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2011年8月

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-081-

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「お前ら何の話だ?」
 ラングレヌスが口を挟む。銃口を管制塔に向けたまま。もちろん対人発砲ロックが作動しており撃てる状態ではない。が、抑止力としては充分。
「ご進講しますとですね。神様のご加護を受けた選ばれしレイシスト様達が、小汚い有色人種を殲滅せんとクジラ形の海中推進式ICBMこさえてましたって話でさあ。そりゃクジラじゃソノブイも反応しねぇよ」
 相原は言った。ソノブイとは、水中音波探査装置と衛星通信装置を備えたブイ(浮標)のことだ。潜水艦の接近を探知し、衛星経由で知らせる。
 イヤホンにピン。
『氷床の振動をキャッチ。この真上にガンシップが帰還したと見られる』
 すると程なく、レイシストの手先達の顔が恐怖一転、薄笑いに変わった。
「死ね猿。今度はお前らが漏らす番だ」
 ガンシップの乗員が武装して応援に来るという確信のなせる技であろう。
「どうする相原船長殿……俺たちは構わんぜ」
 アリスタルコス。それは、殺人も厭わないという意思表示だ。レムリアは反射的に首を左右に振った。正義の気持ちは受け取るが。人間の業に値しないのは確かだが。
「こんな雑魚ほっとけ。手を汚すだけこっちの損だ。各位、本船はクローキングの上……」
 以下その象徴の島をTと書く。南半球に存在するとだけしておく。
「Tへ急行する。なお、ミサイル化クジラ2頭が攻撃として放たれているので、通信プロトコルに基づき誘導電波を追跡願う」
「ここは放っておくのか?」
 ラングレヌスの当然の疑問。
「上のヘリコプターはどこが供給したんだい。トカゲの尻尾をしばらく温存しとこうぜって話さ。しかも地球規模の軍用ネットワークに割り込み掛けられるって事は、共用する同盟国側にシンパがいないと説明できない。一つの国の暴走じゃねぇよ」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-080-

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「クジラたちから伝言、エサが来たから食べたい……潜ります」
『クジラ達が探知不能になりました』
 レムリアの報告を船からの情報が裏打ちする。
「エサがあるぞ、で釣るわけだ」
「そうみたい……追う?」
「いや、クジラの誘導システムを解析したい。本部の直接指示って奴だろ。博士、交信先は判りましたか?」
『衛星を4機経由させてカモフラージュしてるが、結局1周して戻ってきている。Xバンド(えっくすばんど)でホッピング……』
 以下安全保障上の理由から詳細を省く。Xバンドとは軍が用いる通信帯域である。
 そして、とある島の名をドクターは口にした。
 レムリアは反射的に身体がびくり、と震えた。
 その反捕鯨国で、その島の名で、思い浮かべる事象が一つあった。
 医療とか、福祉サイドの人間として、それは真逆対極に位置する、言うなれば生命と人間の尊厳に対する犯罪。
「人間狩り」
「その通り。クジラって地球規模で回遊してんだよな」
 二人は日本語で会話した。
 それはホールドアップの男達にはひたすらな不気味さと恐怖を与えたようだ。こちらが圧倒的に有利な立場にあるのに何もしないからだ、と如実に判る。勝利を目前に敗者を弄ぶ勝者というわけだ。
 一方こちらも底知れぬ不気味さに怖気を震う。すなわち、その反捕鯨国は白人優越主義で知られ、領土内のその島に住んでいた原住民を白人向けの観光アイテムとして〝ハンティング〟させたのである。その後、

 白人優越主義を肯定する法律は廃止された。

 同じ行為に対し、翌日からは罪と定義。
 でも、それだけ。
「ええその通り」
 レムリアは言った。クジラの回遊に対する答え。段々、クジラ達の〝用途〟が見えてくる。
「てことは、日本にも、中国にも、インドネシアにも、海の中から行けるわけだ。海岸にクジラが迷い込んだぜ良くある話と」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-079-

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 相原は3つの指示を同時に発した。それこそ船長アルフォンススが乗り移ったようであり、レムリアは舌を巻いた。何度目かの感慨かと思うが、船のマニュアルと、話して聞かせた活動報告でここまで出来るものなのか。ちなみにファランクスとは古代ローマの重装歩兵。当然双子のこと。
『了解』
『承知しました』
「おうよ」
「判った」
『上昇!』
 船は上昇し、管制塔の分厚いガラスをレーザ光で円形に切り取り、レールガンで突き飛ばす。
 中にはコーカソイド人種の男が二人おり、場所と状況の故に無防備。
 透過シールド解除。
「God damn it!」
 以下日本語で記す。
「クジラで何するつもりだ。我々を攻撃する気なのはお見通しだぜ」
 レムリアは相原の言葉を訳して伝え、
「日本、中国、インドネシア……」
 対し読み取った内容を即座に声にした。前述の通り銃器のスコープを利用中のやりとりは船のコンピュータが全て記録する。
「アジアばっかだな。へへ、あいあむ・じゃぱにーずだ。どぅゆうのうキモノ?このクソタワケ」
 相原はウェアの前を開きはんてんを出してバタバタさせた。カマ掛け……すなわち相原は〝我々〟としか言ってない。
 攻撃目標が設定されているなら、そこから乗り込んできたと思い込み、思い浮かべる。
 それをテレパシーで拾う。結果がその3つの国である。
 対して、青い眼の二人の男は、ホールドアップの姿勢を取りながら、幽霊にでも対したように叫んだ。
「(攻撃を受けている。制御できない。クジラを深海へ待避させろ!ばれた!繰り返す!ジャップに見られた!)」
 男達は「死ね猿!」と加え、その後英語圏で良く聞く罵詈雑言を叫び続けた。
 イヤホンにピン。
『管制塔から宇宙へ向けて電波が飛んだ』
「行く末が本部だ。追尾願う」
 相原はシュレーターに言った。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-078-

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「ドクターはガンシップの接近に警戒を」
「了解」
 当初役割を変更し、マストにはアリスタルコスがガンシップ対応でレーザ抱えて陣取り、甲板でレムリアが誘導、相原が施術、ラングレヌスがその傍らでレールガン。
 順次水面に顔を出してもらい、帆を介してタッチする。相原はその白い帆を見た時の信号が永遠に眼球コンピュータに送られるように細工した。すなわち、機械の視界はずっと真っ白。
『管制塔が反応したぞ』
 ドクターが警告を寄越した。
「内容は?見えてないはずだが」
 相原が問う。
『ホストコンピュータがクジラたちと通信できない。スクランブル(暗号化)の規格は……』
 管制塔とクジラとの通信内容は、その反捕鯨某国の暗号コードで解読できたという。曰く、クジラたちは呼吸時に水面に顔を出すが、その際管制塔のコンピュータと定期交信するシステムで、相原がおシャカにした。すなわち、定期交信できないので異常と判定。
『ガンシップを呼び戻している。通信不能なのにクジラ達が秩序を維持している事を不思議がっている。本部が乗っ取られたのかも、だとさ』
「つまりその〝本部〟とやらはここのクジラを直接指揮できるってわけだ。あと何頭?」
 相原は一旦レムリアの手を離し、件の作戦テーブル液晶テレビにメモしておくよう操舵室に指示する。管制塔と通信できないということは、クジラたちのコントロールが不能になった事を意味するが、どうやらそうした場合に備え、〝本部〟から直接指揮できるようになっているらしい。しかし、本部からは管制塔が異常であるとの話が来ない。従って、本部が乗っ取られて管制塔の指揮権、クジラとの通信が奪われたのではないか。
「2頭」
 レムリアは答えた。
「ならもういい。少し残したい。本部とやらの指揮を見てみたい。この基地以外にも爆弾クジラいるかも知れねぇし。ドクター、管制塔へ船を着けてくれ。乗り込む。ぶち壊せば本部は動くだろうし、中の奴らに直接聞きたいことがあるしね。レムリア、奴らにカマ掛けるから、通訳と、反応を残らずテレパシーで拾って欲しい。ファランクス!援護頼む」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-077-

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 悲しみと哀れみの気持ちで捉える……〈おお異邦の娘よ、あなたは何者〉
 レムリアは知った。自分の感情は、この海生哺乳類たちに、動揺を呼び起こした。
 〝だが、ある程度の意志は、同時に“個性”の存在をも意味する〟
〈あなたの話を聞かせて欲しい。どこに?〉
 一頭が水面に顔を出し、船底カメラがその姿を捉える。
〈手順を説明します。そこへ行くから少し待って〉
 レムリアは言うと、相原に対して、こっちへ来てと手指で呼んだ。オイデオイデだ。
 相原がそばまで来たのでその手を握る。これで自分の認識をテレパシーで彼に送り込める。
「おお。……テレパスって気持ち悪いな」
「ごめんね。で、そのロボットの目が反応しない限り、知性ある普通のシャチやクジラ。ならば隠さずとも、意図と手順を理解させて、順次来てもらうことは可能だと思う」
「判った続けろ」
 相原は即断した。
「了解」
 とはいえ機械の目玉は理解できないであろうから、腹を食う寄生生物が生じたので治しに来たと言った。そして、我々の持つ白い膜で触れると、ビリッと一瞬痺れてそれを殺せる。
 一方相原はレムリアの認識を受け、軽く頷いてからクルーに説明。
「気付かれないように頑張らずとも、むしろちゃんと理解してもらって、協力を得て機械の目だけカモフラージュした方が遙かにスムーズと」
「レムリアの優しさの勝利ですね。わたくしはそれなら無条件で賛成です」
 セレネが言った。テレパス同士でリアルタイムに、しかも全容を把握できるということもあろう。
 行動に移る。シャチとクジラたちには知らん顔で回遊を続けてもらう。
 船は管制塔の直下に降ろす。透過シールドは保持するが、一般に周囲からの接近を拒む場合、チェックするのは、〝遠くから来るもの〟であって、畢竟、警戒が最も希薄になるのは直上直下だ。
 
