彼女は彼女を天使と呼んだ(56)
「ノウマク サマンダ バザラダン。
センダ マカロシャダ ソハタヤ。
ウンタラタ カン マン。
ノウマク サマンダ バザラダン カン」
精神的な不安を取り除くためのもの。
実際には14の印契を切るので省略形もいいところである。ただ、手抜き自体はしなかった。
包んでいた殻のようなものが割れ砕けた。それが最初に抱いた感覚。
次いで得たのが、いつの間にか覆っていた霞、或いはベールのようなものが剥がれた。視界も聴覚もにわかに鮮度を増した。そんな感覚。
呼応してか、多目的室の柱と梁からビシッという音が生じた。
殻が割れるような。
「ラップ音!」
オカルト愛好の女の子の一人二人、クラスに必ずいるものだ。ただ、理絵子はあまり力の分類とか用語に興味はない。
「すげー。あんたやっぱ本物じゃない?」
回答するかはさておき、その言葉にクラスを染めていた不安の色が溶け消えて行く。
対し。
〝不安の雲〟
〝包囲網〟
先日思い浮かべたそれら言葉と、今得た感覚との類似性。
そしてこれは予知。動く。
「なぁりえぼー」
多目的室の隅に座り、事の次第を見ていた桜井優子が、理絵子を呼んだ。理絵子の秘密を知る桜井優子にとって、この部屋は恐怖の対象ではなく、儀式も傍観者の立場。
動く。
「これお前じゃないよな」
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