« 2011年3月 | トップページ | 2011年5月 »

2011年4月

いじめが「ある」のは異常なことか

教員の皆さん、クラスにいじめがあるのは不都合なことですか?
いじめは定義に従って認定されないと発生したことにならないらしい。公害や原爆後遺症の悪習そのものであって全く理解しがたい。たとえ被害者が自殺しても「直接の因果関係はない」とか未だに平気で言ってのける。死人にむち打つと言うが、教員の側が更に傷つけているんだということに気付いていないと思わざるを得ない。あなたがこれを読んでいるのが何年何月か判らないが、まぁいつまでも同じ事例はあり続けるであろう。
 
そんな教員に自分の子ども預けたいと思うか。
 
いじめ根絶と軽々にスローガン掲げるが、いじめという行為自体は太古より普遍的に存在し、根絶は不可能である。何故なら人間の根源的心理の一つ「気に入らない」に起因するからである。ただ、周辺事情が事態の深刻化を促進している傾向はある。その大きなものの一つが「隠匿性」である。そもそもいじめが陰でコソコソ行われるのは、「露見されたら罰せられる悪事」という認識が加害者にあるからである。比して冒頭の「認めたがらない」は「露見されたら罰せられる悪事」という認識が教員側にもあることを意味する。速やかに見つけ出すべきものなのにマトリョーシカ入れ子構造、同じ構造の檻に閉じ込めて隠匿を助長してどうするのだ。「あってはいけない」と罰するのではなく、「生じたら速やかに解決する」を評価するのがあるべき姿ではないのか。
先入観持ちたくないので(レムリアの視点・論点で見たかったので)、書くに当たっていじめ問題の教員側の捉え方を特に調査したりはしなかったが、現在ネットで検索すると、教員側の勉強会の資料などがいろいろ引っ掛かる。但し個人的には「子どもの世界」を見下すような上から目線が気に掛かる。経験に基づく分析は大いに結構だが、大人の勝手な判断の域を出ず、畢竟、それら研究会のマニュアル通りの行動を取って子ども達の心に響くと思わない。人格対人格のコミュニケーション、同一の目線、立場が感ぜられない限り人は心を開かない。
隠匿性の点でもう一つ忘れてはならないのがネットである。個人特定不可能なまま、特定個人を攻撃できるというステルスデバイスである。しかも書き込まれた「陰口」は全世界に対し残り続けるという可能性をも有する。但し、ネットに書かれただけでは身体的に傷付くことはない。ここがリアルとバーチャルの違いであり、糸口である。
「小日本」(しゃおりーべん)というのは中国や朝鮮が日本を蔑視して言う語である。我々がシナだチョンだ言うと彼らは差別だと怒るわけだが、彼らは彼らで日本が小さいというと日本人は怒ると考えているのである。しかし実際には「確かに中国より国土小さいしぃ」「何言ってんだこいつら」で終わってしまい、特に不快な感じは持たない。それはとりもなおさず、彼らが我々を真に理解していないとすぐに判ずるからである。ちなみに東北地方太平洋沖地震では、朝鮮のメディアが「日本沈没」などと嬉しそうに報じていたが、その日本から部品を購入して世界に売って自転車操業しているのが他ならぬ朝鮮である。経産省のサイト等で貿易収支を見てみると良い。彼らは対日本だけ貿易赤字なのだ。この場合、朝鮮は日本のことどころか、自分の足もとさえも見えてない文字通りの「身の程知らず」である。
と、書くと、あなたは朝鮮に対し軽んずる認識を持ったはずである(書いてあることは事実だが)。その軽侮の意識こそいじめの芽生えである。一方、軽侮の対象が日本沈没と書いたところで、痛くも痒くもないはずである。すなわち、的外れの悪口は何の影響も与えないのである。ここで重視したいのは後者である。「自分の本当の価値を知っている」ことは、言葉の暴力を物ともしないということだ。
客観的な視点による、個人の価値。それを量れるのはそばにいる人、そして、完全に公正な立場にある人。
……教員の皆さんに力を入れてもらいたいのは、いじめの有無を定義通りに判断してもらうことではない。誰にとっても、味方であること。
 
☆この物語はフィクションです。登場する人物・団体・機械装置・地名は全て架空の物です・・・わかりきってるでしょうが念のため☆
 
★魔法少女レムリアシリーズ一覧

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-240-

←前へあとがきのようなもの→
 
 真由は工房敷地に戻ったところであった。風に暴れる髪を抑え、頭上を見上げ、光条が西へ伸びて行く様を目で追う。
 風と光に驚いたようで、父親が飛び出してくる。
「……ああ真由。今の見たか!?あれは多分いん石が」
「違うよ。魔女が空飛んでったんだよ」
 真由はジャンバーのポケットに手を戻すと、顔色ひとつ変えず言った。
 父親は顔を上げ、横切る光条を見渡す。その描かれた光の航跡は、飛行機雲が風に散らされる様に似て、薄くなり消えて行く。ちなみに、この船はまず前後に光子圧力でチューブ状の空間を形成し、その中を進む。従い、端から見れば光の帯が伸び、消え去るという現象になる。
「……消えた」
 父親は呟き、ハッと思い出したように真由に目を戻す。
「そういや彼女は……お姫さんはどうしたんだい」
「だから、帰ったよ」
「えらく早いじゃないか。まさかお前、駅に彼女を一人で……ああ、タクシーか」
「まぁ、電話してすぐ来たのは確か」
「なんだそりゃ?……お前、少し変だぞ。彼女の風邪、うつったか?」
「だとしたら風邪じゃなくて魔法にかかったんでしょ」
「魔法か……」
 父親は携帯電話を取り出し、画面を開いた。
 それは送ってもらった写真のようだ。レムリアから副賞の小さな盾を受け取る父親自身。
「いたんだな。本物の姫様が。ウチに。それどころかお前を助けてくれた。それこそ、まるで魔法にでもかかった気分だ」
「最近は魔女も忙しいらしいよ。ホウキで飛ぶんじゃとても間に合わない」
「……かもな。しかし魔女か。……ふふ、案外そうかもな」
 父親は携帯電話の画面を閉じた。
 対し、真由は何か気付いたような表情を見せると、ポケットから自らの携帯を取り出した。
 その画面を開き、光去った方向を見上げ、小さく笑う。
 メールの着信であり、本文はたった一行。
 
Good-bye! Red Brick Road.
 
Good-bye Red Brick Road(グッバイ・レッド・ブリック・ロード)/終
 
(あとがきのようなもの)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-239-

←前へ次へ→
 
「ではありがたく頂戴します」
「申し訳ないね。そんなので」
「そのかわり」
 レムリアはミサンガを父親の手首にも結んだ。
「私もかい?」
「今度こそ買いに来ます。それまでにウデ磨いておいて下さい。カネ出して買いたい、と思うような」
「言うね」
 唇の端に、しかし自信の笑み。
「姫ってのは古来小生意気ですから」
 レムリアはツンとお澄まし。
 深夜まで真由と喋って過ごす。メールアドレスを交換。
「帰っちゃう……だよね」
「すぐ来られるじゃん。メール一発」
「……ってあなたの場合、子供だましじゃなくて本当にすぐ来るもんね」
「そうだよ。姫君ウソつかないから」
「ねえ、送って行っていい?……船の皆さんにお礼をしたいから。あと……ご一緒させてもらうには私じゃまだまだ」
「もちろんいいよ。じゃぁそこの公園に下りるよう言うよ」
 姫ちゃん送ってくる、と一言残し、真由は家を出る。
 父親もまたおいでと一言返すだけ。
 二人は細道を歩き、階段を上がり、二人が最初に喋った公園に立つ。
 周囲は住宅が建ち並んでおり、暴風が出せる環境ではない。どうするかと思ったが、シールドを解いて現れたその姿は、公園が斜面の途中にあることを利用し、帆を広げて滑空してきた。
 セイルの角度を変えて空気ブレーキ。
 重量感を感じさせぬ動きで、ふわりと軽く風を起こし、二人の前に降り立つ。遠く空港島の燦然たる灯火を弾き、雪面のように白銀に輝くソーラーセイル。
 他方、東の空低くには遅く昇ってきた月と、その光に蒼く浮かぶレンガの煙突。
 その影が伸び、船体に柔らかく落ちる。
 フェンスで囲まれた小さな公園に、窮屈そうに巨体を収め佇む宇宙航行帆船。
 未来技術を蔵した甲板を横切る、19世紀の影。
 昇降口が開き、友達同士の別れの挨拶。これで二人の間はユーラシアが隔てることになる。
 しかし、意志だけならメールで瞬時。ましてやこの船がある。
 二人には、距離も時間も壁にはならない。
「じゃぁね」
「またね」
 それでも出発には最小限空気の噴射が必要であったか、一陣の風と共に、光の矢が駆け抜ける。
 
