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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

new最近の更新

・【大人向けの童話】「謎行きバス」
(12/13 毎週水曜更新)
最新→ -01- -02- -03- -04-

bookお話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
drama魔法少女レムリアのお話(現在15編)
night超感覚学級委員理絵子の夜話(現在7編)

●長編
yen「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
cafe大人向けの童話(現在10編)
heart01恋の小話(現在13編)
virgo妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
ng(分類不能)「蟷螂の斧」

penリンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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【大人向けの童話】謎行きバス-04-

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 ふと思う。自分が体の小ささをウンヌン言われて傷つくように、彼女も、体格のことをとやかく言われて傷ついているのではないか。他の女子より大きくて、連中が言ったように、もうおっぱいがおっぱいと分かる。
自分が、〝女にたすけられているヤツ〟と言われ、気にしているように、彼女も実は、自分を助けるたびに何か言われて、それをイヤと感じているのではないか。
 できれば、自分を放っておきたいのではないか。
 それなのに。
 彼女は、自分を、助けてくれようとする。
 強くなりたい。雄一は思った。せめて弱虫と言われないように見返してやりたい。
 だったら。
 
 
「とびきり早起きして走る」。翌日から、雄一はそう言って朝の4時に家を出るようになった。
 有名なプロ野球選手が、「強くなるには走りこむこと」と、言っていたからであるが、目的はもう一つ。
 例のバスに乗ってやろうと思ったのだ。
 分かるのは時刻だけだから、毎日通うしかなかったのである。
 そして始めてから10日目。土曜日の朝であった。
 もやの向こうに、赤いランプと、ガラガラというバスのエンジン音。
 雄一は近づいて行った。バスは白い車体に青いストライプ。バス停にあったように〝布引バス〟と確かに書いてある。パッと見、ごくふつうの路線バスと変わらない。
 そばまで行く。バス停の前に確かに止まっており、車体の真ん中にはドアが開いている。ガラガラっとスライドして開くヤツだ。他に、前の方にも、折りたたみ式のドアがある。
 ドアから中をのぞきこむと、木のゆかに、色あせた座席が並ぶ。それは「昔の」という言葉がピッタリというか、かなりくたびれた、古びた感じを受ける。入り口ステップ左側には整理券発行機があるが、白い塗装(とそう)がはげはげで、アカンベェみたいに出ているはずの券も見えない。動いてないのか、始発だから券を出していないのか。
 
(つづく)

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【大人向けの童話】謎行きバス-03-

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 それが、どうしてこういう展開になったのか、全く理由が分からないのである。今は9月だから、始まってちょうど1年過ぎたあたり、になるか。
 雄一のかたを、ポンとたたく手があった。
 ふり向くと、一学年上かと思うような背の高い女子、堀長(ほりなが)。雄一はクラスでも背が低い方なので、その高さはひときわ強く感じる。
「あんなのほっとけよ。すっげー評判悪いんだぜ」
「う、うん」
 雄一はためらいがちにうなずく。この堀長という女子は、家が近くて小さいころから顔なじみだから、であろうが、こうやって自分をかばってくれる。ありがたいと思う部分もあるにはある。しかし、実は堀長には悪いのだが、そういう気づかい、雄一としては少々困るのだ。
 
〝女にたすけられてるヤツ〟
 
「おー堀長雄一!」
「らぶらぶ~。それともお母さんかな?」
「堀長、小さなカワイイゆう君に、おっぱい吸わせてやれよ」
「うるせーぞてめーら!」
 堀長はどなって、教室の後ろのドアへとズカズカ歩いていった。
「うわ!プロレスラー恵(けい)がおそってきた!」
 連中が何事か、堀長をはやしたてながら逃げて行く。堀長はどなるが、追いかけるようなことはしない。
 ちなみに、雄一の名字は花村であって、堀長ではない。
 連中は、雄一が堀長と結婚(けっこん)し、名字を変えるという意味でそう言っているのだ。なお、堀長恵は堀長のフルネームである。
 ここで自分が、〝弱虫〟でないなら、堀長に対して、〝オレのことはほっておけ!〟と言うのが、カッコイイのだろう。
 でも、雄一は、堀長が口調と外見はさておき、性格そのものは、全くふつうの女の子であることを知っている。そんなことを言えば、彼女は、多分泣いてしまう。実際、小さいころは、自分の方が彼女を良く泣かせた。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-02-

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 声をかけようとした雄一を見るなり、3人はそう歌ってはやし立て、ゲラゲラ笑いながら、教室を出て行った。
 雄一は悲しい気持ちになった。
 虫好きというだけで、なんで、こうも言われてしまうのか、わけが分からないのである。
 3年生までは仲が良かったのだ。ところが、4年の夏休みからこういうのが始まった。それが5年生になった今も続いている。
 きっかけは、多分、なんだが、みんなで学校の裏山に遊びに行った時のこと。
 70年前、戦争をしていたころに掘られた、ひなん用の穴、防空壕の中に入って、電子ゲームをしようと言い出したのだ。
 確かに穴の中ならすずしいだろう。
 でも、防空壕は古く、いつグシャッとくずれるか分からないので、入ってはいけない、ときつく言われている。
 おまけに、雄一の知識によれば、毒を持つ様々な生物がひそんでいる可能性がある。マムシやヤマカガシといった毒持つヘビ。ムカデにクモに、毒持つガの類。
 ついでに言うと、雄一自身は、みんなと同じようなゲーム機を持っていない。だから、入ったとしても、みんながピコピコやっているのを、ただ見ているだけ、になる。そんなのツマラナイ、というのもある。
 それもあって、やめようよ、と言ったのだ。
 返った言葉が、「お前、弱虫だろ」
「そうじゃなくて、禁止だし、変なのいるかも知れないし」
「やっぱり弱虫じゃねぇか」
「これまで何年もこわれてねーんだ。だからこわれねーよ」
「もういいよ。お前帰れよ。どうせゲーム持ってねーんだし」
「そうだよ。弱虫でゲームも出来ない幼いお子様は帰って結構」
「しっしっ」
 まるで野良犬のように追いはらわれ、翌日から始まったのが、書いた歌である。雄一としては、ツマラナイ、はさておき、、実際問題として危険であるから、そう言ったまでなのだ。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-07・終-

