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2012年1月

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-031-

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『アリス!』
 アルフォンススが叫び、同時に船外カメラ映像を無数のレーザ光が横切った。
 数本がミサイルのエンジンに穴をうがった。
 エンジンが爆発して黒煙を噴く。
 レムリアの見ている画面に赤文字で警告。
「本船がロックオンされました。複数の航空機に赤外線で追尾されています」
 報告し、同時に周辺の航空機を画面に表示する。各機の軌跡が糸絡むように画面を走る。
「飛行編隊の標的は本船です。彼らは本船が攻撃中枢で、他のミサイルを攪乱の虚像と思っているようです」
『小さいのにでかいのが寄り添って飛べばそう思うだろう。無視する。次だ』
 アルフォンススは言った。その言に対しレムリアは少し引っ掛かった。この船の能力をして、飛行編隊程度どうにでもなるのは確かだろうが、それは理解出来るが、完全無視は適切か。
 すると相原が耳打ち。「それはそれで見ておいて」
 画面警告に変化あり。
「発砲します」
『構うな』
「撃ちました。赤外線追尾、速力マッハ6」
 言ってる間に船は次のミサイルの背後につけた。
『効率悪いなあ。こんな調子で間に合うのか?殆どは北極海近辺だろうけどよ……』
 ラングレヌスがぼそっと言った。
 相原がコンソール上に手指を載せ、くすぐるように動かす(そろばんの暗算の指使いであるがレムリアには判らぬ)。
「掛かり過ぎなのは確かだぜ」
 腕時計に目をやり一言。
 レムリアの画面は警告だらけ。
「編隊航空機が各機前後して保有ミサイル全弾を発射。ミサイル数合計30。空対空ミサイル……これは、シャハーブ2002」
 読み上げる。敵味方識別装置が寄越したサンプル画像を見ると、躯体にはアラビア文字。製造したのは反合衆国の急先鋒に立つ中東産油国。
「こいつもカーン・ネットワークの産物だい。船長。まだるっこしいからシャハーブ借りませんか」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-030-

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 ただ、そのような場合でも、船を第3者の目に晒すことは基本禁則。どうにかして存在を隠しておくのはもちろん、意図して開示しないのが常であるが。
『下らん秘密主義で事態の悪化は本末転倒』
「判りました。対応します」
 セレネは慌てたように答え、パソコンをカチャカチャ。
 その間に船はハリケーンを再々横断し、南米大陸に近い空域。
 レーダが警告を発し、敵味方識別作業。
「航空機5機」
 レムリアは報告した。
『了解。無用な混乱、戦闘を避けるため、光学シールドオンの上、編隊上空高度1万メートルで待機。副長、その後は?』
 アルフォンススが経過を訊いた。
「ダメです。世界中の通信回線が混乱を来している模様です。政府間のホットラインもトラフィック(通信密度)が一杯で割り込むことが出来ません」
 セレネは険しい表情で言った。レムリアは反射的に自らの衛星携帯電話の液晶画面を見た。こちらも回線捕獲状態を示すアイコン表示がレベルゼロ。
「世界中パニックだからな。船長、待つよりは、と自分思いますが」
 相原が言った。回答無くとも動こうというわけである。
『判った。仕方ない。我々だけで対処する』
 アルフォンススが重く言った。
『攻撃してきたら仕方がない。我々は我々のなすべき事をする。シュレーター、編隊に最も近いミサイルへ行け』
「了解」
 ドクターは答えた。
 船が狩りのハヤブサよろしく垂直降下しながらミサイルを追いかける。先ほどはミサイルを船に引き付けたが、今度は飛行編隊に引き付けられているミサイルを船で追う。
 一発の斜め上方につけた。
『シールドオフ。そのまま船首を標的に向けておけ…』
 アルフォンススが言った。船が船首を斜め下に向け、傾いた状態でピタリとミサイルを追尾。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-029-

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「あの」
 そこでレムリアは一つの動きに気が付き、言った。
『どうした?』
「か、関係ないことかも知れませんけど」
 返ってきた声の勢いに思わず首をすくめる。今のアルフォンススには事態を、いや、地球の運命を背負った重圧からか、余計な発言を許してくれそうにない雰囲気がある。“関係ないなら言うな”と、どやしつけられてもおかしくない程。
 しかし、それは彼女の杞憂であった。
『構わない。言ってくれ。要不要は私が決める』
 アルフォンススは許可した。声も抑制した感じだ。
 レムリアは安堵の息をついて、報告した。
「はい。先ほどのおとりミサイルですが、南米大陸の軍が感知したらしく、航空機の編隊がその海域に向かっています」
 喋る途中から相原が動き、レーダスクリーンをいじる。先ほどデコイと遭遇したあたりを拡大。
 アルフォンススから回答があるまで数秒。
『いやレムリア、それは重大な情報だ。連中を中心に周辺の状況をレーダで探れ』
 指示されたが、その実行結果は相原が既に表示している。
 ただ、その場に生じた緊急事態はレムリアが先に気付いた。
「航空機編隊に向かって四方から小型ミサイルが高速で接近中。数20。軌跡の解析より先ほど誤射された他のミサイルと確認。我々が落とせず残っていたミサイルの全弾になります」
 レムリアは息を呑んだ。おとり、罠に嵌める……電気機械仕掛けでここまで見事に(適切な表現かどうかは別にして)可能なものか。
 そして。
『舵手、現地急行せよ。副長、本部を経由し、我々が接近する旨通知せよ。攻撃を加えないよう政府筋を通じて依頼を回せ』
「判りました……えっ?」
 セレネが反射的に答え、問い返した。それは、この船が目撃されることを予見しての措置である。このホーミングミサイルに関しては、銃撃処置する関係上、撃つ時に光学シールドを全て切るので姿を見られる。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-028-

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『やったぞ』
 アリスタルコスが歓声。ミサイルはさながら首から上をちぎり取られた状態。失調し、ロケットモータが炎を失い、水爆を封じた金属の棺桶となって嵐のメキシコ湾に舞い落ちて行く。
『処置完了、次へ行く』
「了解」
 レムリアはすかさず標的をポイントし、応じて船は大きく左方へ進路を振った。
 比較的低空をかなり遅い速度で飛ぶ一発。船が近づく。
『相原どう思う』
 相原はまばたきし、小さな笑み。
「デコイです」
 声ににじむ安堵。デコイとは“おとり”のこと。すなわち電子回路は持っているが、敵のレーダにわざと発見され、攻撃力を引きつけるのが仕事。レーダ電波の発信源を追いかける制御はしていない。当然爆弾も積んでいない。
『……よろしい確認した。次だ』
 アルフォンススの了解を得、船は返す刀で北方へ飛ぶ。嵐の領域をくぐり抜け、珊瑚礁浮かぶ熱帯の青い海。
 標的は、いた。
 本物。
 先ほどと同じように、船から電波を放出しながら、ミサイルの前に出る。
 ミサイルが船の電波に反応して追いかけてくる。
 ただし今度は先ほどと条件が違う。気流が安定しているし豪雨もない。
 制御システムと電子戦をやる必要もないようだ。点火距離に到達する前にラングレヌスがアルミの弾で先頭部を潰してしまう。
 するとそいつは爆発、恐らく自爆した。
 空中に生じた火炎の中から、銀色の、大きな、それこそ缶詰のような代物が、カリブの青い海に落下して行く。
『あれが、あれだよ』
 アルフォンススがゆっくり言った。つまり水爆本体“核の缶詰”である。平和な青い海を漂うにはあまりにも不釣り合いな巨大缶詰。
「回収はしなくて良いのですか?」
 セレネが訊いた。
『しない。そんなヒマはない。追って合衆国へ座標を流しておく。次だ』
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-027-

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 アリスタルコスから答えが来る。確かに鉛筆みたいなミサイルを細い光線で狙うのは困難である。広がりを持つ火の玉の方がいい。
 白熱の塊が放出された。
 しかしそこでミサイルの方がゆらりと動く。火の玉はミサイルを逸れて通り過ぎ、豪雨の向こうに失われる。
『外した!(missed!)』
「点火するぞ」
 相原の声にレムリアは震えた。
『構うな次々撃て。私が抑える』
 アルフォンススが言う。
「船長援護します」
 相原が言い、ヘッドホンをかぶる。
 船のコンピュータ曰く、船は帆を媒体に電気力を波紋のように放っている。無論二人が魔法の力を船の回路に重畳したのである。
 電気力の波紋は次第に振幅を強める。しかし点火回路への干渉は難しいようだ。核物質は常時なにがしか核反応をしており、その際電磁波パルスを放出する。
Baka
(福島第一原発で放射線の影響でノイズが入ったカメラ画像。え?著作権?てめえらにそんなもの主張する権利あるか国賊企業が)
 
