【理絵子の夜話】犬神の郷-5-
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更にも増して言いづらい内容であることは誰の目にも明らかだった。
「実際オオカミが生き延びていたとしても不思議では無いと思いますが」
本橋美砂の問いかけに組長氏は手のひらを振った。ニホンオオカミは1905年以降捕獲されていない。絶滅した、と見られている。
それは山野をくまなく踏破して確認した事項ではない。とはいえ、オオカミが生きていると主張するのは、ツチノコの存在を主張するに殆ど等しい。
「いえ、そんでなぐで」
「居るとの前提で真剣な儀式が必要」
「ぞんでねぇです(そうではないです)」
「呼び出せ?失敗したら巫女役の娘の首をはねる」
本橋美砂は非常識と言われる内容を次々あっさり口にした。
「いえ、あの」
「本当に生け贄として巫女を差し出せ、こうですか」
その言葉に、果たして紳士三人は互いの顔を見合い、口を噤んだ。
本橋美砂が正解に達したことが誰の目にも明らかだった。
「どうぞお気になさらず。笑い事とは思いません。蛇神への生け贄、古くは豪族墳墓への殉葬行為など、人身御供はポピュラーな方かと。ただ21世紀に続いてるとなるとちょっと口外しにくいでしょうが」
本橋美砂は引き続き表情を変えない。
「あんたがた、美砂ちゃんの言う通りなのかい?」
主人氏が問う。
「私ではダメですかね?」
本橋美砂は自らの胸元に手をした。
「滅相も無い」
本橋美砂が己れを指さして問いかけたのに対し、幹部の一人が反射的に言った。
すぐさま、しまった!という表情を浮かべる。もう一人の幹部と組長氏が咎めるように同氏を見つめる。素直に応じたら何らか失礼、デリカシーに関わること。
「必要なのは処女性ですか?或いは生理が有ってはならないとか」
普通、制服姿の女子高校生から出てこない単語の連打に、男性陣は揃って目を見開いてのけぞった。
(つづく)
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