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2010年10月

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-61-

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 レムリアはその手を取って引き寄せる。
「よろしくお願いします」
 真由が一礼。なお、以下会話は基本的に英語、真由とレムリアの間は日本語である。
「こちらこそ。さぁ、中へどうぞ真由さん」
 セレネの声にレムリアが真由の手を引き、船のスロープを上がり、乗船する。
 アルゴ号。言うまでもなくギリシャ神話の同名の船の名による。神話のアルゴは黒海の奥へと進路を取ったが、こちらのアルゴは宇宙深淵へと航行可能である。
 つまり宇宙船、正確には恒星間宇宙船に属するが、そう書いて、21世紀初頭の技術では不可能と、即座に首を横に振る向きもあるだろう。
 しかしこの船にはそれを可能とする動力機構を搭載する。実現は22世紀と言われた究極の原動機“光子ロケット”である。
 詳細な説明は省くが、その最高速度はほぼ光速に匹敵する0.9975C(時速10億7730万キロ)。特殊相対性理論に覚えのある方は、ローレンツの式に代入し、その能力のほどをご確認頂きたい。
 従って太陽系を抜け遠く他の恒星へと向かうことも可能ではある。しかし、燃料が極めて特殊でグラム単位でしか用意できないことから、全地球を対象に瞬時に駆けつけるレスキュー船として用いている次第である。なお、大気圏内の最高速度は光速の1パーセント、秒速3000キロに抑制している。それでも地球の裏まで6秒で到達する。救助船の能力としてはまず充分であろう。
「映画のセットみたい」
 真由が見回して言う。船は両舷(左右の側面、船べり)に沿って通路が配されているが、その通路はハチの巣の室を思わせる6角形の断面で、壁も天井も白一色、確かにSF映画の宇宙船に近似しているかも知れぬ。
 背後に船長アルフォンススと副長セレネが乗り込み、昇降口がスライドして閉まる。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-60-

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「あなたが全てを抱え込んでいたのは、お父さんに迷惑を掛けたくないと思ったから。あなたが感じていたのは、あの人の耳あたりの良い言葉に隠された棘。そしてそもそも、学校で受けている、あなたに対する故無き拒絶。
 でも本当のあなたは、親思いで、まじめで、一生懸命で、そして私を助けるために、勇気を奮ってくれた、素敵な女の子。
 なのに、なぜ、見えない檻があなたを閉じこめる。あなたの気持ちを、あなたの心を、誰が受け止める。
 痛かった。そのまま帰るなんて出来なかった。だから、あなたを檻から盗み出すことに決めた。私は今夜、あなたと空を飛びたい。一緒に空を飛んで流れ星を眺めたい。
 あなたの中に、私の居場所を認めてくれるなら」
 レムリアは、自分の見知った真由という娘について、そう話した。
 それはレムリアなりの一つの結論である。要するに、真由には彼女を認めてくれる存在がなかった、自分の心の居場所がなかったのだ。
 『言っても無駄』……いじめの被害に遭っている子ども達が良く口にするこの言葉は、そうした状態を自己認識している表れである。理解者も、味方もいない、そういう意味だ。本来、親や教員は、子供にそんなことを言われた自分たちを恥じるべきであろう。
 真由の目に輝きが浮かび、真由は隠すようにそれを拭った。
「何やってもスッキリしなかった。何やってもひとりぼっちな気がした。でも、レムリアといるのは楽しいと思った」
「友達だもん」
 レムリアは言った。
「友……」
「楽しいと思ってもらわなくちゃ、友達である意味ないじゃん」
 レムリアは言った。そして。
「私で良ければ」
 真由に向かって手を伸ばす。
「夜遊びの続き」
 真由は笑みを見せ、手を伸ばし、レムリアの手を握り返した。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【70】

【結3】
 
 長寿の彼にとり、それは何年前のことなのであろうか。
 彼が杖で地面に穴開けて回り、少し遅れて当該地面が盛り上がり、ワインの栓のようにポンと音を立てて土砂利が少し飛び散り、すかさず火が付く。
 炎の壁である。濛々と煙も上がり、残された男達は挙動はおろか姿を見ることさえ不可能。
 正直、彼らが困ろうと関係ないのだが。
〈あなた方は虫たちと話してここへ来たのか?〉
「ええ」
 理絵子はダイダラボッチの意図を男達に言葉で説明し、虫たちが這って出来た手首のミミズ腫れを彼に見せた。
 その傷は然るべき関を通ってきたという何よりの証し。
〈それは龍神の許し。身体を動かして道を示した〉
「龍……」
 南関東ガス田は水溶性ガス田。すなわち、地下水はガスと密接。
 龍神が口から火を噴く……水と火との相反する関係の元は。その辺か。
 そして、
「私たちはここに入るに当たって地下水の流れを変えた可能性があります」
 理絵子は言った。龍の身体は水流そのもの。この錫杖はそもそも栓であり、栓抜いて流れを変えて自分たちはここへ来た。
 それを現代の科学知見に基づいて解釈するなら。
「ガスの圧力がここへ集中するようになったのでは?」
 元々製鉄用にガスを呼び込みやすくする設定だったはずである。栓を抜いたのはその設定に戻したことを恐らく意味する。
〈龍神が戻られる〉
 それはつまり、その龍が数千年の眠りから覚めて土の上に顔を出す。
〈逃げられよ。私が食い止める。あの鉄の馬は速いか。馬なら間に合う〉
 ダイダラボッチは言った。鉄の馬はバイクであろう。
「長居は無用だ」
 マスターが言った。
「でも」
 問題2点。その1、桜井優子の移動手段。
「マスター、優子をバイクに」
「お前が歩くってか?超能力あるから平気ですって?バカこけ。逃げ足ならあるよ」
 桜井優子はそう言ってニタッと笑うと、火の向こうを指さした。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-59-

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 さもなければ、空港で異国の迷子に声を掛けたりしない。
 あてがわれ・お仕着せに、無言で甘んじる娘ではない。
 だったら。
「そういうことなら……」
 レムリアは悩むように言い、腕組みして少しう~んと考え込んだ。
 そして。
「この船の乗組員ね」
「うん」
「中にもいるけどオッサンの集合体なわけよ。しかもこの船長みたいにゴツくてでかいのがゴロゴロと。泣くのよ、子どもが」
「へ?」
 真由は気の抜けたような顔。
 突然空から現れた船の使命は奇蹟を起こして人を救うこと。そのファンタジー性とコンセプトの高尚さは、形而上的ですらあると言っても良いかも知れない。
 しかしレムリアは、それが真由に敷居の高さ、とっつきにくさ、ひいては自分も同レベルの活動必須という義務感を与えていると判断し、このように冗談でぶちこわしたのだ。
 気楽さを失って欲しくないから。
 船の目的が何であれ、そもそもは友達の悪い子が、悪い友達が、夜遊びに誘い出したに過ぎないのだから……。
「レムリアも言うようになったな」
 かくして船長アルフォンススが苦笑した。
「張り合ってないとやってられませんので、船長殿。……てなわけで、そういう感じでなら、ちょっと手伝って貰えると嬉しいかも。大丈夫。さっきの迷子の男の子みたいに相手してくれればいいよ」
 レムリアは言うと、昇降スロープに向かい、アルフォンススとセレネの間に立った。後は真由の判断待ち。
 真由がレムリアを見る。レムリアは彼女の目にまだ多少の逡巡を見て取る。手伝いたいと言うには言ったがいざとなると……そんなところか。
「あなたを解き放ちたい」
 レムリアはその目に語る。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-58-

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「今回はレムリアが強引な真似をしてごめんなさい。もちろん、突然ですし、内容が内容ですから、そんなのいきなり困る、というお気持ちは判ります。ですから、わたくしたちは、このまま貴女の元を去るのがあるべき姿だとは思います。ただ、これだけは判ってやって下さいませんか。
 レムリアは、自分が用意できる、精一杯楽しい夜遊びとして、この船で流れ星を見る、という選択をしたのだと思います。彼女は……ご承知のような活動をしているので方々に友達がいますが、この船に招いたのは、なおかつこのプロジェクトを知ってもらった上で、というのは、あなたが初めてです」
「あ、東京は別格だよ」
 レムリアが付け足した。理由は略す。
 真由はゆっくりレムリアに目を戻す。
「これ……ってさ」
「ん?」
「やっぱ超秘密、なんだよね。レムリアの本名血筋と同じくらいに」
「うん、だから誰もいない今ここにってわけ。でも、あなたなら、いいよ」
 まるで友達を初めて自分の部屋に招くように、レムリアは言った。
 真由は再び船に目を向ける。船長アルフォンスス、副長セレネ。
 2人とも笑顔で真由を受け止める。
「救助隊」
「そうです」
「あのさ」
 真由はレムリアを見た。
「……どれだけ、役に立てるか判らないけど、手伝わせてくれない?気持ちは嬉しいから断りたくないけど、ただの物見遊山はやだ」
 レムリアはセレネを見た。
 真由もセレネに目を向ける。許認可権者がセレネであると判断したか。
 対してセレネは優しく見返すだけ。その意図……判断はあなたに任せます。レムリア。
 レムリアは頷いて真由を見る。真由は自らの決意を示すようにまばたきせずレムリアを見返す。
 真由ちゃん。あなたならそう言うだろうと思った。レムリアは声にせず言葉にした。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-57-