(つづく)

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【理絵子の小話】出会った頃の話-17-

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 マスターは理絵子達のテーブルに腰を落ち着けた。この時点で女子大生達は在庫のケーキをほぼ食べ尽くし、テーブルが空き始める。
「代金は?」
「飲み物プラス300円で。置いといてくれればいいよ」
「じゃぁ二人分。理絵ちゃんばいばーい」
「あ、どうも」
 数名、顔見知りになった大学生もある。
 マスターが外へ出、ドアの札を〝準備中〟に裏返す。
 理絵子は気が付く。
「殺意、敵意」
 感じたままを呟く。
「え?……」
 程なく、マスターが所作を止めて目線を移した。その方向は理絵子の視線と一致した。
 接近してくるバイクの一団。
「あいつら……」
 立ち上がる桜井優子をマスターが窓越しに手で制す。
 5台の改造バイク。
 ノーヘルメットであるので誰なのか明らかである。彼氏、A、B、と他に2名。
「ビッチどもがいなくなるまで待ってやったぜ。感謝しろよ、マサさんよ」
 彼氏、はそう言った。ビッチ、は女性に対する蔑称であって女子大生達のことであろう。
 対して。
「そうだな、お前が血だらけになって彼女らがキャーキャー言ったら近所中に丸聞こえになるしな。それともションベン漏らすのおねーさん達に見られたくなかったか?」
 マスターの切り返し。
「ぶっ壊すぞ」
 彼らは獲物を手にした。バットや鉄パイプ。
 店舗を破壊しようというのである。
「本性現したか、破門だ、消えろ内燃ゴキブリ」
「偉そうに何様のつもりだ」
「オレサマだ文句あるか落第」
 その……それこそマンガで善悪の戦闘前に交わされる能書きのような会話が罠であると理絵子は知った。マスターを会話に誘い、注意を逸らす。
 彼らの目的はあくまで桜井優子だ。
 獲物を使う。飛び道具。しかも超高速で相手に届く。
 パフェのスプーンを、理絵子は桜井優子の傍らにひょいと出した。
「どした?」
 きょとんとする桜井優子。この緊張した場面で唐突にスプーン動かせばさもあろう。
 その時、男Cが「あっ!」と声を出した。
 己れの目を押さえてうずくまる。その手からこぼれ落ちるペンによく似た物体。
 
(つづく)

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出会った頃の話【目次】

-1- -2- -3- -4- -5-
-6- -7- -8- -9- -10-
-11- -12- -13- -14- -15-
-16- -17- -18- -19- 020・完結

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-076-

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 無数の魚が回遊している、巨大な水槽を擁する水族館が存在するが。
 眼下の光景は、それをキロメートルのオーダで展開したものと言って良かった。自然の造作に手を加えたものであろう、氷で覆われた巨大空間に青い水が揺らぎ、背びれと巨影が見え隠れしている。彼女らの動きは反時計回り一様である。
 中央に監視設備があり、船のセンサに言わすと、そこに人がいるらしい。空港の管制塔を天地逆にして、氷の天井からぶら下げたスタイル。
「ストップ」
「停船」
 レムリアは気付いて声を出し、応じてシュレーターが船を止める。
「気付かれました」
「透過シールドは有効だが?」
「いえ、クジラ達です。私たちの気配を感じ取ったようです」
 早い話、彼女達はテレパシーで〝知性の気配〟として、自分たちの存在を感じ取ったということだ。
「センサー類感あるか」
 相原が言いながら船長席コンソールを操作する。そして、レムリアが応じるより早く、
「……ないようだ」
 自問自答。すなわち、クジラ達が攻撃に転じる気配は無い。
 だったらば。
「待って下さい……術を使います……」
 レムリアは目を閉じて水中のやりとりに介入した。彼女達が〝一頭いない〟ことをしきりに気にしていることに気付いたからだ。
 すると、即座に自分の介入を察知される。意図して気付かせたのだが。
〈どうしてあなたはそのことを知っている、異邦の娘よ〉
 言語に置き換えるとそんな風か。
〈死んだのか、〝D〟は死んだのか〉
 それは識別記号。名前代わりのアルファベット。
〈ええ。同じ危機があなた方にも迫っている。だから、私は、あなたたちを救うために、仲間とここへ来た〉
 レムリアは言ってみた。バレないように、が相原の指示であるが、彼女達と接して逆に真実を明らかにし、意図を開示した方が良いように感じたのだ。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-075-

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「お前の身体からセイルに電流流して電波出すのか……」
 シュレーターが呆れたように相原を指さす。
「そうです。セイルを横倒しにして盾にして、必要な電波を放出してもらう。目玉の出してる索敵(さくてき:敵を探すこと)電波だか光線だかはセイルに吸収される。肉眼じゃないから逆に帆だとは判らない」
 相原の使った用語は多分に技術的であるが、ハーフミラーの電波版だと彼の意志が語っており、レムリアもそう理解した。こっちの電波は向こうへ通るが、相手の電波は吸い込まれる。
 万が一起爆されても、セイルがあれば熱や衝撃を遮断できる。
「怖いですが……」
 セレネが不承不承といった風情。
「自分確信持ってますから」
 相原が振り返る。このはんてん男の自信と、恐らくその通りうまく行くと思わせるこの感覚は何なのだろう。電気で発見し電気で起爆だからテレパシーで催眠術は無理。対して電気の目だから光や電波を吸収されたら形を認識できない……この逆転の発想は。
 彼は、雪の中に、ボロボロの状態で立ち尽くしていたのではなかったか。
 自分への視線に気付く。
「えっ?」
「人格変わったなぁって顔してるからさ。オレ自身は変わったつもりはないけどね。ただお前さんとこうして船乗ってるのは楽しいよ。さて真剣勝負だ。甲板へ出てセイルを盾に取る。君はマストの上から催眠術掛けてくれ。二人はそれぞれオレ達の防御を頼む」
 二人とは双子のこと。
「おうよ。でもレーザで刺したところで仕留められるのか?」
 シャチやクジラの巨体を、糸みたいなレーザ光線で貫いた程度で、攻撃や爆発を抑止できるか。
「砲弾か風圧か、ぶち当たってショックを与えるタイプの方がいい。反射神経で思わずそこから逃げ出すような。レールガンとプラズマで行こう」
 策は決まった。ちなみに、弾丸であるレールガンは遠くまで届くためラングレヌスが持ってレムリアとマスト。火の玉であり拡散しやすく、近接向けのプラズマはアリスタルコスが持って相原と甲板。
「皆さん、行きましょう」
 セレネが宣した。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-074-

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 レムリアは答えた。自分のそれはテレパシーを用い〝あたかも自分が考えた・感じたように思わせる〟ものだが、効果は同じである。馬を見ているのに鹿と認識してしまう。
「何か幻を見せる?」
「そう」
「でもさっきの様子だと腹部に何か抱えてる。そこに神経系を通らずに爆破指令が送られるんじゃないの?純粋に電気系だけで処理されるから、生体感覚を誤魔化しても」
 言ってて何て恐ろしい仕組みを生体に埋め込んだんだろうとつくづく思う。
「あ、そこを誤魔化そうってんじゃないんだ。沢山いるんだろ?他のシャチやクジラに見られないように。作業時に近づかないよう仕向けて欲しい。目撃させない、目撃しても目撃談が広がらなければ、1頭ずつ対処して行けば済む」
 それは相原がこの方法で実行する気であり、応じた周辺策を考え始めていることを意味した。
 でもそれは。
「相原さんが直接クジラにタッチする、というのはリスクが大きすぎます」
 自分と同様、セレネが否定調。
「失敗した時の次善策を出してからにしろ」
 シュレーターが同調。相原は腕組みして。
「目玉がオレを視認して、応じた起爆信号が走って、炸薬に点火されて……」
「それだけで済むまい。目玉にレーザでも備わっていたらどうする。近接即応くらい備えていると考えた方がいいぞ」
 つまり、目玉が自分で反応してその場で反撃。
「相手に見えないまま近づけばいいんですよね」
 レムリアは言った。何か出来そうな気がするが。
「本船のクローキングは電磁波を遮断する。相原の脳波も届かないことになる」
「じゃ、セイルだ」
 相原は言った。
「なんだって?」
「真っ白ののっぺらぼうアンテナだぜこいつは」
 セイルの機能は恒星風(粒子線・光線)を捕獲すること、およびその光線で発電すること。……応じて電気が流れる構造。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-073-

