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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

new最近の更新

・「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(6/21・毎週水曜昼12時更新)
最新→ -115-
目次

・【魔法少女レムリアシリーズ】「アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~」
(6/24・毎週火曜・土曜更新)
最新→ -109-
趣旨と前書き・目次

bookお話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
drama魔法少女レムリアのお話(現在15編)
night超感覚学級委員理絵子の夜話(現在6編)

●短編集
cafe大人向けの童話(現在10編)
heart01恋の小話(現在13編)
virgo妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
ng(分類不能)「蟷螂の斧」

penリンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-109-

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 プラズマガン。前記の通り火の玉を射出する。少し詳しく書くと、アルミニウムの弾丸に大電流を印加してアルミニウム原子を熱分解、荷電粒子が一塊になった高温状態“プラズマ”を生成し、これを電磁力で射出する。通常は目標位置にプラズマ領域が収斂し、超高温をもたらすよう照準するのであるが、今回は収斂と逆、リング状に拡散させ、同時に柱を焼き切る。なお、射出に伴い射手に反動が加わるが、それを一種の動力として活用し、銃を“発射”してレムリアの頭の上を通過させ、船へ回収する。
「準備はいい?」
 レムリアは問うた。
「いつでも」
「私も」
 晴人君と先生からの回答。ならば、もう迷う余地はない。
「行きます。固く目を閉じて下さい。カウント3から、3,2,1……0!」
 レムリアは引き金を、引いた。
 同時に目を閉じ顔を伏せる。ターゲットスコープが遮光モード。それでも判る白い発光。
 銃から手を離す。銃が頭にゴツンと当たる。ワイヤに牽引力が発生し、プラズマガンが身体のあちこちぶつかりながら通過して行く。アドレナリンが身体に充満しているはずだが痛い。
 そして0の後のカウント、1。
「1!」
 晴人君が声を出し、火の玉が柱に着弾、周辺空気を膨張させて、ボーンとでも書くか、爆発音を生じさせる。
 伏せた身の上すり抜けて行く遺体袋。及び、
「2!」
 晴人君の身体が通り抜け、
 次は自分、のはずであった。
 伏せた目の前スコープが赤く点滅、イヤホンがピン二発。
 スコープに“EXP”の文字。Explosion、爆発警戒。
『メタン!』
 相原がそう言ったところまでは聞こえた。
 晴人君の身体が通過し、スコープ越しに高温領域が広がり、充満する。
 ベルトに引っかけたワイヤが自分の身体を引っぱった。
 
(つづく)

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天使のアルバイト-115-

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 そのまましばらく言葉が出ない。映った自身の姿を上から下までじぃっと見回す。
 金色の髪、薄茶の瞳、ほっそりと長い腕と指先。
「これって……エリカ?」
 由紀子はようやくに、それだけ言った。
 そして思い出したように母親の方を向く。
「そういえばエリカは?来てないの?」
 母親はすぐには答えず、由紀子の姿を少しの間見回した。
 そして頷き、
「いたよ。さっきまで。そして……どう言えばいいかな、まだいるけど帰った」
 母親は由紀子の浴衣の胸元を直しながら、静かに言った。
「帰った?アパートに?」
 由紀子が訊く。
「そうじゃないよ。何と言えばいいかな。多分、あの子……ううん、あのお方の本来いるべき場所へ」
「え?それじゃ親御さんが引き取りにきたの?……ってその『あのお方』って何。どこかのお姫様だったとか?少女マンガみたいに?」
 由紀子の質問に、母親少しの間考え、小さく笑みを浮かべてこう言った。
「由紀子。あなたの姿、誰に見える?」
「エリカ」
「だから彼女はまだここにいるのよ」
「え?でも……」
「そう、中身はあんた。だから帰ったんだよ」
 由紀子は眉をひそめ、困ったように首を傾げた。
 そこで父親が発言する。
「おい……何がどうなったんだ……由紀子は……由紀子だろ?」
 尋ねるが、母親は答えない。
 そして。
「まるで……エリカちゃんが由紀子に化けたみたいじゃないか」
 父親のその言葉に、由紀子はハッと顔を上げて母親を見た。
「お母さん……」
 母親は、新しい姿の愛娘を瞳に収め、ゆっくりと頷いた。
「あの子……不思議なところがあったでしょ」
「うん……え?」
 由紀子が少しの間絶句する。
「ちょっと待って。それって……まさか本当に……」
「信じる、信じないは、あなた次第。ただ、彼女は……あの方は、あなたに向かってこう言った。『あなたの意志でまずは答えを出してみて。私はそれが違うと思うなら、違和感であなたに答える』……由紀子。あんたが今思ったことに、違和感はあるかい?」
 
(つづく)

