創作物語の館・総目次のページ(最新状況はこちら)

携帯電話でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

new最近の更新

・「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(2/22・毎週水曜昼12時更新)
最新→ -098-
目次

・【魔法少女レムリアシリーズ】「アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~」
(2/21・毎週火曜・土曜更新)
最新→ -074-
趣旨と前書き・目次

bookお話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
drama魔法少女レムリアのお話(現在15編)
night超感覚学級委員理絵子の夜話(現在6編)

●短編集
cafe大人向けの童話(現在10編)
heart01恋の小話(現在13編)
virgo妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
ng(分類不能)「蟷螂の斧」

penリンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

天使のアルバイト-098-

←前へ・次へ→

 
 エリアも正直なところ同じ気持ちである。しかし自分たちは、“お願いしている”のだ。文句を言える立場じゃない。
「いいえ、レジじゃ全然……だったし。14枚も持って行ってくれたなんてすごいと思います。助かりました」
 エリアは笑顔を作ると、山のような残りのビラをスーパーのビニールに収めた。
 若い母親がフッと笑い、エリアの手を握る。
「そうね。私の赤ちゃんをあなたが助けてくれたように、あなたのお友達を助けてくれる人がきっといる。私はそう信じる」
 エリアは握られた母親の手に、心からの温かさを感じた。
 その手を強く握り返す。寒空の下、二人とも素手である。理由……ビラを持って行ってくれた人に、握手で謝意を表したいから。
「明日また配りましょう」
「はい。ありがとうございます」
 エリアは答えた。正直言って、今日の14枚が直接事態の解決につながるとは思えない。
 ただ、少なくとも、手をこまねいているよりはマシだと思える。
 もちろん、それは単なる自己満足なのかも、何かしている“つもり”でいたいだけなのかも知れないが。
「じゃあ」
 ビラ配りの許可をくれた駅事務室に一礼し、二人はそれぞれ家へ向かった。ちなみに、赤ちゃんは母親が実家から出て来て面倒を見ているとのこと。
 エリアの場合、家へは線路沿いの田んぼのあぜ道を歩いて行くのが近道である。当然街灯など無く、一般的には若い娘が夜歩くべき場所ではない。しかし、そんな懸念は元よりエリアにない。
 最も、知っていたとしても、彼女はそこを通っただろう。なぜなら彼女の思惟は“由紀子を救う方法はないか”それ一点に占領されており、その他の行動は全て自動的に近い状態で行われているからだ。
 正面から光芒。電車である。都心へ向かう上り最終が接近し、轟音と共に行き過ぎる。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-074-

←前へ・次へ→

 
 ラングレヌスは帆柱基部に自らの腰部安全ベルトのフックを掛ける。
 帆柱を根元から外して持ち上げ、その腰のベルトに載せる。
 質量は80キログラム。
 そのまま、右舷まで歩き、柵を倒して立つ。
「レムリアくれ」
 プラズマ銃のこと。
 渡したら、彼は帆柱担いだまま宙に身を投げ、同時に銃を地面に向かって発砲した。
 銃から火の玉が走り、反射的に帆柱もろとも彼の身体が浮き上がる。
 銃の反動を小型ロケットエンジンのように使った。
 雑木林を越えて炎の沿岸へ。“龍神花火”という相原のイメージを知る。
『展帆!』
『アイ』
 空中で帆膜が開き始め、体の良いグライダー。
 帆膜は一気に広がり、炎上部を覆うには十分なサイズであった。帆膜の耐熱性は元々宇宙航行用であり非常に高い。ちなみに一度メルトダウン状態の原子炉至近に閉じ込められ、1000度を超える高温に晒されたが、問題は生じていない。
『帆膜センサが高温警告……消えた』
『了解。対人反応あるかどうぞ』
『管制システムが検出したのは16。現在確認ゼロ』
『俺のセンサも反応しない』
『わたくしです。火事場泥棒はいずれも火炎やガスの吸引、水没による窒息、心臓マヒ等で絶命しています』
 セレネの報告。つまり強盗団はいずれも死亡。
 レムリアは少し胸が痛んだ。しかし。
『おいおい』
 強盗団の船を覗いたラングレヌスから報告。
 それは凄惨な内容であった。宝飾品・金歯の類いを遺体損壊の上、奪ったらしい。
 フラッシュバックがレムリアの脳裏を走る。それは以前在籍した救助隊で何度か遭遇したことがある。“人間の尊厳”が存在しない、価値観が違う地域はある。蓋し。
「日本なのに……」
 呟かざるを得なかった。強盗団は人道に関わる葛藤は捨て去ったか、元々ないか。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-073-