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「まぁそういうことでしょう。裏にそこまで手を回せる権力が存在するってこってす。こんなオゾン観測基地の公称10名常駐で、100キロワット級の風車20機も要るかって」
 エアコンや電子レンジの消費電力がおよそ1キロワットである。
 過剰な電力は何に。
 〝観測基地〟の用途に疑義があるのは確かである。
「救助活動の範疇を外れる気がするな……オレは構わんが」
 アリスタルコスが言ってニヤニヤ笑う。無論、この基地を破壊する気である。
「外れてないだろ。このサイボーグ達が世に放たれたら誰か死ぬことになる。未然防止も立派な人命救助であろうが」
 シュレーターが言って、顎をポリポリ掻いて不敵に笑った。
「他のシャチやクジラたちを救う術はあるんでしょうか」
 レムリアは誰にともなく訊いた。
「普通に考えて攻撃実行前に発見されたら、その場で起爆させて巻き添え狙うんじゃないか?」
「私たちが近づいただけで死ぬしかないと?」
 訊き返したら、相原が己れ自身とレムリアをそれぞれ指さした。
「ハッキリ言ってよ!」
 苛立ってしまった。
「おおゴメンよ。考えながら喋ってっからよ。オレの電磁的干渉能力、君の心のケア」
「無力化か」
 シュレーターが言い、そのまま操舵席で腕組みした。すなわち、機械の目に映った瞬間、相原の能力で回路に干渉し、攻撃指令や、その薬物の放出を抑止する。
「理論的には可能だが、近づく必要があろうが」
「船なら姿隠して可能でしょ」
「見えた瞬間にドカンだぞ最悪」
「見えた瞬間にその検出信号を遮断すればいい」
「タイムラグはあるだろう。チキン・ゲームじゃないか」
 相原の能力が作用するのが先か、炸裂信号が届くのが先か。
 一瞬の躊躇が負け。
「レムリア催眠術使えるか」
 相原が急に訊いた。
「え?うん」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-072-

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 直ちに出発する。通常、航行中のシールドは、チューブ状にキロメートルのオーダで形成されるが、ここは極めて小さく、しかし粒子密度を上げ、紡錘形(ラグビーボール形)に変形させ、船を覆って身を隠す。
 川を遡る。流れに沿って空間が存在するが、船体より常に大きいわけではない。場合によりシールドで氷を貫き、押し割って進む。水路には分合流が多いが、都度、氷下の湖に近づく方向を目指す。それはあたかも氷床下を突進する彗星である。時々瞬間的にシールドを開き、レーダの捜索を交える。
「電力消費を検出」
 すなわち明らかに人工建造物が存在する。ちなみに電流が流れるだけで電波も同時に生じる。検出は難ではない。
 速度を落とし、正確な位置を確認。
「ヘリが姿を消した座標からは20キロほど離れているが」
 電力消費を検出した座標位置の衛星写真。つまり氷の上の状況。
 ズラリ並んだ大型風車。
「風力発電?」
 レムリアは訊いた。彼女はオランダに仮寓を置くが、例の歴史的な風車の中には発電機を接続したものもある。景観保護と環境保全に一石二鳥と。
「これか?某、反捕鯨国家の観測基地だぜ、公的には。オゾン層が消えて一番被害を受けてるって主張で作った」
 相原が正面スクリーンの画像を見ながらはんてんの腕を組む。
 そして不敵な笑みを浮かべる。
「反捕鯨国家がクジラの戦闘サイボーグ作るなんざ誰も考えつかないわな」
 少なからずクルー一同驚いたとレムリアは知った。
「何だって?」
「何のために?」
「知らんよ。だが、そんなわけで輸出規制の対象国ではないからガンシップも手に入ると。ケーザイサンギョーショーの物言いだとホワイト国って言うんだ。差別的で嫌いな用語だけどさ」
「オレも嫌いは同意だ。しかし国籍識別コードはどうやって消したんだ?……まぁ、クジラの脳みそいじれるならその位簡単か」
 これはシュレーター。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-071-

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「判った」
 レムリアも感情を交えず答える。テレパシーで感覚を麻痺させ、内なる衝動に応じるなと暗示を掛ける。今、出来ることは孤独にさせないことくらい。今、彼女の腹部深奥では、応じて大量の出血が生じている。ホルモンの分泌まで止める能力は自分にはない。
 彼女の記憶が走馬燈のように流れる。人間でも良く言われる、今際(いまわ)に見えるというそれであろうか。
 記憶を追いかける。元々水族館の生まれのようである。幼い頃から飼い慣らされて、やがて件の機械を装着される。
「身体を傷つけられる対価としてエサが与えられ、ある種のマゾヒストに育てられる。そして、眼球をえぐられて機械を装着される」
 死に行く命を撫でながら、レムリアは記憶の中から必要と思われる情報を抽出した。
 その様子を、焦点の無い目で淡々と恐ろしいを口にするレムリアを、追って相原は怖いと評した。
 魔女の魔の部分であると。
「湖に多くの仲間がいる」
 彼女はそう伝え、助けてあげてとだけ残し、そのまま、意識が薄れていった。ありがとう。そしてごめんなさい。
「海生哺乳類の知性を悪用して破壊殺戮のサイボーグに仕立てる工場があると判断します」
 元通りの流れに戻った川の上流を、レムリアは指さした。
 シャチの吸着を解除し、絶命した身体を横たえ、添えていた手を離す。
「行くか」
 アリスタルコスがそう言った直後。
『敵さんから来たようだぞ。ガンシップ距離7マイル。さっきと同じ機体だ。シャチが死んで緊急信号が出たんだろ』
「1機だけですか?」
 相原が訊いた。
『ああ』
「じゃぁ敵の本拠は手薄かも知れんですね。下から行きましょう」
 迎え撃たず、この水路を逆流してガンシップが出払った本丸を奇襲する。
「おもしれえ」
 評したのは双子のどちらか。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-070-

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 その他の出血箇所には“ソフラチュール”を貼り付ける。消毒薬を染み込ませたガーゼであり、受傷箇所の保護に使う。応じて眼窩の中は白いそれで埋まる。
「疲労を感じます。激しい疲労を。殺せ、体当たりしろ、食いちぎれ……休まず食わず、彼女を突き動かしていた衝動があります」
 感じたままを声にする。そのシャチはメスであった。
 保護本能に基づく攻撃性を増強され、文字通りのキラーホエールに仕立て上げられていた。
 無論、水族館と違い、エサ欲しさの調教ではない。電気信号によって、攻撃したくて仕方なくなる。
 ある程度“意志”持つ生き物だからこそ出来た蛮行と言える。
 だが、ある程度の意志は、同時に“個性”の存在をも意味する。
 水が減り始める。
 すなわち、洪水に彼女という刺客を乗せて放ったと考えて良かった。
 レムリアは消えて行く生命に直面した。それは目玉機械の自爆に近い作用によるものだと判じた。機械が消失すると〝出産〟を強く促す仕組みが働くのだ。……そういう衝動の存在から判断した。但し、明らかに不自然であり、不都合な〝何か〟が体内に埋め込まれており、それが出産のプロセスを悪用して体外にもたらされる可能性が非常に高いと言えた。最早生命に対する冒涜という次元の話ではない。
 その旨話したら相原が船長譲りの人間レーダ能力で解析した。脳の中に機械があって、それが〝出産せよ〟の信号を出しているなら止められるからだ。
 だが、そうではないようだった。
「電気的には何も感じない。そういうの促進する薬あるだろ。そっち系じゃないか?目玉機械が壊れるってことは、電気信号による自爆指令は期待できないわけだ。そこで、薬物で生き物の仕組みに働きかける」
 感情を交えぬ彼の解析が、非人間的なまでに冷徹に思えて、しかし必要以上に感傷や衝撃を煽ることもなく。
 
(つづく)

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【理絵子の小話】出会った頃の話-16-

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 きっかけは親同士の交流。その時点では優等生。
 家庭教師もするなど優しくて面倒見も良かったという。
 しかし受験に失敗して荒れ出した。そこで桜井優子がマスターに話を持ちかけ、彼はマスターの元で思う存分〝暴れた〟。
 そして、程なく、桜井優子を誘った。
 挙げ句、暴力で束縛する存在に成り果てた。
 成り果てるまでの紆余曲折は知らぬ。マスターも理絵子も細かいことは言わなくていいと言ったからだ。優しかったはずがDVの常習になったというパターンは枚挙に暇が無い。似た経過と容易に想像が付く。
「自分、疑わないっすか」
 桜井優子の側に非があると二人とも言わなかった。基づく質問。
「男が女に手を出した時点で罪/ワルだから」
 マスターと理絵子は声を揃えた。文末は違ったが。
「自分、ワルっすよ。不良っすよ」
「本当のワルは自責を口にしないよ」
 マスターは言うと、カウンターに戻ってコーヒー豆を挽き始めた。
「ワル甘やかしちゃだめですよ」
 桜井優子は下を向いて唇を噛んだ。マスターは聞こえないかの如く口笛吹いて手回しミルをガリガリ。
「それでだ。奴とのことは判ったよ。問題はだ。AとBは奴の側に与したわけだ。理絵ちゃん、あいつらの学校側の評判聞いてるかい?」
 AとBは件の不良3年生である。名を伏す。
「殆ど学校に来ないで万引き喫煙ファミレス徘徊」
 理絵子はさんざ聞いてる悪行の本質を要約して伝えた。勉強サボって遊ぶにしたって遊ぶオモチャかカネが要る。オモチャのバリエーションは限られるのでやがて飽きてしまい、日がな一日ブラブラすることになる。
 そのまま大人になると、日がな一日生活保護の支給金をギャンブルにつぎ込む。
「今まで目をつぶってきたが限界かな」
 マスターは言い、コーヒーの抽出を行いながら〝小倉抹茶名古屋盛り〟の〝製造〟に着手した。
「ウチは硬派が条件だ。従わない以上去ってもらうしか無い」
 小倉抹茶名古屋盛り……小倉抹茶パフェがベース。但し8分の一にカットした抹茶ケーキが尖塔のようにそそり立つ。
 その上に更に生クリームを盛る。
「すいません、自分が余計なこと」
 桜井優子は言った。
 サイフォンがゴボゴボ音を立てて程なく琥珀色の雫が落ちきった。
 ストレートのブラックが桜井優子に供され、理絵子の前には抹茶とクリームのタワー及び、コーヒーをベースに製造されたマンドラゴラブレンド……製法は秘す。
「いいってことよ。腐った実はいつか自分で落ちるもんだ」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-069-

