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2010年8月

桜井優子失踪事件【61】

【骨6】
 
 議論する二人を、鬼たる彼はおろおろしながら交互に見ている。彼にとって、自分たちの反応は想定外であり、どう対処するのが適切か思いが至らないようである。ただ、彼が自分たちを〝メス〟と認識し〝庇護すべき〟と思っていることは理解できた。
 そして、その心理は、遺伝子レベルの優しさ、気弱さに根ざしていることも。
 ネアンデルタールは死者に花を手向ける心の持ち主とされる。
 まさか、されど、ただ。
「縄文人と現代人は違うもんね」
 理絵子はまず言った。
「そして現代人の遺伝子には縄文人の要素が含まれている。縄文人の一部にネアンデルタールの部分があっても不思議じゃない」
 少なくとも、その可能性は否定されるべきではない。
 鬼が理絵子の手にした〝杖〟に気付く。
〈それを持つのに何故自分を攻撃しない。何故自分の思いが判る〉
 鬼の抱いたイメージ。杖を持つ者は超常の能力で自分たちを痛めつける者達。
 錫杖を携えていたのは役行者……つまり密教によって超能力を得た宗教者。
「鬼退治、か」
 外見が異なり言語を発さぬ存在は、古代において恐怖を呼んだであろう。
 そして、行者を呼び、超能力に超能力で対峙した。
 残っていないからあり得ない。確たる物は何もない。
「一寸法師の針は錫杖のカリカチュアライズとか?」
「彼に敵意を感じないのと、彼の証言や昔話とが食い違うのは何故?」
 彼は優しいのに後世の者達は攻撃したのか。
「途中で変わったとか。縄文の認識と新時代の認識の違い」
 これに対しては彼が答えてくれた。
〈支配を望む集団が来て、〝力〟持つ者を唆し、我々を方々で殺した。ただ、ここのように一部はかくまってくれた〉
 彼は一種のシールドバリア、制限のような物を解除してくれた。
 すなわち結界である。
 バイクのエンジンが息を吹き返し、前照灯が点り、
 走ってきた時よりも多くの物を照らし出して二人に見せた。
 その光景に二人が絶句していると、ライトの光芒が揺らめき、男達の足音が聞こえた。
「ああ、いたいた。無事だったか……ゴツいあんちゃんいるな」
 二人の娘と偉丈夫。その光景にマスターが思い浮かべたのは、光剣振り回すシーンが有名な宇宙SFに出てくる異星人メカニックであった。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード【目次】

リンクは5話おき
1-5 6-10 11-15 16-20 21-25 26-30 31-35 36-40 41-45 46-50 51-55
56-60 61-65 66-70 71-75 76-80 81-85 86-90 91-95 96-100
101-105 106-110 111-115 116-120 121-125 126-130 131-135
136-140 141-145 146-150 151-155 156-160 161-165 166-170
171-175 176-180 181-185 186-190 191-195 196-200 201-205
206-210 211-215 216-220 221-225 226-230 231-235 236-240