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-108-

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「じゃ、晴人君、頼む」
「OK!」
 彼は再び家の中へ。先生!死体袋持ってきました。
『各位道具行き渡ったか』
 船長が問いかけ、作戦を説明する。プラズマで穴を広げるのはいいが、応じて建物の強度は落ちる上、プラズマ、イコール火の玉であるから、恐らくそこから火災に発展する。従い、直ちに脱出する。
『レムリアは銃のベルトをワイヤに接続し、俯せで発砲せよ。発砲時の制御は私から火気管制を通じて行う。発砲と同時に銃から手を離し、俯せに戻れ。アリスは発砲後0.3秒でウィンチを作動させ、ザックを牽引』
「アイ」
「了解」
『晴人君はウィンチのワイヤの片方をベルトのフックに掛け、ザックを押し出せ。そのまま1秒我慢だ。先生の後、君を引っ張る。レムリア、頭の上を二人が通過する。発砲後、頭を上げるな』
「了解しました」
「了解」
『体制が整い次第実行して良い。レムリア号令』
「判りました」
 それはすなわちカウントゼロまで自分が仕切れ。
「先生よろしいでしょうか」
「入ったわ」
「晴人君ワイヤのフックは?」
「穴に掛けました」
 準備OKである。後は自分次第。
「段取りを説明します。3,2,1,0,1,2とカウントします。0で私の銃が火の玉を作ります。晴人君は1で先生の身体を押して、そのまま、次のカウント2でワイヤに引っ張られて下さい」
「判りました」
「判りました」
 片方はザックの中から先生の声。
「いっぺん練習します。行きます。3,2,1,0!,1!,2!」
 レムリアは発砲のまねをし、ワイヤに軽いテンションがあり、晴人君が押す動作。
「OK。じゃぁ、本気で」
 レムリアは寝そべり、銃のスコープを引き出して覗く。
 ターゲットとして横倒しになった二本の柱が輪郭強調で表示、距離が出、リングモードと表示が出る。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-107-

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 子供の体格で船の銃器が扱える。
 自分の仕事か。
「私が行きます。晴人君聞こえる?」
「はい。先生は風呂場です」
「OK良く聞いて。先生には申し訳ないけど死体袋にいっぺん入って頂きます。そのまま船からワイヤで引っ張ります。袋とワイヤを取りに来て」
「判った!」
 船長からピン。
『プラズマは破裂音を出す。耳栓がいる。あと、晴人君には通信用を渡しておけ』
「はい」
 準備をして甲板からガレキの上をあっちこっちジャンプ。海底に接しているらしく、波で揺れるが動くことはなさそう。
 晴人君が戻って来、レムリアを見て目を丸くする。
「映画の女戦士みてぇ。超かっこいい」
「そう?ありがと。これを。こっちは君の耳に。耳栓で無線機。こっちは単純に耳栓。先生に。これを発射するとすごい音するから」
 晴人君が耳に嵌めるのを待って通信テスト。
「聞こえる?」
「はい。すげぇ。映画みたい」
「OK。あとこれと」
 それは安全ベルト。高所作業などで使われ、命綱をつないで使う。
「これが入って頂く袋。でね、入って頂いたら……両腕をこう、胸の前で合わせて重ねて……」
「ツタンカーメンみたいにすればいいんだね……」
 仕草をして見せたらそんな答え。棺桶の彫像がそんな姿とレムリアは思い出した。更に、
「……先生!ツタンカーメンの格好して死体袋に入って下さいって。それを引っ張りますって!」
「ラマーズの最後の姿勢ね」
 熟年の女性の声。それは出産時のラマーズ法の抜力姿勢のことである。胎児の肩が産道を抜けたら、産道の緊張を解くために力を抜く、その際両手を胸の上に重ね置き、ファ~などと声を発せと言うのだ。その姿勢という認識で良いかという問い。
「おっしゃる通りです!」
「判りました!よろしくお願いします!」
 

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天使のアルバイト-114-

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19
 
 心電図装置がリズミカルな電子音を室内に響かせている。
 暖房は手頃。早暁であり、閉められたカーテンの向こうは、ほのかに明るい。動物たちが活動を始めたようで、スズメのさえずりが聞こえている。
「よいしょ」
 少女は布団を跳ね上げ、元気良く上半身を起こす。
 その勢いで、浴衣の下に何やらベタベタ貼り付けられていたものが、一斉にバリバリ剥がれた。
 心電図装置がピーと警告音を発する。乱れる波形。点滅する赤ランプ。
「ひゃ。何?」
 突然の機械の反応に、少女は声を上げて狼狽える。私、何か悪いことした?。壊した?
 ベッドの周囲で、床に倒れ込み、意識喪失状態にあった大人達が、一斉に顔を上げた。
「吉井君!」
 医師が反射的に叫んで機器に手を伸ばし、少女を見て目を円くした。
「……取っちゃ、まずかったですか?」
 少女は剥がれたもの……心電図装置のセンサー電極を医師に見せる。
 医師は唖然として目をしばたたく。
「君……沢口由紀子さん……だよね」
「??そうですけど?」
 由紀子は首を傾げる。
 そしてハッと気付いたように周囲を見回す。
 白い壁、剥き出しの配管類、表示灯だらけの器具類。
 模様の消えかけた素っ気ない浴衣。
 腫れ上がった、まんまるの目で自分を見ている大人達。
「ここって?……病院!?……あれ。あれ……私……え?え?」
「君は学校で倒れ、担ぎ込まれた」
 医師は言った。
「そうなんですか?」
 由紀子は医師を見、他人事のように問い返した。
 医師が頷く。
「そうだ。それで……うーん、どうにも説明しにくいが、事実だけ述べるとこうなる。昨夜、君は臨床的に死亡した」
「あら大変」
「しかし現在君はそうして生きている。しかもだね」
 医師は一歩下がり、朝に向かう最中のカーテンを開けた。
 窓ガラスに由紀子の姿が映る。
「へぇ!?」
 今度は由紀子が目をまるくし、瞼をしばたたいた。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-106-

