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桜井優子失踪事件【20】

【疾2】
 
「優子のおじいさまの家へ」
 理絵子はRGVの後席に飛び乗り、マスターに向かって言った。登与は佐原龍太郎の愛機後席におっかなびっくりという感じで座する。
 目的地まで移動距離は直線100キロ。東京湾を挟み、更に房総半島を横切って外房、太平洋を望む国道沿いの落花生農家。
「近くまで行ったら案内します」
 男の太い背中にしがみつく。
「了解。出るぞ」
「千葉によろしくお伝え下さい」
「承知しました」
 2台のバイクが出発する。二輪車の二人乗りが高速道路で可能となって久しいが、首都高環状線は別だ。中央高速を都心へ向かい、一般道へ降りて湾岸サイドへ出、東京湾アクアラインを東方へ一直線。
 普通の乗用車であれば渋滞で時間が読めぬ。しかし二輪車は文字通り車列の間隙を縫って走り、90分で海上パーキング〝海ほたる〟へ達した。
「二人寒くはないか?」
「大丈夫です」
 小休止して温かい物を飲む。千葉桜井家には更に90分程度と目算を伝え、出発。房総半島を有料道路で横断し、外房へ。
 正午をやや過ぎる頃、バイクは理絵子の見覚えのある場所に達した。場違いな高層ビルが太平洋沿いに佇み、低い陽光に伸びた影を畑や林に落としている。無人の〝幽霊マンション〟である。バブル経済の頃に投機目的で建設されたが、誰も住むこともなく転売を繰り返し、やがて魔性の巣窟となった。前述〝御祓い〟を行ったのはこのマンションである。怪奇ブームの好餌にされ、以降買い手も住み手も共に付かず。
 国道から交差点を折れ、細い砂利道に入る。畑の中の一本道で、霜が降りたか、ぬかるんでいる。奥に生け垣に囲まれた平屋の家屋があり、鎖に繋がれた犬が道へ出て来てわんわん……。
 ニワトリもいたはずだが、寒いので小屋の中か。
 家の中に割烹着の人影あり。白髪の後ろ髪をネットでまとめた老年の女性。
 優子の祖母である。犬の声を聞いて視線を外へ。
 砂利道をバイクはそろそろと進み、生け垣の前で止まる。応じて祖母殿が縁側から庭へ降りてきた。
「こんにちは」
 理絵子はバイクから飛び降り、ヘルメットを取って顔を見せた。
「ああ、理絵子様。どうもどうも。主人は今、近所の寺へ行っております」
 恭しいまでに頭を下げられる。
 犬は理絵子と判じるや、吠えるのをやめ、一転、尻尾をぱたぱた。
「コ~ロ。元気だね。ちゃんとおじいちゃんおばあちゃん守っててくれた?」
 
つづく

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