(次回・最終回)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-10-

←前へ次へ→
 
「他と違う?どういうこと?」
〈知らねぇよ。人間様の気にくわない外見だったんだろ〉
 彼、の物言いは命に対する余りにも軽い認識を意味しました。使い捨て、と表現できる内容です。それはかおるちゃんの死生観とある意味対極に位置すると言えるでしょう。
〈お前死ぬってこと判ってないだろ〉
 果たして彼はかおるちゃんの認識を喝破しました。
〈寝て起きるのと同じ程度に思ってやがる。妖精さんよ、人間ってのはどうなってんだい……何だこりゃ〉
 彼、が顔をしかめたのは〝臭い〟のせいでした。
 のみならず、その場にいた一同がざわつき始めます。大変な臭気を放つ者がやってくる。
 広場からみんなてんでに走り出し逃げて行きます。一部残って遠巻きに眺める程度で、広場には私たちと痩せ犬君だけ。
〈失礼な。マーストリヒト男爵と呼べ〉
 痩せ犬の彼……男爵はそう応じました。何故逃げないのでしょう。
〈お前がオレを嫌そうな目で見ないからさ。だからオレも近づくそいつを嫌な目で見る気は無い〉
 男爵は言いましたが、通りの向こうに現れたその姿にはさすがに一瞬驚いたようです。
 婉曲な言い回しをしても仕方が無いのでストレートに書きます。腐乱状態の犬です。
 心の状態が身体の外見に現れるというなら。
「ジョンだよ」
 私はかおるちゃんに言いました。気持ち悪い、普通ならそんな感想を抱くことでしょう。
 ところが。
「ジョンじゃないよ。こんなぐちゃぐちゃじゃないもん」
〈妖精さんですか。僕を呼んだのは〉
 意識というか気持ちはお年寄り、でも言葉遣いにはどこかしら若さ。
「ええ。かおるちゃんにはあなたが死んだということがピンと来ないらしいの」
〈だから、僕はこんな姿なんですね〉
 ジョンは言いました。私はこの辺のやりとりをかおるちゃんにそのまま伝えました。
〈かおる。ごめんな、ずっとそばにいられなくて〉
 寒い夜を一緒に過ごしたこと。家に石を投げてきた困った子どもを吠えて追い返したこと。一緒に花咲く堤防を散歩したこと。病気になって看病してもらったこと。
 走馬燈のようにジョンの記憶の映像が走り、応じてかおるちゃんも目の前の姿がジョンだと気付いたようです。
〈僕はもう君の所へは戻れない〉
「どうして?」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-238-

←前へ次へ→
 
 実はこの街の“現況”について、坂本教諭が少し口にしていたが、それよりもう少し調べた上で、聴衆の反応を見ながらレムリアは喋った。もちろん、既存のモノに異分子が加わるという視点も踏まえてある。その点でこの街に来て、真由のトラブルに遭遇したのは思い返せば運命だったのかも知れない。
 太古と現代が反発し合う物でなく、プラズマと化して他と反応しながら融合し、新しい何かを生み出す。
 その素敵な胎動を、レムリアは今この拍手の渦に見ている。
 イベントは終わった。
 帰るのは夜と告げたら、じゃぁそれまでと色々ご案内。例の小道はもちろん、“陶磁器会館”でレクチャー。巨大な甕があるので古い物かと思ったら。
「2次大戦中のロケットエンジン式戦闘機の燃料保管用です」
Bjuilmpciamemps

(「ロ号大甕」)

 聞けば戦争後半は資材不足で、本来金属で作る容器も陶器で補った、そんなのが多いとか。
 解放されたのは空港レストランで和食フルコースをご馳走になった後。出発案内には夜間飛行の長距離便がズラリと並ぶ。
「どの便で……」
「いえ、表示はされないんですよ」
 それに荷物が真由宅に、と言ったら、タクシーで恭しく送り出された。
 到着してGパン姿に戻ると、真由の父が手のひらサイズの桐箱を差し出して寄越した。
「お持ち下さい」
 中には早暁の獅子。
「いけませんそんな」
「いいえ。まだ私たちは、肝心かなめの貴女に正式なお礼をしておりません。貴女は真由はもちろん、迷いうろたえる私までも救って下さった。そんな貴女に、今我々が用意できるのはこれだけです」
「でもそれは宝物では」
「だから、です。宝物は、相応しいと思う方に差し上げるべきであると思うのです」
 返答に困っていると、
「持ってってよ」
 真由が言った。
「これだけの友達。私にとって宝物。宝物の引き替えは宝物にしかつとまらない」
 ミサンガをシャラシャラさせながら、真由はニタッと笑う。
 そう言われてしまうと、……仕方ないなぁ。
「判った」
 レムリアは言った。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-237-

←前へ次へ→
 
「でも思うんです。いがみ合う世の中に、新しい物違う物を受け入れて、それを新たな飛躍の糧とする。そんな街の姿見せることが出来たら、どんなに素敵だろうって。1000年前と21世紀が同居するんです。一体どんな光景だろうって。
 それ多分、平和ってこういうもんだ、になると思うんです。だったらそれこそ“常滑から世界へ”飛行機乗っけて、持って行ってもらったら、いい。タイル、クルマ、次は平和。ジャストインタイムでお届けします」
 大笑いした男性が数名……ジャストインタイム、略してJIT(じっと)は「必要なものを、必要な時に、必要な量だけ生産する」の意で、この愛知に本拠を持つクルマメーカーが発案して日本国内、更に世界へ広めたコンセプトである。工場勤めの人なら判る小ネタ。ちなみに東京の入れ知恵。
「文法的にはジャストオンタイムなんですが」
「おもしろすぎるぞー!」
「ありがとうございます。でも冗談抜きにタイルは……世界トップですよね。クルマもそこが見えてきた。次は……それもまた愛知常滑から。そしてそれも世界トップに。だったら……これ以上素敵なことはないでしょう。そしていつか、いがみ合うことしか知らずに育った子ども達と一緒に、この街にまた来られたらいいな、と思います。私がこの街で見たのは、脈々と受け継がれる伝統と、現代的な個性の斬新な挑戦との、凝縮された接点。でも、どっちか、じゃない。そのどっちも頂戴して新しい何かを創り出す。
 人は夢だと言うでしょう。ええ夢かも知れません。ただ言えることは、過去人類はエジプトやギリシャ、ローマの初期にそれに成功している。その歴史が示すのは、成功の暁には穏やかな安らぎがあるということ。どうか、いつまでもそんな街であり続けて、こだわりの陶器が、殺伐とした現代を生きる人々を癒やす、歩いて安らぎを感じる、そんな街であって下さい。
 大好きな街が、また一つ、増えました」
 一歩下がり、頭を下げると拍手に包まれる。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-236-

←前へ次へ→
 
 結論に行く。タイルの話は内容が内容だけに、言わなくても皆さん調べるだろう。
「戦争に負けた。というのも理由にあったかも知れません。押しつけられる物を拒めなかった。でも、日本の皆さんは、ただ唯々諾々と従うでなく、排除しようとするでなく、それを良い機会と捉え、より良くしようというポジティブな反応で生かした。……凄いこと言いますよ。今ご承知の通り日本は周辺各国から追い上げを受けてます。太平洋の向こう側からダイトーリョーさんがムチャクチャ言ってきます。今までの繰り返し……では、先行き不安な情勢にあることはご存じの通りです。そのタイミングで、この街に空港が出来た。世界への窓口が開かれた。たくさんの人々がやってくるようになった。これは再び、この街が原点となり、“常滑から世界へ”発信せよ、という、大いなる運命の配剤ではないでしょうか」
 ちょっと大げさか。
「なんてね」
 微笑むと、安堵感のある笑い。
「大仰ぶりましたが、そんな世界への窓持つ街で、ダイナミックに日々変化する時代の中で、こんな素朴でシンプルで、道具の原点と言ってもいいような陶器達が作られているのは、何か意味ある気がしてならないのです。だからこそ、人々が集まりつつあるんじゃないかって。表現の仕方はどうあれ、みんなこの街が好きなんだ。赤いレンガの煙突と、小道の土管と、感じ方はそれぞれだけど、みんなこの街が好きなんだ。そうだとすると……冒頭わたくし申しました、“げっ”は取り消さなくてはならない」
 人々にハッとするような表情が見て取れる。
 そう。言いたいのは
「この街が好きな人間が、この街を好きな人中傷してどーすんの」
 それは声に出した自戒。
 会場がしん、となる。
 レムリアは小さく笑った。
「偉そうなこと言いました」
 少し拍手。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-235-

←前へ次へ→
 
 挙手する人いませんか?手を上げるポーズで訊いてみたらくすくす笑い。……そういう方も、対し異論も、特にないようだ。
 本論。
「このパネルの講演で私が喋ったのは、環境負荷が巡り巡って、離れた国々に貧困と、伴う子ども達の命の危機をもたらすという内容です。目の当たりにしてきた立場からすると、この日本という国は、来たなと思うだけで、国の存在を思うだけで、お茶のようにホッとします。空を見るのは天気を見るため。夜空を飛ぶのは飛行機と流れ星。ミサイルや砲弾の心配なんかありませんもんね。対し彼の国を思う時、民族が違う、宗教が違う、それだけの理由で幼子まで真剣に殺しに来ます」
 一気に静まりかえる。“殺す”という語があまりにも場違いなせいである。但し、その強さゆえに、仕込んだ論理のすり替えは誤魔化される。
「本当は互いに譲り合って共同と共有が必要なのです。だって何もかも乏しいのですから。原始人類はそうやってみんなの力で乗り越えてきた。だけど、何故か現代人は目先ばかりを見て全体が視野に入らない。それっておかしい。人類は進歩してるんじゃないですか?それともお馬鹿さんになったのでしょうか」
 少し間を取る。
「先ほど名所出し抜くと言いました。実際、国単位で先進各国を出し抜いた所を私は知っています。そう日本です。焼け野原から他国の良いところは受け入れ、改善改善で昇り続け、そしてついに追いつき並んだ。世紀をまたぎ、今や液晶テレビや……最近ではロボットですか、時代を牽引する技術の発信地は日本です。そして聞けば、その技術に連なる原点が、この街のタイルというじゃありませんか」
 少しざわつく。そうなの?何それ?といった反応が結構多いようである。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-234-

