ブリリアント・ハート【42】
レムリアはソファに座るようあすかちゃんを促した。高級で知られるホテルの喫茶室であり、使用している調度類もそれなりに洒落たものだ。見るからに町中の喫茶店とは一線を画す。
あすかちゃんは遠慮がち。
「え?いいの?高い…」
「気にしない気にしない。問題と感じるほどならお誘いしません。紅茶でいい?」
「あ、うん」
ぎこちなく腰を下ろすあすかちゃん。背後で着座を待っていたウェイトレスが二人を一瞥し、目を円くする。
その円くなった理由をレムリアはよく判っている。でも無視。
「オーダー、よろしいですか?」
お上品に。
「え?ああはい」
ウェイトレスは戸惑いながら、しかし冷水とおしぼりをテーブルに置き、発注機を取り出す。
「アールグレイのアイスをストレートで2つ。あと日替わりケーキを」
「…かしこまりました」
タッチパネルを操作して一礼し、ウェイトレスが辞する。キッチンカウンターに向かい、主任らしき男性にひそひそ耳打ち。
バレました。
冒険の終了。レムリアは多少残念に思うと共に、もうこれで誰にも迷惑を掛けることもないと少し安堵した。ジェームズ=ボンドは無事帰還した。Mならぬ東京には後で言っておこう。
「今日はありがとうございました」
レムリアは改めてあすかちゃんに頭を下げた。時刻午後4時12分。晩さん会は5時にお迎えの約束なので、ゆっくりは出来ないがまずまずというところか。
「いいえ。こちらこそ、なんか私のためにえらい騒ぎで…」
「ううん。私が勝手にやったことだし、それに第一、私は今ここにいる。ずっと居たと言い張れば、言い出しっぺ以外に責任が及ぶことはなし」
ちなみに言い出しっぺは恐らく、自分の目付役である外務省の見下し役人氏。
…あの目線はカチンと来たし、篭の中の鳥的なスケジュールを組まれた腹いせもあるから、いいや。
「そんなもん?」
と、あすかちゃん。
「そんなもん。終わってしまえば『なぁ~んだ、まぁいいか』よ。映画と一緒。夏の幻。過ぎ去れば気にしない」
(つづく)
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