 それにより誤動作・起爆しては元も子もないであろう。そのため、分厚い電磁シールド(恐らく鉛のブロック)に守られている。ちなみに、アルフォンススが対策提案時に魔法の力に触れなかったのもそのため。
 一方、アリスタルコスも火の玉を撃ち続けるが命中しない。
「当たらん」
『当てろ』
 船長の切り返しにレムリアが無茶と感じたその時。
「当てようぜ」
 相原が言ってアリスタルコスのスコープ映像がレーダ席モニタに呼び出された。
「こっちでいじる。そのまま銃を保持」
 相原は言った。
 レムリアは気が付いた。魔法の力はミサイルには効かなくても銃には作用する。
 相原は魔法の力でプラズマガンの標的システムに割り込み、ミサイルの中、最も電波を強く出している部分に勝手に合わせ込んだ。
 ロックオン表示。
「撃て」
 相原が言い、アリスタルコスが反応。
 火の玉が三発走り、白熱の塊がミサイル先頭部に食いつき、否、食いちぎって持ち去る。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-026-

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「了解!」
「甲板、貴殿らの身体に光で加圧し加速度を上げる。極力動くな」
 意味、船が加減速の際に生じる力、慣性力(いわゆるG)を、人体への光圧印加で相殺する。その分船を多少荒っぽく動かす。
 各人は声で応じ、嵐の中でのミサイル追撃が始まった。
 一発目は豪雨の中で出くわした。
「点火回路を持っています。実弾です」
 相原が言い、応じてレムリアはレーダのメニューを操作し、電波レーダを起動した。
 ミサイルが反応した。
「ロックオンされました」
 画面に警告が出、船尾カメラが追尾してくる姿を捉える。
『漸次減速して引きつけろ。10メートル』
 アルフォンススは言った。徐々に近づくミサイルに船の識別装置が対応、型式をASM2002と表示する。
「こいつか」
 相原がミサイルの存在目的を説明する。その鉛筆みたいな尖った頭の中には、要塞や前線基地を一つ単位で蒸発させる水爆が入っているという。後から飛んでくる殺人飛行機が敵の妨害を受けないよう、進路上の基地をあらかじめ跡形も無く破壊しておくためである。
「人間の科学技術の使いこなしってヤツだよ。ちなみに、水爆の起爆剤は原爆な。原爆の高熱で水素を核反応させるんだ」
 相原が皮肉を言い、次いで彼は船長と揃って「あっ」と声を上げた。
 それは二人の魔法の力が反応したことを意味した。
 つまり、水爆の起爆剤である原爆が点火準備。
「船長!」
『承知している。こいつらの点火距離は50メートルに設定されている。アリス!』
 アルフォンススはアリスタルコスを呼んだ。点火距離、つまり50メートルまで近づくと爆発する。従い、周囲の核汚染防止を第一と置くなら、船体で押す手法は使えず、銃で撃つしかない。
『標的が小さい。パワーを落としてプラズマを撃て。徹底的に前頭部を狙い、アビオニクスを蒸発させろ』
『了解』
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-9-

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 紳士らは、秘密ばかりで申し訳ないと言いながら、供された酒蒸しまんじゅうを遠慮がちに食した。なお、同まんじゅうはこの地ではポピュラーなおやつである。
「しかし、聞いたことねぇな」
 主人氏が言い、茶を口に含んだ。
「それだけのトップシークレットということでしょ。ここだってそうじゃないさ」
 それこそ理絵子が巫女姿になって儀式を行う原因となった過去からの秘密。
 要するに江戸期の殺人事件、伴う幽霊騒ぎである。詳細は略す。
「しかし美砂ちゃんどこまで何しに行ったんだべさ」
 主人氏が心配そうに玄関の方を仰ぎ見たとき。
「おや、理絵子様だ」
 母君の声があって程なく、玄関引き戸が開いた。
「ウソだろおい」
 各人が振り向くと、雪風と共に少女が3名。
 確かに本橋美砂であり、厚着した黒野理絵子であり、加えてもう一人厚着した娘。
 もう一人の娘は天使を思わせる純粋さと高貴さを持ち合わせた顔立ちの持ち主。キラキラ光って見えるのはまとったコートに付着した結晶のせいか。
 ちなみに二人ともトレッキングシューズである。服装はさておき、こんな雪中を歩く靴では無い。果たして、
「どうやって……」
 女将さん当然の疑問。都内在住でここまでどうやって。1時間どころじゃ無い。もっと早い。
「“東海自然歩道”を歩いていたんですよ。お久しぶりです。おじさま、おばさま、お婆さま」
 理絵子はそれこそ近所から遊びに来たように笑顔で答えた。東海自然歩道は東京・高尾山と大阪・箕面の両国定公園を結ぶ字面通りの遊歩道である。その途中、紳士らが越えてきたであろう県境の尾根を通っている。
「雪の中をかい?」
「ええ。全力で自然と対峙してると感性研ぎ澄まされてリフレッシュできます。で、こちらは友人の……」
「高千穂登与(たかちほとよ)と申します」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-025-

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 相原はレーダの画面を拡大した。
 撒かれたミサイル群は、互いの距離をどんどん離して散らばって行く。
 敵味方識別装置、および対象解析。
「積載物の正体はレーダの電波に反応し、その発射源、即ちレーダそのものに向かって飛んで行く、ホーミング・ミサイルです」
 相原は画面を見つめて言った。
 アルゴ号が攻撃されないのは電波では無く赤外線を使用中だからだ、とレムリアは判って少し寒気がした。強靱な光圧シールドはSFでおなじみのバリアそのものだと知っているが……。
「それらは核……ですか?」
「可能性は充分です」
 セレネが問い、相原が頷いた。
 そのシールドバリアとて、核爆発まではどうなのだろう。それに、船は耐えたとしても、放射性物質が周囲を汚す。
「幾つある」
 相原に訊かれてレムリアは我に返る。
「24」
 レムリアは答える。一個ずつ探して見つけて……という時間はあるまい。まだ頭の上には弾道ミサイルが放物線を描きながら幾つも飛んでいるのだ。
 必死に頭を巡らして考える。どうすればいい、どうすれば。
「船長!」
 相原が教えを請う。
『私も考えているところだ。要はレーダに反応するんだ』
 相原が目を見開いた。
「船長まさか……」
『そうだ。本船のものを使おうと思う』
 船を故意に狙わせる。使ったことが無いわけでは無い。しかし……問題はその心配。
 相手は核。
「でも……」
『確かに点火距離がどの程度かは不明だ。しかし近づかないと処分出来ない。ならばそれしかない。決行する。総員、本船はこれからホーミングミサイルの鼻先をうろつき回ってレーダに感知させ、おびき寄せる。シュレーター、陸地に近い方から順に行くぞ。相原、君はデコイを探してくれ。目標から外す。私はミサイルの標的システムに干渉する』
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-024-

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 その時再び稲妻が走る。もう一本、さらに一本。間断無く立て続けに5本走る。
 うち一本が船からのレーザに沿って飛び、怪鳥を撃った。
「誘雷(ゆうらい)された!」
「アビオニクス誤動(ごどう)。総員警戒!」
 相原とアルフォンスス、即ち電子魔法を持った二人が同時に声を上げた。
 高圧電流で怪鳥の制御が狂ったのである。ちなみに、レーザ光は高熱で空気中の物質を電離する。すなわち電流の通り道を作る。用いて落雷を特定の領域に導こうとする技術がある。その落雷誘導と同じ仕組みで航空機に落ちたのだ。
 電撃の高熱で煙を上げる翼の下から何かがバラ撒かれた。
 撒かれたそれらが次々にロケットモータを噴射し、てんでんバラバラの方向へ飛んで行く。
 小型ミサイル。メインの大量殺人用核爆弾ではない。
『弾幕!』
 アルフォンススの声があり、アルゴ甲板から多数のアルミの塊と火の玉が発射された。
 怪鳥B2自体にそれらは簡単に命中した。エンジンが炎を噴き、バランスを崩し、ひらひらと舞うように嵐の中へ姿を消して行く。これでとりあえず幾万人かの命は救われた。
 しかしばらまかれた小型ミサイル群には当たらなかった。
 標的が小さすぎるのである。人の背丈ほどの代物を、しかも彼我ともに動いているのに、何十メートルも離れて狙うのは至難の業だ。
「あの……一体何が……」
 セレネが半分唖然とした顔で訊いた。
 応じてレムリアは相原を仰ぎ見た。技術的に面倒な事態が複数一気に発生したのだということは判る。予備知識がないと何がどうしたのか全然判らない。
「電撃で飛行機のコンピュータが狂った」
 相原はまず言った。
「コンピュータは自分のいる位置、座標を勘違いし、予定とは違う場所で積載物を投下した」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-023-

