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2011年11月

【理絵子の夜話】犬神の郷-1-

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 エクスクルーシヴ・モデル2402は、重量90キロ程度。人の顔より大きなウーファユニットを2機備えたスピーカシステムである。巨大なスピーカは動かすことは勿論、電磁誘導による逆起電力も大きく、当然、駆動するアンプリファイアも応じた性能が求められる。
「昔惚れた女に再会したような気分だよ」
 ややハゲの目立ってきた初老の男性が感想を述べる。2機のスピーカは和室板の間、左右に分かれて鎮座ましましてあり、その左右の間には、駆動アンプ等一式が並べられてある。
 男性の手にはコップの日本酒。
「なら、それ持って出て行けば?私はいいのよ?」
 前掛け姿の白髪の女性がお盆でゴチン。
「イタ……ウソだよ幸子、惚れた女はお前だけ」
 男性は額をさする。アンプ等一式……コントロールアンプC-290と2台のパワーアンプM-1000。CDプレーヤはDP-75という。スピーカを含めシステム全体で1000万円に近い。パワーアンプは左右のスピーカーそれぞれに1台ずつあてがう。
「女の子の趣味じゃないぞ」
 男性はジャズのCDを入れ替えながら、ブレザーの制服にエプロンを着た娘に問うた。透明感のある顔立ちの娘で背が高く、髪も長い。その瞳は知的でクールな印象があり、お人形さん的な冷ややかさ、素っ気なさを与える。
「父親が見栄っ張りだったもので」
 制服の娘、本橋美砂(もとはしみさ)はそう言うと、男性が一升瓶を立てているコタツに台ふきを走らせる。
 彼女は親族の一切を失った結果、山懐で民宿を経営する塙(はなわ)夫妻の元に住み込み、宿を手伝うことになった。応じて自宅を売り払ったが、生活資材以外で唯一持ち込んだ私物が、これらオーディオセットである。
 冬山登山だという男性の泊まり客一団を早朝送り出し、宿の主人としては音楽聞きながら“午前の晩酌”。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】博士と助手(但し魔法使い)と-02-

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「いや、これは失敗した時の予備が出てきちゃって……」
「この子がそっち移動するのに“予備”って何事ですかっ!」
 爆笑。
「戻しなさい」
「へ~い」
 と、相原がハトを“ボックス”に戻すと、レムリアの方がハト2羽になり、相原のボックスは空っぽ、というシカケ。
 すなわちそれはそれでテレポーテーションであり、子ども達は当然拍手してくれたのだが。
 最後列の女の子が一人、レムリアに目を戻さず、相原の方をじっと見ている。
 体格的にはレムリアとさして変わらないが、顔立ちは幼い。目が合うと小さな笑顔。相原はフッと笑って見せ、その子と他の子の差違に気付く。
 その会場は施設のイベントホールであり、子ども達は大道芸の見物よろしく、レムリアから一定の距離をおいて輪をなして座っている。が、彼女だけ、冥王星のように輪から更に離れて座っているのだ。……明らかに打ち解けていないのである。
 時間が来て幕。白衣の二人は施設の所長氏に呼ばれ、応接室でお茶を頂く。
「いやぁこっちも笑わせてもらいましたワッハッハ」
 七福神の“布袋様”がスーツを着たかの如き所長氏が豪快に笑った。
「しかし鮮やかですね。手品というより魔法かと思いますわ。おかげさまで“そのちゃん”が笑ったのを初めて見ました」
 布袋所長は真顔で言い、自らの茶を口に含んだ。
「輪から離れた彼女ですね」
 先に言ったのはレムリア。気付いていたのである。
「学ばかり見てた」
 レムリアは相原をチラリと見、付け加えた。
「僕もそこは気になりました。事情がありそうですね」
 相原は訊いた。この手のイベントでレムリアに“惚れて”しまい、終始じっと彼女を見ている子は男女問わずいるが、ヘンな発明博士に興味ありげというのは初の事象。
 すると布袋所長氏は、空になった湯飲みをテーブルに置き、
「ウチは基本的に経済事情で子育てが困難、という親御さんから預かっているんですが……」
 曰く、彼女の両親は乳飲み子であった彼女を預けたが、後に家ごと焼身自殺…心中したのだという。
「中には盆暮れだけ親御さんの元で過ごせる子もいます。しかし彼女には、帰る家もないし、思い出す両親の顔もない」
 聞いて“博士と助手”は顔を見合わせた。集団の中にあって、絶対にどうにもならない“違い”を自覚するほど、辛いことはないだろう。
 
