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2012年2月

【理絵子の夜話】犬神の郷-14-

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「そっだら心配しねえでええげ。大丈夫だ。美砂ちゃんも理絵ちゃんも、そっちの彼女も」
 母君は女将さんの表情をよそに言った。
「そう……ですかねぇ」
 女将さんは逆に愛娘が一人暮らしを始めると聞いた親のようだ。
 対して、
「ええ大丈夫です」
 美砂が頷く。まさに“あっけらかん”である。
 話は決まった。
 組長氏らが元通り雪の装備に身を固め、一方美砂は制服で充分と言ったものの、こちらに来てから買いそろえた厚いセーターとコートに着替えさせられた。
「大丈夫なんでしょうけど、大丈夫なんだと思うけど、心配するこっちの身にもなってちょうだい」
 雪道を歩き出す。降り続いていた雪は小降りになっており、集落外れに達した頃には殆ど止んだ。
 そこに通行止めの標識。冬季は閉鎖。
「わでらが歩いてきたところも埋もれてる」
 集落の中はクルマの行き来もあるため、タイヤ跡を歩く分にはカンジキは要らない。が、標識から先は別。
 そこへ美砂が一歩踏み込む。スニーカーの足を雪に載せると沈むこともなくその上に乗った。
「何と……」
「法力、法力じゃ」
「いいえ、大丈夫な場所が判っているだけ。私の足跡を歩いて下されば沈むことはありません」
 美砂はそれだけ言ってサクサクと……早朝の霜柱でも踏むような足取りで雪深い山道を分け入って行く。組長らは最初おっかなびっくり美砂の足跡に足を置いていたが、やがて合点が行ったらしく普通に歩くようになった。途中、櫟本氏が試しにとばかり足跡以外の場所に入ったら腿まで沈んだ。
 氏を引っ張り出して行軍再開。壊れた空き家の庭先を通り、雪の重みで折れたか、道を塞ぐようにもたれかかっているクヌギの枝を押しのける。
 冬枯れの雑木林を登って行く。積雪で道の所在などまるで判らないはずだが、美砂には一分の迷いもない。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-060-

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 10秒ほど掛けて加速と減速。その間、最高速度は秒速6万キロほどに達した。
 そして、視界一面の月世界と、宇宙砲台。
 砲台はこの船とほぼ同じサイズ。
「本船を探知。撃ってきます」
「直ちに反転しエンジン光圧でL点からはじき出せ」
 その瞬間。
 宇宙砲台はレーザ機関砲と化した。
 骨だけになった傘が回転しているように見えた。
 傘の骨に見えたのは、個々のレーザ光条であった。
 砲台各所に配された“砲口”から、四方八方に降り注いでいるのであった。
 光条はらせんを描きながら一散に降り注いだ。
 もちろん、光速の挙動であって、肉眼で個々のビームまで把握できるものではない。レムリアの超常の視覚の故に一瞬が切り取られ、認識できた光景であった。
 船の回避システムが自動対応し、船体を前転させながら砲台の背後に回り込む。宇宙空間で“でんぐり返し”。
「再度ロックオン、迎撃されます」
「帆を切れ。おとりにして撃たせろ」
「予備動力が……」
 最後の一枚である。切り落とせば予備はない。燃料僅かの主機関のみ。
「光圧シールドは……」
「燃料の無駄」
 レムリアの疑問を相原が払った。
 議論の時間は無かった。
 帆を、切り捨てる。
 砲台の迎撃システムが帆を照準し、帆が穴だらけになって行く。まるで無数のイナゴに食い尽くされるイネ科の葉である。
 その間に船はエンジン光圧で砲台をその場から押しのけ、砲台の姿勢制御スラスタ(推進装置)の幾つかを破壊した。
「砲台と衛星間の通信途絶」
 その瞬間。敵味方識別装置が警告。
「何だと?他にあるのか?」
「別の衛星間通信システムが起動しました。自由主義側のものではありません。砲台破損を待っていたように思われます」
 レムリアが答え、セレネが補足する。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-059-

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 識別装置に感。
「探知されました」
 レムリアは言った。よく考えたら宇宙では船体を隠す場所が無いではないか。
 透過シールド?それは船から光を発して実現する。
 その発した光をセンサーが拾ったり、アルゴ号船体が衛星間を結ぶ通信を遮ったり、探知される可能性は幾らでもある。
 それに、燃料が少ない状態で燃料使って身を隠し続けるには限界がある。
「L点(スペルLagrangian pointより)の砲を撃つ。第3マストセイル展開せよ」
 アルフォンススは言った。反射衛星では無くレーザ衛星、宇宙砲台そのものを破壊する。
 地球-月間L点は月にほど近い位置にある。従い、宇宙空間を跳躍することになる。
「まず撃たせろ。その際発射点を逆探知せよ。INS準備」
「はい」
「了解」
 レムリアとシュレーターが相次いで答えた。38万キロ彼方の人工衛星に向かって船体を真っ直ぐ突っ込ませるのはかなり困難であろう。砲台から地球軌道上への打ち込みは相互が常に通信し、正確な位置情報を持っているから可能なのだ。
 一発撃たれる。セイルに穴が開く。そもそもが恒星からの光線や粒子線を受けて進むための帆であるが、耐えきれなかったわけだ。桁違いに大きなエネルギを有していると見て良い。
「逆探知、座標設定」
「光速(ライトスピード)、ターンアラウンドしつつ接近」
「ライトスピード」
 シュレーターが、加速レバーを、押し倒した。
 ライトスピード。すなわちこの船の宇宙空間で許容される最高速度 。
 光子ロケットエンジンのもたらすそれは実に光速の99.75%。その能力を持って、最高速度をライトスピードとしている。
 但し、加速に幾らかの時間を要するため、そもそもが光速で1秒程の地球-月間ではそこまで到達しない。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-058-

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 船のコンピュータが解析を終え、画面にMTLシステムの全容を表示する。それは地球を周回するGPS衛星のうち24基、および地球-月間ラグランジュポイントに配された宇宙砲台とで構成されていた。GPS衛星自体が鏡を持っているという。そもそもGPSは兵器の精密誘導や航空機・船舶の位置把握用。軍事用の機能を複合して持たされていてもおかしくはない。むしろそれで普通。ただ、GPS衛星であれば、この軍事衝突の危機の最中で打ち落とすわけに行くまい。精度が落ちたところで多国籍軍に含まれない独裁国家がここぞとばかり行動する可能性はあり得るからだ。
 ちなみにMTLの基本概念はSDI(戦略防衛構想)として合衆国が計画していたものだ。20世紀後半、冷戦時代の話である。しかし、当時の技術で高出力のレーザを射出する衛星の製造、或いは地上からの光条を反射誘導するなどは絵空事に等しく、特撮映画なみの馬鹿げた話と酷評された。時の国防部門も応じて提案を引き下げたわけだが、それはフェイクであって、実際には将来の実現を念頭に周辺技術から固めていったと考えられる。高精度な衛星写真の取得は地上目標に正確に光学機器を向けることであるし、GPSは位置を把握する技術。そして、レーザ自体も小型かつ高出力化され、衛星サイズと太陽電池で所定の能力が得られるようになった。
「宇宙望遠鏡そっくりだなこいつ」
 合成CGの砲台を見て相原が言った。宇宙望遠鏡、例えばハッブル鏡が知られるが、望遠鏡の鏡筒と砲身は形状がほぼ一緒。そして、宇宙望遠鏡の撮影は、地球を巡る軌道に浮いたまま、億万光年彼方の天体に正確にピントを合わせること。
 なお、ラグランジュポイントとは、地球周辺で月や太陽との重力が等しく働き、結果地球に対し一定の距離で浮いていられる場所。発見者の名にちなむ。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-057-