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「え?涼?……涼だ。本当に涼だ……」
 涼の姿を見るなり、男の子は言って小さく笑みました。
「リクエストはこのボク?」
 涼は私に訊きました。
「そう」
 私は答え、手品の要領でバイオリンを手にします。
「やれやれ……」
 呆れたように、足音もなく、言いながら入ってきたのはミレイさん。
 手にはフルート。
 つまり、何のかんの言いつつ、協力してくれる意思表示。
「いつでも」
「え?曲を知って……」
「るよ。何でも」
「涼、『未来へ』聞きたい」
 男の子が言いました。
「え?私はいいけどでもあれ早いよ。ギターと打ち込みだし……」
 BPM148のギタートラック冒頭を私は演奏してみました。
「すごい……」
「足りなきゃピチカート。準備良ければ」
「あ、ちょっと待って」
 涼は少し発声練習。
 前奏無しでいきなりサビのリフレインから入るので涼に合わせて付いていきます。♪信じて開いた扉の向こうは絶望の崖だったなんて生きていれば何度もあること……
 男の子は笑みを見せ、リズムに合わせて首を振りながら聞き入り、やがて幸せそうに目を閉じました。
 そしてCパート、終曲前のリフレインでフッと姿が消えます。
♪朝日が照らす君の未来を。
「……男の子は?消えちゃったけど?」
 汗をにじませ、荒い息で、涼は私に尋ねました。
「安心して、天国へ行ったよ」
「は?」
 言わなくてはならないでしょう。
「ここは、本当の天国に来る少し前、心だけが先に来るところ。大好きと、幸せの中で、心は身体から少しずつ離れて行く。そして、天国へ旅立つ」
「天国へ旅立つって……」
「文字の通りです」
「じゃぁ、この男の子は……」
「大好きな涼の歌を聞きながら、天国へ」
「そんな……」
 涼は口元を抑え、その両目から涙がぽろぽろと。
 そして、叫びました。
「だったらそう言ってよ!もっと、もっと一生懸命歌ったのに。一緒に踊ってあげられたのに!めいっぱい楽しませてあげたのに!」
 良く通る声でそれだけ怒鳴り、次いで涼は私を睨み、そして気付いたように目を見開きました。
 ある種の示唆……天啓の類いが彼女を訪れたと知ります。
「私……歌うことが大好きで、聞いてもらえることが嬉しくて、オーディションに応募したんだ」
「うん」
「でも……なんだろ、そのうち、だんだん、“仕事”になっちゃった。一定時間、その場所にいて、ニコニコしてるだけでいい、みたいな。そういうの、見透かされるよね。自分も判るもんね。あ、こいつ真剣じゃねーなって。嫌ってたくせに、自分がなっちゃった」
 その目に涙一粒。但し意味の違う涙。
 私は頷いて、
「私、翅で人間さんの世界とここを往復して200年」
 それだけ言いました。そして、フッと理解が訪れます。それ以上何か言う必要は無いこと。
 私たちの間に永遠の別れが近づいていること。
「呪文を唱えます」
「はい」
「あなたは再び歩き出す。大丈夫、戻っても誰もあなたを責めない」
「信じるよ」
「ありがとう。じゃぁ、行くよ、リクラ・ラクラ……」
 呪文の最後は、涼には聞こえなかったでしょう。
 
 “鼻につく態度”をスキャンダラスに書かれていたトップアイドルが、深夜、病院を訪れたらしいというネットのうわさ。
 
アイドル/終
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-01-

 

●前書き

 
本作は2007年当時存在した自費出版専門の会社が募集していた懸賞で「奨励賞」をもらったものです。担当氏曰く「1000を越える応募があるので、1回目で奨励賞って相当なものですよ」……そうかいな。まぁ、「本という物体で世に出したい」人は多いわな。ちなみに賞金2万円でしたが、プリウス1台分の価格で出版して下さるとローン返済プランを出されました(そっちがメイン)。イヤちょっと待てよこの長さで本とかペラペラやぞ。丁寧かつ強力にお断りしましたら「ではお帰り下さい」と。あのね本を出したい人、丸善とか大規模書店の自費出版サービスなら50万円くらい、電子書籍にしてアマゾン置いてもらうならもっと安いから。ちなみに出版は宣伝媒体としてのマスコミと分かちがたく結びついているので、思想信条がそぐわない物は門前払いを食らいます。
ではスタート。
Dpklmmfvqaelwhl
 
