彼女は彼女を天使と呼んだ(84)
魔法円の中に炎が立つ。
外周に沿った円形の炎である。無数の蝋燭の炎が繋がったように、ゆらゆらと赤く揺らめく。
炎が囲う円の中心に何か生じる。
いや、まだ生じたわけではない。正確には生じる気配、予兆。
それら感覚が強まるに合わせ、置いてあった頭骨模型が動きだし、円の中心へと床面を移動して行く。それが中心まで達した時、事象が具体化する、と、理絵子は理解する。
今度こそ生じる。第一印象は毛布。人が毛布を頭から被っている姿に似た、もやもやとした、何か。床の下から〝生えて〟くるように立ち上がり、すーっと所定の高さまで伸びて行く。
それが白く色を帯びる。実体化である。炎の色を映して赤くなる。しかし、向こうが透けるほどの状態は保持し、揺らめき漂う。この世とあの世の中間的存在を表す。
毛布をかぶった〝人〟。
「霊魂」
理絵子は呟いた。人の体をなしていない。無論生きている人ではない。
天使などではもちろん無い。
ただ、〝人格〟はある。
そこまで読み取ったら件の髑髏が〝顔〟の部分にスッと座した。その唐突さは念動と言うより瞬間移動、テレポーテーションの様相。
毛布纏った髑髏。
その眼窩、すなわち眼球が収まる穴の内奥が、赤く炎を照り返す。
それはグロテスクな死の現実化そのものであり、高千穂登与から恐怖の絶叫を引き出した。
対し理絵子はその燃える眼窩を正面から見返す。彼女は良く似た存在と過去に対峙したことがある。
そいつは自らを死神と称した。目の前のこれは同じか、異か、
或いは同族の別種か。それとも、死神と名乗る者は複数存在するのか。
判らぬ。ただ、自分に死を与えるため魔が寄越した存在、であるなら辻褄は合う。以下この存在をとりあえず霊魂と記述する。霊魂は様子見であろうか、理絵子にまず意志を伝えて寄越した。むろん意志と意志との直接接触、テレパシーそのものであるが、相手は意志のみの存在であり、テレパシーと書くのが適切かどうか定かではない。
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