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桜井優子失踪事件【60】

【骨5】
 
 その感覚は同時に、ここが禁足地とされた理由を教える。ここは、この長寿命の一族が住みたまう地として隔絶された。
 僅かに残ったその血筋を守るために。
 蜘蛛なる人は大いなる疑念と驚嘆を示しながら二人の前に飛び降りた。
 ハッキリ言って物凄い体臭である。縄文人の復原像など毛深い姿で描かれるが、その姿を遙かに超えた筋骨であり体毛であった。……何も着ていない。だから男性であると一目で判る。勿論、学術的な縄文人とは一線を画するでろう。長寿は種を峻別すべき大きな特徴のはず。
「鬼、だね」
 登与が言った。ここは鬼骨山。
〈おに〉
 〝鬼〟と書こう。彼、は登与と理絵子の認識を反芻して寄越した。
「喋れないの?」
 現代日本語が通じるとは思わないが、テレパシーの会話は成り立つ。
 以下鬼の意志は言語に変換する。
〈お前たちと違う。お前たちも鬼と言うか〉
 二人は鬼に言語発生能力がないものと理解した。声帯を持っていない。また、風体から鬼という言葉で蔑まれて来たものと理解した。
「黒野さん」
 意志で通じるが、改まった感じで登与は理絵子を呼んだ。
「はい?」
「馬鹿なこと言うと思わないでね。この人、ネアンデルタール人の生き残りじゃないかな」
 ネアンデルタール。現生人類ホモサピエンスの一世代前の人種で旧人とも呼ばれる。最近の研究が言うには両種は同時に存在し、ほぼ似たような容姿を持っていたという。ただ、彼らは滅び、我々は生き残った。違いは言語の有無や闘争本能と言われるが、証明できた者はない。
 滅んだ彼らが生き残っている。映画化されたSFにそんなのがあった。
 確かに神武天皇が言った100万年は誇張に過ぎるにしても。
 5万10万年、彼らの治世が続いた。なら、あり得る。あり得るが。
「日本から旧人の化石は……」
「出てない。でも、日本列島は極めて大規模な地殻変動を繰り返して、1万2千年前には九州が丸ごと火山灰に埋もれるような大噴火が起こったりしてる。住んでいたから残るはず。残っていないから住んでいない、とは言い切れない。確たる物は何もない」
 
(つづく)

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短編集・総武快速Passing Love 【目次】

千葉稲毛津田沼船橋市川新小岩錦糸町馬喰町新日本橋東京

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総武快速passing love ~稲毛~

 君を見たのは線路を挟んだ向こう側。各駅停車のプラットホーム。
 夏の日差しを浴びて、まぶしい白い制服で、君は立っていた。
 暑いのに、屋根のないホームの端で、君は照らされて立っていた。
 ただ、それだけ、だったのに。
 僕はその日から君を見つめるだけのために快速電車に乗った。
 各駅停車に乗ればいいのに。
 同じホームに降りればいいのに、快速電車に乗った。
 後ろ姿を見ただけなのに。
 横顔を見ただけなのに。
 そして陽光に輝く光を見ただけなのに。
 言葉も交わさず名前も知らず、なのに。
 雨の日君をホームで見かけた。
 傘もささず君はホームに立っていた。
 濡れたまま、濡れるがままに君は立っていた。
 僕は快速電車を飛び降りた。
 階段を駆け下りて、階段を駆け上がった。
 ホームの屋根の途切れるところまで。
 でも、僕はそこから先へ進めなかった。
 君の目が赤かった。
 何か封書を握りしめ、君は鈍く銀色に光る濡れた線路を見ていた。
 でも、僕は何も言えなかった。
 翌日プラットホームに君の姿は無かった。
 僕はもう一度快速電車を降りて、今度こそは屋根のないところへ歩いて行った。
「いきなりすいません。いつもあなたを電車の中から見ていたもので、つい」
 それは口にする機会の無かった言葉。口にしたかった、言葉。
 でも、そこには今、誰もいない。
 