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「この船で?」
「そう。空飛んで。あなたと」
「飛ぶ……」
 そのフレーズを口にしながら船を見回す真由に、セレネが微笑みかける。
「わたくしたちも、あなたと是非見たいと思います。流星群」
「え……」
「ああ申し遅れました。わたくしたちは、国際救助ボランティア、アルゴ・ムーンライト・プロジェクト」
 セレネは言った。
「奇蹟の天使の手助けをするために、奇跡を待つより他にない窮地の人を救うために、わたくしたちは招聘され、組織されました。今宵、レムリアより貴女(あなた)という女性を是非、と連絡を受けました。わたくしたちは貴女を歓迎します」
「あの……」
 真由が言葉に詰まる。さもあろう。あまりにも、あまりにも、目の前の光景はファンタジックであり、現実離れしすぎている。
「ごめんねいきなり」
 レムリアは言った。
「この連中は……私も含めてだけど、信じてと言うにはちょっと、な能力の持ち主ばかりなわけね。で、そんなのをかき集めて、このどえらい速度で空飛ぶ船に乗せて、普通のレスキュー隊じゃ手に負えないような状況にある人を救い出す。それが主旨。ああでもあなたに手伝えというわけじゃないんだ。あなたはお客様。ただ、そういう船だから時々寄り道は許してね」
「でもそれじゃぁ……あのまさかこれ私を乗せるためにわざわざ」
「いいえ。本当は茶器だけ買って、これに乗ってそのまま定例活動の予定でした。だから、あなたを家出させるため、というわけじゃない。ついでに乗せてかっさらっちゃえ、そんな感じ」
「あら営利誘拐とは聞いてませんよ」
 セレネが笑った。そして真由を見。
「真由さん」
「……はい」
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-56-

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 出入り口部分に蛍光色の明かりが灯る。
 人影が二人。
 ひとりは白いローブに身を包んだ、長い髪の女性である。背が高く、一見して国籍不明であり、古代世界の謎の王女、とでも記した方が似合うようだ。
 他方、もうひとりは、黒檀の肌をした見上げるような大きな男。ダークグリーンの軍服とおぼしき制服を纏い、眼球部の白さが月明かりに際立つ。
「こちらが、今夜のお客様ね」
 天空で奏でられるハープ、そんなイメージのソフトな声が女性から発せられた。
「はい。友達の真由ちゃんです」
 レムリアは言った。
「わたくしたちの船へようこそ。わたくしは副長の“セレネ”。コールサインでごめんなさい」
 セレネと名乗ったその女性は胸に手を当て軽く会釈した。
「あ、ああ、はい。あの」
 真由はしどろもどろでどうにか自己紹介。
 男性の方が一歩進み出る。
「私がこの船を預かる船長、コールサイン“アルフォンスス”だ」
 ラジオの深夜放送向き、とでも書こうか、重心の低い、渋みのある声で男性アルフォンススが言い、真由の2倍はあろうかという大きな手のひらを差し出した。
「あ、……どうも」
 真由がためらいがちに手を差し出すと、覆うように包み込まれ、ハッとした表情。
 その、少し頬を染めた横顔に、
「あなたと、見たいものがあったから」
 レムリアは、言った。
「私……と?」
「しし座流星群。今夜これから何万という流れ星が飛び交うんだって。それをこれに乗って夜通し眺めようって算段」
 レムリアは言った。真由は目を剥き、
「流れ星が何万?」
「そう」
 レムリアは頷いた。電車の電光ニュースで流れる辺り、稀代の天体ショーとしてテレビ新聞で結構取り上げられてる、という印象だが、彼女の反応はそんなの初耳、という様子。……まぁ、あんな心理状態で流れ星、以前にテレビ新聞でもないであろうが。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-55-

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 真由が訝しげ。
「大丈夫。すぐ来る」
「すぐって……だってクルマじゃないと来られないよ?空でも飛んでくるとか?」
「だったりして」
「だったり!?だったりって……あ」
 それは一見すると天を疾駆する白銀の流星。
 だが天文学の言う流星でないことはすぐに明らかになった。
 その白銀の星は、二人の頭上まで来ると、二人が目的地であると言わんばかりに、ピタリと静止したからだ。
 西方から天を流れ来、頭上で止まった白銀の星。
「目を閉じて。風が吹く」
 レムリアが言ったそばからドッとばかりの気流が吹き下ろす。吹き下ろした気流は周囲に広がり、眠った街が突然の台風に見舞われたようにバタバタと鳴動する。
 思わず腕で顔を覆う。身体がよろけ、風圧で吹き飛ばされるか……そう感じた瞬間、風は収まった。
「大丈夫だよ」
 レムリアは未だ顔を隠している真由に言った。
 真由が腕を動かす。
 そして顔を上げ、そのまま固まったようになる。
 船。
 書き間違えているのではない。アスファルトの道路に座するその構造体は紛うかたなく船である。サイズとスタイルは中世大航海時代の帆船に近似するか。但し、3本のマストの帆の部分には、工業製品の趣を漂わせる四角四面の白い板を装備している。
「これ……」
 真由が驚愕の中から、ようやくそれだけ言葉を発した。
 レムリアは振り返り、言った。
「亜光速宇宙航行帆船アルゴ号」
 真由は目を見開いたまま絶句。“亜光速”など、日常で耳にする言葉ではないが、宇宙航行という言葉は理解可能であろう。
 その間に船の方で動きが生じる。船体側面、本来の船なら水中に没する部分が、一部切り取られたように開口し、奥へ引っ込み、次いで右方へとスライドする。
 出入り口である。程なく開口部分の下方から板がスルスルと伸びて来、アスファルト上へスロープを形成する。
 
(つづく)

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総武快速passing love ~船橋~

~船橋~
 
 扉開いた時が〝レース〟の始まり。
 ただ〝レーサー〟の多くはスーツと制服。
 駅の名は同じでも、JRと京成との間には距離があるだけに、座るために所定の電車に間に合うために、人々はその距離を駆け抜ける。
 だからなにがしかの原因でどちらかが遅れると、ただでさえその有様なのだから文字通り修羅場。
 雨の日に白い服着てハイヒール姿のあなたはその点でまだ慣れていなかったと見える。
 走る人波の中でつまずいたかひねったか、盛大にヘッドスライディング。
 全部まくれ上がって全部見えた。
 そのあなたに蹴躓いたのは、〝車間距離〟を取っていなかった僕のせいか、〝よそ見〟をしていた僕のせいか。
 僕はあなたの身体の上に倒れ込んだ。
「お嫁に行けな~い!」
 起き上がり謝る僕に、果たしてあなたはそう叫んでわんわん泣き出した。
 ひっくり返って全部見られて、全部見たその男が覆い被さって。
 確かにあなたは驚いただろうが。
 僕の方もまた驚いた。
 人波に取り残されたようにぺたりと座り込む僕とあなた。
 人の川の中州のように。そこだけ流れが避けて通る。都会へ向かう大河の一部。人が流れる川の中州。
 堰切れたようにあなたは叫ぶ。これからお見合いに行くというのに服は汚れて或いは破れて。おまけにケガして、あまつさえはのしかかられて、白い服には靴の跡。相手は厳しい親なのに。がさつな自分を隠してきたのに。
 人生責任取ってくれ。
 そして僕は足首くじいたあなたを背負う。
 月日が過ぎ、そんな事を思い出しながら、僕は改札を駆け抜ける。上司にペコペコ頭を下げて、定時ジャストに会社をダッシュ。
 この寒空に社宅のカギを落とすなんて。いつになったら直るんだい?
 がさつとは言わない、僕のドジ姫。
 
←津田沼市川→

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-54-

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「まぁいいや。イヤ実は夜闇に乗じて悪さをする手合いかと思ってね。いいよ、嬢ちゃんの言葉を信じよう」
「恐れ入ります」
 クルマをスタートさせる。この空港島地区は、鉄路以外では船に乗るか、有料道路を経由しないと出入りできない。要するに入るにも出るにもカネが必要。
 ETCシステムにモノを言わせ、ものの3分で“本土”に帰還する。タクシーは深夜割り増しの時間帯であるが、セラモールは料金が気になる程の距離ではない。
 市街を抜け、北に向かい、大通りを右に外れ、細い坂道をくねるように昇って行くと、突然、建物群が立ち並ぶ一角。
 但し人の気配はなく、薄暗く街灯が灯り、それら建物がひっそりと並んでいるだけ。
 眠った街という表現がピッタリ。
「あの公園みたいなところでいいです」

C87lcouqaesz6d

(あの公園みたいなところ)
    