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 レムリアはドクターに目配せで舵の準備を要請しながら、許可を頼んだ。
『許可する。行け』
 即答。
「判りました。ドクターお願いします。船外2人、行く先はハリケーンの中につき空電に注意」
 レムリアは男達のために追加した。君らしい気遣いだと相原は評した。
「ハリケーンを突っ切る」
 ドクターが言い、程なく船は巨大熱帯低気圧の、それこそ“渦中”に突っ込む。光圧シールドにものを言わせ、分厚く、手で掴めそうなほど濃密な積乱雲の中を、一気に突進する。
 小さな、反応の主体が、豪雨の中に出現した。
 航空機である。洋凧の如き三角翼、角張ったガラスの目立つ操縦室。そのガラスの並び方はクモの頭の8つの目を思わせる。到底安定して飛ぶようには思われない、ちょっと異様な姿。
 全身真っ黒のその機の名前は、合衆国の大型爆撃機B2。
 いわゆるステルス航空機の一種である。大きさは尻尾のないジャンボジェット。或いは、
 死神が遣わした死の卵抱いた黒い怪鳥か。
「レーダじゃ見つからんよ。おおっと」
 画面を突然の閃光が白く塗りつぶし、相原が身をのけぞらせた。
 稲妻である。紫色の輝きが天裂く亀裂のように縦横に走り、暴風雨を行く黒い怪鳥が、雲にその影を映す。
 アルフォンススからピン。
『私だ。B2を視認した。船体で動かすには相手が大きいので銃撃して落とす。寄せてくれ』
「人が乗っているのではありませんか?」
 セレネが尋ねる。
『こいつはリモコンの無人航空機だよ。人間の操縦士に十万百万殺せる爆弾を落とす度胸はあるまい』
 アルフォンススは言った。
「判りました」
 セレネが答える。
「距離測定」
 シュレーターが怪鳥へ測定用のレーザを走らせる。光のパルスに過ぎず、先の巡航ミサイルのように照準と認識される恐れはまず無い。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-022-

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 相原はセレネの方を振り仰いで訊いた。セル(cell)とは積乱雲の集合体。低気圧までは行かないが強い上昇気流を伴い、豪雨、降雹、時に竜巻を伴う。
「お待ち下さい」
 セレネが自席のパソコンをカチャカチャ。
「この空域にはハリケーンがあります。カテゴリー2。示度(しど:中心気圧の意味)970。風速100マイル毎時」
「了解」
 インターネットの気象サイトを見つめるセレネに相原が頷き、舌打ち。
「ゴーストが出るなぁ」
 ゴーストは虚像の意。すなわち、電波を利用する通常のレーダはうまく働かない。
 レムリアはそれを聞き、彼と、自分のレーダ画面を見つめて悩んだ。
「学……さん。じゃない、船長代行」
 相原が自分を見る。その真剣な眼差し。
「どうした」
「予想位置の半径80キロは探した。でも見つからない。どうしようか、って」
「じゃあもっと範囲広げて」
「いいけど電波じゃ狂っちゃうんでしょ?」
「そうな。電波じゃくる……電波か」
 レムリアのセリフに相原は考え込み、そしてカッと目を見開いて指を鳴らした。
「赤外線を使う。幾ら台風でもエンジンほど高温じゃない。最低感度800ケルビンくらいにして探査を」
「了解」
 船長からのピンも得て、レムリアは言われた通り赤外線レーダに切り替えた。800ケルビン、セ氏およそ530度以上の物体にだけ反応するようにする。
 画面の様子が変わり、左側、即ち南の方向に小さな反応が一つ現れた。
「これかな……え?時速650キロ?」
 巡航ミサイルには速い。通常のミサイル・ロケットにしては遅い。
「考える前に行って確認」
「了解。船長レムリアです。エコーありますが目標とは確認できません。接近し、視認したいと思います。許可願います」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-021-

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『放逐、INS作動、全速』
 アルフォンススが言い、甲板から巡航ミサイルが宇宙めがけて放り出され、同時に船が全速力でメキシコ湾へと馳せる。きりもみして狩りに降りるハヤブサの如し。
「目標地点到達です」
 レムリアは言った。
 既に船は夜明けのマイアミ南方にあり、彼女は目標を血眼で探し始める。この船は地球の真裏に到達するまで7秒足らず。いつもはテレポーテーション(瞬間移動)の感覚で楽しむが、今日はその速度こそ頼り、そして一縷の望み、心強さ。
「見つからない」
 レムリアは乾いた声で言った。焦りの気持ちが手のひらに汗をかかせ、トラックボールの手指が滑る。
「焦ると、見つかるものも見落とすぜ」
 相原に言われる。
 だがどうしろと。レムリアはそれこそ兄に文句を付ける妹のように彼を見た。
「大丈夫。見つかる。目を閉じて深呼吸」
 相原は気楽に言ってくれた。その手をレムリアの肩に手を乗せ「ゆっくりと息をしろ」。
 そして。
「ハイOK。目を開けてもういっぺんゆっくり見てみな」
 レムリアは頷いた。視界が歪み、自分が涙を浮かべていると判る。看護師なりに緊急即応能力はあるのかと自負していたが、思い上がりだと痛感する。否、どこかしら誰かに甘えているのかも。
「位置は間違ってないと思うが」
 相原がヘッドホンをかぶって腕組み。“魔法レーダ”を彼なりに行使中。
 ある、けど、見えない。
 ステルス?それとももっと単純に。
「小さい、のかな」
 レムリアは呟き、画面の縮尺をどんどん拡大した。人間どんなに追いつめられても、冷静になりさえすれば、いろんなことを考え出し、新しい発見をする余裕が生まれる。
 相原が顔をしかめた。魔法レーダが何か拾った。
「空電だ。セルか何かありますか?」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-020-

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 アルフォンススは全然違うことを言った。すなわち、船体でミサイルをすくい上げるということ。
 甲板に何か載せて運んだことは過去にある。あるにはある、が。
「りょ、了解」
 ドクターが答えて船を操る。巡航ミサイルの下方に回り、海面すれすれから徐々に高度を上げて近づく。
 中央マストカメラを巡航ミサイルに向ける。
「光圧シールドオフと同時にプラズマ発砲、死にかけをすくい上げろ」
 カウントダウン3から。ゼロと共に画面外よりプラズマが放射。
 巡航ミサイルのエンジンが溶かされる。
 そして、甲板上に落下。
 がしゃん、音が聞こえればそうなろう。曲がって煤けた焼けぼっくいは文字通り“ポンコツ”。
 しかし薄汚くても核爆弾。否、この世で最も汚いかも知れぬ。
 甲板に核爆弾。
 奇蹟の人命救助船が甲板上に搭載したのは核爆弾。
『よし次だ。そのまま次の目標に向かいつつ加速上昇し、途中で宇宙空間へ放出せよ。レムリア座標を』
 要するに寄り道がてら捨てて行く。
「了解」
「判りました」
 ドクターとレムリアは相次いで答え、レムリアは座標をセット。
 次の目標はメキシコ湾。自ら共産主義革命を起こし、そのまま統治者であり続ける白髭の老体がいる国。
 ソ連崩壊以降、共産主義の劣勢著しく、体制間の諍いは既に不要に思える。しかし、少なくともこれまで見たミサイルの目標は東西冷戦当時そのままだ。これは、“敵”を決める理由が、それら表面的な社会構造のみではないことを意味しよう。
「バハマ諸島。座標入力しました」
『よし行け』
 アルフォンススが指示する。船は南南東に進路を取り、緩やかに加速しつつ、徐々に高度を上げて行く。東に向かうに従い夜が深まり、スクリーンには何も映らなくなる。
 飛行距離およそ1000キロ。高度は150キロを越す。大気と宇宙の境が見えた。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-019-