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 イヤホンにピン。
『スキャン完了。奥まった空間に閉じ込められてる。このまま入り込むには狭すぎる。屋根荷重を取り払わないと通路が確保できない。ただ、屋根を取り払うと向こう側へ建物が倒れて水中に没する』
 タブレット画面にレーダスキャンされた家屋構造が出て来る。要するに浴室にいて助かり、他の部分は潰れてしまった。屋根の重みで建屋が船の側に傾き、浴室側が海上に浮き上がったので存命空間を確保。
『この構造だと浴室だ。丸ごと吊るか反対側から壁を壊すか』
 相原の意見。
『本船は吊れる状況じゃない。壁を壊すと基礎と屋根を結ぶ力が弱くなって屋根の重みを支えきれない。屋根は落ちるし浴室も沈む』
 その頃、子供達は先に進んでいた。
「お姉ちゃん、先生この奥だ!ちょっと見てくる!」
「見てくるって……え?」
 子供達は僅かな隙間から建物の中へ入り込んだ。
「あぶな……」
 違う。自分もそうだが小柄が利する。ならば手はある。
「ボディバッグを搬送用に使えないでしょうか?」
 レムリアは提案した。それはご遺体を収めるザック。
「ロープとザックを持って入ります。ザックに入って頂いて引っ張れば通れないでしょうか」
 船のコンピュータが何かして画面にスキャンした家屋図、及びどこから呼び出したか桜井智子なる女性のカルテが現れる。
 病院用ではない。下着専門店の採寸データ。
 子供達が進んだ隙間で救助可能か確認しているのだ。イモムシのようなものが家屋図内部の隙間を縫って進む。
『レムリア見てるか』
「見てます。クリティカルが一カ所、ですね」
『倒れた柱が上下に並んでいる。そこを幅42センチ高さ7センチ広げれば通れる』
『プラズマで焼け』
 相原即答した。ただ、そのためには銃をそこまで持ち込む必要がある。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-105-

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 碓井君はラブを見、次いでレムリアを見上げた。
 彼への答えは、うつむいて首を振るしかなかった。
「え……」
「彼にはそのことが判らないのよ……一緒にいてあげて」
 碓井君は目に涙を浮かべたが。
「……判ったよ!」
「強いね。男の子だ」
 イヤホンにピン。
「レムリア、あなた感じませんか?」
 セレネが確認を要求する。レムリアはスクリーンを見た。傾いで漂う平屋家屋である。が、テレパス何も言って寄越さない。
 遠いか弱いか。レムリアは甲板へ出ようとした。その時。
「これ桜井さんちじゃん」
「あ、本当だ。お姉ちゃん、習字の先生んちだよ」
「助けに行こうぜ」
 子供達の方が先に動く。
「どうやったら外へ?」
 子供達は書道教室の勝手を知っている。レムリアは確信を持った。
「右側の扉を開けます」
 ドア・オープン・ライトサイド。英語で言ってイヤホンからピン。
 これで船のコンピュータが即応。
 操舵室右側、右舷昇降口が開く。
「ラブおいで。桜井のおばあちゃんを探すんだ」
〈探す?ああ、これ肉くれるおばちゃんの家だ〉
 ラブはわん、と吠えた。
 子供達と共に外へ出、昇降スロープの先端へ。
 家屋は波間にガレキに埋もれるようにしてあった。圧力が加わっているとか、大きな質量のガレキ・船舶が接近している様子はない。
 従って、ガレキ伝いに飛び移りながらたどり着けないことはないが。
 どうやって……迷っていると。
『生命反応あり』
 ハートマークがタブレット内家屋の位置に表示。
「了解。……桜井さんは生きてらっしゃるみたい」
「ラブ行け!」
 対して、子供達は躊躇無かった。更に犬の体重は重くても10キロ20キロ。
 容易に到達し、傾いで浮かぶ家屋の屋根で吠えてみせる。
「おばちゃーん!俺だ、晴人だ!」
「……碓井君かい?」
 