(つづく)

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向こう一ヶ月くらいの話

オデ「お前人気あんのな」
レムリア「へへ^^」
 
●【魔法少女レムリアシリーズ】博士と助手(但し魔法使い)と。
11月26日スタート。以降3日おき(11/29→12/02→12/05…)と走ります。よろしくです。
 
●【理絵子の夜話】犬神の郷(いぬがみのさと)
11月30日スタート。以降毎週水曜日更新です。
 
さわりだけ。
 
 エクスクルーシヴ・モデル2402は、重量90キロ程度。人の顔より大きなウーファユニットを備えたスピーカシステムである。巨大なスピーカは動かすことは勿論、電磁誘導による逆起電力も大きく、当然、駆動するアンプリファイアも応じた性能が求められる。
「昔惚れた女に再会したような気分だよ」
 ややハゲの目立ってきた初老の男性がタタミの部屋に鎮座まします2機のスピーカ、駆動するアンプ一式を眺めて感想。
 
「理絵ちゃんどこじゃっ!」
 
まぁまぁ^^

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【魔法少女レムリアシリーズ】博士と助手(但し魔法使い)と-01-

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 レムリアがマジックショーを行う時、相原学(あいはらまなぶ)は、スーツ姿で会場の奥から見ていることが多い。たまにレムリアが円盤よろしく飛ばしたシルクハットを受けたり、彼女の合図でポケットからステッキを取り出したりしているが、積極的にショーに関わることはまずない。これは彼女が14の娘であるのに対して、23と少々歳が離れすぎているせいもある。折角“似た年齢同士”で敷居を低くしたイベントなのに「わざわざひねくれ終わった顔を突っ込むこともないだろう」というのが相原の意見であり、レムリアも納得するところである。
 だが、その週末は良く行く、“子ども病院・病棟”ではなく、種々の理由で親御さんと暮らせない子どもたちの保護施設が会場。病院だと“びっくりさせる・ホコリを立てる”の点で多少制限があったりするが、こちらその点では配慮が不要なため、どうせなら、と少し趣向を変えてみた。二人とも白衣に身を包んで“博士と助手”という設定である。相原は勤務先の社員証、レムリアは“欧州自由意志医療派遣団”の看護師IDをそれぞれ首からホルダーでぶら下げ、更に相原は洗髪後乾かさずにそのまま就寝して派手に寝グセを作り、メガネのレンズを指紋でベタベタにして、博士は博士でも“ちょっと逝っちゃってる”…児童文学で良くある“近所の発明博士”を模したスタイル。
「お似合いで秋葉原博士」
「やかまし」
 “秋葉原博士”というのは、相原が電子部品を探しに行く東京秋葉原からのインスパイア。レムリアの感性による完全な“見た目のぽっと出”だが、手塚治虫の“お茶の水博士”とイメージが近い上、お茶の水と秋葉原は隣同士の駅ということもあり、それで行くことにした。
 出し物の内容的には、博士の様々な“発明”で助手がいろいろマジックを披露しようとするが、悉く失敗してヘンな結果になり、大笑いさせる、という趣向。どちらかというと漫才かコントのノリである。
「これはテレポーテーション・ボックス。私がこの箱に入れた物が、皆さんの後ろ、博士が持ってるボックスから出てくるという仕組みです。ではこのハトをテレポーテーションしてみましょう……って入れる前から何で出てくるそっちの箱!こら博士!」
 手にハトの相原を指差し、床をドンドン蹴りつけるレムリアはしかし、横文字の呼び名に比して黒く煌めく瞳を持った、ショートカットで“ころん”とした顔立ちの娘である。華やかで明るくて、少女マンガのヒロイン向きと言えよう。髪型もあって、さっぱりした印象を見る者に与える。
 
(つづく)