 レムリアは言った。実際に必要なのは“道幅”である。
「そうかい?」
 運転手氏がクルマを止める。車代を払うが、真由の父の紙幣から、というのも抵抗があり、ポケットマネー。多少は日本円を持ち合わせている。
 タクシーが去った。
 エンジン音が聞こえなくなると、いよいよ“眠った”印象が強まる。左手の公園に並ぶ遊具はぴたりと静止し、鋼の持つ無機質の本質をあらわにし、正面から奥の方向、街路両脇に立ち並ぶ真っ暗な店舗群は、魂を抜かれたよう。
 夜11時59分。
 西の空には、首を傾げたレモン型の月。
「んで?」
 背後からの真由の声にレムリアはウェストポーチをゴソゴソする。
 取り出したのは衛星携帯電話。一見すると軍用無線機を思わせる無骨な外観。アンテナを伸ばし、ボタンを押して発呼。
「レムリアです。よろしくお願いします。お客様がいます。……はい」
 電話を切り、ポーチに戻す。
「待ち合わせじゃなくて今から呼ぶの?」
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-53-

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「……なんかミステリアス。でもレムリアって、あなたっぽい響きというか」
「そう?」
 レムリアは苦笑した。あの麻子と同じ感想とは何の因果か。
「レムリア」
「はい」
「……でもなぁ。顔立ちがその辺にいそうだしなぁ。姫子さん」
「は~い?」
「姫ちゃん」
「はいは~い」
「かわいいなぁ。でもやっぱりレムリア、かな。呼び捨てなのに呼び捨てっぽくない。“さん”はよそよそしいし、“ちゃん”はべたつきすぎ」
「了解。私をレムリアと呼ぶ人はこの国で二人目です」
 レムリアは真っ直ぐに真由の目を見返した。
「え……?」
「いけないっていう意味じゃないんだ。少し嬉しい。本名は地位を象徴する以上、名乗る上で体裁を求められる。姫子は所詮、世を忍ぶ仮の姿」
 ……レムリアが時代劇好きな自分に気付くのはもう少し後の話である。
「あなたは何者?」
 真由が問うてくる。看護婦、手品使い、本物の王女、そこまではバラした。
 レムリアは時計を見る。
 夜11時30分。
「いきなりだけど、“セラモール”って近い?」
「近いは近いよ。え?今からぁ?」 
 


 
 セラモールは、常滑市街中心よりやや北側、田んぼに囲まれた高台に位置する陶器専門のショッピングモールである。概略五角形に道が配され、中央を貫く通りを中心に店が並んでいる。観光バスが駐車できるスペースが広くあり、主たる客層はそういう方面。要するに店舗しかないエリアであって、客のいない深夜帯は無人と言って良い。
「今からセラモールですか?」
 果たしてタクシー運転手の中年男性は、訝しげに後席二人を振り返った。
「はぁ。友人と待ち合わせで。若い私たちとしては親の目を盗んでの逢瀬を望むわけです」
 レムリアの時代がかった言い回しに、白髪混じりの運転手氏はガハハと豪快に笑った。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【69】

【結2】
 
 伸び上がる炎が照らす周囲には燃えるバイクと、倒れた男2名。
 その内の1名がもぞもぞしている。Kがいつの間にか失神から回復しており、姿勢を俯せに変え、動けはしないものの、目をギラギラさせて周囲を見ている。金的を受けてよりの回復ぶりはどうであろう。過剰なまでの屈辱感と憎悪がそれを可能にしたというのが超感覚の答え。身体は動けないが、その範囲内で何か反撃できないかと考え、状況を分析している。それは首だけで攻撃をしてきたという蘇我入鹿や平将門を思わせる。
 ただ、この場のKに有効な反撃手段があるとは思えないが。
 声が聞こえて視線を向ける。一旦逃げたバイクの男達3名が戻ってくる。手に手に石やら木ぎれ等の獲物を持ち、鼓舞するためか悪態を叫びながら再度接近を試みる。
 すかさず彼が動いた。息吹いて炎を伸ばし、接近を阻む。
 男のひとりが髪の毛に火が付いてのたうち回る。盛大に炎を上げる辺り何か油性の物を付けているのであろう。
「天然ガス!」
 登与が言った。
「ああ、南関東ガス田」
 理絵子は一度だけテストで覚えたそのフレーズを記憶の底からどうにか掘り出した。
 それは神奈川県から千葉県南部にかけて分布するという。その位置は日本武尊の通った道に沿う。
 全部、繋がった気がした。
 製鉄に用いる熱源確保。従来の見方は山の木を切って使い果たすまで。根拠はある程度低温でも鉄以外が燃えるか溶ければ鉄だけ精錬は可能であり、だから弥生時代の技術でも作れたであろう。
 対し、もしガスに気付けば継続的に使い続けられる。たたら製鉄のように毎度炉を破壊して取り出す要はない。
 何より、高温を生かして鋼鉄が作れる。
 彼のような偉丈夫の肺活量で空気の量をコントロール。
 その熱量は戦略物資であり最大秘密である。また一方ガス中毒の危険がある……禁足地としたのはダイダラボッチの保護以上にそれらの対策とした方が自然か。まぁ十重二十重の理由があって別に構うまい。
「ガスのこと気体って言うでしょ。火の元であり人を殺すことも出来る目に見えぬもの……オカルトで言う〝気〟の概念具象化そのものじゃん。火の気」
「で、修験者の念動力を頼って奪いに来た」
 全部辻褄は合う。
〈洞窟の民はこの〝火の気〟が流れ込んで一気に死んだ〉
 ダイダラボッチが述懐するように言った。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-52-

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 真由が写真パネルを見ながら指さし、レムリアを振り返る。
 それは壇上でレーザポインタを使い、大スクリーンの写真を説明している少女の写真である。ふわっと広がった白いワンピース姿であるが、背格好と顔立ちはレムリアにそっくりである。
“子ども達に特別講義のメディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下”
 写真の説明文を読み、真由の目が見開かれ、口元がわななき始める。
「お前……わぁお前なんて言っちゃいけない……」
「だから、偽名使ってるのあたし」
 レムリアは頭をぽりぽり掻いた。こんな形でバレるとは。
 真由が指をパチンと鳴らす。
「思い出した。そういえば聴講者募集って知らせが学校に……」
「そうそれ」
 レムリアはあっさり言った。
 欧州の小国アルフェラッツ王国。代々女系だが、現女王の一人娘が彼女、メディア・ボレアリス・アルフェラッツである。
 そういう血筋、日本語ペラペラ、ボランティアの医師団に加わって世界を飛び回る少女看護婦……いかにも誰もが興味を持ちそうな存在を“使える”と踏んだか否か。環境面・経済面で極限状態を見てきた彼女に対し、“世界の現実を日本の子ども達に是非”みたいな意図でオファーが来たのである。
「で、ちょっとお礼を言いたい方がいてね。帰りがてら常滑焼きでも探そう、それで来ましたですのよ」
 そう言うレムリアを真由は上から下までまじまじ見つめた。
「本物、なんだよなぁ」
「でも気にしないでね。これまで通りお前と呼んで」
 言ってちょっと吹きそうになる。まるで演歌の歌詞。
「え?それはさすがに……どうしよう」
「んじゃ東京からのコールサインはレムリア。東京と行動する時の偽名は姫子」
「レムリアって……幻の大陸?」
「そう、幻の存在ということで」
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-51-

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 そして、夜遊びという文字通り禁じられた遊びは、真由自身に対しても、涙の理由……それでも父親は麻子が大切なんだという内向きの心理……を、一時的であれ解放する作用を持つであろう。なお当然、レムリアは単なる夜遊びを彼女に提案したわけではない。“自信回復”のための一つの小旅行とするつもりでいる。自信回復の手段は、何も周囲の心理改革を図るだけが唯一ではないからだ。
「でもどこへ?ヘタにうろつくと補導されるし、近いと見つかるぜ」
 真由は訊いた。
 レムリアは小悪魔の笑みを浮かべて。
「この空港施設にいる分には疑われないでしょう。お父様だってああ二人で遊んでるな、位にしか思わない」
「それだけ?」
 レムリアは首を横に振って。
「迎えに来てもらいます」
「え?……ああ、東京の人呼びつけるの?」
「それは秘密」
 レムリアは舌をぺろっと出して立ち上がった。
「夜遊び、行こ」
「うはは、いい響きだな、夜遊び。禁断のオトナの世界、ってか?」
「あはは」
 二人は遊んだ。
 空港ビルのショッピングモールで買い物をし、ケーキを食べ。
 屋外の見学デッキで夜空に舞い上がり舞い降りる飛行機を眺め。
 そして、ビルの奥にある展示スペースに向かうと、秋口まで開かれていた、環境だの自然だのテーマとした国際博覧会の回顧展。