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天使のアルバイト-113-

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 エリアは、浮かんだ言葉を、そのまま言った。
 受け売りでなく、よどみなく、言葉が浮かんだ。
 母親に目を戻す。
「お別れを言う時が来ました」
 母親の瞳が大きく揺らぐ。
「お母様」
 エリアは片膝を突き、その手を取り、母親を見上げ、敬意を持って呼んだ。
「はい」
「お伝えしておくことがあります。実は、私の身体は今、由紀子ちゃんのものになっています。これは本来、してはならないこと」
 エリアは言った。
 母親の中で、その目が捉えた現象と、エリアの言葉との一致が図られる。
 母親はエリアと由紀子の身体が燦然たる光に包まれ、その光が、エリアから由紀子向かって迸ったのを見たのだ。
 光の中にいたエリアは、その光を炎の壁と捉えていた。ただ、そのようなことは、ここで敢えて詳しく記述する必要はあるまい。
「じゃぁ、由紀子は、本当なら……」
 母親が訊いた。
「はい」
 エリアは頷く。そう、本来なら由紀子ちゃんはここで亡くなるはずであった。
 しかしエリアは奇蹟を起こしてしまった。超常の力を使って。
 彼女自身の身体、修行のために与えられた肉体を由紀子に譲った。
「彼女は今日、新たな人生を歩み始めます。全くゼロからの一歩です。しかし、私はもう、彼女に見せるべき姿を、身体を持ちません」
 母親はエリアを見ている。目と口をまんまるに開き、ただただエリアを見ている。
「いろいろとありがとうございました。このご恩は永遠に忘れません。どうかお父様や、店長さん、学校の先生にもよろしくお伝え下さい」
 エリアは胸に手を当て、深々と頭を下げて座礼し、立ち上がり、母の額に口づけた。
 母親から手を離す。と、同時に、視界に白い光が霧のように立ちこめ、やがてそれに満たされ、何も見えなくなる。
「さようなら」
 エリアは言った。視界だけでなく、自分の意識そのものも真っ白になって行く。
 幸せに蒸発する。そんな、感覚。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-104-

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 果たして窓枠ひしゃげて斜めになった一室にそういう光景はあった。
 船からワイヤーフックを出して窓枠に引っかけ、少し吊るようにして固定。
 大男二人が入り込む。座卓を持ち上げる。
『人……いや、トリアージ黒』
 二人が見たのは、びしょ濡れでぶるぶる震えて見上げる犬と、彼が抱える和服の男性の……描写は控える。顔だけ見ると寝ているようだが一見して死と判る状態。“トリアージ黒”は、災害等の患者優先度選別において、ご遺体に付ける黒のラベルの意。
 人体に対してトンの質量を有する漂流物が衝突すれば、応じた結果となる。
 犬が動こうとしない……二人の報告を受け、レムリアは甲板から降りた。
 むごい有様にもある種の慣れがある自分は“良い”のか。
 犬が自分に気づいた。
〈あんただね。声が聞こえるのは。ご主人は?何で動かないんだ?〉
〈眠っているのよ〉
〈心、を感じないけど?〉
 心を感じない状態、動かない。そういう状態は判っている。
 だが、死という概念は彼にはない。
 死を認識する悲しみ。死を理解できぬ哀れ。
〈深い、深い、眠りなの。こっちへいらっしゃい。何か食べさせてあげる。君のケガを治さなくちゃ〉
 甲板へ上げて身体を洗う。油の混じった波に浸り、血液を浴び汚れたその姿は、くしゃくしゃに丸められた紙くずのようであったが、シャンプーして乾かすと、ようやく栗毛色したラブラドールレトリーバーと判明した。特徴的な耳たぶが切れている。
「この辺は人間と一緒だろ」
 医師が縫合。
 操舵室の子供達のところへ連れて行く。オートミールがあるから作って食べさせて……と言おうとしたところで、犬の方が顔見知りに対する反応を示した。
「あ、犬だ」
 誰かが言って、子供達が一斉に振り返る。
「え?江崎さんちのラブじゃね?お、ケガしてんじゃん大丈夫かラブ」
 男の子が気付いた。
〈碓井晴人(うすいはると)君だ〉
 果たしてラブは尻尾を振った。
「やっぱそうだ。ラブだよ。ラブ、生きてたんだね。おじいちゃんは?」
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-103-

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 魔女たる彼女ならではの感応。
 その方角を見回すと、船首だけ出して漂う漁船の向こう。意思と感情持つ者。
「犬です」
『救え。座標出せるか』
 船長は即座に言った。それは人間ならコンピュータにパターンが記憶してあり、すぐ出るのだが。
「待って下さい」
 この場合は自分が“見れ”ば良い。PSCは自分の脳波を追尾して船のコンピュータに送っており、指示すれば瞳の動きに相当する分を抽出し、見ているものから距離を算出する。
 イヤホンがピンを出しタブレットに字幕。カメラが捉えたこれで良いのかyes/no。人間ではないので確認してきたのであろう。切り取られた画面の形状を指先でタップ。犬と確認してyes。
『捕捉した。距離72。ガレキ除却し接近せよ。レムリア、犬が恐怖なきよう努めよ。その上で犬が知ってる近隣人々の情報と、可能であれば……』
「探査犬の依頼ですね」
 レムリアは船長の意図を先読みして声にした。
『その通りだ』
〈今から行くから怖がらないでね〉
 心に直接声で送る。
〈うわ!人間なのにどうして喋れる?〉
〈そういうのもいるんだよ。助ける。どこにいる?声を上げて〉
 キャンキャンと表現される、甲高い悲鳴のような鳴き声。
〈ケガしてるの?〉
〈動けないんだ〉
“挟まれている”という単語は知らぬようである。が、建物の下敷きになっているという彼(オス犬)の、見たままの画像は受け取った。
 果たして漁船をぐるりと回り込むと、天地逆さで浮かぶ家があった。
『生命探知……日本式テーブルとでも言えばいいのか?足の短い机の下だ』
 船長が言った。それは和室で座卓の下敷き、という相原の認識で全体像に結びついた。天地逆さであるから、天井板と座卓に挟まれているということになる。
 

