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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

new最近の更新

・「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(4/19・毎週水曜昼12時更新)
最新→ -106-
目次

・【魔法少女レムリアシリーズ】「アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~」
(4/22・毎週火曜・土曜更新)
最新→ -091-
趣旨と前書き・目次

bookお話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
drama魔法少女レムリアのお話(現在15編)
night超感覚学級委員理絵子の夜話(現在6編)

●短編集
cafe大人向けの童話(現在10編)
heart01恋の小話(現在13編)
virgo妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
ng(分類不能)「蟷螂の斧」

penリンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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2017年4月22日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-091-

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『第1マストで蓋をしろ』
 船長指示で大男二人が銃を置いて動く。二人がかりでマストを抱きしめるようにして持ち上げ、帆膜の向きを変え、甲板柵の上から船外へ捨てるように投げる。マストは倒れるが、帆膜が風圧を受けるため、ゆっくりと傾く。すると、動きがもどかしいのか男達はその上に飛び込んで自分たちの体重を使って加速し、最後一陣の風を起こして帆膜を一帯にかぶせてしまう。
 薄いがそれなりの質量と“気圧”のため、並の人力で帆膜を持ち上げるのは難しい。押さえつけられた状態となり、人の形がもがいているのが判る。文字通り“一網打尽”である。
『7名を捕獲』
『遺体ザックに入れて首だけ出して埋めておけ』
 アルゴ号は救助が目的だが、当然、間に合わず、という場合はある。そうした時に備えて人体を包むザックを幾らか保有している。
 後は力任せの大男達の仕事。帆膜を縮めながら、出て来た順に袋を被せ、手足を拘束すれば何も出来ない。レーザガンを使って底を切り開き、頭だけ出す。
 帆膜の折りたたみが完了し、男6女1の砂に埋まった生首状態である。
 レムリアは首だけ女の前に立ちはだかった。異国語で何か喚くのを平手打ち。内容上は蹴り飛ばすに値したが。
 もっと怖いこと出来る。
〈全部追跡していると言ったはずだが?〉
 テレパスで叩き込んでやる。女は絶叫した。
 否発狂した。泣き喚き、首千切れるかと思うほど振り回し、地面に打ち付ける。砂地なので傷つくことは無いと思うが、繰り返せば砂が呼吸器に入って窒息しよう。
 それ以前にやかましい。
 大男に頼んで振り回す首っ玉拘束してもらい、額に手のひらを当てて失神させる。むち打ち症用のカラーをあてがい、今度こそ文字通りさらし首。
 男6は殺したと受け取ったようである。詰め込まれた袋の中で失禁している。
 
(つづく)

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2017年4月19日 (水)

天使のアルバイト-106-

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 そして右へ左へ走ること30秒。“賃走”状態を解除。
「はいどうも」
 顔にしわの目立つ運転手は、車寄せに止めて言った。
「どうも」
 母親が機械的に金を払い、二人はタクシーを降りる。
 とはいえ周囲は当然真っ暗、無人。
 タクシーが転向して去り、少し離れた夜間出入り口の鉄ドアがキィと開いた。
 父親。
「急ぐんだ」
 急ぐ……その理由を、二人は絶対に聞こうとしない。
 小走りに父の元へ向かい、院内に入る。白い壁、白い蛍光灯、直角と直線の廊下の作り。文字と矢印だけの看板類。古く素っ気ないデザインは、こちらの建物が古い証。
 エレベーターを呼び、すぐにドアが開く。
「11階じゃ……」
 父親が8のボタンを押したのを見て、エリアが呟いた。
「違う。一般病棟に移った」
 父親が言う。でも、理由は言わない。
 言わないが、エリアには判る。
 それはすなわち。
 
“家族に会わせる”のに、ICUでは不向き。
 
 直面する現実に涙が溢れ出そうになる。背中が寒い。突如極北に放り出されたように背中が寒い。胴震いが出、歯が勝手にガチガチ鳴り出しそうになる。しかしエリアは歯を食いしばり、筋肉の勝手な動きを押さえつけようとする。それでも顎が動こうとするので両手で覆う。
 ご両親の方が、自分なんかより、もっと、ずっと、つらいはず。
 ううん、それよりも、由紀子ちゃん自身が。
 着床を告げるチンというチャイム。
 開くドア。待っている女性看護師。
 一行の顔を確認し、しかし何も言わず、ただ、会釈だけして足早に先導する。
 一番端の部屋。
 狭い部屋であり、中にはベッドがひとつだけ。心電図関係の計器があり、医師が傍らでそれをじっと見ている。
「どうぞ」
 医師のひとことで一行は室内に入る。ベッドの上に、いつもの眠りのように仰臥している由紀子。
 
(つづく)

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2017年4月18日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-090-

