちに見られるものだが、これはチューブ状をなして斜面を高速で駆け下る土砂の姿を現す。蛇のように見える、それは水だけでなく“中身が詰まっている”のであり、夥しい量の土砂が含まれた状態、と解釈できる。これは“蛇”という語だけでは現代人にはイメージが掴めず、正体を現代の認識に置き換えることを要求する。また、津波の場合、揺れの大小にかかわらず逃げろとよく言われる。これは津波地震(震源が遠隔地であったり隣のプレートであるため、地震動がさほど大きくならないもの。津波自体は地殻変動の量によるため、マグニチュードなりの高さになる)を意識しており、応じて現代でも震度だけで判断する危険性の周知を要求する。また、津波の前兆として引き波に言及している文献石碑(まず波が引く)が多いようだが、これは地殻変動で隆起し海岸線が後退したもの、第1波が引き波であったもの双方が混じっている上、押し波で始まる津波もあるので、修正が必要、と言える。“引き波にならないから問題ない”は危険ということである。
「ありがとよ、あんちゃん」
 トレーサーを手首に巻いた漁師の男性が相原に言った。
「んだば降りるべ。この人達はこの船でまだ生きてるかも知れない人たちを助けて下さるってんだ。引き留めちゃいけねぇ」
「んだな。おら達は降りるで。みんなを避難所へ頼むぜ」
「承りました」
 残って守るという4名が下船する。相原が昇降スロープまで案内。
「では。お気を付けて」
 夕暮れの気配が漂い、空気が冷たい。
 そして“焼ける”臭い。
「お前さんらもな……一人でも、多く、助けてやってくれ」
「はい……操舵室、安全距離確保しました」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-099-

←前へ次へ→

 
 リストバンド型が4つ、トレース番号7から10番。
『登録されました』
 コンピュータが声を発し、大画面の隅に地図が出てトレーサーの位置を表示。
 その時。
「なぁ船長さんよ、この画面、パソコンみたいに写真にできるけ?」
 ゲンさんが訊いた。ネット地図は同じ縮尺で空撮が表示できる。そして、要求された空撮はリアルタイムを要求するものだろう。
 操舵室内が静まりかえった。この災害の“全容”を映すことになる。
 相原はコンソールからキーボードを引き出しカチャカチャ。
「あ、面倒だったらええよ」
「いえ……」
 リターンキー。そして。
 画面は、映し出した。
「え?」
「これは……」
 気仙沼を映す。町は津波と大火により。
「どこがどごだがわがんね。海岸線が変わっちまってる」
「ここが45号線です。この道路で津波が止まったものと」
 ゆるいカーブを描く堤防様の構造物をマウスでなぞる。言われてみれば速度の出せる道路だと判る。
 そこから逆に元の姿を想起する。その作業は“単なる事実”の故に、事態の深刻さを際立たせた。
「あんで津波にじゃぶ漬けで火事になんだ?」
「これ煙だろ。まだ燃えてっし」
「津波の上に油膜が出来てしまったとお考え下さい。車両や船舶の燃料などが由来です」
「炎の津波ってか」
「ええ、そうです」
 炎自らが波となって、波が炎を乗せて内陸深くまで覆って行く。
「寺に明治ん時の絵があって見たことあっが(有るが)やっと判った。こんななるだな……」
 男性の嘆息に、相原は画面の隅に石碑の画像を一つ出した。
「我々が見直すべき行動が二つあることをこの事態は教えていると考えます。ひとつ、現在の技術でも万能ではない、防波堤が高かろうが過信せず、自然災害に関する父祖の言い伝えは必ず守ること。そして、父祖が伝えたかったことが、言語や環境の変化の故に誤解されないよう、現在の見識で父祖の言葉を見直し、科学的な考証で説得力を与えて理解させること」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-110-