-1-
 
 バス停にはただ『布引(ぬのびき)バス』。
 行き先として、『センター前』。
 発車時刻は、朝の4時37分という、モノスゴイ時間に、一本こっきり。
 しかも。
『運転日はお問い合わせ下さい』
 そのくせ、連らく先は書いてない。
 という、変なバス停は、学校前の坂を下りて、〝広域農道〟を二百メートルほど行った、鎮守の森、鳥居の前にぽつんと立っている。
 分からないことだらけなので、みんないろいろ勝手なことを考えて言う。いつしか付いた呼び名が、〝謎行きバス〟。
「雨の夜に待ってると〝トトロ〟が出てくるんだろ?」
「待ってる人も乗ってる人も見たことないぜ」
 親も先生も、だれに聞いても、何も知らないと言うだけ。
 仕方がないので、〝布引〟と付く交通業者をインターネットで調べると、大昔に短い間だけ営業した鉄道会社が出てくる。でもそこがバスを持っているわけではないらしい。
『センター前』じゃ、ありきたりすぎて何も出てこない。
 情報がなさ過ぎて不気味。そのせいか、変なウワサを立てる人もいる。
「乗せられると変なところへ連れて行かれて、帰って来られない」
「反対方向へ行くバス停も時刻もない」
 そういう、こわいウワサに限って、あっという間に広がり、いつしか、それが事実としてあつかわれる。
 だから。
「あのバス乗ってくるヤツがいたら、〝神〟だよな」
 クラスの男子達はそんなことを言い始める。つまり、神様と呼んでいいくらいの勇気の持ち主じゃないと、あのバスに乗ろうとなんかしないだろう……。
 まるでキモ試し。
「つまり雄一(ゆういち)くんには絶対ムリって事だ」
「むしむしくんと仲良くしてるのが一番いいもんな」
 
♪むしむし 大好き 無視して 泣き虫 弱虫 毛虫 はさんで すてろ
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-06-

 
 山の中腹、ほぼ平らになった部分に広がる一面の芝生。城壁はなく、白い大理石のお城があります。ここはいつも、冷たく冴えた空気が流れ、でも寒くはありません。雲の中ならゼウス様がお住まいかしらと思うようなたたずまい。ここは妖精と人が共に暮らしたギリシャ神話の時代、そのままです。
「うわぁ、本当にお城だ」
 城の前、芝生に降り立ち、涼の手を取って歩いて行きます。天井高い玄関ホールの大理石に足を置くと、冷たさが足の裏から伝わり、私たちの足音が、トン、っと僅かに響いて広がります。
 すると、門番小屋(と、私たちが呼んでいる)小部屋から飛び出してくる私と同じ白装束の姿あり。
「まーた人間の女の子連れてきて!」
 ぷんぷん状態はミレイさん。人間さんの企業・工場なら守衛さんに相当する役どころ……であり、地球の精霊、ガイア様の秘書官。
「聞いてないけど」
〈頼んだ。自分頼んだ。涼に頼んだ〉
 私はホバリングしてそう言うヒバリに手のひらを向け“この通りでございます”。
「エウリーって結構なし崩しにルール破るよね。地上禁止になっても知らないから」
「ガイア様のご沙汰を待つよ」
 文句言いつつ、静止はされません。私たちは中へ入ります。石造りの大きな建物内奥ですから、例えばビルだと照明がなければ真っ暗でありましょう。でもここは、かなり中に入っても、大理石の色そのままにほんのり白く、歩くのに不自由はありません。入り組んで迷路のようになった通路を右へ左へ。
 日の当たるところへ出ました。草むらで、ちょうちょが多数ひらひら舞い飛んでいます。
 ベッドが一つ。男の子が横たわっています。
 6歳位。小学校の体操服という着衣でしょう、白いシャツに名札の縫い取り、黒い短パン。
 まどろむような目で。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-05-

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 えーと。
「子どもが、不思議な夢を見る。聞いたことある?」
「ああ、うん。私の今がそうかも、って思ってるとこ」
「あれね、多くの場合、心だけ、ここに来てるんだ。“物心つく”っていうのは、そういうのが不可能な状態になること、と考えてくれればいいや。でね、ヒバリが言いたいのは、そうやって来ている子どもがいるから、安心して欲しいので歌を聞かせたい。それを涼に歌ってほしい。そういう意味」
〈そういう意味、そういう意味。涼、歌って、歌って。涼、歌う人〉
 涼はため息。諦めたような。
「歌う人、か」
 ヒバリがじっと見つめて答えを急かします。涼は小瓶のハチミツを一口、指に絡めて舐めて。
「いいよ。どこ」
〈王宮、こっち、こっち〉
 飛び立ちます。とはいえ彼女は人間。空飛んで付いて来いと言われても。
「ちょっと待って。私飛べ……」
 地上の人間世界なら当然無理。しかしここは。
「大丈夫」
 私は涼を抱きかかえ、背中の翅に羽ばたけ。
 実のところ私の体重は1キロも無いので、40キロオーダーであろう人間さんを飛ばすのは一苦労。
 が、不可能ではありません。遠い遠い昔、人間さんの世界において、妖精の存在が認められていた頃には、その力を使って迷子を送ったり、落下事故に対応したり。ギリシャ神話にあるように人間さんと結婚した仲間すらも。
 しかし今、妖精なんかいないとされています。なので、大いなる意志が認めた場合以外は、人前への出現は許されていません。
 ヒバリを追います。草むらを抜け、高度を上げ、山の上にある白いお城へ。
「腕一本で抱かれているだけなのに、それはとても怖いことのはずなのに、何だろう、この安心というか、癒やされ感」
「それは、ここも天国の一部だからでしょう」
 涼の独り言に、私はそう答えました。
 城に近づき、緑に囲まれた姿が次第に視界を圧します。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-15-終