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「おい姉ちゃん凜々しいな!」
 恥ずかしいというか、こんなもの扱い慣れてしまった自分はそれでいいのか看護師。
 それ以上に扱い慣れの域に達した日本のサラリーマン相原学。そうさせたのは、自分。
 だが、そんなのは後でいい。
『モードチェンジ』
 船長の声でイヤホンにピン、及び合成音声“FCS移譲”。
 銃器持つそれぞれが完了の喚呼とピン。FCS:Fire Control System。
『トリガせよ。以下、私が御する』
 船長は言ってみれば“電波で会話できる人間”である。
 現象としては以下となった。漁船が陸に上がり、“警官”たちが降り、本当の警官ではあり得ない“いきなり拳銃を手にする”状態になったと同時に、プラズマが発射(レムリアが持っているが、支えているだけで、トリガは船長の“思念”)される。火の玉が尾を引いて走り、漁船のエンジン部分を破壊。燃料が爆発し、きのこ雲が立ち上る。
 逃げる手段を断ち、“警官”たちが驚いて振り返った数瞬、不可視のX線とブルーのレーザが駆け巡り、各々手にした拳銃がドロドロに溶解。
『レムリア催眠。穴を見せるな』
「はい」
 レムリアが催眠術を使ったのはこの瞬間である。プラズマで地面に大きな穴をうがつ。それを認識させない。なるほど、落ちてしまえば術の効き目などどうでも良い。
 “警官”集団は、燃える漁船と手指の熱さにパニックになったが、逃げる余裕は与えない。散り散りになる前に、レールガンのアルミ塊を爆弾さながら周囲でドンドンと派手に破裂させ、盛大な土煙。
 避けるように逃げれば、追い立てられれば、プラズマがこさえた穴の中。
 パニックになっているので術はすぐ解け、中でもがく。ただし、もがけば周囲の砂が崩れて自らが埋まるだけ。
 ちなみにプラズマが穿った穴は井戸のように狭く、深い。落ちれば這い上がることはまず困難である。
 

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2017年4月15日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-089-

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 だから、この女追い出すにも催眠よりは恐怖心を与えたつもりだったのだが。
 すると。
『数分も効けば充分だ。目の前の穴さえ感じなければいいんだ』
 それなら。
「わかりました」
 レムリアは頷いてピンを送った。
 すぐに船長から全員へピン。
『乗船者を操舵室へ案内し施錠せよ。銃器は甲板に据え、固定トリガで船の迎撃システムに任せろ』
「了解」
 船の内外にいた人々を避難させるのはわけもなかった。武装した強盗団が来る。の一言で足りた。パニックにならず、サッと順序よくスムーズに動いてくれるのは国民性か。
「おら達も手伝うか?」
 漁師だという男性が一言。
「いえ、今回の相手は銃器です。我々にお任せを」
 14の娘が背よりもデカい機体をガチャンコ言わせて答えるセリフかどうかはさておき。電源オン、使用者認証、視線照準同期中……。
「そう言うとは思ったけどよ。おめえさんたち、ずっとここにおられるわけじゃあるめ?おら達はおら達自身で守るよ」
 だから、今後に備えて相手を見ておきたい。見張りの位置検討や死角の洗い出しも必要。とのこと。
 聞いていたであろう船長からピン。
『拳銃弾くらいなら手持ちで避けられるだろう。レムリア、案内を』
「わかりました」
 武器庫にあった取っ手の付いた透明アクリルの盾を持ってもらい、甲板へ。
「おお、このプラスチックで防弾かい?」
「映画みてえだな」
「撃たれます。あちら向きにして背を低く」
「おお、すまん」
 その間に乗組員は銃器を並べる。船首にFELとプラズマ、レーザ、レールガン。いずれも甲板柵上に並ぶ柱の頂部、一見すると意匠の一部に見える球体が銃座になるので、そこに銃底をドッカとはめ込み、手先を添えて支えるだけ。
 質量のあるFELとレールガンは大男二人が、レーザは相原が、プラズマはレムリアがトリガを持った。
 

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2017年4月12日 (水)

天使のアルバイト-105-

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 再び走り出す。堤防を駆け上がり、ドアの開いたタクシーの後席に身を折り曲げ座り込む。
「すいません道草しちゃって」
「何してたの?」
 少しきつい調子の母親の声。
 運転手が出発の可否を尋ね、母親が車を出すよう依頼する。
 車が走り出す。
「あの子が自殺しようとしたから止めてた」
 エリアは弾む息を落ち着かせながら、それだけ言った。
「え?」
「線路に立ってて電車が来て……どうにかなった」
 母親はまばたきを止め、しばらくの間エリアを見た。
“まただ”、母親がそんな感慨を抱いていることがエリアには判る。
 しかし、しかし今は、そんなことはどうでも良い。
「あの……それで……」
 エリアは意識を切り替え、恐る恐る訊いた。
「危ないらしいのよ」
 母親はボソッと事実だけを述べた。
 エリアはまぶたがピクリと震えた。全身の血が止まるような……これは、恐怖か。
「え……」
「一度心臓が止まったって……頭の中で出血して、血小板って組織をどんどん入れてるんだけど、そのHLAの絡みでうまく働かず、出血が止まらないと。手術するにも脳の下の方で、この首に近いところですごく難しいんだって」
 母親は自分のうなじの辺りを示した。脳底部、である。
 エリアは言葉が見つからない。
 可能であれば非難と糾弾を何者かに浴びせかけたい。抱えた病気の重さに加え、この事態、急坂を転げ落ちるような変化の加速度は何なのだ。
 入院したのはほんの昨日。それから今まで、わずかに一昼夜。
 48時間前。私は確かに彼女とトランプで遊んでいた!
 それが……それが……。
 なぜ?
 なぜ!!
 その後そのまま、二人とも何も言葉を発しない。ただ、タクシーは運転手の手慣れた操作で夜の街を病院へと向かう。
 夜間入場ゲートへ回る。入口の警備員に説明し中へ。
 