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 シャチは失速し、ラングレヌスの直下氷壁に頭から突っ込み、そのまま幾らかの氷の欠片と共に、微動だにせず水中へ落下する。
 水しぶき、シャチの眼窩から流れ出す血液の赤。
 船が彼の位置まで移動完了した。船底カメラが以上の有様を捉える。
「降ろしてもらっていいですか?」
 レムリアは一同に尋ねた。
『オレの心配なら有り難いが無傷だぜ。看護婦とのロマンスは一生無いな』
「違います。シャチの意識をテレパシーで覗いてみたい」
『ちぇっ』
「危険ではないのですか?」
 セレネが訊いた。
「記憶の機能が生きていれば、何か判ると思います。危険と判れば引き返します」
 動物との意思疎通は古来魔女のたしなみ。
「判りました。船ごと降ろしましょう。クレバスの幅を広げることは出来ますか?」
 セレネの言葉にシュレーターが船を操る。一旦ラングレヌスを船に回収し、光圧シールドの出力を上げて、その熱と圧力で氷を溶かし、一部押し割る。
 シャチの傍らに船を浮かべる。離着陸・水中推進用の流体噴射システム、フォトンハイドロクローラ(直訳すると光子流体無限軌道)を逆転使用し、シャチの身体を船に吸い付ける。
 まずレムリアはシャチの目の部分を見て言葉を失った。眼球をえぐり取られた様は無残であり、言葉に起こしたくない。相原の言う通り、そこに同サイズの照準付き電子頭脳を埋め込み、視神経を経由して脳に攻撃的な指令を与えていたことは明らかであった。従事している業界が業界なので、脳が理解可能な形式で電気信号を生成する技術があると知っている。最もそれは、本来失われた感覚器や四肢の補完に使われると雑誌で見たが。
「どんな状態ですか?」
 セレネが訊いてきた。個人的な感傷は後回し。
 まず、眼窩にあって動脈血を間欠泉のように噴き出す血管を少し引き出し、手で縛って出血を止める。ホースを縛るのと全く同じである。
 男達が絶句しているのを感じる。ただ、自分が知る限り兵隊向けの大怪我対処マニュアルに書いてあるのを見たことがある。
 自分の四肢が吹き飛ばされた場合に備えて。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-068-

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「……気をつけろラング。自動試行とか、届かないのは見せかけで測距してるだけかも知れない。……うんそうだ、終わったんじゃない。次は確実に来るぞ。来たら目を撃て。博士、船を現地、彼の真上へ」
「オーケー。両舷前進」
 船がそのまま氷上を滑る。空気浮上せずに直接船底で氷を擦っているので、ゴツゴツした感触と振動。移動距離が短いため、浮上して加速の儀式を経るよりこの方が早い。
『シャチ殺せ!?』
 食ってかからんばかりに、大男の声は気色ばんだ。
「メカか、メカ埋め込まれたサイボーグのどっちかだよ。視神経は脳に直結ってね」
『ホントかよああ来たぞ。飛んだ。さっきと違うぞ……おおロックオンか?これ!』
 シャチは少し距離を取り、ラングの位置よりやや高い空間まで飛び上がった。
 空を泳ぐモノクロツートンのキラーホエール。
 その右目がスコープ越しに白くチカチカ光って見える。レーダに加え、照準装置を内蔵していることは間違いなかった。ちなみに、白いと書いたが恐らく可視光線ではない。テレビカメラ、デジタルカメラに使われる撮像素子は赤外線を捉えるが、これらはディスプレイ上では白く表示される。お手持ちのこれらカメラに家電用のリモコンを向けて試されたい。
 斯くして、巨大な海生肉食哺乳類は、その顎を大きく開き、尖った歯列を剥き出しにし、デジタル制御で標的を定め、
 空を泳いで来た。
「ラング!狩れっ!」
『畜生この化け物がっ!』
 葛藤をやけくそで振り払うように彼は引き金を引き、電磁射出されたアルミ弾は白煙を上げて空中を疾り、シャチの照準装置に命中した。
 火花が散り、その装置がシャチの眼窩からえぐり出され、どこかへ飛んで行き、血しぶきが散る。
 シャチの身体が弛緩したのが判った。装置の破損、神経系への電気ショック、脳へのダメージ、伴う失神。そんな流れ。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-067-

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 ラングレヌスはそのジャンプでは届かぬ位置にいるが、シャチはジャンプを繰り返し、攻撃を止めない。
「あきらめない。おかしい」
 レムリアは疑問を呈した。シャチは海の猛獣と言って良いが。
 闇雲な狩りはしない。無理かどうかの判断が出来る知性は充分に有する。その頭脳の程は水族館のショーでおなじみ。
 されど幾度か繰り返したら、さすがに無理と判断したか、水中へ戻ってそのまま出てこない。
「ん?」
 相原が何か気付いたようだ。
 レムリアはすぐに自らのコンソールに走った。
「画像?10秒位戻せばいい?」
 ターゲットスコープの画像はミッション終了まで録画される。スコープが稼働中はすなわち救助活動中であり、ヒントの抽出はもちろん、後々証拠画像にもなり得るからだ。
「最後のジャンプ。背を向けて落ちるところをスローで」
「はい」
 更にコマ送り。ストップモーションに映っていたのは。
「目をズームアップ」
 眼球ではなかった。
「これ……」
 ハリセンボンの表皮のように、小さなトゲ状のものがびっしりと並んだ、何か機械がはめ込まれている。
「ロボット?」
 レムリアは言ってぞくっとした。海生哺乳類を偽装した大型攻撃ロボット。
「フェーズド・アレイ・レーダにそっくりなんだが」
 ドクターシュレーターはそう言って。
「JSDF(日本の自衛隊のこと)が使っておろうが」
 相原がすぐ反応。
「また日本かよ。生体兵器ってか?南極に日本がいても不思議じゃないからな。……でも博士悪いがそれは違う。こんなもん西側ならゴロゴロしてるし、仮に日本のロボットだったら一撃必殺。今頃ラングは食われてる」
 相原は画面に〝Robot〟と書き、気付いたように顔色を変え、その文字をマルで囲んだ。
 それは相原の頭の中であろう、遠く小惑星に〝自らの判断〟で着陸を繰り返す探査機(※)のイメージが浮かぶのを、レムリアはテレパシーで拾った。※2010年に地球へ帰還した「はやぶさ」のことであろう。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-066-

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「バカバカしい」
 アリスタルコスが否定する。シュレーター博士が彼を制す。
「光子ロケット乗ってその発言はあるまい。ブレインストーミングだ。奇想天外が含まれても良い、この画面に手書きで書き出せ」
 ブレインストーミング(Brainstorming)はあらゆるアイディアを否定せず持ち寄り、創造的結論を導こうとする発想法の一つである。
「じゃあ、地軸や地磁気に干渉……ありきたりだが」
 相原が先陣を切った。串刺したダンゴのような絵を画面上に指で描く。
「氷を溶かすと大洪水になるよな」
 アリスタルコス。
「もっと……何か自然環境、動植物に関わるような可能性はないでしょうか。密漁って相原さんが最初に」
 セレネが口を開いた。
「だとしたらガンシップの登場はご大層だな。食糧不足でごっそり大量に殺して持ち去る?ガンシップじゃなくて食い物買えばいいと思うが。それだけの動物がいるか?」
「クジラ」
 レムリアは言った。
「クジラ食う奴がいたな」
 アリスタルコスが相原をからかう。
「海洋民族が海生哺乳類食っただけだ。牛や豚食うのも宗教によっては万死に値するだろうが。スポーツハンティングと称してただ撃ち殺すだけよりましだろって。さておき、武装ヘリ囲ってまでクジラ欲しいか。おっとブレストは否定意見禁止だな。死んだクジラが南氷洋をプカプカ流れていました。まぁ不自然ではないなぁ」
 そこで全員のイヤホンに届いたのはラングレヌスの声。
『クジラ食う奴いたなぁ。お前、シャチの殺し方知ってるか?』
「何だって?」
『おお聞こえたか。洪水に乗ってシャチがオレを食いに来たのさ』
 動画が飛んでくる。レールガンの照準スコープの画像である。
 作戦席のテレビに映すにはやや荒い画像だが、ターゲットマーカーの「+」印が動く物体を追うので、それが海生哺乳類だと識別するのは楽である。洪水の中から白黒ツートンも鮮やかなシャチがジャンプし、梯子につかまるラングレヌスに口を開く。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-065-

