ブリリアント・ハート【21】
「この子とにかく引っ込み思案でね。今回もあなた様の講演を聴きに行くと聞いて驚いたくらい。この子なりに克服したいと思っている、とは思うんだけど」
レムリアは頷いた。彼女は“ダメ”とは言われないまでも、行動や存在意義を否定される言動を受けてきたのだろう。そこで、その対極にある“誰かのために役立ちたい”という衝動を持ったに相違ないのだ。だから自分の話を聞きに来たのである。
至極立派な動機ではないか。自由研究のダシにされるよりよほど良い。そして何より、前へ進もうとするそのピュアなハートに乾杯。
であれば、自分のなすべき事はエールを贈ること。ちなみにそれは、やや照れる表現だが、自分の放つ呪文無き魔法だ、と、東京は評する。
「失敗なんか考えない。但し無理しない」
斯くしてレムリアは言った。
あすかちゃんは目を円くした。
「もちろん場合分けが必要だけどね。例えば勉強。これは失敗したって幾らでもやり直す機会がある。やれるだけやればいいやで充分だと思う。でも…それこそ看護師の実技みたいなものは、自分が納得するまで充分に訓練を重ねる。そこに時間的期限を設けるのは大人の悪い癖。自分で自分が納得できるまでに要する時間は人それぞれ。早い遅いで優劣を付けるべきじゃない。訓練する側も、同期が早いのに、とか焦ったらダメ。本質は自分が充分な能力を持てるかどうかにあるから。そこを見失って時間に価値を求めると、肝心なものをつかみ損ねる」
あすかちゃんは少し考えた。その目は一瞬煌めいた、が、すぐにまた重い陰を帯びた。
「それでも失敗を考えてしまう場合は?」
問う。それはそうだろう。思考体系がそうなってしまっているから、今現在こうなっているのだ。
ちなみに、会話が次第に丁々発止になりつつあることを、レムリアは把握している。
「少なくともモチベーションは維持すること。こうありたいという理想はずっと持っていること。そうすればいつか、失敗なんか考えてられない事態や、どうにもやらざるを得ない機会、“ここでやらなきゃどうするの”、ってのがきっと訪れる。或いは、そういう状況に自分で自分を追い込む…いただきます」
レムリアは言い、紅茶を頂いた。
「どうぞ」
母親が応じ、続けて。
(つづく)
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