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 ただし、速度出し続ければ燃料は急減。実際残量警告表示が既に点滅している。飛行可能時間カウントは3桁の秒数だ。
 だから大げさに飛ばずに瞬間的な変化だけで逃げ続けているのだ。レムリアは知った。
 識別装置警報。
「戦車隊発砲します。多方面よりミグ戦闘機編隊。索敵レーダ波多数検知」
 つまり囲まれた。
「バイカルに閉じ込められるぞ」
「出ろ」
「だめ!」
 レムリアは慄然として叫んだ。そんな高熱の光線、湖水なら水の蒸発で事は済むが、陸域に上がれば周囲が巻き添えになる。確かに多く原野であり無人境ではある。が、それならいいという問題では無い。山火事になるだろうし……原野の下に無尽蔵と言われる天然ガスに何かあったら。
 船が逃げると地球がメチャクチャになってしまう。
 地球は、人質。
 レムリアはアルフォンススを見た。
「シュレーター任せて良いか」
 アルフォンススはレムリアに小さく頷いて見せ、シュレーターに問うた。操舵権のことだと判った。
「おうよ」
 自分ならどうするだろう。バイカルに潜るか。
「委譲」
「授権」
 果たして。
「宇宙へ。光条軌跡逆探知せよ。これだけ撃たれりゃサンプル充分だろう。衛星を落とす。レムリア」
「はい」
 攻撃対処、反撃、被攻撃手段選択、指向性エネルギ兵器、種類レーザ光……タッチすると、船のカメラが捕らえた光条の動画から入射角を割り出し、レーザの特性と地球の自転速度に基づいて鏡衛星の位置を逆算。
 更にその時刻その位置にいる衛星をデータベースに照会。
「燃料残は大気内制限全速で2分」
 アリスタルコス。大気内全速とは秒速3000キロ。それで今ギリギリ命中を逃れている。
 そして、一瞬で宇宙空間。
「地球とニュートン均衡」
 レムリアは出てきた文字を読んだ。情報を多く提供する。今の自分にはそれしか出来ない。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-056-

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「沿岸、露軍戦車隊を検出」
 レムリアは報告した。
「撃たれるか」
「いえ……再び電文です。湖上の帆船に告ぐ。貴君らは今回のミサイル誤射事件の容疑者として、国連の名において組織された多国籍軍の命により、我が軍が身柄を拘束する。身柄と不服申し立てにおいては国際法に則り処理する。ただちに投降せよ。諸君らの能力は把握されている。無駄な抵抗を避けよ。意思表示無き場合……」
「罠だ!INS!」
 アルフォンススが突如言い、自コンソールでボタンを押した。
 船が駆け出すのと、天から光の矢が降ってくるのは同時であった。
 ただ、ただ僅かに数瞬だけ、船がそこを離れる方が早かった。
 バイカルに光の柱が立て続けに突き刺さる。
 グリーンの光条であり、まるで電信柱の如き太さである。雲上に神が居て、めがけて投げたというのが自然なほど。そして光条に射られた水面は爆発的に反応し、白煙を上げる。高熱による蒸発であろうか。
「MTLか?」
 ラングレヌスが問う。船はバイカルの湖面を右に左に身をひねって飛ぶ。その航跡を僅かに遅れて光条が突き刺して行く。
「そうだ」
「早すぎる」
 常識で考えてアルゴ号の挙動をキャッチアップできる兵器は存在しないが。
「衛星の角度をひねるだけだ」
 アルフォンススは舵を切りながら答えた。
 解説を加える。ミラートラッキングレーザ。人工衛星で生成したレーザを別の鏡衛星で反射させて遠隔地に撃ち込む。レーザのルートは同時に3本形成され、命中精度と光線強度を上げている。つまり3箇所から同時に撃たれる状況に同じ。そして宇宙空間からの照準であるので、衛星の鏡の角度を変えるだけで地上標的を追尾可能。これは、宇宙船から地球を見た時、数百・数千キロを一度に見渡せることからも想像されよう。要するに船の速力のゆえに照準システムが僅かに追いつけず、どうにか命中していない、というだけ。
 速力を落とせばアウト。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-055-

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 対抗すれば攻撃してこよう。しかし幾ら超高速アルゴ号とはいえ、多国籍軍相手に立ち回れるものだろうか。千だの万だの秒単位で降ってくる銃砲弾全て回避できるのか。
「オレの頭はココムのままで止まっててな」
 アルフォンススは言った。
 応じてニヤッと笑ったのが相原。
「同意。どこまで本当でどこまでダマシか。虜囚になっても素直に返してもらえる保障はねぇ。温暖化しててもシベリアに抑留はゴメンだぜ。北方領土って知ってるか?返せと言ったら20分で日本をキノコ雲だらけにしてやるって国だぜ。それに……」
 それに、旧体制からのつながりで、紅の共産帝国と友好関係。
 彼は八重歯をキバのように見せて言うと、説明を意志で飛ばして寄越した。要するにテレパシーで読み取れ。
 曰く、アルゴが空飛ぶ船であり、核対戦能力を有していると恐らく露見しており、囚われになるにせよ殺されるにせよ、船体は奪われて軍事転用されるに違いない。ちなみにココム(COCOM)とは、対共産圏輸出統制委員会の英文略称。これは冷戦時代、自由主義諸国が共産主義諸国への技術流出を阻止するため行っていた輸出管理の仕組みである。ソビエト崩壊で有名無実となり廃止されたが、アルフォンススの物言い……ココムのまま……は、すなわち露国は当時と変わらず信用しないと解釈できる。
 そして相原も同意、と。先ほど宇宙でレーザに撃たれたが、それが予想通り紅の共産帝国なら、この投降誘導の目的は、まず間違いなく船の簒奪。
 従って、投降などしない。レムリアがそう理解した時、敵味方識別装置が反応した。
 スクリーンに警告文字が現れ、画面が勝手に切り替わり、ズームアップがかかる。
 衛星写真であり、自船と思しき湖上の船影と、沿岸に居並ぶ特殊車両。
 その形状。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-054-

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 多国籍軍。湾岸戦争(1991年)は生まれる前だが、豊富な動画で見知っている。そこで構成された合衆国主導の自由主義諸国合同軍だ。圧倒的な火力でイラクをクウェートから追い散らした。巡航ミサイルという代物が初めて本格的に実戦使用された戦役である。相原が言うには「飯食いながら戦争の生中継を見るとは思わなかった」。
 それが、今度は、自分達を、狙っている?
 何故。
「私たち、核ミサイル全部落として、その騒ぎを起こした犯人として狙われているということですか?放火した消防士だって」
 状況を整理するとそうなる。
 画面に文字。今度はコルキスの本部からメール。
「本部です。私達は狙われています。すぐにその場を離れよ」
「火を消した、とすら見られて無いかもな」
 レムリアのたとえを受け、皮肉っぽくアルフォンススが言った。
 セレネがメール本文を表示する。
『多国籍軍は今回のミサイル誤射の首謀者、核テロリストとして、カリブ海で目撃された“幽霊船”の発見破壊を命令した。これは多国籍軍の指揮を執る合衆国の主張によるもので、彼らは根拠として一ヶ月前にT島の医療施設を破壊した“幽霊船”を挙げている。我々はかかる事態に政府筋を通じて多国籍軍側に状況説明を行い、T島事件の実態と共に国連経由で参加各国に働きかけを行っている最中である』
「突如全世界が敵か」
 ラングレヌス。
「投降する……んですか?」
 レムリアは弱気になって訊いた。根本(こんぽん)、こちらがホールドアップする理由はない。だからといって投降するのはおっしゃる通りという意思表示。しかもその場合、相手が問題になる。何せ今は“多国籍軍”の一角ではあるが、普段は核ミサイルで合衆国と対峙している側だ。
 そんな国に身を、この船を委ねる。或いは刃向かう。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-13-