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「まだあれに見られている気がする」
「かもな。俺が死神だったらやっぱりお前殺そうと思うもん。だってお前いたら悪巧み全部バレバレじゃん」
 理絵子はハッとして桜井優子の顔を見た。
「どうしたよ。俺何か変なこと言ったか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
 理絵子は、自分の力が何物であるか判った時のことを桜井優子に話した。小学校2年、それこそオレンジストライプの電車の終点、国定公園・高尾山(たかおさん)に遠足で訪れた際、滝行の修験者にそれと言われたのである。
「その時言われたのは、決して人に喋るな。なぜなら人は不気味がるから。その力を意図して使うな。なぜならそれは自分のために使うものじゃないから。そして……何のためにその力が備わっているのか、それはその時になれば必ず判る。だから、その時まで言われたことを守りぬけ」
 理絵子は話した。そして今、彼女は思い至ったのである。
 なぜ、この力が自分に備わっているのか。
 そういう存在に引き込まれ、命を失う人が出るのを阻止するためだ。
 合点が行く。彼奴は、自分のこの自覚を阻止するために、今夜のこの瞬間を私に与えないために、私を亡き者にしようとした。
 理絵子は自覚を言葉にする。と、それに呼応するかのように風が吹き渡り、神社の中の森がざわめき、何かの鳥が不気味な声を出す。
「悔しがってる」
 理絵子は呟いた。それはそう、言うなれば彼奴の歯軋り。
 しかし今はもう怖くはない。彼奴が接近を図るならすぐに判ると自信を持って言える。
「線路に立つ子を無くす……それが私のなすべきこと」
 理絵子は言った。
 それは私なら出来ること。
 私しか出来ないこと。
「そうだな。それがお前の力の使い道として最も高貴な使い方じゃないかな。誰にもない力なら、一番高度な使い方をすべきだ。すなわち、愛と命だ」
 桜井優子が言い、そして続けて。
「なんてな」
 照れ隠し。理絵子は思わずぶっと吹き出し、次いで少女たちはあははと笑った。
 木立の間から覗くキラキラと輝く星々。
 理絵子は遠く、そして長い時間が始まった気がした。
 その踏切が廃止され、陸橋が設置されたのは、3ヶ月ほど後のことである。
 ただ、陸橋の下に花束が絶えることはない。
 
差出人不明-終-
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-04-

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「すごい……ことだよね。妖精、だもんね。そうだよね」
「ハチミツはあの辺」
 私は構わず、大きな栗の木、根元の穴を示します。中に大きな、そうマンションとでも呼びたいような、ミツバチの巣。
 ぶんぶんハチたち飛び交っていますが、彼女ら(働きバチはメスです)が、私たちに敵意を持つことはありません。
〈エウリーさんだ〉
〈エウリーさん〉
「ハチミツを少し下さいな」
〈いいですよどうぞどうぞ〉
〈あ、人間さん?人間さんの女の子?〉
「ですよ~」
 私は答え、手品の要領で袖口から小瓶を取り出し、巣の中に手を入れて、紙細工のようなその一部をめりめりっと破って拝借。
 搾り取ったミツは小瓶の半分はあるでしょうか。
「お行儀悪く指でぺろぺろどうぞ」
 渡すと、涼は面白そうに笑い、指先を入れ、そのようにぺろり。
「……美味しい。何これ、全然違う。濃いし」
「混ぜ物無いとそんな感じ。ハチたちありがとね」
〈いいえ~〉
〈女の子さん元気になってね〉
「え……」
 涼は目を丸くし、飛び交うハチたちを見上げました。
「判るの?私の体調」
「生き物は気配を察知出来て当然。気配って、存在感、でしょ」
「なるほど」
 と、答えた涼の頭上にそれこそ気配。
〈女の子、ハチミツなめたか?もう終わったか?〉
 先ほどのヒバリです。そういえば『後でまた来る』と言ってはいました。
「はい、なあに?」
 私は手のひらを出し、ヒバリを止まらせます。ちなみに地上を歩き回る鳥なので、スズメやツバメのように電線や木の枝に止まるような足の構造になっていません。
 ヒバリは降りて来、涼の顔を見つめて目をぱちくり。
〈歌って〉
「え?」
〈天国へ迎える子がいる。迎える子がいる。来られるように歌って〉
 私はヒバリの意図と目的を理解しました。ですが、どう説明しましょう。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-14-

