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2012年5月

【理絵子の夜話】犬神の郷-27-

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 透視という能力の存在を知るが、持ち合わせていない。自分の超感覚及ぶ範囲は意識波の関わるものに限定と書けば良いか。人の意識・情動の介在しないアクションには、感知や介入が不可能なようだ(作者註:但し、暗がりでも見える、及び、閉まっているカギを開けてしまうという能力だけはこの条件に当てはまらない)。
 示唆降りよ。オン・アラハシャ・ノウ。……文殊菩薩真言。自分達三人、三人寄れば文殊の知恵、からの思いつき。
 
-犬。
 
 放り込まれた言葉に、災害救助犬と同じ事だとすぐ理解した。そして、今、“ツテ”はある。
〈来なさい!〉
 極めて強い調子で理絵子は超常の命を飛ばした。テレパシーを意図して放り込むなんて滅多にやることでは無い。ちなみに応用で、“他の意志を当人の思いつきのように”認識させることが出来る。Aという考えをしないはずなのに、Aをあたかも当人が思いついた結論のように思わせるのだ。催眠術に近い。
 雪山の向こうで遠吠え。命令に対する応答。
「犬神様じゃ」
「犬神様が……」
「違います。手伝いに来るように命じました。ここに一人埋もれているようです」
「ここは……佐伯のばあさんじゃないか」
「本当かね、お嬢ちゃん」
「木材をどけましょう。手伝って頂けますか」
 周辺事情はどうでもいいのである。本質にして今できることをお願いする。
 背後に美砂がいる。
「美砂姉(みさねえ)……」
「待って、そこ動かしたらだめ。積もった木材の質量が重しになって反対側の倒壊が防がれている。どかすと崩れる」
 やじろべえは片方空っぽにすると反対側がぐしゃっと落ちる。
 周囲が騒がしくなる。犬が来たのだ。白い犬の群れが来、住民達の間を駆け抜ける。
 犬たちは現場に着すると、理絵子の命を待つまでもなく倒壊した木材の上と周囲を嗅ぎ回った。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-07-

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「どうしよう。ごめん、私の勝手な判断で巻き込んじゃって」
 泣きそう、というのが率直な気持ち。でも、当座思いつく相談相手はこの彼だけだ。
『……そんな声出すな。状況は理解したから。まぁ、そのままじゃ、どう動いても彼は傷付くなぁ』
「うん」
 やっぱり判ってくれる、と思い、思わず頷く。
 頷いてから、自分の反応が幼女みたいだと思う。ユーラシアの向こうを頼ってるんだと、否が応でも自覚せざるを得ない。
 代案の一つも用意できるのが、あるべき姿なのだろうが。
 返事が来るまでのタイムラグが、待ち遠しいような怖いような、悔しいような。
 しょうがねぇな、と、電話の向こうで苦笑いするメガネの顔が目に浮かぶ。
 そして、タイミング的に恐らくそれで間違いないことも。
 結果。
『ロッテルダム出張があんだよ、来週』
 それは解決のサジェスチョンだと彼女は知っていた。
 ロッテルダム。そこからここまで超特急で40分である。彼はここに来てくれるつもりなのである。
「え?こっち来るんだ?」
 言葉尻に笑みが入る。ゲンキンな自分。
『ロケット燃料の学会』
「(ロケット!)」
 これも聞こえたらしい。日本のハイテク+ロケット……マヌエル君がすごい想像を抱いたことが容易に知れる。ちなみに、彼女自体は、米露の派手な宇宙開発より、この国が〝ソーラセイル(光圧推進)〟の衛星をヒョイとばかり打ち上げたことの方に心底驚いた。
 それがSFに登場する未来技術であると、当の彼から聞いて知っていたから。
 でも、
「え?電子回路のエンジニアって……」
 彼女は自分が認識していた彼の職との齟齬を口にした。そういう方面の研究職に配属され、OJT(オンジョブトレーニング)しごかれ中とか。
「(ロケット!エンジニア!)」
 カクテルパーティ効果に近いのだと思うが、都合の良い部分は案外ハッキリ聞こえるものだ。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-26-

