【理絵子の小話】出会った頃の話-2-
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「黒野さん」
終業学活が終わった直後、理絵子は担任に呼び止められた。
「はい」
荷物を持ったり、友達の元へ歩み寄ったり、そして出入り口へ向かう……そうした流れと喧噪の中で理絵子は立ち止まり、担任の手招きに応じた。
「ちょっとこれ持って職員室まできて欲しいんだけど」
教卓の上、黒い表紙のクラス名簿を持たされる。あたかも職員室まで持ってこいと言わんばかり。
が、それは仕事を手伝わせているかのように見せかけるポーズに過ぎない。実際にはもう少し複雑でクラスメートには秘密にして欲しい何かがある。
それで用向きはピンと来た。気付いてないわけでは無かった。
「判りました」
理絵子は名簿を抱えると、隣のクラスから自分を呼びに来た友達に「ごめん」と残して担任について行く。
「りえぼーが拉致された~」
と、笑いを誘った友人の名は田島綾(たじまあや)という。
帰宅の流れに逆らい、階段を登り、職員室に入り、担任に少し待たされ、「こっち」と、職員室を横断して案内されたのは〝生徒相談室〟。
「ごめんね突然、座って」
後ろ手に扉を閉めながら、担任は着座を促した。
「はい」
相対するなり、担任はとんでもないことを切り出した。
「あなたが学級委員を引き受けてくれることに期待がありました」
首を傾げたら。
「出席番号女子の8番」
名簿を開く。欠席を意味するチェックマークが1名だけ記入済み。
「桜井優子(さくらいゆうこ)さん?」
やっぱりか、理絵子は思いながら空席の主であろう名前を口にした。
「ええ。彼女ね、去年殆ど出席がなかったのよ」
つまりトラブル抱え。
「去年は何組だったんですか?」
理絵子は訊いた。その去年の担任や学級委員をやってた子に訊いて……〝期待〟とは恐らくそういうことだろう。
「2年3組」
担任は言い、理絵子は3組の担任、委員を記憶から呼び出そうとし、気が付いて目を見開いた。
2年、と担任は言った。自分たちは今年2年生。
つまり。
「同級生の先輩、ということですか」
「そう。仕方ないんだけど、ますます登校しにくくなるんじゃないかと」
「立ち入ったことを訊くようですけど、理由は?」
(つづく)
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