←前へ次へ→
 
 そこへ。
「……オシャレじゃんって」
 レムリアはこう付け加えた。
 静かになる。好意的だった雰囲気の変化が如実に判る。
「私は、常滑の陶器が好きです」
 空気変わったところで、そっと一言。
 少しの拍手。
「でも……別に詳しい訳じゃありません。本当ならココでこんなこと喋る立場じゃない。友人宅で出してもらったお茶の器が常滑だった。いいなと思った。買いに来た。そして……あら見つかっちゃった。ただそれだけ」
 小笑い。
「だって、こんなでっかい空港のでっかい会場で、こんなでっかいパネル展示してあるなんて聞いてませんもん」
 背後指差して言ったらウケた。
 笑いが収まるまで待つ。
「そんなわけで王家です。アジアの陶器ゴロゴロしてます。こう……いかにも西洋人の東洋趣味全開!ってな感じの物です。でっかいの、細工が細かいの、極彩色の……何に使うの。そんなの。
 見慣れた私が、日本で初めて、日本茶を普通に出してもらったのが、窯変……でいいんですよね、黒く色づいた、こちらの茶器でした。手に馴染む形で古風なイメージ。何の変哲もないただ飲むための器。ひっくり返せば無駄も余計もない。でも、それが逆にホッとするような気持ちにさせてくれました。あ、これいいな。
 常滑……街の名を聞いたのはこの時が初めてです。国の母が言うには『知らない』と。そして、『そんな素敵だったら買ってきて』。……常滑ってあんまり無いんですね、そーいう、お飾りな陶器って。
 訪ねた工房で訊いたら、そういうムーブメントに乗り遅れただけだと笑って仰ってました。でも実際どうでしょう。こうやってノコノコ買いに来る小娘がいて、その街でお店をやりたいという人がいる。なんで?好きだからという以外に説明のしようがない。みなさんも、何でそんな潮流に乗り遅れたと自嘲しつつも、陶器作ってこうやって展示会出してらっしゃるんですか?作りたいから。何で?好きだから。他に理由あります?……いやもちろん、他の名所を出し抜けばオレの名が上がるとか壮大スケールの話でもいいんですが」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-233-

←前へ次へ→
 
 いきなり水を向けられる。何か用意していたわけではなく、しかも恐ろしくアバウトな要求。
 正直困ったが、顔出して、手を出して、でも声は出さずにサヨナラ、ってのは、自分が聴衆だったら納得行かないとは思うだろう。大人の奸計ここに極まれりの感もあるが、それならそれで、ただの人寄せパンダじゃないトコ、れぞんでぇとる発揮するまで。無論陶器ウンチクからっきしだが、常滑に半月いたなりのことは言える。
 マイクが来た。
 一礼していきなり始める。
「星が降った日の昼下がり、レンガと土管の小道を彷徨って、最初に持った感想は、『げっ!』でした」
 会場が笑声で沸く。王女というステイタスと“げっ”というスラングのアンバランス。
 レムリアはその辺の効能を良く心得ている。まずは笑いで心を捉える……はよく使う手だ。だから、面白いネットスラングを東京からちょくちょく仕入れる。ただ、副作用として、TPOをわきまえず、つい口をついてしまうことがある。
「友人宅で見せられた茶器が、いかにもこだわりの職人が昔気質の手法で作った、そんなものだったせいかもしれません。六古窯とパンフレットに書いてあった先入観もあるでしょう。なんで1000年続く作陶の街に、原宿の裏通りみたいなお店並んでんのよって」
 言うと、受賞者の中に頷く顔があり、好々爺のように目を細める。嬢ちゃん、よく判ってるじゃないか。そんなところか。
 つまり少なからず、あの店々に眉をひそめている人が多いのである。煙突の工房……街のシンボル的な存在の文字通り“後釜”に、全くつながりを持たないものが入ったのだ。そのシンボルをただ利用して金儲け、そんな印象を持つのも仕方あるまい。まして、会場の方々の年齢層は、この地に根を張るかの如く、と言えようか。違和感拒否は当然の反応と言えるかも知れない。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

総武快速passing love ~東京~

~東京~
 
「おじさん、子どもいるのか?」
「いねぇよ。天涯孤独」
「え?じゃぁオレと一緒だ」
「母さんいるんだろ?」
「継母だよ。何とか言う施設にいたんだ。おじさんもか?」
「一人っ子が就職したところで、両親が火事出して死んだとさ。駆け落ちだから親戚が誰なのかもわかりゃしねぇ。乗り換えるぞ」
「ああ、こっちの電車だ。そうそう南砂町」
「で?ここからどこへ?歩ける距離か?タクシー使うか?」
「待ってくれ。ママの字だ」
「ああ伝言板か……よく見つけたな。何て?」
「『ひろきへ、もう疲れました。帰ります。さようなら』……おじさん、東京駅のバス乗り場ってどこだい?」
「バス?路線バスか高速バスか。君の母さんはどこへ帰ろうと?」
「海の見える遠いところ。東京駅からバスで行ったことがある」
「高速バスか。さあもう一度東西線だ。海の見える所っていっぱいあるぞ。バスにはどのくらい長いこと乗った」
「わからない。寝てるうちに着いた」
「覚えてる範囲でいいから。首都高速は使ったか?何時頃のバスに乗った。太陽はどっちに見えた?」
「昼頃のバスで渋滞になってた。太陽は後ろの方だった」
「東か北だな。どの辺で寝たんだ。レインボーブリッジか、アクアラインの海底トンネルとか覚えてないか」
「覚えてない」
「寝てたって言ったね。着いてから起こされた?着く前に起きてた?」
「着く前に起こされた」
「どんなとこ走ってた?」
「夜だったし……あ、海のそば」
「海はどっちに見えた」
「こっち、そう右」
「だったら茨城、福島、宮城……その辺かな。さぁ大手町から歩くぞ」
「え?東京じゃないの?」
「地下鉄の大手町と東京駅は地下道で繋がってるんだよ。それだけじゃない、有楽町から日比谷まで地下で歩いて行ける」
「おじさんよく知ってるね」
「雨に濡れたくないと思うと色々調べるのさ。さて高速バス乗り場はこの辺だが」
「ひろき!」
それは彼の母親だった。苦労したのだろう、やつれて老けた感じの女性であり、大きなボストンバッグを手に、バスターミナルから東京駅側へ戻ってこようとしていた。そこに出くわしたわけだ。オレは抱き合う母子に「つまり一緒にいろという天からの啓示だ」と告げてそこから去ろうとした。すると、濡れた小さな手が後ろからオレの手を掴んだ。
「だったら、おじさんと出会えたことも神様の仕業だよ。僕の父さんになってよ」
 
(終点)
 
←新日本橋出口→

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-232-

←前へ次へ→
 
 それは言うまでもなく、自分がここで駄々こねて拒否したら、この方々の面目は丸つぶれということ。無論、真由の父親にも悪影響が及ぶであろう。
 ……大人の奸計、は言い過ぎか。ちなみにそれこそ、博覧会の時には自分の方が大人を出し抜いて振り回した(それなりに楽しかった)わけだが。
 因果応報とはこのことか。
「承知致しました。場所と時間を」
 レムリアは目を伏せて言った。傍らで真由の父親が安堵している様子。ただもちろん、単に行って、その場に座って、ニコニコしてれば事が済む。とは思えない。
 昼過ぎ。
 表彰式の会場は空港のイベントホールであった。自分のでっかいパネルがバックにセットされ、地元テレビ局のカメラまで入って、相当、大々的に開催された。レムリアは文句なくサプライズゲストであり、紹介されて入場すると、詰めかけた観客は大げさなまでにどよもした。
 しかも、これも予想通りと言うべきか、受賞者が次々握手を求めてくるので座っていられず、しまいには人間国宝氏の傍らで副賞を手渡すアシスタントプレゼンター状態になった。
 なお真由の父親は“奨励賞”……要は佳作であった。
「望外だ」
 それでも真由の父親はそう言って喜んだ。悩み抜いた末の夜明けの触発。急ごしらえの割には……の受賞だったせいもあるだろう。ちなみに作品は茶碗で、名を“早暁の獅子”。自然釉の青緑と、朱泥が窯変した赤黒が、ちょうど夜明け直前の空のようなグラデーションを描き、火の粉と共に飛んだ灰のせいか、釉が幾筋か、流星の如く表面に走っている。
 一通り盾やら賞状やら行き渡った。
 司会者男性がマイクを取る。人間国宝氏と何やらひそひそ。
 そして。
「それでは、折角ですので、わざわざ常滑の茶器をお求め、とのことでおいで下さっている、メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下に、常滑焼きについて、一言頂ければ幸甚に存じますが……」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-231-