←前へ次へ→

 
 と、突如強大な権限を馬車に座する者が発揮した。妨害者があったため、と判る。その者は、炎の壁を乗り越え、妨害するべく立ち入ろうとしたようである。無比の圧力をもって、この侵入者を排除する。
 彼女は気付いた。
 抱いた友の身の重さを感じなくなる。抱く自分の手指が、そのまま友の身に、さながら水面に指を立てるように、入り込むのが可能である。
 除した。馬車に座する者が伝えた。そして付け加えた。思い赴くままにして良い。
 彼女は謝意を持って頷き、愛しい友を抱きしめた。友の中に入り込むように、自分の身に友を取り込むように、友の身を抱きしめた。自分の腕が、自分の身体を捉える。
 自分であり、友でもある。
 示唆を得る。自分の求めた願いを叶える方法が伝えられた。
 ありがとう。彼女は安堵をもって示唆に応えた。身体が重力から切り離され、ふわりと浮遊する感覚が生じた。彼女はその感覚のままに少し浮揚し、腕に抱いた少女を見下ろした。腕の中で少女は瞼を閉じ、眠っている。
 ふと顔を上げる。顔を上げることが許されたのだと知る。視界奥の方、遠ざかる馬車の後ろ姿。
 壁をなしていた白い炎が消える。
 彼女は知る。その炎こそ、あの夏の日に、そしてここに来る前の線路際で、自分の身をその状態に導いた炎そのもの。
 セラフィムの炎。
 で、あれば、馬車と、そこに座する存在は神学に言うオファニムでありケルビム。彼女は思った。確信はない。ただ、高位存在であることだけは確かである。
 願いが、通じた。
 良かった。彼女に平穏が訪れる。溶けてゆくような気持ち。満たされるような気持ち。
 眠くなるような安心感と暖かさ。
 日蝕を終え、元の姿に戻り行く太陽を見ているような感覚。
 それは母に抱かれた幼子の得る、安心と充足に似て。
 彼女は腕を開く。抱いた友をシーツの上に戻すために。
「あ……」
 驚愕の混じった、母親のつぶやき。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-098-

←前へ次へ→

 
 すると。
「船長さん、ここは、オレの家だ。残っだらいかんが?。家が空っぽになっちまう。さっきみたいな盗賊がまた来ないとも限らん。寝起きとメシなら気にするな。何とかなる」
「そだ。オレも残りてえ」
 アルフォンススは頷き、見回し、
「他にも残るという方はありますか?」
 その二人を含め、挙手4名。いずれも倒壊せず残ったこの地域の家屋の持ち主。
「承った。ご意志を尊重したい。武器と通信機を用意できるが如何されるか」
 アルフォンススは問うた。
 男性の一人が笑みを見せる。
「船長さん、魚を捕るってのは応じた格好の道具なんだ。心配はいらねぇよ。あと、通信ったって携帯は無茶苦茶だべよ」
 これにはレムリアが、
「トレーサーというのが用意できます。体温で発電し、衛星経由で本船に位置情報を送ってきます。破壊されたり人体から外れると緊急信号を発生します」
「ひっひっひ。死ぬと判るわけだ」
「いえ、ピンチの時に故意に壊して頂ければ。あと、あり得ない挙動を検出しても緊急信号を出します。例えば放り投げるといきなり時速何十キロ。これはあり得ない。信号出す。こうなります」
 この提案と説明に男性らは顔を合わせて相談。
「ゲンさん、もらっておくべよ」
「ああ、あにがあるがわがらねっしな(何があるか判らない)」
「姉ちゃん言うならしょうがねぇな」
 ゲンさんと呼ばれた男性は歯の無い口でガハハと笑った。
 トレーサーは3タイプ。蟹殻で囲まれ皮膚に食い込ませる、避妊具のIUDに範をとったリング状のもの、リストバンド。前2者は強引に押し込んで使う。
「あの女の膣にこいつ突っ込んであります。男性だとケツの穴しかありませんが」
 14の娘のその言動は男性らを大いに驚かせた。
「ガッハッハ。そんな物ハメハメされたらクソが出なくなっちまう。オラこれでええ」
「自分もこれだな」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-097-

←前へ次へ→

 
「よろしい。機関始動!」
「始動します」
 アルフォンススの声にシュレーターが喚呼で応じる。握っていた操縦桿の奥手、アクリルの小さなフタを開き、スイッチを押す。
 キュイーン。擬音で書けばそんな表現か。次第に周波数が高まる電磁音。やがて聞こえなくなる。人間の可聴域を超えた周波数。
 数秒後、ラングレヌスが座る位置でランプが幾つか。
「フォトンハイドロクローラ始動。主コイル出力逓減20パーセント。前段加速器温度所定。主機関準備ヨシ。但しリフレクションプレート喪失。自動でハイドロのみの運転となります」
「よろしい、クローラ起動し船体水平を確保せよ。機関制御開始」
「制御開始」
 ラングレヌスが報告し、アルフォンススが宣言し、シュレーターが操縦桿に手をする。
 画面が動く。
 船が少し揺れ、応じて多少ミシミシ音がし、画面が少し揺れ、映示される角度が変わった。
「動いた!」
「おおすげぇ」
「何これ飛ぶ?めっさかっこええ」
 男の子達は騒然。
「クローラ運転確認。現在ゼロベクトル。本船は駆動動力を回復しました。最大速力は22ノットとなります」
「結構だ。一旦動力遮断。乗船者の各位に今後の行動の説明を行う」
 