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 船に戻り、欧州までの1万キロ超を跳躍し、女性をセンターに届け、南極へとんぼ返り。
「判っちゃいたけど……地球って大きいようで小せえなぁ」
 相原が言った。
 以下、〝戦闘〟に備え、そちら方面に覚えのあるアリスタルコスの指導を仰いで行動。まずはクレバスより少し距離を取った位置に降下し、電子の目と耳で様子を見る。
「相手の意図するところが〝罠に嵌めて全部流す〟であれば、現地からは見かけ上消えた方が裏をかけるからな」
 操舵室の上向き液晶テレビの前に集まり、状況確認と作戦協議。
「ラングさんって水中で呼吸できなくても生きていられるんでしょうか?」
 レムリアは尋ねた。幾ら不死身と言われても、何も反応がないのはやはり心配。
「無呼吸でどれだけ生きてるかは知らんけどな。とりあえずはレールガンの燃料電池から酸素食ってるだろうよ」
 船が把握した状況を液晶テレビに全部出す。南極大陸はその分厚い氷床質量で中央部が凹んでおり、その氷床下に90以上の湖が発見されている。件の戦闘ヘリコプターの逃亡軌跡もそうした湖の上で途切れている。
「何か作った?」
「何のために」
「鉱物資源の盗掘」
 南極は国際条約でどこの国にも属さない。
「どうやって運び出すんだ。〝悪の枢軸〟監視で軍事衛星がウロウロしてるぜ?」
 それこそ〝ワッセナーアレンジメント〟による禁制品を第3国経由で迂回調達しようという試みは後を絶たない。
「隠してる」
 レムリアは男達の中に入って言った。
「妥当だな」
 味方したのは相原。
「何を」
「ひとつ、そこにあっても不自然じゃないもの。もうひとつ、ばれた瞬間には既に手遅れで構わないもの」
「核ミサイルで世界を滅ぼせとか」
 シュレーター博士が言った。見つかった時にはミサイルは発射済み……確かに既に手遅れではある。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-064-

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「風じゃねえ。地下空間を自然の風が吹くもんか。空気押しのけながら何かデカイのが来るんだい。地下鉄の風と同じだ。全員ストレッチャーのロープにつかまれ。ドクター、ウィンチせず船ごと浮上してくれ!」
 しかし、ラングレヌスだけは例のハーケンで降ろした縄梯子の方につかまった。
「ラングさん!」
 意図を図りかねてレムリアは叫んだ。
 叫んでから意図を感じ取った。
「ああ気持ちいい響きだぜ女の子に心配されるのは……何来るか知らんが、まさか中に残ってる奴がいるとは思わねぇだろうよ。心配するな行け」
 つまり、不死身性にモノを言わせて事態を見届け、裏を掻く。
 聞こえてきた水音は鉄砲水の様相。空気を押しのけて風にしているのは大量の水。
「ヒャッハー。サーフィンなんか何年もやってねぇぜ!」
 後で聞いたが、ピンチに軽口という悪いクセをクルーに伝染させたのは、どうやらこの不死身男であるらしい。
「ドクター、構うな上げてくれ……奴の生命力はルガルー(人狼)並だ」
 アリスタルコス。
「でも」
「船外所定位置。浮上よし」
 相原の声が非情に聞こえた。もちろん正しい判断と判っているし、彼は死にはしないであろう。
 だが、〝生きていて当然〟というこの2人の言動が何か引っ掛かるのだ。
 それとも、心配する自分が変なのか。
 冷静すぎる。強すぎる。
 そこで相原に手を握られてハッとする。
 目を向けたら、彼もフードを外した。
「冷たいな、怖いか」
 首を横に振る。そういうわけでは。
 すると夏の突然の豪雨のようにザーと水音が聞こえ出し、氷床下河川の水量がにわかに増える。程なく津波の如くとなり、電気船が飲み込まれる。ショートでもしたか青い火花が散って見えなくなる。アルゴ号はロープを巻きながら高度を取り、
 そして、ラングレヌスが水中に隠れる。
 水は電波を通さず、彼との通信は途絶した。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-063-

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 クレバスが城郭の〝掘〟のようにぐるり囲んでおり、件の武装ヘリはその囲みの中心付近へ逃げ込んだというのだ。
「そこでレーダーの反応から消えたそうです。氷床下へ降りたのでしょうと」
「……結局水核炉の時は船で地下に突っ込んだんだっけ?」
 相原が訊いた。それは前述のウラン鉱云々の話で、彼が失神中に話して聞かせた事案である。軍事国家が核兵器用プルトニウムの生産を画策、ウラン鉱脈に大量の水を流し込んで〝天然原子炉〟を構築していた。しかも、そのプルトニウムを密かに増産してクーデターを起こそうとした者があり、過程で核事故が生じてアルゴ号が検出した。
 結果として高熱が断層を刺激し、地震が生じて炉は潰れた。大量のウランは地割れに落ち込み、地下深くに分散した結果、地上の放射能汚染も抑制された。
 船が戻ってきた。改めて船倉を開き、ストレッチャー回収用のロープを下ろしてくる。
「悪い奴の考えることは似てくる、と。南極の氷床下は構造が不明な部分が多い。船の手持ちのデータと……全波長スキャンできるシステムあったな。イベントディテクタだっけか?ドクター用意できますか?」
 相原が尋ねる間にストレッチャーをロープのフックにぶら下げる。なお、イベントディテクタとは、改変検出とでも訳すか、2枚の写真や、普通の写真と赤外線解析を比較するなどにより、差違を見つけ出す技術である。以前は無かった核施設を衛星写真で検出するなどで使われる。
 その時。
「ターゲットシステムが擾乱を捉えた」
 アリスタルコスが呟いた。
 レムリアはテレパシーを全力で駆使しようとし、無垢の本質を覆って邪魔するウェアのフードを外した。
 極地の氷中で、素肌晒して感じたのは。
「……風」
 短い髪の毛、されど僅かな揺れでも判る。
「風が来ます」
 スコット隊を死に追いやったのも氷の暴風であるが。
 
(つづく)

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【理絵子の小話】出会った頃の話-15-

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「小倉抹茶名古屋盛り」
「渋いな。飲み物は」
「マンドラゴラブレンド」
 マスターオリジナルのブレンドであり新メニューとある。マンドラゴラとは引き抜くと叫び声を上げるという魔法植物であるが、そのごとく「あっ」と叫ぶほどの味なのだとか。
「早速試してくれるんだ嬉しいね」
 マスターは言った。
「お前ここで飲み食いは初めてか?力抜けよ。新ブレンドと言うより珍ブレンドだぜ」
「飲んだことあるの?」
「怖くて飲めるか」
 自分達の会話に女子大生達がウケている。
 ちなみに珍走団のたまり場と書いたが、マスターが日中は滞留禁止と強く諫めていることもあり、女子大生達と珍走団が出くわすことは基本的に無い。
 その時。
「うわ……」
 拒絶の意を含んだ一人の発言と、無闇に大きなバイクの音は、従って異常を意味した。
「バッカ共が」
 マスターが異常に気付き店外へ走り出す。
 一方店の前には幾度も転倒したか、傷だらけで改造排気管を生やした原付。
 降りて来るのは。
「マサさん」
「お前らっ!」
 店内に入ってきた彼らと目が会う。
 先ほどの男子生徒達である。
 桜井優子が敏感に反応した。
「何だお前ら!」
「やべっ!」
 男子生徒らは即座に取って返し、原付にまたがる。
 続いて飛びだして行こうとする桜井優子をマスターと理絵子が揃って制した。
「一人じゃダメ」
 理絵子は言った。
「でも……あいつら絶対」
「おいおい待ってくれ。何がどうなってるんだ?」
 マスターは桜井優子の両肩を掴んでテーブルに座らせた。
「……実は」
 例の男。
「フルボッコにした」(フルにボッコボコ。完膚無きまでに痛めつけた)
「え?だって、奴は……」
「もう我慢できなかったんですよ!」
 マスターの問いかけに、桜井優子は堰が切れたように言った。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-062-

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 一般にミサイル躯体(くたい)は軽量化のためアルミニウムや炭素系素材の使用が多い。レーザの光条は弾頭に組み込まれた起爆装置を射抜き、次いでレールガンのアルミ塊は、胴体部分にある推進装置を破壊した。
 起爆不能となった弾頭は、ただの耐熱木偶となって氷上をそのまま滑走して行き、次いで、穴の開いた推進装置は、燃料(ヒドラジン:猛毒)を渦巻き状に吹き出しながら、どこかへ飛んで行く。
『ミサイルの破壊を確認。戦闘ヘリは逃走した。こちらで追跡対処する。3分要する見込み。その間に要救護者回収急げ』
「了解。ヘリの所属分析試みられたい」
 相原が答える。
『了解』
 レムリアがストレッチャーを女性の傍らまで移動していたので、男達が加わり、女性をそちらに移す。全員手袋を外し、心臓マッサージ及び加温のための手足のマッサージを交代で続ける。その間、AEDが電気ショックを何度か放つが、心拍は回復せず。最も、筋肉が動くにはある程度温度が必要であり、ここまで低いと動き出すレベルに足らぬ。
 だが、続ける。人の手で本来あるべき姿をサポートし、なるべく維持することに意味があるのだ。
「静かすぎる」
 アリスタルコスが不機嫌そうに呟く。確かに、ここでは水の音が少しするのと、AEDの指示音声があるのみ。
 上の方は戦闘ヘリとバトルに入ると見ていたが、これと言った音が聞こえない。
「離れたか?」
「離すため、だったりしてよ」
「……相原代われ」
 双子は呟いて銃をそれぞれ構え、マッサージを相原に託した。
「……何が?」
 レムリアは相原に訊いた。二人が危機感を得たことは感じたが。
「戦闘ヘリが囮になって船をここから引き離し、オレ達だけ残させたんじゃないかってこと……セレネさんとテレパシー通じるか?船は今どこで何をしている?」
「あ、うん……」
 呼んでみて、戻ってきたイメージは少々、大ごと。
 