←前へ次へ→
 
「か、かっこいい……」
 真由が呆然。
「そお?」
 レムリアは姿見の自分を見る。袖なんか少し長いし、肩もズリ落ちやしないかという感じなのだが。
「しかし麻子さんの服……」
 フクザツ。
「似合ってればいいんじゃない?」
「ああ、有効活用ってヤツだよ」
 娘と父はあっさり言った。それは一聴すると非道い発言のようにも思えるが、
「あいつ、携帯置きっぱなしだから、どうにも連絡が取れないんだよ。そのくせ公衆電話の着信がちょくちょくあるんだ」
「あの女(ひと)、服のたたみ方ヘッタクソでさ。一旦クリーニング出そうかと思ってたんだよ。そのスラックスだってホラ、後ろ2本線……」
 それはさておき、待たせた客人の前に出向く。タタミの上で正座し応対。
「……私が。ですか?」
 人間国宝氏の来意を聞き、レムリアは自らを指差し、問い返した。
「ええ、今般の姫殿下のご光臨は、本来は、この街に焼き物をお探しにいらした。と伺いました。殿下御自らのご意向とは光栄の至りここに極まれりと存じまして。まこと急ではございますが、本日の表彰式にご臨席賜ればこの上なき慶びと、無理を承知で伺った次第でございます」
 人間国宝氏に頭を下げられる。腰に負担がと心配になるほど平身低頭。
 やめて……壮大スケールの敬語の連発。痒い。私は普通のお転婆娘ですって。それに。
「でも私は陶器は無知ですよ。何となくいいなと思っただけですし。物知らずが偉そうに皆様と一緒にいるのはそれこそ恥知らず」
 一応は断りを入れてみる。しかし……予想通りと言うべきか。
「いえいえ。殿下が常滑焼きに興味を持って下さった。その殿下抜きでどうして式が成立しましょうや」
 聞こえないようにため息一つ。自分が出る意味付けが判らないが、重鎮と呼ばれる地位の方であろう。その方がここまでして。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-230-

←前へ次へ→
 
 抱きしめてしまうと、彼女は泣いた。キチンと本人の口から相手の顔見て言うべき、それは譲れないというのが持論。親との連名でもらった書面がその前段階、なら、受け取ってもいい。
 でもまぁ、急かせば彼女は自身を責めるであろう。そこまでするつもりはない。自分と会っただけでも大きな変化だ。なら、いずれ本人にも、となろう。
 ひとりで抱え込むと苦しいよ。レムリアは自分のメールアドレスを伝え、引き上げた。
 そして日曜日。
 恭しい言葉遣いの白髪、或いは禿頭の紳士数名が、紋付き姿で真由宅工房を訪のうた。
 応対に出た父親が目を剥く。その数名の中心に集合展の審査委員長にして重要無形文化財……すなわち人間国宝某氏の姿があり、頭を下げたからだ。
「……せ、先生!?」
「博覧会の、姫君が、こちらにと、伺いまして」
 敬語を使うべき立場の人物に、逆に敬語を使われ、真由の父親は目を白黒。
 ちなみに人間国宝氏の耳に“ホームステイプリンセス”の情報が入ったルートは、由香の祖母が加わった団体に陶芸愛好家がいて……という次第。
「あ、ああ。そういうことですか。ええ、確かに。その方ならウチに。お、お~い、お姫さんちゃん」
 無茶苦茶。
 その時刻、レムリアは真由のパジャマを借り受けて寝ていた。こういうの寝耳に……何だっけ。
「ちょ、ちょっと待って頂けます?」
 正装で見えた相手にぶかぶかパジャマでもあるまい。かと言って、フォーマルな服装は借りる必要があるのは前述の通り。
 そこで真由がぶっ散らかしたのは何と麻子の衣装ケース。号数1つ違うが、リクルートスーツとおぼしき紺色で地味なスラックスとジャケットが発掘された。
 しかし、それがショートカットにピタリと合致してクールに決まった。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-229-

←前へ次へ→
 
 その理由。まず背景きっかけ。英語のテストで“クラス1位”の地位を奪われたこと。そして、親からそのことをギャンギャン罵られたこと。
 で、はけ口を真由自身に向けた。しかし実際には真由は英語満点で当たり前であり。
 やきもち焼いて申し訳ない。恥ずかしい。……というわけなのであるが、その実は敗北者意識ではないか、とレムリアは思った。悪いのは自分という認識自体はある。だが、真由に頭を下げるのは“屈辱”という意識もまた(まだ?)ある。
 そう思った元は、例のゲシュタルト崩壊おばさんの娘である。彼女を自暴自棄的な暴力へ追いやったのは、私立進学校への受験失敗だ。そこには、親の要求通りにならなくちゃ、それで当然、という強迫観念が背後に存在した。すなわち親による心理行動の束縛。……何のことはない、いじめの構図そのものである。
 同様で、この彼女には、“トップであるべき”という心理が無意識裡にこびりついているのだ。自分イコールトップという方程式である。
 いじめの加害者は、実は自身、どこか被害者であり、その傷ついた心のバランスを取るため誰か傷つける。諸因はさておき、それがいじめの基本的構図ではないか。……レムリアの一つの結論。
 ハッパ掛けるつもりが、受け取る側にはプレッシャー。
「オランダ来る?むしろ自分で好きにレール敷いて、好きな方へ行けるよ?」
 どうしても、というならそういう手もある、そんな意味で提案してみる。この街にいることが屈辱であるなら、ここにいなければいい。
 すると。
「さすがにそこまでは……」
「だったらちゃんと……」
 が、無言。
 そこで、
「しなくてはいけないこと、とは判ってる。でもそれはできれば避けたい……か」
 言うと、彼女は頷いた。
「ごめんなさい……」
「私に謝ってもしょうがないじゃん」
 首をすくめるだけ。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-9-

←前へ次へ→
 
 私たちの存在を見つけた彼ら獣人……動物形ヒューマノイドたちが集まってきます。
〈人間さん?〉
〈妖精さんだ〉
〈妖精さんと人間さんだ〉
 彼らはコミュニケーションに声と言語は用いません。テレパシーによる意志の交換のみ。
「この女の子が別れた犬と会いたがっています。誰か知りませんか?」
 私は言ってかおるちゃんの記憶にあるジョンのイメージを彼らに送りました。
 チラシを配るようなものです。そして受けた彼らはその情報をインターネットの発言デバイスのように仲間内に広げてくれます。
〈犬か〉
〈オレは知らない。誰か知ってるか?〉
〈犬なら関係ない〉
 猫はクールです。
〈動くより、ここでこのまま少し待ってるといいよ〉
 誰かがアドバイスをくれました。
「そうするよ。ありがと」
 私は答えて待ちます。
〈妖精さんが来てるよ〉
〈妖精だってよ〉
〈人間の女の子もいるぞ〉
 そうした情報も飛び交います。応じて広場に集まる動物形ヒューマノイドが増えて行きます。
〈人間なんか何がいいんだ。オレは絶対ここから出ないぞ〉
 そんな声がして、広場の(心の)ざわめきが静まりかえりました。
 一同の視線が広場の奥方に集まります。ずいぶんと汚れた感じの痩せた犬です。
「あなた病気じゃない」
 それはかおるちゃんでした。
「お姉ちゃんここに病院は?」
「気持ちが身体の状態に出てくるの。だから、あの子は心が病気」
 身体と見える物は心が形になっているだけです。その筋の用語で霊体とか幽気体とか。
〈妖精さんは黙っててもらおうか〉
「人間が憎い……」
 私は彼の気持ちを知って口にしました。
〈ああそうだよ。売れるからって無理矢理子ども産ませてちょっと他と違うからって捨てやがった。人間とは真のパートナーになれる。そう聞かされていたんだがね〉
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-228-

←前へ次へ→
 
「根性入れてついて行きます」
「そうじゃないんだ。それでもちゃんと学校の単位取ってる」
 夢子はハッと顔を上げた。
「あなたなら、正義のフリした暴力に立ち向かえる心根は持ってると思う。それは凄いこと。でも、その前に忘れちゃいけない。あなたも中学2年生」
「だめ……ですか」
「そりゃそうよ」
 うなだれる。
「でもね」
 夢子は再び目を上げた。
「とりあえずクリスマスシーズンまた来るから、その時に付き合ってフィーリング掴んでみてよ。……あなただからこそ解り合える、あなたが必要な子達もいるし」
「自分を……必要……」
「心を開くマスターキーはないってこと。私がだめでも真由ちゃんならOKだった。由香ちゃんには話してくれた。当然、夢子ちゃんだからってのも、ね。まぁとりあえず、期末テスト頑張って」
「はい。でも……あきらめませんよ。姐さん」
「判ったから、アネさんやめようよ」
「本当ですか?姫姉さん!」
 ぶっ!
「結構、ウソツキかもよ」
「え?ひどいですぅ~」
 普通の、女の子じゃないか。
 
 そのまま、日曜までレムリアは真由の家で過ごした。体重が2キロ減っており、自分として体力回復の必要性を感じたのと、真由の父親に引き留められたためだ。例の展示会の審査発表と表彰式が予定されており、作品は自分がいたからこそ生まれた側面もあるので、審査結果はどうあれ、最後まで見届けて欲しい。と言われたのである。
 真由と過ごしていたので退屈はしなかったが、その間に変化が一つ。先の“燃え尽き症候群”の娘とコンタクトが取れた。
 彼女からの謝罪は手紙で来たのだが、“もうすぐ帰るけどその前に会えない?”と試みに誘ったら応じてきたのだ。
ちなみに、直接の謝罪を問うと、変わらず“会わす顔がない”と言う。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-227-

