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2010年5月

桜井優子失踪事件【48】

【山5】
 
 〝違う〟
 理絵子の答え。超常現象ではない。
 そして、〝まただ〟二人の答え。
 すなわち、一見理解不能の現象に見えても超常現象とは限らない。ここが神の領域だからといって、何でも霊現象に帰着させるべきではない。表面だけで思い込むな。
 何がネックレスを引っ張っているのか。
 金属を引きつける、目に見えぬ力。
「霊現象じゃありません」
 理絵子は言い、バイクに戻って座席下の荷室から取り出したのは、借り受けた方位磁石。
 針を見ると、どこぞの方向に貼り付き、指でつついた位ではびくともしない。つまり、強い磁力が働いている証左。
「磁石があるってのかい?」
「ええ」
 理絵子は答え、まず正確な方角を調べる。針を引いているのが地磁気ではないことを確認するためだ。
 方位磁石以外に方角を見極める方法は幾つか知られる。星座、切り株……。その他、日中であれば時計を使う方法もある。短針を太陽に向けると12時との中間がほぼ南だ。手持ちの時計がデジタルなら、文字盤を地面なり紙なりに描けばよい。
 針の方向は西北西-東南東くらい。東南東が〝北〟。
「こっちが北はあり得んな」
 果たして、対する〝南〟の方向には鳥居そのもの。
 柱の根元にはバウムクーヘン状の円環柱が嵌め込んである。一見して台座・錘であるが。
 磁石持ってうろうろした結果、そのバウムクーヘンが磁石であるらしい。
「これ磁石か……え?こんなでかい磁石作るってすごい高度な事じゃないのか?」
「磁鉄鉱って奴じゃないすか?」
「磁石って熱加えると磁力消えるんだぜ。この泥みたいな鉄から作ったとして、どうやってバウムクーヘンにしたんだ。焼かずに刀が作れるか?形になるか?」
 マスターは鋼の原動機をコンコン叩いた。 
 やや上気した男達の会話を聞きながら、理絵子は磁石を持って周囲を歩く。
 柱が磁石なら、それを立てた台座も恐らく磁石と推定されるからだ。磁石同士の方が固定力が強まるし、
 桜井家で目を通した文献に寄れば、前述の香取神宮に太古に作られた鉄製の盾が納められている。すなわち、当代最高の技術による当代最高の成果物を神に捧げたのだ。P1040397
(現物)
 
(つづく)


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桜井優子失踪事件【47】

【山4】
 
「構わないはずです。古代の流儀とは言え舗装されています。重量物の運搬を目論んだ物かと」
 それがNGであったら、この道へ誘導されない。
 バイクを置いて行けという示唆もない。
 それどころか、そもそも原点、鉄へ向かう道。目論んだ重量物こそは鉄ではないのか。
「オーケー判った。龍、いいな」
「はいもちろん」
 濡れた道を、ゆっくりと2台のバイクで登って行く。行く手は両側より斜面が迫り、冬枯れた灌木が尖った枝を広げ、〝道〟の上にもはみ出して覆い被さっている。それは一見すると通れないようにも見えたが。
 近づいてみると、はみ出た枝がジグザグになっているだけで、乗員が首を振ったり頭を下げれば通れると判じた。実際には頭部や顔面まで枝が触れるが、フルフェイスのヘルメットなら痛くも痒くもない。
 ……バイクを置いていくとするなら、ヘルメットも置いていったであろう。ここを通るのに難儀したに相違ない。
「蓋然性の吟味って奴だね」
 登与が言った。それは二人の間だけで通じる言い回しだ(理絵子には声として聞こえたが、隣のバイクからヘルメット越しに聞こえるわけもなく、実際にはテレパシーで飛ばしたと思われる)。
 灌木地帯を抜けて更に登る。清紺は次第に流速を増し、すなわち応じて勾配が急になり、山の向こう側へ回り込み、日陰に入るとあからさまに気温が下がる。
 色あせた鳥居が倒れている。
 鳥居、従ってここから先が神域。
 しかし倒れた鳥居をそのままに先を急ぐつもりはない。そんな共通認識が自然と4人に同時に芽生えた。
 バイクを止める。
「台座とか近くにないか?」
 マスターが言い、佐原龍太郎が倒れた鳥居へ近づく。
 すると。
 佐原龍太郎が下げていたネックレスが、目に見えぬ何かに捕まえられたように動きだし、衣服の下から飛び出そうとする。
「おおう、何だこりゃ?」
「理絵ちゃん!これは?」
 佐原龍太郎が驚き、超常現象と感じたか、マスターが理絵子に同定を求める。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【46】