←前へ次へ→

 
 火が壁となり小島に迫る。何か火を避ける、封じる方法はないか。
 現在津波は僅かに引き波。
 すなわち湾内から小島へ向かう方向。火の壁が波に乗り近づく。
「学!」
 レムリアは叫んでいた。
「学、助けて!」
 解答は無いかも知れぬ。しかし他に手は無かった。
『帆膜でフタしろ!海面を覆え』
 意に反し、相原からの学は即座であった。
『宇宙航行サイズに広げて蓋をし、酸素の供給を絶て』
 タブレットに画像が投じられる。それは天ぷら火災などの際、広げて被せれば良いという、膜状の消火器具であった。
 帆膜で同じことをしろと。
 アルゴ号の帆膜はサッカーコートのサイズに広がる。
 その状態で火の壁を上から覆え。
「レムリア、持って降りろ」
 ラングレヌスが上からプラズマガンをベルトでぶら下げて寄越す。
 レムリアは受け取る。ずしりと来る荷重。ベルトで肩から下げる。
 意図は判じた。そして、心配だが止める気は無い。
 彼にしか出来ない。
「船長。俺が持って飛ぶ。第2マストの固定解除と、俺の合図で展帆願う」
『許可する』
 二人の会話を聞きながら、レムリアはマストのハシゴを下りて行く。途中から滑り降り、更に甲板に飛び降りる。
 肩から下げた銃がガチャリ。
 その横にラングレヌスがどん、と音を立てて着地。
『船長いいぞ』
 ラングレヌスは不死身である。身体が粘土のような耐衝撃吸収性を有し、刃物弾丸の類いは食い込まない。水中でもそのまま溶存酸素を呼吸できる。熱に対する感受性も低い。ただ、真空の宇宙に放り出されたらどうなるかは知らぬという。
 その身を活かして今彼はマストてっぺんから10メートル超を飛び降りて平然としており、続いて帆膜を自ら炎の上に下ろしに行くのだ。彼はレムリアを見ると、親指を立てて見せた。レムリアの顔が心配で歪んでいるのであろう。実際その旨言いたい。が、それでも何も言わなかった彼女に感謝。の意だ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

天使のアルバイト-097-

←前へ次へ→

 
 ただ、表情にあの頃の軽薄さはあまりない。
「そんな、いいですよ。元気になって良かった」
 エリアはいつもの笑顔で言った。そんなこと気にしない。赤ちゃんが助かった。それが嬉しい。
「それで……」
 母親が口ごもるように続ける。
「はい?」
「……聞いたんだけど、このビラ、配るの手伝わせてくれないかなって」
 母親は手にしたビラを指差した。
 エリアは息を呑む。
「え……」
「赤ちゃん助けてもらったし、何て言うんだろ、命がどんなものか、よく判ったから……」
 言葉が出ない。ただ、なんて素敵なんだろうという、陳腐な表現を使えばそんな思いが心臓の辺りに風船のように膨らんでいる。
 彼女に抱きついてしまいたい。
「ありがとうございます!」
 エリアは気持ちを抑制してそれだけ言い、勢いよく深々と頭を下げた。でも、声が大きくなってしまって衆目が集まる。
「じゃ……残りも持って行っていいね。駅で知り合いが働いてるから配らせてもらう」
「はい。はい!ありがとうございます。私もあとで行きます」
 エリアはもう一度頭を下げた。
 少し前までの、塞ぎ込んでいた自分がウソのように思えてくる。
 門が開いた。上り坂の向こうに真っ直ぐな道が見えた。そんな感じ。
 大丈夫だ。と思う。
 努力は必ず実を結ぶようにできている!
 
16
 
 結局、エリアは閉店までいたあと、着替える時間すらも惜しく、スーパーの制服を着たまま駅へ走った。北風があり、正直寒かったが、何か着るでなく、若い母親と深夜0時近くまでビラを配った。
 持って行ってくれた人は14人。
 途中「自分もバンクに登録している」と手伝ってくれた人がひとり。
 もちろん、余った枚数の方がはるかに多い。
「もっと持って行ってくれると思ったんだけど……」
 若い母親は缶コーヒーを飲みながらつぶやいた。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-072-

←前へ次へ→

 
『発砲!』
 ラングが声と共に引き金を引き、タブレット一面が真っ白になった。
 レムリアは画面の中を見、操舵室を出、舷側通路から甲板へ駆け上がり、更にマストへ昇って行った。
 画面では情報が限られる。目で見て把握すべきと思ったのである。
 駆け上がると照明弾は火の玉となって空中にあり、タブレットにはマスト頂部のカメラ画像が映し出されていた。ここは小島の状態にあり、船のある側は砂浜。真ん中は小高く山脈のようになっていて木々が見え、向こう側、すなわち反対側の海岸は、ガレキが多数漂着しており、海と地表との境目は見えない。
 その海上には漂う多数のガレキと、縫って走る数隻の小型船があり、その船上に腹ばいになり、身を潜めているように乗っている男達。ラングレヌスの報告通り。
 レムリアは最も高い第2マスト、ラングレヌスの足下に達した。超常の視覚を使う。舟艇の中は慌てている。照明弾を確認し、何事か身振りを交えてやりとり。
 船の針路が変わる。
「逃げます」
『させるか』
 アリスタルコスの声があり、船の前寄り、第1マスト頂部からレーザ光が幾本走る。人体攻撃は不可能だが、その手にした武器類に正確に照準することが可能である。
 驚き、であろうと思われる声が船の方から上がり、人影が次々船から這い出て海へ入る。“あろうと思われる”のは日本語ではないから。
 散り散りになって逃げる気だ。……思った瞬間、予想外のことが起こった。
 照明弾が海面に落下し、覆っていたであろう油膜に着火したのだ。
 厳密には可燃性の気化ガスが表面を覆っていたのかも知れぬ。炎は意志持つようにさーっと馳せて広がり、
 火事場泥棒の者達に悲鳴を生じさせたのみならず、火の壁がこの離れ小島に迫ってくるという事態を生み出した。
 者達の乗っていた漁船が次々に火に包まれ、遅れて爆発する。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-071-