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「およそバカバカしいでしょ。笑って」
「そんなことねーよ。お前の勘というか鋭さはハンパねぇと思ってた。お前がそういう力の持ち主だと聞いて、ああなるほどなぁと納得してるところだよ。やっぱりお前はエスパーだったんだ」
 理絵子は頷いた。
 何度も何度も涙と共に頷いた。
 やっと判ってくれる人が現れた。その思いに満足しながら、安心しながら。
 桜井優子はしばらくの間、片腕で理絵子を抱き、頭をなでてくれた。
 そして、随分と時間が経った頃、桜井優子がゆっくり訊いた。
「それで?死神が?」
「私を、殺そうとしていた」
 理絵子は、ようやく収まった目の下の洪水を拭き取りながら、答えた。
 今にして思えば、あの“意識の内なる声”、「後悔しているのか」と意識の内に問うた者こそ、死神の意識そのものだったのだと判る。誰にでも起こりうる心理的動作……自問する自我……に似せて理絵子の意識に忍び込み、巧みに誘導し、線路に立たせたのである。
 そして、そうしたことが出来るくらいだ。他の人の心にしのび込んでウソ手紙書かせるくらい造作もないだろう。従って当然、“彼”など、ここに来てもいないし、ましてや自殺などもしていない。
 差出人が不明なはずである。
「いつのまにか心を操作されるわけか。おいおい冗談じゃねーな」
 桜井優子は語気を強めた。
 理絵子は頷く。さもあろう。自分の“考え”のつもりが、いつの間にか何者かに好き放題“誘導”され、本来の自分ならあり得ない結論を導き出される。
 自分が自分でなくなるのである。
「よぉ、ひょっとして通り魔とか、よくあるナントカ喪失で無罪になっちゃうひどい事件って……」
「かも、知れない。あれは死を望む存在だから。何か隙間があればそこに入り込む。たとえばあの踏み切りだったら、傷ついた心持つ人が近づくと現れ、その心の傷口から忍び込み、更に追い込み、攻め立て、線路の上に立たせている。そんな気がする。だから……」
「だから自殺が多い」
「恐らく」
 理絵子は言った。
 そして、自分は、その死神に狙われた。
 心に隙間……それこそ思い上がりがあったためか、それとも別の理由か。
 どっちにせよ、あんなのに目を付けられている、ということ。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-03-

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 一方、妖精は基本的に虫と動物の相談相手。人間さんとコミュニケーション取ることは本来禁止。
 但し、命に関わる話なら別。
 ……と、勝手に拡大解釈しまして。
「歌うことがイヤなのかと心配した」
「ううん。そんなことはない。歌うのは嫌いじゃないよ」
「なら良かった。……てなわけでヒバリさん。彼女は喉の調子がいまひとつ。ハチミツを分けてあげたいので、また後で……でいいですか?」
 私はヒバリに問いました。
〈いいよ。後ででいいよ。また来るよ〉
 空高くへ上がって行きます。
〈あの、巣へ行っていいですか?〉
 ヒバリとのやりとりを待っていたミツバチが訊いてきました。
「ああ、ごめん。いいよ。あそこだっけ」
 私は少し離れた雑木林の方を指さします。
〈そうです。木の穴です〉
 野生のミツバチは木の穴に巣を作ります。だから似たような構造の人家の軒下や屋根裏にも巣が出来ます。
 雑木林まで草むらを横断して行きます。200メートルはありましょうか。
「風がおいしい……」
 涼は髪を抑えて言いました。
 女に属する私が言うのもあれですが、絵になる女の子いるものです。青空と、草むらと、女の子っぽい仕草の女の子。
 アイドルにしたいというビジネス側の気持ちも納得できます。
「変?」
「ううん、写真に撮りたいなって」
「そういうことか。楽しいけどね、怖いよ、ビジュアルばかりって。私の外見があれば中身どうでもいいってことでしょ。そのうちCGで適当に作られるようになるんじゃない?」
 それは恐らく、彼女を宙に舞わせた一因を示唆しておりましょう。
 テレパスであれこれ拾って言うことは出来ます。でも、多分、自分で考えて結論出すのが本来のあり方のはず。
「だったら、私みたいな翅持ちと出会う機会なんか無かったと思うよ」
 私はそれだけ言いました。涼は目を見開きます。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-13-

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 ブレーキシステムが発する金属の焼けるような臭い。
 10両編成の7両ほど行きすぎて、ガクン、と電車が止まった。反動で後ろへ車体がしゃくり、中で乗客が大きく振り回される様が見える。
 その乗客らが体制を立て直し、窓越しにこちらを見ている。
「こらっ!」
 電車の後尾、乗務員室から声がした。
「やべっ」
 低い声が短く言い、理絵子の手を引いて走り出す。
「あっ。待てっ!」
 線路に下り、砂利の上を走ってくる音。
 理絵子は手を引かれるまま走る。線路の砂利や枕木などの造作は思ったよりも大きく荒っぽく、こけつまろびつ。ただそれは乗務員氏も恐らく同じ。
 踏切から街路に出、住宅街を右に折れ左に折れ、細い路地に入り、小さな神社の境内へ。
 壊れかけた祠の裏へ回り込み、しゃがむ。
「ここまでは来ないだろう」
 低い声が、息を弾ませながら言った。
 理絵子はそこで初めて顔を上げ、声の主を見た。
 とはいえ、誰だかは知っている。桜井優子である。
 ジャージ姿で肩で息をし、理絵子を見るその目はまるでお姉さん。
「まだ何も言うな」
 桜井優子は言うと、あたりの様子を探ってから理絵子の腕を解いた。
「あの手紙、騙しだったらヤバいなと思って、来てみたんだ。どうしたよ」
 桜井優子はそれこそ妹に問い掛ける姉のように言った。
 理絵子はその目を見た途端、自分の涙腺が開放され、温かいものがまぶたを乗り越え、とめどなく溢れ出してくるのを感じた。
「怖かった。怖くて……」
 理絵子は言うと、続けて一気に、迸るように全てを話した。
 自分の能力のこと、そして出会ったものの正体。
 桜井優子なら判ってくれる、そう思って全てを隠さず話した。
 そして。
「死神か……」
 理絵子の話が終わった後、少しの間を持って、桜井優子がつぶやいた。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-02-

