【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【27】
〈私らの糸を流すだけでいい?向こうに渡る?〉
「いや、飛んで戻れなくなったら大変だから。流すだけで」
すると、小さなオオジョロウグモはちょっと驚いたような。
しかしすぐにツンツンした態度に戻って。
〈お優しいことで。でもね、私ら小さいから何かあったら身体ごと持って行かれるの必定なわけで〉
「オレの手から糸だけ出せばいいさ」
〈そういうこと……〉
子グモ達は一斉に私の手からゆたか君の手のひらへ移動。
めいめい驚きの意志を示します。
〈ひっひっひ、カミラが仕切りだよ〉
異口同音にそんな感じ。私はオオジョロウグモの子が〝カミラ〟という名前らしいとゆたか君に教えます。
「カミラ……」
すると。
〈気安く呼ばないでもらえる?〉
それは言葉の平手打ち。
〈人間でここにいるってことは、嫌われ者の弱虫って事じゃない。失礼だよ。で?はいみんな揃ったけど?糸出していいの?〉
「嫌われ者……」
ゆたか君、呆然
正直、それはカミラには言って欲しくなかった。
〈いちいちウジウジするんじゃないよ。私ら率いて糸を運ぶんでしょうが。忘れてもらっちゃ困るよ〉
その両極端。その強さ。むちゃくちゃな叱咤激励。
何だか張り詰めた姉のようです。
しかし、ゆたか君は傷付いただけのよう。
見かねてか、ムカデが近づいて来、……その毒のある尾でゆたか君の肩を軽く叩きました。
「え?」
〈これでこうされても怖がる気配が微塵もない。弱虫と私は思わない。さ、私は去っても良いか〉
ゆたか君は、肩の上にある巨大な毒の尾を見上げます。
更に触ろうとしたところで、ムカデの方が尾を引っ込めました。
〈君は私を信じた。私も君を信じているよ〉
ムカデは言い残し、機械のように音を立てて歩き出しました。
ゆたか君は手のひらの子グモ達を見つめます。
何か考えているようです。
そして。
「妖精さん」
「はい」
「風は、風はいつ来るか判るかい?」
「死とその悲しみの故により、その時にならないと判らない。死は予定されて訪れるものではないから」
(つづく)
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