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●連載タイプ(なし崩し的に量産実装)
(現在2編)
「桜井優子失踪事件」(最終更新【16】)(11/6)
「彼女は彼女を天使と呼んだ」
●短編集
(現在7編)
「町に人魚がやってきた」【1】【2】【3】【4】
(現在7編)
(現在18編)
(このページの最終更新11/7)
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【呼1】
「…ええ、はい」
現在の彼氏と元の彼氏とが存在する。それは優子自身から聞いて知っていたが、大人の世界を垣間見たようでちょっとドキッとした。
さておき、戻ってきた答えは「ごめんなさい」
「親として知ってなくちゃいけないんでしょうけど。前が前だしね。でもだからって……」
母君は目を伏せ、首を左右に振った。
「そうですか…」
理絵子は思わずため息をついた。確かに異性の友人掌握するのは親の責務とは思うが、だからって正面切って年頃の娘に聞くのはヤボというものだろう。
他にツテは。これで手詰まりなのか。
いや。
桜井宅の固定電話が着信し、電子音を響かせる。
テレパスの娘二人は、それが〝来る〟ことは、地震速報よろしく直前に判じたが、静寂を割いての聞き慣れない大きな音は、心臓に悪いことに変わりなかった。
結局3人は一様に驚き、次いで母君が慌てて立ち上がり、廊下へ。
その和な背中を見送る。
「何か感じる?」
理絵子は登与に訊きながら、ノートパソコンの画面を閉じた。
「電子的な手がかりはここまで」
無論、超常感覚が何か囁いたか?という問いかけ。
今ここに二人だけだから出来る会話。母君は理絵子の能力を知るが、まだ中身を聞かれたくない。
「…何も。ごめん。もう少し力になれるかと思ったのに。テレビの心霊探偵とか見てて能無しとか思ってたけど」
登与はしょげたように目を伏せた。
「私も無い。多分誰がやっても無理でしょう。何らかの状況で彼女は意識がない状態。彼女の〝考え〟が止まっている。私たちはアンテナと受信装置に過ぎないから、放送が止まっている状態では」
理絵子の発言に登与はハッと息を呑み、顔を上げ目を剥いた。
「意識がないってまさか…」
「いる。いるけど。見えない。だから、答えにならない」
それは確信。自分が慌てつつも、パニックまでにはならない理由。母君に言えない理由。
ただ、残された時間はそう多くない。
優子。あなたどこにいるの?
廊下から母君の声。受話器を片手に顔を覗かせる。
「あの……理絵ちゃん。千葉からだけど、代わってもらえないかって……」
「私、ですか?」
それは当然、理絵子の能力を踏まえての要望であろう。理絵子が千葉へ行ったと書いたが、その理由は端的には〝お祓い〟だ。
(つづく)
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自分だけ異邦人の気分。
「おじさん」
オレは鼻歌ハンドルのおじさんに訊いた。
「あんだよ」
「何でみんな人魚なのに驚きもしねぇんだ?」
「驚いてどーすっだ?お前」
その答えにオレが驚いた。
「だって人魚だぜ?いるわけがないってのがいたんだぜ?科学の常識を根底から覆す…」
「あに大げさ言ってっだおめぇは。干からびそうだから助ける。それだけじゃねぇか。科学の常識なんかどーでもええんだよ。干物にしたら世界中から非難だぞ」
いや、そーなんだけど、そーじゃないだろ。
どう言えばいいのか。
「人魚って現実を受け入れてるわけ?」
「おめ、さっきからおかしいぞ」
「だって人魚……」
「それが何かマズイんか?驚いたところでこのねーちゃん目を醒ますんか?目に見えてるモノをイチイチこれは本当けえ?とかインテリくせぇこと思ってるうちにどんどん干からびるぞ。おめぇには現実即応能力が身についてねーな。早くヨメ娶れ。父ちゃんやってるとなぁ、判断する前に考える余裕なんか与えられないこともあんだよ」
何だこの説得力。
言い返すセリフを考えるが、ジョン・カーペンターの映画みたいに殴り合いになっても困るし。それにまぁ、第一に考えるべきはこの人魚の命だろうから、ここで色眼鏡は邪魔だ。
オレはあっさり試合放棄した。そのうち岩窟のトンネルをくぐって、咲間診療所の看板「ようこそ!」
……病院にウェルカムボードが適切けえ?という話はさておき、診療所の前では先生と作間さんが待機している。ストレッチャー(車輪付きベッド)に、石けんのCMで乳タレントが入ってるようなバスタブを載せ、中では湯だか水だかゆーらゆら。
何だこの用意周到。
軽トラックを横に着ける。