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〈こんにちは、エウリディケさん〉
〈こんにちは。彼女はだいぶん疲れが溜まってる。ハチミツが欲しいんだけど〉
 この辺の会話はもちろん音声ではありません。意志と意志との直接交流……人間さんの言うところのテレパシー。
「え?あ?こ……」
 涼はどこからともない“声”にキョロキョロ。彼女の意識には私が送り込んでいるのですが、恐らく、イヤホンで聞いたように、脳が声に結像したはず。
「ハチミツを分けてくれるそうです。一緒に」
 私は手を伸ばし、涼の手のひらを取り、引っ張って歩き出しました。
 足元の草むらは、足を下ろすたび、なにがしかの虫が飛び、緩く風があって、遠く雑木林の木ずれがサワサワと聞こえ、青い空にはヒバリの声。
〈エウリーさんだ、エウリーさんが人間の女の子を連れてきた〉
 そのヒバリたちが(心の中で)騒ぎ立てます。
「はいはい。彼女は歌手ですよ」
〈歌手はどんな歌を歌うの、どんな歌を歌うの〉
 童話に出て来るお喋り小鳥そのものです。そしてそんな印象を持ったのでしょう。涼は立ち止まってクスッと笑うと、空を見上げました。
「♪~」
 ケルティックな楽曲。ただ、それは、涼がテレビで歌うポップスとは違います。
〈妖精さんの誰より上手い〉
「失礼しちゃう。でも、そっか、涼はアイドルは不本意なんだね」
「うん……」
 出来ることとやりたいことと、現在受け入れられていること、一致すれば幸せですが、そうならないこともありましょう。不本意から始めて最終的に本来の目的、という方もいれば、求められることを仕事にすることで妥協、という方もいます。
 対して、彼女は、人生を途中で断とうとした。
 本来、そういう心には人生アシスト役の天使さんが気づくはずです。ただ、“天使の考え”を強制する権限は無いので、人間さんがその声を聞きに行かないと、聞こえないまま。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-12-

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 と、その思惟に呼応するように、髑髏の顎(あぎと)が開く。
 ニンマリと笑うかのように、Vの字に裂けて開く髑髏の口。
 髑髏が動く。瞳なき目で自分を見、自分に向かって接近を開始する。口を開き、自分を食らう意思を明確に、ゆっくりと、確実に、自分に、接近する。
 理絵子は気づいた。
 これは。
 この存在は。
 太古より髑髏の姿を持って描かれる、破滅の象徴。
 
 死神。
 
 今ごろ気づいても遅い。死神が嘲笑したように思えた次の瞬間。
 状況が変化したことに理絵子が気づくまで、刹那の時を要した。
 迫り来る白く明るい二つの光。
 カンカンという踏み切りの音。
 続いてファーンという電車の警笛。
 それは、踏み切りの真っ只中に立っている自分に向かい、2つのヘッドライトを灯した電車が接近してくるという現実。
 その時、理絵子は死神の嘲笑を本当に声として聞いたような気がした。
 そして、罠に落ちた彼女を、悔恨を抱く彼女の心理を、その“声”が嘲り笑う。それは死神の意志表示であると気づく。
 曰く、“ざまぁみろ”。
 だめだ。理絵子は思った。
 電車の押す空気が、風として理絵子の髪を流した。
 その次の刹那。
「りえぼー!」
 良く知る低い声が掛かった。
 女の声。強い声。
 声の出現と共に、死神の嘲笑も、そのイメージの残像も、電源を抜かれたテレビのように、忽然と掻き消えた。
 次いで彼女の心理を温かく包み込むものがあり、
 同時に彼女の小柄な身体が、強い腕にしっかりとホールドされた。
 電車のライトが視界から大きく逸れる。
 その瞬間、電車から発せられたバシャーッという空気の吐出音と、ひときわ長い警笛。
 非常ブレーキである。車輪とレールが擦れてキーと音を立て、火花が散る。
 理絵子は目の前を電車の床下機器が行き過ぎてゆく様を見ている。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-01-

 
 目の前を女の子が落ちて行きます。
「いやいやちょっと待って待って」
 私はひとりごちて飛び出し、落ち行く長い髪を追います。
 追いついて、両腕で彼女を抱き締め。
 一気にブレーキ。地上アスファルトまであと少し、そんなところで静止に成功。
 彼女が私に気付きました。
「あなたは……天使……」
「いいえ」
 意志込めて私は彼女を見返します。確かに着ている装束は天使に見えるかも知れません。toga(とが)というギリシャ神話でおなじみの白い布をまとっていますし。
「あなた翼がある……」
「これは翅です」
 私は残ったあと少し……を羽ばたいて降り、翅を止めました。
 背中に翅の生えた女。
「妖精、です」
 言って腕から彼女を解放すると……何のことはない、清涼飲料水を手にしてニッコリ微笑む彼女の姿が後ろのビルの広告看板。
 アイドルとして知られる……そうですね、仮の名を涼(りょう)、としましょう。彼女です。
 飛び降り自殺を図ったと知れます。ええ妖精ですから超感覚の類いは一式持っています。
「大丈夫、警察に届けたり事務所に戻したりしません……でも死ぬ必要があるとも思えない。そこで提案、少し姿消す、失踪或いは誘拐。いかが?涼」
「どうやって……」
「テレポーテーション。秘密の呪文はリクラ・ラクラ・シャングリラ」
 もちろん、口にしたので呪文は効力を発揮します。ビルの谷間が背景チェンジ。その変化の仕方はさながら映画かテレビのドラマか。
 湿原に変わります。彼女の右手、丘の上には古代ギリシア風の白い神殿。
「ここは……ギリシャ?」
「いいえ。私のような生命体の住む国。幾つかありますが、ここは妖精が主体なのでフェアリーランド」
 私は言い、近づいてきたミツバチに右手を伸ばします。
 