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天使のアルバイト-112-

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 その声に頷きながら、エリアは自らの心を見せる。自分の気持ち。見ず知らずの自分を助けてくれた家族の優しさ。そして、前途の見えない自身の運命を知っていながら、時々を、一瞬一秒を懸命に生きていた由紀子ちゃん。
 それに引き替え、その場さえしのげればいいやという安直な発想で不正に走った、永遠の命有する自分。
「全力で生きていなければ、全力で生きる人間さんの相談相手など出来ない……これが今回、わたくしの得た教訓であり、彼女からもらった最大の贈り物です」
 エリアは言い、母親から手を離した。
 示唆が来ているのを感じる。自分はもう、ここには、いられない。
「行ってしまうの?」
 母親が訊く。エリアの心が見えているから判る。
「せめて……由紀子が目覚めるまで……」
 エリアは首を横に振る。そして、横たわる由紀子の手を取る。
 温かい手。血の通う優しい女の子の手。
 
 生きている手。
 
「由紀子ちゃんごめん。私、あなたを裏切った」
 エリアは閉じられた瞼に向かって言った。
 母親がエリアに目で訊く。“それは、どういう意味?”
「私、ずっとあなたのそばにいるつもりだった。少なくともあなたにとって、私は最高の友達のつもりだった。
 でも、私は、私自身の責任で、あなたのそばにいられなくなってしまった。
 だけど、知っていて。私にはあなたが見えるし、あなたも私の声を聞くことは出来るんだよ。なぜなら私、この後もずっとあなたのココロのそばにいるつもりだから。
 だから……迷ったら、まずはあなたなりの答えを教えて。あなたの意志でまずは答えを出してみて。
 私はそれが違うと思うなら、違和感であなたに答える。
 あなたが何かをしたとき、良心が咎めたなら、それは私からの否定。
 そして……必要と思うなら、私はあなたに挑戦の機会を準備する。困難を用意する。
 あなたは考えるでしょう。必死になるでしょう。苦しむでしょう。
 逃げたいと思うかも知れない。
 でも、それを乗り越えたとき、あなたは知るでしょう。苦しむことが成功には必要なことを。
 そして、苦しむことによって“成長”することを。
 私は常にあなたのそばにいる。あなたを見て、あなたの成功を祈っている。
 あなたがより良くなれるように、私も考える。努力する。
 そう。姿は見えないけど。これからも、ずっと一緒。それは、約束する」
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-102-

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『記憶しておくか?』
 その意味、ご遺体は後で収容するので場所だけ把握するか?
 生きている方が優先。極限の状況における鉄則である。
「お願いします」
『登録した。追尾は難しいかも知れない』
 ガレキ漂う湾内に入って行く。船体のあちこちで様々なぶつかる音、こする音。
 なお水中推進の動力は“ハイドロクローラ”という。水を一旦取り込んで光子圧力で加速噴出して速力を得る。これはスクリューに関わる諸般の心配や懸念(絡まり・切断)が一切無いことを意味する。
 イヤホンにピン。
『絶対方位353携帯電波補足。距離52メートル』
「レムリア!」
「意識は感じません……」
 50メートルなら自分のテレパスで充分感知する。すなわち。
「近づいて確認したい。許可願う」
 傍らで相原が言った。結果は一つだが無情なことはしたくない。そんな自分の意志を汲んでくれたか。もちろん、その1分1秒が本当に必要な人には無駄な時間と判っている。
 だが、だからってさっさと諦め、決めつけていいのか。
『許可する。ガレキ除却して接近せよ』
 船首が向きを変える。その方角と距離には傾いた家屋がある。船に赤外線でスキャンさせたら2階建てで、1階はひしゃげた状態で水没、2階が屋根傾いて水面に顔を出した状態。
『人体鼓動パルス、体温反応、人体形状いずれも感なし』
 それはセンサとコンピュータ、それを見ている操舵室の判断。
「携帯電話だけ動いてるってか」
 相原が言う。船は近傍まで接近し、レムリアの視力で中が見える。机と倒れた本棚。散らばった書物。書斎か。
『CDMAの捜索電波を検出。電話が電波探して動いただけだ。家屋内は無人と判断する』
 次へ行くんだ。レムリアは歯を食いしばって己を叱咤した。
 その時。
-誰かいるの?寒いよ。
 テレパスが捉えた心の声。人間ではない。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-101-