「暴れてる……ようだが……?」
バシャバシャという音にコメント有り。ゆる~い声はここの医師、咲間花一郎先生、御年92。ひょろっとして白衣の上に聴診器。老眼鏡。頭は山崎豊子の超大作。
「マグロマグロ。人魚は寝とるよ」
おじさん軽トラから飛び降りながら軽く一言。確かにおじさんはちょいと早口だとは思うが。
(つづく)
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【鍵7】
しかし、祖父母宅には一度も姿を見せていない。
当然、どうやって、となる。理絵子が持っていた推論は。
訊きたい母君が捜査員氏と共に戻って来た。
「君たち何か判ったかね」
「ファイルの更新は13日前。連絡が取れなくなった日の1日前です。彼女が尋ねたのは製鉄遺跡を中心に下総6つ、上総も1つ。その後、安房へ向かうような示唆を残してレポートは切れてます」
理絵子の説明に捜査員氏は首を左右に振った。
「それは『それだけ行きました』だけに過ぎない。まぁ後々の捜索の邪魔にならないようにな。こんなコト本来は許されないんだが、お母様が仰るには、君たちが来てくれて少し動揺が収まったそうだから、今日の所は無罪放免にするがね。ではお母様、これは確かに」
「はい。よろしくお願いいたします」
捨て台詞を残し、書面を見せてポケットに戻し、捜査員氏は玄関へ向かう。
「ちょっとお送りしてくるわね」
「はい」
革靴が三和土を鳴らし、引き戸が開き、閉じる。
聞こえてくるため息一つ。
「嫌みな人……しょうがないんでしょうけど」
母君はそう言いながら部屋に戻ってきた。
「私一人で警察へ行くなんて心細くてしょうがなかったと思う。あんな言い方したけれど、そんなの嘘。あなたたちが来てくれて太陽が射したように違う」
母君は袖口を目に持っていった。
「何かあったら飛んできてくれる……とても幸せなこと……あなたたちにもきっといつか……いえ、そんなことがあっちゃだめね……ああごめんなさい調べ物邪魔して」
狼狽があり、突如センチメンタルになり。極端な感情の動き。
不安定なのである。この母君を一人きりに出来ない。邪魔だろうが真似事ママゴトだろうが、
自分たちが来たのは間違いではなかった。
「母親失格ね。何も把握してないし何も動けないんだもの」
「黒野さん何か訊きたいことがあったんじゃ?」
登与に言われて理絵子は思い出した。
「あのお母様すいません、優子の彼氏さんの連絡先をご存じないですか?」
それは体のいい話題転換にもなる。
「今の?」
母君は袖下から目を見せて尋ねた。
(つづく)
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水槽の上まで担ぎ上げ、さて。
「よし、入れろ」
「入れろって」
「ドッポン入れればいいが。他にどーすんだ」
「でも出来ればそーっと浮かべて……」
半分人間なんだし。しかし水槽の中を覗き込むと、水面は水槽の縁よりかなり低いところ。
「あにグズグズしてっだよ。魚ひからびたら死んじまうべよ。ホレ行くぞ」
おじさんは言うが早いか、人魚の魚の方を手放してポイッとやった。
いやそっちはサカナかも知れないがこっちはオンナそのものなわけで。
しかし脚立の上に立った状態でニョタイを上半身だけで支えるってのは重い。
あーだめ。
ドッポン。マグロが驚いて飛び上がってバッシャン。
人魚、仰向けの状態で微動だにせず沈んで行く。水面に落ちたくらいじゃ失神から回復しないってどんだけ。
って、水に飛び込むのは多分日常茶飯事。
「溺れてるみたいだ」
「ん?平気だ平気だ。人魚だし。ホレ、お前も乗れ。一緒に咲間(さくま)先生んとこ持ってくぞ。携帯かけろや。人魚持ってくで診てくれって」
おじさんは水槽のフタを戻し、脚立を畳んで荷台から飛び降りる。
「……判った」
オレは携帯電話掛けながら助手席へ。おじさんはエンジンを掛けて軽トラ発進。
隣の集落の咲間診療所。呼び出し3回。
『はい』
アニメの女の子みたいな可愛い声を想像して欲しい。ここの看護師作間(さくま)さん。
勤めて40年。
「あ、あの松浦の佐久間ですけど。えーとですね、人魚なんです」
よく考えたらすごい馬鹿なことを言ったオレ。
ところがどっこい。
『人魚かい。そら難儀だろう。乾かないように注意してやって。往診するかい?連れてくるかい?』
あっさり対応。
拍子抜けしてオレも普通に反応。
「連れて行きます。今その佐久間旅館のおじさんと一緒で、水槽に入れて輸送中ですわ。もうすぐ着きます」
『そうかい判った。先生に言って準備しておくよ』
「ああ、じゃあ、よろしく」
作間さんは電話を切った。
これ現実?