千葉津田沼→

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【理絵子の小話】武蔵野にて

 “王墓”が家の近所にあるなど、世界的に見てもレアケースではあろう。理絵子の場合、その墓所まで自転車で10分とかからない。
「作文というか小論文というか、市が主催のコンクール。『平和について』、というタイトルで原稿用紙10枚以内」
「私が?ですか?」
 いぶかる理絵子に、母より年上の女性担任は頷いて。
「学年問わずウチの学校で一番文章が上手なのあなただと思うの。他校の代表は殆ど3年だけど大丈夫、あなたなら充分、渡り合える」
「でも文体の巧拙と論旨が的を射ているかは別の話だと思うんですが」
 それに平和がテーマで渡り合うという発言はどうだろう。
「だめ?もう申請しますって校長には言っちゃったんだけど」
 ひどっ。
 断ると校長が方々にペコペコバッタになる上、時間切れでこの学校は30余ある市立中で唯一代表なしになるとか。要するに外堀埋めてから事後承諾である。
 そんな駆け引きばかり考えてるから戦争なんかするハメに至るんじゃないのか。いい機会だから大人皮肉ってやろうか。理絵子は腹立ち紛れの勢いも手伝って、既成事実を受け入れた。
 とはいえ平成の生まれ。太平洋戦争の終結は半世紀前の話である。戦争なんか教科書中の出来事であり、今日もそうだが夏休み中の出校日に行われる“平和授業”で教わった程度。父方の祖父が中国戦線で補給部隊にいた、という話を聞いたことはあるが、とうに他界している。ちなみに“平和授業”で出てくる話は、“最早耳タコで否が応でも覚えた”、というレベルになるが、東京大空襲で余った焼夷弾を落としに来たと言われる市内への爆撃、及び、子ども達を乗せた疎開列車に対する戦闘機による機銃掃射である。特に後者は、自分たちと同じ或いはもっと下の年齢の子ども達が、重機関銃で無差別に撃ち抜かれ、列車の中が血の海になったと聞かされており、それなりにショックを受けた。ただいかんせん、物語を聞いているようで実感味は薄い。
 知識ばかりじゃ何も言えない。そこで理絵子が訪れたのがここ。王墓、上円下方墳。すなわち
 陵(みささぎ)。
 理絵子がここでこうして陵と向かい合い小一時間になる。夏のセーラーで長い髪を背中に流し、白いりぼんで軽くまとめた娘が、炎天下じっと動かないのだ。観光客や、昭和を顧みてこの地に来たお年寄りなど、通りすがりはさておき、管理サイド係員にはさすがに奇異に見えたようだ。
「お嬢ちゃん、何かご縁のある方ですかな?」
 ボランティアのIDカードを首から下げた、すっかり頭髪の白くなった男性が声を掛けた。
 それから、理絵子が応ずるまで、2秒。
「え?」
 ようやく振り返る。理絵子は今日びの“化粧装飾が当然”の風潮に置いて行かれたような、少し懐かしい雰囲気すら漂わせる娘である。ふんわりした頬を持った丸顔の美少女であるが、外見を装うことをしないシンプルさも手伝い、巫女を思わせる透明感、凛とした輝きを持つ。
 後ろめたい人間は正視できない、と評されることもある。
「いいえ。学校の宿題で戦争のことが出まして。“昭和”な空気のこちらに」
 理絵子は答えた。
「宿題ですか。…まぁ、お嬢さんの世代で戦争を実感するというのは、無理でしょうな。どころか、人死にの数にスゲーと応じる位ですからな。いやいや、お嬢さんがそうだと言ってるんじゃないですよ。あなたはむしろ逆だ。そんな風には見えない」
「あまり変わりません。同情心は沸きますが、自らの、というか、身近には捉えにくいです。多分、現実の死という現象に接したことがないせいかも」
「なるほどね。戦争は根本的に人を殺すこと。人が死ぬこと。それが敵を倒すという言葉に置き換えられ、あまつさえは死ぬという現象自体が身近にない。戦争の悲惨さを伝えるには土壌が出来てないのかも知れませんね」
 そのセリフに、失敗した、と理絵子は思った。大人を皮肉るにせよ、内容上求められるのは戦争の悲惨さと平和の尊さ、だろう。そして学校の思惑はさておき、利用先は30余中学にばらまき、お前らこれを読め、に行き着く。対し死の実感のない人間にはステレオタイプのことしか言えないし、読まされる側もありきたりだね、で終わってしまう。
 