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 元来た道を戻り始める。加速され、宇宙へ向かって飛んで行く。それは船から弾頭を再度打ち上げたかのようである。第一宇宙速度を超え、更に第二宇宙速度を超える。弾道ミサイルは弾頭だけでは推進能力を持たない。地球の重力圏を振り切る速度を与えれば永遠に戻ってこない。
 但し、その永遠に近しい時間、宇宙を彷徨わせることになる。
『次の目標を設定せよ。座標確認』
 アルフォンススの声に、レムリアは次なる目標地点を探した。相原の頷きを得て報告する。
「ベーリング海。巡航ミサイル。座標入力しました」
『了解』
 そうしている間に弾頭が地球の重力圏を離脱したようだ。
 セレネの報告。
「軌道計算。地球には戻ってきません」
『完了だ。そのまま次へ行け』
 ドクターが左手レバーを中央に戻す。
 船が発進する。ほぼ瞬時にベーリング海。アラスカとロシアの間。
「巡航ミサイル接近します」
 レムリアは言った。ベーリング海を島伝いに飛ぶ巡航ミサイルが画面に映る。まだ国境を越えていないためか、ジャミングは作動していない。
『近づけ。マニュアルだ』
 アルフォンススが指示し、船は海上30メートルまで高度を下げる。ところが、そこでレムリアが待ったをかけた。
「海上に多数の船舶を確認。民間の漁船と思われます。ミサイルを落下させるのは危険です」
 船は巡航ミサイルと併走する。
「目標の右側に並びました。距離百メートル」
 続けてレムリアは報告する。アルフォンススは考えている。海に叩き込むのもダメだが、船のエンジンで宇宙へ、という方法も使えない。
 なぜなら高度が低すぎるからである。船が奴の下に入り込んで逆立ちできるほどの高度がない。
『下に入れ』
 その言葉に相原が「え?」と言い、シュレーターと互いに顔を見あわせた。
 しかし。
『光圧シールドを切れ、甲板上に乗せろ』
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-8-

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「はい……え?」
「美砂ちゃん1時間は無理だべしょ。駅までバスで2時間……」
 驚く組長氏と主人氏に答えず、本橋美砂はその場を立って玄関引き戸から外へ出た。
 制服ブレザーにエプロンのまま、雪の屋外へ。
 まるで子どもがちょっとお使いという気楽さ。
「ちょいとあんた」
「ああ」
 常識外れの行動を受け、夫婦が顔を見合って動く。主人氏が立って玄関から外へ出るも。
「あれ、いねえぞ。どこ行ったもんだか」
「まぁ、あの子も不思議な子だけどなぁ」
「オレちょっくら」
「飲酒運転!」
 主人氏が下駄箱上の鍵束を手にしたところで女将さんが注意した。
「そだな」
「それに……あたしゃあの子に任せておいていいと思うよ。何せ理絵子様の友達なんだ。不思議でもちっともおかしくねぇ」
 女将の物言いに主人氏は引き戸を閉めて向き直った。傍らで母君が頷く。
「そういえばそうだな。するってぇとアレか、綾っぺ(あやっぺ)も……」
「そりゃねぇだろうよ。でも、綾ちゃんも大切。何だろ、“全て必要だからある”みたいなそんな気がすんだ。あたしゃ」
「幸子大丈夫かお前」
 主人氏が熱見るように女将の額に手のひらを当てる。
 女将さんは自分の言動に今更気付いたかのように目を見開く。
 ここで解説を加える。綾というのは理絵子の友人で同じクラブに属する田島綾という娘のことである。塙夫婦の姪にあたり、クラブの夏合宿でこの民宿を使った。理絵子が儀式を行ったのはその時の話である。転じて、働き手を欲していた夫婦に身寄りの無い本橋美砂を紹介した、という流れ。
 ちなみに、田島綾は理絵子が超常能力を備えていることを知っている。しかし、周囲のその種のウワサにはシラを切り通している。秘密の防波堤的な役どころと言えるか。
「なんてね、女の勘よ。卑弥呼とか昔の女神に通じるところがあるのかもね」
 女将さんは小さく笑った。
「あんだそんなけか。オレはまたお前まで霊能持っちまったのかと」
「バカだねぇ。そんなもの持ってたら宿六亭主の世話なんか焼いてないでテレビで占いでもやるさね。ハハハ。ああ、ダンナ方くつろいで下さいな。まんじゅうでも蒸しますんで」
 女将さんは言うと、厨房に立った。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-018-

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 レーダが捕らえる高温のエコー。
 近づくと大気圏外から落ちてくる火の玉。SLBM弾頭部分である。
 位置は直上。つまり、船は地球引力で落下してくる弾頭の真下にいる。
「目標速度マッハ16。なおも1Gで加速中。予想落下位置ウラジオストク市。私たちはその落下軌道の正面に入ります」
 レムリアは言った。
『エンジンで吹き飛ばせ』
 アルフォンススが即応。
『シュレーター、停船して待機、船尾を弾頭軌道に向けろ』
 船は止まり、船首を下に、船尾を天に向け、ほぼ逆立ち状態。
 但し操舵室含め居住エリアは水平を維持する。球体であり、超伝導マグネットで浮遊状態に保持されているからだ。操舵室の扉が強固であるのもこのため。
 船尾カメラが落下してくる弾頭を捉えた。
 急速に近づく。大気との摩擦で赤熱し、てらてらと炎をまとっている、その流線型金属物体の禍々しい眺め。
『合図と共にエンジン点火、徐々に出力を上げて落下を押しとどめ、宇宙に打ち上げよ。加速10G』
「了解」
 シュレーターが加速レバーに手をかける。
 そのまま待機。時速1万6千キロで大破滅(カタストローフ)が降ってくる。
『今だ!』
 絶妙のタイミングで、アルフォンススは指示を出した。
 ドクターが左手加減速レバーを手前に引き、右手加減速レバーを奥に押し倒す。
 これで船には前進と後退が同時に掛かる。すなわちその場に止まったまま、エンジンだけ光子を噴いている状態。
 光子を噴く……若干補足する。この船の主推進機関は反物質機関の一種光子ロケットである。強力な光を噴き出して船を押させる。
 噴き出す光子が、落ちてくる破滅を捉えた。
 光子噴射の出力が上がり、白い光の風と化す。その中に破滅が飲み込まれる。
 破滅の落下が停止、更に逆行。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-017-

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 マストのカメラを巡航ミサイルに向ける。手を伸ばせば届く距離に核ミサイル。気持ちのいいものではない。このまま出力を上げ、一気に海上へ放逐してしまいたい。
 しかし、それをやると急加速の慣性力で“核の缶詰”が潰れ、放射能が漏れてしまう。特定の条件が揃わないと爆発しないのは確かであるが、その“缶詰”本体を潰してしまっては話にならない。アルフォンススが加速度に制限を加えたのはそのためと言えた。ちなみに、10Gはミサイル射出時の加速度と同等。
 実際には数秒、なのだろうが、普段の“ほぼ一瞬”の船の挙動に慣れた身には、秒という単位すらももどかしい。
 すると、
『シールドを解除しろ』
 ラングレヌスが言った。そして続けて
『遅すぎる。翼を破壊して自分で海へ行かせる』
 彼も自分と同じく遅いと感じたらしい。
『シュレーター。シールド解除』
 果たしてアルフォンススが一言。一瞬の迷いも感じない。
「了解」
 光圧シールドが弱められる。レールガンからアルミの弾丸が飛び、巡航ミサイル尾部の垂直尾翼に命中、火花を散らしていずこへ飛び去る。
 対し尾翼が変形する。巡航ミサイルの進路が急変し、左方、海へ向かって進み始める。
『行き先予測』
 アルフォンススが指示する。セレネがキーボードを叩き、船のコンピュータに計算を命ずる。
「2分で公海上に達します。制御性喪失のため再度別の陸地へ到達するまで7時間以上」
『よろしい。それまでに燃料切れで落ちる。無力化したと考える。レムリア次だ』
 指示がくる。レムリアはレーダスクリーンを見、確認を求めるべく相原を見た。
 相原は頷いた。次の目標は今度こそ、
「北極海。76N122E」
 レムリアは言った。船はラングレヌスが船内に戻るのを待ち、INSを起動して6千キロを一気に馳せた。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-016-

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 アルフォンススにシュレーターが応じ、船はその場から離れる。
「放射能漏出はありません」
 レムリアは報告した。相手の性質上、ミサイルを落としただけでは不十分。ここまで確認して初めて、必要な処理を終えたと言える。
 それは彼女の独断だったが、相原が傍らで小さく「それでいい」と言った。
 まず1発片付けた。先は長いが一歩を踏み出した。
 もう1発を探査し追尾。
 正面スクリーンに非常警報。
「攻撃用の走査(スキャン)を探知」
 レムリアは言った。ミサイルの標的にされた先軍国家のものだ。スクリーンには危機回避のための操作案内が優先度の高いものから順に表示されたが、今は逃げるための対応は邪魔。
 システムを切ってしまう。オフ要求に本気か?旨の再確認があり、なおもイエスと答えると、注意表示が画面の隅に出るだけになる。
 2機目を発見する。同じ轍は踏めない。全くの目視と手操作で巡航ミサイルの斜め上に船を付ける。
「船長。下は陸です」
 セレネが冷静な声で注意を喚起する。
『了解だ。海へ押し出す。シュレーター、奴の右側へ並べ。距離100メートル』
 船が巡航ミサイルの右横に並んだ。彼我の距離は100メートル。
『よろしい。一瞬で接近し、クローラ逆転で本船に吸着、接触せよ。そのまま左舷方向へ加速し、黄海へ。但し加速度は10G以下だ』
「了解」
 ドクターが答える。そして舵を握り、カメラの映像に目をやり、息を詰める。
 額に汗。
「行くぞ」
 舵を左に倒し、ほぼ体当たりに近い状態で巡航ミサイルに近づき、瞬時減速して接触する。空手のテクニックに、相手の肌に触れる寸前で拳を止める“寸止め”があるが、それに近似。
 そのまま進路を左に取る。船が半島上空で巡航ミサイルをぐいぐい押しながらスライド。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-015-