(つづく)
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【鍵6】
「さてお邪魔は消えました、と」
対する登与の物言いも大した物だ。「何も知らないタダの大人」という彼女の感想はあからさまであって、テレパシー使いでなくても気付く人は気付くであろう。そんな時の彼女の微笑みには魔女のような一面が覗く。
その根底には大人への敵視があると理絵子は知っている。超感覚の故もあり大人以上に物知りなのに、大人からの視線はいつも一緒。すなわち、通り一遍ステレオタイプの〝所詮子ども〟。
大人が小馬鹿に見える気持ちは判る。
「うわべばっかり。見ても?」
登与は言いつつ、理絵子の傍らに膝行(いざ)ってパソコンを覗き込む。
「もちろん。見解を聞かせて」
「判った。えーっと……」
理絵子は膝行って座位置をずれ、登与に画面の正面を譲った。登与は両手指でタッチパッドを器用に操作し、レポート文面を上下。
「まず単純にグーグルして、下総(しもうさ)のでいだらぼっち足跡由来とか製鉄遺構を回ってるね。その後は安房(あわ)へ行ってる。でも……安房ってもっと古いよ。日本武尊の頃」
高千穂登与は独り言のように呟くとネット地図を呼び出した。そして、あくまで私見と前置きした上で、
「彼女は製鉄遺構を巡るうち、何かヒントを得て、より起源に近い情報が必要と感じて上総(かずさ)、更に安房へ向かったんじゃないかな」
ここで少し説明を加える。千葉県は房総半島の南端側から旧国名が安房、上総、下総となる。東京から見ると上下逆のように感じるが、これは西国の人々が海路で半島先端から入ったためだ。伝承の時代、日本の中心は畿内であって、箱根以東は蝦夷と呼ばれる辺境。房総半島への上陸最短ルートは三浦半島より海路であった。ちなみにこの海路で日本武尊は愛する者を失っているが、その際詠んだ歌に由来する地名が「木更津」「袖ヶ浦」などである。
従って房総半島を先端へ向かうことは「過去」へ遡る。
なるほどと理絵子は頷いた。
「だとしたら余計に足が必要だね。房総半島って直線距離でも長さ100キロ有るから。電車の本数も少ないし」
知っているのは行ったことがあるから。
「一人で回るのは大変です、と。普通に考えたら、おじい様のお宅を基地にして、出来れば車で移動したくなるね」
登与の理解に理絵子は頷く。房総半島を広範囲に動くのであれば、祖父母宅を拠点に各遺跡へ行き来するのが効率良い方法であろう。一日二日で巡れる話ではない。現にここまでのレポートで2週分の休みを使っている。
(つづく)
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【鍵5】
「そうかい。しかし手がかり物件を勝手にいじり回すのは感心せんな。警官の娘って事と、警察ごっこは違うぞお嬢さん」
「パスワードを知ってますので。こっちの彼女は桜井さんが向かった心当たりについて詳しいですし」
理絵子は言った。流れるように言葉が出てくる。その感覚は〝出任せ〟に近いが。
その口から出任せこそ事実なのだと理絵子は気が付く。すなわち。
高千穂登与の知識範疇。
「ほう?心当たりかい?」
捜査員氏は唇の端に小さな笑みを刻んだ。小娘二人を小馬鹿にしているが、職業柄小耳に挟んでおいても良かろう。
高千穂登与が頷く。
「ええ。神話時代の遺跡巡りに行くと言って、そのまま帰ってない。そう伺いました。その方面はそれなりに好きですので、多少は力になれるかと……」
巫女と自覚するが故の興味と知識。
この娘は記紀時代の日本史に詳しいのだ。姓の高千穂は宮崎県の地名であり天の岩戸伝説で知られ、名の登与は卑弥呼の後継と記された少女と同じ読みである(作者註:元字の解釈より台与「とよ」説、壱与「いつよ」説双方あり。受験生各位に置かれては留意されたい)。
その名と、能力の故に、古代巫女の生まれ変わりと自覚し、神話伝承に目を通した。
あの直感の貫きがリフレインする。用意された今日の出会い。
二人は見つめ合い、小さな頷きを交わした。
しかし、彼女達の認識と逆に、捜査員氏の口から漏れたのは、呆れたような小さな息。
「その程度かね。まぁ参考にしておこうか。で?どこの遺跡だい?」
「千葉……」
「の、どこだい。千葉ったって遺跡が一つだけじゃなかろう」
「それを今、手がかりがないかとパソコンで」
すると捜査員氏は小笑い。……呆れたという感情表現とはいえ、真剣に困っている親の前で笑ったりするのは如何なものか。
「フ……悪いが子どもの遊びに付き合ってる時間はないんだよ。迷惑掛けるのもほどほどにな。……ったくとんだ貧乏くじだ。で、お母様……で、よろしいのかな?」
「え?あ、はい」
捜査員氏は二人を見限ったようで、母君に話を振ると、胸のポケットから折りたたまれた書状を取り出した。
〝捜索願〟(2009年冬以降名称変更)
「こちらのお嬢さんの父君から直々に仰せつかりました。ご記入いただきたく」
「は、はい。じゃぁ、ちょっと」
母君は二人に頭を下げ、廊下を出て居間へ向かった。