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「ただ、塙さんにご挨拶だけさせていただければ」
「だども」
 躊躇う幹部らの姿を見て美砂が玄関から外へ出た。
 降りしきる雪、であるが。
 彼女の衣服や髪に白いものが付着しない。
 さりとて雪が溶けるわけでも無い。突っかけてるサンダルは確かに雪を踏みしめている。
 幹部らは絶句した。
「私たち3人、この辺り似たようなものです」
 美砂が言い、理絵子は頷いた。理絵子が力の分類に拘らない理由の1つがここにある。オカルト主導の定義に依る時、どう解釈して良いか困る現象が多々あるからだ。どころか、分類通りに単純化できず、つまみ食いのように幾つかの力が複合して働いている場合の方が多い。これとて意図して念動を使っているわけでは無い。バリアみたいなものが形成されているのか、高温の領域が生じているのか。ただ“濡れたくない”と思っているだけでそうなる。
 果たして、組長らは雪の上にぺたりと正座した。
「お願え(おねげえ)しますだ。どうがお願えしますだ……」
 土下座状態。まるで何かに“観念した”かのようだ。
「腰をお上げになって下さい。むしろ私どもの力が生かせるなら光栄なこと」
 美砂の声の背後で襖が開かれ、夫妻らが奥の間から出てきた。寒気の侵入に気付き、玄関開けっ放しで何事かと思ったのであろう。
「話がまとまりました。しばし暇乞いをいたしたく」
 美砂が言った。雪の付着しない状態……に、夫妻らは気付いていない。
「美砂ちゃんも行くんかい?」
 女将さんが尋ねた。主人氏がボリュームを落とす。
「ええ、恐らくわたくし一人になることは許されますまい。旅館の方はサボタージュになってしまいますが」
「宿はいいけど……」
「行かせてあげんね(あげなさい)」
 母君が言った。
 柔らかく微笑みすら浮かべたその表情は何らの心配もしていない、合格確実な受験に送り出す祖母、そんな風情だ。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-053-

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 レムリアはその間にシュレーターを揺すって起こす。
「ミッション・コンプリート、です」
 博士のシワが心持ち温和になる。
「そうか。帰るかい船長。アリス、燃料残は」
 シュレーターは訊いた。
「コンマ15(千分の15)」
 アリスタルコス。
「ならコルキスまでは充分持つな」
「待って下さい相原さんを東京へ」
 レムリアは割って入った。
「ああそうだな。総員、主機関再起動する」
 シュレーターがコンソールのボタンに手をする。
「了解」
 クルーが各々応じた、その時。
 各自のイヤホンがピピッと緊急の連打音。そして。
『ロックオン検出』
 正面スクリーンに赤文字が走り、コンピュータが合成音声でそう告げた。
 CG表示の画像に曰く、上空にヘリコプターがあり、レーダでスキャンしており、船にターゲットを合わせた上で湖岸と何やら通信している。
「露軍か」
 アルフォンススの言葉を聞き、大男二名がすわ、とばかり腰を浮かせる。対し、「待って下さい」とセレネが制した。
「露軍より入電。モールスです。国籍を問い警告を発しています。解読を読み上げます。不審船に警告する。貴殿は今般核戦争惹起の疑義により多国籍軍による破壊命令が出ている。1分以内に我が軍に投降の意志を示さない場合、M・T・Lにより破壊する。……船長、MTLとは」
 セレネは背後船長に顔を向けて訊いた。
「ミラー・トラッキング・レーザだ。定めた標的めがけて宇宙からレーザ光線が降ってくる。シュレーター。操舵権を寄越せ」
「アイ」(アイアイサーの略)
 シュレーターは舵から手を放した。
 対しアルフォンススが自らのコンソールに手をした。そこにも舵があって操船できる。
 彼らの会話をレムリアは目で追うようにして聞いていた。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-052-

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 だが、声を掛ける前に船長アルフォンススは目を開けた。
「状況は」
 第一声。しかめた顔が辛そうだ。
「現在バイカル湖上。バイカリスク沖真方位22度距離28キロ程度。機関緊急停止状態で再起動要求待ち。主機関正常、GMサイクル正常、電源正常。ソーラセイル第1・第2喪失。船の躯体(くたい)損傷無し。防御・ステルス問題なし。銃器類は状況確認できず」
 相原が船の現状について画面表示を読み上げた。
「核は……レムリアありがとう。副長を起こしてやってくれ」
「はい」
 レムリアがひな壇を降りる間に相原が画面を操作。セレネは物憂げに身を起こす。
「当船検出機構ではアルファ、ベータ、ガンマ各線、硬・軟両エックス線、中性子線確認されず。探知範囲拡大中。宇宙軌道上の各衛星と交信中。キセノン、ガンマ線検出実測無し」
 相原が言った。正面スクリーンを文字列が下から上へスクロールし、衛星の観測データと思しき数値が流れる。
「全地球規模確認。放射線数値の異常は確認されません。核種同定作業不能。核爆発は防げたものと判断します」
 相原は椅子を回して振り返り、言った。
「ホント?」
 レムリアは双子の巨漢を起こす作業を中断して尋ねた。
「ホント」
 相原は答える。レムリアは笑みを浮かべる。
「ホントのホントに?」
「ホントのホントに」
「良かった」
 レムリアは言い、両の手を叩いてパチンと言わせた。これは、彼女が本当に嬉しい時に見せる仕草。
 そして、その音に双子の巨漢が揃って目を醒ます。
「あ、アリス、ラング……」
「説明なら要らねーよ。失敗したらそんな顔してねーだろ。ここはどこだ」
「バイカル湖にプカプカ浮いてる」
 相原が船首カメラ画像を正面スクリーンに映して見せる。失われた第2マストの画像は真っ黒。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-051-

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 ゆっくりと揺れている認識があった。
 ハンモックで昼寝をしているイメージだ。
 しかし、そんな経験は無いことに気付いて彼女は目を醒ます。
 身体動かそうとして拘束されていると知る。椅子の両サイドから自分の両肩を掴むようにパイプで出来たアームが生えている。船内であり、衝撃吸収機構が働いたのだと判断できる。
 頭がガンガン痛い。コンソールの画面にロック解除のボタンが表示されていて、タッチするとアームが外れて引っ込んだ。頭の痛い部位に手をするとタンコブができている。振り回されたせいであろう、椅子に後頭部をしたたかぶつけたようだ。ただ、出血までには至っていない。
 多少めまいがあるので、椅子につかまり立ちして操舵室内を見回す。クルーは船長ら大男も含め失神状態。屈強な彼らでも、脳から血が抜けるほど振り回されれば失神もしよう。INSという装置は偉大だ。ここで働かなかったのは相原が船長権限で“無茶な挙動に対する保護”を解除したせいに相違ない。
 頭(かぶり)を振ってめまいを払う。
「ねぇ」
 傍らの相原を揺さぶる。ヘッドセットが外れており、掛かった力の一端が推測される。
 果たして相原は目を開く。
「よう、天使さん」
 それは2度目に彼に会った際、彼が言った言葉。意識朦朧状態の時、天から下りてきた船には魔法少女が乗っていた。結果、天使として記憶されていたという。
「うー頭いて」
「大丈夫?」
 レムリアが拘束を解除すると、相原はこめかみに手をし、ヘッドセットに目をやり、思い出したように画面を操作した。
「生きとるな」
「はい。天国じゃないよ」
「必要な確認をやっておく。みんなを起こしてくれ」
「はい」
 相原が画面をポンポンしている間にレムリアは動いた。ひな壇を上がり船長を起こしに行く。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-050-

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「第2マストセイル展開」
 切り落とした船首寄りのセイルに代わり、船体中央のマスト、最も大きなセイルを使う。
 セイルを開く。
 網が広がり速度が落ちる。空気抵抗である。
 船が揺らぐ。INSが働き、そして停止。
 弾頭に近づいた。
 画面に警報。
「点火回路作動!」
 すなわち、原爆が爆発動作へ。
 レムリアは、目の前の画面で、船のコンピュータが、アニメーションを表示するのを見た。
 残2秒。
 間に合わない……。
 同じ画面を相原も見ていると知った。
 ただ、彼は諦めていなかった。
 ヘッドセットを装着し、操舵権を確保。
「なにっ?」
 シュレーターが自分達を見た。
 相原の脳波思考と船のコンピュータが連携し、連動制御が掛かり、弾頭の下に船が回り込んだ。
 帆を広げ、針路行く先に立ちふさがる。
「相原無茶だ!」
 アルフォンススが叫んだ。
 耳孔のイヤホンマイクに手をしたのは、相原の操舵権を解除しようとしたのかも知れぬ。
 しかし、相原は船長権限で御していた。
 船が突っ込んだ。
 セイルが、弾頭と正面衝突した。
 弾頭がひしゃげる。セイルがゴム膜のように広がってそれを包み、
 捕らえる。
 残1秒。
 
-バック転だ!
 