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「判りません。ただ、本船の速力は想定外であろうと思われます。単純に近い方から片付ければ良いかと」
『了解それで行こう。シュレーター、目視追尾』
「了解」
 指示にドクターが答え、上下左右無茶苦茶に飛び回る巡航ミサイルを追い始める。それは海上から見れば、時速700キロでミサイルと帆船が空中ドッグファイト。船速は充分だが、ミサイルの挙動を追う形になるので、どうしても反応が後手。
『何とかして真後ろに付けろ。アリス、パワーを落としてプラズマをエンジンに撃ち込め。ラングはレールガンだ。ロックオンしなくていい。とにかくスコープに捉えたら撃て。無照準防衛発砲』
 アルフォンススは言った。〝真後ろ〟から〝エンジン〟を狙う理由は、核弾頭への命中確率を下げるため。
 巡航ミサイルの無茶苦茶飛行が収まった。誘導装置をオフした結果、船によるロックオンを振り切ったという判断か。それとも、そうやって安心させておき、おびき寄せるのか。
 ただ、そのどっちであれ、アルゴ号には数秒で充分。
 船はアビオニクスに頼らず、目視のみで巡航ミサイルの真後ろに回った。INSはオフ。
『弾幕!』
 即座にアルフォンススが言い、中央マストのカメラ映像に火の玉と銀色の弾丸、そして、
「メーザか」
 相原が呟いた。メーザは電波の一種である。レーザ光と同じ性質(波長が1種類・山と谷が揃っている・広がらずビーム状に直進)を与えたものだ。極めて強力な電子線。
 人間レーダ状態の相原には直接見えるのだとレムリアは判断した。
 巡航ミサイルのエンジンが火の玉を噴き上げた。
 失速し、尻を下に向け、海へと落ちて行く。外見上、エンジン以外に損傷はない。
『完了!もう一発を追え。間に合うか』
「行けます」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-014-

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「中身は核、なんだよな」
 相原の呟きが慄然とした響きを帯びる。湾岸戦争は1991年。レムリアが生まれる前。
 比較に基づく彼の恐怖感はピンと来ない。だが、これ1発で万の単位殺戮できる、とは認識できる。核爆弾の恐怖はそれこそ日本のヒロシマ、ナガサキとして知っている。
 電子と、機械の、白い悪魔。
 イヤホンにコール。アルフォンススである。
『2機を攻撃する。不測の事態に備えベルト装着。シュレーター、高度を奴より上に取れ。速度は自動追従。INS使用』
 


 
 アルフォンススの言葉を受け、ドクターが舵と加減速レバーを操作する。まずは巡航ミサイルの真後ろ、高度やや上に船を付ける。
『真上に移動し、海面に押しつけて沈めろ』
 更に指示。ドクターが舵の左、ずらりと並ぶボタン類に手を伸ばす。
 その動作に相原がハッと気が付いた顔を見せ、ドクターを制する。
「ちょっと待った。自動追従はダメだ」
 レムリアは相原の意図するところをテレパシーで知った。
 同時に、彼の指摘が遅すぎたことも。
 画面に標的自動追従の文字が出るや、並んで飛んでいた二機の巡航ミサイルは左右に分かれ、てんでに逃走を始めた。
「しまった!」
『何をやった』
 アルフォンスス。
「ミサイルがロックオン回避行動に出たようです」
 相原が答えた。狙われていることにミサイルのコンピュータが気づき、逃げ始めたということだ。
 ロックオン検出はこの船やクルーが装着する哨戒システムにも搭載されている。最新鋭のアビオニクス(電子頭脳)を有するミサイルが持っていて当然の装備。気づけなかった相原のミス。
『了解。直ちに追尾せよ。相原、挙動が先読みできるか。どちらかが囮(この場合、引きつけ役の意)の可能性があるが……』
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-013-

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 それは副長セレネが装着したのと同じものである。頭部のバンド部分は多数の脳波センサ電極。オーディオケーブルの代わりにセンサー信号を送るフラットケーブル(何本ものケーブルを並べて板状にしたもの)。
 このヘッドセットを介し、脳と船のコンピュータを電気的に連結して様々なコントロールが可能になっている。PSC(Psychology-direct-reflection Synchronization Control-unit:心理同期制御)と呼ぶ。
 セレネの場合は超感覚、いわゆるテレパシーで要救護者の心の悲鳴を捉える。それをヘッドホンを介して船に送り、船がそこへ急行する。
「ああ。あった」
 相原は言うと、コンソール下部のラックに手を入れ、PSCのヘッドセットを取り出して頭にかぶり、ケーブルをコンソールのジャックに差し込んだ。
「来た。なるほど」
 相原の認識がテレパシーでレムリアに流れ込む。
 彼は雰囲気を感じるつもりで心を研ぎ澄ました。
 電波を、意識で感じる。
 妨害波の放射点を探しに掛かる。
 電波強度の強い方へ強い方へと意識を走らせる。ヘッドセットが作動し、船に連動制御が掛かり、ぐいぐいと東に回頭して行く。
「そっちで動かして……」
 ドクターがこちらを見て言う。
「……ます」
 相原の代わりにレムリアが答える。彼が自分に頭の中を見せたのは、感知と操作に集中したいので、状況の報告・代弁を頼むため、と判る。
「見つけたようです」
 位置は事前の予報位置から東へ130キロ。そこに電波発信源が二つある。偏西風に流されたか、巡航ミサイルの誘導コンピュータが制御した結果か。
「見つけた」
 相原はひとこと言った。レーダ画面から妨害による虚像エコーが消去され、本物を示す輝点二つのみ表示される。更に、ヘッドセットだと速度が巡航速度に固定されるため(間違った考えが船の運動に反映された場合、高速過ぎて修復不可能になるのを防ぐ)であろう、相原はセットを外して舵をドクターの手に戻した。
「操舵権を舵手へ委譲する。本船を輝点へ」
「了解」
 船が一瞬加速し、すぐに巡航ミサイルに追いつく。
 並んで飛行中の2機を船外カメラが捉えた。
 巡航ミサイル。その外見は湾岸戦争で飛び交い、その後も中東の空爆騒ぎで見られたものと同一である。白いナメクジのような、細長くのっぺりしたボディ。ガガンボの翅のような、ひょろっとした左右の翼。後尾のエンジンから火を噴きながら、海面すれすれを滑っている。GPSで己れの位置を確認しながら標的へ向かう。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-012-

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 ドクターが答える。左手で舵を握り、右手の逆L字形の加減速レバーに力を込め、思い切り奥の方へスライドさせる。INS(いんす)とは、Inertia Neutralization System。慣性力中和装置。すなわち、加速・減速時に感じる押される・引かれる力、通称Gを相殺する。原理と仕組みは略す。
 船は全速。
「ここばっかり狙うわけじゃない。しかし冷戦の構図知ってるだけ偉いな。生まれる前だろうに」
 相原はレーダ画面の北方、世界最大の面積を持つ国を指先で示した。
 レムリアは頷いた。彼女はこのアルゴプロジェクト以外でも、普段から救助ボランティアに参加している。その経験が教えるところに寄れば、出動の可能性が最も高いのは、安全保障上の不安定、および、自然災害の多発地域。
 どちらも講義や勉強会などでレクチャーを受けている。更に後者は地球のなりたちと分かちがたく結びついていると知り、興味が出てきて図書館に通おうかと思っている段階。
 ただ、前者については国家間の駆け引き、政治が絡むこともあり、人生経験の少なさも手伝ってか直感が働かない。
 思わず相原の手を握る。兄に頼る妹の心理が判る気がする。
「手伝って。間違えそうで怖い」
 レムリアは言った。頼るのは悔しい気もするが、予断で間違えるのは危険だ。
 相原は何も言わず、掴まれた手を握って返す。
 彼はその一方でトラックボールを今度は左手で回し、液晶画面をポンポンとタッチし、レーダ画面の左下に船外カメラの映像を入れる。
 黄海は悪天候であった。「西から低気圧が来ている」と相原は言った。
 推定位置に達して船が減速する。しかしそこに巡航ミサイルの姿はない。
 もう少し視野を広げる必要がある。レムリアは正面大画面にレーダの画像を映し込み、縮尺を変更した。
 画面にはエコーを示す輝点が十個も百個も現れた。ちなみにエコー(echo)とはレーダに対する反応のことだが、電波が“跳ね返ってくる”ので、“やまびこ”にたとえてエコーと呼ぶ。
「多すぎる」
 シュレーターが舌打ちし、
「雷雲のエコーでは。どう思う」
 相原に尋ねる。
「違う。ジャミング(電波妨害)だろう。で?ヘッドセットはどこだっけ」
 相原は画面から目を離さず、コンソールの周囲を手探りでまさぐった。そのヘッドホン状の機器である。
「下に無い?」
 レムリアは相原の膝の辺りを指さし、手を伸ばし、航空機の荷棚と同じハットラックの蓋を開いた。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-7-