聞こえよがしの氏の声。マンガ気取りか何か知らんが勝手なことされては……まぁ何かあれば見つけものですからいいですけどね……サイバーに頼む手間が省けて……。
(つづく)
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「ベッピンだなぁ。乳もオレのかあちゃんよりでけぇ」
おじさんは上半身。脇の下に腕を入れて抱き上げる。
「前にも人魚を?」
オレは下半身。ヒレ持ったら破れそうなので、それこそマグロか、でかいタイみたいに脇に抱える。
「んなわきゃねぇだろ。お前人魚だぞ人魚」
じゃぁ何で当たり前のように反応するんだ佐熊のおじさん。
「ホレ乳ばっか見てねぇで運べ」
見てないって。
今は。
傍目には睡眠薬を嗅がせて略取誘拐。或いは共謀して遺棄。
警察が来たらどうしよう。
懸念は杞憂。どうにかこうにか軽トラの荷台に上がる。
「フタ開けるから持っとれ」
「持っ…」
持つってどこを。
しょうがないので縦抱っこ。波打つ金髪は塩水乾いてガビガビ。人体の部分は寒いのか鳥肌でザラザラ。そしてサカナの部分は乾いてウロコのとげが立つ。
「重い…」
「ひっひっひ。オンナの身体の重さを感じる豪華さを知らんけ。チョンガーは悲しいのぉ」
おじさんはバカにしながら水槽のフタを開けた。小さな円形のフタが3つ有るのは知っていたが、更に横の留め金を外すことで全体ががばっと外れるらしい。
中でばっしゃばっしゃ音がする。
「何かいるの?」
「マグロだ」
「一緒にして大丈夫かなぁ」
「大丈夫だべよ。どっちも海の生物だしよ」
オレは頷こうとしたが海の中にも食物連鎖はある。
〝彼女〟が生きてるマグロをガツガツ食うとは思わないが、マグロは肉食なわけで…
怖い考え。
「人魚気絶してるべ?動かないなら平気だよ。おめぇんなこと心配してやっぱりやめたって波打ち際にドッポン放り込むのか?ケガか病気かも知れねぇじゃねぇか。医者に診てもらうってのがスジってもんだろ」
「そう…だけど…」
何かズレてる気がする。しかし医者に診せたいのは賛成だ。脚立を2つ立てかけ、二人左右に分かれて担ぎ上げる。今度はオレが上半身。
(つづく)
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【鍵4】
次にレポートのドラフトが無いか探す。相談を受けた際、「体裁はどうでもいいので、まずは調べたことを全部書き出して」と彼女には提案した。タッチパッドに指先を滑らせ、スタート、最近使ったファイル、
するとワープロソフト「一太郎」にて作成したファイル「でいだらぼっち」が存在する。
開くと、尋ねた場所の日時と写真、現地の説明看板の写し、土地の人に尋ねた結果のメモ書き。
すなわち、彼女は千葉に出かけたことは出かけ、数カ所回った。
「これを…優子ちゃん一人で…」
母君は感慨深げに言った。
「優子、千葉まで行ってる事は行ってます」
プロパティを見たら最終編集は13日前。
クリスマス前から不在という母君の話と一致する。試験後の土日や、天皇誕生日周辺の連休を利用してここまで調べ、書いた、ということだろう。少なくとも言えることは、ここまで作ったのに、いきなり調査を放棄して云々は考えにくい。
「来る」
と言ったのは登与。
え?と尋ねながら、理絵子は登与が超感覚で察知したのだと確認した。何者かが、この家に来訪した。
警察。今、門扉の呼び鈴が押された。
ベル音。ジリリン。
「あら、ちょっとごめんなさい」
母君が立って退室する。警察は自発性が無い旨先ほど聞いたところだ。ならば、父親の差し金か。
「どちらさまで……はい、門は開けましたので中へどうぞ」
インターホンで母君が答え、部屋の二人に警察の方が、と声を掛け、玄関へ。
しばらくして玄関引き戸が開閉し、革靴が三和土を打ち、男の声。
「娘さんの部屋はどちらで」
「その明かりの漏れている……」
程なくアルミ襖の向こうに現れた長いもみあげの男。スーツをまとい、整髪料とタバコのニオイ。
少女二人は男を見上げる。二人して、敵だ、と視線に表したかも知れないが仕方がない。
何せ相手がこっちに好意を持っていない。
「何だね君たちは。学校はどうしたのかね。奥さん、関係ないのを勝手に入れてもらっちゃ……ああ、君があれか、黒野……」
不機嫌そうに矢継ぎ早。そして、自分の名が出る辺り、やはり父親の仕掛けか。
「はい、黒野の娘です。いつも父がお世話になっております。今日は学活だけですので、終わり次第心配して飛んできました」
理絵子はまずは尋常に答えた。
(つづく)
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冬の波打ち際。
ビンに入った手紙でも流れ着いていれば物語の始まりだが、オレの拾ったモノはちょいと違った。
一見したところでは鯉のぼりを下半身に穿かされたマネキン。
それにしちゃ上半身が妖艶に過ぎる。ここだけの話だが指先でつんつんした。
俯せだったので背中を。
柔らか。えっ?
