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桜井優子失踪事件【14】

【鍵6】

「さてお邪魔は消えました、と」
 対する登与の物言いも大した物だ。「何も知らないタダの大人」という彼女の感想はあからさまであって、テレパシー使いでなくても気付く人は気付くであろう。そんな時の彼女の微笑みには魔女のような一面が覗く。
 その根底には大人への敵視があると理絵子は知っている。超感覚の故もあり大人以上に物知りなのに、大人からの視線はいつも一緒。すなわち、通り一遍ステレオタイプの〝所詮子ども〟。
 大人が小馬鹿に見える気持ちは判る。
「うわべばっかり。見ても?」
 登与は言いつつ、理絵子の傍らに膝行(いざ)ってパソコンを覗き込む。
「もちろん。見解を聞かせて」
「判った。えーっと……」
 理絵子は膝行って座位置をずれ、登与に画面の正面を譲った。登与は両手指でタッチパッドを器用に操作し、レポート文面を上下。
「まず単純にグーグルして、下総(しもうさ)のでいだらぼっち足跡由来とか製鉄遺構を回ってるね。その後は安房(あわ)へ行ってる。でも……安房ってもっと古いよ。日本武尊の頃」
 高千穂登与は独り言のように呟くとネット地図を呼び出した。そして、あくまで私見と前置きした上で、
「彼女は製鉄遺構を巡るうち、何かヒントを得て、より起源に近い情報が必要と感じて上総(かずさ)、更に安房へ向かったんじゃないかな」
 ここで少し説明を加える。千葉県は房総半島の南端側から旧国名が安房、上総、下総となる。東京から見ると上下逆のように感じるが、これは西国の人々が海路で半島先端から入ったためだ。伝承の時代、日本の中心は畿内であって、箱根以東は蝦夷と呼ばれる辺境。房総半島への上陸最短ルートは三浦半島より海路であった。ちなみにこの海路で日本武尊は愛する者を失っているが、その際詠んだ歌に由来する地名が「木更津」「袖ヶ浦」などである。
 従って房総半島を先端へ向かうことは「過去」へ遡る。
 なるほどと理絵子は頷いた。
「だとしたら余計に足が必要だね。房総半島って直線距離でも長さ100キロ有るから。電車の本数も少ないし」
 知っているのは行ったことがあるから。
「一人で回るのは大変です、と。普通に考えたら、おじい様のお宅を基地にして、出来れば車で移動したくなるね」
 登与の理解に理絵子は頷く。房総半島を広範囲に動くのであれば、祖父母宅を拠点に各遺跡へ行き来するのが効率良い方法であろう。一日二日で巡れる話ではない。現にここまでのレポートで2週分の休みを使っている。

つづく

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