「踊れアルゴ!」
 相原が、叫んだ。
 船がセイルを切り離した。
 0.8秒。
 そして同時に、船はその場でくるりと宙返りした。
 切り離したセイルに、一瞬で船尾を向ける。
 それは、サッカーの同様なシュート動作を思わせた。中空のボールを宙返りしながら蹴る奴だ。オーバーヘッドキック。
 0.5秒。
 エンジン全開。
 この時船首は地上を向いており、船尾カメラはエンジンの光束で一面の白銀に包まれた。
 従い、実際に何が起こったのか、すなわち、水爆が作動したかどうかは判らぬ。
 1つ確かなのは、船から一筋の光条が宇宙へ向かって打ち上げられたように見えた、ということ。
 宗教画で聖なる降臨は天から光が差してくる。スポットライトのように描かれる。
 比して逆。地上から遙か宇宙へ光が突き上がった。
 船が動き出したと感じた時、レムリアは自分が別の世界に生まれ変わったような気がした。
 そう確かに、船はエンジン全開なりの推力で地上へ向けて突進した。
 そして、世界一深い湖、バイカルに頭から突っ込んだ。
 派手な噴水のように、水柱が高々と、キロメートルのオーダで上がった。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-049-

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 形成された光のチューブによって、残像すら許さぬ加速で宇宙空間へ射出される。
 放射線において特に有害かつ高速なのはガンマ線、中性子線である。対してまず、光のチューブは高密度の光子で構成されており、ガンマ線成分も含有する。いわば“毒をもって毒を制す”状態である。一方セイルは中性子線も遮蔽する。そもそもそうした高速粒子を受け止めて推進力とする構造である。
「放射線計測」
 先んじて画面に出してある。レムリアが読み上げようとしたら赤文字警告。
「ガンマ線カウンタに変動あり」
「有意か」
「判りません。中性子は検出されず」
 レムリアは言った。自分自身、生物・医学サイドの側から、遠くまで届き、なおかつ危険なのはまずこの2つと知っている。ちなみに、これらは生物の遺伝子を破壊または改変するため、大量に浴びれば即死する。
「相原どう思う」
 アルフォンススが尋ねる。
 急に話を振られて彼は困るのではないか、と、思ったが、
「出たかどうかはどうでもいい。今幾らで、続いているのか止まったか、だ。環境基準値と比較したい。積算値がモニタできるか」
 レムリアは画面をタッチした。
「0.7……えむえすぶい?」
「スラッシュの後ろは」
「h」
「みりしーべると・ぱー・あわー(mSv/h)だよ。短時間でそのレベルなら問題無い。その後の変化は」
「減少」
「なら爆弾本体による影響は消えた。爆弾本体の現在位置は」
「大気圏外12万キロ位置」
 レムリアの報告を受け、
「了解行け。最後だ」
 アルフォンススが宣した。
 最後。取りこぼした1発、最後の1発を捕らえに行く。
 高度550メートル。
「予測爆発高度」
「構うな突っ込め!」
 アルフォンススが叫ぶ。スクリーンに弾頭が現れる。見る間に接近する。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-048-

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 僅かではあったが、接触ポイントがずれ、弾頭は帆に弾かれたようになって、落下経路を変えた。
 次第に低く、遠くなる。
「失敗した!」
 ドクターが舌打ちした。スクリーンに映る弾頭が遠くなって行く。
「追え!」
 アルフォンスス。
「INSが使えない。加速力が不足だ。無茶すると弾頭共がどうなるか」
 ドクターが舵に手をして訊く。INSは操舵室を回転させるものであり、船外の物体には作用しない。
 すなわち核爆弾を捨てないと船本来の性能が使えないのだ……レムリアは気付いた。
 しかしどこへ捨てる?核物質イコール捨てるべきでは無いもの。
 でも、それでは思考が止まってしまう。
 逆転の発想が今こそ必要なのだと気付く。
 逆。
「核爆弾を捨てられるところ……」
 無意識に呟いたと気付いた刹那。
「それだレムリア!シュレーター、セイルを切れ!切り離せ!」
 アルフォンススはその場で立ち上がって指示した。包丁を捌く仕草に似て、手のひらで手刀を切る。
「切ってエンジンで宇宙へ飛ばせ!セイルごと捨てろ!」
「了解!」
 シュレーターが即座に応じた。
 僅かに口元に笑みを刻んで。
 成否を論ずる段階では最早無かった。
 出来るだけのことを、出来るだけ。
 セイルが切り離された。
 ロックが外れ、折りたたまれた帆が開き、爆弾を盛られた皿の如くとなり、自由落下を開始する。なお、マストから切り離されると開くのは飛行中の事故対策。開くことで滑空し、地上への激突を防止する。
「下へ回り込め、エンジン全開!」
 アルフォンススが言う。船が加速してその皿の下方に回り込み、エンジンから真っ白な光を吹き付ける。
 凄まじい加速力が爆弾の皿に印加される。その力に爆弾がひしゃげ、内容物が飛び出した。
 ので、あろうが。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-047-

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 船体に軽いショック。
「成功」
「爆発兆候は?」
「感じられません」
「放射線」
「検出されず」
「次だ」
 そのまま緩やかに加速し、次へ向かう。以降、高空を超高速で東から西へと滑りながら、ドクターの巧みな操作で弾頭を引っかける。次から次。この高度域で合計10発。
 先行している弾頭を追いかけて高度を下げる。セイルに弾頭、10発の核弾頭を抱えたまま。
 爆発したら……何が起こる?
「第1マストセイル異常ないか」
「荷重異常検知ありますが破損の恐れはありません」
「セイル変えますか?」
「いや、ひとまとめの方が処理しやすい。そのまま使え」
「了解」
「第2群発見しました。高度6700」
 その高度では弾頭3発。これで合計13。
「高度3200」
 更に12発引っかける。残り5発。だが、だんだん高度が下がっているのが気がかり。
「残りは非常に拡散しています」
 レムリアは言った。すなわち、各弾頭間の距離が遠い。
「一番高度の低いものから」
 相原が提案。
「妥当だな。燃料は」
 船が空を馳せる。燃料計の残り数値がどんどん減って行く。航続時間なのでカウントダウンさながらだ。
 まず1発。高度3000。
 2発目。高度2100。
 3発目。高度1300。
 4発目。1000を切って870。
 あと1発。
「推定点火高度まで320!」
 レムリアは言った。それは爆弾の規模から予測される爆発高度。但し全てがデータベースに基づくあくまで予測値。
 実際は一切不明。早く終わらせることのみが唯一確実な解決手段。
 最後の弾頭までの距離はおよそ70キロ。距離そのものはすぐ縮まった。
 しかし、セイルに弾頭を多量に抱えた船は、風圧、及び慣性力を抑えるために操舵性が低くなっている。つまり動きが鈍い。
 空振りした。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-12-

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 玄関引き戸がカラリと開いた。
「あの」
 組長氏。
「はい」
 理絵子が応対。
「その、お三方とも法力をお持ぢというごどで良いだが?」
 その問いは依頼前の最終確認であろうか。
「法力と言ってもわたくしのは千里眼、読心術の類で」
 理絵子は胸に手をして言った。超心理学の用語を使うならESP(超常感覚的知覚)とひとくくりにされる能力だ。テレパシーがメインでたまに予知もきらり、そんなところ。サイコメトリだクレアボヤンスだ専門用語知ってるが、彼女はあまりSFオカルト的な力の分析、分類を試みたことは無い。
「念力なかったっけ」
 美砂が訊いた。
「無意識にカギを開けたりとかするらしい。ああ、縛れることは縛れるか」
「縛れる?」
「あの世の連中を束縛して動きを封じる。ノウマク サマンダ バザラダン カン」
 理絵子は密教の真言(しんごん)を伴い組長氏らに説明した。それはいわゆる霊的な存在に作用する。不可視の魔性を束縛できる。
「スプーン曲げは出来ませんけど」
 理絵子は笑った。実際、やったことがないので出来るかどうか判らない。
「それでも良ければ」
「必要であれば私が手を出すから」
 美砂が言った。
「私は……」
 萎縮気味なのは登与。
「いいや一緒に。ここにいること自体必要なればこそ」
「判った」
 少女達は似たように輝く瞳で組長氏を見つめた。
 組長氏は大きく頷いた。
「お前ら、理絵子様らにお願いしよう」
「は、はい」
「で?すぐ向かいますか?」
 美砂が訊いた。
「それほどの秘密なら、私たちがこれ以上他の誰かと口を聞くのは禁忌かと考えますが。皆さんのお立場もあるでしょうし」
「それは……そうだども」
「歩いで行がねばなんねが?」
「私たちはいっこうに構いません」
 娘達は冬着とはいえ都会の装い。美砂に至っては制服エプロン。雪山を跋渉する服装では到底無い。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-046-