←前へ次へ→

 
 ロクなことじゃない。ベッド下から這い出したレムリアのイヤホンにピン。同時に操舵室最上部、船長席にLEDランプ点灯。
『レムリア。何かあったか』
 船長が通信機経由の小声で寄越す。
「ダンナから。本船に外部から船が近づいていると」
『ハッキリ言う。火事場泥棒。武装盗賊の懸念あり』
 かぶせてきた相原の言葉にイヤホンにピンが2発聞こえ、船長が動き、ピンが2発返ってきた。
 返してきたのは甲板上の大男二人である。徹夜の監視だ。
『私だ。相原より入電。内容につき真偽確認願う』
 即座に船長が指示。
『聞こえた。甲板からは山林のため見通し不良。第二マストより確認する』
 アリスタルコス。
『シュレーター。ビーコン動かして良いか?』
 続く船長の問いかけに、ピン2発が割り込んだ。
 ラングレヌスだ。レムリアの液晶にも彼の目線カメラ表示。
『船長。舟艇を確認した。一見漁船だが腹ばいになって乗っている者あり。全身黒ずくめ。刀剣類所持。明らかに避難者でも救援者でもない。方位324より上陸と推定』
『上陸拡散されると手間だ。上がる前に仕留めろ』
『アイ。ドクター火器管制許可願う。多点ターゲティング使う。プラズマ照明弾用意』
 火器管制。それは武器と照準、妨害装置のコントロール。
『許可する。レムリア、保持ユニット機能制限良いか。灯火管制』
『いずれの機器もレベル1以下で使用。大丈夫だと思います。ユニットは船内に格納されており灯火漏洩無し』
 現在、大電力を消費して動いている機械はない。正確に言うと心電図モニタをしているお年寄りがあるが、薬を投与して落ち着いてきたのは見えていた。
 問題あるまい。
『防御せよ』
 タブレットに赤文字が出る。防御モード。火器管制。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

天使のアルバイト-096-

←前へ次へ→

 
 引き替え、両親の強さはどうだ。
「……ごめんなさい」
『怒鳴ったりしてごめんよ。あんたの気持ちも判ってるんだ。でも今は頑張る時。信じること、そしてあきらめないこと』
「うん」
『それじゃね。人様には“関係ないこと”なんだから、無理言わないの。いいね』
「はい」
『午後も頑張って』
「はい。すいません」
 電話が切れた。
 エリアは下唇を強く噛んだ。
 全く持って言われた通りである。くよくよしたところで、状況が変わるわけではない。
 由紀子も頑張っている。自分も頑張る。出来ることは、ただそれだけ。
 そして、仕事は仕事で私事とは別のこと。ご両親がお店のお客さんに泣き言を言っているわけがない。
 この店にいる間は、それはそれ。これはこれ。
 その時。
「エリカちゃん」
 同じレジ係の22歳フリーター娘から声がかかった。
「はい?」
「お客さん。受付のところ。……ねぇ、ちょっと今日大丈夫?変だよ」
 顔を上げたエリアに、フリーター娘は用向きを伝えると、心配そうに表情を変えた。
「大丈夫。気の早い花粉症だから」
 エリアは言うと、コップ一杯の水だけ飲んで社員食堂を出た。
 通路を通って店内に入る。
 小走りで店の入口、受付へ。
 と、そこにいたのはベビーカーを押した若い母親。
 そして。
「あ……」
 エリアはその赤ちゃんを見てすぐに気付いた。
 あの時の子……真夏の車中に置き去りにされ、瀕死の状態でエリアが救い出したあの赤ちゃんである。
「そうか~、元気になったんだね~」
 エリアは思わずしゃがみ込み、赤ちゃんに指先を出した。
 赤ちゃんがはしゃぐように笑って手を伸ばし、エリアの指先を掴む。
「あの……助けてくれたのに……お礼もしないで……」
 若い母親が恥ずかしそうに小声で言った。
 エリアはすっと立って母親を見た。相変わらずの濃い化粧に金髪、厚底サンダル。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-070-

←前へ次へ→

 
 前を向くのだ。今はただ前を見るのだ。
「みんなも。ちゃんとお父さんお母さんのところへ送って行くから」
 レムリアは“怖い考え”の連鎖パニックを心配した。
 が。
「うん」
「お腹減ったよ。おばちゃんまだ?」
 子供達は想像以上に強かった。
 そして、温かいそばめしが出来上がった。“お椀”という食器は船に無いので、近隣および漂着物の持ち寄り。
「ああ」
 あちこちで漏れる安堵の息。
「温かい。生き返る」
「生きてる……生きてるね……」
 人々のそれは実感であろう。延々たる地震動の後、何も持たぬままここを目指し、情報から隔絶されて事態の深甚さに気付かぬまま、巨浪に翻弄され。
 目の前で知己が流されるなど耐えがたい体験をし、それでも、人の手で調理された温かい食事が取れる。
“人間らしさ”を再認識したとレムリアは感じた。“同船者”34名。このうち子供は小学生で8名。
 