「きゃ」
「わっ」
ぴちぴち跳ねる。巨大魚に食われる途中で海岸に打ち上げられたオンナという訳でもなさそう。ヘソから下は完全にサカナ。
砂の上に腕を立てて身を起こし、オレのことを見ていたが、程なく失神したか卒倒。
人魚、であれば、陸に上がるなんざ自殺行為だろう。
「ちょ、ちょっと待てよ」
水に入れなくちゃ。さりとて尾びれ掴んで海の中までズルズル引っ張って行くわけにも。
誰か手助けを、思って見回すと、防潮堤沿いの道を走ってくる軽トラック。
市場帰りの旅館のおじさん。荷台には活魚輸送用の水槽を載せている。
「おーい」
オレは道へ出て腕を振り、おじさんの軽トラを止めた。
「佐久間(さくま)の若いのじゃないか。どーしたいきなり」
おじさんの名前は佐熊(さくま)である。日焼けの顔はしわだらけ。白髪の角刈り、ねじり鉢巻き。
「あ、あれが」
「人魚じゃねぇか」
佐熊のおじさんはこともなげに言った。って人魚だぜおじさん。に・ん・ぎょ。
「生きてるのか?」
「多分。声出した」
「じゃぁ運ぶぞ」
「ど、どこへ」
「こいつの水槽に決まっとろうが。殺す気かオメエ」
「あ、はい…」
まるで溺れた我が子を助けるような気迫。
人魚慣れ?した感じはさておき、二人で砂浜に降り、前後に分かれて〝彼女〟を持ち上げる。裏返して仰向けにし、せーのでどっこいしょ。
(つづく)
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【鍵3】
ステレオの傍らには携帯電話の充電器があるが、そこに電話機はない。念のため再度発呼するも、お掛けになった携帯電話は…。
切る。それにしても物品が少ない。女の子として以前に、子どもとして物品が少なすぎる気がする。この部屋で子どもっぽいものといえば、押し入れの鴨居にハンガーで下げられたセーラー服一式。および、畳の上の手提げカバンと、きちんと畳まれたマフラー、添え置かれた手袋。
自室というより下宿、シングルユースのアパート、そんな感じ。
「好きに使ってくれていいのに、何故か遠慮しちゃってるみたいで。どうぞ座って」
母君はお盆に湯飲みとせんべいを載せて持ってきてくれた。電車の絵のあるパッケージで〝濡れせんべい〟とある。
「あ、これ、修理代が足りないからせんべい買ってくれって会社の奴ですね」
登与が言い、せんべいに手を伸ばす。
理絵子は部屋を見回しながら座卓に腰を下ろし、ノートパソコンの画面を開き、電源を入れた。
彼女は家出を繰り返すと母君は言った。対してこの整理されすぎた部屋は〝いつでも出て行ける〟様相を呈する。下宿の印象はそことシンクロする。
一方でキチンと準備された制服類は、彼女がここから、新学期の教室へ登校しようとしていたことを表す。
この表裏一体。
「アドミン権限で入る?」
パソコンの起動がパスワード要求画面で進行停止。基づく登与のコメント。
「大丈夫」
理絵子は答えてキーボードを叩く。パスワードはyuko_rieko。@が入って自分たち二人の出席番号。
他人様のパソコンの中身を見るなど日記や手帳を覗くに等しいが、現在ここにある、唯一の、彼女を追う鍵。
デスクトップの表示が整うまで待つ間に、登与がせんべいを千切って口に入れてくれる。濡れせんべいと名乗るだけあってふにゃふにゃ。ただ、味自体は程よい醤油と甘みでじんわり美味しい。
その柔らかさと程良い味に少し、ホッとした。
パソコンの準備が終わり、無線LANが接続完了と出た。まずメールを開いて受信操作。更に最近のやりとりをチェック。洋服屋のメルマガ位でヒントになるような内容のものはない。遺跡を調べると言っても、研究家や資料館などへ問い合わせ、まではしていないようだ。
のみならず、重要と思しきメールは見あたらない。確かに自分も彼女のパソコンアドレスにメールを打ったことはない。即座に知りたい重要なものは携帯で。気が向いたときに見る類はパソコンで。携帯は一通ずつ課金されるから当然と言えば当然だが。
(つづく)
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【鍵2】
母親は次第に早口になって声を震わせ、自身の頭を両手で抱え込むような仕草を見せた。
どうして良いか判らないのである。パニック寸前だ。
理絵子は唇を噛み、言葉を紡ぐ。
「私たちで動けるだけ動いてみましょう」
理絵子は母君の目を見て答えた。手をこまねいて見ている必要はどこにもない。
そして、自分の言ったこの言葉は、強い。
「ありがとう…」
母君に抱きすくめられる。
「あなたは、優子ちゃんの、優子ちゃんの、本当の友達…」
頬に感じる熱い流れ。
そこまでされる理由を理絵子は感じ取ったが、自ら開く扉ではない。
「ああ、ごめんなさいこんな寒いところで。お茶を出しましょうね」
案内され、玄関から入って廊下を行く。コンベンショナルな日本家屋のつくりであり、土壁、竹と木が組み合わされた仕切りなど目に付く。すり足で歩く母君の姿がなんとも似合う。
対して。
何よりの手がかりである優子の自室には鍵。
テンキー式のロックが襖と柱に組み込まれ、施錠されている。
日本家屋に不似合いな、女子中学生の自室に不相応な、最新かつ強固な鍵。
しかも木と紙で作られた真正の襖ではない。襖紙の意匠を施されたアルミ戸である。
更には敷居と鴨居に細工してあり容易に外れない。女の非力で蹴破ることも不可能。
「入っても?」
理絵子の問いかけに母君は一瞬も躊躇無く頷いたが。
「ええ、でも番号をご存知なの?これ…」
対し理絵子は母君の言葉が終わる前に、〝襖〟を引き開けた。
カラリと開く。テンキーを押したわけではない。ただ、手掛けに指を載せ、引いただけ。
「あら…閉まっていたと思ったけど。いいわ、中に入ってらして」
