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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-86-

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 レムリアは、赤ちゃんに哺乳瓶をあてがっている真由の手に、自らの手を重ねると、その哺乳瓶をゆっくりと引き離した。
「えっ……」
 その動作は一瞬真由をゾッとさせたかも知れないが。
「この子は“乳を飲む”ことそのものを、身体がまだ充分に覚えていない。口を動かし、押し揉んで吸い出し、飲み下すための筋力がない。本来、授乳は、上手に飲もうとする子どもと、子どもに飲まそうとする母親との、共同作業で、双方の練習で育んで完成されて行くもの」
 レムリアは言い、哺乳瓶を引き取り、洗浄装置の傍らに置き、淡々と輸液(点滴)の準備を始めた。真由が抱く分には泣き出す気配を見せないため、抱いてもらったそのまま、純水で湿した脱脂綿で幼子の身体を拭き清め、額の傷に絆創膏をあてがい、産着を着せる。次いでアルコールで手の甲を拭いて、輸液管を挿す。……手に針を刺して痛いはずだが、泣きはしなかった。
 幼子に乳酸リンゲルの輸液を開始する。次いで母親。骨折し“ぶらぶら”状態の腕に添え木をし、同様に輸液。
 周りでその作業を見ている人々の、流星を反射しギラギラと光る目。
「怖い」
 真由が呟く。失礼だが、彼女の抱いたその気持ちは本能的なものであろう。彼女は、幼子を守り抱え込むような姿勢を示した。
 とはいえ彼らも追いつめられた人々なのである。食うために生きるために手段は問わない……問えない段階なのだ。それは“狩猟者”の心理であり、その目線は、自ずと優しさとは最遠に位置することになる。
 幾人か怪我人がいるので処置する。幸い銃弾命中者はおらず、消毒して絆創膏程度の話。ただ、こうして“施す”ことによって、少しずつであるが、彼らの目線が和らぐのを感じる。
 その理由は……明記を避ける。代わりに。
 
(つづく)

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