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「やってみよう。シュレーター。第1セイルのみ展帆。展開度10パーセント」
「了解。第1マストセイル展開、展開度10」
「光圧シールド保持せよ。機関全速!」
 アルフォンススが言った。その直後。
 ブザー音と共に正面スクリーンに警報。“燃料僅少”。
「えっ!?」
「あと幾らだ。正確な残量を寄越せ」
 そのとんでもない警報にアルフォンススは機関担当、ラングレヌスに目を向けた。
 ラングレヌスがコンソールを覗き込む。
「フルスピード航行を続けるなら5分だな」
「なんで……」
 レムリアは思わず、誰にとも無く文句。
「元々これが予定外だからだ。知っての通りこの船は陽電子の生産能力の関係で月に一回しか飛べない」
 つまり前回の活動の後、補充された燃料……陽電子の量が不充分だったのだ。
「5分か…」
 アルフォンススが少し考える。
 一同は彼を見た。シュレーターはすぐ行動できるようにだろう、舵に手を添える。
 レムリアは思う。それがために核ミサイルを放置するわけには行かぬ。
「僕なら行く。カミカゼと言うなら言え」
 相原が先に決意を声にした。カミカゼは言わずと知れた神風特別攻撃隊のことだ。アルフォンススは彼を見、一同を見回し、レムリアと目を合わせ、ドクターを見た。
「行け。燃料が無くなってもかまわん、全部引っかけろ」
「了解!」
 待ってましたとばかりにドクターが答えてレバーを押し込む。出力がフルパワーとなり、レーダ上の輝点へ向かって船が突進する。
 最初の1発目。
「高度8000」
 レムリアは言った。男達は弾頭と船の状態とにそれぞれ意識を集中している。ならば周辺情報を自分が提供するまで。
「速度を落とせ」
 アルフォンススが指示し、ドクターが加減速レバーを手前に引く。高速でセイルを弾頭にぶつけると潰す危険があるので、一旦速度をゆるめ、網で魚をすくうように、通過しざまにセイルに引っかける。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-045-

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 冬近い、シベリアの青い空の遥か高みに、それらは火の玉状態で次々と姿を現した。
「さあどうする。案はないか」
 アルフォンススは問うたが空白。
 その希望を感じない声。
 比して黙り込むのはまずい。レムリアは咄嗟にそう思った。
「弾頭は東西100キロ超に広がって分布。次第に相互の距離を広げつつあります。最東端の弾頭は推定目標ウラジオストク。弾頭の大きさは長さ5メートル径2メートル」
 以上端的な事実。何も提案できない自分が悔しい。
「1発ずつは悠長すぎるな」
 ラングレヌスが言った。それは恐らく、誰もが判っていて、誰もが口にしたくなかったこと。
 レムリアは歯を食いしばった。だからって悲観したところで、何も事態は進まない。
「手持ちの道具を整理しよう」
 アルフォンススが言った。レムリアは装備の稼働状態を表示する。まず銃器共、燃料電池水素チャージ中。船のエンジン、問題無く稼働中。光圧シールド、動作万全。ソーラセイル、先ほどの作動で特段変化や劣化なし。
「一気に片付けなくちゃいけないんだよね。一網打尽、だっけ」
 レムリアは言った。日本語で確かそう表現。
 そして、
「帆が網だったら、か……」
 呟きながら、ポインタ矢印で画像のセイルをぐりぐりやったその時、相原の意識を天啓が貫いたとレムリアは察知した。
「レムリアそれだ!帆だ。あれを網代わりにしてミサイル引っかける!」
 相原は立ち上がり、興奮した表情でレムリアを見、目を丸くした彼女の両肩を掴んで揺さぶり、次いで振り返ってアルフォンススを見た。
「川の中で魚取りの網を振り回すのと同じだ。一網打尽にできる」
「なるほど判った」
 アルフォンススが頷いた。但し口調は相原とは対極に至極冷静だ。
 慎重という方が的確か。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-044-

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「後の2つはスキャンの方法が違う。実弾と断じて良い。対処する。シュレーター速度を合わせよ。弾頭の右横に並べ」
「了解」
 要は追従制御なのだが、レーダの類では失敗の可能性があるのは巡航ミサイルの時と同じ。そこで、船のカメラが捉えた画像を頼りに、各カメラの特定の位置に弾頭の画像が来るような制御を行う。
 船が弾頭の横に並んだ。
「甲板に載せろ。宇宙へ放逐する。いいか、こいつらは海陸問わず下に落とすな。落とすと潰れる」
「了解」
 船が弾頭をすくい上げる。甲板に黒焦げ核弾頭を載せ、そのまま一気に宇宙へ。船外の画像がシーンチェンジのように真っ暗になる。
 レムリアは最大限の注意でモニタを監視。
「放り出せ!エンジン噴射」
 アルフォンススは言い、自ら操舵権を執ると、弾頭を一旦宇宙空間に投げ出した後、船の向きを変え、エンジンの光子噴射で宇宙の果てへと放逐した。
 秒速20キロまで加速し、太陽系の惑星が回る軌道面とは垂直に撃ち出す。これで絶対に地球に戻ってこない。
「次!」
「舵は私が」
 シュレーターに操舵権が戻り、再び一気に大気を通過。もう一発の横に並ぶ。
「もう一度同じく」
「了解」
 アルフォンススが指示し、リピート作業。宇宙へ行き、弾頭を放り出し、大気圏内に戻る。
 これで、残りは所定軌道をまともに落下中のMARV親弾頭1発。
「対流圏へ出てきます」
 レムリアは言った。対流圏とは大気のうち、雲ができる領域のこと。
 レーダに感あり。ズラリと並ぶ輝点。次第に相互離れつつ並び落ちて行く。
「来ます。すでに分裂済みです。子弾頭の数30」
 その場の全員が固唾を呑む。
「相原」
「ええ」
 相原が寄越した魔法の力の二人の認識。
「総員……デコイなしの全弾核だ」
 アルフォンススのその声はまるで宣戦布告に聞こえた。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-043-

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 ヒロシマで死者20万。
 対して荒野の無人都市ではある。しかし、
「それだけの放射性物質ぶちまけたら地球が終わる」
 相原の言にレムリアは頷いた。地球を構成する水と大気の循環システムに載ったそれは、地球表面をくまなく覆い、
 すなわち生き物全てに影響。
「防ぐ……」
 レムリアが訊こうとすると、
「当たり前だ。総力を結集せよ。出来るだけの手段をとる。シュレーター、北極海の方向へ。撃ち漏らした弾頭をまず片付ける。光圧推進を許可する。人工衛星なぞ幾らでも作れる」
 アルフォンススが遮って断を下した。
「了解!セイル格納」
 セイルが縮む。昆虫の翅のように折り目が生じて畳み込まれ、元の四角形の板に戻る。
「セイル格納完了。INS作動。機関全速」
 船は北極海へ向かった。弾頭を追い、大気圏を全速通過する。
 目の覚めるような青い空。
 その中を、煙の尾を引き、急速落下中の火の玉が3つ。
「これだ」
「レーザ被弾した弾頭のうち、2つは落下していません。突入角度が浅く、大気に弾かれて再度宇宙空間へ飛び去ったようです」
 レムリアは言った。大気圏再突入の軌道設定は極めて微妙である旨、船のマニュアル“緊急事態対策”で読んだ記憶がある。その2つは予定外の弾頭分裂の結果、所定の軌道に入れなかったに相違ない。
「さて、こいつはどう処理すんだ?ブチ抜いていいのか?」
 焦燥を感じさせるアリスタルコスの問いかけ。
「待ってくれ。デコイなら放っておいていいはずだ。調べるから近づけてくれ」
 相原が言った。以下彼の認識。
 最初に近づいた弾頭はデコイ。これ見よがしの電波を出して落下中。魔法の力をセイル経由で飛ばし、回路を焼き切ってしまえばデクノボー。
 アルフォンススも船と連動して探査。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-042-