正直、お茶という気分ではないのだが、母君も何かしていないと落ち着かない気分なのは承知。
自分がそうなのだから。
中に入る。桜井優子と会うのは屋外が多いが、自室を訪ねたことが無いわけではない。
「これって…」
ギョッとした。中を見た登与の感想。
さあっと部屋から流れ出てくる冷たい空気。
1月初旬の東京多摩地区は最寒期…だけでは説明できない冷感がこの部屋にはある。
6畳間であり、小さな座卓と電気スタンド。ノートパソコン。カラーボックスには教科書が収まり、その天板上にはポータブルステレオ。
(つづく)
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【鍵1】
桜井家は住宅街の最奥に建つ大きな邸宅である。その千葉在住祖父殿が実力者で、方々に土地と人脈を持つ。
潜り戸に瓦葺きという門を通ると、玄関にたどり着くには庭園を横切る要がある。しかし、街路の角を曲がり、門の構えを視界に捉えた時点で、和服姿の女性がその前に立っていた。
結い上げた髪に白髪混じり。桜井優子の母親である。理絵子の父母と〝ひとまわり〟年齢が違う。
「ああ、理絵ちゃん」
母君が理絵子たちを見つけて声を掛けた。小走りで向かって来ようとする姿が危なっかしく、逆に理絵子たちの方が走った。
「優子が、優子が、あなたといるとばかり…あらそちらは?」
母君は、理絵子の両の手を手のひらで包みながら、高千穂登与に目を向けた。
「高千穂と言います。黒野さんから話を聞いて。心配で思わず一緒に」
高千穂登与は頭を下げた。長い髪がサラリと前に落ち、身を起こしながらすくい上げる。
その所作にはそれこそ巫女・依り代の神秘的な雰囲気が漂う。
「あらそう…優子ちゃんは幸せね。でもあなた、学校は?」
「いいです。どうせ…」
登与は反射的に言って目を伏せた。それは、日蝕時の光足らない陰りに似て。
「さ、どうぞどうぞとにかく入って」
促され、庭園飛び石を歩いて行く。
「警察から何かコンタクトは…」
庭園の〝道中〟で理絵子は訊いた。
「電話はあったの。でもね…」
・まず捜索願を出せ
・手続きの方法
・受理したら全国の警察に情報が送られて
「見つかったら連絡しますって。探してくれる訳じゃないのよ」
そんなバカなと理絵子は思った。通話ログの調査、クレジットカードの履歴、Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の参照…聞き及ぶ不明者捜査と異なる。
それとも、その手の報道は一部の特別な捜索だけか。理絵子は父親に直接連絡しようとし、母君が繋いだ言葉に手を止めた。
「あの子、何度か家出したことがあってね。その度に…だから警察も『またか』って思ったんじゃないかしら」
つまり、オオカミ少年状態。
「でも、でも今回は違うの。何か違うの。あの子はあなたと出会って以降、一度も家出していない。だから絶対、あの子の意志じゃない。怖い」
(つづく)
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【覚4】
テレパシーで呼ばれたのである。金髪のイメージは理絵子へのメッセージ。己れは何者か。
当然、理絵子も彼女を知っている。この学校でそんな芸当が出来る娘は一人だけ。
その娘は、顔を上げた理絵子を見て、〝我が子を守る母ネコ〟という感想を持ったようだ。
対し、理絵子の感想を書くならば、クリスタルの無垢さを備えた細面。
高千穂登与(たかちほ・とよ)という。同学年で別クラス。巫女のような名だが、両親が願ったかどうかさておき、実際巫女のような能力を備えた。彼女とは先の北村由佳の件で対立したが、その後和解した。今は超能力つながりの理解者だ。金髪は二人が共有する秘密。
「私の心配は……」
登与は語尾を濁すように言い、学生カバンを持つ手をギュッと握りしめ、うつむいた。
事情を知らぬ者が二人を見ていたら会話が突飛に聞こえるであろう。登与は今、理絵子が浮かべた懸念に対し、言葉で答えた。
理絵子の懸念。
始業チャイムが鳴ってからの登校は当然遅刻である。だが、それには理由があって、なるべく他の生徒達と一緒になりたくない、というものだ。
登与は自らが霊能者であると公言していた。当初もてはやされたようだが、応じて言動が高飛車になったようで、次第に疎外されるようになった。
そこで理絵子と〝験比べ〟を呈す有様となり、吹聴するほどの霊能ではないと周囲は認知。今は級友達の視線が刺さって痛いので時間をずらしている、というわけだ。
「あなた自身大変なのになんで私に気を遣って……そんな優しい……」
登与は続けてそう言うと、ぽろりと涙ぐんだ。次いでカバンから左手を離し、目元を拭う。
彼女は桜井優子が失踪したと具体的に察知している。しかし、理絵子がそれでも自分の方を気遣っていると知り、心揺さぶられたようだ。
瞬間、意識を刺し貫くような感覚が理絵子を捉える。直感という矢が突き刺さり、貫き、同時に登与をも刺し貫いた。
二人同時に感じ取ったそれの正体。
私たちの、このたった今の出会いは、用意された。
抜け落ちたものへ抗うため、用意された。
「手伝っていい?」
波紋広がるようなイメージと共に、登与は訊いてきた。
力になりたいという強い気持ちが波のように広がり出ている。
もちろん、今ここで出会った意図を登与も感じ取ったのである。薄く笑みを浮かべ、その瞳は黒水晶のように深々と漆色に輝く。
「あなたには助けてもらった。あなたがいてくれるから私はそれでも学校へ来ようと思う。この瞬間が運命であるなら私はあなたをサポートしたい」
超感覚のコミュニケーションは不可思議そのものである。
そして、超感覚の答えは一瞬で明快だ。
「来て」
「うん」
(つづく)
