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2010年6月

【妖精エウリーの小さなお話】闇を齎す光【5】

(承前)
 
 残虐だけに陥った暴力を押しとどめる方法。
「だからって君のしていることは単なる〝いじめ〟」
 私は言い、彼の頭の上から舞い降りました。
 翅を使いましたが、彼には認識させません。幻を見ている、という疑念を意図して送り込みます。すなわち超能力的洗脳。
「黙れっ!」
 彼は光の銃を発射してきました。当たり所が悪ければ失明する光線、一生罪の償いを要求される犯罪ですがお構いなしです。それよりも何よりも、これまでの悪事の露見が怖い。
 そして、私には単純に優位に立てないとも認識しているようです。だから光線銃を使う。
 対し、私以外の、普通の人間に対しては、自慢の能力でどうにでもごまかせる。
 彼はそんな思いを描きながら休まず発射ボタンを押します。狙いは正確で、姿勢を様々に変え、様々な角度から私を狙って来ました。
 でも私には掠りもしません。先読みして石を使って反射させているからです。
 光が枯れ葉や木の枝に当たって、少々、辺りが焦げ臭くなってきました。
「まだやりますか?絶対に勝てないことは認識してる通りだよ?」
 彼が小休止したタイミングで私は問いかけました。レーザ光が乱舞したのは何秒でしょうか。その間にアパートの屋上の縁、近隣の家々のアンテナ、そして電線にカラスがずらり。
 カラスは仲間を守るためなら相手を厭いません。
 報復という心理も持っています。
 私はその旨、彼に読心させました。
「君は間違っている」
「うるさい、お前なんかに何が判る!」
 されど、彼の発言は、私が彼の全てを知っているという事実への驚きから出た物。
「何のために力を得たのか吟味なさい。私は私の故に動物たちの味方をしている。そして私は、君が異なる存在だと理解し尊重する。私が理解者ではダメか?」
 言葉は難しいかも知れませんが、意図は能力の故に確実に伝わるから問題はないでしょう。
〈エウリディケさん、こいつは殺し屋ですよ!?〉
 非難の意も含んだカラスたちの抗議。私は血気に逸る彼らを制します。
 カラスは〝仲間いじめ〟もやります。
「君は何でも判ってしまう」
「……ああ、そうだよ」
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【52】

【鉄3】
 
 ロープにテンションが掛かってピンと張られ、少しの間そこでバイクは止まったが、やがて古寺の門の閂が動くような、ギシギシした音が出、バイクは堰切ったように突如動き出した。
 夥しい数の貝がらを伴い、土の中から引き出されたそれの第一印象は〝じゃがいも掘りの大収穫〟。
 次いで、ボウリングの球を誤って落としたような重い音がし、伴って地震と思うかのような震動が足もとを走り、
 左方、急な勾配になっているその始まりの部分に土の中から何かが盛り上がり顔を出す。
 2カ所。切り株、否。
 方位磁石は今、その方向を強く指し示している。
 隠されていた鳥居の土台であると理解するのに迷う者は無かった。
 そして、ジャガイモと見えたものは、先が二股になった棒に、褐色の玉が鈴生り状態になった鉄のオブジェ。
 長さは理絵子の背丈とほぼ同じ。〝葦の根っこに付着する鉄の玉〟。
「鈴生りってコトバの語源はその姿だって古事記の解説か何かで読んだ気がする。植物の実のりの有り様(ありよう)なのに何で鈴なんて金属っぽい名前がついているのかってね(※)」(※作者が見かけた実際の文献は前出に同じ)
 登与は言い、
「修験者の鈴鳴る杖持ちさまよい歩く姿は、鈴生りの鉄を求めて歩く儀式の名残とも……私はそれはさすがにこじつけのような気もするけど」
 と、加える。しかし、それを聞いて、真言密教の心得のある者として、理絵子の取るべき行動は一つであった。
 引き抜かれた鈴生る鉄棒を天地逆さに立て、右手に携える。
 エクスカリバーではないが、その鈴鳴る杖たる錫杖(しゃくじょう)そのもの。いやむしろ、これこそ神の顕現たる万物の祖、鉄を手にした古代超能力宗教の原初の姿ではあるまいか。
 そして、凜たる外見を持つ理絵子がそれを手にした姿は、更なる神代、シャーマニズムとの接点の具現化そのもの。
 凄絶、であった。
「行者の杖だ。すげぇ……」
 マスターが舌を巻く。数ヶ月前になるか、理絵子の学校で幽霊騒ぎから教員の犯罪が明らかになり、暴いた本人である理絵子に命の危険が迫った。この時、理絵子は幽霊が絡むことから、住職よりお守りにと伸縮タイプの錫杖を借り受けていたが、それを使って犯罪教師をひっぱたき、難を逃れている。この出来事でマスターは理絵子の能力と、錫杖の何たるかを知った。
P5020332
(高尾山・自然研究路6号の入り口にある) 
(つづく)


