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気付きもしないで【23・完結】

 花に思いを込めたなら、花に言わせるのがセオリー。何も言わない雄弁。
「みんなありがとう。よろしくお願いします」
 古淵さんは言い、白い頬を薄紅に染めて、そっと頭を下げた。
 オレ達はもう一度拍手。拍手に混じって野太いヒソヒソ。
「っげーかわいいじゃん」
 何を今更、彼女の可愛らしさに気付かなかったのは、オマエラの損。
 でもオレの実力の前に、そう、花たちの縁。
「では姫、お手をどうぞ」
 オレは繊手に向かい手を伸ばした。この瞬間を花たちに感謝して。
 彼女が手を載せた。女の子の手は、女の子の肌は、肌理が細かい。
 ああだから「肌」の「理」か。
 彼女がオレの手を握る。
 握られた手から身体へ向かって何か矢が走る。
 背筋がゾクゾクする。
 同時に、息苦しくて、息苦しいその部分が熱い。
「あ、タイキ!ズルいぞテメェ!」
 すかさず野太い声。
 オレはその時「演出」と返すつもりだったが、
「役得!」
 突いた言葉はそれだった。
 すると、雪乃ちゃんは、薄紅の頬に笑みを浮かべ、オレの方を見て。
「喋っちゃったの?私たちのこと」
 オレはその意味に気付かなかった。
「えっ?」
「じゃぁ、隠すことないね」
 彼女は立ち止まると、学生カバンから花を一輪。
「グラジオラス?」
「ううん、イキシア。槍水仙。ありがとうタイキ君。あなたのおかげ」
 槍水仙。花に黙って語らせるならば。槍水仙、槍水仙の花言葉は?
「タイキ……」
 聞いたことのない成瀬の声が後ろから聞こえたのはその時。
「え?」
 オレは多分、ヘラヘラにやにやしながら振り返ったに相違ない。
 気が付く。成瀬の目に涙一杯。
「どうした?あ、オレ運賃返してねーじゃん」
「幸せにね」
 成瀬は言うと、仲間達の間をすり抜けて走り出した。
 突然泣き出して何事か。オレが唖然としていると。
「町田君」
 矢部。同じく涙目。
「何だよ」
「成瀬さんはね……」
 気付きもしないで。


気付きもしないで/終

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