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2009年9月

桜井優子失踪事件【8】

【覚4】
  
 テレパシーで呼ばれたのである。金髪のイメージは理絵子へのメッセージ。己れは何者か。
 当然、理絵子も彼女を知っている。この学校でそんな芸当が出来る娘は一人だけ。
 その娘は、顔を上げた理絵子を見て、〝我が子を守る母ネコ〟という感想を持ったようだ。
 対し、理絵子の感想を書くならば、クリスタルの無垢さを備えた細面。
 高千穂登与(たかちほ・とよ)という。同学年で別クラス。巫女のような名だが、両親が願ったかどうかさておき、実際巫女のような能力を備えた。彼女とは先の北村由佳の件で対立したが、その後和解した。今は超能力つながりの理解者だ。金髪は二人が共有する秘密。
「私の心配は……」
 登与は語尾を濁すように言い、学生カバンを持つ手をギュッと握りしめ、うつむいた。
 事情を知らぬ者が二人を見ていたら会話が突飛に聞こえるであろう。登与は今、理絵子が浮かべた懸念に対し、言葉で答えた。
 理絵子の懸念。
 始業チャイムが鳴ってからの登校は当然遅刻である。だが、それには理由があって、なるべく他の生徒達と一緒になりたくない、というものだ。
 登与は自らが霊能者であると公言していた。当初もてはやされたようだが、応じて言動が高飛車になったようで、次第に疎外されるようになった。
 そこで理絵子と〝験比べ〟を呈す有様となり、吹聴するほどの霊能ではないと周囲は認知。今は級友達の視線が刺さって痛いので時間をずらしている、というわけだ。
「あなた自身大変なのになんで私に気を遣って……そんな優しい……」
 登与は続けてそう言うと、ぽろりと涙ぐんだ。次いでカバンから左手を離し、目元を拭う。
 彼女は桜井優子が失踪したと具体的に察知している。しかし、理絵子がそれでも自分の方を気遣っていると知り、心揺さぶられたようだ。
 瞬間、意識を刺し貫くような感覚が理絵子を捉える。直感という矢が突き刺さり、貫き、同時に登与をも刺し貫いた。
 二人同時に感じ取ったそれの正体。
 私たちの、このたった今の出会いは、用意された。
 抜け落ちたものへ抗うため、用意された。
「手伝っていい?」
 波紋広がるようなイメージと共に、登与は訊いてきた。
 力になりたいという強い気持ちが波のように広がり出ている。
 もちろん、今ここで出会った意図を登与も感じ取ったのである。薄く笑みを浮かべ、その瞳は黒水晶のように深々と漆色に輝く。
「あなたには助けてもらった。あなたがいてくれるから私はそれでも学校へ来ようと思う。この瞬間が運命であるなら私はあなたをサポートしたい」
 超感覚のコミュニケーションは不可思議そのものである。
 そして、超感覚の答えは一瞬で明快だ。
「来て」
「うん」