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【妖精エウリーの小さなお話】闇を齎す光【4】

(承前)
 
 応じて、とっさに避けようとして、手にした石を目の前にかざしたのと。
 直後、石持つ手のひらに、軽い衝撃を感じたことを覚えています。
 私の髪の毛が数本ちぎれて飛んで。
 隣家の壁を這うツタの葉に穴が開いて煙を一筋。
 〝何か〟が、彼から発せられ、石で軌道を変え、私の髪と、ツタの葉を焼き切った。
「外したか!」
 来る。と私は知ります。彼は今軍事レーダのように私の動きを探りながら階段を駆け下りて来ます。私が彼の武器に気付いていないと高をくくって。
 レーザ光線。
 裏町で外国人の露天商から買った物。
 違法な高出力。
 自分を化け物扱いする他の人間達に報復として。
 その一方で、良いことをしているとして受け入れてもらいたくて、ゴミを漁るカラスを攻撃。
 だから突然、カラスは目を射られ、何も見えなくなる。
 光線は頭蓋を貫き、命を奪う。
 そのことに気付いた私は、彼の敵。
 背中の翅が風を起こす。
 私は舞い上がり、彼が私を狙った踊り場に逆に飛び移りました。
 カラスたちが方々から集まってくることに私は気付きます。カラスは仲間のピンチを何らかの方法で察知し、集まってくる。それは人間さんには不思議なことかも知れませんが。
〈エウリディケさんが危ない!〉
 カラスたちの心強い思い。
 一方、彼は動物たちと意志を交わす、まではできないようです。最も、人間さんのテレパシストが容易にそれが可能であれば、私たち妖精の立つ瀬がないのですが。
〈出てこい!いるのは判ってるぞ!〉
 彼は〝心の声〟で叫びました。
 動物の思考は読めなくても、カラスが何らかの不機嫌さを伴って集まって来ていることは察知しているようです。
 彼に、私に、今必要なことは何でしょう。
 光の銃を奪うこと自体は恐らく可能、容易の範疇でしょう。でも、ただ取り上げるだけでは、彼はまた入手するだけ。
 彼の理解者となり、行為の残虐さを諫めなくてはなりません。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【51】

【鉄2】
 
「このダンゴムシたちを神が望んで住まわせているのであれば、私たちが住処を壊してはならない」
「なるほど」
 男達は頷き、相談し、ロープを出してバイクで引っ張る策を見出した。
「こんな動力古代人はどうやって……」
 佐原龍太郎が作業しながら訊く。ちなみに彼が受けてきたという講習は〝玉掛け〟という技術で、クレーンのフックに荷を吊る・下ろす作業だという。
「ここで役立つとはね」
 バイクにロープを結んで引く。〝水の道〟では滑るので、枯れ野の上でエンジンを煽るが。
 小枝で掘れるような土壌。タイヤは土を蹴上げて潜り込むばかり。
「ちょっと待って下さい」
 理絵子は作業を止めて考える。これは正解ではない。それこそ古代の人たちはどうしたのか。
「引いてダメなら押してみな。違うか?」
 マスターの意見に首を横に振る。埋めて隠してあるのは出ていて欲しくないからだ。つまり、上に出すことによって仕事する。
 この場所には古代人の得た叡智の象徴として、自然が示す物理力の一つ、磁力を使ってある。
 自然の叡智。どこかの万博のお題目。
「残りは重力、弱い相互作用、強い相互作用」
 理絵子の考えを読んだ登与が言った。それは自然界の4つの力。但しこの中で〝相互作用〟2つは原子核回りの話。逆に言うと。
 重力なら、古代人も使える。
 目の前にある水の道こそ。
「バイクをそのまま道の上へ!」
 理絵子は叫ぶような気持ちで言った。
「え、グリップが……」
 更にタイヤが空回りするのではないかという男達の心配。
「違います。昔の人は重たい物をここに滑らせて引っ張ったんじゃないかと」
「つるべのオモリってことか」
 佐原龍太郎の理解に理絵子は頷く。
 すぐに水の道へバイクを移動させ、マスターがまたがり、そのまま重力任せに滑らせる。
 