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 宇宙から次第にズームアップして行くスタイルで空撮が投影される。
「バイカル湖」
「その通り」
 相原とアルフォンススのやりとり。バイカル湖は三日月形で、しかし日本の本州に迫るサイズ。その形と大きさはすぐ見て判る特徴。
 ズームアップは湖を西方に外れ、赤い“+”と共に整然たる都市区画を表示した。
 周囲には他の街や道は見えない。独裁国家の人工都市のように、荒野に忽然と存在している印象。
「イルクーツク26だ。ソ連時代の秘密都市だよ」
「は?」
 アルフォンススの言葉に相原が目を剥く。
「ミサイル基地か何か……」
「いや、もっと厄介だ」
 アルフォンススは腕組みする。秘密都市、それは旧ソ連において、主として兵器の研究開発を行っていた地図に載らない非公開都市のことである。無論西側……自由主義諸国との冷戦・軍拡競争の中で生まれたものだ。
 ソ連崩壊で存在が明るみになり、更に衛星撮影技術の発達によって、シラを切ることも無くなった。
「厄介……核ですか」
 相原がアルフォンススに訊いた。
 アルフォンススはまっすぐに相原を見返した。
「我々の知る限り、そこは乾電池と同じような概念の、“手のひらサイズ原子炉”を開発していたようだ。ところがプラントが事故を起こして閉鎖された。同時に起きた原発事故の方しか報道されなかったがね。それ以降は核廃棄物の貯蔵場所。核のゴミ捨て場だ」
「じゃあ」
「そうだ。遮蔽なんかされていない。世界に見えないことを幸いに、ウランやらプルトニウムやらが何トンという単位でドラム缶に放り込まれたままゴロゴロしている」
 そこに核爆弾が雨のように降る。
「日本に投下された原爆の核物質が1キログラムだぜ」
 相原はレムリアに向けて言った。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-041-

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 船の能力を持ってすれば、姿を隠せば良い話ではある。しかし、何せセイル推進中は光を帆に当てる必要があり、光圧シールドでそれを邪魔するわけにも行かぬ。
「共産諸国間の通信トラフィック急増」
 セレネが報告。
「バレたか」
 これは相原。
「判っている。だが後回しだ。シュレーターどうだ」
「遠い。少し任せてもらっていいか」
「了解」
 アルフォンススの解を受け、シュレーターは舵を振った。応じて船は船尾をガラガラヘビのように振り回し、光が竜巻のように渦巻き拡散する。
 レムリアはレーダとテレビカメラの感度を目一杯引き上げた。拡散する光がMARV子弾頭を幾らか吹き飛ばして行く。子弾頭は小型で軽いので、圧力でひしゃげて中身が…という心配は逆にない。
「これでどうだ」
 シュレーターが言い、光を止める。
 レーダの表示が落ち着くまで待機。
 そして、擾乱の収まった画面に、顔が凍り付くかとレムリアは感じた。
「ダメです!5発が大気圏に突入。あ、親弾頭もう一つが所定のコースで大気圏に入ります!」
 自分の声に操舵室が緊迫するのを感じる。大量の小型核弾頭が雨あられのように地上に降り注ぐ。
 放っておけば。
 しかし標的が小さすぎる。とても地上に達する前に全部を発見、処理しきれそうもない。
 レムリアは相原を見、アルフォンススを見る。
「遅れたか……副長、全弾頭の落下地点計算まだか」
「はい。先の5発は北極海からシベリア……詳細は確定できません。後から落ちた、まだ展開していない方の弾頭は……そのままの軌道を取れば……」
 セレネはキーボードを叩き、船のコンピュータとのやりとりが文字列でスクリーンに流れる。
「どうした」
「……出ました、ウラル山脈東方。未登録都市?どういうことでしょう。衛星写真を出します」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-040-

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 今は違うであろう。実用に供されているレーザ兵器はこの船を筆頭に幾つか出くわした。
「まぁどうでもいい。迷っているヒマは無い。シュレーター、エンジンで子弾頭を吹き飛ばす。方向そのままで船体前後反転」
 アルフォンススが指示する。
「了解」
 シュレーターが応じて舵に手をする。船はくるりと前後を入れ替えて宇宙を滑る。フィギュアスケートの後進状態に似て。
 すると相原。
「レーザは一発こっきりと思うな。弾頭が割れただけだと判れば、とどめを刺しに来る」
「了解です」
 彼の注意にレムリアはテレビカメラを動かし、視野に一帯を捉え、画面のコントラストを調整した。
「今の発砲を自動回避対象に登録せよ」
 アルフォンススの指示。再びレーザ光線を探知するようであれば、自動的に回避するように船に設定せよ。
 すなわち光が来るのを見たら逃げろ。光速を考えると一見無謀だが、この船はマイクロ秒ですら有効な時間に使える。
「りょうか……」
 レムリアは、答える前に、一瞬早くそれと気付いた。
 船のシステムでは無い。殺気に対するテレパシー。
「離脱下さい!」
「INS!全速!ついでに吹き飛ばせ!」
 アルフォンススが即座に命を発し、ほんの一瞬だけ、エンジンが出力全開になる。
 船は逆進状態であり、その後方から光の柱が放射され、船が前進状態に転じ、同時に地上から射られた赤い光条が到達し、双方交錯する。
 すなわちエンジン全開だからこそ命中を免れたと言えた。文字通りマイクロ秒の結果である。そして同時に、アルゴ号がミサイルと判断されて撃たれ、比してあり得ない挙動で回避したことを意味した。
 それが何らかの形で非・自由主義諸国に反応を惹起することは間違いないだろう。要するにミサイルでは無い、未知の“何か”が宇宙空間にいることが露見したのだ。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-11-

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 そして当該禊祓に関する伝承の文言(※)を諳んじる。これに組長らは驚いた。
「秘中の秘、ということでしょうか。口の数だけ門が立つわけですし。千年二千年の長き時を経て尚口外されないのはよほどのことと」
 理絵子は正座して組長らに目を向け、まばたきもせずそう尋ね、湯飲みの茶を一口。
「わでらは誓っておりまじでの」
 組長氏が言った。
 組でその秘は口述伝承のみで受け継がれて来たのだという。また、伝承は今際の際でのみ行われ、かつ、幹部3人以外の誰かが知ることは許されず、書き出すことも認めない。
「すると生け贄の巫女は確実に死ぬ、というか『死ね』」
「そりゃ、言いにくいですね」
 理絵子と本橋美砂は言った。それは女の子同士の日常会話そのものであり、およそ神代からの禁忌に触れ、まして現代において殺人と解釈される行為に言及しているとは思われない。
「死ななかったらどうなるんだろう」
「殺されたりして」
「……そうなんですか?組長さん」
「登与ちゃん似たの聞いてる?」
「ううん……まぁ、行ってみれば判るんじゃない?」
 登与が言った。
 3人の言葉に組長らは狼狽し、発言者に都度目を向けて都度目を剥いて見せた。
「あ、あの、少し(すごし)待ってもらえねえだが?」
 そして、ちょっと失礼とその場を立って玄関から外へ出た。
 密談であった。

※禊祓の儀についての文言を以下に転記す
この書の開かるるは、全てのことの終わりの時なり。
その時の来たるは、雷(いかずち)の轟きにて知らしめん。
光持つ者の遣わされたるを見る。光は星なり。絆にて結ばるる、畢星(ひつのほし)と昴星(すばるぼし)。
かくもけたたましき星の見知らぬ。
白き光の瞬きと、切り取る音と。雷の道を導かん。
巨きな(おおきな)印、小さき手にて大きく動き。
星と星との邂逅を得ん。
通じぬもの通じ、しかし封じるもの封じるを得ず。
(この部分不動明王真言)
この書開かるるまで、禊祓の儀、途切れる事無かれ。
凛として。
天正拾四年壱月
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-039-