10
 
 深夜二時。操舵室。ほぼ真っ暗。
 毛布で雑魚寝。電力削減のため船のコンピュータは副長席パソコンだけ作動。副長席はひな壇を少し登った一角で、観葉植物に囲われてベッドがある。通常の救助活動ではこのベッドに副長セレネが横たわり、テレパスを全力で発揮して要救護者の“心の悲鳴”を拾うのであるが。
 現在は雑魚寝不可能な女性二人に貸し出し、その様子見も兼ねてベッド下に副長とレムリア。
 彼女の携帯電話に着信する。レムリアはむしろテレパスが感応し、バイブレーションより数瞬早く目覚めた。
 相手は相原である。胸騒ぎ。彼ではなく自分に。何だろうこの“気配を消している”感じ。
「何かあった?」
『救助を呼んだか?』
「いや。船で対応できる範囲だから特には」
『レーダに感あり。小型船舶4隻接近。真方位322(しんほういさんにーに。ほぼ北北西)パトライトや声かけなど救助隊の可能性あるか確認せよ。関連する無線はこちらでは検出できない』
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-069-

←前へ次へ→

 
 何かあったのか。以下コンピュータによる自動邦訳をカッコ書きで付す。
「(はい、みんな元気?)」
「(魔法のお姉ちゃん今どこにいるの?日本が、日本が大変なの。助けに行ってあげたいの)」
 幼い女の子であった。現地のニュースで流れたのであろう。レムリアは納得した。
 一方、これに強く反応したのは今ここにいる小学生達。
「え?」
「魔法?」
「あのね……」
 レムリアは相手先を説明した。余興で手品をやるので魔法使い。
「こじいんって?」
 コンピュータに翻訳禁止し。
「ご両親に出会えない子供達が共同生活。この地震がニュースで流れたらしいの。で、日本に住んでるみんなのことを心配して、私に助けに行けと」
 すると、
「どんとうぉりー!」
 先ほど、涙流した男の子が強く言った。
 彼の中で、ある種の計算が行われたと、レムリアは理解した。
 ここにいる子供達は、少なくとも親を失った子はない。彼のように他の親族の状況不明はあるのだろうが。
 結果、庇護されるべきは電話の向こう。それが彼の結論。
 自分のことは後でいいから。
 サムライだ。レムリアは感嘆した。
「ミス・リリー」
 レムリアは幼い声に呼びかけた。
「はい」
「今の声は日本の男の子です。私は既に日本に来て、こうして子供達と一緒にいます。でも一度に全部は難しい。だからお願い、祈って下さい。神様に祈って下さい。日本のお友達を助けて下さいと祈って下さい」
「判った。みんなでお祈りする。あ、お姉ちゃんそれじゃあ忙しいんだよね。切るよ、バイバイ」
「うん、バイバイ。……カットオフディスカス」
 レムリアは通話を切って人々を見た。
「世界中が、日本を襲った状況を知り、動き出してくれているようです。……だから、私たちもこの夜を越えましょう。そして、出来るだけのことをしましょう。本船にそれなりの蓄えはあります」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

天使のアルバイト-095-

←前へ次へ→

 
『ずっと輸血。だけど、血球の減少が止まらないんだって。かといってあんまり強い薬使うと逆に感染症にかかりやすくなるらしいの……先生も悩んでらっしゃるみたい。人によって症状や副作用が違うんだって。だから本来は幾つか試して一番効果の高いものを選ぶそうだけど……』
 母親が言葉尻を濁し、自分も言葉も出ない。一体、どうすれば、どうすればいいの。何か私に出来ることはないの?
 由紀子ちゃん!
「じゃあ……意識はまだ……」
『まだ。熱が下がらない。40度近くあるって。感染症の影響だって。抗生物質が徐々に効いてるとはおっしゃっていたけど。これが収まらないことには次に進めないって』
「おばさん……」
『泣いちゃダメ。由紀子だって必死で頑張ってるんだから。あんたがそんなじゃ、あの子泣くよ』
「うん。判ってる。判ってるけど……」
『あなたはあなたに出来ることをやってくれればそれでいい。お医者に出来ること以上が私達に出来るわけないんだから。私達は、あなたのこと、すごく、すごく感謝してるんだから』
 母親の言葉が沁みる。何か言いたいが涙が止められない。
 すると。
『エリカ!』
 電話の向こうの怒鳴り声。
『いつまで泣いてるの!由紀子は死んだわけじゃないんだよ!私達だって我慢してるんだから!いつまでも泣いてると怒るよ』
「!」
 エリアはハッとした。
 そう。一番泣きたいのは、多分ご両親。
 それでもお店の日常業務をこなしているご両親。笑顔でお客さんを迎え、生活を維持するために働いているご両親。
 
