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【理絵子の小話】出会った頃の話-7-

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「これ……あれか、尻の穴にペタってやる奴か」
 キューピー人形を模したと見られる使用法のイラスト、及び、的に似た同心円の描かれた採取フィルムを小袋から取り出し、桜井優子は訊いた。
「そう、尻の穴にペタってやる奴。月曜提出」
 理絵子のオウム返しに、桜井優子はブッと吹き出した。
「面白いなお前。学級委員って言うからもうちょい上品かと思ったぜ」
「言葉遣いだけ装っても中身変わるわけじゃないし」
 理絵子はそう言い、この桜井優子自身そうなのではないかと気付いた。
 〝殺人〟の懸念があるとは言え、初対面を家に入れるか?言葉遣いは悪ぶってるだけで、実はとても心配してくれているのでは。
 その前に、監視されているのならば。
「私がこうして中まで入っちゃったのって、優子ちゃんに危険が及ぶ事だったのかな?」
 この心配をしなくては。理絵子は訊いてみた。
「優子でいいよ。『ちゃん』なんてガキみてぇだ。お前なんて呼ばれてんの」
「理絵子でりえぼー」
「じゃぁりえぼー。心配するな。友達だって言えばいいんだから。……お前が男だったらリアル殺されてっかも知れないけどな」
「それってヤキモチってこと?」
 襖が開いた。
「あら優子ちゃん。ちゃんはイヤなの?」
 母殿のそのタイミングは故意か。
 理絵子がクスッと笑うと。
「ごめんなさいね。強がりさんなの。それと、お抹茶なんですけど苦手かしら?これしか無くて」
 お盆の上に黒光りする常滑焼とエメラルドグリーン。
「いいえ」
 抹茶自体飲んだことが無いわけでは無い。
 両手に焼き物を持ったら、桜井優子はさながら茶碗酒を煽る昭和の酔漢。
「ああ苦……」
 一気飲み。されど実際口に運ぶと苦みは爽やかで口当たりはまろやか。
 小さく切った『高尾まんじゅう』(たかおまんじゅう:東京高尾山)を爪楊枝で頂く。
「で」
 桜井優子は茶碗を戻すと、改めるように理絵子を見た。
 傍らには母殿も座している。
「用事はそれだけか?」
「登校の意志の有無について担任に言伝されたのは確か」
「やっぱりか。卑怯だよな。自分で来いっての」
「問い質したよ。なんでそんな背景私に喋るのかって。だから、本当は、桜井さんって呼ばなきゃいけないことは知ってる……そして、このまま仮にあなたが学校に来てくれるにしても、あなたは傷つけられるばかりだって思った」
 言いながら理絵子はゾッとした。教員が背景事情に基づき級友に〝配慮〟を求め、それが逆にいじめの種になったりする。よくあることだ。
 
(つづく)

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