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2017年4月11日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-088-

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 知っていてまた来る?その意図は?
 テレパシーが感じているのは……憎悪……勝利……。
「学!」
『ウチの警戒監視衛星って奴が見てるよ。そっちにデータ送り込んでるから、船内メインに出せ』
 相原の指示は操舵室の大スクリーンのことであるが、保持ユニットの液晶モニタにも同じ画面が出た。
 衛星から超望遠で捕らえた船。乗っている制服多数。
「警官?」
『どこにサンマ漁船に乗って集団で来る警官がいるよ。アルゴ号が一時避難所状態なのは自衛隊経由で周知済みだ。無線持ってりゃ判る』
 相原の言葉より程なく、船の形状認識システムが多数の拳銃を検出する。
『死んだ警官から制服拳銃奪って襲撃だよ……ぶっちゃけ言うぞ、泥棒女の組織の仕返しだ。この手の輩は息の根絶たないと仲間を呼んで仕返しを繰り返す』
 レムリアは納得し、頷いた。実際、大なり小なり災害に乗じて“死亡した警官・自衛官の携帯武器を簒奪しての武装化”は念頭に置いておくべきかも知れぬ。平和な国日本だからこそ、そういう発想は出てこないが、だからこそ付け入る隙となる。
『オレもそう思うぜ』
 アリスタルコスが言った。二人の導く結論はこう。殺せ。
「でも……」
 論理的・物理的解決にはそうなろうが、殺人は殺人である。レムリアは強い抵抗を覚えた。
 夫となる者を罪人にするのか。
『捕らえておけばいいでしょう』
 セレネ、天の一声。続いて、
『穴掘って落とせ。レムリア。自由に攻めさせるから催眠術で穴が見えないようにごまかせ。その間に我々で穴を掘る』
 船長の即断。
「はい……いえでも月齢が……」
 月齢……レムリアの特殊能力は月の満ち欠けに左右される。満月前後が非常に強いが、半月から程無い今はサッパリ。
 催眠術の場合、“術の効いている時間”として現れる。他に幾つかパラメータが指摘できるが、要するに今は数分が限界。
 

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2017年4月 8日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-087-

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 なお、クエンチ(quench) とは、超伝導状態維持不可能を意味する。大出力のレーザ装置であり、電気抵抗を抑えるために超伝導状態を使っているほか、装置の冷却のために液体ヘリウムの温度を要求する。その液体ヘリウム温度の保持時間が5分ということだ。
(※当初の:相原は過去この船に乗り組み、秋葉原での不時着に居合わせ、船を現在の勤務先に修理のため持ち込んだ。そのとき外したパーツ等に基づいて復原している)
「GMサイクルは生きてますか?」
 相原はBishamonとロゴされた台車を引っ張り出しながら尋ねた。
1_000000004260
(Bishamon・参考)
 
「止めてある。再起動して最終温度がヘリウムに達するまで半日はかかる。それまでこのユニットは……」
「持ちます。このまま突っ込んでハイドロのコイル動かしましょう。アルゴは遅くても動いて価値あり……レムリア、こっちはこっちでやっておくからいいぜ」
「え?あ、うん」
 レムリアは医師を待ちぼうけにさせていたと気づき、生命保持ユニットへ案内する。
 船の方々をレントゲンでチェック。心肺や内臓の機能を確認。傷のある方には破傷風の予防注射。
 カルテを起こす。
「船の皆さんは健康だ。なるほど。であれば、この船を病院船に使いたいな。あと、姫君は出来れば放射線技師の資格を取って欲しい」
 医師は言った。
「そのためにエンジンを復活させようとしてるみたいです。際してはお手伝い頂く形になるかと。あと、私は正式に日本に帰化しまして、必要な国内資格は取得の所存です」
 レムリアは応じた。
「帰化?本当かね?」
「ええ、甲板の冴えない男がやつがれ……あ、ちょっと失礼」
 イヤホンにピン。セレネ。
 切迫感
「はい、何か……」
『トレーサー001。こっちへ来ますよ』
 遺体や空き家から金品宝石を奪い、体内に隠していた異国の女である。
 

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2017年4月 5日 (水)