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「おお、これはこれは大ばば様」
「突然お邪魔をいたしまして。ご在宅とは知らず」
 老女の姿に紳士らは居住まいを正した。
 それは、母君の動向、すなわち入院を大枠で把握していたことを示した。
「おめさんら、どこから来なすったね」
「山越えまして……」
「したが病院だなや」
 その理絵子らが関わった伝承は“心霊スポット”としてインターネットを媒介に喧伝されており、母君が入院した際、住所を知った看護師に訊かれて、面白半分なら、と面白半分に話したのだという。
「あんたらまで来なするとはね」
「ではウソ……」
 紳士らは一様に驚きを示したが。
「ウソではねぇよ。したが犬神様の呼び立てが来るとは思わなんだでよ」
「探るような真似をして申しわげねぇ」
「秘密にしねがなんねがよ(しなければならないのでしょう?)。仕方あんべ」
 母君は小さく笑みを見せた。犬神の儀式は実行するかどうかも含めて極秘であり、大っぴらに巫女の候補を探すことは出来ない。それは承知している。だからこっそり情報収集も仕方ない。理解しているから気にするな。
「んで、理絵子様のことを知りなすったと」
「はぁ、そんだず。したが、あの、大ばば様は犬神をご存じで……」
「詳しくは知らねえよ。ただわらし(私)も来いら言われたことあっがよ。選ばれなんだけども」
 それをきっかけに地域の……現在の表現を使えばスピリチュアルな物事に関わるようになった、と母君は言った。
 しかもむしろやってくれと拝み倒されたという。犬神の巫女候補と言うだけで特別扱いなのだ。ちなみに、その時の装束に理絵子が袖を通した。
「概略は把握しました」
 一連のやりとりを聞いていた本橋美砂が言った。
「1時間ほどお待ちいただけますか?」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-011-

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 イヤホンにピンという甲高い音。アルフォンススからのコール。
『総員、作戦を開始する。アリスにラング、配置は良いか』
 アルフォンススの問いがあり、続けて双子から配置についた旨言葉が返る。
『レムリア、標的国圏内に一番近い弾頭はどこだ』
 アルフォンススが訊いてきた。
「はい」
 レムリアはレーダ画面に目を走らせた。自分に重大な責務が課せられたのだと気付いて全身が震える。動転、までは言い過ぎだが、看護師している時の余裕や自信はない。
「北極海の……」
 目に付いた輝点の座標を言いかけようとした時、相原がギュッと左手を握って来た。
 痛いと思いハッと気付く。彼は自分を制したのであった。そのせいか、少し冷静さを取り戻した。
「違う、前言を訂正する。黄海。座標125E39N(いちにごいー・さんきゅうえぬ)。巡航ミサイル2機」
 相原は口を挟んだ。数字は経緯度であり、Eは東経、Nは北緯を意味する。
 その位置から推測される標的は〝38度線〟の北側、閉ざされた先軍・全体主義国家。
 同国は“闇市場(※)”で調達した資材で開発した核ミサイルを所持しているとされる。その防空識別圏を越えれば、これを好機とばかりその核を放つであろう。その国を日本は非国家主体とみなしているが、その非国家主体を出自に持つ者は実は日本国内に多数いる。畢竟、非国家主体にこの騒動が伝わっていないわけが無い。
 ※パキスタンのカーン博士が資材・技術の流出先として構築。“カーン・ネットワーク”とも。2004年に発覚。
「もっと急ぐべき目標と思料します」
『了解。両舷全速、相原の座標位置に急行』
 アルフォンススが指示する。
「了解。光圧シールド作動。INSオン。各員現位置から動くな」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-010-

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「そうだ。さっきの画面は、コンピュータが現在のミサイル位置を予測したものに過ぎん。だから正確な位置把握にはこの船による、我々自身による探知が不可欠だ。しかしミサイルはステルス性を持たされている可能性が高い。一部のミサイルは単弾頭ではなくMARV(マーヴ)だろう。その場合、船の探知装備だけでは難しい。人間自身の感覚によって探し、判断する必要がどうしても出てくる。特にMARVだと、弾がデコイ(おとり)なのか本物なのか、船のレーダでは区別がつかん」
「……判りました」
 相原は渋々と言った感じで頷き、男達を見送った。なお、ステルス性とはレーダに探知されにくい性質のこと。そしてMARV(MAneuvering Re-entry Vehcle)は機動式再突入弾頭、すなわち、親爆弾が多数の子爆弾をばらまくという代物のことだ。焼夷弾という存在をご存じの方も多いと思うが、その全てを小型の原爆ミサイルに置き換えたものと捉えていただければ良い。
『念を押すが、くれぐれも操舵室から出るなよ』
 アルフォンススの声がイヤホン経由で各人の耳に達する。
 操舵室の大扉が閉められた。
「ここいいか?」
 相原は言うと、スクリーン下コンソール、レムリアの隣の空いている椅子を指さした。
 レーダ員席は2名分ある。レムリアの隣はいつも空席。
「船長席は……」
「あっちにはヘッドホンが無いんだよ」
「判った」
 レムリアは頷いた。相原は座りながらコンソールの画面にタッチし、次いで傍らのトラックボール(マウスの天地を逆にし、ボールを大型にしたポインティングデバイス。ボールを指先で回して操作する)を動かし、探知画面をあれこれ変更。
 その操作を素早いとレムリアは感じた。彼は電気機械が大好きといい、それ故に船長の能力移植が容易だったわけだが、普段いじっている自分より遙かに生き生きと機器類が動いているように感じるのは気のせいか。なお、ヘッドホン云々については恐らく使用することになろうからその時に記す。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-009-

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「レムリアは何かあるか?」
「いえ」
 答えると、アルフォンススが頷いた。
「よし。時間がない。各自持ち場へ。我々は銃を持って待機だ」
 アルフォンススは席を立ち、大男兄弟と共に、操舵室を出て行くべく歩き出した。持ち場とは甲板両舷と中央マスト頂部を意味する。最初から銃を構えておくのである。
 レムリアはレーダを担当する。そして、セレネは自席でヘッドホン状の機器を頭部に装着し、パソコンの画面に向かう。
「僕も行くぞ」
 歩き去ろうとするアルフォンススの背中に相原が言った。
 アルフォンススが振り返り、制するように手のひらを出した。
「君はダメだ。今回はあまりにも危険すぎる。お願いだからブレインに徹してくれ。船内を君に任せたい」
「でも!レムリアにもらった力がそのままだからあなたと同等の……」
 クルーは特異能力を持つと書いたが、レムリアは看護師であり魔女である。月明かりの中での変身(自らが、又は他人を)、及び、その派生として、特定個人の能力を別の誰かに付与することが出来る。前回相原が船長代行として乗務した際、船長と同等の超常能力を与えるため魔法を使った。その術を解いていない。
 そして、船長の能力とは、脳波による電磁界への干渉。つまり念力発動の要領で電気・磁気を操作できる。もちろんそれら変位の感知も出来る。
「許可できない。言った通り危険であり、第一、耐環境ウェア(宇宙・放射線対応防護衣)の用意が足らない。そして、万一我々に何かあった時、君に船にいてもらわないと困る。……よし判ったこうしよう。私と同じ能力を付与されたと言ったな。だったら君は生体レーダとして探知に参加してくれ」
「生体レーダ……ですか」
 電磁気の変位感知をミサイル発見に生かす。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-008-