「信じることあきらめないこと、これが技術以前の治療の基本です」
 
 団体の代表は両親とエリアにそう言った。
 確かにその通りだ。エリアは頷いた。同意した。しかし、つけ込んでくるような不安を押し返すまでには至らなかった。そのまま迎えてしまった今日がこの結果だ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-068-

←前へ次へ→

 
「でも……」
「いいです。言わなくていいです。安藤さんが責任を感じてはいけません」
 レムリアは崩れ落ちそうになる安藤さんを抱きかかえて抱き締めた。
 明治三陸を上回る波にのまれ、一部家屋の屋根上に逃れたこの人たちを除いて流された。
「安藤さんは可能な限りをされたんです。そして今、こうして調理を手伝って下さる。おかげで食事が出来ます。皆さんもそう。出来ることを、しましょう。生き延びましょう」
 レムリアは言った。言ったが涙が出てきた。現時点、救えなかった命がこの船の中にある。前に判ったら、早く来られたら。もっともっと、呼びかけ行為を続けるべきではなかったか。
「そうね」
 安藤さんは目を開いた。
「美味しく作るから、食べて」
 情報を整理して全員に展開する。史上最大の地震で東日本全体に震動と津波。犠牲は予測が付かず、気仙沼を始め各所港湾で火の海や壊滅などの報あり。
「壊滅……」
 21世紀の先進国日本であるまじき単語。しかし、現実は冷酷。
 津波は今後も余震次第では発生する可能性がある。ここは船なので波自体はしのげる。
 ここから動かないで欲しい。近親者への連絡は請け負って災害掲示板等へ流す。
 人々は息を呑む。子供達の目に涙が浮かぶ。
 想像を絶する大災害という認識が人々を捉えて黙り込ませる。
「おばあちゃん……」
 男の子が一人、ぼろぼろと涙をこぼす。“怖い考え”が彼を捉える。
「おいで」
 レムリアは抱き締める。今この瞬間、どれだけ多くの人々が、幼い心が、同じ恐怖に心痛めているか。
 携帯に着信。相原、と思ったが、テレビ会議システムは繋いだままなのでそうではない。
「call」
 声に出せば船の設備でハンズフリー。
 番号……見覚えがある。オランダ、アムステルダムの孤児院である。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-067-

←前へ次へ→

 
 これに非常に反応したのは子供達。
「すげー。何これすげー」
「宇宙船みたい」
 男の子が興奮してレバーやスイッチをいじりまわす。が、動力断に伴って主幹コンピュータの電源が落ちているので反応はしない。
 そして、この宇宙船的装備で少しでも気が紛れるならそれで良い。
 コンソールとひな壇の間には幾らか空間がある。作戦決定の議論に使う液晶パネルのテーブルがあるが、そこを臨時の厨房にする。
Sn3n0024
(CEATEC2010にて)
 
 アルミのシートで覆い、宿から卓上IH調理器を持ち込んで並べ、大きさ不揃い鍋を載せる。操舵室背後の倉庫からそばの実が入った木箱を持ち出して開き、その他食材を各戸から持ち寄り、女性陣が中心に調理を開始。乗組員含め胃袋40満たすだけの一食は確保できそう。
 情報が欲しいという皆さんの求めに応じ、コンソール上のディスプレイ一つに通電し、テレビの衛星放送を拾う。
“沿岸で数百の遺体”
“観測史上最大・M8.8”
 すさまじい数字と言うほか無かった。日本の報道じゃないみたいだとレムリアは思った。
「うわ……」
「結局何が起こったですか」
 人々は、子供達も含め呆然となり黙り込んでしまう。日本人をして空前の大災害なのだとレムリアは理解する。
『千年に一度の、大地震です』
 声の主は相原。
『貞観地震。これは多賀城まで津波が押し寄せたと記録されていますが、そのままの状態が今回仙台平野で見られました。人的被害は明治三陸津波に匹敵かそれ以上になるかと。沿岸部の情報がまだ何も入ってきません』
「ここが沈むくらいだけ、明治よりすごいんじゃろな」
 そば飯を提案した女性……安藤さん曰く、本来の避難所まで遠い。そこで、明治三陸で水没しなかったこの高台が一時的な待避場所に指定され、応じて近隣から集まっていたという。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

