桜井優子失踪事件【24】
【秘4】
「家族の愛情が強いと感じるからこそ、出たくなるんです。迷惑をかけてるんじゃないかって。自立できてないっていう自覚の自己嫌悪で」
登与は超常能力のゆえに化け物と呼ばれ、学校や屋外で疎外された。
家族だけが味方だった。
だからこそ、自分の存在が親や周囲に余計な手間を生んでいるように思えた。
登与はその背景を〝いじめ〟に置き換えて話した。いじめの被害者になった自分が悪い。良く見聞きする自責の念。
……ちなみに、これを逆に書くといじめて良いかという話になるが、無論、肯定する要素は微塵もないのであって、被害者たる子が責任を感じる必要はない。また、どんな大人も子どもを守るのが最大の責務であり、相談を受けて迷惑と感じることはないと特記しておく。
「でも、結局親がいないと生きて行けない自分に気付いて、そして家出で更に迷惑掛けていると嫌悪して、なのに優しく迎えてもらえて。嬉しいけど悲しくて悔しいんです。だから私には、優子さんの気持ちが判る。そして、私は黒野さんのお陰で家出を考えなくなった。優子さんも同じだと思う。警察が捜さないというなら、私たちは私たちなりの方法で彼女を捜すまで。義理じゃないんです。友達として仲間として。少し前の私自身への答えとして」
言葉が熱く迸る。一気に喋って肩で息する登与の瞳は、まるで誰かが乗り移った依り代のよう。
「何と申し上げて良いやら……一度ならず二度までも。もう恥ずかしくて。ありがたくて……」
祖母殿の身体から力が抜け、横座りになってしまう。向き直ろうとしても再び体勢が崩れてしまう。
祖父殿が背後に回って支える。
「いえ、友達ですから。差し出がましいことをお尋ねしました。申し訳ありませんでした」
理絵子は頭を下げた。これ以上、辛いことをお話しいただくつもりはない。
彼女のことは、それだけ判れば充分。
祖父氏が言う。
「そんな滅相もない。それどころか丸ごとありのままに受け止めて下さった。流石理絵子様とお友達の皆様だと感心いたしました……ただ、あの、神隠しではないかというのは、そうした事も関わっているのかと気になりまして。ご承知いただいた上でお話した方がよいかと」
「蛇神の嫁取りですか」
登与が言わば〝風土記外典〟である件の漢文書物を開いて言った。
「それって治水の人身御供の話じゃ?」
理絵子は言ってから意味する内容の恐ろしさに気付いて身震いした。
水害治水の願掛けに人柱。よらず日本の各所に伝承がある。荒ぶる川の流れはのたうつ蛇神。
(つづく)
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