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【理絵子の小話】出会った頃の話-4-

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 理絵子は言い残し、相談室から直接廊下へ出、失礼しますと頭を下げて歩き出す。
 まだ部活も始まる前なので生徒達は殆ど帰ったようである。一部教室から談笑の声が聞こえてくる程度。一旦、新しい自分の教室に寄り、無人と戸締まりを確認し、昇降口で靴を履き替える。
 グラウンド脇の門から出、日当たりの良い急坂を太陽の方へ下る。周囲は山のてっぺん平らに削って作った住宅地であり、中学校はその斜面部にある。坂を下り、駅前から続くバス通りを挟んで再度坂を登ったところが別の住宅地で、家はそちら。
「おう理絵ちゃん」
 坂道の脇に立つ山小屋風の建物のドアが開き、口ひげの男が声を掛ける。
 喫茶店〝ロッキー〟のマスター氏。フロアマットをアスファルトに並べてパンパン叩いてホコリ払い。メインの客層はバス通りをもう少し行ったところにある女子大の学生達。ただ、大学の方はまだ前期開講しておらず、向こう数日は開店休業と言ったところか。
 ちなみに通う中学はこの店への出入り禁止令が出ている。理由、マスター氏は元〝ゾクのカシラ〟すなわち、珍走団の首領だから。このため、眉をひそめる風体のバイク乗りが夕刻を中心に店頭に集まる。
「また新ブレンド開発中なんだけどさ」
 マスターはニコニコ言った。気のよさそうな〝喫茶店のおじさん〟であり、過去にオイタをしたようにはとても見えない。
「あ、じゃぁまた寄らせてもらいます」
 理絵子は答えた。この会話から明らかなように理絵子は店に堂々と出入りしている。過去において父親が絡んでいることによる。ちなみにコーヒーやデザートの新メニュー味見係。マスターはタバコを吸うため、ピュアな味覚の持ち主の意見を参考にしたいという。
「ああ、待ってるよ。いつでもいいや」
 窓ふきに移ったマスターに手を振り、坂を下りてバス通りを横断。
 バス通りに沿って雑木林が残されており、住宅街と通りを隔てる。ここで右手に曲がって林に沿って上がれば自宅。
 対し真っ直ぐ住宅街のメインストリームを上がって行く。かなり急な坂であり、自転車で登るのは難儀。逆に小学生が猛スピードで走り下って交差点へ突っ込む事例が絶えず、路面に凹凸を設けようという話も出ている。
 坂道は若干右に曲がりながら徐々に緩やかになり、平坦に近くなると突き当たりの邸宅群が見えてくる。竹林を備えて引き戸の門を構えたのが目指す桜井家。千葉の資産家筋とおばさん達のウワサに聞いた。
 引き戸脇の呼び鈴を押す。
 ピンポーンと3回聞こえ、インターホンをいじるノイズがガサガサ。
『はい』
 女性の声。声色に警戒を感じる。
 見れば引き戸を覆う屋根下に監視カメラと警備会社のステッカー。
「あの……」
 学校の名前を言って、
「2年3組の委員で黒野理絵子と申します。新学期オリエンテーションのプリントをお持ちしました。優子さんはご在宅ですか?」
 
(つづく)

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