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妖精エウリーの小さなお話【目次】

●妖精エウリーの小さなお話集

~手のひらサイズの翅娘のお話を、あなたの手のひらで~

All llustration by TAC.(TAC's DDDD)

魔法のりぼんheart

若きフェアリーテールの悩みheart

枯葉の森の小さな事件heart

命のバリアheart

昆虫界の大異変heart

もう一人の私heart

すて犬物語heart

heart

大河のようにheart

蛇の道は。heart

heart

僕に魔法をheart

翅のちぎれたちょうちょの物語heart

人魚と出会うheart

私が怒ったことheart

プレゼントheart

瑠璃色の翅は青い空にheart

クモの国の少年(目次)heart

闇を齎す光(全8回)

花泥棒(全20回・目次)

つばめは人家に巣をかける

けだもののそんげん(全32回)

アイドル(全7回)

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【理絵子の夜話】差出人不明-11-

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 謝りたい。理絵子は切に願った。叶うものなら彼と会い、全てを謝罪したい。
 時間に遅れたこと。
 そして、決して軽んじたわけではないが、真摯だったかといえば、そうではない、ということ……。
 そこで内なる者が口を開く。-楽にさせてやろうか。
 理絵子はハッとして意識を傾ける。-お前の稀有の力は、既に身を持たぬ存在とも意識を交わすことが出来る。それは知っているな。
 理絵子は頷いた。いわゆる霊的存在……意識だけの生命と彼女はコミュニケートできる。
 気づいて顔を上げる。トンネルを思わせる暗闇の中に白い部分がある。それは“蠢く靄”と形容できようか。
 行け……促されるまま、理絵子は立ち上がり歩き出す。その白い靄から感じる自分への視線。
 対峙。
 理絵子が見つめる中、白い部分が生き物のように動き出し、変化を始める。
 次第に薄ぼんやりと浮かんでくる白い形。
 それは大きい。理絵子の身長をはるかにしのぎ、見上げるほどもある。
 顔だ、と理絵子は思う。そう、その白い形は人の顔の輪郭に似ている。
 白い形が更に変化する。顔で言うなら目の位置に、黒い丸い領域が二つ現れ、それこそ目のような形が浮かぶ。
 白い顔に二つの黒い目。
 いや、“目”じゃない。
 理絵子は慄然とした。
“目”の下に現れる今度は鼻に似た黒い形。
 そして、鼻に似た部分の下に、ぞろりと並ぶ剥き出しの白い歯。
 唇も歯茎もなく、根元まで見える歯。
 鼻に見える黒い穴。目に見える黒い二つの穴。
 頭部には毛髪も皮膚もなく、ただ白い。
 その姿は。
 
 髑髏。
 
 巨大な髑髏。
 暗闇に忽然と浮かび、自分を見据える巨大な髑髏。
 理絵子は声も出ない。同時に、その髑髏が“彼”などではないことは容易に知れた。
 激しい毒念。憎悪と殺意。
 だまされた。その思惟は自然に意識に浮かんだ。
 

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あとがき~アルゴ号の挑戦~

「前に、前に」書き終えての率直な感想である。何が起こるか知識として知っておき、可能な範囲で予知、必ず出来る直前警報、そしてすぐに避難。これらをすべからく強制的に通知する手段。
「起こってから」一つ一つに対処するのは膨大な時間を失うのである。3分早く知るだけで100人1000人の命が救える。比して事後72時間で救える命は余りに少ない。
東北地方太平洋沖地震では、情報自体はどんどん更新され、流されていたが、現地でそれを受け取る手段が無かった。停電によりテレビは見られず、携帯電話は電波が輻輳。「津波の高さ10メートル以上」これを現地で知り得た人がどれだけいたか。知り得なかったから、あれだけの人命が失われたのである。21世紀になって、先進国日本で、自然災害で2万とか何事ぞ。
実はこれを書いている時点で、ネットで見かける気になる書き込みに以下のようなものがある。明日の天気は?えー降ってきた聞いてないよ。
んなもん、今これを読んでいる多くの人が「調べておけば出て来るし、リアルタイムの情報取得も可能だ」と思うであろう。が、それは多数派ではないのである。「自分で調べる」がアクションアイテムとしてそもそも存在しない人も多いのだ。ネットで人づてに訊く行為は滑稽に映るが、そうした人はネットがコミュニケーション手段でしかないのである。ここに「強制的に押し込む」必要性が発生する。
ただ。
現状、その手段は防災行政無線、携帯電話のエリアメール、程度である。よしんばそれらで危機を知っても「その後どう動くか」プランが何も用意されていない人の何と多いことよ。況んやネットで人に訊くレベルの人が如何なものか、推して知るべしであろう。
さておき、話中で幾つか現在の技術で可能な減災システムの提案を行った。衛星からの一斉送信であり、端末の移動を追跡しての避難方向指示である。また、現況把握にも衛星を用いた。「準天頂衛星」である。詳しい説明は省くが、赤道面に対し斜めに軌道を配することで、日本の真上に衛星を通すことが出来る(気象衛星「ひまわり」は赤道の上空にいる)。これを使った所在把握サービス、緊急警報サービスが実際考えられている。また、本作では“空飛ぶ船”が出てくるが、これを飛行船に置き換えると、上空からの把握と指示、無線中継等はそのまま実用に供せられることに気づくであろう。そう、現実離れした内容では無いと考えている。
ただ、ただ再び。
例えばこれは仙台空港である。滑走路上から海は見えず、ここが津波に覆われたなど想像しがたいであろう。携帯の位置情報から逃げろと情報飛ばしても、受ける側がそれに対応してアクションしないと何の意味も無いのである。出先の地形と避難所を常に把握することは困難であるから、位置情報に応じてナビゲーションが起動する位は必要と考えるが、その指示に従うかの最終判断は情報を受けた個々人である。「言われた通りにしなさい」という教育が必要で、その根拠として震災で起こった事実の周知が欠かせない。
あれだけの大災害をたかがネットのファンタジー物語に取り込むことを不謹慎と思われる向きもあろうが、その能力を持っても「単位時間当たりに救助できる人数」がいかほどのものかはイメージできたのではあるまいか。本作の趣旨はそこにある。そして、予防保全として、「何が起こるか」知ることと「取るべき行動」を知ることが実際に必要なことである。そこが喚起できれば本作の目的は達する。但し、失われた御霊に報いるのは、「次」に同じことが起こらないという事実を達成できた時点となる。それは南海トラフかも知れない、三陸沖アウターライズかも知れない。富士山の噴火かも知れない。
日本は1944/46年の南海トラフ以降、真に巨大な地震に対峙することなく過ごし、応じた危機意識の不足は否めないであろう。
その不足を補う時間はあまり多く残されてはいない。南海トラフの典型、宝永地震から300年が経過した。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-10-