(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】闇を齎す光【3】

(承前)
 
 しかし、そこまでの僅かな時間で、幾らか情報が漏れ伝わってしまったことを認識します。すなわち、私が動物や昆虫の相談相手として存在している女性形の人間型生命体であること。ただ、翅が生えてることを除いて。
 一方、同時に〝彼〟の情報も私は取得します。
 その能力の故に、疎外されて。
 人間の、友達はなくて。
〈おい、お前もココロで話せるんだろ?〉
 〝彼〟が事件と関わりを持っている。呼びかけてきた彼の真意、いえ底意。隠したつもりのようですが、私が気付く方が一瞬早かった。
〈ちっ!〉
 私が気付いたと察知したようです。それは難しい選択が発生したことを意味します。私の素性については明かすことは出来ません。明かしたところで他の人間さん達が信じはしないでしょうが、私を通じて知られては困ることが多すぎる。例えば、人が努力を惜しまないのは、生きていることに幸せを見出すから。私のような生死の枠を越えた形而上の存在が見えるのは、その努力に水を差すことになります。さりとて、事態の解決には彼との接触が不可欠。
 まるで心に土足で踏み込むように、力任せに頭の中へ手を突っ込むように、〝彼〟が無遠慮に探りに来ます。それは喩えるなら……テレパシーを阻止するバリアをガラス玉とするなら、中にいる私を触ろうとして、ガラス玉を割ろうとしたり、蹴ったり叩いたり、ベタベタ触って曇らせたり。
 その一連の動きを通じて、見えるのに触れない、切歯扼腕の感情を強く感じます。それは能力に対する〝彼〟のモラルの低さ、使い方の稚拙さを私に伝えます。子供が力任せに幼児を屈服させようとするのと似ていると書けばいいでしょうか。まぁ、テレパシーの使い方をレクチャーできるような人間さん自体、殆どいないのですが。
 逆に言えば、テクニックに一日の長的差違はありそうです。
 私は身体を人間サイズに伸ばして(形而上性を隠して)、その場に立つと、カラスの怨霊を偽装しました。つまり、ウソ情報を意図的に送り込んでそう思わせるわけです。一種の催眠術。
 程なくドアが開け閉めされる音と、走ってくる靴音。
 〝彼〟の認識は〝憑依〟です。つまり、人間の女性にカラスの怨霊が取り憑いて喋らせている。
 攻撃?
「おい!」
 踊り場から彼が身を乗り出し、肉声で私を呼んだのと。
 反射的に私が彼の方を見上げたのと。
 彼の隠した意図を私が見抜いたのと。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【50】