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 写真パネルがぐるりと並び、中央に設置された“受付カウンター”の中では、博覧会の目玉の一つ、女性アンドロイド型ロボットが、コンシェルジュ風に丁寧に一礼。
「結局これ行かなかったもんな」
 パネル写真を見ながら真由がぽつんと呟いた。
 見て歩く。そこでレムリアはある可能性に気が付いた。が、まぁその時はその時だ。
 程なく可能性は現実になった。
「え?あれ、これってお前……」
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-50-

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「その……姿消す、か?」
 レムリアは陰謀を思いついたようにニンマリ頷いた。
 状況を整理する。いじめ問題解決の糸口は、まず加害者側に自分たちの行為のおぞましさを理解させ、全て中止させることが一つ。その後もまだあるが、今は被害者側に注力しているので略す。
 一方被害者側には当座の隠れ家をまず確保し安心させる。その上で、当人の自信を回復させ、傷ついた尊厳の修復を図る。この作業により、自分の中で封じ込めていた感情を発露させる。これは同時に、隠蔽されていた事態を、被害者が自ら白日の下にさらけ出すことになる。いじめる側が増長する理由のひとつに、暴力を背景圧力とした事態の隠蔽があるので、その連鎖を止めるのだ。当然、それは被害者側には相当な勇気を要求する。勇気は尊厳を保ち充分な自信を有するココロのみが発揮できる。
 今現在、レムリアが試みているのは尊厳の回復である。これは根本的には“名ばかりの保護者”という実情を修復することである。すなわち、このギスギスした家族関係において、真由が父親からも、当然麻子からも、本来与えられるべき“家族としての愛情や思慮”を受けていないと判ってきた。その原因は二人とも目線のベクトルが真由に向いていない、向いていても表面だけ、という事が挙げられる。
 そこで父親は陶芸から離れさせた。その結果、真由に多少は目を向ける余裕が出てきたようではある。
 しかし麻子はそうではない。
 恐らく、麻子と真由は、一度互いの感情を全てぶつけ合う必要があるのであろう。本来求め合った仲ではないのだから。イヤでも一つ屋根の下で暮らすのであれば、相互理解は必須である。
 そうした状況において、今レムリアが提案したフェードアウト、すなわち夜遊びプチ家出は、当然の事ながら、オトナ二人の注目を、真由にのみ向けさせることになる。父親は陶芸どころではないし、麻子は麻子で真由が出て行った理由を考えざるを得ない。自分に原因の一端を帰すであろうし、最終的には真由の心理を“なぜ”という形で問う必要が、否応なしに出てくる。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-49-

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 であれば、同年代である真由とて大した差はないだろう。恐らく彼女にとり、麻子は根本的に親代わりにはなれないのだ。だから既成事実を作られても反発を持続できる、むしろ強化できるのである。そして彼女は、麻子の底浅さゆえの物言いが聞くに堪えない。ゆえに我慢を重ねたり、或いは、先ほど帰宅時のように、そもそも発言させないことによって、どうにか自分の怒りの導火線に火を点けないように“しのいで”来たに相違ない。
 それが、今この場になって、限界点を越してしまったようだ。
 理由は簡単、“真由陣営”である自分に対して、麻子が攻撃を企てた、と感じたからである。
 衆目の中沈黙すること少し。
「ひどい……」
 麻子は涙を浮かべて鼻をすすった。
 同情の目線が集まったところでいきなり立ち上がり、服で引っかけでもしたか、ガッターンと派手な音を立ててイスを倒し、店から走り出す。芝居がかっている気がせぬでもないが、こちらはこちらで、真由に徹底的に否定され続けてきた、という蓄積があるのだろう。
 いびつな“一つ屋根の下”は、元の木阿弥、どころか、負に転じてバラバラ。
 楔の力で?
「あ、麻……」
 父親は立ち上がり追いかけようとし、札入れから1万円札をテーブルに放り出すと、倒れたイスを起こし、走り出した。
 風圧で札が動く。その意図は“君たち払っておいてくれ”ということだろう。だが真由はその札を手にしようとしない。
 彼女の瞳にも涙。父親の座っていた、イスの方を見たまま。
「お騒がせしました」
 レムリアは立ち上がって周囲に頭を下げる。
 しぼんでいたお喋りが順次再開する。レムリアは真由の背後に回り、そっと近づき、彼女の肩の上に顎をちょんと載せた。
「今夜」
 囁く。
「え?」
「このままフェードアウトしようか」
 真由は弾けるような動きで首をひねりレムリアを見た。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-48-

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 果たして父親はうーんと唸って。
「地動説といえば、ガリレオはそれでも邪道を貫いたなぁ」
「あの……ちょっといい?」
 口を挟んだのは麻子。尖った口調。
 目が怒っている。先ほどまでレムリアにニコニコしていたのは何?
「はい?」
 レムリアは用向きは当然自分だろうと向き直った。
「さっきから聞いてると、邪道を貫けってひどくない?」
「そんなこと言ってねぇだろ」
 真由がそっぽ向いたまま、ポソッと言った。
「あなたには言ってません真由さん」
 麻子が真由を見る。対し真由は受けて立つ、かの如く、じろりと目線を返す。
「偉そうに。お前何も判ってないじゃないか。頑張れ頑張れド突き回して、親父がぶっ倒れたの自分には無関係とか思ってんじゃねぇだろな!」
 声を荒げ、まくし立てる真由に、周辺テーブルの花咲くお喋りがしぼみ、凍り付いたように静まりかえり、目線が注がれる。
「おい真由……」
 父親が困惑。
 しまった、とレムリアは思った。麻子が表面だけで物事を断じる浅薄な思考回路の持ち主であることは解説するまでもあるまい。ちなみにこういう思考回路は苦労せず育った人間に多い。深く見ずとも事足りたため、そういう回路に脳神経が組まれてしまったのである。
 だから、子どものことを考えずにその親を奪おうなどと思ったり出来るのだろう。
 対し、子どもというのは、自分に直接関わる相手に対して、直感で本質を見抜く能力を持つ。超能力的ですらある。それほどまでに敏感な理由は自分の命に関わるからである。生物としての本能の発露と言って良い。レムリア自身、14歳の身である自分にも、まだそれがちゃんと残っていることが、東京の彼とその母親に接してよく判った。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-47-

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「……こんなキャラだったっけ、って思ってるとこ」
 同様に驚いているのだろう、円い目で真由が応じる。
「看護婦さん」
 急に父親がレムリアを呼んだ。
「はい?はいはい」
「あなた……外国の方だそうだけど、日本のこういう料理って本場と比べてどうだい?」
 日本人が異邦人と話す時、まず食い物の話をするのはそれこそデファクトスタンダードなのか。
「あんまりそういう見方していませんね。これが標準でこれが邪道。自然科学ならともかく、人の感性が関わるもの、人そのものに、正解を与える方程式はないはず、と思っていますから。他と比べて、でなく、単に“自分にとってこのお店のエビフライはおいしい”、で、いいと思いますよ。このお店は多分、この長ぶっといエビさんを、しつこくなく揚げるっていうのが持ち味なのでしょう。私はそれに対して美味しいと言うだけ」
「なるほど」
 父親は爪楊枝をくわえると、腕組みして頷いた。
「感性の関わるものに王道なし、か。……確かにそれならいいってもんでもないよなぁ」
 レムリアは気付いた。
 父親は作品の構想において、思考的にさんざ彷徨った挙げ句、一つの光明として“王道”に乗ってみてはどうかと考えていたのである。
 王道……それは常滑焼きの場合、老師の言った“飾り気のない実用的な”容器・茶器となろうか。
 でも多分、じゃぁそれで行ってみよう、なんてのは単なる惰性であって、意識した、魂の入った行動ではない。当然、作品に魂が宿るとは思えない。
 だったら。
「邪道で王道で……考えていたら肩が凝るし怖くて何も出来ません。天動説地動説のように、立場がひっくり返ることもあります」
 レムリアは言ってみた。学術肌の父親ならこの話題食いついてくれるだろう。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-46-

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 セリフの内容の割に表情は穏和である。この場の状態を“お喋りが弾んでいる”といった感じで、安堵を持って捉えているようである。
「だってこの子ボランティア団体で世界中飛び回ってるもん」
 真由が応じた。
「へぇ。その歳で……真由とあまり……来た来た」
「お待たせしました」
 父親が言葉をちぎり、相好を崩す。
 見るからに美味そうな、湯気立つエビフライが、次々運ばれてきた。
 