←前へ次へ→
 

20

 
 仰向けに寝かされている、とまず判った。布団のぬくもり、畳の匂い。
 次いでゆっくりと目を開くと、3人の娘が自分の顔を覗き込んだ。
 真由と、由香と、……化粧をしていない夢子。
「姐(あね)さん!」
 夢子の開口一番に、レムリアは吹き出しそうになった。
「は……は?」
「姐さんに惚れました。弟子にして下さい」
 頭を下げられる。そう来られてもいきなり何がなんだか。
 上半身を起こそうとするが力が入らない。真由と由香が手を貸してくれる。
 その傍らで、夢子は信長の前の木下籐吉郎のように、平身低頭。
「ちょ、ちょっと待ってね……えー前後不覚になったのは覚えてます」
 言うと、真由と由香が“その後”を続ける。ぶっ倒れて救急搬送。熱が41度。
 風邪と過労と脱水症状、が医師の診断。心労もあったであろう。更には木枯らしの中、薄着のまま自転車に乗り、走り回った。これがとどめを刺した形。
 声を枯らして叫んだ話は、最早昨日のことと化していた。
 以上説明される間、夢子はずっと頭を下げたままそこにいた。
「魔法の呪文は唱えてくれた?」
「それがね……」
 真由曰く、彼女の父は評判のいい人物ではなく、スーツの裏に龍の刺繍の男が丁重に頭を下げに来た。……後に聞いたが、真由の父は死ぬかと思ったと漏らしたとか。
 だから、彼女は避けられたのである。
「そんな自分に……姐さんの侠気に惚れました。ぜひ弟子に……」
「あのねぇ……」
 オトコギって……何言やいいんだか。
「アムステルダムでもお供します。親父にも了解取りました」
 そういう問題でなくてね。
「週末は国際特急で孤児院を回ってる。3週に一度は空飛んで地球のどこかに行く。2月に一度は1週間くらい野戦病院やキャンプに行ってる。戦乱災害があればランダムに呼び出し」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-226-

←前へ次へ→
 
 生徒達、ひいては教員達の目が自分に集まっていることが判る。メタモルフォーゼのナイフの少女もぽかんとばかり自分を見ている。少しすすり泣くような声もある。
 伝わった。それが実感。
 守った。それは満足感。そう多分、自分はこの愛しい友なる娘達がこれ以上傷つくであろうことを防いだ。いつだったかベンガル湾岸で船が着くまで2時間、幼子の心マッサージを続けて命を繋いだことがある。やはりミラクル・プリンセスだと自分のことを皆が囃した。でも今思えば、それは単なるテクニック。方法と体力と、少しだけ違うならトリアージ(※)突っぱねて諦めなかったことだけ。例えばロボットでも出来る話。
 だけど、心はそうは行かない。心は、心でしか動かない。心の持ち主が自ら動こうと思わない限り動かない。
 その観点からこの注目はまず間違いなく。後は、あの感謝状と一緒に、記憶しておいて、伝えてもらえばそれでいい。そうすれば今後いじめが起こらないとまでは言わない。というかそれはあり得ない。でもその芽はすぐに見つかり、摘まれる。
 背後演壇を振り返る。並ぶ生徒達と同様に、演壇から自分を見ている友なる娘達。
「ごめん、イベントジャックしちゃった」
 笑ったつもりだが笑顔になったかどうか。頭がふらふらして身体に力が入らない。脳の指令に対し、言葉や、手足の動きが少し遅れている気がする。
「ううん、ううん、そんなこと……姫ちゃんどしたの?顔色悪いよ?」
 心配そうな真由の顔は覚えている。
「ああプリンセス!」
「メディア姫!大丈夫ですかメディア姫!気を確かに……」
 シスターと、坂本教諭の声は聞こえた。
 そこから先の記憶がない。
 
※トリアージ(Triage)
 元はフランス語。災害医療において、その場の救命資材、人員に基づき、傷病者を重症度と緊急性によって分別、救命処置を施す順序を決定する方法。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-225-

←前へ次へ→
 
 視界がゆらゆら歪むので、目を拭うと指が濡れた。
「いじめってフレーズ出てきたので最後に言います。そんな先生方であっても、もし、いじめられてますって告白してくれた生徒がいたら、絶対に、絶対に、その理由を当人に尋ねないでください。責任の所在を考えさせないでください。いじめられたことに自責を覚えるような発言はしないで下さい。万が一原因が本人にあったとしても、誰かの仕返しに過ぎなかったとしても、その時点で傷ついてるのは本人です。本当か?とすら訊かないで。僅かでも疑われてると感じれば、更に傷つくだけ。だからただ、判った大丈夫だって言ってあげて、そして、それを行動で示してください。大人が子どもを守る。生物人間の原理原則に従うだけ。簡単なことでしょ?。そして、絶対に回復を急がせないで。心の傷がどれだけ深く、治るのに時間が掛かるか。大災害のその後追跡の番組見れば明らかでしょう。ちなみに、先の彼氏は言いました。就職すれば、1年2年の年齢のズレは何の問題にもならないって。浪人したって、1年ならお前1年遊んだかワハハで終わるって。なら別にいいじゃないですか。たとえ1年くらい回復に時間掛かったって。そしてそれから、ゆっくり、本人の話を、三度言いますが、まずは最後まで、聞いて上げて。いじめは、子供のケンカじゃない。ただの嫌がらせなんかじゃない。心をナイフでえぐり取る有形無形の暴力。だから話を断ち切らないで。勝手に決めつけず最後まで聞いて。お願いだから。お願いだから最後まで聞いて!」
 声が枯れた。
 空っぽ。そんなフレーズが頭に浮かんだ。そのフレーズの代わりに、何も言葉は残っていない。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-224-

←前へ次へ→
 
 少し間を取る。喋り過ぎて呼吸のバランスが崩れたか、なんだか頭がボーッとする。
 でもまだ終わってない。
「もう一度言います。あなた達バカだから。先生、最後まで話を聞いて。目覚める13、荒ぶる14、焦り戸惑う15歳……私が作ったんですけどね。皆さんがガキと認識してる15歳。なのにそこでいきなりこう言われる。義務教育はここまでだ。今後どうするか自分で考えろ。但し選んだ道に進めるかどうかは自分次第だ、って。社会に出るにせよ上の学校に進むにせよ、その先は誰も保証してくれないんです。ガキからいきなり、独立するかどうかまで含めて、自分でどうにかしろと言われる。ガキだとあしらわれ、次の瞬間お前もうガキじゃないから。子どもだから親やセンセの言う通りしてろと言われて、突然その先は何も無い。この不安、心配。どうにかしろと言われても、どうしたらいいか判りませんよ。だって、経験が生かせる、類推が効くならまだしも、そうじゃないんだから。そこへ放り出されるんですよ?こんなひどい話ありますか。……そして、同じ経験、それこそあなたたちにもあったはずなのに、何で同じひどいことするんですか?配慮してくれないんですか?。何かあったら言ってこい。何てありがたいお言葉。でも、配慮感じない人間に言いたいと思うわけがない。だから、みんな言ってくれないんですよ。大事なこと言いに来てくれないんですよ。『特に何も言ってきませんでしたので』……よくいじめ自殺で聞く会見です。でも私に言わせりゃ、その先生は子どもに見捨てられた大人ってことです。負けですよ。大人の価値無い。異論あったら後で聞きます。今は言わせて。
 先生という存在だけはみんなに平等。家庭が複雑でも、友達関係で問題があっても、先生という存在だけはみんなに平等なんです。さっきも言いましたけどね。そして繊細な時期に時間が勝手に不安を押しつけに来るわけです。ただでさえそれなんです。そこで相手にしてもらえない。真面目に話したつもりなのにあっさりとスルーされる。それが、どれだけ、どれだけひどいことしてるか、傷ついてるか。何のことはない、あんたがたやってること、いじめそのものですよ。相手の受け取り方の配慮を欠いた無遠慮な言動、それによって人が傷つく。いじめ以外の何物でもないじゃないですか。いい年こいて何してんですか。不惑だ50で子ども相手にいじめだなんてバカじゃなきゃ何ですか?」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-223-