14
 
 この地を離れることとなり、船の内外にいた皆さんに操舵室に集合してもらった。
 医師と相原、救急で肺洗浄を行った男の子を加え37名。
 ひな壇下部に船長が立ち、傍らにレムリアが通訳。
「私は本船の船長、アルフォンススです。本船の漂着に関し皆様に温かく対応頂きましたこと、まずはお礼申し述べたい。その上で、本船は駆動力を回復したため、この地を離れ、生存者の捜索と傷病者の救護に向かいたい。そのお許しを願うと共に、皆さんを所定の避難地に送り届けることといたします。ご承知願えますか」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-109-

←前へ次へ→

 
 後は現実なのか、意識の中だけの出来事なのか、区別が付かない。
 医師の手を払いのけたようである。乳飲み子を狙われた母猫のように、誰にも奪わせない、という激しい気持ちがあった。それこそ猫が引っ掻くように、医師の手を拒絶した。
 そして、彼女は友を抱き留めた。覆い被さって抱え込んだ。頬をすり寄せ、手のひらで触れ、その体温を感じようとした。
 一緒にいよう、と呼びかけた。一緒にいたい、と願った。
 使者である自分と一緒にいるならば、何も失うものはない。
 失うものがあるとしても、自分ならば補充できる。
 お願いがあります……声なき声を、姿なき存在へ向けて、彼女は発した。
 私を元の姿に戻すか、永遠の別れでもいいから彼女を元に戻して。
 ならぬ……拒絶する意志があった。
 ならば炎を下さいと彼女は欲した。融合し一つとなるための、溶かす炎を彼女は欲した。
 ならぬ。再び意志があった。だが、意志はそれを阻止できないとも判った。
 彼女は炎を欲した。
 次の瞬間、彼女は炎の中にあった。白く揺らめく炎が彼女を囲繞していた。それはガスコンロが描く炎のリングを白色とし、リングの中に降りたようであった。強い白い光の向こうで、病室内のディテールが揺らめいていた。
 良いのか、意志は心配と動揺を伴い彼女に問うた。それは、炎の出現が意志の支配を離れた結果であることを教えた。
 答えは一つであった。彼女は子を抱く母となり、両の腕に友の身を横たえて炎の中にあった。
 問う者の存在を正面に感じた。肉眼に映らない。だがそこには馬の脚があり、馬車の車輪がある。ただ、頭を上げてその馬を、馬車に座したるであろう者を、見ることが出来ない。許されていない。
 問いに対する意思の開示を許可される。彼女は即座に肯定の意志を伝える。あなた様のお気持ちに見える心配の結果になっても構わない。引き替えに全てを失って構わない。この願い叶うならば、他の何も要とはしない。この命すら要ではない。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-096-

←前へ次へ→

 
「レムリア生命保持ユニット。監視権限移譲します」
 自分もピンを送る。操舵室における自分の責務は監視システムのチェックと、各種超感覚を駆使した周囲の監視だが、今はムリ。委譲すなわち“誰か頼む”。
『判りましたレムリア。相原さんとわたくしで分担します』
 セレネから答え。
 やりとりに医師が目を見開く。
「映画みたいだな」
「船を動かします。普通に海上航行になるかと思いますが、しばらくは指示に従って頂きたく」
「了解!」
 医師は敬礼をして応じた。
 再度操舵室。
「レムリアピン有り了解。総員及び乗船者各位、これより本船はミッション実行準備を行う。相原翻訳せよ」
「はい」
 船長の物言いは英語である。相原の耳には日本語訳で届いている。
 相原は立ち上がり、ひな壇状になっている操舵室を振り返った。
「皆さん、これから船のエンジンを起動し、動かします。そのままの位置で結構です。船長どうぞ」
「了解。各員担当システム状態について喚呼報告せよ。シュレーター。電源確認」
「制御電源安定。主電源準備ヨシ」
「ラングレヌス。機関状態」
「ギフォード・マクマホン・サイクル動作正常。液体窒素温度70ケルビン。INS(いんす)予冷装置電源断。燃料反水素容量2パーセントチャージ。残容量20パーセント読替設定」
「アリスタルコス。防御システム」
「光圧シールド電源断。作動させますか?」
「作動しなくてよし。断のまま航行する。副長PSC状態報告」
「PSCシステム健全。主管制と通信成立」
「各員了解。船体制御系全準備状態確認。起動シーケンス。正面スクリーン投影」
 大画面はこの“島”沿岸数件の家々と周囲の人々を映している。
「相原。探知システム」
 報告を要求され、相原は本来レムリアが座っているコンソールで液晶画面をタッチ。
「船内外カメラ・センサ健全。トレーサ001引き続き追尾中」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-095-