つづく

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桜井優子失踪事件【7】

【覚3】
 
『理絵ちゃん?授業中じゃないのかい?』
 驚きに満ちたマスターの声。
「優子が行方不明なんです。彼氏さんに連絡取りたいんですけど番号ご存じじゃありませんか?」
 さすがにそこまで自分の携帯電話に記憶させていない。…入れたら入れたで優子としてもあまり気分のいいものではあるまい。
『あいつ……今日は技術講習会か何かで終日お台場だぞ。メール入れておく。他にメッセージは?』
「冬休み優子と一緒でしたか?って」
『判った』
 伝言を託したので電話を切り、再度桜井家にかけ直す。マスターは過去に傷持つ男であり、理絵子との関わりは父親を介して、すなわち〝警察のご厄介〟である。珍走団の名誉会長みたいな役どころであるが、行き場のない心の相談相手でもあり、実質のところ更正活動と言って良い。
 桜井家の電話は今度は繋がり、ベル音を聞く前に相手が取った。
『ああ理絵ちゃんねごめんなさい。優子が、優子が…』
 お母様。いつも和服で上品なイメージであり、娘がいわゆる不良でも全く動じないという不思議な感性の持ち主。「大人になってからそんなことしたらアホだけど」
 それは不思議な信頼関係を母娘の間に築いたようで、フラッといなくなっても、帰ってくる前にはきちんと連絡してくるという。
 が、音信途切れて2週間。
『迷惑なのは判ってるの。でも、優子の一番の友達はあなただから…』
 取り乱しぶりは電話を通じてというレベルではなさそうだ。探査行の詳しい予定や、同じく彼氏の連絡先を訊こうとしたのだが。
「警察には私の父を通じて連絡してあります。あの、今からお邪魔しても構いませんか?」
 理絵子は思わず言った。この母親自身が心配に思えてきたのだ。親として当然の憂慮であろう、娘の関わる人間たちの向こうには、日の目を避けるアンダーグラウンドが繋がっているのは確かなのだ。
 達観を装って常在した不安が、この母君の中で今、爆発している。
『いいの?いいの?来てもらえるの?だったら…待ってるわ…』
 母君は言い、即座に電話は切れた。すぐ次の電話を掛けたのだろう。
 ともあれ連絡が付いた。理絵子は携帯電話を閉じて小さく一息ついた。しかしそこで〝抜けた〟感覚がぶり返して戦慄を覚える。今それは危機感の象徴に変じている。超常の感覚持つクセに何も判らないという焦りと悔しさ。
 振り払うように走り出そうとした時、制服スカートの影が視界を横切る。
「黒野……さん」
 弦の震えに似た、澄んだ声と共に、超感覚にイメージ一閃。金色の髪の毛一束。

つづく

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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【45・最終回】

 その際に私をチラと見、
「……ああ、君、泥だらけじゃないか。洗濯するからウチへ」
「ちょっとあなた。こんな……大体なんでこの女が……」
 口を挟んだ母上を父上は一喝しました。
「馬鹿者。どう考えてもこの方は豊を助けてくれたぞ。大体目下大事なのは豊の身体じゃないのか……申し訳ない。妙な体裁ばかり拘泥する愚妻で」
 すると。
「……何さここぞとばかり偉そうに父親面して。ゆたかちゃん、大丈夫?この女に何かされなかった?あんな禁止の洞穴なんか」
 母上は眉根を屹立させて夫君に反駁し、私を一瞥。
 それから柔らかい表情を豊君に向け、頬に手を当てました。
「母さん……」
 豊君は目を開けて、掠れた声を出しました。
「あらゆたか、なぁに。母さんはここよ」
「馬鹿……」
 母君、絶句。
 そこへ車が到着し、豊君を乗せます。
「ああ、毛布が欲しいなあ」
「こんなのでよろしければ」
 私は手品の流儀であの糸玉を取り寄せました。
 車の後席に押し込み、形を整え、豊君の身体を横たえて包み込みます。
「ど、どうやって。……まぁいい。ああ、暖かだ。冴子。この方にシャワーに浴びてもらいなさい。朝倉君、出して」
「はいっ!」
 私と母上を残して、豊君を乗せた車は走り去りました。
 もちろん、私としてはシャワーをお借りする気はありません。
「ねえあんた」
 母上は私を見て言いました。
「はい?」
「ゆたか、急に家の前から逃げ出したのよ。あの穴に入ってたの?」
 母君は顎で洞穴を示して言いました。洞穴入り口、有刺鉄線の柵の脇には看板が立っています。
 私は超常の視覚でその字を読み取り、頷きました。
「ええ、何か怖い目にあったみたいで」
「ったく、クモ好きにも程があるわ。あんな気持ちの悪いモノ」
「彼のクモに関する知識は学者並みですよ。街灯のそばに巣を張るといった人間社会への順応や、繊維を高速で綴る仕組みなど、人間がクモから得られる知見は計り知れません。ああ、ちなみにさっきの毛布はそのクモの糸です」
「えっ!」
 母上が驚いて車の方向を振り向いた途端、私はそこから姿を消しました。