Hi3800161
(本物)
 さんざ待たされて食べたエビフライは、身が大きくてプリプリしている上、油の質も良いのだろう、かなりカロリーは高いはずなのに、ぺろりと平らげてしまった。
「名古屋名物エビフライ、というのは、テレビでタレントが言いふらした結果の誤った認識だ」
 父親が言いながらエビフライの最後の一口をバリっ。なお、こういう席にはアルコールがつきものだが、父親の身体を考慮したレムリアの勧めもあり、控えている。
「しかし、ここまで傑出した味覚的クオリティを有するなら、名物と称しても問題はあるまい。宇都宮や浜松の餃子、各地のラーメンと比しても、ご当地ものと謳うに値する。オリジナリティがないといえばないが、逆に言えばシンプルでベーシックであり、であるがゆえにデファクトスタンダードとなるポテンシャルは充分にある」
 レムリアは父親の論客ぶりに吹き出してしまった。
 なんか、どうしようもなく下らないことを、わざわざ難しい語彙を使って“格調高く”語ってはいまいか。
 そして、これがこの父親の“素のまま”なのだとレムリアは理解した。自分たちのお喋りによって精神的にほぐれたのか、追いつめられて影を潜めていたものが久々に顔を出した。そんなところだろう。
「実はお父さん面白い?」
 レムリアは真由に尋ねた。
 
(つづく)


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桜井優子失踪事件【68】

【結1】
 
「残りは!」
 桜井優子はKの手首を踏みつけ、ナイフをもぎとり、身構えた。
 3つめの動きは光芒と共に現れた。
 光芒はヘッドライトである。バイクでギアチェンジ繰り返しながら加速してくる残りの3名。
 そのまま理絵子達に突撃しようというのである。
 これには男達が反応した。原子炉のような力感に満ちた肉体が少女達の前に並ぶ。マスターと、佐原龍太郎と、ダイダラボッチ。
 メスを守るというオスの本能が漲る。獅子であり、狼であり、海馬だ。
 彼らの筋肉が隆と音を立て、彼らの身からは湯気が立つよう。
〈ここはてまえにお任せを。これをお借りします〉
 ダイダラボッチが言い、理絵子の錫杖を手にした。
 そして、突如の咆哮と共に高々と持ち上げて。
 打ち下ろす、否。
 そのまま、地面へと突き立てる。
 〝鈴鳴る杖持ちさまよい歩く姿は、鈴生りの鉄を求めて歩く儀式〟
 対して。
 彼、は杖を土の中へと深々と突き刺した。
 理絵子は彼の意志を受け取る。
「みんな姿勢を低く、寝そべって!」
 彼、が杖を引き抜く。
 その瞬間。
 ボウン。擬音にすればそうなるか、大きな太鼓が打ち鳴らされたような音がし、身体ごと空気揺さぶられ、伏した視界が赤く染まった。
 地面から立ち上がる火柱。まるで理科の実験に使うガスバーナーを埋め込んであるかのように。
 3台のバイクは驚いたか爆風か、ひっくり返ったようだ。その結果どうなったかは炎の明るさによって確認できない。ただ、各車のエンジンが停止し、突撃が阻止されたことだけは判った。
 次いで、ダイダラボッチの彼は、身体のけぞらせて空気を吸った。
 巨体の有する巨大な肺活量が空気を吹き出す。
 炎は煽られて増長し地面を走る。その有様火炎放射器の如し。
 バイクの3人は逃げ出すより他に手はなし。悪態を付きながら炎と距離を取る。
 彼は空気を吐くのを止めたが炎は消えない。地面から吹き上がり燃え続けている。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-45-

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「付き合う相手に年上が多いもので。すっかり耳年増になりました」
「あら年上の彼氏がいるの?」
 そーじゃねーだろ。
 だが、“間”は持つのでネタには応じる。エビフライはまだですか?
「従兄のに~ちゃんみたいな人はいますけどね。彼氏かってぇと……あはは」
 言うまでもなく東京の知り合いである。ちなみにセリフは誇張でも何でもなく、素直な気持ち。
「でも、“魂の味方”なんでしょ」
 輝く瞳で覗き込んでくる。
 麻子はミステリー系のドラマの見過ぎではないかとレムリアはふと思った。“探偵じみた才能を発揮するOL・雑誌記者”ってのが良くあるキャラクターとして存在するが、この誘導尋問に近い展開はそれを彷彿させる。
 でも、悪いけど、セリフ回しほど軽薄じゃないんだ。
「ええそうです。彼は命がけで私を守ってくれたことすらあります。凍死しかけたり、腕を折ったり。あまつさえは、私のこの身体には、ひところ彼の血が輸血されて流れていました。それでも“友達だろ?”であっさり済ます男です」
 軽みを示す麻子の顔に、レムリアはまばたきひとつせずそう返した。なお、彼女のセリフの「それでも」以下は演出のために付け加えたウソである。
「すごいねぇ。まるでマンガか小説みたい」
 果たして麻子から返ってきたセリフはこうであった。似たことを真由にも喋ったわけだが、彼女と、この反応の違いは何だ。
 心を、気持ちを軽んじられてる。レムリアが抱いた率直な感想がそれ。
 初対面の自分がそうなのだ。毎日顔を合わせる真由はさぞや。
「君は、かなり修羅場をくぐってきたというか、過酷な経験をしてきたようだね」
 (半ば呆れて)二の句が継げなくなったレムリアのあとを、父親が引き継いだ。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-44-

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「どうぞ」
 のれん越しに、店のおばさんに誘われ、席に陣取る。
 4人がけのテーブルに、父と麻子が隣同士。レムリアと真由が隣同士で、父の正面が真由。麻子の正面がレムリア。
 メニューを開く。隣近所のテーブルのエビを見るや、かなりのサイズ。
 真由は2匹食べると言うが。
「3匹をふたりで分けません?」
レムリアは麻子に提案した。
「え?ええ、いいけど……」
 突然声を掛けられ、麻子が目を円くする。ここでレムリアが彼女に話を振った理由は簡単。今ならこの“浮いた”女に、不自然でなく話しかけられるからだ。
 現状、この二人に性急な相互理解を迫っても磁石の反発。さりとてどちらか孤立させれば、暴走か爆発のタネ。
 誰が正しいとか悪いとか、糾弾して解決する問題ではない。
 注文完了。
「不思議な子ね。あなた」
 声を掛けられて安堵したか、そして気を良くしたか、目を輝かせて麻子が尋ねた。
「よく言われます。でも普通と言われるよりは印象強い方がいいだろうと自分を慰めてます」
 この手のネタには軽く冗談を交ぜ、深刻に感じさせないのがレムリアの流儀。
 大体、めたくそにけなされるか、ベタベタに褒められるか、どっちかだからだ。
 どっちに話が振れても、回答に困る。
「不思議、本当に不思議。外国の人にはとても見えない」
「恐れ入ります。おかげさまで、ハナから寄ってこないか、深く理解して下さる魂の味方か、私の周囲はそのどっちかです」
 レムリアはテーブル下で真由の手を握った。
 真由は麻子から視線を外したまま、しかし手は握って返した。雰囲気作りというレムリアの意図を解しているのであろう。
 麻子は感心、或いは意外、といったニュアンスの笑みが浮かべた。
「魂の味方!……カッコイイというか、失礼だけどその年齢で飛び出すセリフじゃないみたい」
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-43-

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 そこにはミサンガ。
 レムリアは真由の手首に結びつける。……レムリアの取っている行動や動作が、いちいち“女の子っぽい”ことに、注意すべきであるかも知れない。
「おそろい」
 レムリアは自分の手首に巻いたミサンガを彼女に見せた。
「いつの間……もういいよ。訊かねー」
 真由は怒ったように膨れて、ぷいっと顔を背けた。もちろんふざけて、である。
 男の子がレムリアを見て笑う。ミニカーを自分の腕に走らせる。
「……どこに行っても、いつ行っても、傷ついているのは子供達」
 レムリアは、楽しそうな男の子を見ながら言った。
「え?」
「戦乱、疫病、天変地異……泣いているのは、真っ先に犠牲になるのは、子供達。大人は子供を守ると言っても、極限状態に追い込まれれば、大事なのは自分の命。残されて怯えているのはいつも子供。だからわたしは、子供達にまず笑ってほしくて、こんなことを始めた」
「European free will medical care mission」
 敢えて英語で言ったようである。真由の言にレムリアは頷いた。
 何故英語で言ったか。……真由がレムリアのトップシークレットと判断し、麻子に知られたくないと思ったから。
 何故麻子に知られたくないのか。レムリアを仲間と捉えたが故に、麻子から離そうとした無意識の情動。
 麻子が耳を欹てているのを感じる。英語で言ったことに秘密を感じたのだろう。現状、レムリアの存在は、大黒柱が歪んでいびつに傾いた、“一つ屋根の下”に打ち込まれた楔と言える。そして、それぞれがそれぞれの思惑で、楔の位置や深さをコントロールしようとしている。
 ただ、その楔が極めて自立的に、しかも予想外に動くことに、まだ誰も気付いていない。
 順番が回ってきた。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-42-