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 セレネが冷静に応じる。少したしなめるような意を含んでいるようである。
 レムリアは下唇を噛んで聞いた。脊髄反射的に応じたのは少し大人げなかった。
 でも。
「怒るのは後だ。大事なのは目先の2つ。行くぞ」
 アルフォンススが言った。
 相原の手のひらが肩に乗り、ぽんぽんと軽く叩き、レムリアは思い直してレーダの画面に目を向ける。
 今は、子どもの、時間じゃ、無い。
 探すのだ。あと2つ……あと2つで地球は救われる。
 このまま行ければ……相原と手分けし、西経エリアと東経エリアをそれぞれ探査。
 しかし、問屋は、そう簡単には、地球の平和を卸してはくれないようだった。
 レーダが捉え、カメラがズームした前方のミサイルは、弾頭に異変を生じた。
 ピカッと光り、唐突に姿勢を崩し、弾頭部がぱっくりと割れ、中に入っていた小さいものを周辺にばらまいた。
 男達に緊張が走り、敵味方識別装置が警報。
「緊急事態です。MARV分裂」
 レムリアは、言った。
 続いてセレネ。
「軌道が変わりました。30秒以内に大気圏へ突入します。小質量のため落下位置特定はまだ出来ません」
「弾頭分裂には早過ぎるぞ!」
 声を荒げるアルフォンスス。レムリアは船外カメラの画像をプレイバック。
 ピカッと光り……その正体。
「地上からレーザで撃たれたようです。対策を」
「どこからだ。愚かなことを」
 アルフォンススが舌打ちした。小さくバラけてしまうと、数が増える上に標的として狙いにくくなる。
「真下なら……」
 相原が言うには、座標だけなら紅の共産帝国。迎撃用の砲を作っていたと幾度となくニュースになったとか。無論、そのたびに同国の技術力と比してSFじみた荒唐無稽と一笑に付されていたが。
「何でも盗むしな」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-038-

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 弾頭がくるくる回転を始める。明らかに失敗である。
「これは一時間で大気圏に再突入します。落下地点は東南アジア」
 セレネが報告。
「追尾せよ。とどめを刺す」
 船長席で腕組みしてアルフォンススが指示。
「了解」
 船は姿勢を変え、船尾を弾頭に向けた形で、すなわちバックするようにミサイルに接近する。
「機関光圧で吹き飛ばせ。加速10G」
 指示通りドクターが操作する。エンジンが白い光を発し、死のカプセルを加速して宇宙へ放つ。
 セレネが軌道を計算。
「地球には戻りません」
「よろしい。次だ」
 船が軌道を変える。
 以降同じことを繰り返す。馴れてくるに従い効率が上がり、短時間で処理できるようになる。一気に何とかしたい気持ちを抑えながら、地道に一つずつ潰して行く。焦って失敗したら元も子もない。
「本部から連絡です」
 セレネの声に操舵室が緊張する。本部……アルゴプロジェクトの本部であり、欧州の小国コルキスに在する。
「私たちの存在がマスコミに知れました。“謎の飛行物体マイアミ沖に出現。誤射された米軍新型兵器か”」
「なにそれ!」
 レムリアは怒った。
「こっちが兵器!?……冗談じゃない!私たち苦労してミサイル落としてるのに。ひょっとして私たちの方が狙われるってことですか?」
 思わず怒鳴る。殺人破壊機械と同一視されるほど心外で屈辱なことは無い。殆ど反射的な情動。
 対して傍らで相原が自分の剣幕に驚き、他のクルーも少なからず意外、と感じていることが判る。確かに、自分がこの船で怒りを露わにしたことは無かったと思う。
「コルキスの方から国連安保理を通じて国家間の働きかけはしているはずです。しかし私たちは今まで極秘の存在でしたからね。にわかに周知は……。私たちには事が完了次第帰還せよと言っています」(安保理:安全保障理事会の略)
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-037-

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 今度も船が追尾する形である。ドクターが舵を操作し、航行軌道を下げて標的を追う。すなわち、視界で地球が大きく広がる。
 セイルの受光量は変わらない。レムリアはふと気付く。光の量が変わらないのにどうやって速度を変える?
 でも、レーダによれば距離は着実に縮んでいる。
 一体どんな。
 どうでもいいのかも知れないが、もやっとする。地球に仲間外れにされているような気がする。
「あのさ」
 レムリアは相原の背中を指先でつんつん突いた。
「なに?」
「追うって加速してないけど?」
 疑問を口にしてみる。追跡するのに加速するのでなく、地球に対し高度を下げただけでいいのか。
「ああ」
 相原は言うと、腕組みして少し考え。
「今、この船は遠心力と地球重力のバランスがとれた状態で地球を周回しているんだ。だからヘタに加速すると遠心力の方が強くなって軌道から飛び出してしまう」
「なるほど」
 レムリアは答えた。相原は続けて。
「一方、軌道を低くとるとどうなるか。思い出してほしいのはフィギュアスケート。回転中に広げた腕を縮めると選手はどうなる?」
「早く回る……ああ、なるほど!」
「そういうこと。回転中に回転速度を上げるには、アクセルを踏むのではなく、回転速度を上げる。そのためには回転半径を縮める。すなわち、地球に向かって高度を下げる」
 相原は言った。そして、だからと言って高度を落とし過ぎると、地球重力に捕まって落下する、とも。
 レーダが反応。標的に近づいた。
「レムリア周囲状況」
「影響を与える衛星などはありません」
「よし行け」
 エンジンが光を噴く。炎のように広がらない。どこまでも真っ直ぐな太い光の帯だ。
 弾頭に接触する。だが、今度は少し位置がずれてしまった。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-036-

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 この、彩なす光たちを、数百万度の炎の毒花が引き裂こうというのか。
 乱雑なキノコ型が乱れ咲き、無秩序にしようとしているのか。
 そうとはとても思われない。レムリアは首を左右に振る。今追いかけているのが核ミサイルであり、間もなくここにそれが映し出されることを信じたくない。
「寒いのか?」
 相原に訊かれて「違う」と答え、歯を食いしばる。
 レーダが捉え、カメラが追い、スクリーンにミサイルが映った。
 大陸間弾道ミサイル。いわゆる広島型原爆の1000倍を越す破壊力を持つ、文字通り空飛ぶ地獄。
 この種のミサイルは宇宙空間に飛び出すと弾頭部のみとなる。ロケットエンジンで宇宙まで送り出され、後は地球重力で目標へと落ちてゆくのだ。
 船がミサイルに近づいて行く。大量死を乗せ、宇宙を漂う流線型のカプセル。
 頭上には地球。
 目標まで手のばせば届くほど。
「加速用意。周囲に影響を受ける衛星はないか」
 アルフォンススが言った。
 レムリアは自コンソールの画面を見る。ドクターが加速レバーに手をかける。
「ありません。加速可能です」
「加速、光圧シールド」
 レムリアの言葉を聞き、アルフォンススが指示を出す。ドクターがレバーを押し込み、船は瞬間的に加速する。
 シールドの光圧で弾頭を突き上げる。所定の地球落下軌道を大きく外れ、宇宙空間遙か彼方へと放り出される。
「弾頭速度毎秒15キロ」
 レムリアは報告した。次いでセレネが軌道計算。
「地球に戻りません。このまま宇宙空間に遺棄されます」
 それは成功を意味すると知る。
「こいつら基本的にはこの方法で行けそうだな」
 相原が言い、レムリアは安堵には早いと言い聞かせながら頷いた。
「よし、次だ」
 アルフォンススが言った。
「はい。第2目標、進路前方2千4百キロ」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-035-

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 程なくカメラの視野をはみ出し、全体が鏡のように宇宙の漆黒と星のきらめきを映す。
「適応化制御および展帆完了。船内重力0.996G」
 ドクターが喚呼する。これで、船はその向きを変えることにより、セイルが生み出す加速、すなわち地球から離れて行こうとする遠心力と、地球重力との釣り合いを取った。ニュートン力学的に均衡……ニュートン均衡である。
 正面スクリーンに動力システムの変更を示す文字が出る。主機関はアイドリング(即応待機)となり、3枚の帆が開いた旨のCGと、各セイルの受光エネルギ数値(単位メガジュール。太陽電池としての発電量から換算)が現れる。ちなみにカメラ画像でなくCGなのは撮れないから。幾ら広角に引っ張っても帆の全容を捉えることは出来ない。薄く広がった結果、その面積はサッカーコートほどもあるからだ。それを3枚使い、恒星からの粒子ビームを受け止める。その姿は船の帆というよりは、巨大な凧に船体がぶら下がっていると言った方が正しい。
 星が作り出す光や放射線だけで質量がトン単位の船を進めるには、これくらいの大きさが必要なのだ。
「現在セイルにより航行中」
 ドクターは続けて喚呼した。エンジンは要するに巨大コイル……すなわちエレクトロニクス、電動であって、アイドリングは無音状態。
「目標補足。船速500。目標まで120キロ」
 レーダが注意喚起の音を立て、応じてレムリアは言った。
 静かな操舵室。
 スクリーンには、青と白の清浄な光景と、それを包むシャボン玉のような薄膜……地球大気と、その薄膜の彼方で輝き揺れる青緑の燐光……オーロラ。オーロラを宇宙から見たのは初めてだが、極地をリング状に囲んでおり、まるで音無く燃える魔法物質の炎環(ファイヤーサークル)のようだ。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-034-