←前へ次へ→

 
 日本の技術は緻密というイメージがあったが“うまく行かない場合ガタガタ”になるのは、自分の経験範囲だと例えば“いじめ”への対処とか、散見される。海外だと盤石な部分が信じられない程脆弱だったりする。“うまく行って当然”への慣れか。
「手が止まってるぞ。鉗子」
「すいません」
 手術完了と反水素ユニットの機関接続、そのための予冷完了はほぼ同時であった。
『保持室。手術状況連絡請う。こちらはもう終わる』
「術式完了。大きなものでなければ振動や騒音は問題ありません」
『了解した』
 操舵室は答え、動く。
「総員配置良いか」
 船長は問いかけた。大きなスクリーン直下の主コンソール各所に、大男二人、広い額が特徴のドクターシュレーター、相原が座す。船長席はひな壇状に並ぶ、コンソール群最上段、船長席に座る。
 ひな壇コンソールは普段誰も座っていない。今は避難した皆さん。なお、ひな壇部は机だけで操作表示機器は組み込まれていない。本来目的は大所帯で移動しながら、であるが、まずは救助船として6名乗務。
「相原レーダ席配置ヨシ」
「ラングレヌス機関監視配置ヨシ」
「アリスタルコス防御システム配置ヨシ」
「シュレーター操舵席配置ヨシ」
「副長超感覚配置ヨシ」
 全員が喚呼(※喚呼:かんこ……声に出して確認しながら操作を実施すること)。
 避難した方々は興味津々。
 とりわけ男の子にはそわそわした動きと瞳の輝きが見られる。今、目の前で展開されているのはアニメの船艦出撃そのものであるからだ。
「よろしい。総員、ミッション実行準備」
「了解」
 各員答え、耳の穴に指を押し込む。押し込まれた通信機のボタンを押し、装着していることを返したのである。
 ピン5本をレムリアは保持ユニットで相次いで聞く。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-108-

←前へ次へ→

 
 双方の瞳へ光を当て、瞼を指先で閉じ、ライトを、消灯した。
「残念、です……」
 医師は、落胆したように小さく告げた。
 3人とも言葉が出ない。今、ひとつの命が終わったことを認識できない。自分たちの娘を、友を、失ったことを認識できない。
 父親が、腰が抜けたようになり、床の上に座り込む。
「由紀子……」
 母親がベッドの傍らに膝をつく。そして口元をわななかせながら我が子の顔をじっと覗き込む。
 医師は何も言わない。ただ顔を伏せ、下唇を噛んでいるだけ。
「由紀子……ちゃん」
 エリアは呼んだ。
「由紀子ちゃん。ね、嘘でしょ」
 エリアは続けて呼ぶ。由紀子はそこに寝ている。人相は変わったけれど、泊まりっこしたときと同じ、静かな、優しげな顔で。
 そして、呼べば彼女は起きた。
「由紀子ちゃん。由紀子ちゃんって。起きて由紀子ちゃん。私だよ。エリカだよ」
 返事は、ない。
 認識せざるを得ないのだろうか。
 否定することは出来ないのだろうか。
 時を戻す術はないのだろうか。
 夢であるなら、誰かそうだと言って。
 全身を覆う鳥肌。
 母親が、泣き崩れてしまった。
 由紀子の身体に顔を伏せ、聞いたことがないくらいに悲しげな声で泣き出してしまった。
 もう、誰も事実を否定することは出来なかった。
 
 由紀子ちゃんが、死んだ。
 
「いやあぁっ!!!」
 
 次の瞬間、エリアは自らを砕け散らせるように叫んだ。
 そしてその時、彼女は、何もかもを、自分の立場も、なぜここにいるのかも、忘れた。
 ただ、何より大切な友を失った一人の女の子であり、超絶の力を有する一人の使者に戻った。
 エリアは、仰臥する友の身体を抱きかかえに行った。
 腕を伸ばし、腕を広げ、ありったけの全てで友の身体を抱きかかえに行った。
 医師がそんな自分を止めようと腕を伸ばしたところまでは覚えている。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-094-

←前へ次へ→

 
 それは生命保持ユニット内のレムリアにも伝わった。なお、相原とシュレーターの会話の解説は省く。超伝導コイルとして作用する範囲を区分し、超伝導の及ばないエリアには通電しない。
 レムリアは耳に指をしてピン。動けるのはいいのだが。
「私です。緊急開胸手術中。振動は困ります」
『まだ動かさない。どのくらい要する』
 レムリアは医師を見、眼下の状況を見た。肺の中の異物を取り除く。似たような術式自体に立ち会ったことはある。
「あと2時間」
 そこで船の警報が作動した。ピン2発。次いで合成音声『空中放射線の強度が上がっています』。
 放射線。例の原発か。
『ベータ線?近いのか。相原判るか?』
『フクイチ(福島第一原子力発電所)がベントをすると言ってました。成功して出たか失敗して出たか。ベータ線だし距離は出ない。由来セシウムで近場へ来たモノと考えます。検出方向探査中。警報ポリシーレベル平準値に比して有意。モニタリング継続し上昇傾向あれば本船近辺の皆さんに待避を促します』
 手術中の保持ユニットに聞こえる会話。
「放射線かね」
 佐橋医師が問うた。一般に手術中の私語はあり得ないが、事態の重さが口を動かしたようだ。
「ええ、原子力発電所が電気が届かず動けないとか」
 詳細を聞くのは後の話であるが、脱力するほどの杜撰さに情けなくて泣けてきたのを覚えている。発電所のくせに自分の電源は外からもらうのだ。それがNGの場合に備えて自家発電設備を持つが、その設備が津波を被った。何故にと思ったが、建設許可を早く得るため、想定する津波の高さを低めに見積もったとか。結果としてそれは錯誤であり、何もかもダメにした。そのくせ、全てダメになった場合の最後の手段は特段無かったというのだから恐れ入る。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-093-