(つづく)

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春と夏に↑に貼ってある女の子

絵師はこの方です。ささきむつみさん。
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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-061-

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 相原は悪態を付き……歯がみし、しかし。
「ストレッチャー降ろして滑走離脱せよ。代わりに座標現位置ロックでレーダー距離ビーコンを転送願う。アリス、レーザガン真上に向け」
 アリスタルコスはおう、と応じ、自らの銃を天へ向けてから、ナニ?と訊き返した。
「お前まさか……」
「船長の真似。ターゲットシステムリモート」
 要するに。
 船が時々刻々補足しているミサイル位置情報を、相原がPSCを経由し脳で受信し、アリスタルコスのレーザガンに脳波で照準指示を出し、ミサイルを撃ち抜く。そんなスキーム。
「レールガンも準備」
「知らんぞ」
『こっちも知らんぞ。いいのか?』
 知らんぞ、は、ぶっつけ本番への彼らの懸念。及び、
 されど他に代替案なし。
「無茶苦茶しやがる」
 相原は自らプラズマガンのスコープを顔にセットして見上げた。
 相原の視野には、土の中(今の場合は氷)から見上げた視点で、船のコンピュータが予測したミサイルの経路と現在位置が表示される。台風の進路予想図でもイメージして頂ければ良い。これに対して、経路中のどの位置で命中させるかを相原が脳波で(脳波が使えない場合は視線で指定可能)マークし、そのマーク位置が大男二人のスコープに表示される。
 彼らは自分たちの獲物の照準をマーク位置に合わせ、相原の指示したタイミングで発砲する。
 ストレッチャーが降ろされる。船はそのままエンジンを吹き、氷の上を滑ってその場を離れる。
「ビーコン捕捉。着弾予測値同期確保。照準」
「オーケー。ターゲット表示された」
「オレもロックオン完了」
「双方了解。3……2……1……トリガ(引き金を引くこと)」
 音速を遙かに超えるミサイルを、クレバスの底から一撃で仕留める。
 相原の声に応じて二人は次々発砲し、まずグリーンの光条が何かを貫いて天へ馳せ、次いで、銀色の超弾が光条を追って走った。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-060-

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『敵味方識別装置ロックオン警告。対地攻撃ヘリAH64国籍不明』
 それは各種電子支援を搭載した戦闘ヘリコプター。自由主義諸国で多く見られる。
 当然、兵器拡散防止の観点から、どの国の誰が使うかは管理されているはずだが(旧ココム。1996年以降はワッセナー・アレンジメント)。
 それが、国籍不明で攻撃的。
「ジャミング、クローキング、ストレッチャー回収急げ」
 相原がどうにか立ち上がって言った。ジャミングは攻撃を妨害しろ、クローキングは姿を隠せ。
『空対地ミサイル発射。着弾まで12秒。無誘導につきチャフ、フレアは無効と推定』
 船めがけて打ち込まれたと見られる。また、ミサイルは誘導装置を使っていないため、誘導装置への妨害工作は無効。
 一般に誘導ミサイルのターゲットシステムは赤外線を使うが、アルゴ号は停船状態では殆ど発熱しないため、南極の温度も相まって使えないと判断したのだろう。目視照準、中の人間が目で見て撃った、だ。この場合、射手が指定した場所で爆発する。従って、指定された場所が正しければ、船が動くかミサイルを破壊しない限り命中する。透過シールドで姿を隠しても意味はない。また、船が動いても、船が居た位置で爆発する。
 つまり氷の下にいる彼らの頭上で爆発する。
「そのまま船体を回転、光圧で弾き飛ばせ!」
 次善策。エンジンが放つ光の炎で吹き飛ばせ。
『俯角が取れん!』
 エンジンで吹き飛ばすと、当然反動で船は前進する。
 それを抑えるために同時に逆噴射する。
 ただ、要するに〝光線〟なので、直線上で迎え撃つ必要があるが、ミサイル側がフラフラしているので、船尾を若干上向きにして、ミサイルの軌道を斜めに横切るように光線を出したい。それなら多少ふらついても光束に捕捉できる。
 しかし、船尾を上げるイコール船首を下げる。逆噴射すると彼らの頭上に光圧が加わる。
「くっそ!」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-059-

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「相原さん!」
 叫ぶが応える声無し。アリスタルコスが相原の身体を起こし、ようやくレムリアは氷から身を離す。
『どうしましたか?』
 セレネの心配。その向こうで「ビーコン再補足」というシュレーターの声。
 相原が片ひざ突いたアリスタルコスに抱えられる。頬をペチペチ叩かれると、薄く目を開いた。
「お前はケガ無いのか?だったら……女の人を……」
 その状態で相原が最初に見せた言動がこれ。よろよろと手指を伸ばす。見れば眼球が小刻みに震えている。頭部を強打して脳震盪状態に相違なかった。
「でも」
「今、大事なのは!?」
 彼にはそれでもどうにか意識がある。比して。
「判った」
 レムリアは歯を食いしばって女性にとりつく。心拍と呼吸と瞳孔反射。
 背中のザックを下ろし、耳温計を取り出して体温を測り、服の胸元を切り取ってAEDの電極パッドを貼り付ける。心電図はAEDに任せる。
 体温は30度あるかないか。低体温状態だ。そしてAEDの音声誘導によれば、心室細動を検出、除細動処置……。
 電気ショックが走るが回復せず。ラングレヌスが体格に物を言わせて心臓マッサージ。
 彼に任せ、ザックの中に丸めてあった簡易寝袋を取り出す。空気を入れて膨らませ、その空気に断熱をさせる。ポンプで膨らませる作業をアリスタルコスに任せ、自分は加温パッドをザックから引っ張り出し、女性のウェアに手を入れて脇と腿と腰にセット。
 船を呼びつける。クレバスの真上に来てストレッチャーを下ろして欲しい。
 女性を寝袋に移し、心臓マッサージを続ける。
 船が氷上を滑ってきてクレバスの上を跨いで止まり、生命保持ユニット(つまりは船倉)の側扉を開く。中からアームが2本外に伸び出し、客船の救命ボートよろしく、ロープで吊られたストレッチャーを下ろしてくる。
 イヤホンにピン。
 こちらが声を出す前に、とんでもないことをシュレーターの声が伝えてきた。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-058-

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「縁起でもねぇこと言うな……焦るだろうが」
 相原は言った。彼の抱いた少しの不快。悲劇を想像させるからやめろ。
 すなわち、彼もスコットの結末を知っている。
 だから、彼は急いだ。
 ほんの少し、結果を急いだ。
 レムリアは気付いたが。
「あっ……」
 大きな火の玉。
 小爆発と言って良い音がして湯気が盛大に生じた。
「しまっ……」
 相原が言いかけ、その姿が湯気に見えなくなる。
 それが〝僅かに急いだ〟結果であった。レムリアは湯気の中に飛び込んだ。
 自分に何か手伝える?
 しかし。
「バカ!何でここにいるんだ!」
 彼の顔が湯気から現れ、そういう声が聞こえ、
 ドンと胸を突き飛ばされる感触があったかと思った次の瞬間、そのまま相原の身体が自分の上に覆い被さって倒される。
 仰向けに氷の上にひっくり返ったが、その寸前、彼の腕が自分の後頭部の下に差し込まれたのが判った。
 ガシャンと大きな音がして、自分たちを大きな機構体が拘束する。
 相原が氷を一気に溶かしすぎ、氷中に倒立していた太陽電池ソリが剥き出しになり、倒れ込んできたのであった。
 相原はレムリアを突き飛ばして逃がそうとしたが、僅かに及ばす、自らソリにのしかかられ、レムリアの上に倒れ込んでしまった。
 ただその寸前にそれに気付き、腕を差し入れた。
「レムリア……レムリア……ああオレはなんてことを」
 ……囁くように声が聞こえ、相原は身を起こそうとしたようだが、そのまま途絶し、力が抜ける。
Argo3
「大丈夫かお前ら!」
 大男達がすぐさま助け出してくれた。
 ソリが持ち上げられ、裏返される。
 太陽電池パネルは屋根板のように〝へ〟の字にセットされており、その屋根の下から眼鏡姿の若い娘が見つかった。ラングレヌスが彼女を引き出し、次いでアリスタルコスがソリの中からテントとおぼしきシートを引きずり出して氷上に伸べ、娘を横たえる。
 相原は動かない。
 
(つづく)