 最後に、洞穴の看板に書いてあった説明をかいつまんで書いておきます。

 -土蜘蛛伝説-

 古代この穴から人を食う大クモが出入りしていた。ある日英雄が現れて対決を挑み、クモは穴の奥に封じられた。土地の人はたたりを恐れて聖域とし、退治した田畑の昆虫を年に一度捧げた。禁足地につき立ち入るべからず。

管理社寺名

クモの国の少年/終
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妖精エウリーの小さなお話・一覧

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桜井優子失踪事件【6】

【覚2】
 
「じゃぁ私から桜井さんとこ直接電話してみる。何かあったら。…判った」
 電話を切り、担任代行に状況を説明する。級友達にはどうせ聞こえるのでそれで説明の代替とする。仮に心当たりがあれば嬉しいだけ。
 まず背景として、著名なアニメで〝でいだらぼっち〟が出てきたのが全ての始まり。
「あれは古代製鉄につきものの伝説で、千葉は飛び抜けて足跡の言い伝えが多いと言ったら、面白そうって。足跡調べて自由研究にしようかなって。それで彼女、冬休みは千葉のおじいちゃんおばあちゃんのところへ行くって言ってたんですが」
「千葉にはいつまで?」
「それが、おうちの方の話では、千葉には顔を出してないそうです。それで私の家の方に来ていないかと逆に問い合わせがあった次第で。家はクリスマス前から空けているとか」
 クラスがざわつき始める。事件性の認識と、しかし、相手が相手だけに少し距離を置きたい。そんな雰囲気。
 現在理絵子として確認すべきは2点である。まず、彼女は実際に足跡調査に着手したのか。そのアニメを見に行ったのは期末試験後、冬休み向け封切り直後。
 次に、調査していたとして、千葉県内を回る〝足〟はどう確保したのか。
 思いつくのは年上の彼氏である。外見はともかく律儀な男であって、彼女と過ごした翌朝はクルマで校門へ直送して来る。もちろん、理絵子の〝アリバイ要求〟を彼氏も良く理解してくれている。そのこともあって、理絵子は桜井優子の行方や挙動をリアルタイムで追ったりはしていない。
 一般にクルマ持ちの彼氏がいるなら、広域移動が必要な場合は頼るのが自然だろう。自分ならそうする。体の良いデートの動機である。今回、彼氏は調査には同行していないのか。
「父親を通じて警察も把握していると思います。私は私で判る範囲調べてみようかと」
 それはマンガよろしく中学生が授業サボって探偵ごっこ。
 問答無用で却下されて当然だが。
「判ったわ。あなたも気になって学校どころじゃないでしょう。どうせ今日は学活だけだし、校長には私から言っておくからこのまま外れてくれていいわ。何か動いたら連絡頂戴」
 担任代行は腕組みして若干、胸を張った。
 それは教師の反応としては落第かも知れないが、大人の対応としては極めて心強い。
「判りました。ではお言葉に甘えて失礼します」
 理絵子は頭を下げ、学生カバンだけ持って昇降口へとって返す。走りながら桜井優子の携帯に発呼すると〝掛かりません。電波が届かないか、電源が……〟。
 次いで、始業のチャイム23秒を待ち、靴を履き替えながら桜井宅に電話。
 話し中。思いつく限りの手がかりに電話をされていると見られる。
 であれば、と発呼したのは学校近くの喫茶店マスター。
 桜井優子とその彼氏を構成員に有する珍走団〝たこぶえ〟のリーダー。
 当然、構成員達のたまり場であって、学生達は接近禁止が原則。

