総武快速passing love ~錦糸町~
~錦糸町~
沿線随一の歓楽街を有するとか。
だから彼女持ちや妻帯者が一人で行くと色々と誤解を受けるらしい。
薬物乱用防止の標語に「ダメ・ゼッタイ」というのがあるが、あれはここ錦糸町での薬物汚染を契機に作られたのだとか。
僕がそんなことをネットで調べるきっかけになったのは、自分に関する妙な噂が流れているらしいと聞いたから。
錦糸町に通っていると。
受付の美人というカノジョがある身でありながら。
そのカノジョがいるとバレた時もそうだが、なんでこう会社のウワサは伝搬が早いのか。
ウワサの中身を教えてくれたのは同僚のA。
カノジョそっちのけで錦糸町通いをしている、浮気してる、というもの。しかも錦糸町をネット地図で見ていた様子が堂々としすぎということで火に油を注いだようで。
定時になって会社が引けて、IDかざしてゲートを抜けたら、いつもなら制服姿で受け付けブースに座っているはずの君がいない。
早上がりとも聞いてないが。メールを出しても返事はない。
とりあえず今日は錦糸町に用がある日。僕は総武快速に乗り、トンネルを抜けて最初の駅に降り立つ。
改札の向こうに……あろうことか君の姿。
ウワサが届いたということだろう。真相を確かめに来たというわけだ。
目が会うと涙ポロポロ。踊らされてもう。
果たして衆人環視の中で君は怒鳴った。信じてくれてないのかという残念な気持ちはあった。さすがに僕も少しムッとした顔をしたかも知れない。だが、確か過去に幾度か裏切られた経験があるとか。まぁ疑心暗鬼になる気持ちは判る。
こういうときは言うだけ無駄。僕は改札を出てこっちと指さす。歓楽街は南側。僕が示したのは北側。
でも君はその違いに気付いていない。
歩き出すと離れて後から付いてくる。駅前のビルの中……東武鉄道の旅行センター・東武トラベル。
君の表情が変わったのが見ずとも判る。
僕は鬼怒川温泉旅行のクーポン一式を君に渡した。日光鬼怒川は東武の本領。だから東武に直接出向くのが早い。ターミナルは浅草だが、錦糸町にも店がある。
僕は説明し、君が両親に温泉旅行でもプレゼントしたいと言ったから、と加えた。
「オレも勘定に入れて手配したんだけど、間違ってたかな?」
最終電車までには泣き止んでくれよな。
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