 それは戦役に没した幾百万の方々に対してこの上なく失礼である上、その犠牲が教訓として生かされないことになる。
 
 軽々に担任の求めに応じたことを後悔する。どころか、担任の姿勢も自分と同じではないのか。
 言葉が浮かぶ。
「『死んだ』の一言で済まされる。『何人』というデータとして語られる。でも、一つ一つの死は多分とても悲しく、辛い。それがそれだけ重なる、その死に思いを致すことが出来るのであれば、空前の数、人が殺される恐ろしさが、少しは理解できるのかも」
 理絵子は独り言のように言った。
 思い出す記憶がある。1995年1月17日。
 兵庫県南部地震…阪神淡路大震災である。
 後に新聞に並んだ膨大な数の人名を見、母親が正気を失うかと思うほど泣いていたのだ。
 理絵子は当然幼かったが、ビジュアル的にあまりにも強烈だったせいか、良く覚えている。
 理由を問う理絵子に、母親は怒気すら感じさせる声で、叫ぶように言った。
『お前より小さい子が、崩れた家の下で、何かに挟まれて、痛い痛いと泣き叫びながら、火で焼かれたんだよ!?その子のお母さん、そこに自分の子がいると判ってるのに、救い出せなかったんだよ!恐ろしいよ。お母さんだったら狂っちゃうよ。この名前は、そうやって死んでいった人の名前。これみんな、死んだ人の名前!』
 何ページも、何ページも、巨大な新聞紙に、隙間無く書かれた名前が、どこまでも続く。
 累々と並ぶ、死。
 その時自分も泣き出したのは、母の悲しみの深さを感じたから。
「ああお嬢さん大丈夫かい?」
 涙を見せた理絵子を見て男性はうろたえ、中腰になった。
「ごめんなさい…」
 理絵子は幼い記憶を説明した。
 男性は頷き、何度も深く頷き、そして目を赤くして。
「それはあなたのお母様が、あなたを愛していらっしゃるからこそ、我が事のように感じられた結果でしょう。そんなあなたを奪われる。天変地異で奪われる。考えるだに恐ろしい気持ちになられたのでは」
「奪われる」
 その言葉を理絵子は反芻した。
 “戦争で多くの人が死ぬ”…一般化された物言いと少し違う。
「そう。理不尽な出来事で強引に連れ去られ、引き裂かれるのです。自分じゃどうにもならない。どうにかしたいのに。どうにかしたかったのに。どうにもできなかった。悔しくて腹立たしい。
 失った悲しみと、ぶつける先のない怒り。同時に二つを抱えた心の苦しみ」
「天変地異ですらそれであるなら」
「ええ、戦争では尚のことです。何せこちらは人が意図したこと。努力をすれば、ハンコを押さなければ、誰かが何かを進言しなければ、防げた。今一人の若者が母の元を去る。もう戻ってくることはない。母も若者もそれを知ってる。そして多分、やっぱりやめなさいと引き留め、逃げ出すことも可能ではある。でもできない。我が子を死なせるために、敵を殺すために、自らの手でバンザイを叫んで送り出すのです。そして残された者は、反抗する術すら持たぬ鋼鉄の殺人機械に、ボタン一押しで虫踏むように撃ち抜かれる。
 どんなに大義名分を掲げても、戦争を美化する要素も理由も、針の先ほどもない。負けてはもちろん、勝っても何も生み出さない。死と、永遠の別れと、愛する者を奪われ残された者達の、癒えない悲しみしかない。そんな人たちには、勝ちも負けも意味はない。
 戦争はただ、人と、命と、幸せを奪って行くだけ」
 言われて。
 理絵子が思い出したのは。
 イラク戦役で号泣するブルカ姿の女性と、息子の遺影を掲げてホワイトハウス前をデモ行進する女性達。
 ハッと気付く。そういう意味では自分たちは戦争をテレビで見られる世代ではないか。
 しかも、現在只今、進行中。
 戦争が極めて身近な事象であることに気付いて怖気を振るう。しかも彼の国が広げた“傘”の一端はなんのことはない、この国の上に被さっているではないか。
 単に、戦争から、“隔離”されているだけ。壁で見えないのをいいことに…
「平和とは単に戦争をしていない…」
 理絵子は問おうとして、男性の姿がないことに気付いた。
 考え込むと何も聞こえないタチなので、呼んでも答えぬ生意気娘に愛想を尽かしてしまったか。
 だったら謝らねばならぬ。理絵子は周囲少々、詰め所と見られるプレハブなど見たが、男性の姿はない。
 参道を戻って陵の管理事務所に尋ねる。
「ボランティアの男性?」
「はい」
「婦人会といった単位で勤労奉仕の登録はあるけど、個人では、ないよ。何かの見間違いじゃない?」
 背格好を説明。
 すると職員は登録されているボランティアの写真入り台帳を出して来てくれたが。
「強いて言えばこの方になるんだけど」
 見せてくれた台帳の、その写真は確かにさっきの男性。
 そこにはしかし、大きな×印がマジックで書いてある。
「亡くなられたみたいだね」
「え?」
 と、いうことは…。
「“戦争を語り伝える会”の会員の方だよ…知ってるかな。疎開列車が米軍に攻撃を受けた際の生存者の団体だよ。親類の方かい?」
「いいえ…」
 職員は、理絵子がここへ来た意図を知るや、団体の代表者と本部の連絡先を教えてくれた。
「ありがとうございます」
 理絵子は一礼し、自分の自転車へ向けて歩き出す。
 