←前へ次へ→

 
13
 
 天候に恵まれ応じた電力も得られ、機関復旧作業は順調に進んだ。船のエンジン自体、複数の冷凍機で絶対零度近くに保つのだが、その温度が目標に達すれば稼働可能と判断された。目標は午後4時だ。とはいえ摂氏200度以上温度を下げる。応じた時間が掛かる。
 自衛隊から急。子供だという。
『佐橋です。受け入れます』
 潮が引き、浜辺になった北側にヘリコプターを下ろしてもらう。
 担架に乗った男の子。
「ついでで申し訳ないんですが」
 大男二人が担架を船に運ぶ間、相原が砂浜の首塚について説明。手元の端末で動画を見せる。
「不当逮捕!差別!」
「やかましいわコソ泥どもが。殺されないだけありがたいと思え!」
 袋詰めのまま引き渡す。
「確実に警察に」
「よろしくお願いします」
 ヘリコプターが去って相原は船に戻る。
 操舵室に入り、レムリアの隣席で次々と機器を操作。画面を立ち上げ正面スクリーンの画像を入れ替え。
 耳の穴に通信機。
「ドクターシュレーターそろそろと思いますがどうでしょう」
『おお相原か。接続中だ。そこで取れる計測値を教えてくれ』
「GMサイクル1から4番運転電力、ヘリウム入出力温度、圧力、流速。いずれも管理値内。反水素ユニット内部温度2.8ケルビン維持。主加速コイル温度センサ160、100、78ケルビン」
『接続OKだ。しかしコイルは偏りがあるな。壊したか。回ってないだけか』
「どっちもあり得ますね。ただ、ハイドロならハーフカット駆動で十分かと」
『速力が確保できんぞ』
「どのみち出せませんから……ガレキや、ご遺体を傷つける」
『なるほど。コイル冷却配管とSC線の仕切りが出来るか?』
「やっておきます」
『それなら1時間繰り上げだ』
「了解。総員、主加速コイルを25パーセント出力で駆動する。最大速力は20ノット。3時には航行可能」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-107-

←前へ次へ→

 
 しかし。
「わ……」
 エリアは目を円くし、思わず声を出す。
 人相が変わってしまっているのである。むくんで膨れた顔。血の気のない肌の色。
 むくんでいるのは抗生物質の副作用。
 その時。
 計器がピーという無機的な電子音を発し、赤ランプを点滅させる。
 何が起こったか、訊くまでもなかった。
「吉井君」
 医師が一行を先導してきた看護師を呼ぶ。その傍ら、由紀子の腕を取って脈を見、次いで布団を取り、浴衣姿の由紀子の胸部に手のひらで触れる。
 呼吸と鼓動の確認。
「心肺停止」
「反応ありません」
 医師が言い、看護師が計器を見て続けた。
 医師は頷いた。
「電気」
「はい」
 その声に看護師がベッドの下から何やら取り出す。小型クッションと、そこから伸びたケーブル。
 電気ショック(除細動装置)の電極パッド。
 二つのパッドを浴衣の下へ入れ込んで肌に貼り付ける。更に付属ケーブルを伸ばし、心電図が表示されている装置に接続。
「完了しました」
 看護師が報告。
「了解。1回目」
 医師が喚呼し、装置の大きな赤ボタンを押す。
 ビーというブザー。
 電気が流れたのだろう。由紀子の身体が大きく跳ねるように動き、心電図の波形が大きく乱れる。
 しかし鼓動を示すリズミカルな波形には戻らない。
 看護師が手動ポンプを由紀子の口にあてがい人工呼吸。
「2回目」
 医師の声に看護師が少し離れる。
 再度ブザー。波形の乱れ。
 変化なし。
「……最後です。3回目」
 医師は目を閉じ、息を詰め、両手で、ボタンを押した。
 ブザー。
 そして波形の乱れ。
 由紀子の身体が跳ねて、止まる。
 ベッドの脇から腕が垂れる。
 垂れた腕から輸液管が抜け、液が床にポタポタ。
 波形。
 横一線。
 少しの時が流れた。
 医師は、再度呼吸と心拍を確かめ、次いでペンライトを取り出し、閉じられた瞼を開き、瞳を照らした。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-092-