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 その画面に反応が目一杯。
「機関停止要請!」
 即座にレムリアは声を出し、シュレーターが加速レバー中立。
「機関停止。惰力航行。地球とニュートン均衡。対地速度420」
 その状態は人工衛星と同じ。地球周回軌道でバランス。
 そこへ大男達が戻って来た。
「どうした」
 アルフォンススが声を出し、レムリアの傍らへ。
「衛星とデブリ(ロケットの燃えかすや寿命の尽きた衛星などの「宇宙ゴミ」)があります。機関出力により衛星軌道の変化、デブリの加速による他衛星への影響が懸念されます」
 レムリアは報告した。シュレーターが頷きで補遺。
「了解。太陽風で航行する。セイル展帆(てんぱん)」
「了解!セイル展帆」
 アルフォンススが即断し、ドクターがスイッチを操作する。
 アルフォンススが室内を移動し、船長席に収まった。
「総員。船体を回転する。地球が上に来る。空間識失調(くうかんしき しっちょう)に注意せよ。INS作動、船内1G適応化制御」
「了解1G適応化制御、船体180度回転」
 アルフォンススの指示にドクターが喚呼して操作する。
 2つのことが同時に起こる。まず、船が地球に向かってマストを立てた形、すなわち乗員に取っては頭の上に地球が来る形になる。足もとにあるべき大地が上になる。このため、上下感覚の混乱……空間識失調……を起こす可能性があり注意喚起。最も、操舵室にいる限り、室内床面で重力1Gを保つように制御されるため、地球を大地ではなく天体と認識できれば問題にはならない。
 そして、マストの白い帆がキラキラと輝きながら開く。四角形の帆が折り紙を広げるようにパタパタと展開し、それが終わると魔法か手品でも見ているように、薄く伸びながら周囲に広がってゆく。変な表現だが小麦粉がピザ生地になるべく引き延ばされるかのようである。
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-033-

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 相原と船長は手分けし、時に相互に手伝い、核ミサイル群に片っ端から、しかし丁寧にシャハーブミサイルを命中させて行った。
 船を中心に寄り集まった編隊の周囲で、火柱がボカボカ上がる。
 核ミサイル最後の一発は燃料を使い果たし、自ら落下した。
「掃討完了」
 相原は、言った。
『掃討完了確認。残弾は自爆処理』
「了解」
 残ったシャハーブミサイルは編隊が自ら処理……自爆した。船が何をしていたのか理解したようだ。
 レムリアのレーダ画面に輝点明滅。モールスで返されたのだと判って船に訳させる。
「編隊からモールスです。“貴船はいずこの軍なりや”」
 アルフォンススはそこでふっと笑った。
『ボランティアとでも答えておけ。行くぞ、後どれだけある』
「はい。その後巡航ミサイルは全て自爆処理あるいは撃墜に成功しました。残っているのは宇宙空間を惰力飛行中のICBM群です。高度150キロ。これらを全て無力化すれば全ミサイルを処理したことになります」
 セレネが言った。
『大気圏外か……よし行け。アリス、ラング、一旦戻るぞ。船外活動準備』
 アルフォンススは言い、船はその舳先を天空へ向けた。
 相原が傍らで息を呑む様をレムリアは見て取り、自らもその意味することに気付いてハッとした。
 宇宙へ出る。
 


 
 船が大気圏外へ出るのに、まばたきするほどの時間も掛からなかった。
 正面スクリーンが真っ暗になり、レーダ表示が“宇宙モード”に切り替わり、ようやくそうだと判じた。初めて見るその画像は船が中心に配され、囲む空間全体をグラフィック処理した3次元タイプ。カーナビゲーションでは自車が地図中心に置かれるが、それの宇宙空間版と言って良い。方位の基準の代わりに太陽の位置が示される。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-10-

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 天使のような娘は自ら名乗った。
 紳士らは困惑を示した。
 トップシークレットに属するのに部外者がどんどん増える。
 しかし。
「この登与ちゃんも同席、が、お話しをお受けする条件です。まぁ、彼女も特殊な感覚を持っていますから、隠しても筒抜けですけど」
 本橋美砂は長い睫毛の瞳で言った。
 超能力がある。と公言する。かなりセンセーショナルな内容だが、この場でそれは最早驚くに値しないだろう。
 母君が立ち上がった。母君は理絵子らに特殊能力があることを明確に知らされてはいないが、持ってて当然という認識は醸成されよう。
「郁郎(いくろう)、幸子さん。わだしらは席を開けんべ。この子らに任すが良し」
「ああ、そうだね。あんた」
 女将さんが同意して主人氏を促す。高千穂登与が加わる代わりに自分達が外れ、心理的負担を減らそうという意図もあろう。
「そうするか」
 主人氏が応じて立つ。一升瓶とコップは忘れない。
「では私らは一旦」
「申しわげね(申し訳ない)」
 組長氏が丁重に頭を下げ、宿の主らは母君が過ごす奥の間へ去った。
 本橋美砂がオーディオの音量を上げる。無論故意である。聞かれたくないという組長一行の意を汲んで。
「改めて紹介いたします。黒野理絵子さん」
 理絵子は正座して丁重に名乗った。コートを脱ぐと黒髪が潮満ちるように流れる。そして瞳は深淵に星の光を蔵す。
「都内の……」
 西部某市。
「市立中学2年です」
「おお、これはこれは。私どもは……」
 組長は太田代(おおたしろ)、自治体幹部らはそれぞれ神無城(かんなぎ)、櫟本(いちのもと)と名乗った。
「第二次性徴前の巫女の生け贄が必要である、しかも超能力を要する、とまでは把握しています」
 理絵子がストレートに言って口火を切った。すると登与が、
「わたくし神話伝承にはある程度の知識があります。この地の禊祓の件についても掌握しています。しかし、この近辺で犬神伝承があるとは初耳です」
 
(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第3部-032-

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 相原が提案したその間に再びレーザが画面を彩り、ホーミングミサイルが撃ち落とされる。
『借りる?』
「我々で介入して」
『……そういうことか』
 ミサイル爆発のタイムラグを置いてアルフォンススが答えた。
「そういうことです」
『判った。シュレーター、シャハーブの制御を我々で乗っ取る。本船に引き付けよ』
「了解」
 ドクターは速度を落とした。
 誰もがイメージする姿形、鉛筆型をしたミサイルが次第に集合し、束になって迫ってくる。赤外線追尾式。船は光子ロケットゆえ、特段ブロックしなければ赤外線も盛大に出ている。それを追ってくる。否、追わせている。
『相原行くぞ!』
「OK。見てろよ」
 相原はニタッと笑った。
 シンクロ、という概念がレムリアの意識に浮かんだ。意志で干渉……それは“強く思う”動作そのものであって、ゆえにテレパシーが相原の意識を拾ったのだと判じた。
 以下彼の思うまま感じたまま。核ミサイルと違い、シャハーブの標的回路に強力なシールドは掛かっていない。むしろ軽量化のため耐熱樹脂など非金属材料が多用されており、ニセの電気信号を放り込むのは容易。ほぼ瞬時に自分たちの意識の支配下。
 二人はシャハーブを乗っ取り、意のままに操り、接近してくる核ミサイルに向けて次々に解き放つ。まるで投げられた石を拾って正確に投げ返すが如し。
「編隊が核ミサイルに気付きました」
 セレネが言った。
『本船が片づける。近づくなと言っておけ』
「了解」
 レムリアは答えてコンソールを操作する。相手の言語が不明であるので、マイクで声だけ送ってモールスに変換させる。
 電波ビーコンで送り出す。相手がレーダを働かせていれば画面にチカチカして伝わろう。
 
(つづく)

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