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 相原は男性らが離れたのを見、昇降スロープから声を発した。
『了解。アルゴ号発進する。抜錨!』
 アルフォンススが応じ、ピン2発の後、船体各所から非常固定用錨のワイヤを切断するバチンと耳に痛い音、および、テンション掛かったワイヤが唸るひゅうという音。
 船体がゆらりと揺れた。
『両舷後進微速』
 男性4人と分かれる。レムリアは甲板に出て来、その姿肉眼に収めずにはおられなかった。
 両手を口元で揃えてメガホン。
「ありがとうございましたあ!」
 勝手に飛び出す感謝の言葉。この船は、自分たちは、ここに着いて共にあったからこそ今がある。こんな素直に言えたことは過去に無い。
「気にすんな!こっちこそ一晩メシと暖房があったのは助かった!一人でも多く助けてくれよ!」
「もちろんです!」
 船が波打つ音が声より大きくなる。
『気仙沼湾内に進入する。甲板にいても構わぬが衝撃注意』
「了解……レムリア丁度いい、探せ。テレパス使って生きてる人探せ。操舵室、人体探査システム稼働されたい。また、ウチのQZSが携帯電波拾っていれば座標を出すはず。ストリーミングして近隣に無いか把握を」
 相原は船内に戻り、スロープを格納した。
 船内移動し甲板に向かう。船のスクリーンには気仙沼湾内と街が広がる。
『相原さん、レムリアと連携して探査しています』
 まずの回答はセレネ。テレパシーの協調。
「了解です」
 相原は言い、レムリアの傍らで身を乗り出した。僅かだが彼の歯ぎしりをレムリアは聞き逃さない。彼の悔恨を感じる。逃げる時間はゼロでは無かった。正確な予測に基づき周知する方法はあったはずだ。
 アリスタルコスからピン。
『探査はしている。人体形状は多くあるが鼓動や体温を感じ取れない』
“その画面”をレムリアは見、歯がみ。
「……ですね」
 

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天使のアルバイト-111-

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18
 
 彼女は目を開いた。視界にはベッドで仰臥し、ゆっくりと呼吸する少女があった。
 17歳。年齢相応にして健康そうな、やや細身の体躯を備えた、可愛らしい少女である。ただ、肌の色は白っぽく、髪の毛は金に近い茶色。
「由紀子ちゃん」
 彼女は友の名を呼んだ。でも、友の声を聞く前に、この場を去らねばならぬと判っている。
 なぜなら、自分は既に、この世界で生きてゆくための身体を失った。
「あなたは……」
 誰何する声があり、彼女はゆっくりと目を向ける。
 母親。彼女と共に最も強く由紀子を愛し、最も悲しんだもう一人の女性。
 この場で意識を維持している唯一の人間。
 彼女は母親の、その見開かれた瞳に映じた自分の姿を見る。それはさながら光で彩られ、描かれた人の身体。
 彼女本来の姿。
「わたくしは元々、人間の皆さんと共にいて、その心の相談役となるよう仰せつかっている者です。名をエリアと申します」
 彼女は言った。存在する次元の違いから、エネルギーの差分が光として現れ、自分から周囲に絶え間なく放射されているのが判る。そして、その光の発散する姿……オーラライトを、母親が“翼”という印象で捉えているのが判る。
「天使……」
 その言葉が、母親の口をついて出た。
「古来、人間の皆さんにはそう呼ばれてきました」
 エリアは頷いた。
「隠していて申し訳ありません。でも、それは、わたくしにそう名乗る資格がなかったのです。今回わたくしは、不正を犯し、皆さんと共に暮らすことによって、心の更正をなさいと命じられ、皆さんの元へお邪魔することになりました」
 エリアはそこで母親の手を取った。
 母親がハッと息を呑む。なぜならこの時、母親には、エリアの心が自分の心のように見え、把握できているからである。
「エリカちゃん……」
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-100-

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 相原は自らにも言い聞かせるように言った。例えば土石流災害を“蛇”と表現するのは日本のあちこちに見られるものだが、これはチューブ状をなして斜面を高速で駆け下る土砂の姿を現す。蛇のように見える、それは水だけでなく“中身が詰まっている”のであり、夥しい量の土砂が含まれた状態、と解釈できる。これは“蛇”という語だけでは現代人にはイメージが掴めず、正体を現代の認識に置き換えることを要求する。また、津波の場合、揺れの大小にかかわらず逃げろとよく言われる。これは津波地震(震源が遠隔地であったり隣のプレートであるため、地震動がさほど大きくならないもの。津波自体は地殻変動の量によるため、マグニチュードなりの高さになる)を意識しており、応じて現代でも震度だけで判断する危険性の周知を要求する。また、津波の前兆として引き波に言及している文献石碑(まず波が引く)が多いようだが、これは地殻変動で隆起し海岸線が後退したもの、第1波が引き波であったもの双方が混じっている上、押し波で始まる津波もあるので、修正が必要、と言える。“引き波にならないから問題ない”は危険ということである。
「ありがとよ、あんちゃん」
 トレーサーを手首に巻いた漁師の男性が相原に言った。
「んだば降りるべ。この人達はこの船でまだ生きてるかも知れない人たちを助けて下さるってんだ。引き留めちゃいけねぇ」
「んだな。おら達は降りるで。みんなを避難所へ頼むぜ」
「承りました」
 残って守るという4名が下船する。相原が昇降スロープまで案内。
「では。お気を付けて」
 夕暮れの気配が漂い、空気が冷たい。
 そして“焼ける”臭い。
「お前さんらもな……一人でも、多く、助けてやってくれ」
「はい……操舵室、安全距離確保しました」
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-099-