【鉄1】
 
「イザナギがゾンビ状態のイザナミに逃げずに抱きしめたとしたら、日本の歴史は変わったかも知れない。その反省がヤマタノオロチの天叢雲(あめのむらくも)」
 考えを独りごちる。友人達はこの種の言動から理絵子の霊性を疑うが、今のところシラを切り通せている。
 さておき、故事がおぞましい大蛇の体内に絶対の宝を隠したのだとしたら。そして日本武尊はその剣を手にした。
 蛇は古来、水流の化身。鉄の剣、日本武尊。
 それら全部が意味するものは。
「黒野さんまさか」
「豊葦原の中つ国、平静と開闢をもたらした我らが偉大なる祖先よ、我(あ)は、あなたの通った道を、感じているあなたを、あなたと信じてこの手を伸ばす」
 決心して物事を進める時、呪文を唱えるその意味と強さの故を理絵子は真言密教から知っている。ただ、今のこれは呪文そのものではなく、理絵子自身の彼への宣誓を呪文風に唱えただけ。
 そして。
 理絵子は、彼らの蠢くその中に、手を差し入れる。
 一斉に這い、しがみつき、登ってくる。
 この手を今すぐ引き抜きたい。
 その気持ちを押しとどめるように温もりが手指を包む。確かに、ここは暖かい。
 だから。
 土と生き物の中で、唐突な冷たい棒状の物の存在は際立った。指先がひやりとした感触に触れ、すぐにそれは生物ではないと判じる。
 秘密の場所に剣がある。思い浮かべたのはそんなパターン。しかし、天叢雲でも、エクスカリバーでもない。引き抜けば勇者というわけではどうやらない。
 鉄の棒が刺さっている。埋まっている。
 ……ただの棒?
「何かある……」
 握って引き上げようとするも手が滑る。
 引っかかりを探って手を動かすと、奥の方で二股に分かれている。
 小娘の力で引き抜ける状況ではない。
「抜くのか?」
「はい」
「逆に掘り下げたらダメかい?」
 佐原龍太郎の提案に理絵子は首を左右に振った。
 
(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】闇を齎す光【2】

(承前)

 ここに、前記した鳥の性質として、縄張りのどこに何があるか位は覚える、も書きましょうか。慣れた場所でその日に限ってぶつかる、というのは考えにくい。
 つまり、立て続けに、何かが起きた。
 なきがらがあれば、身体に起きた異変はある程度調べられます。しかし、野生動物の遺骸が、何日も、何事もなく、残っているはずもなく。
〈君たち、つまりカラスだけ?〉
〈それは何とも……他の鳥とかどうでもいいですし〉
 言われてみればその通り。でもこれだけでは情報が少なすぎます。対策以前にそもそも原因が考えつきません。不自然なので人為的とすると、例えば人間さんが駆使する〝力〟で電磁力がありますが、鳥たちは磁場で方角を感じる能力を持ちます。ですから、人間さんの強力な電磁波で方向感覚が狂って……可能性自体は考えられます。施設から電磁波が飛んでくることもあるでしょう。しかしそんな施設はこの近辺にありませんし、遠くの施設からだとすれば、その施設の周辺がただ事では済まないはず。
 とりあえず調べるべきは、他の動物たちが異変の情報を持っていないか。
〈なるべく高く飛ぶようにして。当分の間は〉
 私はそれだけ言いました。少なくとも、どこかにぶつかることはないはず。
 ただ、自分自身、心許ない。それだけでは万全じゃないという確信があるから。
 されど、カラスたちの恐怖を少しだけでも軽くする効能はあったようです。
〈あ、はい。仲間に伝えます〉
〈ごめんね大したこと出来なくて。でも、判断を下すには情報が少なすぎる。もっと調べなくちゃ〉
 私はカラスたちと分かれ、他の動物たちを探すことにしました。
 テレパシーを使います。誰か、近くに、いない?
 その呼びかけに対して、とんでもない……いえ、リスクとして想定されるべきですが、私がそれをすっかり忘れていた、と書くべきでしょう。
 慄然となるような、反応がありました。
〈お前、誰だ?何で動物に話しかけてんだ?〉
 人間の男の子。
 超常感覚的知覚の持ち主、つまりエスパーです。直ちに私は〝遮断〟を行います。内容は二段階、まず、彼を意識しない。これで私の意識から情報は発せられない。次いで、ペンダントにしてぶら下げている石を胸元から引き上げ……時間がないので妖精の魔法の石とだけ書きます。サファイアに似ています……これを手に握り、ある種のバリアを巡らせて彼の探索を妨害。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【49】