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蟷螂の斧【後】

「何広げてるんですかぁ」
 説明する間もなく、放送が入って出町柳の駅に近づく。カーブのきついポイントで電車は左右にぐらりぐらり。
「さわるさわる!くっつくくっつく!」
 彼女はぎゃぁぎゃぁ。勿論オレが揺れに合わせて腕動かしてそうならないようにしているんだが。
 電車が止まってドアが開く。
 オレは安堵の息をつこうとして唖然となった。降りたらカマ公逃がすつもりだったが。
 この街中の雑踏のどこに逃がすのか。
 それどころか。
「最低!」
 女の子は叫んで逃げるように電車を降り、そのまま走り去った。
 後から降りてくる観光客であろう、おばさんの集団がじろじろ見ながら改札へ歩いて行く。
 そして、前からは運転士氏と駅員が連れ立ってオレの方へ。
「お兄さん、ちょっと事務所までいいですか?」
 旅先でカマキリ片手にチカン扱いとは何と無様か。
 されど。ままよ。
「何ですか?」
 オレは逃げたりせず毅然と応じた。チカンの嫌疑は証言優先言い訳無用。されど、無駄な抵抗かも知れなくても、出るとこ出てナンボ。
 果たしてカマキリをリュックに閉じ込めて駅の事務所に向かうと、件の彼女にあらず背後にいた肩触れ合うもマッチョメン。
「あの……」
 ガタイに似合わずもじもじしている。……そう幼児のオシッコ漏れちゃうのダンスに似た足踏みを思わせる。
「ぼく、虫とか苦手で、ずっと持ってもらっててありがとうございました」
 まぁ、図体と好き嫌いは関係ないか。
「いえそんな大したコトは」
「是非お礼がしたくて、この少し先にぼくのお店があるんですけど、ごちそうさせてもらえないでしょうか」
 カマ公一匹で?ごちそうということは……まぁ、断る必要は無いか。新幹線は9時まであるし。
「これ、名刺です。精一杯おもてなしさせて頂きますので」
 
『発展バー 新宿二丁目 店長 光源氏』
 
「うふ」
 
蟷螂の斧/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【5・終】

←前レムリアのお話一覧→  
 族長の顔に笑みが刻まれる。そして手にした杖を高々と太陽へ。
 彼女の言葉を三度繰り返す。
「プリンセス。一体何が?」
 訝しげなひょろ長氏。
「風が来ます。砂が入るので各キャンプは入り口を閉ざして」
「え?」
「ハルマッタン。そばまで来ています。早く」
「わ、判った」
 スタッフが走り出し、彼女は北方へ目を向ける。
 遠くサハラに連なる大地の向こう、雲のように視界に広がるモヤモヤした領域。
 ハルマッタン(Harmattan)。焼け付くサハラで高温高圧となった空気が、漠たる砂を伴いながら、周囲へと吹き広がる暴風。
 今彼女が見ているモヤモヤは、その作り出された砂嵐である。
 予兆となる風が吹き始める。普段住人達はここで気付くようだ。族長が風の来る方を振り返る。
 天に向かいそそり立ち、迫り来る砂の壁。
 彼女は族長、そして男の子と共に近場のテントに身を寄せる。
 砂塵を伴う空気の塊がキャンプにぶつかる。
 地響きに近い音を立てて暴風が狂い、テントが揺れる。あちこちでいろんなものがガラガラ落ちる。
 何時間か続く。ようやく収まったのは夕刻近く。
 何が生じたか彼女には判っていた。
 テントから表へ出、古代の墓所に目を向けると、その一帯だけ星空になったように、夕日にキラキラ光っている。
 砂嵐のヤスリが更に大地を削りこみ、埋葬されていた亡骸の装飾品が顔を出したのだ。
 男の子が族長に説明している。族長は頷き、やがて大地にひれ伏す。
 彼女の肩にポンと手が載った。
 ひょろ長氏。
「…なるほど数多虹の石が出てきたわけだ。時にプリンセス、聞けばプリンセスの国は代々魔女を排出してきたとか。これもそうなのかい?」
 彼女は何も言わず笑った。
 族長が立ち上がって彼女を見る。
「(あなた様の名は。黒曜石の天使よ)」
「レムリア」
 彼女は答えた。
 
