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彼女は彼女を天使と呼んだ(31)

「怖いよそれ」
 クラス中が静まりかえる。
「しかも、自分で覗きに行くならまだしも、押しつけられることすらある。知りたくもないのに勝手に判ってしまう」
「やめてよ……りえぼーに言われるとゾッとするほどリアルに聞こえる」
 誰かがどこかで自分のことを……そんな想像は、一旦始まってしまうと、止まる要素がない。どころか、自分はこんな風に思われているのでは?と〝想定される最悪〟を考え始める。
 そこに、〝脳内で勝手に憶測が進行する〟が結びつくと知る。父親世代のコミュニケーションは、まず生身があって、生身不可の代替手段が手紙。それが電話、ネットと進化し、リアルタイム性を徐々に備えた。
 他方自分たちの世代。
 1次元(文字だけ)、声アリ、2次元(画像メール)、3次元リアル。
 後は俺様のジャスティス。
 そこにこの年代特有の情動が加わる。目覚め始めた自我は、存在を認められたいと思うが故に、認められない事態を極度に怖がる。すなわち繊細で傷つきやすい。
 その心は、想定される最悪の事態を考え、それが自分を傷つけるレベルかどうか、常に推し量ろうとする。
〝脳内で勝手に憶測が進行する〟
 判断の座標軸原点は、自分が傷つくかどうか。
 あくまで、自分が、自分の視点で。
 恣意的で、利己的で、偏向がある。
「大丈夫私みんな好きだから」
 理絵子は思わず言った。
 立ち上がって、クラスを見渡し、声を出した。
「私このクラスみんな好きだから。女子だから男子だからとか問題ない。みんなのいいとこ私全部言えるから。誰が何を言おうが書こうが、そんなのうわべだけの勝手な憶測……そうだろ糸山!?」
 理絵子はドア口に立っていた男子の学級委員、糸山秀一郎(いとやましゅういちろう)へ向かい、怒鳴るように言葉を投げかけた。
 糸山は件の主将君とそこで何やらダベっていたのだ。糸山は主将でこそないが野球部。運動と地位を共通接点に二人の仲は良い。なお、この学校では野球部丸刈りというステレオタイプは当てはまらない。
 理絵子は念ずる。ここで、男のお前が、ひとこと力強く付け加えろ。
 しかし。
「あ、うん……こ、怖いよ黒野」
 理絵子は思わず糸山の目を睨むように見てしまった。
 そのせいだろう。主将君の自分への目線には気付いていない。

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