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 リストバンド型が4つ、トレース番号7から10番。
『登録されました』
 コンピュータが声を発し、大画面の隅に地図が出てトレーサーの位置を表示。
 その時。
「なぁ船長さんよ、この画面、パソコンみたいに写真にできるけ?」
 ゲンさんが訊いた。ネット地図は同じ縮尺で空撮が表示できる。そして、要求された空撮はリアルタイムを要求するものだろう。
 操舵室内が静まりかえった。この災害の“全容”を映すことになる。
 相原はコンソールからキーボードを引き出しカチャカチャ。
「あ、面倒だったらええよ」
「いえ……」
 リターンキー。そして。
 画面は、映し出した。
「え?」
「これは……」
 気仙沼を映す。町は津波と大火により。
「どこがどごだがわがんね。海岸線が変わっちまってる」
「ここが45号線です。この道路で津波が止まったものと」
 ゆるいカーブを描く堤防様の構造物をマウスでなぞる。言われてみれば速度の出せる道路だと判る。
 そこから逆に元の姿を想起する。その作業は“単なる事実”の故に、事態の深刻さを際立たせた。
「あんで津波にじゃぶ漬けで火事になんだ?」
「これ煙だろ。まだ燃えてっし」
「津波の上に油膜が出来てしまったとお考え下さい。車両や船舶の燃料などが由来です」
「炎の津波ってか」
「ええ、そうです」
 炎自らが波となって、波が炎を乗せて内陸深くまで覆って行く。
「寺に明治ん時の絵があって見たことあっが(有るが)やっと判った。こんななるだな……」
 男性の嘆息に、相原は画面の隅に石碑の画像を一つ出した。
「我々が見直すべき行動が二つあることをこの事態は教えていると考えます。ひとつ、現在の技術でも万能ではない、防波堤が高かろうが過信せず、自然災害に関する父祖の言い伝えは必ず守ること。そして、父祖が伝えたかったことが、言語や環境の変化の故に誤解されないよう、現在の見識で父祖の言葉を見直し、科学的な考証で説得力を与えて理解させること」
 

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天使のアルバイト-110-

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 と、突如強大な権限を馬車に座する者が発揮した。妨害者があったため、と判る。その者は、炎の壁を乗り越え、妨害するべく立ち入ろうとしたようである。無比の圧力をもって、この侵入者を排除する。
 彼女は気付いた。
 抱いた友の身の重さを感じなくなる。抱く自分の手指が、そのまま友の身に、さながら水面に指を立てるように、入り込むのが可能である。
 除した。馬車に座する者が伝えた。そして付け加えた。思い赴くままにして良い。
 彼女は謝意を持って頷き、愛しい友を抱きしめた。友の中に入り込むように、自分の身に友を取り込むように、友の身を抱きしめた。自分の腕が、自分の身体を捉える。
 自分であり、友でもある。
 示唆を得る。自分の求めた願いを叶える方法が伝えられた。
 ありがとう。彼女は安堵をもって示唆に応えた。身体が重力から切り離され、ふわりと浮遊する感覚が生じた。彼女はその感覚のままに少し浮揚し、腕に抱いた少女を見下ろした。腕の中で少女は瞼を閉じ、眠っている。
 ふと顔を上げる。顔を上げることが許されたのだと知る。視界奥の方、遠ざかる馬車の後ろ姿。
 壁をなしていた白い炎が消える。
 彼女は知る。その炎こそ、あの夏の日に、そしてここに来る前の線路際で、自分の身をその状態に導いた炎そのもの。
 セラフィムの炎。
 で、あれば、馬車と、そこに座する存在は神学に言うオファニムでありケルビム。彼女は思った。確信はない。ただ、高位存在であることだけは確かである。
 願いが、通じた。
 良かった。彼女に平穏が訪れる。溶けてゆくような気持ち。満たされるような気持ち。
 眠くなるような安心感と暖かさ。
 日蝕を終え、元の姿に戻り行く太陽を見ているような感覚。
 それは母に抱かれた幼子の得る、安心と充足に似て。
 彼女は腕を開く。抱いた友をシーツの上に戻すために。
「あ……」
 驚愕の混じった、母親のつぶやき。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-098-