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 閉じこめていた思いを、ほんの少し口にしてみた、真由の気持ちに。
 そして、父の無理解の壁のゆえに、再び少し後ろ向きにベクトルを返したのも判っている。……でもそれは真由がうつむく必要のない、男性特有の鈍感さのゆえ。
 だから、レムリアは真由の顔は見ず、ただそっと手を握る。
 真由は別段振り払おうともしない。ふたり手をつないで父親の後に付き、エスカレータを上がる。
 レストランフロア。
Dscn06651
 その賑やかしさと人の密度は思わず身がのけぞるほど。心持ち温度も高いようだ。加えて、フロアの設計モチーフは狭い路地の両側に店が建ち並ぶ……そんな昭和な町並み。時間的にどこの店にも行列が出来ている上、通路の狭さも手伝って、混雑感は相当なもの。行列を避けるためか、右往左往している人を見ると、飛ぶ前に食事したい人がちゃんと食べられるのか、余計な心配もしたくなる(店によっては搭乗客優先コーナーがある)。
 人混みをかき分け、エビフライで知られるその店へ。麻子は先頭から3番目の位置にいた。
 ふたりは、どちらからともなく握りあった手を離す。
 途端に空気が張りつめる。会話という雰囲気ではない。
 ぎこちない時間を避けるため、のっけから手品。となりが男の子を連れた家族連れで、いかにも待ち疲れた表情、ということもある。こんな場面にと東京に頼んで買いそろえてもらったミニカーを出したり消したり。
 1台あげる。男の子は大喜び。両親はペコペコ。
「不思議だ」
 真由はレムリアの手を取って見つめた。つないでいた手のひらに、数秒後にはパトカーが現れたのだ。“特殊能力”と言われてはいるが、実際の所どうなの?とは誰もが思うもの。
「本当に魔法だったり」
「企業秘密」
 レムリアは舌を出し、“手のひらを返し”、そして元に戻した。
 
(つづく)


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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-41-

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「男の子の名前はジョージ」
 レムリアは伝える。真由が確認を取り、その通りと判明する。
 頃合い。
「(最後の大手品。ワン・ツー・スリー)」
 レムリアが指をパチンと鳴らし、指差すように、人だかりに向け手を伸ばす。すると、人だかりは何か出すとでも思ったか、さっと左右に別れた。
 その向こう、眼鏡を掛け、涙でぐしゃぐしゃの欧州系の女性。
「ママ!」
「(ずいぶん探したのよ!)」
 泣きながら抱き合う親子。その姿に拍手がわき起こり、二人は群衆に会釈。問いかける人には、男の子が迷子だったので……と説明。
「お前すげーな」
 真由が言い、次いで母親が男の子を抱き上げ、二人の元へ。
「(二人に遊んでもらったと聞きました。親切にどうも)」
「(いいえ、お気を付けて良い旅を。はいボクどうぞ)」
 レムリアは消したビスケットを今度は袋詰めにして出現させ、男の子に持たせた。
「サンキュー!」
 男の子が手を振り、母親と去って行く。
 余興終わり。二人は男の子に手を振って見送った。その様子に、集まっていた人々も自然解散。
 残った男性が一名。
 真由の父親。
 人だかりの中心が自分の娘達と知ったか、あっけにとられたように少女二人を見つめる。
「……その、そろそろだが」
「あ、はい、行きます」
 父親の後について、エスカレータで上のフロアへ。
「何が行われ……」
「ああこの子すごいよ。魔法みたいな手品をする」
 真由が弾む声で説明する。
「……英語が初めて役に立った。今までろくな事なかったのに」
 真由は言葉尻にそう付け足した。
「そうか」
 しかし父親はこう言っただけ。……男性は一般に女性の“それとなく・思わせぶり”な系統の発言に対して鈍感である。“これなら判るだろう”と女性が思ったことでも、男性側はカケラも理解していないことが多い。ただもちろん、レムリアは真由のわずかな心理の変化にしっかり気付いている。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-40-

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 真由は男の子の涙をハンカチでぬぐいながら言った。確かに、言葉も通じぬ異境の地でたらい回しにされるほど、心細いことはあるまい。
 何とかして男の子を笑わせようとする真由。その姿にレムリアは気付く。この彼女には今、人に優しくなれる余裕が出てきている。
 そして、それが恐らく本来の彼女の姿であり、そうやって逆に優しいから、相手の気持ちを慮るから、そういうものを持ち合わせない相手がつけ込んで来るのだ。
 そういうことなら。
 レムリアは真由の手をぐいっと引っ張った。
「(握って)」
「へ?」
 何を唐突に、そんな顔をしながらも、真由は引かれた自らの左手で、拳を作った。
「(開いて)」
「はぁ。お?」
 開いた手のひらにあめ玉。
「これってさっきの生徒手帳と同じ……」
「sorcery(魔法)」
 レムリアはあえてそう言った。
 このフレーズには男の子の方が敏感に反応した。しゃくり上げながらも目を見開く。真由は出てきたあめ玉を男の子にあげた。
 男の子があめを口に放り込んだところで、童謡の“ふしぎなポケット”のメロディに乗せ、3人の衣服各所のポケットをポンと叩いては、歌詞の通りにビスケットを取り出す。歌詞は真由が即興で英語化した。
 出てきたビスケットを男の子の手のひらに積み上げる。碧眼が輝きを帯びて夏空の色となり、感嘆の言葉が次々に飛び出す。
 これは人目を引いた。この空港ではイベントコーナーで様々な催しを行うが、行き交う人々はその一種と思ったらしい。
 あっという間に人だかり。
「お母様がいらっしゃる」
「え?」
 レムリアは出したビスケットを、今度は一枚ずつ消しながら言った。衆目から上がる感嘆の声。
 その衆目を真由が見回し、金髪の女性を見つけ出したと判る。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-39-

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 両手を挙げてしまうほど驚いた、と言うことか。
「それはお父様が、あなたのことを、“親の言うことを聞くべき子供”じゃなく、大事なひとりの家族、人間として再認識したってことでしょ。お気付きになったんだよ。振り回されたあなたが深く傷ついていることに。ようやく、ではあるけどね」
「……なるほど」
「で、どうにかしなきゃ、諸悪ことの始めは自分の勝手わがままだから、ケリを付けなきゃって思ったんじゃないのかな」
「でも、それって私にあいつを受け入れろってことだろ?」
 真由はフーにうつむかせ、“がっかり”させた。
「そうじゃないかもよ?」
 レムリアは言ってみた。今しがた父親が口を開いた時もそうだが、麻子に関して、真由の反応はいつもそこに向かい、直ちに激しく拒絶する。その自己確立を乱すがゆえに。このため、そもそもまともに話が始まらないのだ。
「そうじゃない?そうじゃないってことは……」
 果たして、真由は違った反応を見せた。
 が、それ以上、そこで話すことは出来なかった。
 エビフライの順番が回ってきたのではない。幼い泣き声が二人の耳を捉えたからだ。
「mother, mother, where?」
 しゃくり上げながら、涙ボロボロの顔で、ショップを右往左往する金髪碧眼の男の子。
 以下日本語で記述する。カッコ書きは、英語より訳したことを示す。
「(どうしたのボク?)」
 真由が問うた。碧眼の男の子は弾けるゴムのように真由を見、
「(お母さんがいなくなっちゃった。おかあさんが)」
 迷子である。この男の子が、行き交う誰からも声を掛けられなかった。というより、誰も声を掛けることができなかった、と容易に想像が付く。
 言葉の壁のゆえに。
「どうしようか。空港のスタッフに。……でも引き渡して、じゃあそゆことで、ってのもなぁ」
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【67】

【地6】
 
「いてぇよぉ。いてえよぉ!」
 応じて転げ回るわけだが知るか。
「くっそてめえ!」
 拳銃を拾った者は敵討ちとばかり理絵子に向けた。
「やめたら?大藪春彦(おおやぶはるひこ)にもあったよ。止めないけど」
 登与もまたクールである。
 すると。
「オマエラ全員ぶっ殺してやる!」
 Kが叫び、動きが三つ。
 まず、拳銃を拾ったその者は、あろう事か、引き金を引いた。
 銃声と言うよりは爆発音。
 どさっと、その者が、仰向けに倒れた。次いでバラバラかちゃりと散らばる金属パーツ。
 死んだのか。テレパシーの回答は〝そこまで行き着いてない〟。されどその先を見ている余地は今はない。
 Kが左手にナイフを持ち、……肩も外れていたらしい、ぶらんぶらんの右腕を抑えながら理絵子へ突進してきた。
 銃弾すら回避できる相手に、半壊れの身体で肉弾戦を挑もうというのだ。正気の沙汰ではない。
 されど止めないと……失神でもさせないと攻撃はいつまでも続く。
「お前が汚れる必要はないよ」
 声と共に桜井優子が理絵子の前に身を置いた。
 乱れ髪に、傷だらけの、大人びた横顔。
 あなたを襲った、拘束していた痛みはどれだけ……。
「ずっと、お前のこと呼んでた。お前の声を聞いてた。それだけは出来た。そして、お前はオレのことを呼んでたろ。聞こえたぜ。……私はお前がこいつに触ることも、こいつがお前に触ることも許さねぇ!」
 彼女は自身を〝オレ〟と呼ぶ。それが〝私〟に変わったその瞬間を、
 理絵子は、荒ぶる女神の降臨と取った。
「お前が死ねこの反吐!」
 桜井優子はKの股間を蹴り上げた。
 Kの運動エネルギが全て置換され、Kの突進はそこで尽きた。
 そして、加わった力積は充分に過ぎた。
 Kの両膝がかくんと折れ、蟹のように口から泡を吹き、そのまま仰向けに倒れる。縮んだパンタグラフのような有様となり、びくんびくんと震える。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-38-