つづく

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ブリリアント・ハート【45・最終回】

「そうですか…でも、何か悪い気もするので勝手な行動を謝罪致します。お騒がせしてすいません」
 レムリアはここだけは心から言い、支配人に向かって頭を下げた。すると支配人は滅相もないとばかりに手と首をパタパタ左右に振り、ウェイトレスに何事か手振りで指図した。
 レムリアは、ここに戻ることさえ出来ればどうにでもなると、なんとなく楽観していた理由を洞察した。
 大人達の事なかれ主義。
 丸く収まれば、最初から何もなかったことになり、責任追及は発生しない!
 程なく、二人の座るテーブルにゴージャス至極なプリンアラモードが運ばれた。
「どうぞ」
 と、支配人。
「頼んで…」
「わたくしからの奢りです。姫君に余計なお手間を取らせたお詫びでございます」
 何か悪い気もするが、断るのも不自然。
「いいんですか?ありがとうございます。あと、ちょっと資料を取ってきたいので、エレベータのカギを」
「かしこまりました」
 レムリアはその後、普段持ち歩いている自分の活動記録…救援活動の自己レポートが収まった半導体記憶装置(USBメモリ)をあすかちゃんに渡し、電子メールのアドレスを教えた。
「パソに挿せば見えるはず。但し英語。そこは勘弁」
「もらっちゃっていいの?」
「コピーあるし、あなたなら持ってもらって構わない。またお会いしましょう」
「うん。楽しかった。あなたとの夏を忘れない」
 二人は握手をして別れた。
 そしてレムリアは夜会服に身を包み、晩さん会へ向かった。
 
 9月に入ってから、あすかちゃんからメールが届いた。
 
やっほー\(^O^)/
元気?あなたとの大冒険、「魔法の姫様大脱走」ってタイトルで創作童話にして、自由研究の代わりに提出したんだ。そしたら「すっごいリアル」てほめられちゃった。
あと、レポート、訳しながら読んでる。あなたすごいね。とても一つしか違わないように見えない。
 
本物の魔法使いみたい。
 
ブリリアント・ハート/終
 
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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【44】

「ゆたか君、起きてゆたか君。お母様方が探しに来ている」
「うーん……」
 ゆたか君は唸るように声を出しましたが、目を開けません。
 頬に触るとすごい発熱。
 ……伝説の怪物を見たり、神隠しに遭った後、重い病気になるという民話は良くあります。精神のショックが神経系に影響を与えるのは当然のこと。
「あの、瑞穂豊君ならここに」
 私は彼を抱いてぬかるんだ洞窟をいざり、有刺鉄線の中から声を出しました。
 それこそテレポートすればいいのですが、彼が超能力の発現に当てられて発熱したなら、再度の発現は少し怖い。
「豊?何でこんな所に。どうやって。あんたは」
 峻厳な母上。
「雨の中気絶していたのでここへ雨宿りに。すごい熱を出しています。救急車を」
 説明は後。果たして母上の顔色が変わりました。
「わ、判ったわ。あなたー!」
 あなた、とはご主人、豊君の父上のことでしょう。母上が私に背を向けて声を出したその刹那、私は手のひらの石で有刺鉄線を断ち切ります。
「豊がいたわ!こっち!病気らしいのよ!」
「おお!おお豊どうした。ああ、そんなところに入ったのか!」
 口ひげが立派な印象の男性がカサを放り出し、走ってきます。雨のせいか気温が低く、息が白く見えます。
 私はトガで彼の身を隠して雨よけとし、走り寄る男性に近づいて行きました。
 母上がいつの間に?という目で見ますが、説明はしません。
「低体温か」
「いいえ、ショックを受けたようでひどく発熱しています。意識はもうろう。呼吸は浅く心拍は早い」
 私は父上が医者であると判断し、いわゆるバイタルサインに属する情報を伝えました。
「豊、おい豊、聞こえるか、父さんだ。もう大丈夫だぞ」
 声を掛け、頬を打ち、脈を取り、瞼を指で押し開く。
「おとう……」
 豊君は目を開けました。
「あれ……クモは……」
「何を言って……」
「大丈夫。君のおかげでみんな助かった。私もね」
 父上の言葉を遮って、私は言いました。
 豊君は私にゆっくりと目を向け、そっと笑顔を見せ、再び目を閉じます。
 もう一人の男性がカサを掲げて走ってきました。
「瑞穂先生……ああ豊君」
「車を回してくれ。私の医院へ連れて行く」
「判りました」
 男性がきびすを返す。
「お嬢さん、私が引き受けよう」
 父上は両腕を広げ、豊君の身体を引き取りました。