【山3】
 
 お地蔵様より、姿勢を低く。
 六地蔵の配置理由なんかどうでも良くて、お地蔵様には敬意をという原点のあり方で。
 鬼骨山へ、通りたいのですが。
 目を閉じて、お願いし、
 目を開く。
 二人は道を見た。
 前述の小川が白く光っていた。姿勢を下げたことで太陽光の反射の仕方が変わり、白い一本の道となって奥へ伸びている。
 これだ。
「この小川が道です」
「えっ?」
 自信を持って答え、理絵子は確認に行く。六地蔵の奥手へ回り、流れに手を入れる。清らかな紺色の流れは、真冬の冷涼を伴っているかと思いきや、さにあらず存外に温かい。そして川床の茶色は土の色ではなく、手のひらでなぞると、やや粘り気を持った膜として手指に巻き付き、拭われたその下には、敷き詰められた石畳が現れた。
 理絵子は手指に付いた茶色のねばねばを持ち上げて観察した。指を動かすと糸を引くが、例えばナメクジを触っているような、腐敗した有機物のそれのような、不快な感触はない。最も、水の清らかさから言えば、不快感が無くて納得なのだが。
「鉄だよ、それ」
 登与が言った。
「え?」
「草の根なんかに住み着いた細菌が、水中の鉄分を酸化析出させるんだ。その酸化作用で生じる熱をエネルギー源にしてる。鉄は細菌の死によって草の根にドンドン付着していって鉄さびの玉になる。『豊葦原の中つ国』って記紀の表現があるでしょ?あれは、葦の根っこにたわわに実った鉄を豊かに産する、天と地の間の土地って意味なんだ」
 つまりはバイオ製鉄。そして、川床の〝土色〟は、上流から流れ来、石畳の凹凸に捉えられ、降り積もり、膜状になった鉄さびの色。
 石畳が古代の〝舗装〟であることは論を俟たないであろう。そこには僅かに高低差があるため、長い年月の間に地滑り地帯に湧く水の流路となったのだ。
 逆に言えば、古代の鉄に繋がる道であることをも示してくれている。
「ありがとうございました」
 理絵子は持たされたパンを1枚、お地蔵様にお供えし、仲間達と頭を下げた。
「これが道なのは判ったが、バイクで走っていいのかい?」
 マスターが尋ねる。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【45】