←前へ次へ→

 
 彼女はその怯える目を一つずつ睥睨し、
「黙ってろ。お前らもこうするぞ……船長終わりました」
『了解。相原君、彼らは特定の国からの侵入とみられるが、こんななのか、彼らは』
「こんなですよ。カネのためには手段をいとわず良識や恥という概念は通用しません。うそつき、泥棒、乞食です。ウチの会社にも2倍で買うとか言って取引持ちかけて来ますが、こことのビジネスは外為法を盾に片っ端からお断りしてます。すると仕舞いに直接会社まで押しかけて脅してきます。ワタシ闇に通じますって教えてくれるんだからありがたい。だから殺せってんですよ。非常事態だどうせ捜査なんかされやせん」
 巨大な銃器を担いで「殺せ」と言い放つその男の瞳は冷酷であり、平和な国日本の男、自分を愛す穏和な男の姿では無かった。ただ、この銃器達は救助用であり、人体センサーによって“殺人”はできない。
 私は彼をそこまで変えたか……彼女が見ていると、冷酷な瞳は鈍く光るような笑みを刻んだ。
「ショックか?でも父親って家族のためなら殺すぜ。自分の家族と服役、どっちを選ぶよ」
「サムライ、か」
 大男ラングレヌスの指摘にレムリアはハッとした。
「それはどうでしょうか。ただ、お前はオレの女だ。やれることは皆やるさ。さてエンジン復活させるべ。発電機の燃料がそろそろヤバイ」
『相原それなら大丈夫だ。船のソーラから電力回してGM運転してる』
 これはシュレーター。
「了解。多分夕刻には動けるようになると思う。医師、警察か自衛隊と組んで近場で病院船が欲しそうなところを探すんだ」
 レムリアは相原をじっと見、途中で自分への指示だと気付いてハッと我に返った。
「は、はい」
「笑顔で行こうぜ」
 ニヤリと笑う。唇の端に含んだ強気は模した顔文字そのものである。
 そして理解する。日本が過去数千年、起きたであろう類例大災害を越えて国家国体を維持し続けていられる理由。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-091-

←前へ次へ→

 
『第1マストで蓋をしろ』
 船長指示で大男二人が銃を置いて動く。二人がかりでマストを抱きしめるようにして持ち上げ、帆膜の向きを変え、甲板柵の上から船外へ捨てるように投げる。マストは倒れるが、帆膜が風圧を受けるため、ゆっくりと傾く。すると、動きがもどかしいのか男達はその上に飛び込んで自分たちの体重を使って加速し、最後一陣の風を起こして帆膜を一帯にかぶせてしまう。
 薄いがそれなりの質量と“気圧”のため、並の人力で帆膜を持ち上げるのは難しい。押さえつけられた状態となり、人の形がもがいているのが判る。文字通り“一網打尽”である。
『7名を捕獲』
『遺体ザックに入れて首だけ出して埋めておけ』
 アルゴ号は救助が目的だが、当然、間に合わず、という場合はある。そうした時に備えて人体を包むザックを幾らか保有している。
 後は力任せの大男達の仕事。帆膜を縮めながら、出て来た順に袋を被せ、手足を拘束すれば何も出来ない。レーザガンを使って底を切り開き、頭だけ出す。
 帆膜の折りたたみが完了し、男6女1の砂に埋まった生首状態である。
 レムリアは首だけ女の前に立ちはだかった。異国語で何か喚くのを平手打ち。内容上は蹴り飛ばすに値したが。
 もっと怖いこと出来る。
〈全部追跡していると言ったはずだが?〉
 テレパスで叩き込んでやる。女は絶叫した。
 否発狂した。泣き喚き、首千切れるかと思うほど振り回し、地面に打ち付ける。砂地なので傷つくことは無いと思うが、繰り返せば砂が呼吸器に入って窒息しよう。
 それ以前にやかましい。
 大男に頼んで振り回す首っ玉拘束してもらい、額に手のひらを当てて失神させる。むち打ち症用のカラーをあてがい、今度こそ文字通りさらし首。
 男6は殺したと受け取ったようである。詰め込まれた袋の中で失禁している。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-106-

←前へ次へ→

 
 そして右へ左へ走ること30秒。“賃走”状態を解除。
「はいどうも」
 顔にしわの目立つ運転手は、車寄せに止めて言った。
「どうも」
 母親が機械的に金を払い、二人はタクシーを降りる。
 とはいえ周囲は当然真っ暗、無人。
 タクシーが転向して去り、少し離れた夜間出入り口の鉄ドアがキィと開いた。
 父親。
「急ぐんだ」
 急ぐ……その理由を、二人は絶対に聞こうとしない。
 小走りに父の元へ向かい、院内に入る。白い壁、白い蛍光灯、直角と直線の廊下の作り。文字と矢印だけの看板類。古く素っ気ないデザインは、こちらの建物が古い証。
 エレベーターを呼び、すぐにドアが開く。
「11階じゃ……」
 父親が8のボタンを押したのを見て、エリアが呟いた。
「違う。一般病棟に移った」
 父親が言う。でも、理由は言わない。
 言わないが、エリアには判る。
 それはすなわち。
 