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 こうなると今度はこっちの方が可哀想な気がしてくる。人の気持ちとは、かくも難しき。
 かといって、この若い女にネタを振るとわざとらしくなり、余計に彼女を孤立させる結果になろう。よくある『この子も仲間に入れてあげて』というヤツだ。あのセリフは当該の子供に“お前仲間外れだね”と言外に認識を迫っているに等しい。
 父が娘に説明をしている間に電車が速度を落とし、ガタガタと転轍線路を渡ってホームに入る。
 終着駅、中部国際空港。
 ドアが開いて乗客が吐き出される。平日の夕刻故か、スーツ姿のビジネスマンが目に付くが、歩く速度が彼らと異なるアベックや、お喋りに忙しい女性同士も目に付く。この空港はアミューズメントの側面も持っており、中のレストラン街が目当ての人もかなり多いのだ。
「あの、私、先行って並んでますね」
 麻子はいたたまれない気持ちになったか、電車を降りるや走り出した。
 父親は見送るが、真由は見ようとしない。
「真由」
 父親が呼んだ。
「ん?」
「お前……」
「あの女のことなら何も訊かないでね。折角食べに出たんだから」
「申し訳ないな……」
 父の言に真由は立ち止まって見上げた。
「え?」
「お前の気持ちを無視して。最悪の親父だよオレは。許してくれとは言わないし、彼女を受け入れろとも言わない。ただ……」
「いいよ判ってるよ。邪魔はしないよ。あ、先行って。この看護婦お嬢に土産物探すから」
 真由は言うなり、レムリアの手を引っ張って走り出した。
 ……自分と話したいことがあるのだ、とレムリアはすぐに気付いた。
 空港グッズのショップ。
「ごめんないきなり。ちょっと二人きりになりたかった」
「いいよ。んで?」
「親父が謝った。びっくりした」
 真由は空港のイメージキャラクター“フー”のぬいぐるみで“バンザイ”の形を作った。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-37-

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 書くまでもあるまい。心理的頑健性こそ、今この父に、己れに求められている課題そのものである、と気付いたのだ。
 同じ事は真由にも言えるだろう。ただ、彼女は頭では理解しているが。心が追いついていない。単純に言えば彼女の受けている陰湿な暴力は、彼女の英語能力をやっかんだ連中の嫌がらせである。連中は彼女が傷つく、困る、恥を掻く、といった状態を面白がっているのであるから、受け流す……“華麗にスルー”すれば良いことは判っている。大方のオトナもそう言うであろう。しかし、アイデンティティ確立期にあり、ひとりの『人間』としての地位保全(“誰かの子ども”ではなくなること)に、極めて敏感な心にとって、それは原理的に不可能だ。“悪評”であればあるほど敏感に、勝手に、自分の心であるのに意に反してと言えるほどに、反応し、傷ついてしまう。この問題に際した大人が『そこまで思い詰めてるとは思わなかった』とこぼすことが多いのは、こうした、大人と子どもとの認識の違いに基づく。
「父さん?」
 黙り込んだ父親に真由が尋ねた。
「ん?ああ、いや、何でもない。ちょっと昔のことを思い出しただけさ」
 父親は小さく笑った。
 初めてこの男性の笑顔を見た、とレムリアは感じた。笑ったことそのものはあるかも知れないが、“心の喜び”の表現として、笑顔を見せたのは初めてではあるまいか。
 そして、その小さな笑みは、真由の口元も緩ませた。
 笑みを交わす父娘。
 レムリアは安堵を覚えた。だが同時に、傍らでひとり疎外感を持っている存在にも気付く。
 確かに今、“真の家族”である二人に対し、そこに入り込もうとしている者にとって、排他的な風圧を感じてもおかしくはない。
 ましてや、レムリア自身はあっさり双方に受け入れられているのだ。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-36-

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「実は日本の大量生産技術の一つの原点がこの町なのだよ」
「え?そうなんですか?」
 自動車、エレクトロニクスを始めとする日本の工業製品。
 その質的下支えの出発点が、この町のしかもタイル?
「そうだ……」
 父親は説明を始めたが、口語体ではまだるこしいので要約する。タイルも窯で焼く。窯で焼く以上、熱源とタイルとの距離はタイル個々で異なり、結果タイルの出来具合にムラが出来る。悩んだメーカは、窯の温度ムラをなくそうとするのではなく、温度に多少差違があっても同じ質で出来るように、タイルの原料の方、すなわち土をはじめとする原料の成分比を変えた。そしてその発想は、“部品や作業者のバラツキに寄らず、一定以上の品質を確保する”方向へと発展し、今日の高品質・大量生産技術の確立につながった。
 実験計画法……田口メソッド……伊奈のルール……ロバストネス……。
 父親の口からは技術・学術用語が踊り、電車が海の上、高架橋を走り始めてからも続き、その口調は熱を帯びた。そもそも大学以上で学習する内容でもあり、技術に興味を持たないレムリアには、理解までは至らない。しかし、薄い笑みさえ感じられる父親の姿は自信に満ち、そして楽しそうであった。その姿は以前、自分用にと、太陽電池から携帯電話へ充電できる装置を作ってくれた、タマゴの彼に似ていた。
 そして、そんな父親の姿は真由の目の色を変えた。
「Robustness……頑健性?」
 ロバストネスの意味を捉えて、真由が訊いた。
 タイルの頑健性……ただでさえ固いのにそれ以上何を求めるのか。普通、言葉を聞いただけでは理解不能であろう。
「ああ、頑丈なタイルを作るって意味じゃないんだ。与えられる条件が多少変わっても、その条件に左右されるようなヤワなものじゃないって意味……」
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-35-

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「親父が?」
 意外、という真由の表情。
「ああ、行っておいで。その方がいい」
 老師が目を細める。
「あいつも?」
 対し真由は眉根を曇らせて尋ねる。麻子も来るのか。
「気持ちは判るけど押さえて。あなたにとってお父様が唯一の身内であるように、お父様にとっても真に血のつながりを持っているのはあなただけなんだから。血のつながりこれ最強。ちょこっと協力。ね?行こ?」
 レムリアがウィンクして手を引っ張ると、真由は特段拒否する反応は見せない。
 


 
 とはいえ、麻子がいる前では、真由が心に壁を作るせいだろう。打ち解ける・和む系の雰囲気は望めなかった。電車を待つ海風のプラットホームで、ぎこちなく固い、沈黙の時間が過ぎて行く。頬を叩く晩秋の海風は冷たさを強調しこそすれ、逆はない。
 この状況良くはない。レムリアは話題はないかと考えた。見回すと、少し離れた所に著名なタイル工場。
「あの会社タイルで有名ですよね。ここが本拠なんですか?」
 レムリアは口にしてみた。
「ああ、この町で育った世界企業さ」
 父親が応じた。
 その目が輝く。好きなのだろう。しかも技術肌だとレムリアは感じた。東京の知り合いはエンジニアのタマゴな訳だが、同じ気配をこの父親にも感じる。
 だったら。
「タイルも陶器ですもんね。でもよく考えるとすごいですよね。数万、数百万単位の焼き物で質のバラツキがないって」
 この質問を発した根拠は、タマゴの彼のタマゴのゆえんが新入社員の研修生であり、製造ラインの実習について“一定のクオリティでモノを作るのは難しい”とぼやいていたからだ。
 自己満足でこと足りる趣味の1発製作と、安定して供給し続ける量産品では、おのずからアプローチが異なる。
 するとレムリアの発言に、父親はほう、という顔をして見せた。意表をついた言葉だったらしく、少しのけぞったようにも見えた。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-34-

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 真由が唖然とし、目と口をあんぐりと開く。
「とか思ったんですが」
 レムリアは老師の目を見た。
「これは参ったなぁ」
 老師は白髪の頭部をポリポリ掻いて苦笑した。
「私が語るもおこがましいが、常滑の本来はこの壷のような、大型で本当に実用的な入れ物の製造にあった。お経を収める3本の横筋が入った三筋壷(さんきんこ)という壷……まぁ形はこいつに似ているかな?があるが、これは殆ど常滑の独壇場でな。九州から東北地方にまで流通していたことが判っている。その点でこのお嬢さんの言う要するに機能美が評価されていた、ということだろう。である以上、時代が下り、凝った装飾やら芸術性が求められるようになっても、常滑は常滑であって良いし、それにはそこを外すべきではないはず。それこそお嬢さんの言う“本質”が失われてはならない。その点で真由ちゃん、君のお父さんは、名工の作品の持つそうした流転原点をふまえての結果と言うより、上っ面の形態色合いばかりを見過ぎの傾向があるのだよ」
「……お前、親父の作品を一見しただけでそれだけのことを?」
 レムリアは首を横に振った。
「お父様は川俣先生のOKを得よう。そこに意識が向きすぎていて、結果として、見てきた作品のコピーを無意識に作ってしまっている。“良い”と言われるモノと同じものを作れば、“良い”と思ってもらえるという、ちょっと幼い情動なんだけれど、せっぱ詰まった心理状態がそうさせている、と思ったわけ。そしてそういう行動に出てしまう根本は、パッと見の“綺麗さ”に囚われている証拠。
 だから……実はこれを伝えに来たんだけど、少しの間陶工から離れてみては?って。そしたら、空港にエビフライ食べに行こうっておっしゃったから真由ちゃん呼びに来たの」
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-33-

