グッバイ・レッド・ブリック・ロード-233-
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いきなり水を向けられる。何か用意していたわけではなく、しかも恐ろしくアバウトな要求。
正直困ったが、顔出して、手を出して、でも声は出さずにサヨナラ、ってのは、自分が聴衆だったら納得行かないとは思うだろう。大人の奸計ここに極まれりの感もあるが、それならそれで、ただの人寄せパンダじゃないトコ、れぞんでぇとる発揮するまで。無論陶器ウンチクからっきしだが、常滑に半月いたなりのことは言える。
マイクが来た。
一礼していきなり始める。
「星が降った日の昼下がり、レンガと土管の小道を彷徨って、最初に持った感想は、『げっ!』でした」
会場が笑声で沸く。王女というステイタスと“げっ”というスラングのアンバランス。
レムリアはその辺の効能を良く心得ている。まずは笑いで心を捉える……はよく使う手だ。だから、面白いネットスラングを東京からちょくちょく仕入れる。ただ、副作用として、TPOをわきまえず、つい口をついてしまうことがある。
「友人宅で見せられた茶器が、いかにもこだわりの職人が昔気質の手法で作った、そんなものだったせいかもしれません。六古窯とパンフレットに書いてあった先入観もあるでしょう。なんで1000年続く作陶の街に、原宿の裏通りみたいなお店並んでんのよって」
言うと、受賞者の中に頷く顔があり、好々爺のように目を細める。嬢ちゃん、よく判ってるじゃないか。そんなところか。
つまり少なからず、あの店々に眉をひそめている人が多いのである。煙突の工房……街のシンボル的な存在の文字通り“後釜”に、全くつながりを持たないものが入ったのだ。そのシンボルをただ利用して金儲け、そんな印象を持つのも仕方あるまい。まして、会場の方々の年齢層は、この地に根を張るかの如く、と言えようか。違和感拒否は当然の反応と言えるかも知れない。
(つづく)
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