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 理絵子は、ギクッとした。
 否定……できない。確かに、この手紙が入っていると知ったとき、ああ、またか、と思った。
……断るのが面倒だと思わなかった、とは言えない。
 内なる者が続ける。お前はお前に言い寄る者たちの心の中が見えていない。なぜなら茶飯事で面倒くさいために、表面だけで応じようとしているからだ。その真意の一つ一つを汲み取ることをせず、適当にあしらっているのだ。実際、お前がここに来たのだって、相手が真剣だからとお前は表面上うそぶいているが、その実、死なれては困るからだ。今動揺しているのだって死なれたからだ。彼が可哀想だなんてカケラも思っちゃいない。死なれちゃったどうしよう、に過ぎない。死という結末に困っているだけで、彼にそれを選ばせたことに思いを馳せたわけじゃない。違うか。ごめんなさいではなく、なぜ死んだの?だ。違うか!
「やめて!」
 理絵子は声を上げ、耳をふさぎ、目を閉じてしゃがみ込んだ。
 聞きたくない。決してそんな風には思っていない。だけど聞きたくない。
 理絵子は首を左右に振った。しかし内なる者は容赦しない。
-『そんな風に思っていない』と思い込みたいだけだ。お前は彼の気持ちなどカケラも考えちゃいない。
 そんなことない!理絵子は反駁する。私には判る。彼がどんな思いで私を待ち、落胆し、ショックを受け、そして……。
 理絵子は見た気がした。
 想像力のなせる技か、稀有の力が働いたのか、それは判らない。
 だが、その視点は紛れもなく彼のもの。
 高速で迫り来る銀色の電車を見上げ、ついで一瞬にしてブラック・アウトする。
 そして、その先は何もない。
 死という名の消滅。
 その恐怖をすら上回る、自分に裏切られたショックとはいかほどのものだろう。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-138-終

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 レムリアはガーゼでゆっくりと新生児の全身を拭う。巻き尺を使って身長測定。
「私の……あなた、生まれました。取り上げてもらいました……」
 それは、この子のために身を挺した夫氏への涙。
「あの、学……さん」
 母に呼ばれた相原は自らを指さしてどぎまぎ。
「え?私ですか?あ、はい」
「ごめんなさい、このお嬢さんがそう呼んでいたもので……あの、この子のへその緒を切ってくれないでしょうか」
「自分が、ですか?」
「ええ、あなたは主人の代わりに私の出産に立ち会って下さった。主人とは両親教室に通って練習しました。主人でも、同じようにしてくれただろうって」
 医師が取り出した鋏。
「学。この子の人生の旅立ちを」
「承知した」
 相原は、大柄な鋏を手にした。
 へその緒は文字通り命綱であって応じた太さと強靱さを有する。鋏が大柄なのは応じた力を出すため。
「おお硬い……切って、痛くは無いのか?」
「神経ないし、もう血が通ってないし」
「判った。じゃぁ力任せに」
 相原は何度か鋏を入れ、そして、へその緒は切れた。
「13時43分」
 レムリアは時計を見て言った。
「出生13時43分。アプガースコア9。身長46センチ。体重2702g」
 医師が読み上げ、データがプリントアウトされてくる。
 出生届に書き写し、医師のサインを入れる。
「まぁ後は私らでやるよ」
 レムリアは相原に言った。
「了解」
 相原は言い、出て行こうとし、イヤホンにピン。ピン2回。
「はい相原……アルゴ号はお産で動かせない。そっちは……ああ、ならすぐ行く」
 あさひ丸である。川を遡りアルゴ号のそばにいるという。
 相原はプラズマガンを持ち上げ、保持ユニットの扉を開いた。
「倒壊家屋にワンちゃんあり。ちょっと行ってくるぜ」
「はい。お任せします」
 3月13日13時50分。
 
アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~/終
 

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