次回・最終回

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桜井優子失踪事件【5】

【覚1】
 
 切羽詰まった顔の担任代行。
 何かあったのである。察して静まりかえった教室内を見回し、自分を見つけ、真っ直ぐ目線を合わせ、タイトスカートの裾を直す。
「黒野(くろの)さん、桜井(さくらい)さんとは今朝は…」
 それは空席の主。
 そして。
「は…」
 理絵子は絶句する。〝抜け落ちた〟本質こそは桜井優子(ゆうこ)の事だと合点が行ったのだ。
 桜井優子は〝2度目の2年生〟である。反体制的な外見もあって疎外されがち。だからこそ理絵子は彼女を理解し、良き友である。件の事件以前、理絵子の超常を知る友は彼女のみであった。
 桜井優子に何かあった。彼女の存在は自分を構成する一部であり、だから〝抜け落ちた〟のである。
「優子に何か」
 声が震える。超能力を持ちながら最大の存在を喪失したことに気付かない自分の愚かさ。
「家の方から電話があって、どこにもいないらしいのよ。今朝は一緒じゃなかったみたいね」
「ええ。はい」
 桜井優子は前述の状況から〝きちんと〟学校に通うタイプではない。そこで存在証明と学業補填を理絵子が保証している。そのせいもあり、理絵子は桜井優子が登校しなくても特段気にしたことはない。ただ、出席日数が足りない事態は避けるようにはしている。
 だから今朝も気に留めなかったのであるが、良く考えたら、彼女は新学期だけはきちんと顔を出していたのだ。「りえぼーがアリバイを要求するから」
 ポケットで携帯電話が呼ぶ。なお、この中学では理絵子たち学級委員が同盟組んで校長に談判し、授業妨害をしないとの約束に基づき携帯持ち込みを許可させた。
 緊急連絡はもちろん、それが一縷のコミュニケーションという深刻な子もいるからだ。
 着信は自宅から。
「失礼して」
 その場で受ける。恐らく、桜井優子のことに相違ない。
 着信ボタンを押すなり母親の焦った声。桜井さんがいなくなっちゃったって?
「今先生に聞いたところ…父さんは…うん判った…千葉の方は?」
 千葉は千葉県である。桜井優子の父方実家は同県の農家であって、理絵子の知る限りこの冬休みはそちらに行っていた可能性が高いのだ。
 しかし。
 どうやら祖父母宅には行っていない。