豊穣なる時の彼方から/終
(魔法少女レムリアシリーズお話一覧)

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蟷螂の斧【前】

 心当たりは、さっき電車に乗るときだ。
 三千院からの帰り、出町柳に向かう叡山電鉄の電車は30分に一本。
 改札の外から「お早く」と手招きする係員の声に応じて走っていた。
 道の上まではみ出した木の枝が肩に触れた。その時はそう思った。
 でも、そうではないようだった。
 1輛編成。終点出町柳も近づき、混み合った車内で、向かいに立っていた制服の少女がいきなり悲鳴。
「や、や、いやいや!」
 チカンかオレは。
「虫」
 人間以下か。
 違った。髪の毛に触れるカサカサした気配。
 カマキリ一匹。
 エメラルドグリーンで人差し指ほど、ハラビロカマキリというヤツだ。腹部が比してぺったんこに見え、林やその周囲に多く住む。
「何もしないから」
 オレはカマキリを手のひらに移してそう言った。
Sn3n0016
(こっち見んな@自宅前)
 声だけ聞けば怪しい会話。
「ホントですか?」
「ホントだって。ホラ、オレに触られても平気だろ」
 カマを口元に持っていって手入れ。次いでそのカマで三角頭の目を拭う。
 猫が人を見下しながら毛繕いする姿に似て。
「でも私に何かしそう。何でこっち見るんですか?」
「たまたまだよ」
 説得力無いか。
「君が可愛いからじゃない?オスの本能だよ」
 ちなみにハラビロカマキリはオスメス違うのは大きさだけで、その大きさも“育ち”で変わる。そのため区別が他のカマキリより難しい。
 すると。
「変なことやめて下さい。イヤですグロい」
 女の子は泣き出しそう。
「判った判ったゴメンよ。オレが悪かったよ」
 女の子とケンカになったらとりあえず下がっておけ。母子ゲンカの処世術。
 オレはカマキリ載せた手のひらを顔の前に近づけた。後ろは筋骨隆々の大男と肩が接し、身動きが取れない。女の子からカマ野郎まで極力距離を取るにはそれしか手が無い。
 するとカマキリ、今度はオレを見た。
「お前がオレに乗っかったせいだぞ」
 三角顔を小突いてやると、カマと翅をバッと広げて威嚇のポーズ。
 
(つづく)


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【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【4】

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 彼女は族長の瞳を見た。…その瞳は白く濁り…すなわち白内障であって光を失って久しい。しかし間もなく、その瞳が見開かれた。
 驚いた表情が形作られる。さもあろう。彼女は今、その超常感覚的知覚を用い、族長と意識を交換している。その能力だけを取って名をテレパシー。
 彼女は口にする。それは族長が脳裏に浮かべた伝承の言葉。
「満ちた時、黒曜石の瞳の天使が母なる天空より舞い立ち、父なる大地より解き放たれた、数多(あまた)虹の石のありかを示す。この声を伝える者よ、その時が来たならば天使の言葉の赴くままに、手にしたツハルを大地に立てよ」
「なんだいそれは?」
 ひょろ長の彼が訊いた。
「この地に与り知らぬほど太古より伝わる伝説。と、族長さんに伺いました。えっ?」
 彼女はそこで族長を振り返り、目を円くし、自分を指さした。
「(あなたこそ黒曜石の瞳の天使。天より舞い降りた伝承の天使)」
 族長は、杖を持つ手を彼女へ向かってさしのべ、ゆっくりした口調で、部族の言葉で、そう言った。
 彼女はこの地の言葉を知らぬ。もちろん、テレパシーによる理解である。
「あたしが?」
 そんな馬鹿な。
「確かに、お姉ちゃん、空から降ってきた」
 男の子が言った。
 まぁ確かに、黒い瞳で、空から来たと言えば来たが。
 ヘリコプターで降りてきた東洋系の小娘と、天から降臨する使者とは、思い切り対極にあると思うが。
「(言葉を、あなたの言葉を)」
 族長は完全に信じ切っているようである。その目には涙さえ浮かべている。
 恐らくは彼の部族にとって最高位の伝承に違いない。似た例として聖書にも伝承の王国が出てくるが、“その時”に出くわすのが類い稀なる栄光と幸福であろうことは、それだけをネタに自称イエスが新興団体を立ち上げることからも容易に判る。
 ひっくり返せばそれだけの重みがあるということ。だとすれば、「違います」と固辞するのは、激しい落胆をもたらす事は容易に想像が付く。ましてや…どうも族長殿は己が目が光を失った代わりに、栄光の時に立ち会えた…という感慨を持っているようだ。だったらなおさら。かといって“その振り”をしても、何も起こらないことは確実。
 でも、ない。
 彼女は示唆を得る。そしてその得た示唆のままに口にしてみる。
「(秘めたるを白日の下に。待つべき時の満ち足りて)」
 それは現地の言葉ではなく。フランス語や英語でもなく。どころか、世界のどこの辞書にもない語。
 
