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桜井優子失踪事件【7】

【覚3】
 
『理絵ちゃん?授業中じゃないのかい?』
 驚きに満ちたマスターの声。
「優子が行方不明なんです。彼氏さんに連絡取りたいんですけど番号ご存じじゃありませんか?」
 さすがにそこまで自分の携帯電話に記憶させていない。…入れたら入れたで優子としてもあまり気分のいいものではあるまい。
『あいつ……今日は技術講習会か何かで終日お台場だぞ。メール入れておく。他にメッセージは?』
「冬休み優子と一緒でしたか?って」
『判った』
 伝言を託したので電話を切り、再度桜井家にかけ直す。マスターは過去に傷持つ男であり、理絵子との関わりは父親を介して、すなわち〝警察のご厄介〟である。珍走団の名誉会長みたいな役どころであるが、行き場のない心の相談相手でもあり、実質のところ更正活動と言って良い。
 桜井家の電話は今度は繋がり、ベル音を聞く前に相手が取った。
『ああ理絵ちゃんねごめんなさい。優子が、優子が…』
 お母様。いつも和服で上品なイメージであり、娘がいわゆる不良でも全く動じないという不思議な感性の持ち主。「大人になってからそんなことしたらアホだけど」
 それは不思議な信頼関係を母娘の間に築いたようで、フラッといなくなっても、帰ってくる前にはきちんと連絡してくるという。
 が、音信途切れて2週間。
『迷惑なのは判ってるの。でも、優子の一番の友達はあなただから…』
 取り乱しぶりは電話を通じてというレベルではなさそうだ。探査行の詳しい予定や、同じく彼氏の連絡先を訊こうとしたのだが。
「警察には私の父を通じて連絡してあります。あの、今からお邪魔しても構いませんか?」
 理絵子は思わず言った。この母親自身が心配に思えてきたのだ。親として当然の憂慮であろう、娘の関わる人間たちの向こうには、日の目を避けるアンダーグラウンドが繋がっているのは確かなのだ。
 達観を装って常在した不安が、この母君の中で今、爆発している。
『いいの?いいの?来てもらえるの?だったら…待ってるわ…』
 母君は言い、即座に電話は切れた。すぐ次の電話を掛けたのだろう。
 ともあれ連絡が付いた。理絵子は携帯電話を閉じて小さく一息ついた。しかしそこで〝抜けた〟感覚がぶり返して戦慄を覚える。今それは危機感の象徴に変じている。超常の感覚持つクセに何も判らないという焦りと悔しさ。
 振り払うように走り出そうとした時、制服スカートの影が視界を横切る。
「黒野……さん」
 弦の震えに似た、澄んだ声と共に、超感覚にイメージ一閃。金色の髪の毛一束。

つづく

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