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「本物は心に直接届くということだよ」
 老師は言い、壷を手にした。
 コンと指の背で叩く。硬質な音は高密度である証拠。しかも、単に高密度というだけではなく、それが均一でなければ、焼く時に膨張力の集中を招き、割れる。
 つまり土台である土の準備、形作る腕、どちらも非常に精度の高さが求められる。
「1000年前だ。なのに我々はこれを越えるものを作れているだろうか」
「文様や形象は代を重ねると抽象化する」
 それは知識ではなくポッと浮かんだ言葉。
 言ってから納得する。“文字”というのは、そもそもそういう形象が線刻という形で抽象化したもの。
 ちなみに、レムリアは12カ国語を操ると書いたが、その課程である程度、文字・言語の成り立ち、系統体系について学習している。浮かんだ言葉は、その際に知識というより感覚的に掴んだ内容だ。壷はそれを具象化したようなものであり、ゆえに連想されポッと出たのであろう。なお、この若さでそれだけの言語を喋れるかという疑問がわく方もあろうが、希ではあるが事実存在する。最も有名な名を挙げれば、それこそ形象の文字であるヒエログリフを解読したシャンポリオンがいる。
「……どういう意味?」
 真由が問うた。
「例えば漢字。あれは元々ある状態を表した絵でしょう?」
「うん」
「ところが毎度丁寧に書いていられないから、だんだん殴り書きになっていって、省略されていって、本質部分だけを残した“それっぽい形”に落ち着いたわけ。それが漢字」
「ああ、で、今度はその漢字自体が殴り書きされて落ち着いたのがひらがな……」
「そう。で、この手の道具にそれを当てはめた時、人間工学的、かつ、美観的に納得できる形に最終的に落ち着くはず。しかもそこで重要なことは、人間工学的に素晴らしいものは形も美しいものが多いと言うこと。人間は道具に本質的に無意識的にそれを求めるから、美しいだけを追求すると“ただ綺麗なだけ”に陥りやすい。だから道具としての本質を失ったものは愛着や感動を呼ばない」
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-32-

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 歩く。今度は床がギシギシ鳴った。
 行く手、本宅のふすまが開く。顔を出したのは真由。
 厳しい目線だったが、レムリアと判るや一転、笑顔になる。
「お前か」
 真由の背後から老師も顔を出した。
 一緒にいたということだろう。何か真由が相談でも持ちかけたか。
「お前、すごいんだってな」
 真由はいきなり言った。
「え?」
「いきなり見抜いたって。お前の言動によっては親父が変わるんじゃないかと」
「いや申し訳ない勝手に話して」
 老師は笑みを見せた。
「まぁ、こっちへおいでくださらんか。是非あなたに見てもらいたいものがある」
 招かれてその部屋に入ると和室。
 床の間に壷。傾(かし)いでおり、入れ口の部分がむくれた唇のようにめくれている。
 ハッとする感情が芽生え、思わず目を見開く。驚愕や強い痛覚のそれに似て、熱いものが身体を上から下へと走る。
 その表面はつや消しの金……銀に見えることもある。但し金属的ではなく渋い色合いであり、若干アバタを見せる。輝いていない月面とでも表すればよいか。どっしりした形態は古いが重厚であり、さながら土が自ら壷の体をなしたとでも言おうか、素朴だが存在感たっぷり。
 それは芸術性を念頭に置いたというより
「この土の荒くれぶりを壷という形となすならばこれがふさわしいのではないか」
 思うまま口にする。それは壷から得たレムリアの印象。無意識にサイコメトリを使ったのかも知れない。
「古いですね」
「ああ、存分にな。どうかね真由ちゃん」
 その台詞で、レムリアは、老師が自分の鑑定眼のことを“すごい”と言っているのだと判じた。
 少し恥ずかしい。なぜならそれは経験と知識に基づくものではなく、半分は超能力。
「お前マジすごいな」
 レムリアは苦笑するだけ。
 
(つづく)

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桜井優子失踪事件【66】

【地5】
 
「死ねやぁ!」
 叫びに再び杖で応じる。再度弾丸は跳ね、Kの近傍足下に着弾し、火花と煙を発し土中へめり込んだ。
 Kの表情に軽い怯み。
「ぐ、偶然も2度までだぜ」
 Kは一瞬だが丸い目で理絵子を見て嘯き、すぐに獰猛な目に戻り、腰を低くし、両手で拳銃を引き据えて露骨に理絵子に狙いを定めた。
 その距離で撃ち漏らす者はどんな素人であっても無いであろうと思われた。照準を定める必要もない。ただ、銃口を向ければよいのだ。
 しかし。
「おやんなさい。偶然と疑うなら、疑いが晴れるまで」
 それはどこぞの魔法少女の物語でヒロインが使ったセリフの変形。
 ふざけているわけではない。おのずと表情に不逞が浮かんで挑発になるから。
「なんだと?」
「だから能書きいいから撃てっつってんだろうが腰抜けが!」
 学級委員で模範的な優等生……である理絵子の啖呵は、一同が驚くのみならず、拡散していた桜井優子の意識を一瞬で合焦させた。
 ついでに理絵子はKの住所と、その後入学した医学校の学籍番号に……その際裏口入学で払った金額まで喋ってやった。
「死ねやぁ!」
 果たしてKは挑発に対し脊髄反射し、引き金を引いた。
 パン……炸薬の音。
 鋭い金属音と、跳弾の発した青い火花。
 刹那を置いて、金属が金属をえぐる鈍い音。
 金属塊が肉体に衝突する冷たい音。
 一同が銃声と共にまばたきし、再度目を開いた時、彼らが見たのはまさにもんどり打って後転しようとするK、中空へ弾かれた拳銃、あらぬ方向を向いたKの親指と血しぶきであった。
 烏合の衆が二手に分かれる。Kに駆け寄る者、舞い飛んだ拳銃を取りに行く者。
「銃って銃身が詰まった状態で撃つと破裂するんだってね。犬神明(いぬがみあきら)の小説で読んだよ」
 指摘したら、銃を取ったそいつは銃口を覗き込んで目を丸くした。
 理絵子は銃弾を錫杖で弾き、元の銃口に撃ち込んだのである。
 衝撃で拳銃は弾き飛ばされ、Kの親指の付け根を割き、鼻を折った。
 
(つづく)

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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-31-

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「一旦、離れません?創作から」
 これに再び麻子が鋭く反応した。
「あなた何様のつもりで……」
「思い詰めすぎなんです。それから私ひどいこと言いましたがその正体、『これだったら合格って言ってもらえるかな?』と思いながら作ってませんか?」
 レムリアは言った。自分が“それだけではない”と感じた中身はこれである。
 にしても自分は小悪魔だとつくづく思う。突き落としておいて蜘蛛の糸を垂らす……似たようなことを釈迦がしているが、自分の場合は間違いなく悪魔だ。
 父親はオジギソウが首をもたげるような緩慢な動きで、ゆっくりとレムリアに目を向けた。
「おっしゃる通りです」
「それがあなたの意志の反映だとは私には思えません。だから、“よくできてるけど、それだけ”なんです」
 ここまで言って、ようやく、麻子が瞠目を見せた。やっと小娘の真意が判ったのだ。
 赤くなってうつむく。そして立ち上がり。
「あのあたし晩のお買い物に……」
「いや、いい」
 父親は麻子を制した。
「え?」
「この彼女の言う通りかも知れない。私はあまりにも視野が狭くなりすぎた……。お嬢さん。助けて頂いたお礼だ。そこの空港においしいエビフライを出す店があるんだが、食べに行かないかな。真由を連れ戻してくれたのも彼女のおかげだろう。みんなで行こうじゃないか」
 レムリアは手をパチンと鳴らして笑顔を作った。
「それ真由ちゃん喜びますよ。私呼んできますね」
 場を立ち、彼女や老師が出入りした引き戸を開く。
 渡り廊下。工房は離れの建屋ということか。
 引き戸を閉める。途端にひんやりした空気の動きが止まり、時間までもが止まっているよう。土壁に木の屋根という古い作りであり、はめ込まれた木枠の窓は、ガラスに歪みがある。風が吹くとガタガタとお喋り。
 
(つづく)

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