←前へ次へ→
 
「ルール破ると怒るぞ!と言えばいいと思ってる。言い聞かせれば言うこと聞くと思ってる。振り返ってお前達どうなんだ。そんな私たちの言うこと聞いてくれないじゃないか。そんな不公平なことあるか。
 だから。私たちは言わなくちゃだめ。あしらわれてもはぐらかされても、噛みついてしがみついて、耳のそばでデカい声出す。いいかこの毛の生えた耳の穴かっぽじって良く聞けって。
 いじめられてるみんな。こいつらそんなわけで鈍感バカだから、そぶりで気付いちゃくれない。いじめられてるって言うだけでもだめ。子ども同士の些細ないさかい程度にしか考えない。だから、こう言って。学校のこと考えるだけでイヤだって。あんな学校行くなら死んだ方がマシだって。じゃあ学校行かなくていいって返ってくるまで、言い続けて。そして、それでも聞いてくれなかったら、学校行かなくていい。行くなそんなところ。何わざわざニコニコ装って傷つけられに行く必要がある。籠城して徹底抗戦。親だもん、遠慮することあるもんか。親なら子どもの言葉聞け。親なら自分の子ども守れ。聞いて理解してそれから答えろ。聞き終わる前に決めつけるな!判ったつもりになるな!
 それから、悪口言った、悪口書いた、嫌がらせした覚えのあるヤツ。多分、お前らが考えてる以上にその言葉は誰か傷つけた。気持ちいいかい?だけど普通に考えな。口から毒吐く人間誰も好きになってくれない。傷つけて覚えた快感の分だけ、付けた傷の深さの分だけ、お前らは嫌われる。断言する。大体、お前ら自身、自分のことアホバカ言うヤツ好きになるか?マゾか?違うだろ?おっと、ひとりで生きて行けるから関係ねぇとか思い上がるなよ。誰のカネで飯食ってんだお前ら。ひとりで生きてると主張したいなら事実で示せ。一国一城の主になって、テメエでカネ稼げるようになってから言え。そうでないなら被扶養者として粛々と義務果たせ。親にぶら下がってる分際で態度でかいよ。おとなしく口閉じて、呪文を唱えろ、ごめんなさいって。それから、何で口から毒を吐きたくなったか、誰かに言え。お前の秘密を守ってくれる誰かに言え。言うだけでいい。そうなっちゃっただけなんだ。だから秘密を話してくれる限り、誰もお前達を咎めない。
 その誰か……実は学校の先生って存在にはそうなって欲しいんですけどね。毎日、毎年、同じことの繰り返しのルーチンワーク。ええご説ごもっとも。でもね、過ぎ去って行く私たちから見れば、かけがえのないたった一度。そんなある日、勇気振り絞って恐る恐る告白すると言い返される。いじめられる方にも問題あるんじゃないのか。仲介はするから自分で何とかしな。
 蹂躙ってコトバ知ってますか?でも何が蹂躙に値するか知らない。え?そんなことはない?そういう風にしか見えないよ。多面体ゲシュタルトがカシャーンと砕ける。言ってること判らない手合いは教員なんかやめて出てって。硬くてもろいダイヤモンドを扱える人間じゃないから。私ら、自分が否定されるとひどく傷つく繊細な10代なんだ。
 だから、お願いだから最後まで話を聞いて下さい。途中で遮らないで。遮ってそれはこうだろと急いで結論づけようとしないで。確かにあなた達は経験豊富。一を聞いて十が判る。前にもあった話でしょう。あーあーそうか、判ったもういい、それはこれだよ。恐らく正解かもしれない。
 でも、その時と今そこで話している生徒は違う。人間はロボットじゃない。一人一人皆違う個性を持った独立人格。全く同じなんてあり得ない。だから、あなた達の決めつけは絶対に正確ではない。似ていても少し違う。同じようでも微妙に違う。最後まで一通り聞いて、経験発揮して欲しいのはそこから。こうじゃないの?こうとちがうの?こういう視点だとどうかな?って。コミュニケーションってそういうもんでしょ?
 そして、話して来ない生徒がいたら、話を振って上げてください。おう、お前何が好きだって言ったっけ?……実際そんな話したコト無くてもいいんです。それでも構わないんです。話しているのが当たり前、そんなつもりで言葉を掛けて。何も言って来ないから問題ない……良く聞くセリフ。でもそれ本当でしょうか。言えないだけかも知れない。話してくれと言っても、内容が大事であれば大事であるだけ、過去に付き合いのない人に話を振ることなんか出来ない。初対面に人生相談しますか?
 私の彼氏……でもキスすらしてませんよ……仕事人です。でもまだ研修生という分際です。夏まで毎日、製造ラインで電子回路作ってました。その彼がこう言われたそうです。『製品チェックはOKかどうかを見るんじゃない。NGを探すんだ』って。何もないからOKだ、これじゃNG見つからない。見つかった時は手遅れリコール……でも人間にリコールは効かない。言ってる意味判りますよね。
 もちろん、それを生徒何十人。確かに凄い手間でしょう。それは理解します。書類作りだ授業の準備だいろんな雑務、持って帰っても終わらない。センセイという職業のストレス聞いて知ってます。だけど、ここで先生達に勇気が欲しい。そういうことで進捗だ何だグチャグチャ言う上司がもしいたら。逆に言い返して欲しい。その書類の期限と子どもの心、どっちが大事だって。手遅れになって危険なのはどっちだって。学校の主役は誰だって。
 生徒達みんな環境バラバラです。家庭のこと訊くと口をつぐむ子もいるでしょう。でも、先生という存在だけはクラスにいる限りみんなに平等。その先生が砦になってくれなければ、生徒達ドコに身を寄せるの?子どもに頼られる大人こそ、野性の生存本能を残す子どもに慕われる大人こそ、生命体人間として最強というのが私の認識ですが間違ってますか?」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-222-

←前へ次へ→
 
 これは教員も含めてウケた。笑いが収まるのを待つ。
「冗談はさておき真面目なこと言います。皆さんの生きてきた15年は、皆さんにとってそれが全てです。でも後ろにおわしますバカ様たちや、皆さんを生み育てたバカ様達は、15年が三分の一か四分の一、いや人によっては五分の一……二分の一だったらそれはそれで逆に尊敬に値しますが」
 笑いが付いてくる。
「そうするとね。15年がひとまとめになってしまうらしいの。皆さんが毛の生えた子どもと変わらない。幼稚園の子どもに毛が生えた程度にしか感じられない。その毛の生えたヤツに更に毛が生えたか、或いはとっとと毛の抜けたヤツが何ほざくって感じだけどさ」
 笑いと拍手。
「ありがと。だから、こっちが幾ら深刻に思っていても子どもの戯言になるわけよ。で、私らもどうせそんな反応しか返って来ないと思うから、つい何も言わなくなっちゃう。でもそれじゃだめ。だってバカ相手にするんだから。バカには何度も言って聞かせなくちゃ。それでも判らないならどやしつける。……っだおめぇ!人が真面目に話してんのにその態度はねぇだろ!って」
 この最後の一文、レムリアはステージ床を蹴りつけ、ドスを利かせて叫んだ。
 先の発声法も作用したであろう。先頭近くの生徒がのけぞる。
「あきらめず声を上げ続けなきゃだめなんだ」
 息継ぎ。そして胸に手を当て。
「聞いてくれるまで、理解してくれるまで、言い続けなきゃだめなんだ。だってこいつらバカだもん。私判ってる。あなた達は子どもじゃない。子どもに毛の生えたようにしか見えなくても、ここの中は子どもじゃない。思ってる考えてる人間なんだって判ってる。でもこいつらそうじゃない。自分たちの言う通りおとなしくしてろガキとしか思ってない。ぺちゃんこのムネの谷間に立派に人格が出来上がってることに気付いてない。ひょっとしたら気付かないふりしてるのかも知れない。だから、思い通りにしようとするし、思い通り動かないと判った瞬間から、何のかんの難癖つけてくる。じゃぁお前達何してるんだって。人殺して風俗作ってギャンブルやって、だけど子どもは見ちゃいけませんって、隠したつもりかお前らバカか」
 レムリアはその言葉を居並ぶ教員達にぶつけた。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-221-

←前へ次へ→
 
 見渡す。
 沈黙と注目。まぁ、この展開では唖然とするより他あるまい。
 唖然ついでにその注目を得て少し目を閉じる。両の耳に手を添え、耳を澄ます仕草。
 目を開ける。
「みんなストレス抱えてるの感じる。原因は何だと思う?成績?後ろで偉そうなセンコー?うるっせぇ親?ううん多分違う」
 思い浮かぶまま口にする。本当は出しゃばる気は無かった。こんなこと言う気もなかった。
 だが、もう我慢できない。
 多分、今言うべきは、全然無関係な自分。成績も、教員の心象も、関係ない自分。
「判ってくれねぇ。聞いてくれねぇ。なんでそうなるんだよって。違う?」
 大きめの声に、多少頷く顔有り。
 続ける。
「何でか判る?答え簡単。大人どもってバカだから。鈍感で自分勝手な大馬鹿だから。だってそうでしょ。こいつら今の私たちと同じ10代ミドルティーン通って来てるはず。私たちの気持ち判るはずなんだ。なのに返ってくるのは、勝手にしろとか、自分で考えろとか、子供のケンカだろとか、おざなりのなおざり。なんでそうなるん?お前たちだって同じ立場だったんちゃうん?なのに判んないってどんだけバカなん?……って言いたくない?」
 早口になる自分に制動を掛けるため、少し間を置く。
「何でバカなん?答え書いてあるトコ知ってる。エジプトのピラミッド。紀元前2500年古王国時代のご存じでっかい三角形。あれの中の石にね、当時の現場監督が、作業日報と一緒に刻んだメモにこう書いてあるんだって。“全く最近の若い者は”って」
 少しクスクス笑い。ちなみに、この情報の確かなソースをレムリアは知らない。
「で、ちょっと計算。4500年前。人間の一生は先進国だと平均75。当時は50か。中間とって60としようか、4500を60で割ってやると」
「75」
 暗算得意なのであろう。答えがもたらされた。
「ありがとう。75世代。最近の若い者はってフレーズ今でもあるでしょ?ってことは、その間ずっとぼやき続けてるわけよ。最近の若いもんは最近の若いもんは最近の若いもんは……75回目のこいつらどんだけバカなん?って」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-220-

←前へ次へ→
 
 案の定、夢子の手が動きかける。やはりこれは彼女に取り大事なものだ。
 少し超感覚。まず判ったのは、この質感佇まいは、超感覚のいう限り本家の作った手作業本物と思われること。見分け方があると思うが、正直今は偽物でも構わない。
 なぜなら。
「お前これ本物じゃん。良く使い込んである。買った?もらった?」
「……親父」
「じゃぁ、持っておけよ」
 丁寧に刃を戻し、手渡しし、握らせる。
 夢子は目を剥いた。なお当然、刃物を持ち歩くことは校則で禁止である。
 だが、レムリアは、教員には渡さなかった。
 このナイフの存在が、彼女と彼女の家族……父親とを繋ぐ絆と判ったから。だとすれば超法規。
 この子のレゾンデートルが“現金のみ”じゃないだけ、マシだから。そういう“ホントはいけないんだよ”な話は、彼女が真由ちゃんに頭下げてからでいい。税金ドロボーでマフィアのボスをしょっ引くのとは違う。
「返すよ。その代わり約束だ。肥後守は小加工が主な用途で人を傷つける物じゃない。護身用としてもだ。……お前の父ちゃん、それ持って毎日遊んでたと思うよ。枝切って刀にしてチャンバラごっこ、釣り竿作って、釣り針作って、ミミズで釣りして魚捌いて。多分バカ高いゲームよりナイフ一本の方がよほど遊べるんじゃないかな。それがいつの間にかあれもダメこれもダメ。そもそもどこで遊ぶんだい。金を使うかゲームしかないじゃんか。どっちにしたって欲しいのは金。それでちょっとギラギラするとPTAがしゃしゃり出て来て子どもは刹那的になったとのたまう。そんな社会に誰がしたんだバカなオトナ共が」
 レムリアはそこで、ステージにひょいと飛び上がった。
 一体何者……そんな注目を一身に感じる。だったら。
「みなさんごめんなさい。全ての仕掛け人はこの私です。というのも、大体判ったと思うけど私の友達が、いじめられてた。他にも、多分あるんじゃないかと思う。でも、でもね。別につるし上げするためにこれ設定したわけじゃない。むしろその逆。こうやって解り合えるって証明したかった。ただそれだけ」
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-219-