天使のアルバイト-104-

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17
 
 呼び出し続ける携帯電話。
 だけどエリアは受けようとしない。
「あの……電話……」
 女の子が言う。エリアはポケットから、とりあえず出すだけは出した。
 表示されてる発信者は不動産屋。
 内容は判っている。病院に行っている由紀子の父から、待機していた母親に電話があり、母親がこちらに電話したのである。
 もちろん、“何かあった”以外の何ものでもない。
「……まさか!」
 女の子が気付いたようである。
 エリアは頷く。
 そして、諦めたように、通話のボタンを、押した。
「はい……」
『どうしたの?随分鳴らしたのに』
 性急な母親の声。極めてナーバスであることが判る。
「ごめんなさい」
『まあいいわ、あなた今どこ?』
「電車の橋のところ」
『由紀子と会ったところね。そこにいて。迎えに行くから』
「あの……由紀子ちゃん……」
『何も言わないで!……車の中で話す』
 質問を発しようとするエリアの言葉を、母親は強い調子で遮った。
 それはすなわち。
 訊かれたくないこと。
「判りました」
 エリアがそれだけ言うと、電話が切れた。
「あの……」
 女の子が心配そうにエリアを見る。
「私には何も出来ないかも知れない。でも、彼女のそばにいたい」
 エリアは女の子の目を見て言った。
 そう。たとえ電話がそれだとしても、目を背けようとは思わない。彼女の友達と自覚しているからこそ、きちんとそばにいてあげたい。
 友達だからこそ。
「生きるということは、とても素敵なことだよ」
 エリアは小さく笑って、女の子に言った。
 少しあり、路地の間からタクシーがゆっくり走り出て来た。
「エリカちゃん!」
 窓から母親が顔を出して手を振り、タクシーが止まる。
「じゃ!」
 エリアは女の子に手を振って走り出す。
「うん……あの、私……祈ってる!」
 女の子の声がエリアの背中に向けられた。
 エリアは一旦立ち止まり。
「ありがとう!」
 女の子にVサインで応じた。
 

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2017年4月 4日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-086-

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「陣中見舞いなんかじゃねーよ。アルゴ号自体の救援だい。ドクターシュレーター!」
 相原は左腕で息止まるほど強く彼女を抱え、無線をピンして操舵手の博士を呼んだ。相原も今やこの船の“船長代理”扱いであり、無線機は常時携帯している。
 その間に医師が自衛隊員に抱きかかえられて下ろされ、ヘリが飛び去る。別の病院へ行くという。
「左側に抗生物質やら何やら必要そうなの積んできた」
 相原はこれが組み立て式の倉庫であり、中に色々積み込んで持ってきた、と言った。
 レムリアは医師と共に倉庫左手のドアに向かう。一方、相原は操舵手かつ船の設計者、シュレーター博士の現れるのを待ち、倉庫のドアをレールから外した。
 右側。そこには轟々と唸る機械と、それらとパイプで接続された白い箱。周囲の空気が冷えたらしく、演歌のステージみたいに霧が流れる。
「反水素少し。前のバージョンに合わせたはず、です」
 相原は言った。
「おお」
 シュレーターは倉庫内機器類を見回し。
「初号のパーツか。なら行けそうだ。移設するには冷却装置から外して持って行けばいいが、何分持つ?」
「5分でレーザ発振機がクエンチします。外さずこのまま動かせると思いますが」
「重いじゃねぇか」
「ビシャモン持ってきてます」
 少し説明する。アルゴ号の主動力は光子ロケットである。強力な光を生成し、船尾のお碗型プレートに打ち付け、その圧力で前進する。これにより、地球の裏側まで6秒。宇宙空間では光速の99.975%という空想科学小説そのものの速力を有する。
 その燃料は“反物質”である。詳細は省くが、超伝導コイルで磁場を生成して閉じ込めたり、絶対零度近似の真空にレーザ光で原子1個ずつ保存などの方法で保管する。アルゴ号では当初水素の反物質である反水素(反陽子と陽電子のペアで構成)を使っていたが、保管電力が過大となるため、磁場で御せる陽電子だけに変更していた。相原が持ってきたのは当初仕様の反水素である。
 

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2017年4月 1日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-085-

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『佐橋先生。“あんパンの騎士”です。当社でヘリを手配しました。可能であれば先生の病院でピックアップさせていただいて』
『それはありがたい』
 話は決まった。
 小一時間掛かるというので、その間を利用し改めて船内避難者の健康を確認し、名簿を起こす。再確認の意を込め乗船者34名。このうち子供は全員小学生で8名。ここに学習塾が“あった”ことによる。いずれも子供用携帯を持っており、最小限の親との安否確認は済み。
 ただ、ひとり発熱している子がいたので、熱冷ましを飲ませてベッドへ。死線をくぐり抜ける極限のストレスであり、体調を壊すのは変ではない。
 食事を取る。温かいご飯と味噌汁、焼きたらこ。今日この時間、この地域で、こんな充実した食を取れる贅沢はあるまい。
 今日は体力を要するだろう。しっかり食べる。腹が減っては……とは相原に何度も聞いた。ただ、液晶画面とボタンが並ぶアルゴ号の自席コンソールで味噌汁とは思わなかった。
 後片付けしていれば1時間などすぐ経つ。
「ヘリだ」
 プロペラの音がし、船長が言った。船の識別装置が陸上自衛隊だと言って寄越す。機体前後に2つのローターを備えた大型ヘリだ。
 無線のやりとりでは、スペースがないのでホバリングしてロープで荷と人を下ろすという。風よけを兼ねて乗船者皆さんには船内に入ってもらって。
 医師に会うべく風の舞う甲板に上がると、予想だにしなかった作業服姿の相原。及びプレハブ小屋のようなものが下ろされたところ。
「学……」
 張り詰めていたものが一気に解けて、思わず走り出ししがみつく。それなりに気を張り、最高度の緊張感で事に当たっていたと改めて思い知らされる。
「何で来たの?……力が抜けちゃう。頼っちゃう。だめだよ……」
 