つづく

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ブリリアント・ハート【44】

 その間に、“部屋にいないように見えた”、最もらしい理由を考える。
 お役人、仕切り直しの咳払い。
「外へなどお出になっては?」
「まさか。あ、携帯が電波拾わないもんでベランダには出ましたけどね。外と言えば外ですね。…まずかったですか?」
 ウソではないが正確でもない。
 更に突っ込まれるか?しかし、男達は心理的にほぐれた様子を見せ、顔を見合わせて笑いあった。
 うまく誤魔化せたようである。レムリアは“多感な少女のつぶらな瞳”で、そうした彼らを見ながら、壮麗に盛りつけられたモンブランを一口頬張った。
 男達の表情が安堵に変わった。
「事件性は、ないようですな…」
 警官の表情が緩む。
「はい、そのようです。お手数を」
「いえいえ、何事もなくて何より。では、本部に報告を致しますので」
「承知しました」
 お役人が頭を下げて答え、警官は敬礼して辞した。
 支配人とお役人が一礼して警官を見送る。お役人はレムリアに目を戻すと、何か言いたげ。
「何か?」
 すっとぼけ。
 あすかちゃんは顔を伏せてモンブランを口に運ぶ。…笑いをかみ殺しながら。
 お役人は腰をかがめ、レムリアの耳元に口を寄せ、
「…姫様、実は姫様が御在室でいらっしゃらないので、誘拐事件の疑いが発生、非常線を敷いて捜索が行われました。横浜とか鎌倉とか、次は唐突にここの隣の市とか…いろいろ情報が飛び交いました。もう一度お伺いしますが、ずっと当ホテルにいらしたのですね?」
「ええ」
 うそつき。
「…でも相当な騒ぎになったのですね。わたくしの軽率な行動が原因でしょうね」
「あ、いえ、そういうことはございません。姫様はご無事でいらっしゃった。それで結構です。お友だちとのお約束や、携帯電話のご使用を制限させて頂くような必要性は全くありません。ホテルの方にも、国賓級の方にお泊まり頂くとあってか、過度の緊張で勘違いが重なったようです」
 お役人、支配人をじろり。

次回・最終回

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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【43】

 雨の音。
 重く湿った空気がトガをも重くし、身や髪にまとわりつくかのようです。
 クモの国からテレポートして。
 失神したのか眠ったのか、少し時間が経っているようです。私はひんやりとした固いものに寄りかかり、座った状態。
 目を開くと暗闇。
 いいえ左側からうっすらと光が入る。
 生物的な暗順応より早く、超常感覚の暗視眼の方が働き出します。トンネルと思しき円形の断面の中に私たちはおり、その円形の壁天井には、コオロギの仲間のカマドウマがびっしり。
〈妖精さんが男の子連れてる〉
〈起きたぞ〉
〈すっげー。本物だ〉
 男の子……ゆたか君は私の膝枕で目を閉じています。こちらは間違いなく失神しています。
 さて、洞窟ということは判りました。クモではなくカマドウマがいるので、クモ達の国ではありません。異常な状況でテレポートしたので、妙なところへ飛ばされたのでしょうか。
 光来るその方向に目を向けます。トンネルの出口です。薄暗い空が煙っています。サーッという雨の音からして、草むらが広がっている様子。
 そして、出口部分に紐のようなものが横たわっていて、良く見ると有刺鉄線。
 有刺鉄線……人間の造作物。
「……ゆたか」
 声が聞こえました。掠れていて、切迫していて。
「おーい、みずほくーん」
 彼のフルネームはみずほ・ゆたか。
 彼を捜す大人達の声です。つまり、ここは人間の世界。
 〝クモの国〟は天国エリアに属しますから、エリア内の移動であるテレポートでは人間世界へ飛んだりはしません。なのに、テレポートの呪文で人間世界へ飛んだ。しかも、私たちの属するフェアリーランドを経由せずに。
 ということは、一瞬であれ天国と人間世界とが繋がったことを意味します。ブラックホールとホワイトホールで離れた空間が接続されるイメージです。当然、次元が異なるので接点に存在する意識精神には大きなエネルギー準位差が加わる……失神しておかしくない。
 そして、あのクモの国には、風であれ手であれ、少なからず人間の恣意が流れ込んでいた。
 ……理屈っぽい話は止めましょう。ゆたか君を親御さんに返さなければ。

