アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-121-
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レムリアはフードを外して顔を見せる。
「助けるから」
魔法に物を言わせ、繋いでいた鎖から解き放つ。
-もうだめ。逃げて。
それは、あのクジラからの最期の声。
爆発音、及びイヤホンにピン。ピン二重。
『爆発と火炎。炎が滝のように流れ込む。直ちに離脱せよ』
されど退路はない。自分たちが降りてきたその方向から、熱い風が来る。
欧米の捕鯨は、ランプの油、すなわちクジラの体液が目的であった。
その油が火を噴いたか、滑り台を炎が洪水となって駆け下りてくる。
相原は……所長と交戦中。殴りかかる相原と、ジュラルミンケースを盾に防戦一方の所長。
双子が自分たちを実験室へ放った。そして次に、相原が自分を放った。
今度は……自分が相原を。
彼をここから引き抜き、しかも、高速で離脱する。
方法は……ある。
レムリアは馬の目を見た。
〈お前名前は〉
〈スズカ〉
〈スズカ、私たちを乗せなさい。地上へ〉
〈お任せを〉
果たして、相原が見たのは馬上の少女。
「乗って!」
レムリアは手を伸ばし、相原の背中に言った。
相原は見返して驚いた。しかし躊躇無く彼女の手をつかみ、ジャンプして馬の腰へ。
それは、どうにかレムリアの後ろによじ登ったという表現が正しい。彼に乗馬の経験が無いことは訊くまでもない。
「両足で馬の身体を締め付けるように。それで私に抱きついて」
相原はレムリアの腰に手を添えたが。
「もっとしっかり!リズムに合わせてバランス取って。行きます」
レムリアは馬の横腹を軽く蹴った。
相原の姿が無様に見えたか、所長が嘲るように笑い、デコボコのジュラルミンケースをトロフィーのように頭上に掲げた。
その後は、知らない。
「行け!」
少女が馬を駆る。
炎に包まれ、崩壊し始めた地下構造中を、少女と青年を乗せて馬が走る。
(つづく)
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