天使のアルバイト-094-

←前へ次へ→

 
 翌日。
 エリアも店長に頼み、作ったビラをレジの脇に置かせてもらった。
 ただ、彼女の場合、それしかできない自分が歯がゆかった。自分本来の力があるなら、もっといろんなことができるのに……。
「ちょっと、お姉さん。ボッとしてないで」
「え?あ、すいません」
 エリアは怒りを露わの女性に謝った。これで今日は3回目である。仕事が身に入らない。というか、ハッキリ言って上の空である。
 肩を叩く手があった。
 店長。
「いいよ。食事行ってきな。午後は掃除して総菜の陳列に回って」
「すいません」
「仕方がないさ」
 エリアは一枚も減らないビラに後ろ髪を引かれながら、レジから抜けた。背後で店長が頭を下げているのが申し訳ない。
 自動的な動きで社員食堂に向かい、いったんは食器を載せるトレイを手にする。しかし食事を摂る気にはなれず、そのままテーブルに座って携帯電話のスイッチを入れる。ちなみに、この電話は不動産屋で外回りする際に持って出るものだそうだが、両親ともしばらく外回りは中止ということで、代わりにエリアに貸してくれた。
 電話の回路が着信準備を整え、電波強度を知らせるグラフが立ったところで早速着信。
 不動産屋から。すなわち、昼休み時間を狙って発呼したということだろう。
「はい、エリカです」
『どうだった?』
 母親の声。
「全然。チラとも見てくれない……」
 自分の言葉に現実を再認識させられ、涙が出てくる。
「しかも……ドジばっかりで……店長に迷惑かけちゃうし……」
『泣かないの。こっちもダメよ。先生はとりあえずクラスで説明はしたって』
 反応が芳しくなかったことは聞くまでもない。由紀子の友達付き合いがスムーズでないのは冒頭の通りだ。
「病院の方は?」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-066-

←前へ次へ→

 
「大丈夫ですか!私たちは救助隊です。医療設備を積んでいます。人工透析が必要な方や、常用薬が切れて困ってる方はいらっしゃいませんか!」
 甲板から夜闇に声が響いて更に人影あり。その家屋、の2階でライトがちらつく様が見え、人々が降りて出て来る。子供がひとり、お年寄り8人くらい。後は40~60代というところ。全員で15人。
「我々は救助隊です。地震の報を聞いて馳せ参じました。エネルギ切れて動けなくなりまたが、中は暖房と、多少の医療設備があります」
 船内は存命19。死亡8。
 ここの15名を加え、総計34名。
「お姉ちゃんお腹減った」
 男の子に言われ、ああ、と思い出す。一番肝心なこと。傍らで母親と思しき女性が慌てるような仕草。まぁ「食い物をくれ」みたいな物言いは先進国水準だと“恥ずかしい”が先に立つだろう。でも、今は非常時。
「待って」
 レムリアは応じてタブレットを操作する。“在庫確認”である。通常の活動は大体一晩なので、サンドイッチとか持って乗り込むが。
 今は無い。その代わり、緊急用の備蓄はある。しかも。
「“そば”でも作りましょうか。問題はそばの実、という状態ってことなんですけど。すいませんそこからどうやって麺に……」
「そば?」
 その母親らしき女性が反応。
「うどんそばのそば?」
「ええそうです」
「ああ、それなら『そばご飯』が作れるわ。鍋はある?」
 女性が笑顔になった。
「お湯と加熱電力は用意できます」
 答えて再度タブレットをスクロール。鍋、鍋、鍋って持ってたっけ……。
「鍋はウチのが多分」
 応じた男性は民宿経営、という。懐中電灯を頼りに濡れた砂浜を宿屋へ向かう。
 道具と熱源と食材が揃った。
 全員に対応するため操舵室を開放する。油圧の切れた扉を開き、大スクリーンとコントロールコンソール。大学講堂のようにひな壇を構成するデスク列。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-065-

←前へ次へ→

 
 瞬時に摩擦熱で高温になり一部蒸発し、“水蒸気爆発”に近い様相を呈した。
 爆発音と湯気が立ち、柱のような水がタンカー右舷を衝撃した。
 アルゴ号は反動で船体が左右に振動した。しかし、ラングレヌスが帆膜を動かしタンカーへ水を当て続けた。それは“滝砲”とでも称すべきか。
 タンカーは右舷に水流を当てられ続けた結果、回転して船尾が高台集落、および打ち上がっているアルゴ号の方に向いた。
『エネルギ消失するぞ』
『一撃で押し出せ』
 アルゴ号はタンカーの船尾に最後の一撃となる水の塊をぶつけ、高台から離れる方向に押し出した。
 その時点で、アルゴ号は全ての燃料を失った。
 津波が次第に高度を下げ始める。
 雪が降っていることに、一同はようやく気付く。
 
 
 錨は一本だけ土中10メートルに達し、アルゴ号は引き波に耐えてその地高台に船底を付けた。ただ、高台は地盤沈下の影響もあってか、水に囲まれ孤島状態。救助を求めるのは簡単だが、来られまい。相原によれば、北海道・青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉まで沿岸はすべからく津波の被害を受けたという。このままこの地で夜をやり過ごすのが多分最善。
 駆動力は失ったが、船内を一晩暖房できるだけのバッテリ電力は有している。帆膜は太陽電池であり、翌日晴れればバッテリ充電には充分。
『ビバークする』
 レムリアはそれを聞くと、甲板に出て髪の毛を雪風に晒した。その肌に当たるつぶて冷たさをしてようやく現実感が伴う。船内にいると外がまるでテレビの向こうのよう。それが“今そこにある危機”に対するパニックを遠ざけるという効用もあるのだが。
 集まって来る人々に顔を向ける。釣り客向け民宿であろうか、舟屋を備えた2階建て家屋が3軒。ただ、いずれもどうにか家屋の外形を留めている、と言った方が良く、傾いでいたり1階部分の窓が無かったり。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