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2017年3月29日 (水)

天使のアルバイト-103-

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「徹底的に……生きる……」
 女の子がか細い声を出す。今にも割れそうな、薄いガラスのような、声。
「そう。ちょっと失敗したくらいで死ぬなんて馬鹿馬鹿しい。あなたには未来がある。そこに多くの出会いが待っている。その中にはあなたを理解してくれる人が必ず現れる。今、こうして私があなたに話していることが何よりの証明」
 エリアは女の子の両手を持った。
「生きていればいろんなことが出来る。だから、生きること。これが何よりまず大事なこと。……もう少し早くあなたと会えれば、あなたと私の友達、きっと仲良しになれたでしょうね」
 エリアは言った。
 女の子の目が円くなった。
「あなたの友達?」
「そう。私の友達……重い病気で今夜乗り越えられるかどうか」
「え……え……?」
 動揺が女の子を捉える。
 いきなり言うべき事ではないかも知れない。でも、躊躇なくエリアの口をついて出た。
 それは抱える思いを誰かに聞いてもらいたいという意識の反映かも知れぬ。しかしそれと同時に、“死”を考えたこの少女には、話しておくべきという意識も存在する。
「たくさんの生命維持の機械と、医師や看護師、移植医療の慈善団体が、24時間休まず、八方手を尽くして、彼女を助けようとしてくれてる。
 ひとりの女の子を救うために、ひとつの命を救うために。
 命とはそういうもの。消してしまうのは簡単、でも消さないようにするのはとても難しい。
 それでも……あなたは、あなたにそんなひどいことを言った彼のために、あなたの母から授かった命を絶ちますか?それほどの価値が彼にはあるのですか?」
 エリアは言うと、女の子を腕の束縛の中から解き、目の前に立たせ、まっすぐに顔を見た。
 ちなみにこの時、二人の服と髪はすっかり乾いていたのだが、二人ともそのことに気付いていない。
「あの……」
「何も言わなくていい。ただ、これだけは約束して。絶対死のうだなんて思わない」
「…約束します」
 女の子は、言った。
 エリアは笑顔を作った。
 これで多分、この彼女は大丈夫。
 携帯電話が、電子音で、エリアを呼んだ。
 

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2017年3月28日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-084-

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 タブレットに映る汚物まみれの姿を見せつける。破いたのでボロ布同然の衣服を首に縛り付け、髪の毛掴んで引きずって行く。乗って来たボートに叩き込んで押し出すと、プラズマの火の玉を一発間近にくれてやり、水蒸気圧力で遠くへ。
「操舵室。トレーサー001を女の膣内に仕込んだ。追尾願う。学、トレーサーの位置に衛星からビーム突っ込むとか可能?」
『合衆国にMTLでも借りればな。PVパネルフレアって奴なら故意に見せられるぜ。太陽電池が陽光を反射してギラリって奴だ。最も、こっちの警察サイバーに連絡したけどな。後で動画と拾った指輪くれ。今はコソ泥に警察力を割くタイミングじゃねぇ』(MTL:宇宙レーザ砲の一種)
「了解」
 答えて程なく、携帯電話に着信あり。また面倒ごとか、と思ったがそうではなかった。
 懐かしい番号が発呼者として表示されている。都内総合病院の小児科医師。名を佐橋(さはし)という。
 
12
 
「“姫”です。お久しぶりです」
 レムリアは笑みを作って応じた。懐かしさと、何故か安心感が筋肉を緩ませる。
『おお、番号合ってたか。良かった。実はだね。日本で大きな地震があってこれから応援で現地へ行くんだが、ここは是非君の力をお借りできればと思って……』
「それでしたら現在気仙沼近くにおります。病院船機能を備えた船で来てますので。先生に来ていただければパワー数倍」
『もう来てるのか!?まるで魔法だな』
「少し使いました。一応、自衛隊さんと接触して医師が欲しい旨は伝えたのですが。自衛隊筋にアルゴ号への派遣希望と申し出ていただければ」
 そこへ相原からピン。
『割り込んで申し訳ない……』
 レムリアがその病院に入院し、相原が付き添った関係で、医師と相原には見識がある。
 

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2017年3月25日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-083-