“家族に会わせる”のに、ICUでは不向き。
 
 直面する現実に涙が溢れ出そうになる。背中が寒い。突如極北に放り出されたように背中が寒い。胴震いが出、歯が勝手にガチガチ鳴り出しそうになる。しかしエリアは歯を食いしばり、筋肉の勝手な動きを押さえつけようとする。それでも顎が動こうとするので両手で覆う。
 ご両親の方が、自分なんかより、もっと、ずっと、つらいはず。
 ううん、それよりも、由紀子ちゃん自身が。
 着床を告げるチンというチャイム。
 開くドア。待っている女性看護師。
 一行の顔を確認し、しかし何も言わず、ただ、会釈だけして足早に先導する。
 一番端の部屋。
 狭い部屋であり、中にはベッドがひとつだけ。心電図関係の計器があり、医師が傍らでそれをじっと見ている。
「どうぞ」
 医師のひとことで一行は室内に入る。ベッドの上に、いつもの眠りのように仰臥している由紀子。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-090-

←前へ次へ→

 
「おい姉ちゃん凜々しいな!」
 恥ずかしいというか、こんなもの扱い慣れてしまった自分はそれでいいのか看護師。
 それ以上に扱い慣れの域に達した日本のサラリーマン相原学。そうさせたのは、自分。
 だが、そんなのは後でいい。
『モードチェンジ』
 船長の声でイヤホンにピン、及び合成音声“FCS移譲”。
 銃器持つそれぞれが完了の喚呼とピン。FCS:Fire Control System。
『トリガせよ。以下、私が御する』
 船長は言ってみれば“電波で会話できる人間”である。
 現象としては以下となった。漁船が陸に上がり、“警官”たちが降り、本当の警官ではあり得ない“いきなり拳銃を手にする”状態になったと同時に、プラズマが発射(レムリアが持っているが、支えているだけで、トリガは船長の“思念”)される。火の玉が尾を引いて走り、漁船のエンジン部分を破壊。燃料が爆発し、きのこ雲が立ち上る。
 逃げる手段を断ち、“警官”たちが驚いて振り返った数瞬、不可視のX線とブルーのレーザが駆け巡り、各々手にした拳銃がドロドロに溶解。
『レムリア催眠。穴を見せるな』
「はい」
 レムリアが催眠術を使ったのはこの瞬間である。プラズマで地面に大きな穴をうがつ。それを認識させない。なるほど、落ちてしまえば術の効き目などどうでも良い。
 “警官”集団は、燃える漁船と手指の熱さにパニックになったが、逃げる余裕は与えない。散り散りになる前に、レールガンのアルミ塊を爆弾さながら周囲でドンドンと派手に破裂させ、盛大な土煙。
 避けるように逃げれば、追い立てられれば、プラズマがこさえた穴の中。
 パニックになっているので術はすぐ解け、中でもがく。ただし、もがけば周囲の砂が崩れて自らが埋まるだけ。
 ちなみにプラズマが穿った穴は井戸のように狭く、深い。落ちれば這い上がることはまず困難である。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-089-

←前へ次へ→

 
 だから、この女追い出すにも催眠よりは恐怖心を与えたつもりだったのだが。
 すると。
『数分も効けば充分だ。目の前の穴さえ感じなければいいんだ』
 それなら。
「わかりました」
 レムリアは頷いてピンを送った。
 すぐに船長から全員へピン。
『乗船者を操舵室へ案内し施錠せよ。銃器は甲板に据え、固定トリガで船の迎撃システムに任せろ』
「了解」
 船の内外にいた人々を避難させるのはわけもなかった。武装した強盗団が来る。の一言で足りた。パニックにならず、サッと順序よくスムーズに動いてくれるのは国民性か。
「おら達も手伝うか?」
 漁師だという男性が一言。
「いえ、今回の相手は銃器です。我々にお任せを」
 14の娘が背よりもデカい機体をガチャンコ言わせて答えるセリフかどうかはさておき。電源オン、使用者認証、視線照準同期中……。
「そう言うとは思ったけどよ。おめえさんたち、ずっとここにおられるわけじゃあるめ?おら達はおら達自身で守るよ」
 だから、今後に備えて相手を見ておきたい。見張りの位置検討や死角の洗い出しも必要。とのこと。
 聞いていたであろう船長からピン。
『拳銃弾くらいなら手持ちで避けられるだろう。レムリア、案内を』
「わかりました」
 武器庫にあった取っ手の付いた透明アクリルの盾を持ってもらい、甲板へ。
「おお、このプラスチックで防弾かい?」
「映画みてえだな」
「撃たれます。あちら向きにして背を低く」
「おお、すまん」
 その間に乗組員は銃器を並べる。船首にFELとプラズマ、レーザ、レールガン。いずれも甲板柵上に並ぶ柱の頂部、一見すると意匠の一部に見える球体が銃座になるので、そこに銃底をドッカとはめ込み、手先を添えて支えるだけ。
 質量のあるFELとレールガンは大男二人が、レーザは相原が、プラズマはレムリアがトリガを持った。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-105-

