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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【7】

(承前)

 原理に従う捕食の場に妖精があってはならない。私は最も厳格な掟に従い、倉庫を出ました。そして、空っぽの虫かごを持った男の子の後について、家の中に入って行きます。
「あげてきた」
 リビングに戻ってゆたか君は言い、空になった虫かごをお母さんに渡しました。
「ピアノの予習は?」
 氷のような。それが私の抱いた声のイメージ。
 ゆたか君のお母さん。細身の眼鏡を掛けた、峻厳な顔立ちの女性です。
 いえ顔立ちが峻厳なのではありません。それを醸しているのは女性の〝目〟。
「うん……」
 ゆたか君は言うと、リビングを出て階段を上がって行きます。その階段を一段上がるごとに、彼はうなだれ、表情が沈んで行きます。
 木のドアを開けて彼の部屋。
 マホガニー色したフローリングのその部屋は、まるで学者の書斎です。調度と言えばアップライトのピアノに本棚と勉強机。本棚には偉人伝と百科事典。
 ハッと気がつきます。おもちゃはどこ?
 子どもさんに飼われる虫たちとも話すので、子ども部屋はちょくちょく見ます。おもちゃがあって、好きな乗り物のポスターが壁に貼ってあったりします。
 しかし、この、ゆたか君の部屋の壁に張ってあるのは、地図と、時間割と。
 時間割じゃない。
 スケジュール表です。習い事と、病院と。一週間に七日。つまり、一日中家にいるという日がない。
 ピアノが鳴り始めます。バイエル、つまり全くの初歩です。私もバイオリンを弾きますが、全くの手慰み、お遊びです。楽器……楽する器。そのままです。友達と月明かりの下今日はやろうか、そんなノリです。曲も即興。そのうち動物たちが近所の森から出てきたり。
 比して彼の弾く音の悲しさ。

つづく

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