桜井優子失踪事件【45】
【山2】
すると突如、風船が割れたように前述〝制限と誘導〟の感覚が取り払われ、理絵子と登与は共通の認識を獲得する。
自分たちは、試されたのだ。
ただ、それを、この鉄馬を駆る男達に開示されることは許されていない。
「行くか……こうなると信じて任せるしかないんだよな。何だか卑弥呼あたりの部下になった気分だよ」
諦念したようにマスターが言い、ヘルメットをかぶり直して原動機を始動した。
対して佐原龍太郎は事態が飲み込めないのであろう、文字通り〝ポカーン〟。
「龍、後で判るよ、多分な。今は理屈より行動だ」
「ああ、はい」
原動機に火を入れ、言われた通りに道を戻る。
道ばたの六地蔵。枯れ野に一筋小川の清紺。
「道なんか無い感じだが?」
マスターが見回して言った。確かに、アスファルトの道から直接分岐している明確な道はない。
少女二人はバイクを降りる。
禁足地、すなわち八百万の神々の系統。そこに、菩薩の化身である地蔵を配する。
それは聖地として受け継がれ、それを守るために仏の力を借りた。そのパターンは一般に聖地の出自がおぼろになるほど古い証左。
「常識に囚われちゃだめ」
登与の指摘に、理絵子は全身をむち打たれたような感覚を覚えて硬直し、彼女を振り向いた。
「常識は、何でも知ってると勘違いしている現代人の勝手な解釈」
その通りだ。理絵子は頷いた。男性の言葉を思い出す。表面的な物の見方をする者を、この土地は、八百万から選ばれてこの地を守る神は、許さない。
二人して少し示唆を待ってみる。それは少女同士が見つめ合う有様であって。
時間を持て余したか、背後で男達が会話。
「よそ者は六地蔵より奥へ入る時は入る許しが必要なんだよな。一旦止まって頭を下げる、くらいの敬意を持てって意味なんだろうな。土地を通らせて下さいって。我が物顔でバイクまたがってんじゃねーぞって」
「ああそれ……」
バイクツーリング趣味誌の連載エッセイだとか。
敬意。
少女二人はヘルメットを取り、おのずと姿勢を下げ……そのまま地べたに正座。
(つづく)
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