つづく

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桜井優子失踪事件【4】

【序4】
 
 自分のクラスの反応は何か変わったわけではない。超感覚なんて盗聴のデパートと取られておかしくないのだが、対するみんなの反応は書いた通り〝お前を守る〟だ。要するに信頼してもらえているらしい。仲間っていいもんだ。逆に言えば教員たちは口先と底意は異なると言える。これでも教員と生徒の仲まずまずの学校だと思うが、まだまだか。
「つまんなそうだね」
 背後から女子生徒の声が掛かった。
 大人しそうな細っこい娘は北村由佳(きたむらゆか)という。〝事件〟の引き金であり、過程で喧嘩したが、その後の印象は正直〝なれなれしい〟。
「糸は解けたの?」
 理絵子は訊いた。二人だけの秘密に属する。
「全然。…っていうか、何だか醒めて来ちゃった。そこまでしてって感じじゃ無くなってきた」
 北村由佳はそれこそつまんなそうに口をとがらせた。
「理絵ちゃんは恋したことないの?」
 秘密はつまりそういうことだ。理絵子はこの娘に恋敵と勘違いされ、嫉妬されたのである。
「まだ」
 まっすぐ目を見てあっさり答える。恐らくは嫉妬が完全に抜け切れていない故の質問と思うが、事実として経験がないのであっけらかん。
「理想高いんじゃない?」
「無理にするものでも無し。ハイ予鈴が鳴ります」
 追い払う、という程でもないが、自席に戻ってもらう。このやりとりで判るように、北村由佳の馴れ馴れしい言動を訝り、避けるよう勧める級友もある。
 だが、現在の彼女には、自分以外に気軽に話せる存在が無くなってしまったことを理絵子は知っている。だったら、必要な存在であるだけ。
 チャイムに合わせてクラスを見渡し、出席状況を確認。
 空席が一つ。
 超感覚が働く〝開く〟。無論、空席の主と関わりがある。
 バタバタとせわしない足音が走ってきて、教室の戸が性急に引き開けられた。

つづく

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ブリリアント・ハート【43】

 レムリアは言うと、お冷やを口にした。
 あすかちゃんは夢見る少女の表情。
「魔法に掛かった気持ち」
 と一言。レムリアはドキッとした。あすかちゃんは続けて、
「全然遠い遠い存在だったのに、うちに来てくれて、一緒に逃亡して、こうやってお喋りまで…。真夏の昼間の、お姫様との大冒険。多分私の一生の思い出」
 レムリアは微笑した。但しその魔法は私じゃなくて。
「多分、その魔法は、あなたを全然違う女の子に変えた」
 レムリアは言った。もう目の前のあすかちゃんは、おずおずと質問した引っ込み思案で臆病な女の子ではない。自信がもたらすオーラの煌めきを纏い、大人の入り口に今しっかりと立ち、ドアノブに手を掛けた少女に変わった。
「結局、目的意識なんだと思う…」
「お待たせしました。…あの、お客様ちょっとよろしいでしょうか」
 レムリアのセリフを遮ってウェイトレス、それに続いて渋面のホテル支配人、真剣そうな警官、困った顔のお役人。
 まず、紅茶とケーキがテーブルに置かれる。その作業を見つめる困った顔の面々。
「あのう、失礼ですが」
 支配人が声を掛けた。
「はい。まだ時間には少々あると思いますが?もう準備の必要がありますか?」
 多くを語る必要はない。これで主旨は伝わる。
 果たしてお役人がため息…それはまるで娘にプチ家出された父親。
「どこにいらしてたんですか?」
 小声で尋ねる。
「…は?」
 レムリアはまずは尋常にとぼける。
「お部屋にいらっしゃらなかったようですが」
 丁寧だが怒りを含む。しらじらしいこと言うなこのガキャ。そんなところか。
 対しレムリアは“姫”の品格を意識して至極丁寧に。
「先ほどからこちらのラウンジに。あ、お友だちと待ち合わせがあったのでちょっと下まで迎えに行きまして、今はご覧の通りの状況ですが。何か?」
「何か…って、姫様あのですね」
 お役人が怒り通り越して苦笑する。会話がちぐはぐ…で、良いとレムリアは思う。意図してそうしているからである。そもそもの前提条件が違うので、そうならなくてはならない。

つづく

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