武蔵野にて/終

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桜井優子失踪事件【59】

【骨4】
 
 最も、幼生など、一部の蜘蛛が二本ずつ脚をまとめ、網の中に糸で描かれた「X」の字の上にいて、Xと一体化して隠れているのを見たことがある(隠れ帯と言う)。
 しかしそれにしては大きすぎる。
 人体サイズ、否。
 二人が〝蜘蛛〟の正体を知り、思い出したのは、記紀において神武天皇が言ったとされるこの言葉。神代におけるニニギ(天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命)などの治世100万年単位。
 及び、
 神武天皇は127歳。考安天皇137歳。孝霊天皇128歳。孝元天皇116歳。開化天皇115歳……。
 その神武天皇の他、〝根子〟を諡号にもつ〝すめらみこと〟に多く見えるこの部分。
 現代社会ですら稀という以上の長寿。
 神と、人との中間的存在。……だから超感覚は〝人間〟という認識を返さなかったのだ。
 旧約聖書にも似た記述は見られる。箱船のノアは930歳。他にもエジプトなど驚異の長寿が記された伝説は多い。
 あり得ないから認めない。現代科学は言う。それは願望が生み出した想像の物語であると。
 しかし。
〈我らはあなた方の遙かなる末裔。今、時代はあなた方の足跡を失いてより1700年余〉
 理絵子はテレパシーで言い、突き上げた杖を取り下げた。1700年は志賀島(しかのしま)の金印……西暦239年を念頭に置いた。日本列島に海外と交流を持つ中央集権が存在したと確実視して良いからだ。
 それはすなわち、神代の終焉。
 
 神と呼ばれた一族……俗世を越えた超長寿命で超常の力を備えた一族の絶えた証し。
 
 縄文の人々の中に超常の力を備え超長寿命を生きた種族があり、追って混交することとなる一族が攻め立て、追い詰め、滅ぼしたのだ。有していた神の力……念動を、恐らく鉄をメインとしたであろう物理的な力と人の数が上回った。
 それと同じ事象が、この21世紀のたった今、再び現在進行形で起こっているのだ。神の領域……結界を、衛星画像とGPS、踏み荒らすことを躊躇しない暴力が引き裂いた。
 この時のシンクロ感を理絵子は忘れない。
 
(つづく)

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【お知らせ】あとがきめいたお知らせ&予告

作者()でございます。
別掲の通り「アルゴ・ムーンライト・プロジェクト」の第1部はこれで完結です。お付き合いくださった皆様、ありがとうございました。
 
本作は、「魔法少女レムリア」のお話としてココログに載せた3篇目となるわけですが、お読みいただいた方にはお判りの通り、作品中の時間進行としてはこれがすべての始まり、このシリーズはここから始まった、と書くことができます。

 

元々この話は、「ブログ」というシステムが発生する前から、パソコン用サイト「創作物語の館」(ニフティのサービス終了で現存せず)で、もごもごと書き溜めていたものです。「ココログ小説」の立ち上げに「魔女と魔法と魔術と蠱と」の製作時期が重なったため、看板娘にレムリアを起用、続編として「ブリリアント・ハート」を搭載(!)した、という経緯があります。
 
が。
 
この頃から、ティーンエイジャーと携帯電話・インターネットにかかわり深刻な事件が報道されるようになります。ネットを使った中傷行為やその現実展開、いわゆる「ネットいじめ」です。
 
