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魔女と魔法と魔術と蠱と【3】

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 翌週。
 彼女の所属する国際医療ボランティア〝欧州自由意志医療派遣団〟(European Free-will Medical care Mission:EFMM)は、欧州からアジアの貧困地帯を巡って東方へ向かう横断ミッションを展開した。
 但しスポンサーに付いたのが日本の民間テレビ局で、同局の取材陣一行が同行密着。その意図、この局は今年開局で、ターゲットが〝子ども〟。そこで格差拡大という時代背景をふまえ〝子ども達を貧困から救う〟をテーマに開局特番を企画。彼女に白羽の矢を立てたのだ。
 彼女をテレビ局が知っている。その理由。
 〝特別キャスター〟の若い男性タレントがマイクを持った。
「今回我々は“お姫様看護師”として知られる、メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下と、殿下が所属しておられる医療ボランティア、欧州自由意志医療派遣団と行動を共にし、これから1週間、この時間にその日の活動を皆様にご報告。本放送日には会場アリーナにおいで頂きます……」
 紹介に会釈するテント前の仮設“スタジオ”。這い回るケーブルと、ぶんぶん唸る発電機、強力な照明。そして天へ向いた衛星中継のパラボラアンテナ。
 テントの中には簡易なベッドが並び、やせ細った子ども達が横たわり点滴を受けている。
 その目には陽光よりも明るい灯りが白く映っているが、まばたきすら忘れたよう。
 彼女が少し背後のテントを気にしているとマイクを向けられた。自分を狙うテレビカメラの下でスタッフがホワイトボード〝お願いします〟。
「この地では部族間の抗争に子ども達が置き去りにされました。親を失った子ども達は、ただ、飢えて行くだけです」
 ナースウェアの彼女は淡々とした口調で言った。黒々とした瞳は光得て尚ガラスのように輝きを帯び、黒髪には撮影の照明が艶やかなリングを描く。
 王女。そう彼女は王家の血を継ぐ娘である。中世以降魔女の輩出で知られた欧州の小国、アルフェラッツ王国の姫君だ。〝相原姫子〟で奇異に感じないのは、祖先の血筋に伴う。言葉は天才肌といって良く、ヒエログリフ解読で知られるシャンポリオンに1つ及ばない12カ国語を操る。日本語もそうした勉強の賜物。……テレビ局の目の付け所は悪くないと言えるか。
 スタッフの指示で続きを喋る。
「大人達は自分が生きるだけで精一杯。他の子どもに手を出す余地すらありません。そして子ども達はただ、目の前で行われる殺し合いを見せられるのです」
 自分を映すカメラの下にはテレビモニタが2台ある。1台は自分が映り、もう1台には資料映像として銃の乱射やロケット弾、破壊され燃える家などが映っている。たった今放送で流れているのは、自分の声と資料映像。
 自分とタレントの映像に戻った。
「なるほど。真の被害者は子ども達というわけですね」
 タレントが言う。ありきたりなセリフ。しかも件のホワイトボードにそう書いてある。
「ええ」
 ありきたりに返す。テレビ中継などこんなもんだと聞いてはいた。されど団長からは命のために少しの我慢、と言われた。しかし正直、こんなことしばらく繰り返すのかと気が滅入る。思わず腕の時計を見ると後1分もある。毎日5分のミニ番組。その都度それだけの機材が動いてパラボラが立てられ、こんなことをし、終われば撤収。
 あと1分、のゆえであろう。奥の機材車の前ではコンロが取り出され食事の準備。彼らテレビスタッフは食料品を自分たちで持ち込んでいる。
 ホワイトボード〝アドリブで1分〟。すると、
「そうですか」
 タレントはまず言って。
「しかし姫君は日本語がお上手ですね」
「え?……ああ、ありがとうございます」
 それが今ここで何か関係あるの?
 と、テントの中で動きが生じる。赤ランプが点滅し、ピーピーと警告音が鳴り響く。
「CPA!」(心停止)
 アフリカ系のスタッフが叫ぶ。
「ごめんなさい。失礼します」
 彼女は頭を下げてテントの中へ走って行く。子どもが一人危険な状態。ベッドに飛び上がり、心臓マッサージ。
 タレントの語気がにわかに強まった。
「緊急事態が発生したようです!姫君は早速救命活動に加わられました。ああしかし放送時間がありません……」
 AED(自動体外式除細動器、Automated External Defibrillator)を手にしたドイツ人医師が駆けてくる。
 電気ショックを投じる旨のアナウンスが何度か、夜空に向かった。
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つづく

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