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 背後に駆け寄る足音二つ、程なくガチャッと音がし、長銃が二本、女に向いた。
 以下、分かり易いようセンテンスを刻んで警告。
「動くな。それを拾うな。全部録画している。警察に言う。お前に食わせるものはここにはない。情報は全ての避難所にばらまく。ここで死ぬか、日本から出て行くか選べ」
 相原からピン。
『不逞の輩か』
「まぁそんなところ。どうしよう」
『トレースだけして丸裸にして放り出せ。殺人は罪だしな。正当防衛の結果落命したら知らんが』
「了解。おい、服を脱げ」
 レムリアは容赦なく言った。背後で子供達が見ている。一部始終見ている。
「なに言う……」
「まだ隠しているだろうが。クソ泥棒女が。殺すぞ」
『容赦ないな』
 これはラングレヌス。唇の端を歪めて苦笑いする様が見えるよう。
「女だからさ」
 レムリアは吐き捨てるように言い、女につかみかかり、力任せに服を破いて女を全裸にする。本当に丸裸にしてしまう。下着の中からも現金や装飾品が出てきて散らばった。
 胸元と下腹部を隠す。しゃがみ込んで泣き顔で首を左右に振る。『もうやめて』そんなところか。
 母国語で何か言うがテレパシー使うのもおぞましい。
「この期に及んで恥ずかしがるタマか。女に分類されるな虫酸が走るわ。出せ。まだ、ある、だろう?あ?レントゲン撮って浣腸しようか?」
 書くまでもあるまい。レムリアは女に飛びかかって押し倒し、指突っ込んでほじりだした。但し子供達には見えないよう、自らの身体で目隠しをして。
 無表情な少女がのしかかってきて股間に手を入れてくる。相応の恐怖であったようで女は失禁した。
「汚ぇな馬鹿女郎(じょろう)が。徹頭徹尾クソだなしかし。微生物の栄養になるだけクソに失礼か。失せろ。一度だけ言うが、お前は監視している。同じことをしようとすれば死ぬことになる」
 

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2017年3月22日 (水)

天使のアルバイト-102-

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 実は今、エリアは超感覚を用いた。女の子の事情もそれにより判じた。
 封印されているはずの、彼女本来の力が働いたのだ。ただ、エリアにとって、それは元々当然のことであるため、変化していることには気付いていない。
「あなたは彼を好きかも知れない。でも、彼はあなたが好きではない」
 エリアは把握した状況をいきなり口にした。女の子の身体がびくりと震え、心臓の拍動が乱れるのが如実に判る。
 その身体をエリアは強く抱きしめる。
「最後まで聞いてちょうだい。彼はあなたに痩せろと言った。でもそれは彼が、女性を外見でしか見ていない証拠。中身のない人間は、自分の中身を見られたくないから、相手にも外見だけが全ての存在を求める。
 だから、私には判る。その可愛い彼女もいつか飽きられ、捨てられる。慰めなんかじゃない。軽薄な人間には軽薄なことしかできない。でも、あなたは違う。ボロボロになるまで無理して痩せようとして、死のうとまで思った。それはあなたが真剣に物事を考える女の子である証拠」
 女の子の身体から力が抜ける。
「今すぐ諦めろとは言わない。でも、命捧げるほどの相手じゃあ絶対にない。彼のために無理をして……それで安らぎがあった?不安と、闇の縁のような絶望感に苛まれていただけじゃないの?」
 女の子が次第にエリアに体重を預けてくる。
「死ぬほどの勇気があったら生きてみようよ」
 エリアは言った。まるで女の子が旧知の友であるかのように親しげに。
「人間は死ぬために生まれてくるんじゃない。それだったら最初から生まれないのと同じ。でも生まれる。それは生きろということ。だったら徹底的に生きてみようよ」
 女の子はそこでエリアに目を向けた。
 赤くなり、腫れ上がった瞼が、しかし希望の夜明けが来たように開かれる。
 

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2017年3月21日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-082-

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「お姉ちゃん、誰か来るぜ」
 発見の声に振り返り、指さす先を見ると、近づいて来る手こぎボート有り。
 信用ならぬ。超感覚の警告。
「ボランティアてす。おてつらいします」
 書き間違いではない。日本語の発音がおかしい。そして一人で手こぎのボート。
 若い女性である。レムリアは超感覚が勝手にバリアを張るのを感じた。怪しいと直感的に思った人物を近づけたくないという心理は誰にも作用するものだが、超感覚の次元ではバリアの体を成す。
『どうしました?』
 テレパシーで繋がっているセレネから反応。レムリアは耳穴からピンを送って大男達に注意喚起。同時に胸元タブレットのカメラで録画開始。
『どうした』
 この問いは船長。
「介抱泥棒の類い。多分」
 小声で答えていると、女性はボートで岸に上がった。件の漂流している遺体に目もくれなかったことでテレパスの回答を確信する。
「私どもは食料も医薬品も充分です。行政の一次対応が整い次第移送します。どうぞ他の困っているところへ」
 穏便にお断り。とは言え、行かれたら先方が困るのだろうが。
「てもあの、わたし看護師」
 てめえ泥棒だろうが。一喝するのは簡単である。が、後々を考えると証拠が欲しい。及び、今の看護師という自己申告はウソである。
 一計。
「あら、だったらご自身の体調が優れないのはお気づきではないですか?徹夜であちこち回ってらしたのでしょう。ちょっと体温測ってみませんか?」
 ウェストポーチから体温計出して近づこうとすると、果たして女性は身を翻して逃げだそうとした。
 流れ着いた瓦礫に足を取られて転ぶ。その胸元ポケットからばらばらとこぼれる金属の輝き。
 多数の指輪。
「……!!」
 女が何事か叫ぶ。しまった!系の言葉と思うが何を言ってるか判らない。レムリアは12の言語を操るが、そのレパートリーに存在しない。反射的に出た母国語というところか。
 