天使のアルバイト-093-

←前へ次へ→

 
 ちなみに断っておくが、再生不良性貧血は、全てが重症になるわけではない。この名が付く病気の範囲は広く、その多くは言われなければ判らないほど軽微なものであり、医師が言ったような薬で治るか、様子を見るだけで済む場合すらある。由紀子の場合は最重症、かつ、症状の進行が早い極端な例と言って良い。
 本来、指定難病のこのような予後“病気の進み方”の記述は、この病気を持っている方の不安を煽りかねず、避けた方が良いのかも知れぬ。ご批判指摘あっても否定はしない。しかし、だからこそ早急かつ確実な治療法の開発、並行して骨髄移植システムの告知と確立が重要であると考え、ここでは敢えてこのような予後が存在することを記述する。ちなみに、同様のことが骨髄性白血病にも言える。
 
 その晩。
 4人は医師から紹介された移植医療の支援団体を尋ね、そこのスタッフと相談の末、パソコンでビラを作り、配ることに決めた。現実は過酷だが道がないわけではないのだ。だったらその道を必死になって歩むしかない。
 両親は店にビラを置き、担任は担任で学校で話すという。ただ、骨髄移植の場合、献血のように善意と少しの時間で済む話ではないので注意が必要であり、その旨は明記するよう言われた。
 すなわち、
 
・骨髄提供のために数日入院が必要である(仕事・勉学が制限を受ける)
・骨髄は全身麻酔の上で腰骨から採取する。このため麻酔に関わるリスクを有する。
 
である。つまり、提供者(ドナー)側にも、ある程度の制限と危険が生じるのだ。このため、骨髄移植のドナーになるには、勢いではなく“真剣な”勇気が必要とすら言う人もある。真に理解した上でお願いしたいというわけだ。安請け合いされて、その場になって辞退、では困るからである。なお、実際のドナー登録に際しては、説明用のビデオを見た上、最終的な承諾というステップを踏む。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-064-

←前へ次へ→

 
『レムリア』
 船長がその一番右画面を見て呼んだ。
『はい』
『本船はこれより津波で切られて離れ小島となった集落に接岸、衝突が予想されるタンカーを残燃料全てを投じて押し戻す。その後電源は非常バッテリのみとなる。衝撃と不測の電源遮断に備えよ』
『現在電気器具使用者はいません。AEDバッテリは充電完了しており非常対応も問題ありません。……みんな、船が海岸に打ち上がります。何かに掴まって』
『よろしい。総員衝撃に備えよ』
 大画面に戻る。二軒並んだ家屋の屋根に避難した人々。
 驚いて見つめる彼らの東側、積み上がったがれきにアルゴ号は船首から衝突して乗り上げる。
『投錨!』
 水鉄砲の反動対策。
 錨は左右両舷より2発ずつ。自律型ロボットになっており、自ら“土”を認識し、潜り込んで10メートルの位置に星形の足を展開し、摩擦を増やす。
『非常遮断ステップ2、3実行、超伝導クエンチ。加速コイル露出状態です』
『第1第2マスト水中浸漬。電界準備良し』
『タンカー衝突まで10秒。錨状態確認』
『掘削中、固定未完』
『時間が無い。電界全力』
『了解』
 船尾カメラがタンカーを捉える。右舷側をこちらに見せて接近してくる。
『カウント3。0で磁界最大』
『アイ』
 コイル出力は船の速度を司るスロットルで変化させる。一方、帆膜に与える電圧は帆膜をアンテナとして使う場合のボリュームダイヤルを用いる。
 操舵手のシュレーター。エレクトロニクスの監視と操作を行うラングレヌス。
 ラングレヌスが電界出力を最大にし。
『3、2、1、0!』
 シュレーターがスロットルハンドルを開いた。
 電界と磁界を直交させると、そこに導電物があれば電流が流れ、導電物を動かす力が生まれる。フレミングの左手の法則。
 水は、1立方メートル辺り1トン。従い、100トンになろうか、恐らく音速を超えるスピードで、船体下から海水が射出された。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-063-