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【覚3】
『理絵ちゃん?授業中じゃないのかい?』
驚きに満ちたマスターの声。
「優子が行方不明なんです。彼氏さんに連絡取りたいんですけど番号ご存じじゃありませんか?」
さすがにそこまで自分の携帯電話に記憶させていない。…入れたら入れたで優子としてもあまり気分のいいものではあるまい。
『あいつ……今日は技術講習会か何かで終日お台場だぞ。メール入れておく。他にメッセージは?』
「冬休み優子と一緒でしたか?って」
『判った』
伝言を託したので電話を切り、再度桜井家にかけ直す。マスターは過去に傷持つ男であり、理絵子との関わりは父親を介して、すなわち〝警察のご厄介〟である。珍走団の名誉会長みたいな役どころであるが、行き場のない心の相談相手でもあり、実質のところ更正活動と言って良い。
桜井家の電話は今度は繋がり、ベル音を聞く前に相手が取った。
『ああ理絵ちゃんねごめんなさい。優子が、優子が…』
お母様。いつも和服で上品なイメージであり、娘がいわゆる不良でも全く動じないという不思議な感性の持ち主。「大人になってからそんなことしたらアホだけど」
それは不思議な信頼関係を母娘の間に築いたようで、フラッといなくなっても、帰ってくる前にはきちんと連絡してくるという。
が、音信途切れて2週間。
『迷惑なのは判ってるの。でも、優子の一番の友達はあなただから…』
取り乱しぶりは電話を通じてというレベルではなさそうだ。探査行の詳しい予定や、同じく彼氏の連絡先を訊こうとしたのだが。
「警察には私の父を通じて連絡してあります。あの、今からお邪魔しても構いませんか?」
理絵子は思わず言った。この母親自身が心配に思えてきたのだ。親として当然の憂慮であろう、娘の関わる人間たちの向こうには、日の目を避けるアンダーグラウンドが繋がっているのは確かなのだ。
達観を装って常在した不安が、この母君の中で今、爆発している。
『いいの?いいの?来てもらえるの?だったら…待ってるわ…』
母君は言い、即座に電話は切れた。すぐ次の電話を掛けたのだろう。
ともあれ連絡が付いた。理絵子は携帯電話を閉じて小さく一息ついた。しかしそこで〝抜けた〟感覚がぶり返して戦慄を覚える。今それは危機感の象徴に変じている。超常の感覚持つクセに何も判らないという焦りと悔しさ。
振り払うように走り出そうとした時、制服スカートの影が視界を横切る。
「黒野……さん」
弦の震えに似た、澄んだ声と共に、超感覚にイメージ一閃。金色の髪の毛一束。
(つづく)
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その際に私をチラと見、
「……ああ、君、泥だらけじゃないか。洗濯するからウチへ」
「ちょっとあなた。こんな……大体なんでこの女が……」
口を挟んだ母上を父上は一喝しました。
「馬鹿者。どう考えてもこの方は豊を助けてくれたぞ。大体目下大事なのは豊の身体じゃないのか……申し訳ない。妙な体裁ばかり拘泥する愚妻で」
すると。
「……何さここぞとばかり偉そうに父親面して。ゆたかちゃん、大丈夫?この女に何かされなかった?あんな禁止の洞穴なんか」
母上は眉根を屹立させて夫君に反駁し、私を一瞥。
それから柔らかい表情を豊君に向け、頬に手を当てました。
「母さん……」
豊君は目を開けて、掠れた声を出しました。
「あらゆたか、なぁに。母さんはここよ」
「馬鹿……」
母君、絶句。
そこへ車が到着し、豊君を乗せます。
「ああ、毛布が欲しいなあ」
「こんなのでよろしければ」
私は手品の流儀であの糸玉を取り寄せました。
車の後席に押し込み、形を整え、豊君の身体を横たえて包み込みます。
「ど、どうやって。……まぁいい。ああ、暖かだ。冴子。この方にシャワーに浴びてもらいなさい。朝倉君、出して」
「はいっ!」
私と母上を残して、豊君を乗せた車は走り去りました。
もちろん、私としてはシャワーをお借りする気はありません。
「ねえあんた」
母上は私を見て言いました。
「はい?」
「ゆたか、急に家の前から逃げ出したのよ。あの穴に入ってたの?」
母君は顎で洞穴を示して言いました。洞穴入り口、有刺鉄線の柵の脇には看板が立っています。
私は超常の視覚でその字を読み取り、頷きました。
「ええ、何か怖い目にあったみたいで」
「ったく、クモ好きにも程があるわ。あんな気持ちの悪いモノ」
「彼のクモに関する知識は学者並みですよ。街灯のそばに巣を張るといった人間社会への順応や、繊維を高速で綴る仕組みなど、人間がクモから得られる知見は計り知れません。ああ、ちなみにさっきの毛布はそのクモの糸です」
「えっ!」
母上が驚いて車の方向を振り向いた途端、私はそこから姿を消しました。
最後に、洞穴の看板に書いてあった説明をかいつまんで書いておきます。
-土蜘蛛伝説-
古代この穴から人を食う大クモが出入りしていた。ある日英雄が現れて対決を挑み、クモは穴の奥に封じられた。土地の人はたたりを恐れて聖域とし、退治した田畑の昆虫を年に一度捧げた。禁足地につき立ち入るべからず。
管理社寺名
クモの国の少年/終
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【覚2】
「じゃぁ私から桜井さんとこ直接電話してみる。何かあったら。…判った」
電話を切り、担任代行に状況を説明する。級友達にはどうせ聞こえるのでそれで説明の代替とする。仮に心当たりがあれば嬉しいだけ。
まず背景として、著名なアニメで〝でいだらぼっち〟が出てきたのが全ての始まり。
「あれは古代製鉄につきものの伝説で、千葉は飛び抜けて足跡の言い伝えが多いと言ったら、面白そうって。足跡調べて自由研究にしようかなって。それで彼女、冬休みは千葉のおじいちゃんおばあちゃんのところへ行くって言ってたんですが」