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「燃料タンクかエンジンをオシャカにする」
「ちょっと待て」
 アルフォンススが否定の意志を示した。
「確かにその通りだが、レーザで弾頭を撃ち抜いてしまったらどうする。点火はしなくても中身が漏れるぞ」
「あの……いいすか?」
 懸念を示すアルフォンススに相原が発言を求めた。
「構わん、言ってみてくれ」
「船体を使ってみたらどうでしょう。光圧シールドで覆っておいて接触し、標的国の領域外まで押し出す。同じ速度で飛びながらであれば可能と思いますが」
「なるほど」
「大陸の深いところだったらどうするんだ」
 言ったのはアリスタルコス。
「エンジンで吹き飛ばす。宇宙へ」
 相原は即座に答えた。そして続けて。
「それでもだめな場合に初めて銃器を使う。なるべく有限の資材は使いたくない。それから、爆発力、推進力を完全に破壊する必要は無いと思います。ロケット推進へのダメージ、安定翼類の損傷などで制御を失わせ……」
「待て相原」
 アルフォンススが勢いづく相原を制した。
「今ここで全てを決めてしまおうとするな。それだけ出せる発想力があればとりあえず充分だ。そう最初からガチガチに決めてしまうと、例外事象が生じた時、そうしなきゃという固定観念と化して自由な思考を阻害する」
 自分の言ったことに縛られ、臨機応変な発想が出てこない。
「判りました」
 相原は答えた。
 レムリアは気圧されながら彼らのやりとりを聞いていた。彼らが自分をクルーの一員として遇してくれ、年齢による配慮・意識を排してくれているのは知っているが、やはり背負っている背景……人生経験や総合力を要求される場面では年齢なりの差違が出てくる。
 その中で相原はどちらかというと自分寄り……子どもっぽい近しさを感じていたのだが、現時点に関する限り彼も大人の側だ。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-007-

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「三つ目の意味が判らん」
 ラングレヌスが訊いた。
「前二つは誤って殺さないため。三つ目は確実に殺すためだ」
 アルフォンススは指3本立てて答えた。より大量に殺すため、〝適切な〟高度で爆発させるというわけである。
 高すぎると下まで届かず、低すぎると遠くまで広がらない。
 レムリアは胴震いして両腕をさすった。人間に根元的に備わる残酷さを感じさせる。なお、缶詰とは、言うまでもなく核爆弾本体……ウランやプルトニウムと起爆剤を収めた容器のことだ。放射線対策で分厚い鉛に覆われており、缶そのものである。
「従って我々はこれらの性質を逆手にとって行動する。意見を募ろう。但し飛び道具はいつもの通りだ。レールガンにプラズマガン。レーザにFEL」
 注釈を加える。レールガンは電磁加速砲である。人体サイズの大型銃器でアルミのブロックを射出する。プラズマガンは誘電加熱(電子レンジ)で生成された火の玉を撃ち出す。レーザは高エネルギのレーザ光線を発射、単発と連射が選べる。FELはフリーエレクトロン(自由電子)レーザであり、光線の種類を変えられる。可視光線はもちろん、電波領域からガンマ線までの間で任意に選択可能で、用途と強度で使い分ける。同様に単射と連射、更に持続モード(ビーム出しっ放し)が可能であるが、殆どレーザマシンガンとして使用される。
 彼らは普段、これらを用いて奇蹟レベルの人命救助活動を行う。それは個々人の超能力も含めて人為的に奇蹟を起こすと書いた方が適切、否、そういうコンセプト。
 活動名をアルゴ・ムーンライト・プロジェクト。
「レーザでミサイルを穴だらけにしてしまえ」
 アリスタルコスが言った。彼は銃器の達人であり、彼の提案もあってこれら銃器を有する。ちなみに銃器は戦闘というより、救助に際して必要となる破壊や回避が主用途。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-006-

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 金髪碧眼の同じ顔した大男が2名いる。双子の兄弟で〝アリスタルコス〟〝ラングレヌス〟。共にブーツに上下ツナギという出で立ちであり、トレーニングを兼ねた高地縦走の途中で事態を知り、船に乗ったという。
 更にひとり、相原と同程度の体格で、広い額に皺を刻んだ男は最年長〝シュレーター〟。
 この中で、シュレーター以外は何らかの特異な肉体・精神の能力を有する。追って必要に応じ解説を加える。
 以下、言語は英語であるが、船のコンピュータによる自動翻訳を介して相原のイヤホンマイクに日本語で届いている。彼の日本語も英語でクルーへ。
「時間がないから手短に済ます。相原君、君はどれだけ把握している」
 アルフォンススに問われ、相原はニュースで仕入れた内容を要約して話した。アメリカからミサイル等25発、破壊を狙うも操作不能。
「それだけ知っていれば充分だ。早速だが対策を考えたい」
 アルフォンススは液晶画面をタッチし、世界地図を呼び出した。地図上に点滅する輝点が25。
「これは防空宇宙部のデータに基づいてNATO(北大西洋条約機構)が算出した全ミサイルの予測現在位置だ。うち速度の速いものがICBM(大陸間弾道ミサイル)とSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)。ベーリング海や東シナ海の動きの遅いのは巡航ミサイル。これらを全て無力化する」
「無力化の方法は」
 相原は訊いた。17時48分。
「その前に、戦略核ミサイルの基本的性質として、知っておいてもらいたいことが三つある。一つは標的国の領域内に入らなければ爆発しないこと。二つ目は外部から爆破しても、あるいは自爆しても〝缶詰〟に火は入らないこと。三つ目は標的国領域内に入っても、一定以上の高度では爆発しないということだ」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-005-

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 相原は大柄な男の姿を認めるや、彼女から手を離し、会釈した。
「ミスター・マナブ・アイハラ」
 男は相原の名を呼び、立ち上がった。胴太で低い声の持ち主であり、ネイビーブルーの外からも内奥の偉丈夫が推測できる。身長2メートル強。この空飛ぶ船の船長、コールサインをアルフォンスス。
 彼女のレムリアという名も同様にコールサインである。言うまでも無く幻の大陸の名によるが、彼女はこれを日常的に偽名で用いる。
「色々聞いた。前回は私の代わりに酷い目にあったようで……済まなかったな」
 アルフォンススは教養を感じる折り目正しい言葉で言いながら、雛壇を降りてきた。
 レムリアは唇を噛んでうつむく。
「いえいえ。こんなひ弱な平和ボケがあなたの代わりなどおこがましいと良く判りました」
 相原は自虐的に言った。身長168である彼は、年齢22。就職戦線首尾良く終了というタイミングである。が、船長と並ぶと、さながら大人と子ども。
 相原は続けて、
「それよりも僕なんかに勝手をさせて、あなたやメンバーの誰かが本部から叱責を受けた、なんて事はありませんよね」
 彼はそう言って、レムリアの手を再び取った。
 レムリアがハッと見上げるとニタッと笑う。気にするな、言葉は無いがそうと判る。
「無論そんなことはない。知っていると思うが人事面の一切は全て私の管理下だ。でも今回はより危険なので君はあくまでブレインとして招いた。いわば講師だ。早速で済まないがどうすれば良いか検討する。作戦席に着いてくれるか?」
 船長アルフォンススはひな壇より降り立ち、天を向いた液晶テレビを示した。
 


 
 液晶テレビ(手書き認識機能付きタッチパネル)の周りにクルーが全員集合した。
 副長〝セレネ〟は女性である。シルクロードの古代王家を思わせる欧亜混交の顔立ちで、相原より若干高い痩身に白いローブを纏う。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-6-

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「だけじゃねぐ、その、お嬢さんならお解りいただけるか、法力(ほうりき)ですだ」
 諦念したように組長氏が言った。
 法力、いわゆる超能力である。しかも多分に念動力の意味合いが強い。
「超能力……それで儀式を行った彼女が欲しいと、こういうわけですね」
 本橋美砂が特段驚いた風で無くそう返すと、組長氏は頷いた。両脇の幹部氏が驚き、膝を浮かせる。
 それは組長氏が最大のタブーに言及したことを恐らく意味した。
「いんやお前ら、もうええがろ。このお嬢さんは何でもご存じだ。大体考えでみろ。……ええ……」
「理絵ちゃんです。黒野理絵子(くろのりえこ)」
「理絵子ざまのお友達なんだで。ああ、ありがでえ」
 両手を合わせて伏し拝まんばかりの組長氏に、今度は本橋美砂が腰を浮かせて制した。
「ともかく、お話し承りました。彼女にご用であれば彼女に話していただいて、彼女の判断を待つのがあるべき姿かと存じます。ただ、ひとつお聞かせ下さい。彼女に白羽の矢を立てた理由は?」
 回答。法力の存在、および禊ぎを受け清らかである。
「それは伺いましたが、であれば、彼女以外でも該当される方がいそうですが……」
「それは、理絵子さまがまるで依り代のようだったと伺いまして」
 本橋美砂の眉根が動く。
「その時この集落と理絵ちゃん達クラブのメンバー以外は参加していないと聞きましたが?」
「したが、塙の大ばば様から……」
 すると。
 奥の方の襖がそっと開けられた。
「やれやれ、どごがら漏れたもんだが」
 塙の大ばば様……主人氏の母である。
「おばあちゃんお手洗いですか?」
 女将さんが立ち上がって歩み寄る。米寿。初冬に脳梗塞を起こして入院し、暮れ正月に当たって一時帰宅。
 もってやや身体が不自由。和服愛用ではんてんを羽織っている。奥の自室でラジオを聞いて過ごしていることが殆ど。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-004-