←前へ次へ→

 
 主機関、その主役である主加速コイルは、超伝導ドライブの電磁石である。燃料である反物質“陽電子”と、空間にある電子を吸引、引き合わせるのに使う。陽電子と電子を衝突させると応じた光エネルギが得られる。それを船尾のお碗型反射板にぶつけて推進力とする。
 一方、ハイドロクローラはその光エネルギで気体液体を加速噴射して駆動力を得る。
 相原の提案はこれらと異なる。海水に大電流を流して磁界を加えると海水自身を動かすことができ、これで推進力を得る。電磁推進と呼ばれ、主として秘密行動を目する潜水艦の動力源として開発が進められている。
 アルゴ号では機関に異常が生じ、高いエネルギが制御不能に陥った場合、最後の手段として当該部位を切り捨てる機能を持つが、切り捨て、ではなく、その前段階の遮蔽板解放、コイル露出の状態を使えないか?と言うのだ。
『検討に値すると思料する』
 シュレーターは前置きし、
『電界はマストを使って励磁電流を回せばいいだろう。理論だけで保証は無いが。船長、いかがか。但し当然、燃料の消費が激しいため、実行後行動不能に陥る』
 出来ることと、その後を述べ、船長の断を問うた。ただ、もう答えは判っている印象だ。
『実行せよ。シュレーター、本船を着岸させよ。アリスタルコス、非常解放プログラムに割り込んでマニュアルステップ実行を行え。ラングレヌス電路切り替え可能か』
『アイ』
『マニュアルステップ準備完了』
『電路切り替え可能です』
 正面スクリーン状態は以下の通り。メイン大画面は外景で、激しく波に洗われる木造家屋数軒。アルゴ号のライトに照らされている。下部小画面は、左から赤画面に白文字で機関損傷、および燃料残0.0006。2画面目は当該解放プログラム画面でステップ2のレディ(指示待ち)。3画面は電気回路接続グラフィック。一番右は生命保持ユニット内部カメラ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

天使のアルバイト-092-

←前へ次へ→

 
15
 
 HLAの検査に要する時間は約1時間である(21世紀初頭)。
 しかし、4人の誰も合致する者はなかった。
 HLAは前述の7つの情報(座と呼んでいる)から構成され、両親から1セットずつ、計2セットを受け継ぐ。
 このため情報は14になるが、21世紀の初頭現在、各セットの情報のうち、A、B、DRの3つさえ合致すれば良いとされる。しかし、それにしても2セットとも合致している…すなわち3×2の6つの情報が合致している必要があり、その確率は10万人に対して10人未満、と言われる。
 医師が看護師を伴い、カンファレンスルームに戻ってきた。
「バンク登録ドナーの方で合致する方は現在いないようです。しかし、由紀子さんの場合、症状が重度で進行が早いこと、年齢面、骨髄性白血病への遷移の可能性等を考慮、移植を第一と考えます。当面の対処ですが、まずは輸血し、感染症を治した上で、薬を使って進行を抑えます。これは造血機能を回復させるためのものです。が、楽観は許せません。どうか、皆さんの方でも、ドナーになっていただける方を探していただきたいと思います」
 医師は要約するとこのような内容を言い、最後に、この病気の“治療の手引き”と題されたレジュメを配った。
 両親が深々と頭を下げる。
 医師が退室し、引き続き看護師と入院やバンク登録に関する書類手続き。
 エリアは痛いような喉の渇きを覚えながら、もらったレジュメに目を通した。医師の言う、早急にドナー(提供者)を探してくれ。それが意味するところは、明確に言葉にはしなかったがひとつである。
 それは、昨日まで元気だったのが信じがたい状況ではある。しかし再生不良性貧血は免疫力が低下するため、感染症にかかりやすくなり、細菌感染から高熱を発したり、一気に進行して倒れる。といったことが少なくない。また、この病気は、緩やかに症状が進行することが多いが、日単位、時間単位で急激に進行したり、他の病気を併発したり、他の病気に移行したりというパターンも存在する。由紀子の場合、気付かずに重症化したか、発症後急激に重症へ進行したか、が、可能性として考えられるが、現時点ではどちらとも言えないという。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-062-

←前へ次へ→

 
 赤いランプが通路のそこここに点いた。そんなのは初めてである。つまり、過去経験の無い異様な事態が生じた。
 タブレットを見る。赤バック白抜き文字で“リフレクションプレート破損”。
 船尾はタマゴの殻の様にパカッと開き、パラボラアンテナ状の反射パネルを形成する。そこに光ビームを当て、船は前進するのであるが、それをタンカー衝突で損傷した。
 光子ロケットエンジンを失う。すなわち。
『空中推進能力喪失』
 妙に冷静な操舵手シュレーター博士の声。しかし船長は次善を提示。
『了解。以後ハイドロで海上を推進する。燃料節約のため衝撃抑制は不可能。総員衝撃に備えよ。相原、近場に避難可能な場所はないか。乗船中の方々を送り届け、本船も待避したい』
 問いかけに相原から応答は。
『そのタンカーはそのまま流されると津波で孤立した集落に打ち上がる。若干高台になっていて、応急避難所にしていたらしい。集落には携帯電話の位置情報が数件存在する。取り残された方がいると見られる。現在浸水高1メートル。救出およびタンカー回避可否検討願う』
 ここで普段なら、それこそエンジン使って押しのけてしまえば良いが、そのエンジンは使用不能。
 船長が言う。
『シュレーター。漂着予想地点に先回りせよ。総員、残った燃料全てを投じて危機を排除せよ。手段あるか』
 そこにピンで割り込み。相原。
『僕だ、加速コイルとハイドロ推進用電界付加ユニットを水中に出せ。電磁加速水鉄砲だ』
『は?相原、言いたいことが判らんのだが』
『暴走時非常切断を中途半端に使う……』
 船長の問いに相原が答えようとし、シュレーターが続きを言った。
『言いたいことは判った。主機関を露出してフレミング条件に整えて海水を電磁加速しろと言うことだな』
『そうです』
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

«アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-061-