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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-057-

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 今回は相原が即答した。初めて参加したはずなのにこの把握力はどうだ。最も、男性はおしなべて銃器武器の類は好きと聞く。
 なお、彼は手のひらで包丁を使うようなジェスチャーをしたが、そのアイディアが〝豆腐〟の切り方だとレムリアが知るのはかなり後のことである。
「なるほど」
 兄弟が答える。双子であり、どちらが答えたか、或いは同時にであったかは定かでない。
 ただ息が合っているのは確かなようであり、リズム良くレーザ光線によるカットと、レールガンの撃ち出すアルミブロックによる氷塊撃破が数回繰り返される。
「吹き飛ばすよりは破壊になったな」
 相原が言った。
「お前のアイディアは発想自体は確かに船長並だが見通しはまだ甘いな」
 ラングレヌスが応じ、幾度目かの〝ブロック崩し〟を実行した。
 氷の向こうに様相が見て取れる。構体……ソリとも船とも付かぬ……が埋もれており、逆立ち状態。
 ただ、明らかなのは、黒色のパネルに覆われており、直接人体は確認できないこと。
 そして、黒いパネルはその照明ハーケンの白い光を弾いてキラキラ光る。鉱物結晶体に表面が覆われていると判断できる。
「太陽電池か」
 相原は言いながらプラズマガンを構えた。
 太陽電池で南極を移動……その状況にレムリアは心当たりがあった。
「ああ、どこかの大学の女の子が、太陽電池の電動ソリで南極横断しながら地球温暖化の調査をするとか」
「何だそりゃ。スコット隊じゃあるまいし。大体こういうとこって犬ぞりじゃねぇのか?古いか?」
 アリスタルコスが尋ねる。相原が小さな火の玉を幾つか発射し、溶け方をチェック。
「犬ぞりの乗り入れは禁止されました。生態系を乱すから」
 レムリアは言い、相原の背後に近寄った。超感覚にその女子大生の生命反応を見させようとしたのである。ちなみに、スコットとはアムンゼンと南極点一番乗りを競った冒険家であり、動力ソリを持ち込んだ。そして、極点到達はアムンゼンの後塵を拝した上、吹雪に閉ざされて客死した。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-056-

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 縄ばしごを下りて行く。下の方で動くライト。
「中は空間で川が流れてる!」
 彼の声はすれども、その偉躯を視認するには至らず。
 姿が無いこと、及び声の反響から感じるに相当深い。全面氷なので真っ暗まで行かないが、無色透明でもないので、行動に難渋する暗さ。
 相原が再びランチャーに何か仕込んで、氷の壁めがけて打ち込んだ。
 白色発光ダイオードの冷めた光が空間に光を届ける。使い捨ての照明ハーケンである。
 何本か打ち込んだら、氷のブルーもあろう、コンサートのステージのようだ。
 そして、照らされたのは、うずたかく積もった氷片の山と、その中に物影。
 何かが氷の中に埋もれているのは明らか。
「どうするよ」
 後から下りてきたアリスタルコスが尋ね、梯子途中より飛び降りた。彼が来たからには、氷上に懸念は無いと判断された、ということだろう。
 仮に何かあれば船のレーダが拾う。
「まず生死を確認する。テレパス」
 相原が言う。船長の流儀。
「何も感じません。……仮死状態かと」
「逆に生きてる可能性はあるな」
「ええもちろん」
 仮死状態の方が、身体が動いていない分、体力の消耗は逆に少ない。ただし安心という意味ではない。可能性が変わるだけであって、急ぐべきであることに変化はない。時間という尺度には何ら寄与しない。
 方策を立てる要がある。今ここにある救助支援機器……銃器は、レーザ、レールガン、プラズマガン。ちなみにレムリアはいつもこういう場合の方策会議に参加してはいるが、その中身は銃器の有効利用法であって、意見が採用されるどころか、提案できたためしがない。
「レーザでブロック状にカットして各個ブロックをレールガンで吹き飛ばす。救護対象に近づいたら、後は自分がプラズマで少しずつ溶かす」
 
(つづく)

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【理絵子の小話】出会った頃の話-14-

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「理絵ちゃんって優子のこと知ってたのか?あれ?でも……」
 バイクの主の名。
「奴は知ってんだっけ?」
 続いて桜井優子が驚く番。
「お前何でマサさん知ってんの」
「俺が世話になったんだよ」
 マスターが先に言った。
 低いトーンで、視線をずらして。
 理絵子は父とマスターが〝警察とそのご厄介〟の間柄に起因することは知っているが、ご厄介までの因果は知らぬ。幼い頃、庭の焼き肉パーティに彼がいたことは覚えている。
「……すいません。余計なこと」
 桜井優子は申し訳なさそうに言った。それは、その過去の知らぬ因果が、タブーに近い内容であることを意味した。
「気にするな。それより優子が理絵ちゃん連れてきたってのは、お前が紹介したい友達が理絵ちゃんって認識でいいんだな?」
「はい。なので、彼女をスイーツ責めに……」
 え?え?え?
「よし請け負った。まぁ二人とも入れ。さてお客様方、当店は本日に限りましてこれより2時間ケーキバイキング……」
 幾らか女子大生が客としていたらしい。ワッと歓声が上がってマスターの声をかき消す。
 二人は店内に入ると、最も隅のテーブルに座った。お冷やにおしぼり。
「しかし君らどうやって知り合った」
 マスターはケーキメニューを見せて訊いた。
「クラスメート」
 理絵子は答える。
「そうじゃなくて。優子の家に行った理由だよ」
「ギョウ虫検査忘れずに持ってきて」
 理絵子が言ったら、桜井優子が口にしたグラスのお冷やを吹きそうになり、慌てておしぼりを口元に。
「お前涼しい顔して面白すぎるよな」
「そう?つまらないよりはマシかな、と思ってはいるけど」
 とはいえ、理絵子は自分のこの種の発言が先入観の排除や落差といった観念を聞き手にもたらすことを知っている。
 清楚で可愛い優等生。だがそのイメージは多分弊害しか自分の周囲に生まぬ。
「てなわけで面白いから友達にした、です」
 桜井優子はマスターにそう言った。
 マスターは口ひげを僅かに動かし。
「そうかい。そいつはいいや。ケーキ選べ」
「ガラじゃ無いからイイよ。コーヒーだけ」
「理絵ちゃんは。イチゴのショート?」
 
(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-終-

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 かおるちゃんは言いました。
「お母さん言ってるもん、誰かのためになりなさいって。あなたがいて良かったって言われる人になりなさいって。私、ジョンがいて良かった。お姉ちゃんに会えて良かった。お姉ちゃんの魔法、可哀想な犬のために使えるよ。そして、多分、私が誰かのためにいることが、お母さんの安心」
 大人って年齢で決まるものじゃ無いと思うんです。
 私、19歳を200年以上続けていますが、自己認識として、〝事実上19歳〟に甘えているところがあるのかも。
 使命は認識しています。生き物たちの相談相手。
 その場合、使命の成果って何でしょう。ひょっとして相談不要になること。つまり、妖精の仕事が無くなることでは。
 時間が来たようです。
「じゃぁ、かおるちゃん、ジョンを次の飼い主の元へ行かせてあげてもいいですか?」
 かおるちゃんは頷きました。そして、全てが元に戻るには、一瞬。
 夜の住宅街。街灯の下に立っている、と判るまで少し時間が掛かりました。
「……おうちのそば」
 かおるちゃんが言いました。トガをまとったその姿はまるで〝ミニ自分〟。
 いいえ、実際そうなのかも知れません。
「約束のおまじない」
 私は自分のトガの裾を細く帯状に破いてりぼんにすると、かおるちゃんの髪の毛にくるくる。
「これが魔法?」
「そう。動物とお話しするときはこれを使って」
「試していい?」
「もちろん」
 私が答えると、かおるちゃんは歩き出しました。どうやら能力をテストする心当たりがあるようです。角を曲がって大きな柿の木のある家。
 道にせり出した枝の下、ネコたちが集まっています。いわゆるネコ集会。
 ネコたちは私たちを見て一斉に驚きを見せました。
〈人間の女の子が妖精になってるぞ〉
〈て言うか、こいつかおるじゃん〉
〈お前オレ達の言葉判るんだな。じゃあ教えてやる。母ちゃんが心配して探してるぞ〉
〈こっちだ、来い〉
「そう?じゃあ案内して。あたし行くね。お姉ちゃんバイバイ」
 彼女が、獣医になったと聞いたのは、ずっと後の話。
 