(次回・最終回)

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声は糧、あるときは武器【後】

 思わぬ人だかりに進退窮まったと見える。奥からは制服姿の警備員。その万引きか。
 男の粗暴に聴衆が距離を取る。
 その刹那、男は目星付けるように見回したかと思うと、あっという間にショップに入って女の子を引き寄せナイフをかざした。
 人質。
 警備員が警棒を手に「離せ」。
「うるせぇ!黙れ!このガキぶっ殺すぞ……そこ電話するんじゃねえ」
 すると。
「おやんなさい。できるもんなら」
 それこそシルバーの決めゼリフを口にしたのは歌手さん。いや、幾ら何でも。
 オレは後ろ手にキャラクターのデザインされた水筒を手にする。無論、武器。
「何だテメェ!」
「だまらっしゃい!男のクズのくせに。ホラ、私が代わってやるからその子を放しなさい」
「何だと?」
 歌手さんは持っていたハンドバッグをオレに預けると両腕を広げた。
「丸腰です」
「……おめえ何とかいう歌手じゃねえか」
「ええその何とかです。煮るなり焼くなり好きになさい。その代わりその子を放せ」
「いいだろう」
 男は女の子を突き飛ばし、歌手さんの手を引っ張って引き寄せた。
 その瞬間。
「フォーメーション・スーパーソニック!」
 歌手さんが通る声で言い、
 オレと店員さんは何が起こるか察知し、
 女の子は耳を塞いだ。
「~~~~~~!!」
 耳をつんざく大音声。
 オペレーション・スーパーソニック……それはシルバーが超音波発振器で敵を攻撃するときの決めゼリフ。
 果たして、身体全体を共鳴装置にした歌手さんのソプラノヴォイスはワイングラス位割れるのではというような文字通り音響兵器。……ちなみに、超指向性音響兵器は捕鯨船の妨害対策で実際使われている。
 耳の直近で喰らった犯人は言うに及ばず。
 気絶してひっくり返る。
 泡吹いて目を回したところでゴールドの水筒振り回す用無し。歌手さんが女の子を抱き寄せ、オレが犯人にのしかかって柔道の寝技“袈裟固め”警備員さんが割って入ってご用。
「さすがというかお見事」
 犯人が拘束されたところでオレは歌手さんに言った。
「油断するかなと思って『こういう場合はアマチャンが正しい』と申しますでしょ」
 
声は糧、あるときは武器/終
 
(Tribute for Yuka Uchiyae & Precure All Stars)

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【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【3】