←前へ次へ→
 
「この辺は要らないと」
 手のひらを開いてバサバサ落ちてきたのは、タバコにライター、折りたたみナイフ“肥後守(ひごのかみ)”、化粧道具一式。
 突然のマジックに夢子は開いた口が塞がらない。
 ええい面倒くさい。
「(偽りの装い暴かれて然り)」
 口にし、夢子の頭部を前後から両手で挟むようにし、そして手を戻す。
 館内がどよもした。
「ほれ」
 レムリアが出した手鏡に映ったのは、頬にニキビの女の子。
 赤茶の髪も黒く戻り、しかしくしゃくしゃ。
「あ、お前何しや……」
「お黙り。その顔で化粧したらニキビが悪化するだけ。お肌の細胞だって呼吸してるのにフタしてどうする」
 言いながら背後に回り、その髪の毛を左右に分け、黒ゴムでまとめてツインテール。前髪はピン留め。
「メタモルフォーゼ」
「可愛いじゃないか」
 坂本教諭が言い……夢子の頬が薄紅に変わる。
 レムリアは薄紅の頬に軽く手で触れると、まず床のタバコを踏み潰した。しかし、肥後守は手にした。……理由、さっきのスイッチナイフとこれとは、放つ雰囲気が異なったから。
 と、夢子がハッとしたような目で自分を見る。その目の意味。恐らく、スイッチナイフとこの肥後守は、彼女の中でステータスが違う。その込められた気持ちの差違が、ナイフの雰囲気をも変えている。
 重要なものと見る。レムリアは柄の部分両面を手のひらでくるくるひっくり返して眺め、刻印を手でなぞる。柄は手の脂がサビに馴染んで独特の鈍い光を放ち、他方、刻印はその縁がすり減り、使い込んだ日時の長きを物語る。そのレムリアの動作一部始終を、夢子は目で追う。
 その目線の追跡を、レムリアは“壊されるのはイヤ”の意と見た。
 意の確認のため刃先を振り出す。周囲の小さな悲鳴は誤解に基づくので無視、刃を眺める。古代の“波の化石”のように、磨かれた鋼鉄に浮き出た紋様。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-8-

←前へ次へ→
 
 〝死〟の存在を知るより先に神様の存在を理解するのは、死に対する恐怖から逃れたある意味幸せ、魂の自由を得た状態なのかも知れません。
 私たち形而上の存在が抱く心理に近いのかも知れません。
 でも、地球に生まれた生き物として、その状態は妥当なのでしょうか。
「教会では死んだ人はどこに行くって教えてもらったの?」
「神様のところ」
「動物は?」
「神様のところ」
「行ってみようか」
「うん!」
 かおるちゃんは即座に頷いてニッコリしました。この辺り人間さんの常識に照らして凄い会話と言えるでしょう。ただ、私の言った〝神様〟はヤハウェではなく、大地の女神ガイア様。
 すなわち地球の精霊。
 かおるちゃんには食事を摂ってもらい、その間にアポイント。ガイア様とは言え、いきなり、普通の人間の女の子を連れて行くわけにも行きません。
 ただ、直接会われることがないではないのです。神隠しという現象をご存じの方は多いと思いますが、その中で帰ってきた子どもが〝神に目覚めた〟パターンは、必要があって形而上側から働きかけた場合が多いのです。
 考えながら、ああ、と私は一人納得しました。恐らくは、今私がこうしてかおるちゃんを連れてきたのもそうした神隠しの一つなのだ。
 果たして管理部門からの反応は二つ返事。私の信じる通りに行動し御前へ。
 フェアリーランドから黄泉の方の天国へ飛ぶことにします。かおるちゃんを抱きかかえ、石を握って呪文一閃。……申し訳ありませんがこの呪文はお教えできません。
 テレポーテーションの要領で次元転移した先は大理石の街並み。
 古代ローマ風の、と書けば端的な説明にはなるでしょうか。噴水を要した円形の広場です。
 そこに集っているのは。
「これ……」
 かおるちゃんは目を瞠り、そのまま唖然。
 道を行くのは頭部だけ動物のそれに変わった多種多様な人々。
 ケンタウロス、ミノタウロス、そして狼男など、獣人、半獣半人にまつわる伝説は説明する必要も無いと思います。
 ホモサピエンスに分類される人がここを見たならば、応じた反応を示すのが当然ではないでしょうか。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-218-

←前へ次へ→
 
「腹割って話せて楽しかったよ子猫ちゃん。いい子ぶるのも大概疲れてたからね。言っておくけどこの手は友達になろうってんじゃないよ。んなとこ這いつくばってたら邪魔だからどけっての。いつまで悲劇のヒロインオフィーリア気取ってるつもりだい早く立ちな」
 レムリアは言うと、時代劇の罪人よろしく夢子を“引っ立て”。
 そして思い切り抱きしめ、赤茶の頭を撫でてくしゃくしゃにした。
 この可愛い子は。
「あ……」
 夢子は思わず、であろう、小さく声を発した……が、それ以上の反応はしない。
 その耳元で囁く。
「レズ気はないよ。だけどお前さんとは気が合いそうだ。今度来た時には友達になろう。みんな私の正体知るとタメ口聞いてくれなくなっちゃってね。それまでにお前のことグイグイ引っ張ってくれる男捕まえとけよ。今度は私が値踏みしてやるから。正体知りたいって言ったね、人呼んで魔女のレムリア。覚えといて。ああ、お前の方から遊びにきてくれてもいいよ。それこそ50万あればアムステルダムまで飛んで来られる。レンブラントくらい案内してやるよ」
「れん……れんぶ……?」
「栗のケーキじゃないよ。教科書開けば出てくる絵描きのオヤジさ。表でも裏でもアタマは必要。今日びバカだとどっち行ったって搾取される側にしかなれない。オレオレ詐欺だってソーシャルエンジニアリングってご大層なカテゴリ持った立派な学問だ。ニートかましても両親くたばればプー太郎。ウリやったってオバンになれば所詮ゴミ。サツにビビリながら中途半端に裏でイキがるより、ゴキブリ退治してヤニ切ってお日様の下でニコニコ過ごした方が結果としてマシだと思うよ?」
 レムリアは言うと、夢子から少し身を離し、彼女のネクタイを締め直し、ブレザーのボタンをきちんと留め、口角の血塊を拭い、もう止まったであろう鼻の脱脂綿を取った。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-217-

←前へ次へ→
 
 目を背けて見ないふりすべきではないし、それで済むものでもない。
 子どもの世界は、社会の縮図。
「アムステルダムまで来るかい?構わないよ。栄のゴキブリが『裏切った』ってトサカにキタところで、来られるモノならここまで来てみろって」
 それは、彼女にも“暴力の枷”が嵌められていると想定しての発言。何のことはない。いじめが暴力を背景に暴力の口止めを計っているのと同じ構図。
「お前日本人じゃ……」
「ないよ。だったらどした?」
「いや、その……」
 夢子は目を泳がせうつむく。少し丁寧気味のその声は、レムリアに対し歯が立たないと感じている風情。
 それはレムリアとして“狙った”結果ではある。恐らく、この夢子という少女にとって初めてであろう、お前なんか怖くないと公言する“いい子系”の娘。それは理解を越えた存在であると同時に、逆に言えば彼女を“避けてない”宣言とも言えるのだ。無論、レムリアの真意は後者にある。そのために、言葉遣いと、少しばかりの事実と実績を加味してみただけ。いささか露骨だったかも知れないが、そこまで言うからこそ“隠し事は無い”という感覚が伴い、綺麗事の箔を剥がし、説得力を持つのだ。
「ボランティアってのはナイフ如きでお漏らししてたら商売できないのさ。いい子ぶりっこのこれ見よがしと一緒にされるのはゴメンだよ」
 レムリアは言うと、立ち上がり、夢子に向かって手を伸ばした。
 対しレムリアを見上げる夢子の目。それは最早崇拝に近いかも知れない。レムリアの態度行動が根無し草の糞度胸ではなく、盤石の大地に立つ大木のそれだと知ったのだろう。
 それが幅を利かせる、夜の世界の経験ゆえに。
 レムリアは小さく笑う。そこさえ理解してくれれば上等。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-216-

