【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【25】
そして糸の細さは身体相応。仔グモの糸は見えるか見えないかの細さ。でも地べたが見えないほどに集まって、その数で糸を出されれば話は別。私の足下はあっという間に糸で真っ白。
……ゆたか君の目したところが理解できます。同じように数にモノを言わせて橋を架けよう。
少し遅れてギガノトアラクネが到着しました。
事情を説明し、許可を求めます。
〈行ってみたい子!〉
呼びかけに今度はそれこそクモの子を散らす、そのもの。あれほどいた子グモは怖い怖いと逃げてしまい、残ったのは十匹ほど。
クモは本質的に臆病な生き物です。クモが巣にいる時、わずかな振動にはエサかと飛んできますが、振動がある程度の大きさを越えると逆に逃げ出してしまいます。黄色いシマシマのナガコガネグモは巣を揺らして威嚇しますが、更に飛びかかってくるような事はありません。威嚇が無効と判れば、巣から糸引いてぶら下がり、草の裏などに隠れます。
だから、残った十匹は余程好奇心旺盛か、勇気があるのか。
ところが。
〈おや、一番臆病な子がいるよ〉
十匹いますが、その子だけ少し離れて脚先が微妙に震えて。
〈やめとけ〉
〈怖いぞ。死ぬかも知れないんだぞ〉
意地悪そうに他の子が言いますが。
〈人間に出来てクモに出来ないなんてくやしいじゃんか〉
見上げた?心構え。
〈妖精さん。この子も連れて行ってもらえるかい?〉
ギガノトアラクネの問いかけに私は当然OK。
「沢山味方に付いてくれてゆたか君喜ぶよ」
両の手のひらに充分収まる十人力。
風圧で飛ばされないよう、私は子ども達をしっかり包んで山の上へ戻ります。
おもねりの揉み手のように、両の手を合わせた姿にゆたか君が笑顔。
「何人?」
彼はそういう訊き方をしました。
「十人」
当然こう答えて、そうっと、手のひらを開きます。
「大きな味方だぜ」
ゆたか君は苦笑混じりに言いました。
〈人間のクセに生意気だぜ〉
言い返したのは弱虫君。お椀型にした私の手のひらを動き、親指の先っぽへ。
「オマエ種類は?」
ゆたか君は弱虫君の顔先に小指を出して訊きました。
〈Nephila maculata(ねふぃーりあ・まくらーた)〉
「オオジョロウグモか。へへ、信じられないな、そんなちっこいのが手のひらくらいになるなんて」
〈オレもオマエみたい人間がこんな所にいるなんてウソみたいだぜ〉
「お前オスか?」
〈メスだよ。オスなんかメスの巣にぶら下がっているだけじゃんか〉
(つづく)
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