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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【31】

 慌てて立ち上がると、霧に巻かれたように真っ白で、方角も判りません。
「ゆたかくーん!」
 私は幾度か、いろんな向きに叫びました。
 歩きにくい〝地面〟です。書いた通りのフワフワ。色合いは鉄さびを思わせる赤茶色。服や髪に幾らか付いていて、指でつまむと、しっとりしていてパサパサ崩れます。
 伸びる細い糸の先から反応有り。
「妖精さん」
 小さな声。
「ゆたか君!」
 私はあらん限りの声で言いながら、糸を引きます。糸は水平に伸びていて……ああ、霧のような物が晴れてきました。
「妖精さん、大丈夫か!」
 細い糸の向こうに見えたのは、元いた向こう側の崖と、そこに落ちた糸玉。
 彼はその糸玉の中から這い出して来ました。
 糸玉クッション。
「ケガはない?」
「オレは平気。糸玉の中に潜ったから。あんたは?」
「大丈夫。私は反対側に降りた」
 いい知恵だ。私が思ったら、服の中もクモ達も同意。
〈彼はクモの生態をよく知ってるようだ。我々は卵のうを糸でくるむからね。伝えて下さい。私たちがその糸を頼りに行き来して網を張る。そのまま動くなと〉
「判った」
 崖のあっちとこっち。
 小さなクモ達の地道な作業が始まります。糸を引いて彼の元へ渡り、糸を引きつつ、糸玉の糸を引き出しつつ、私の元へ戻ります。
 繰り返し、繰り返し。
 途中また風が吹きましたが、クモの糸は丈夫です。
 細い糸はロープとなり、やがて糸の橋になりました。
「そっちに行くよ」
 彼は言い、糸の橋に足を載せますが。
 やはり人間の子どもは苦しいようです。足がズボッと突き抜けてしまいました。
 すると。
 彼は再び糸玉に潜り込み、〝大玉転がし〟の要領で橋の上をゴロゴロ。
 こちら側へ渡ることに成功します。
「クモの卵を思い出してさ、オオヒメグモとかナガコガネとか、糸で刳るんで吊るじゃん……」
 ゆたか君は言いながら、糸玉から再び出てきて、赤茶けたフワフワに足を下ろし。
 しかし。
 そのまま落とし穴のように、フワフワにズボッと潜り込んでしまいます。

つづく

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