【山2】
 
 すると突如、風船が割れたように前述〝制限と誘導〟の感覚が取り払われ、理絵子と登与は共通の認識を獲得する。
 自分たちは、試されたのだ。
 ただ、それを、この鉄馬を駆る男達に開示されることは許されていない。
「行くか……こうなると信じて任せるしかないんだよな。何だか卑弥呼あたりの部下になった気分だよ」
 諦念したようにマスターが言い、ヘルメットをかぶり直して原動機を始動した。
 対して佐原龍太郎は事態が飲み込めないのであろう、文字通り〝ポカーン〟。
「龍、後で判るよ、多分な。今は理屈より行動だ」
「ああ、はい」
 原動機に火を入れ、言われた通りに道を戻る。
 道ばたの六地蔵。枯れ野に一筋小川の清紺。
「道なんか無い感じだが?」
 マスターが見回して言った。確かに、アスファルトの道から直接分岐している明確な道はない。
 少女二人はバイクを降りる。
 禁足地、すなわち八百万の神々の系統。そこに、菩薩の化身である地蔵を配する。
 それは聖地として受け継がれ、それを守るために仏の力を借りた。そのパターンは一般に聖地の出自がおぼろになるほど古い証左。
「常識に囚われちゃだめ」
 登与の指摘に、理絵子は全身をむち打たれたような感覚を覚えて硬直し、彼女を振り向いた。
「常識は、何でも知ってると勘違いしている現代人の勝手な解釈」
 その通りだ。理絵子は頷いた。男性の言葉を思い出す。表面的な物の見方をする者を、この土地は、八百万から選ばれてこの地を守る神は、許さない。
 二人して少し示唆を待ってみる。それは少女同士が見つめ合う有様であって。
 時間を持て余したか、背後で男達が会話。
「よそ者は六地蔵より奥へ入る時は入る許しが必要なんだよな。一旦止まって頭を下げる、くらいの敬意を持てって意味なんだろうな。土地を通らせて下さいって。我が物顔でバイクまたがってんじゃねーぞって」
「ああそれ……」
 バイクツーリング趣味誌の連載エッセイだとか。
 敬意。
 少女二人はヘルメットを取り、おのずと姿勢を下げ……そのまま地べたに正座。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【44】

【山1】
 
「旦那さんはそれで蛇塚を口にする連中は興味本位と判定してるわけですね」
 マスターが言った。
「まぁその通りだな。あと無闇に霊感で探し出そうという輩もお断りだ。しかし君たちは違うらしい。いや急いでるところを済まなかった。鬼骨山への正しい道は……その西隣に岩肌が露出している山があるだろう。猫山と言うんだが。その……ここから見える反対側の斜面にある神社と言われている」
 男性は見上げる景色を手指で指し示し、位置を説明した。来た道を一旦戻り、内房側へ少し走ると地蔵があって、その脇から細い道を辿るのだという。
「ただ、誰もそちらから行こうとした者、たどり着いた者はいないと聞くがね。お嬢さんがさっき口にした秘文に出て来る瓊は、その道を塞ぐのに使われたと言われているんだ。でも……昔はそれで済んだ話だが、今は精細な衛星写真をコンピュータで見られるそうだね。お陰で闇雲にたどり着こうとする輩でいっぱいでね。裏道というか文字通り邪道だな」
 その手のウェブページは、お気に入りの場所に本の栞よろしく印(タグ)を付けて、紹介文や写真など付加できる。経路も書いてある可能性が高い。
 であれば、携帯電話からネット検索すれば出たかも知れない。理絵子は思ったわけだが、それは逆に言えば、男性が指摘したように正当・本来のアクセスを無視する結果につながった可能性がある。
 何か、意図して行動を制限し、しかし同時に導かれているような、気配というか雰囲気。
「なるべくしてなった」
 登与がつぶやく。去来した想念をそのまま口にした、そんな感じ。
「行きましょう」
 理絵子は言った。登与の言葉は恐らく正しい。
 ただ、この先の展開は自分たちの意識・モチベーションに掛かっている。
 いきなり確定形で結論や成り行きを示して事実が後から付いてくるのが超感覚の特徴で「超」感覚の所以だが。
 この先は、動き方で変わる。結論は固まっていない。
「あの、ありがとうございました」
 理絵子は言い、男性に頭を下げた。
「いいってことよ。来るべき時が来るまで守れ。我々に代々受け継がれてきた言葉だ。君たちは気持ちを尊重してくれた。たとえ来るべき時ではないのであっても、後悔はない。じゃあ」
 男性は片手を上げると、自転車に乗り、元来た方向へ走り去った。
 ……何もない道の奥へ。
 
(つづく)

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