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 彼女が駆け寄ると、門扉を閉じる。通りがかった近所のおばさんが船に気付いて声を出す。
 対し相原は寸毫も動じることなく。
「すいません凄い風が吹くので離れて下さい」
 おばさんが逃げるように去るのを待って、二人は共に縄梯子につかまる。空中の船が縄梯子をするすると巻き上げる。
 船は縄梯子と、二人を収容すると、次の瞬間、周囲に暴風をもたらし、
 次いで文字通り、白昼の流星と化して天空へと飛び上がる。
 それは21世紀初頭の常識を逸脱する推進機構を有しているのであった。ちなみに、大気圏内で運行する場合の速度は、地球一周に12秒ほど。
「ごめん……また」
 船内通路を歩きながら、彼女ははんてんの背中に言った。
 実は以前、彼女は相原を少々強引に誘い、結果彼は大きなケガをした。お詫びを申し出た彼女に相原が返したのは『今度会うときはデートしろ』。
 その約束を反故にした。借りがまた一つ出来てしまった。
「元気か?」
 相原は振り返らずに訊き返した。気持ちを知っててはぐらかしていると理解するのに時間は要らなかった。
「あ、うん」
「守ろうぜこの星」
 相原はそう言うと、後ろ手を伸ばして彼女の手を握り、ぐいと引っ張った。
 船体の形状に沿って弧を描く通路を歩いて船尾方向。銀行の金庫のような巨大な扉が存在する。
「レムリアです」
 彼女……レムリアが言うと、巨大な扉は巨体に似合わぬ素早さで開き、二人を迎える。
「早くなったな。駆動系変えたか?」
 扉の挙動に相原が感想を述べ、揃って入室したそこは船の操舵室である。左手に大きなスクリーンがあって外界を映し、画面下にはコンソールがあって、男が3名、座して見ている。右手にはひな壇状に幾段か同様にコンソール……但し机のみで無人……が配され、その最上段には、褐色の肌をした大柄な男が1名、腰を下ろしている。さながら大学の不人気な講義だ。但し、大柄な男の着衣は軍の高官を思わせる青い制服。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-003-

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 相原は言うと、卓上の携帯電話に手を伸ばした。
 まるで、止める手段を有しているかのようであった。
 そして、彼が手に取るより早く、電話がバイブレーションで音を立てた。
 相原は折りたたみの画面を開き、不敵な笑みを浮かべた。
「電話しようとしたとこさ」
 対し漏れ聞こえるのは少女の声。硬くこわばった。
「知ってるよ。行くんなら乗るぜ……アルゴ号は……ああ判った。10秒くれ」
 相原は答え、携帯電話をはんてんの袖口に放り込んで立ち上がった。
 玄関ドアに手を掛け、一旦戻って電源のブレーカーを落とし、今度こそドアを開いて外に出る。
 その時彼が目にした光景は、一般に驚愕か、夢を見ているとの認識をもたらすであろう。
 玄関先、頭上に浮かぶ帆船。その船底から下ろされた縄梯子と、路上の少女。
 浮かぶ船の名こそ、そのアルゴ号である。そして。
 キッと一文字に唇を結び、ショートカットの小柄な娘が相原を見上げる。〝ころん〟とした、丸みを帯びた顔立ちは、見る者誰もが安堵し笑顔になるような落ち着いた可愛らしさがある。相原の携帯電話待ち受け画面の娘である。ただ、薄手の水色カーディガンは、初冬の気配漂わす東京多摩地区にはいささか寒そうだ。
「ごめん、約束より先にまた乗って欲しい……知っての通り私たちにしか出来ない」
 少女は言うと、ゴツゴツした外観の衛星携帯電話をウエストポーチに戻し、耳栓を思わせる小機械を手のひらに載せ、相原に差し出した。
 ワイヤレスのイヤホンマイクである。相原は手に取り、耳の穴にねじ込んだ。
「気にすんな。こっちから誘うつもりだった。操舵室聞こえますか?お久しぶりです相原です。また世話になります。行きましょう」
 少女は話し歩く相原を目で追う。相原は彼女の逡巡に気付いて知らぬふりをし、玄関ドアを施錠し、門扉を開いて路上へ出、彼女へ向かって顎をしゃくる……行こうぜ。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-002-

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 画面切り替わり、同時通訳付きで演説が流される。
 相原学は固唾を呑んでその状況を見た。要約すると以下の通り。
 
・探知衛星がミサイル発射を探知の情報
・標的算定、発射地算定より、合衆国本土に対する大陸間弾道ミサイル攻撃であると結論
・大統領へ直ちに報告がされるも、合衆国領空への侵入が差し迫っているとして迎撃報復を自動的に開始
・迎撃システム、スクランブル発進の戦闘機等の情報から当該ミサイル等は発見されず、誤報と判断
・報復ミサイルに動作中止命令を発するが反応せず
・各無人航空機は自爆指令に反応せず
・自動報復システムの動作を解除できず
・警戒システムの遮断を試みるも、人的介入は困難な状況
・無人航空機は戦闘機が追尾補足しているものの、接近・攻撃すると核自爆を起こすため撃墜に至らず
・標的国到達は最速で日本時間18時12分頃(およそ30分後)
・大統領が標的各国へホットラインしているが、避難等間に合う保証はなし
・通信回線によるアクセス及びシステムの爆破、電源遮断を実行中
 
『核戦争の危機が生じました。政府は“武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律”に従い……』
 相原の表情には最初悲しみと諦念があった。
 ミスとは言え、核ミサイル撃ち込まれて何も反応しない国家民族があるだろうか。
 どころか、大義名分さえ整えば合衆国を攻撃殲滅せんと欲する国家民族は幾らでも存在する。当の合衆国は誤射により幾らかミサイルを失い、何より防空システムは暴走していて役に立たない。
 千載一遇の攻撃チャンス。
 全面核戦争勃発の危機と言って良かった。しかし、程なく彼は怒りに似た表情を浮かべ、歯を食いしばり、次に拳を強く握った。
「想定される最悪の事態ってセリフは、アニメ以外で聞く気はねぇんだよ大統領さんよ」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-001-

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 コタツに入っている丸まった背中。
 ノートパソコンを叩いていたはんてん姿の男は、誰かに聞かせるような大きな声でため息をつくと、そのまま身体を仰向けに倒し、ホットカーペットの上に腕を投げだし、バンザイの形になった。勢いでメガネの位置がズレ、指先で戻す。
 コタツの天板には、パソコン以外に学術書が幾つか積まれてあり、それだけ見れば学生のレポート作成作業のようである。書物は主としてロケット推進技術、宇宙航法、核物理。
「はぁ」
 声だけ聞けば展開に煮詰まって悩んでいるように感じる。携帯電話を取りだし、折りたたみの画面を開き、待ち受け画面をボーッと眺める。黒い瞳でショートカットの娘が写っている。
 電話を畳んでコタツの上へ投げ出す。その一方でテレビリモコンを手にし、テレビに向かってボタン押下。
 映し出されたテレビ画面は相撲中継。十一月場所という奴だ。日が落ちるのが早くなっており、窓の外は既に夕紅。冬を予感させる庭の枯れ木が悲しげな印象。
「相撲だったか」
 はんてんの男、相原学(あいはらまなぶ)はひとりごち、テレビリモコンを再び操作しようとし、目を見開いて身を起こした。
 唐突に画面が切り替わる。神妙な面もちでニュース原稿を整理するアナウンサー。
 重大なニュースが入ったのである。臨時の放送を知らせるチャイム音が聞こえ、ニュース速報の文字。
『ここで東京のスタジオより国民の皆様に重大なお知らせを申し上げます』
 ただ事で無いことは説明の要も無い。
「東海地震か?」
 相原はノートパソコンで検索サイトの画面を開き、少しキーを叩き、すぐに手を止めて再度テレビへ。
『合衆国防空宇宙司令部の発表によると、同司令部の警戒システムに何者かがインターネット経由で不正アクセス、これに伴い自動報復システムが誤作動し、核ミサイル、無人航空機等、合計25発が誤射されたとのことです。繰り返します。合衆国の核ミサイル、核爆弾搭載の無人航空機が誤射されました。大統領演説をお聞き下さい』
 
(つづく)

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