【魔法少女レムリア短編集】東京魔法少女-9-
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「カワイイオジョサン、イッチャウノ?」
無視する。目を向けることすら危険な気がする。真美子ちゃんの顔を覚えられては困るのである。
このうそ寒い感覚。秋口の風が季節を先取りして冷たく感じる。
前方から目線。
「パソコンいらない?はい安いよ。パソコン安いよ。パソコンいらない?」
機械的なリズムで同じフレーズをくり返し、チラシを配る、ずろっと長い白装束の若い男。恐らく、多摩の男が言うところの、宗教法人を名乗る団体のパソコンショップの者であろう。
「パソ……」
男がそこにいないかの如く、前を見てレムリアはそこを行き過ぎる。しかしそれで終わりではない。足を進めるほどにそこここに見て取れる、犯罪や、犯罪近似行為への落とし穴。
さながらブラックホールの巣の中を歩いている気持ち。恐らく、自分がここでテレパシーを働かせたなら、おぞましさで吐き気を覚えること相違ない。
「お姉ちゃん痛いよ」
レムリアは無意識に真美子ちゃんの手を強く握っていた。
そのテレパシーが、休眠状態から警告を発したのはその時である。
通りから奥まった場所に入口がある、薄汚れた雑居ビルから出てきた、一人の男。
体型は運動不足と見えて肥満気味であり、アニメ系女の子の顔がプリントされた、薄汚れたTシャツははち切れんばかり。高飛車な物言いかも知れないが“醜悪”という文字を当てはめたくなる。その手にはシワだらけのコンビニビニール袋。背中にはすり切れかかったリュックサック。中身はどちらも本やゲーム。“萌え”というアニメに根ざした愛情近似の恋慕感情の存在を知っているが。
これは違った。男の意識に充ち満ちているのは、“萌え”を隠れ蓑にした変態ロリコンだ。オランダにも日本のアニメのコスプレはあるし、アニメ好きという趣味自体否定はしないが、これは行き過ぎでいただけない。
男は街中をキョロキョロ見回し、自分たちで視線を止めた。
偏執狂特有のギラギラした圧迫感。
「エルシオン!」
醜悪な男はレムリアを見るなりそう叫んだ。
(つづく)
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