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桜井優子失踪事件【13】

【鍵5】
 
「そうかい。しかし手がかり物件を勝手にいじり回すのは感心せんな。警官の娘って事と、警察ごっこは違うぞお嬢さん」
「パスワードを知ってますので。こっちの彼女は桜井さんが向かった心当たりについて詳しいですし」
 理絵子は言った。流れるように言葉が出てくる。その感覚は〝出任せ〟に近いが。
 その口から出任せこそ事実なのだと理絵子は気が付く。すなわち。
 高千穂登与の知識範疇。
「ほう?心当たりかい?」
 捜査員氏は唇の端に小さな笑みを刻んだ。小娘二人を小馬鹿にしているが、職業柄小耳に挟んでおいても良かろう。
 高千穂登与が頷く。
「ええ。神話時代の遺跡巡りに行くと言って、そのまま帰ってない。そう伺いました。その方面はそれなりに好きですので、多少は力になれるかと……」
 巫女と自覚するが故の興味と知識。
 この娘は記紀時代の日本史に詳しいのだ。姓の高千穂は宮崎県の地名であり天の岩戸伝説で知られ、名の登与は卑弥呼の後継と記された少女と同じ読みである(作者註:元字の解釈より台与「とよ」説、壱与「いつよ」説双方あり。受験生各位に置かれては留意されたい)。
 その名と、能力の故に、古代巫女の生まれ変わりと自覚し、神話伝承に目を通した。
 あの直感の貫きがリフレインする。用意された今日の出会い。
 二人は見つめ合い、小さな頷きを交わした。
 しかし、彼女達の認識と逆に、捜査員氏の口から漏れたのは、呆れたような小さな息。
「その程度かね。まぁ参考にしておこうか。で?どこの遺跡だい?」
「千葉……」
「の、どこだい。千葉ったって遺跡が一つだけじゃなかろう」
「それを今、手がかりがないかとパソコンで」
 すると捜査員氏は小笑い。……呆れたという感情表現とはいえ、真剣に困っている親の前で笑ったりするのは如何なものか。
「フ……悪いが子どもの遊びに付き合ってる時間はないんだよ。迷惑掛けるのもほどほどにな。……ったくとんだ貧乏くじだ。で、お母様……で、よろしいのかな?」
「え?あ、はい」
 捜査員氏は二人を見限ったようで、母君に話を振ると、胸のポケットから折りたたまれた書状を取り出した。
 〝捜索願〟(2009年冬以降名称変更)
「こちらのお嬢さんの父君から直々に仰せつかりました。ご記入いただきたく」
「は、はい。じゃぁ、ちょっと」
 母君は二人に頭を下げ、廊下を出て居間へ向かった。
 聞こえよがしの氏の声。マンガ気取りか何か知らんが勝手なことされては……まぁ何かあれば見つけものですからいいですけどね……サイバーに頼む手間が省けて……。

つづく

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