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2017年3月18日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-081-

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「田老も……」
 子供達はその町の名を知っているようである。まるで試合で味方の敗戦を聞いたかのように肩を落とす。最も、津波を知ることは三陸沿岸で呼吸の如くであり、その“先端”である田老の対応は知っていて当然。ちなみに同地区は明治三陸・昭和三陸と繰り返す津波被害に10メートルの堤防を2重に形成、万里の長城とすら言われた。それはチリ地震津波では確かに町を守った。
 しかし今回、津波は15メートルを越し、堤防を乗り越え、破壊し、町に流れ込んだ。
Eq4
(岩手県サイト「津波対策施設の復旧、整備箇所【No.27 田老海岸】現地写真、津波被害状況および復旧方針」より)
 後に判ることだが、この堤防が“万全の対策という誤解”を町に与えた可能性は否定できまい。堤防自体は“避難までの時間稼ぎ”程度に捉える方が適切であろう。
「私は、みんなが生き延びてここにいる、そのことに大きな意味があると思っています。大人は子供に何か話すとき、“これは子供だからやめておこう”と勝手に決めるんですよ。すると子供達は何も知らないまま実際その場面に遭遇し、大きなショックを受けて本当に必要な行動を取ることが出来なくなってしまう」
「“津波てんでんこ”ってそういう意味か」
 男の子が得心したように拳を作った。
 聞いていたのだろう、相原からピンが来た。
『津波が来たら自分の命をまず守れ。人は気にせず自分が逃げろ。という極限サバイバル標語。「てんで」、は、てんでに、個々にという意味』
 レムリアは頷いた。
「そういう意味でしょうね。ショックで立ち止まっていてはダメ、ということで良いと思います。目の前で誰か死のうとしていても立ち止まらず走れ。みんな、そういう説明は受けていないでしょう。大人が勝手にそうしたんです。でも、みんなは、子供の目で、実際を見た。だから“津波てんでんこ”の真剣な思い、ギリギリの恐ろしさを教えることが出来る……」
 

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2017年3月15日 (水)

天使のアルバイト-101-

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 許してくれるようである。エリアは安堵と共にもう一度頭を下げた。
「はい。すいませんでした」
 運転士と車掌が指差呼称で安全を確かめ、それぞれの持ち場へ戻って行く。
 その間、エリアは女の子の肩を抱える。小さな警笛があり、電車が動き出す。安全確認のためか最初はスローで、橋を渡り終えてから加速を始める。
 エリアはそれを見届けると、女の子を連れて堤防、すなわち最初エリア自身が助けてもらった草の上に上がった。
 女の子をじっと見る。女の子はきょとんとしている。
 何が起こったのかよく判っていないらしい。
 このバカ娘!……エリアは一喝したくなる。こっちには、生きていたいのに病魔によってそれすらも不確かな娘がいるのだ。そして、彼女の命を守ろうと、多くの人が昼夜を分かたず八方手を尽くしてくれているのだ。
 それなのに、それなのに……やすやすと命を絶とうなんて。
 しかし。
「どうしてあんなところに立っていたの……」
 エリアの口をついて出たのは、迷子の幼子を迎えに出た母親の口調であった。
 女の子の濡れた髪の毛を絞りながら、自分が着ていたカーディガンを羽織らせながら、ゆっくりと尋ねる。見れば痩せぎす。頬は落ちくぼみ、骨ばっていて、ゴボウのようにどす黒く細い手足は、まるでミイラかガイコツ。
 女の子がワッと泣き出す。そのままエリアにしがみつき、恥も外聞もなく大声でわんわん泣く。
 エリアは女の子をそのまま抱いている。理由がフラッシュバックの映像で見えてくる。
 憧れの異性がいてその彼に痩せろと言われた。それで無理をしたら気持ち悪いと言われ、挙げ句に彼には既に可愛い彼女がいた……。
 弄ばれたのである。
「だからって、死ぬほどのことはないよ」
 エリアはゆっくり言う。女の子はエリアの肩のところで小刻みに震えている。
 

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2017年3月14日 (火)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-080-