「千葉にはいつまで?」
「それが、おうちの方の話では、千葉には顔を出してないそうです。それで私の家の方に来ていないかと逆に問い合わせがあった次第で。家はクリスマス前から空けているとか」
クラスがざわつき始める。事件性の認識と、しかし、相手が相手だけに少し距離を置きたい。そんな雰囲気。
現在理絵子として確認すべきは2点である。まず、彼女は実際に足跡調査に着手したのか。そのアニメを見に行ったのは期末試験後、冬休み向け封切り直後。
次に、調査していたとして、千葉県内を回る〝足〟はどう確保したのか。
思いつくのは年上の彼氏である。外見はともかく律儀な男であって、彼女と過ごした翌朝はクルマで校門へ直送して来る。もちろん、理絵子の〝アリバイ要求〟を彼氏も良く理解してくれている。そのこともあって、理絵子は桜井優子の行方や挙動をリアルタイムで追ったりはしていない。
一般にクルマ持ちの彼氏がいるなら、広域移動が必要な場合は頼るのが自然だろう。自分ならそうする。体の良いデートの動機である。今回、彼氏は調査には同行していないのか。
「父親を通じて警察も把握していると思います。私は私で判る範囲調べてみようかと」
それはマンガよろしく中学生が授業サボって探偵ごっこ。
問答無用で却下されて当然だが。
「判ったわ。あなたも気になって学校どころじゃないでしょう。どうせ今日は学活だけだし、校長には私から言っておくからこのまま外れてくれていいわ。何か動いたら連絡頂戴」
担任代行は腕組みして若干、胸を張った。
それは教師の反応としては落第かも知れないが、大人の対応としては極めて心強い。
「判りました。ではお言葉に甘えて失礼します」
理絵子は頭を下げ、学生カバンだけ持って昇降口へとって返す。走りながら桜井優子の携帯に発呼すると〝掛かりません。電波が届かないか、電源が……〟。
次いで、始業のチャイム23秒を待ち、靴を履き替えながら桜井宅に電話。
話し中。思いつく限りの手がかりに電話をされていると見られる。
であれば、と発呼したのは学校近くの喫茶店マスター。
桜井優子とその彼氏を構成員に有する珍走団〝たこぶえ〟のリーダー。
当然、構成員達のたまり場であって、学生達は接近禁止が原則。
(つづく)
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「そうですか…でも、何か悪い気もするので勝手な行動を謝罪致します。お騒がせしてすいません」
レムリアはここだけは心から言い、支配人に向かって頭を下げた。すると支配人は滅相もないとばかりに手と首をパタパタ左右に振り、ウェイトレスに何事か手振りで指図した。
レムリアは、ここに戻ることさえ出来ればどうにでもなると、なんとなく楽観していた理由を洞察した。
大人達の事なかれ主義。
丸く収まれば、最初から何もなかったことになり、責任追及は発生しない!
程なく、二人の座るテーブルにゴージャス至極なプリンアラモードが運ばれた。
「どうぞ」
と、支配人。
「頼んで…」
「わたくしからの奢りです。姫君に余計なお手間を取らせたお詫びでございます」
何か悪い気もするが、断るのも不自然。
「いいんですか?ありがとうございます。あと、ちょっと資料を取ってきたいので、エレベータのカギを」
「かしこまりました」
レムリアはその後、普段持ち歩いている自分の活動記録…救援活動の自己レポートが収まった半導体記憶装置(USBメモリ)をあすかちゃんに渡し、電子メールのアドレスを教えた。
「パソに挿せば見えるはず。但し英語。そこは勘弁」
「もらっちゃっていいの?」
「コピーあるし、あなたなら持ってもらって構わない。またお会いしましょう」
「うん。楽しかった。あなたとの夏を忘れない」
二人は握手をして別れた。
そしてレムリアは夜会服に身を包み、晩さん会へ向かった。
9月に入ってから、あすかちゃんからメールが届いた。
やっほー\(^O^)/
元気?あなたとの大冒険、「魔法の姫様大脱走」ってタイトルで創作童話にして、自由研究の代わりに提出したんだ。そしたら「すっごいリアル」てほめられちゃった。
あと、レポート、訳しながら読んでる。あなたすごいね。とても一つしか違わないように見えない。
本物の魔法使いみたい。
ブリリアント・ハート/終
★魔法少女レムリアシリーズ(カッコ内の数字は原稿用紙換算枚数)
アルゴ・ムーンライト・プロジェクト(現在進行中 1000枚? HTML仕様 携帯不可)
ミラクル・プリンセス(280枚 HTML仕様 携帯不可)
マジック・マジック(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
魔女と魔法と魔術と蠱と(ココログ仕様)
ブリリアント・ハート(本作)
夏の海、少女(但し魔法使い)と。(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
東京魔法少女(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
Good-bye Red Brick Road(グッバイ・レッド・ブリック・ロード) (560枚 HTML仕様 携帯不可)
豊穣なる時の彼方から(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
博士と助手(但し魔法使い)と。(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
現在ここまで。以下、彼女次第!
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