←前へ次へ→
 
 しかしその丁寧さと知的水準は、スラングと対極にあるが故に、かえって罵詈個々のどぎつさを際立たせ、ちんぴらで舌足らずな口語で言われるよりも異様に迫力があった。
 意味の判った生徒もあるらしく、そこここからざわめきが聞こえ始める。余りの露骨さに耳を塞ぐ姿も見受けられ、教員の一部にソワソワした動きが見られる。
 しかし坂本教諭は背中越しの制止を続けた。会話が成立しているからである。それはレムリアにしても同じ事。大切なのはカネで繋がっていないコミュニケーションの存在を知ってもらうこと、すなわち“金の切れ目が縁の切れ目”になる心配のない安心感。……彼女の大金の故は現時点では気にしない。
 ちなみにこれらスラングは、実は日曜学校で仕入れた。……そういう環境が世界の全てという子ども達は、そういう言葉しか知らないのである。その日その日の食い扶持を、親が子どもに指示を出し、盗み追いはぎかっぱらい。
 いけないことで神様は見てます、と根気よく教える。自分が持ち込むお菓子が目当てでもいいのである。追ってお菓子をもらった記憶と共に、連鎖的に思い出し、何か一線踏みとどまってくれれば、まずはそれでいいのだ。
 ある5歳の男の子は、ひどい訛りのあるスペイン語でこう言った。
「判ったもう盗みはしないよ。オレのキンタマに誓って(Ya detengo el robo.Doy mis testículos a usted si lo traiciono.)」
 彼にとってそれが最上級の“契りの言葉”なのだ。ヤクザの小指みたいなものだろと東京から聞いた。そして……幾ら公的に認めようとしなくても、今これを読むあなたが不快に感じていても、そういうアンダーグラウンドとその仁義は、この生徒達の手の中に、液晶の窓を介して深淵の口を開けている。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-215-

←前へ次へ→
 
 すると……夢子は乗ってきた。切れた唇の端に笑みを刻み、それが再び出血を招き、レムリアを値踏みするように見回し。
「お前くらいなら50万堅いんじゃねーの?」
「安く見られたね」
 応じたら目が、瞳が開き、続いて歯を見せる。
「だってお前……ムネねーじゃんよ」
「ロリコンはつるぺた好みと聞いたけどね」
 更に応じると、“ちんぴらのニヤニヤ笑い”になってくる。ただそれは夢子にとって恐らく“普段の笑い方”。
「萌えとそういうのは違うんだよ」
「だったらニーズが違うって言いなよ言葉知らないね。すると何かい?顔はロリだが乳だけ牛みたいにでかい方がいいのかい?……って、お前さんも充分貧乳じゃんよ。人のこと言えるかい。しかも肌の色つやも悪い。だから化粧でごまかしてんでしょ?気にするならタバコやめなお歯黒さん。その年で脂肪が乗ってこないってのは異常だぞ?看護師の私が言うんだから間違いない。禁煙外来紹介してやる」
「うっせぇよ」
 そこでレムリアは姿勢を変えた。床に片膝を立て、その立てた膝に腕を載せ、首を伸ばして夢子の顔を見下ろす。
「最も、こんな私でも命がけで愛してる、って言ってくれる男いるけどね。いい加減生意気こいてると舌噛むよお前。私とタイマン張るなら10年くらい山奥こもって腹に寄生虫でも抱いて来な。赤い電車で栄に出かけて、札びらエサにゴミ溜めのゴキブリ集めて、世の中全部知ったつもりかいおバカさん。ナイフ見せりゃ誰だってビビると思ったら大間違いなんだよ。……それとも、そっち首突っ込んで名を上げたいってなら、赤線知ってるよ。アムステルダムには公娼制度があるからね。イタリアからマフィアさんも出張って来てる。口きいてもいいけど、ドジかましてアドリア海に首だけ沈んでも責任は持たないからそのつもりで。あっちだってバカからアシ付いてスコットランドヤードに追われるのはたまったもんじゃないだろうし」

 丁寧な言葉遣いで知性を散りばめた、しかし凄絶なスラング。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-214-

←前へ次へ→
 
 それは、中学生が発するものとして、センセーショナルの極限とも言える隠語であろう。
 当然少なからずレムリアも驚いた。しかし、自分のとりわけ瞳孔にその意が表れるのを強く制した。この娘の意識には、“カラダ”と“奉仕”と聞くと、そういう言葉が出てくる方程式が組まれている。
 それは逆に言うと、彼女が身を置く日常は、その式が成立している空間。
 ひょっとすると……超感覚で探ると涙出そうなのでやらないが、彼女の持ち歩く大金の故はそれかも知れない。一般におぞましく最低・最後だと言われ、小うるさいPTAが本当は最優先で手を差し伸べるべきなのに、存在するわけないと逃げるそれ。
 ……でも、それしかない、それだけが唯一の“繋がり”という女性達とレムリアは話をしたことがある。仮寓アムステルダムの“飾り窓のマドンナ”達。そのマドンナの一人が、まだ12歳だったレムリアに向かって言った、『蔑む視線は感じる。避けられるのは寂しい。だけど、夜は平等に私たちを歓迎してくれる』と。
 夢子は自身が座標軸上にあるかどうかはさておき、その少なくとも漸近線、夜待つ理由と気持ちを知っているのであろう。だったら、流暢に英語を操る“転入優等生”に対極を見てカチンと来た。彼我比較して“下”の気がした。見下されてる気がした。……そして“ムカつかね?”の誘いに乗った。不自然ではない。
 で、あるならば……自分でも対応出来ないこともない。
 レムリアは鼻でフッと笑った。……読者よ以下意図持って彼女は語る。文言だけ見て避ける事なかれ。
「まだバージンのお子様だよ。初潮すら来ちゃいないよ……ったら幾らになるんだい?」
 言ってみる。自分の声が体育館に響くのが判る。多くの生徒がギョッとするような反応を抱いたのが超感覚に寄らずとも判る。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-213-

←前へ次へ→
 
 夢子はその背をぴくり、と震わせたが、それだけ。
 シスターはレムリア同様にしゃがみ込み、その背をゆっくりなでさすりながら
「由香ちゃんと、真由ちゃんは、今は仲良しです。それは、魔法のキーワードを、この姫様から聞いたからです。……私から言ってしまっていいですか?プリンセス」
「ええもちろん」
 異論はない。シスターが口にする呪文が何か、判っている。
 
「“ごめんなさい”よ」
 
 夢子は黙ったまま。
 まぁ、素直には出てこないだろう、とは思う。刃物に頼ってまで地位保全を図るくらいだ。自分が“下”になる、という観念は、この娘にはあるまい。
「今じゃなくていいよ。でも、あなたがそう言ってくれると、信じて待つよ」
「お人好しだな」
「もう一本ナイフ持ってること?」
 言い当てられて夢子は目を剥く。なお、それで再度切りに来るという印象は受けない。自分の“回避能力”の存在を夢子は知った。
「エスパー噛ましたわけじゃないよ。ヘタにヤンキーにナメられてしゃぶられたら最悪だもんね。切り札持って普通だと思う」
 意味。その辺の不良に与しやすしと見られ、暴力をカサに大金巻き上げられたら甚大なショックでしょ?
 だから“心理的に他者の上にあるべき”が行動原理として身に染みついており、その拠り所がナイフなのである。
「……お前、何なわけ?」
 理解不能という意をその言は含むか。
「だから、救助ボランティア。言ったじゃん」
「わけわかんねぇ」
 失笑する夢子にレムリアは耳打ちする。
「友達のいない娘を放置して去る気はない」
「余計なお世話だよ」
「奉仕の精神ってのが身に付いててね。カネないからカラダでね」
 すると。
「何だお前“ウリ”か?」
 夢子はやや驚きも含むか、眉根を潜めて見返した。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-212-

←前へ次へ→
 
「ミサンガ切れなくて良かったよ」
 レムリアは呟くと、そのまま夢子の手首をねじってナイフをもぎとり、全て失ったその顔に平手打ちを食らわす。
 手加減しない。女手なりに力を込め、目一杯ひっぱたく。パン、パン、パン……往復ビンタの3発は破裂音のように体育館に響き、夢子は床の上に倒れた。
 文字通り張り倒したのである。横座り状態で、うつむいたその顔から、鼻血がぼたぼた垂れている。
「勝手わがままも大概にしろこの大馬鹿者!」
 本気で殴り、怒鳴り声を叩きつける。びくりと動くうつむいた背中。その背を支える腕の震え。
 が、そこまで。
 傍らに膝を突き、脱脂綿を出血した鼻腔に詰める。ウェットティッシュで一通り顔を拭ってやり、囁く。
「夢子ちゃんが悪いんじゃない」
 それは叱られ、意気消沈した子どもへの語りかけそのもの。
「そうなっちゃった、だけ。でもね、あなたのしたことは卑怯なことで、許されることじゃない。あなたは私の友達を集団でいじめた。信じた私を斬りつけに来た。私は私の怒りをあなたにぶつける理由がある」
 夢子は何も反応しない。されるがまま。
「頭ガンガンする?耳鳴りする?」
 尋ねると夢子はゆっくり首を左右に振る。……声は届いている。
「終わりにしようよ、こんなこと」
 無反応。
「傷つけるよりも信じる方が、お金よりも心配をもらえる方が、楽しいし嬉しいと私は思うけど?」
「今さら……」
 投げ捨てるように、夢子は言った。
 まるで老いさらばえ死を待つのみ、そんなしわがれた声で彼女は呟いた。
 その声の錆、引きずるような痛さ。
「悲しいこと言わないでよ。13とか14でさ。誰かそう言った?誰かそう決めた?」
 すっ。と、夢子の背中に置かれた手があった。
 山路シスター。
 
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2011年3月 | トップページ | 2011年5月 »