←前へ次へ→

 
 再び走り出す。堤防を駆け上がり、ドアの開いたタクシーの後席に身を折り曲げ座り込む。
「すいません道草しちゃって」
「何してたの?」
 少しきつい調子の母親の声。
 運転手が出発の可否を尋ね、母親が車を出すよう依頼する。
 車が走り出す。
「あの子が自殺しようとしたから止めてた」
 エリアは弾む息を落ち着かせながら、それだけ言った。
「え?」
「線路に立ってて電車が来て……どうにかなった」
 母親はまばたきを止め、しばらくの間エリアを見た。
“まただ”、母親がそんな感慨を抱いていることがエリアには判る。
 しかし、しかし今は、そんなことはどうでも良い。
「あの……それで……」
 エリアは意識を切り替え、恐る恐る訊いた。
「危ないらしいのよ」
 母親はボソッと事実だけを述べた。
 エリアはまぶたがピクリと震えた。全身の血が止まるような……これは、恐怖か。
「え……」
「一度心臓が止まったって……頭の中で出血して、血小板って組織をどんどん入れてるんだけど、そのHLAの絡みでうまく働かず、出血が止まらないと。手術するにも脳の下の方で、この首に近いところですごく難しいんだって」
 母親は自分のうなじの辺りを示した。脳底部、である。
 エリアは言葉が見つからない。
 可能であれば非難と糾弾を何者かに浴びせかけたい。抱えた病気の重さに加え、この事態、急坂を転げ落ちるような変化の加速度は何なのだ。
 入院したのはほんの昨日。それから今まで、わずかに一昼夜。
 48時間前。私は確かに彼女とトランプで遊んでいた!
 それが……それが……。
 なぜ?
 なぜ!!
 その後そのまま、二人とも何も言葉を発しない。ただ、タクシーは運転手の手慣れた操作で夜の街を病院へと向かう。
 夜間入場ゲートへ回る。入口の警備員に説明し中へ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-088-

←前へ次へ→

 
 知っていてまた来る?その意図は?
 テレパシーが感じているのは……憎悪……勝利……。
「学!」
『ウチの警戒監視衛星って奴が見てるよ。そっちにデータ送り込んでるから、船内メインに出せ』
 相原の指示は操舵室の大スクリーンのことであるが、保持ユニットの液晶モニタにも同じ画面が出た。
 衛星から超望遠で捕らえた船。乗っている制服多数。
「警官?」
『どこにサンマ漁船に乗って集団で来る警官がいるよ。アルゴ号が一時避難所状態なのは自衛隊経由で周知済みだ。無線持ってりゃ判る』
 相原の言葉より程なく、船の形状認識システムが多数の拳銃を検出する。
『死んだ警官から制服拳銃奪って襲撃だよ……ぶっちゃけ言うぞ、泥棒女の組織の仕返しだ。この手の輩は息の根絶たないと仲間を呼んで仕返しを繰り返す』
 レムリアは納得し、頷いた。実際、大なり小なり災害に乗じて“死亡した警官・自衛官の携帯武器を簒奪しての武装化”は念頭に置いておくべきかも知れぬ。平和な国日本だからこそ、そういう発想は出てこないが、だからこそ付け入る隙となる。
『オレもそう思うぜ』
 アリスタルコスが言った。二人の導く結論はこう。殺せ。
「でも……」
 論理的・物理的解決にはそうなろうが、殺人は殺人である。レムリアは強い抵抗を覚えた。
 夫となる者を罪人にするのか。
『捕らえておけばいいでしょう』
 セレネ、天の一声。続いて、
『穴掘って落とせ。レムリア。自由に攻めさせるから催眠術で穴が見えないようにごまかせ。その間に我々で穴を掘る』
 船長の即断。
「はい……いえでも月齢が……」
 月齢……レムリアの特殊能力は月の満ち欠けに左右される。満月前後が非常に強いが、半月から程無い今はサッパリ。
 催眠術の場合、“術の効いている時間”として現れる。他に幾つかパラメータが指摘できるが、要するに今は数分が限界。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-087-