レムリアみたいな娘がいじめ問題に直面したらどう対処するんだ?という命題は、作者として彼女の心根を掌握した時から常にあって、これが結果として「ブリリアント…」の直接の続編として具体化することになりました。「グッバイ・レッド・ブリック・ロード」という愛知常滑を舞台にしたお話です。
 
レムリアのココログ版は「魔女」と「ブリリアント」のセットにとどめるつもりでしたが、そうした背景を踏まえ、いじめ問題に対する当ブログの確固たる意思表示を兼ね、「グッバイ」も載せようかという気持ちになりました。しかしこの際問題になったのが、「魔女」と「ブリリアント」には出てこない現代魔女の空飛ぶ道具、光速(!)宇宙船アルゴ号の存在です。
 
何がどういじめ問題に絡んで常滑の空にアルゴ号下りてくるのかは見ていただくとして、やっぱり、「船なし」の話ばかり続けて突然の登場では違和感があるだろうという思いに至ったわけです。もちろん、他の話がそうであるように、シリーズと知らずそこから読んだ方でも乗って行けるように作ってはあるつもりですが、知った上で遭遇していただいた方が、意図は理解されやすいですし、逆に初めて船に遭遇された方には「なんぞこれ他にあるんか?」と、興味を持って頂ける…可能性が無いとも限りません。だったら、船のある話も別にあった方がいい、そしてそれは、原点にして最初に船が登場するこの話…「アルゴ・ムーンライト・プロジェクト」であろうと。
 
ええそう、本作は主旨からいえば「前座」。
 
「長いんじゃバカタレ」…かもしれません、なんぼでも突っ込んで下さい。でもただ多分、それは「グッバイ」の中で、彼女がどうしてそのような言動と考えに及んだか、理解を助けてくれるはずです。そして…もし、あなたの身近で気づいたのなら、あなた自身がレムリアのようにと願いを込めて。
 
魔法少女レムリアシリーズ、現時点で最長編。
「グッバイ・レッド・ブリック・ロード」 原稿用紙560枚相当。全240回。

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桜井優子失踪事件【58】

【骨3】
 
「……気配」
 登与が言った。
 〝意識〟が存在する。それは人であり人ではない。
 ハッキリしないが一つだけ明らかなのは念動力を扱う。
 思ったそばからバイクのエンジンが燃料切れのようにストンと落とされ、ヘッドライトが消される。
 自分さえ消えたかと思うような闇に包まれる。一人であれば超感覚を持っていても不安になったかも知れぬ。
 何故なら相手は持てる超常なる力の大きさをあからさまに誇示している。
 二人は互いの背中をピタリとくっつける。
「うぉっ!理絵ちゃん!」
「動かないで。……私たちの役目」
 理絵子はマスターの残響が消えぬうちにそう返した。
 気が付く。声が吸い込まれる。岩場であるから、徹底的にこだましこそすれ、消えるはずはない。しかし吸い込まれる。その吸い込む先は。
 消えた音と残った音。僅かな時間差から聴覚が出した答えは、上。
 見上げても何も見えない。しかし、今自分たちが立つこの位置は、上へ広がりを持つ大空間であると知る。
 その空間を用いて……誇示するそれが存在する。
 示された意図は捕食者である。それが、風吹き下ろすように上から降ってくる。
 猛禽が風と共に舞い降りるように。
 巨大な蜘蛛が脚を広げて降りてくるように。
「それだ!」
 登与が言った。
 では降りてくるこれは蜘蛛か。しかし、今回の冒険で蜘蛛は縄文の人たちの象徴。
 そして、この山においてキモチワルイ生き物は神様の意志の故に。
 対し自分たちはここまで来た、縄文の人たちの守護まで受けて。
 その縄文の人々を象徴する蜘蛛がこの様態……食ってやる……はあり得ないのではないか。
「高千穂さん!」
 二人は手を重ね、二人の手で錫杖を逆さに携え、あらん限りの力で天へ突き上げた。
 刺し殺す意を持って。
 対して。
 二人の超常の視覚が捕らえる。
 蜘蛛が四本脚とは聞いたことはない。
 
(つづく)

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