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 すると。
「船長さん、ここは、オレの家だ。残っだらいかんが?。家が空っぽになっちまう。さっきみたいな盗賊がまた来ないとも限らん。寝起きとメシなら気にするな。何とかなる」
「そだ。オレも残りてえ」
 アルフォンススは頷き、見回し、
「他にも残るという方はありますか?」
 その二人を含め、挙手4名。いずれも倒壊せず残ったこの地域の家屋の持ち主。
「承った。ご意志を尊重したい。武器と通信機を用意できるが如何されるか」
 アルフォンススは問うた。
 男性の一人が笑みを見せる。
「船長さん、魚を捕るってのは応じた格好の道具なんだ。心配はいらねぇよ。あと、通信ったって携帯は無茶苦茶だべよ」
 これにはレムリアが、
「トレーサーというのが用意できます。体温で発電し、衛星経由で本船に位置情報を送ってきます。破壊されたり人体から外れると緊急信号を発生します」
「ひっひっひ。死ぬと判るわけだ」
「いえ、ピンチの時に故意に壊して頂ければ。あと、あり得ない挙動を検出しても緊急信号を出します。例えば放り投げるといきなり時速何十キロ。これはあり得ない。信号出す。こうなります」
 この提案と説明に男性らは顔を合わせて相談。
「ゲンさん、もらっておくべよ」
「ああ、あにがあるがわがらねっしな(何があるか判らない)」
「姉ちゃん言うならしょうがねぇな」
 ゲンさんと呼ばれた男性は歯の無い口でガハハと笑った。
 トレーサーは3タイプ。蟹殻で囲まれ皮膚に食い込ませる、避妊具のIUDに範をとったリング状のもの、リストバンド。前2者は強引に押し込んで使う。
「あの女の膣にこいつ突っ込んであります。男性だとケツの穴しかありませんが」
 14の娘のその言動は男性らを大いに驚かせた。
「ガッハッハ。そんな物ハメハメされたらクソが出なくなっちまう。オラこれでええ」
「自分もこれだな」
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-097-

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「よろしい。機関始動!」
「始動します」
 アルフォンススの声にシュレーターが喚呼で応じる。握っていた操縦桿の奥手、アクリルの小さなフタを開き、スイッチを押す。
 キュイーン。擬音で書けばそんな表現か。次第に周波数が高まる電磁音。やがて聞こえなくなる。人間の可聴域を超えた周波数。
 数秒後、ラングレヌスが座る位置でランプが幾つか。
「フォトンハイドロクローラ始動。主コイル出力逓減20パーセント。前段加速器温度所定。主機関準備ヨシ。但しリフレクションプレート喪失。自動でハイドロのみの運転となります」
「よろしい、クローラ起動し船体水平を確保せよ。機関制御開始」
「制御開始」
 ラングレヌスが報告し、アルフォンススが宣言し、シュレーターが操縦桿に手をする。
 画面が動く。
 船が少し揺れ、応じて多少ミシミシ音がし、画面が少し揺れ、映示される角度が変わった。
「動いた!」
「おおすげぇ」
「何これ飛ぶ?めっさかっこええ」
 男の子達は騒然。
「クローラ運転確認。現在ゼロベクトル。本船は駆動動力を回復しました。最大速力は22ノットとなります」
「結構だ。一旦動力遮断。乗船者の各位に今後の行動の説明を行う」
 
14
 
 この地を離れることとなり、船の内外にいた皆さんに操舵室に集合してもらった。
 医師と相原、救急で肺洗浄を行った男の子を加え37名。
 ひな壇下部に船長が立ち、傍らにレムリアが通訳。
「私は本船の船長、アルフォンススです。本船の漂着に関し皆様に温かく対応頂きましたこと、まずはお礼申し述べたい。その上で、本船は駆動力を回復したため、この地を離れ、生存者の捜索と傷病者の救護に向かいたい。そのお許しを願うと共に、皆さんを所定の避難地に送り届けることといたします。ご承知願えますか」
 

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天使のアルバイト-109-

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 後は現実なのか、意識の中だけの出来事なのか、区別が付かない。
 医師の手を払いのけたようである。乳飲み子を狙われた母猫のように、誰にも奪わせない、という激しい気持ちがあった。それこそ猫が引っ掻くように、医師の手を拒絶した。
 そして、彼女は友を抱き留めた。覆い被さって抱え込んだ。頬をすり寄せ、手のひらで触れ、その体温を感じようとした。
 一緒にいよう、と呼びかけた。一緒にいたい、と願った。
 使者である自分と一緒にいるならば、何も失うものはない。
 失うものがあるとしても、自分ならば補充できる。
 お願いがあります……声なき声を、姿なき存在へ向けて、彼女は発した。
 私を元の姿に戻すか、永遠の別れでもいいから彼女を元に戻して。
 ならぬ……拒絶する意志があった。
 ならば炎を下さいと彼女は欲した。融合し一つとなるための、溶かす炎を彼女は欲した。
 ならぬ。再び意志があった。だが、意志はそれを阻止できないとも判った。
 彼女は炎を欲した。
 次の瞬間、彼女は炎の中にあった。白く揺らめく炎が彼女を囲繞していた。それはガスコンロが描く炎のリングを白色とし、リングの中に降りたようであった。強い白い光の向こうで、病室内のディテールが揺らめいていた。
 良いのか、意志は心配と動揺を伴い彼女に問うた。それは、炎の出現が意志の支配を離れた結果であることを教えた。
 答えは一つであった。彼女は子を抱く母となり、両の腕に友の身を横たえて炎の中にあった。
 問う者の存在を正面に感じた。肉眼に映らない。だがそこには馬の脚があり、馬車の車輪がある。ただ、頭を上げてその馬を、馬車に座したるであろう者を、見ることが出来ない。許されていない。
 問いに対する意思の開示を許可される。彼女は即座に肯定の意志を伝える。あなた様のお気持ちに見える心配の結果になっても構わない。引き替えに全てを失って構わない。この願い叶うならば、他の何も要とはしない。この命すら要ではない。
 

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