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 現実を前に、レムリアは歯を食いしばる。
 そして、子供達を見回した。
「悲しいことをお知らせしなくてはなりません。ものすごい、数の方が、亡くなったそうです。1万人を超えるとか」
「いちまん!?」
 子供達は一様に目を見開き、中には目に見えて身体震わせる姿も。
「ええ。だから、君たちは、生き延びて、この状況を伝えて、二度と、同じことが起こらないように、しなくちゃならない」
 そうだ。レムリアは自分の言葉に頷いて言った。
「多くの悲しみと、ショックが、みんなの目の前で起こるでしょう。それは多分、何度も繰り返し夢に出て来るようなショックになるでしょう。PTSDという言葉を聞いたことがあるかも知れません。もちろん、見たくなければ、避けていいのです。この船の中にいて、外へ出なければ、見ることはありません。無理に心に傷を作る必要はありません。ただ、船は動けるようになれば病院船として活動しますし、みんなも手伝ってくれてる。そうなると、今後も、見ることになります。目の前で、お亡くなりになる、そんな状況も、あるかも知れません。お年寄りかも知れないし、赤ちゃんかも知れない。それは多分、気が狂いそうな気持ちになります」
 すると。
「お姉ちゃん、そういうの、見たことあるの?」
 幼い声にレムリアは迷わず頷いた。
「ええ。そして、そんな悲しみを少しでも減らしたい。それが私の願い。だから、今、ここにいるんだ。でも、この船一隻にはあまりにも相手が大きすぎた。北海道から、千葉県まで、津波による犠牲者が出たそうです。そして、全体で何人になるか、まだ見当が付きません。空から見たら全部流されて、それだけ判った。そんな町がいっぱいあります。田老(たろう)って知ってますか?大きな堤防で囲まれている……そこも津波に飲まれたそうです」
 

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2017年3月11日 (土)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-079-

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 船の前では炊き出しをしているので、まず、帆を広げて風よけ。次いで大男達の力を頼み、木箱と武器庫のご遺体を浜辺へ移動する。これらはヘリが接近し、ローター音に合わせた行動であったせいか、子供達が覗きに来たが、どのみち判る話で隠すものではあるまい。亡くなった方々を運びますと言ったら、揃って手を合わせてくれた。なお、一帯の水が引かないのは、地盤の沈下、伴う海岸線の進入、河川堤防の破壊、下水等排水設備の損壊全ての複合による。
 ヘリが降下。但しスペースの都合で着地はせず、空中静止し、一人ロープで下りてくる。
 レムリアは船を下りて“海岸”へ走る。ローターの作る風が凄いが、浜辺の砂は吸い込んだ水分の影響で半ば凍っており、砂埃が舞うようなことはない。
 ただ、音が凄い。
「先ほどの槇村です!姫君!」
 敬礼。身分はバレている。以下ローター音に負けないよう大声だが、応じた記号は省略する。
「お疲れ様です。搬送お願いいたします。あと、可能であれば医師を派遣下さい。この船は病院として利用できます」
「判りました。伝えます」
 会話中に遺体を木箱へ。ヘリからロープを下げてもらい、槇村隊員がフックに引っかける。
 槇村隊員は木箱の縁に乗り、ロープにつかまる。
「では」
「ありがとうございます。どうかご家族の元へ」
「承りました」
 ヘリは槇村隊員そのまま、木箱を下げて“島”から遠ざかっていった。
「あっ……」
 傍らで一連を見ていた男の子から声が上がる。少し離れた位置、水面から出た人の手。
「あれって……まだ……」
 子供にご遺体を見せてしまった。しかし、レムリアは隠そうとはしなかった。
 同じことは多分どこでも起こっている。今後も、この子達も目にする。
 そして、その意味するところは、この子達にだけ目隠しをすることではなく。
 

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2017年3月 8日 (水)

天使のアルバイト-100-

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 それと同じ現象が今、起きた。
 刹那。
 気が付くと、直近にそれこそ“まんまる”に目を開いた女の子の顔がある。
 背後から接近する光芒と圧力。
 橋から走って逃げる時間などない。
 躊躇は一瞬たりとも許されない。
 エリアは女の子の手を取り、川面に引き込んだ。
 二人の身体が宙に舞う。
 線路を離れ、その直後、急ブレーキに伴う摩擦の火花を散らしながら、通勤快速が二人のいた位置を通り過ぎる。
 着水の音がして水柱が上がる。
 但し水深は深くない。女の子はバランスを崩してしりもちをついたが、エリアは身が軽いこともあって立ったまま降り立った。
 すぐに女の子の手を引き、立たせる。
 長々と、ブレーキライニングのキーキー音を響かせ、橋梁上で、がくんと、電車が止まった。但し、先頭は遙か向こう、橋の上にあるのは、10両編成の9両目。
 乗客達が何事かと窓を開け、こちらへ顔を出す。
「おい。大丈夫か」
 誰かが言った。
「はい、大丈夫です」
 エリアは答える。
 と、列車の前後方向からそれぞれ砂利の上を走ってくる音。
 車掌と運転士。
「おい!」
 列車後尾から出て来た車掌が、二人を見つけるなり怒鳴る。怒りを帯びた声と心配を含んだ表情。
「大丈夫です。私の友達です。ご迷惑をおかけしました」
 エリアは機先を制して答え、深々と頭を下げた。
「責任を持って連れて帰りますから……」
 車掌は腕組みして二人を見、そして舌打ち。
「しょうがねえな……お客様!外へ出ないでください。安全が確認されましたのですぐに発車します」
 車掌は電車の前後に向かって大きな声で言い、息せき切って駆けつけた運転士に説明。
 二人がこちらを一瞥。
「すみません!」
 エリアはサッと頭を下げた。
「全く……」
 運転士が言い、二人は何やら相談。
「ちゃんと帰れよ」
 

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