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魔女と魔法と魔術と蠱と【15】完結

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 電車が運転を再開したらしく、轟音を立てて鉄橋を行き過ぎた。
 男の子が身じろぎしたタイミングで、相原は腕をほどいた。
「出血止まったか?」
 男の子は下を向いたまま頷いた。
「あんたさ……」
 枯れた、ぼそぼそした声で、彼は訊いた。
「あん?」
「姫様と……け、結婚してんのか?」
「まさか。立場知ってんだろ?偽名用に貸してんのさ。従姉妹って設定」
「彼氏?」
「非公認。そういうことは本人に訊けや」
 相原はスッと身を引いた。
 向き合う二人。
 目の下を赤く腫らした彼。
 硬い表情で唇を噛みしめ、麦わら帽子を手にした彼女。
「質問していい?」
 彼は問うた。
「ええ」
「終わり?」
「です」
「成就」
「しません。残念ながら」
「絶対に?」
「絶対に」
「仮に……俺があのリング割らなかったら?」
「それは判りません。あれは冥府が求めたのか、或いは試しただけか」
「試すって……」
 我ながら血も凍るほど冷たいと思う。
 でも多分、相原の〝任せろ〟は、こういう展開を踏まえての事前告知。
「ただ、二つ、理由を挙げることが出来ます」
 彼女は人差し指と中指を立てた。それはピースでありVサインであるが、今はそのどちらとも意味が逆。
「お話しした方がいいですか?」
 訊いたら、彼は躊躇なく頷いた。
「ひとつ、あなたは作法の禁を二つ破った」
「え?」
「何を破ったか、それは最早、考えることすら意味を持たないでしょう。言った通り二度は言いません。言うことを許されていません。それと、もうひとつ、それは私自身の意志。私の気持ち」
 彼は、その言葉に拳をギュッと握りしめ、歯を噛み鳴らした。
 これに相原がぼそっと。
「女に拳は、賛成出来んな」
 つまり、力任せ。
 彼が、びくり、と全身を震わせた。
 後悔と、激しい動揺をその目に浮かべ、彼女を見る。
 そして、うなだれる。
「判ったよ。魔術に頼るなんて……そしてごめんなさい。姫様」
 自分が冷たく彼に当たる理由を知る。魔術で強引に、への反発。
 彼の気持ちは判った。痛いほど判った。でも、でもなのだ。
 この力、誰か一人のためにあらず。
 だから、積極的に開示しないし、マジックとしてみんなに楽しんでもらって。
「いいよ。別に」
 彼女は言った。で、続けたい言葉があるが。
〈嫌いになった訳じゃない。って言っていいの?〉
〈やめとけ。余計に傷付ける。完全に断ち切ってゼロにするべき。完膚無きまでって判るかい?案外男って引きずるんだよ〉
 やはりそうか。
 すると、彼は、腕で顔を一拭いすると、顔を持ち上げた。
「もう、会えないのかな」
 無理して自分を見ているのが判る。その顔からは、拭ったそばから、堪えきれないように涙がぼろぼろ。
「判りません。成就しない、という力が、どんな風に作用するのか。私自身、受けたことはないから。そんなこと考えたこともないから」
 ただ、相原の引きずる説を正とすれば、自分が顔を出すなど論外であろう。
「またマジックショーを頼んでもだめなのかな。その……みんな君が好きだから」
 それは、己のせいで、施設の子達が、自分と会う機会を失った。
 そんな、彼の後悔。
「だったら、せめて最後に、魔術じゃない、手品を僕に教えてよ。君の直伝の。姫様の手品の」
 後から後から、幾筋も涙流しながら言う彼に、彼女は持っていた麦わらをくるりと裏返し、彼の前に出した。
 実は、それには悲しい心当たりがある。
「この帽子で、そのつもりになって、何か出してみて。例えばこの場所は、貝の化石が取れるんだって」
 彼が麦わらに手を入れると、その手には、リンゴのサイズの白っぽい石が握られて出てきた。
「石ころだよ」
「違う。ノジュールだ。貝殻なんか芯に石灰が集まったものさ。貸してみ」
 相原が先ほどのルビー玉を石に叩き付ける。
 石が二つに割れ、中から二枚貝の化石が出た。
「あっ……」
 驚く男の子の手に、相原は貝の化石を載せ、握らせる。
 貝を見回す男の子。
「私の帽子には何もタネはないんだ。あの日あなたを大マジシャンにした。その術が解けていないだけ。私は服だけ元に戻して、そっちの術を解くのを忘れた」
 言って、今知った事実。
 あの日彼が失った、自転車の鍵。
「だから、改めて、あなたに教えることはありません」
 彼女は帽子を頭に載せた。
 残酷、だと思う。
 でも、仕方がない。
 実際、彼と〝お付き合い〟するにしても、何も具体的な状況が浮かんでこない。海を歩く?映画を見る?ロマンチックな場所?それこそ、その太郎坊?
 で?星を見ながら何を話すの?
 そのうち携帯が鳴って、夜空の彼方から呼び出されるのが関の山。彼を放って行かねばならない。それ以前に、いつ会えるかなんて不定期そのもの。
 むしろ相原学とはそういうパターンを経たことがないのに。
 交通ICカードのみならず、馴染みのお店のポイントカードに、相原の家には自分専用のクローゼット。東京で暮らせるフル装備で、秋葉原でラーメン食べたり、コント混じりのマジックショー。
 で、今回など都合2週間寝泊まり。逆に3ヶ月音信不通も。
 ショーの最中に呼び出しがあれば、シルクハットを手にして「後は任せろ」。
 例えば病院で不測の事態があれば「何か手伝えるか?」。
 ギョッとする。彼と彼を、どこかで比較していたのか私。
 出会って1年。自分に生じるあらゆる事態に対応する術を備え、興味対象の全容を把握する社会人。
 対し、この自転車乗りが趣味の男の子。
「姫様、なんだね」
 彼は、小さな笑みを浮かべて言った。
「やっぱり、君はお姫様なんだ……ありがとう。その、あんたも。彼氏の人」
 彼は言い、振り切るように走り出し、堤防の自転車を起こした。
 こういう場合、自分がこういう行動を取るのは、いけないことなのかも知れない。
 でも、それも私自身の意志。
「待って!」
 彼女は彼を呼び止めた。彼がこっちを見たのを確認し、走って行く。
「鼻血なら止まったよ」
「そうじゃなくて……多分、友達でいちゃいけないって掟はないはず。だったら……」
 耳打ち。
「私の本当の秘密を知る人は、私のことをレムリアと呼ぶんだ」
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魔女と魔法と魔術と蠱と/終
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