花泥棒/終
 
妖精エウリーの小さなお話・一覧

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-055-

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 アリスタルコスは鼻白んだが。
「ふざけて聞こえたらゴメンよ。今日び人類はどこでどんなバカやってるかワカランてことさ。断層のウラン鉱に水ぶち込んでプルトニウム作ってたバカいたんだろ?」
 想定外出現あり。対しアリスタルコスはニヤリと笑い、
「警戒しすぎの気もするがな。まぁでも人為的でないって証拠もないわな」
 アリスタルコスは銃の安全装置を外し、スコープを顔にセットする。
 修羅場でも、修羅場だからこそ軽口を。その位冷静で頭が回らなくては。レムリアが思い出したのは、著名なスパイ映画の主人公。
 相原を見る。この平和な国に住む野暮ったい男は実は……。
 まさか。ただ一つ明らかなのは、彼には彼なりのリファレンスが存在し、今ここにいる限り、防弾服と銃器の故にその通り動けているのではあるまいか。
 だから冷静でいられる。
 そして頭が回る。いつの間にか自分さえ知らないアタッチメントをプラズマガン銃身下に装着している。マニュアルにあったのだろうが記憶にない。ただ、その組み合わせて出来上がった姿は、ゲリラ兵士が良く持っているミニ大砲みたいなのを装着した(グレネードランチャーのことか?)自動小銃を思わせる。似たような物だろう。
 そして、相原がその砲口から差し込んだのは、砲弾ではなく短剣状の、
「それって雪山登山でロープを結ぶ……」
「そう。ハーケン。高温でガス圧を上げて打ち込む」
 ラングレヌスが飛び降りた位置を確認し、クレバスの壁面すぐ脇で銃口を氷床に突き立て、短時間のチャージで発砲。
 原理的には空気銃である。その割には結構鋭い音が氷原に轟き、ハーケンは水しぶきを上げて氷床に突き立った。
 2本打ち、縄梯子を引っ掛けて割れ目に垂らす。
 氷の中は、まるでこれから巨大なサファイヤの中に入り込むよう。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-054-

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 滑り降り、そこに非常持ち出しよろしく用意してあるザックを背負う。中はAED(自動体外式除細動装置)を始め応急救命用具と薬が幾つか。放射線障害用のヨードも入っている。
 舷側通路を走って、昇降スロープを駆け下りる。
「そこ滑るぞ」
「え?」
 背格好でそうと判る相原に言われて、スロープから一歩足を下ろしたところで立ち止まる。
 べしゃっ……それが足音と感触。まるで雨上がりの水たまり。
 ここは、雪と氷の白き大陸、南極。
「溶けて……」
「るよ」
「温暖化」
「じゃねえの?アルプスと一緒だよ」
「こんなに……」
 見回せば水たまりが幾つも幾つも……それは子どもが泣きながら走ってきた跡のような。
 そう地球が泣いてる涙のよう。
「それでヨッシャ北極溶けて新航路が作れる!とか、オレの領海だ!とか、海底資源を漁れるぞってのが偉大なる人類の考えることさ。でも環境問題は後回し。クレバスに降りる……普段どうやってんの?こういう場合」
 相原は早口で言い、話題を変えて大男二人に訊いた。
「あ?まぁ、こういう状況不明の危険な事態はだな」
 アリスタルコスが言い。
「とりあえず不死身が突撃するんだよ。縄梯子用意しとけ」
 ラングレヌスが引き継いで、そのクレバスへひょいと身を投じた。
 レムリアは「あっ」と声を出すヒマすら無かった。この野郎共のやることに命がけで未知に立ち向かう緊張感はない。だが、実際にはとてつもなく危険で、そして凄いこと。
 連中と一緒にいると奇蹟が当たり前に思えてくる。魔法使いという自分のスキルがかすむ。
 最も、それこそがアルゴプロジェクトの使命なのだが。
 イヤホンに感。
『魔女看護師、プラズマ船長、出番だ』
「了解。場所は判る。……レムリア行くぞ。アリスは白クマでも警戒してくれ」
 縄梯子一巻き背負った相原に促される。
「あ、うん」
「南極に白クマがいるかバカ。ふざけるな」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-053-

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 SARが検出した地形の輪郭線を、正面スクリーンの氷原に重ねる。
 肉眼では判然としないが〝筋〟が画面を斜めに走っており、救難システムの移動軌跡100メートルはそこに合致する。
 クレバスに落下し、中で移動中に信号が途切れた、と判断して良さそうだ。
「降りますか」
 相原は言った。氷原下に降りて捜索。
「ああ、それしかあるまい」
「では副長と博士……」
「私も行くから!」
 相原に留守番と言われる前にレムリアは言った。
 言われそうな気がしたから。お前は残れ、と。
 しかし。
「真っ先に必要になるのは君だから」
 相原は当然とばかりの口調でそう言った。
「……了解、船長」
 レムリアは応じた。安堵のせいか真剣な状況なのに笑みが出てしまう。
「捜索に出ます。レムリアは救護用具一式、我々は銃器背負って昇降口へ……」
「着陸。構体着氷。不安定なので下船注意」
 相原が言い終わらぬうち、シュレーターが船を氷上に下ろし、報告。
「着氷確認。では、総員耐環境ウェアを着用し下船集合。40秒」
「了解」
 男達は銃を取りに船首方向、通称〝武器庫〟へ。レムリアは自室へ戻り、クローゼットから耐環境ウェア、すなわち件の万能スーツを取り出す。彼女は季節よらず普段着はTシャツ短パンでいることが多いが、これは薄着の方が機能的だからであると共に、殊この船に乗っている限り、これの脱ぎ着が楽だからである。年頃の娘にしちゃオシャレに気を配らないと自覚してるし、そんな自分でも女だという自覚はあるが、その前に使命持った人間であって、
 女の子っぽいよりは飾らずにいたい。
 ウェアを着込み、個室奥の床板を開くと、滑り台が顔を出す。そこから降りると船倉部に組み込まれた医療機械室……生命保持ユニットに出る。そこは本来の宇宙航行では、観測機器類を積み込むスペース。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-052-

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 大画面の船外画像には「EPIRB位置情報による」と注釈の付いた赤い「+」のマーク。子画面に地図があって南緯88度。
 しかし南極大陸内奥の氷原であって、船が浮かぶ場所には思われず、また当該船舶の姿もない。
「その後ビーコンは?……レムリア追尾できるか?」
「はい……待って」
 レムリアはコンソールに取り付いてタッチパネルを操作。
「20秒間にわたって西南西へ移動。そこで途切れています」
「移動距離は」
「100メートル」
「誤差に近いんじゃないのか?……テレパシーでは」
 相原はセレネを見た。
「いえ。実際の遭難事象はもっと前だと思われます。また、過去認知でも悲鳴や危機感は察知されないので、恐らく、恐怖を感じるヒマすらなく何かに巻き込まれたのではないかと。レムリアはどうですか?」
「何も感じません」
 思わず敬語で答えたが、そこには船長がいるのではなく、はんてん姿で腕組みしながら頷いている相原がある。
 ただ、堂に入っている。大体、手慣れたというか、それこそ船長アルフォンススの流儀をそのまま再現できている気がする。
 前回、相原は船には乗ったがミッションに参加したわけではない。ただ、レムリアが過去の活動を語って聞かせただけ。
 それだけで我が物レベルで活用できるまで把握してしまったということか。
 それが彼に対するカウンセリングになると船長は話した。……これほどまでであるとは。
「硝煙反応、SAR」
「あ、はい」
 レムリアは言われるままに操作。自分で考えるより指示待ちになってしまっている。この男の発想と判断を無意識に信頼している。
「硝煙?撃たれたってのか?」
 アリスタルコス。
「海生哺乳類の密猟って話を聞くから」
「誤射か……え?見られたから射殺しようとした?どっちにしろ捕鯨砲で撃たれてビーコン飛ぶなら船が木っ端微塵ってことだぞ?」
「あのいいでしょうか、クレバスがあるようです」
 レムリアは男達の会話に声を挟んだ。
 クレバス。氷の割れ目。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-051-

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 髪の毛が逆立ったような気がした。と書いても、過言ではないほどの衝撃。
 なぜなら。
 その、拉致された少女を、レムリアは船で相原の前に降りたって彼に託した。
 それが事実であると証明できるのは、文字通り〝どうせ誰もいない〟そのもの。同じ構図。
 そして、彼は、最も信じてもらいたい相手に、信じてもらえなかった。
「お前みたいな女の子好きだぜ」
 さらりと言われて、どきっ、とした。
 同じ構図に対して何か言おうとしたのだが、どこかへ行ってしまった。
 それこそテレパシーで先読みされ、体よくはぐらかされているような気がする。
「お年頃の娘からかうとひどい目に合うよ」
 頬が赤くなるのを自覚するが、愛の告白ではあるまい。気に入ったという奴だ。でも、そうと判っていても人格肯定されるのは少し嬉しい。多分、〝魔法のお姉ちゃん〟に対する男の子の幼い思いとも、オトナのいう〝いい子だね〟ともニュアンスが違うから。
 やはり自分はカウンセリングされたのだと納得せざるを得ない。人と違う目標を抱き、思春期と共に祖国を飛び出し、フリースクールの生徒になって今に至る。
「純化(じゅんか)ってコトバがあるんだよ、オレらのギョーカイでね。良い悪い色々混じった物から良いところだけ地道に集めて非常に質の高い物を作る。君の性根や行動にはその方向を感じる。大事にしな」
「うん……」
 レムリアは小さく頷いた。意外なことで褒められた幼い女の子の気分。
 イヤホンがピンと鳴る。
「来たっ!」
 二人は部屋から出た。
 


 
 〝EPIRB〟と呼ばれるシステムがある。Emergency Position Indicate Radio Beacon:非常位置指示無線標識。タイタニックで一般化したモールスによるSOSの代わりに導入された船舶用の仕組みである。地球周回衛星コスパス・サーサットを介して遭難位置情報を発信する。カーナビゲーションで知られるGPS応用の一種で、当然全地球規模。
「南極」
 
(つづく)

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