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 無精ひげにサングラス。スコットランドが郷里という、ひょろりとした男が呟いた。彼らコーカソイドの瞳にアフリカの陽光は深刻に強烈すぎる。最も、人類の出自はアフリカであり、どころか、アフリカの一部部族は遺伝的にヨーロッパから戻ってきたコーカソイドの末裔という研究もある。
「です。ですが、これは私たちよりむしろ考古学、人類学のプロフェソールにお任せすべきかと」
「古代人ってことか」
「ええ恐らく」
 熱い風が吹く。見渡すとあちこちに、複数の人数分あると思われる、肋骨や腕の部位の骨。
「ここは墓所なのかも知れないな」
 墓所。
 だとすれば聖地であり、このように野ざらしで良いことはないはず。
 彼女は男の子に族長さんへ連絡して欲しい旨伝えた。
 その間、背の高い彼は座り込み、いにしえ人の骨を手に取り観察。
「ああ、この大腿は現代よりも太いくらいだな」
 次いで埋もれた頭蓋骨を手で掘る。
「この歯。すり減っていないのが判るかい?古代ここはこんな砂だらけの荒れ地ではなく、植物が良く繁茂し、食べるものも豊富だったということなんだろうな。やがてテクトニクスで砂漠化した。そして現代になって砂嵐が吹き荒れるようになり、その砂嵐がヤスリのように作用して表層が削り取られ、こうして彼らが露出した。おおこれは凄い。ここを見てごらん」
 ひょろ長の彼は独り言のように喋っていたが、実は自分に話しかけていたのだと判り、彼女は彼の指先に目をやった。
 透明な石。首の骨の部分に規則正しく並んでいる。
 それはネックレスとして、この人が首にしていたことを意味する。
「水晶?」
「ではないな。100キロ向こうにキンバーライト噴火と見られる火山の噴火口がある。これは恐らくダイヤモンドだ」
「…ダイヤ」
「盗掘されていない。恐らくは豊かに栄え、そして戦乱などなかったのだろう。彼らが現在この有様を見たら子孫の業を何と感じるか」
 この有様…ひょろ長の彼が示したそこは、荒廃した赤土の上に並ぶ多数のキャンプ。
 わずかな利権、国家・支配権力を争った結果の姿がこれ。
 その時。二人の背後に人影。
 振り返ると、さっきの男の子と、男の子に連れられ、木の枝の杖を手にした民族衣装の族長。
 
(つづく)

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声は糧、あるときは武器【前】

 地下鉄と新幹線を乗り換えるとき、いわゆる駅ナカのテレビ局ショップ街を通る。娘が好きなアニメのショップもその一角にある。女の子が主人公で、色使いは、どこもかしこもピンクピンクピンク。
 何かチョット買ってやろうと思うのはオヤジの甘さか。
 出張帰りに通りかかると女の子の泣き声。
「シルバーがないよ~」
 女の子の前には困った顔の若い女性がしゃがみ込んでいる。そのアニメキャラのTシャツを着ており、ショップの店員さんだと判る。
 横目に見て少し物色して、女の子の訴えの理由が分かる。
 娘もそうだがそのアニメは女の子二人、ゴールドとシルバーのコンビで活躍する正義の味方。なのだが、ゴールドの方が主役で人気があり、畢竟、シルバーのグッズは少ないのである。
 で、売り切れ。女の子の手に財布が握られている辺り、お小遣い貯めて買いに来たのであろう。
 女性店員が次の入荷日を説明するが……大人の事情を子どもが聞くわけもなく。
「お父様ですか?」
 じっと見ていたオレの背中に別の女性。界隈流行りの万引きか、はたまた人さらいとでも思われたか、ともあれ綺麗な声だ。
「いえ……あ」
 オレは気付いた。そのアニメの主題歌を歌う歌手ではないか。
 まぁ、担当番組のショップを覗くのはヘンではあるまい。
「……さん、ですよね。娘に良く歌わされます。で、男の声だとヘンだと」
「どうもありがとうございます。しかしこれは……困りましたねぇ」
「♪」
 オレは主題歌のサビを口ずさんでみた。男が歌うなんざ、まさかと思うだろうから意表を突く。
 すると。
「♪」
 歌手さんが繋いだ。
 生歌の実力にショップの店員が気付き、のみならず往来の人々も気付いた様子。
 人だかりが出来てゲリラライブ。
 ワンコーラス終わって喝采。女の子は泣き止み、涙でびしょびしょの、しかし少し笑みを浮かべて歌手さんを見ている。
「ごめんね。お店の人が急いで頼んでくれるから、待ってくれるかな?」
 解決、と思ったその時だった。
 野卑で粗暴なわめき声に聴衆が蜘蛛の子散らすように逃げ出した。
 サングラスに黒いジャンパーの男が聴衆の中に乱入して来る。
「どけっ!くそっ!」
 
Sn3n0087
(つづく)

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