【山6】
 
 更に、磁力は〝目に見えぬ力〟そのものである。
 それは古代の人々にとって〝神の力〟の顕現に違いない。
 だから、その磁石を大きなサイズに加工する能力は、神に捧げ、神のために使うのが相応しい。……それは理に適っている、理絵子の確信。
 そして、流れに沿って歩くこと20メートルほど。明確な指向性を失い、歩くリズムでフラフラする程だった磁針が、再びピタリと引き寄せられた。
 示す枯れ野の上には何もないが。
 少し動かし、土の中を指していると判じたので小枝を拾って少し掘ってみる。特段変化は……
 違う。
 掘った穴から節足動物が沸き上がるように大量に這い出す。ダンゴムシ、ムカデ、クモ……一般に女子中学生ならキャーキャー言って逃げ出す類の不快害虫。
 そして、多く、彼らは邪念の化身とされるが。
 理絵子は落ち着いていた。最も、一度それこそ桜井優子と深夜探検していて、この手の虫に顔にたかられたことがあり、その時に比べれば大したことない、という認識が先に立ったせいもあるが。
「おお理絵ちゃん平気なんか……それ、そこが暖かいからいるんだよ」
 佐原龍太郎が理絵子に気付いて言った。
「え?」
 足もとに蠢く多数の虫を従え、振り返り首を傾げる髪の長い娘。
「暖かいせいで、普段なら食うか食われるかの関係が、仲良く冬眠ってわけさ」
 サバイバルのテクニックに、寒い夜は腐葉土に潜れというのがあるとか。それこそ菌類の活動で熱を持ち、雑魚寝より暖かいという。それはゴミの山から煙が出るのとメカニズム的には同一。
 しからば、磁石が反応し、なおかつ熱を出しているということは、その鉄を産生する細菌が今まさにここで繁殖していると第一推定。
 つまり鉄にして磁石、その磁鉄鉱がこの下にある。
「その子たちは体のいい警備員かもね」
 登与が言った。キモチワルイから触りたくない、と彼女は考えている。そして、だから、触られたくない物を隠しているのではないか、と。
 ただ、無理して手を差し入れる勇気は彼女にはない。
 本当の宝物を故意にグロテスクに作る。理絵子が知るのは、例えばオーパーツで知られるクリスタルの髑髏。
 但し、日本の神代にそのような発想があったという話は聞かない。
 ……いや。
 
(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】闇を齎す光【1】

(「齎す」は「もたらす」と読む)
 
 ビルや高層住宅のガラスに鳥が激突する。
 珍しいことでは無いかも知れません。鳥は視覚を頼りに飛ぶので、人間さんと同じく、ガラスや鏡を見逃すことがあります。
 ただ、特に高い建物があるわけでも、ガラスの多い建物があるわけでもないのに、特定の街区でそうした鳥の事故が多いとなると。
 妖精の身としては調査しないわけに行きません。
〈昨日はここだった〉
 言葉に起こすとこうなるセリフは、サウンド的には『カァ』です。私の目の前にいるのは、この近辺にねぐらを持つまだ若い雄のカラス。
 ここはコンクリート3階建てのアパート。その階段の下というか裏というか、自転車置き場にカラスが1羽。
 そして、良く見ると、自転車のサドルの上に、手のひらに載りそうなサイズの白装束の女が立っている。
 人間さんには異常な構図でしょう。でも真夏の日中、人間さん達が外へ出て来る気配はなく、少し大胆に動いても見られる心配はなさそうです。ちなみに、私たち妖精が人間さんの前に姿を見せないのは、人間さんが〝存在しない〟と決めているから。人間さんの意志に背くことは私たちに許されていません。最も、私は妖精の中でもギリシャ神話の〝ニンフ〟の血筋を引いた種族で、彼女達が神話の中で人間さんと共に暮らしていたように、人間サイズになることも出来るのですが。
〈見えなくなった。突然何も見えなくなった、って言ってた。これで前のゴミ捨ての日から3羽目だ。このままじゃ俺たち……〉
〈落ち着いて〉
 パニックになりそうな彼を私はなだめます。もちろん彼らは人語を解しませんので意志と意志の直接コミュニケーション、すなわち、テレパシー。
 彼から聞いたことをまとめます。
 
・悲鳴を聞いたので仲間達で助けに行った
・突然見えなくなって、激突して落ちたと言った
・声で群れまで誘導したが、3羽とも一両日中に死んだ
・場所はこのアパート、1ブロック向こうの単身アパート、北側にある自動車ディーラー
・いずれもここ数日のできごと。これまでにはなかったこと。
 
(つづく)

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