桜井優子失踪事件【52】
【鉄3】
ロープにテンションが掛かってピンと張られ、少しの間そこでバイクは止まったが、やがて古寺の門の閂が動くような、ギシギシした音が出、バイクは堰切ったように突如動き出した。
夥しい数の貝がらを伴い、土の中から引き出されたそれの第一印象は〝じゃがいも掘りの大収穫〟。
次いで、ボウリングの球を誤って落としたような重い音がし、伴って地震と思うかのような震動が足もとを走り、
左方、急な勾配になっているその始まりの部分に土の中から何かが盛り上がり顔を出す。
2カ所。切り株、否。
方位磁石は今、その方向を強く指し示している。
隠されていた鳥居の土台であると理解するのに迷う者は無かった。
そして、ジャガイモと見えたものは、先が二股になった棒に、褐色の玉が鈴生り状態になった鉄のオブジェ。
長さは理絵子の背丈とほぼ同じ。〝葦の根っこに付着する鉄の玉〟。
「鈴生りってコトバの語源はその姿だって古事記の解説か何かで読んだ気がする。植物の実のりの有り様(ありよう)なのに何で鈴なんて金属っぽい名前がついているのかってね(※)」(※作者が見かけた実際の文献は前出に同じ)
登与は言い、
「修験者の鈴鳴る杖持ちさまよい歩く姿は、鈴生りの鉄を求めて歩く儀式の名残とも……私はそれはさすがにこじつけのような気もするけど」
と、加える。しかし、それを聞いて、真言密教の心得のある者として、理絵子の取るべき行動は一つであった。
引き抜かれた鈴生る鉄棒を天地逆さに立て、右手に携える。
エクスカリバーではないが、その鈴鳴る杖たる錫杖(しゃくじょう)そのもの。いやむしろ、これこそ神の顕現たる万物の祖、鉄を手にした古代超能力宗教の原初の姿ではあるまいか。
そして、凜たる外見を持つ理絵子がそれを手にした姿は、更なる神代、シャーマニズムとの接点の具現化そのもの。
凄絶、であった。
「行者の杖だ。すげぇ……」
マスターが舌を巻く。数ヶ月前になるか、理絵子の学校で幽霊騒ぎから教員の犯罪が明らかになり、暴いた本人である理絵子に命の危険が迫った。この時、理絵子は幽霊が絡むことから、住職よりお守りにと伸縮タイプの錫杖を借り受けていたが、それを使って犯罪教師をひっぱたき、難を逃れている。この出来事でマスターは理絵子の能力と、錫杖の何たるかを知った。
(高尾山・自然研究路6号の入り口にある)
(つづく)
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