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彼女は彼女を天使と呼んだ(76)

21

 彼が理絵子を名前を呼ぶこと。
 それは、彼女にとって、具象化した悪夢そのものであった。
 身を起こしていた高千穂登与が、……それこそ霊的なマリオネットであったのだが……元の通りに仰臥に戻り。
 対し傍らの北村由佳が、突如身を翻してベッドに立ち上がり、壁に突き刺さった有象無象からハサミを手にし、理絵子に向ける。
 移った。理絵子は知った。
 感情の爆発である。但し多分に霊的な。
 理絵子は椅子から立って身構え、次いで首を傾げる。おかしいのだ。事態が形而上的に形而上的に少しずつ引きずられている気がする。そっちの世界が顕在化しやすくなっている。
 よく考えたら教諭自ら〝お祓いしてもらって〟と言うのもおかしいのである。ちなみに理絵子自身は教諭を祓っていない。つまり、方便。
 あまりに的確で効果的な。
「嘘つき」
 吐き捨てるように北村由佳は言った。
 それは自信なさそうな細い娘ではなく、恋に身を焦がす少女ではなく。
 憎悪むき出しの般若。
 その言葉は理絵子の説明など信じていないことを示した。
 嫉妬の塊。
 消え入りそうな細い娘の変貌。それは廊下の数名教員達の虚を突き、手足を凝固させた。
「北村さ……」
「うるさい!」
 北村由佳は手近の壁から刺さり物を抜き、教員へ投げつけた。
 もちろん彼女本来の力のなすものではない。高千穂登与の走狗たちがこちらへ移ったのだ。そしてむしろ彼らが北村由佳を動かしている。憑依と呼ばれる状態である。
 ただ、霊媒たる高千穂登与は失神状態。北村由佳はオカルト世界を信じているとは言えるが、能力者ではない。
 それは、彼女を通じずとも、そういう連中が〝あの世〟から出入り出来る〝穴〟がどこかにあることを示唆した。
 〝そっちの世界が顕在化しやすくなっている〟
 この状態で超感覚を遠慮する必要はあるまい。答えはすぐにもたらされた。
 マジックサークル……魔法円のイメージ。
 合点が行く。高千穂登与は自分に何か術を掛けようとして破れた。ケンカに負けた。

→次

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