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 屋根上の積雪であろう、堰切ったように白い塊が玄関先に落ち、集まっていた人々を追い散らす。猟銃氏には塊が命中したらしく倒れ込んで失神。
 そこで美砂が制するように右手をあげたら、地震がピタリと収まった。
 理絵子の認識では、美砂は終わりを知って腕を上げただけなのだが、無論信心深い人々には、彼女と地震が関連づけられて認識された。
 攻撃心が急速に畏怖と崇拝に入れ替わって行く。
「組長さん、今ので同じように落雪で埋もれた方が無いか、探すべきだと思います。私たちのことはその後でも充分」
 美砂は提案して立ち上がった。
「私たちもお手伝いします」
「お、おお、判った」
 集まった人々の反応を待つでなく、どころか組長氏らが立つより早く、彼女たちは小走りで集会所を後にした。
「高千穂さん右手から奥の方へ」
「私は左側から行くよ」
 理絵子の指示得て登与が走り、美砂は自ら行く手を指さして早足。
 雪の上を雪無いかのように彼女達は歩く。或いは走る。
 ただその事実に人々は気付いていないようである。雪かきされた部分を選んで彼女達に付いてくる。
 そこで理絵子は気付く、否、示唆を得る。これは、自分達に対する、テスト。
 倒壊している家屋有り。
 雪に半分埋もれていること、折れた柱の断面がまだ新しいことから、今の地震により崩れたと判断する。
 人がいそうな気配はあるがテレパシー反応せず。即ち意識無し。
 超感覚フル駆動して良かろう。過去認知・ポストコグニション。
 曰く、雪かきの準備中地震に遭い、慌てて飛びだしたところで埋もれた。
 どの位置に?
「すいません!こっちに人手を」
 理絵子は叫びながら場所の特定を試みる。
 雪に埋もれて体温は急降下であろう。闇雲に掘らず一発で特定したい。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-06-

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「(アイスランド……氷の国か!)」
 電話の声が聞こえたのである。……彼は現地では少年兵、僅かな音を捉える訓練は当然のように受けていたであろう。日本語を解すとは思わないが、だからこそヨコモジ部分だけは判るもの。
「え?本当にあるの?」
 彼女は問い返した。頭からサーッと血の引く感覚を覚える。それなら現在ただいまも煙を上げている活火山群である。それこそこの電話の向こう、日本の彼に聞いた話だ。歳の差もあって家庭教師的な部分があるが、潜在する世界規模の災害リスクの一つとして教えてくれた。「救命ボランティアするなら覚えておいて損は無いだろう」と。
 ちなみに18世紀には日本の火山噴火も合わせて世界的な不作と飢饉を招いている(浅間山。天明の大飢饉)。
 対応に失敗したと彼女は認識する。こうなるとウソ付くことも、本当のことを言うことも。
 どちらも解決にならず、ただ彼を傷つけるだけ。違うのは傷の深さだけ。
 どうしよう。怖いような気持ち。
「(アイスランドか。アイスランド……氷の国ってそのまんまだな。お姉ちゃんその人に訊いてくれよ。それはどこにあって、日本のテクノロジーで僕が行くことは出来ないかって)」
 当然の願いであろう。言葉が用意できず、ただ背筋の温度が下がる。
 唯一の逃げ道は、マヌエル君が日本語を解しないこと。
 だったら、だったら。
『何か嬉しそうな声だな』
「それが……あのさ」
 彼女は渇いた喉から声を絞り出す。貸した本の話と、否定を確信して尋ねたことと。
 対し彼は「先に言えや」と挟んでから、こう説明した。
 ・夜無き国とは白夜のこと。
 ・火を噴く氷とは氷河に覆われた火山のこと。
 すなわち、両方を満たすアイスランドについての伝承であろう。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-25-

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「帰ってもよろしいのですか?」
 理絵子は尋ねた。そう質問せよとの示唆を得たから。
 様々な心理が人々に芽生え、疑心暗鬼が毛細管現象のように広がり染みて行く。
 ……自分達は、魔性の存在がこの集落を破滅に追い込むべく派遣した存在なのではないか。
 それこそ福音書に出てくるエピソード、イエスの悪魔払いを悪魔の所業と罵る群衆を思わせる。すなわちナマズを怒らせてはならず、犬神の意に沿わぬことをしてはならない状況において、双方の引き金の可能性を有する自分達を魔性の存在と見るわけだ。単純な帰結だがしかし、ナマズ自体は聞く限り魔性の側であり、“魔を持って魔を制す”は、少々矛盾をはらむ。
「おれ、どした。早くやっちめぇ」
「ケータイなんか使えねだ。わがりゃしねぇ」
「崖から落としちまえばどのみちぐちゃぐちゃだ」
 後方から煽る声。しかし先頭は“攻撃する気持ちが起こらない”。
 何故か、殴ってはいけないという気持ちに支配されているから。
「どげ!おでがやる」
 しびれを切らしたか、後方から声が上がり、群衆がサッと左右に割れた。聖書の故事を取るならモーセの海割れだ。
 猟銃。照明がこちらの背後にあるせいか、銃腔に切られたライフリングまでよく見える。
 銃殺しようというのか。さすがに群衆の雰囲気が冷えた。否、21世紀の文明社会に戻った。
「おい……」
「黙れ!こいつらやっちまわねとおでたちがやられるだ!」
 これ見よがしに銃の操作音をガチャリ。しかし、理絵子をはじめ少女達に心理的な変化は何も無かった。
 この事態は進展しない、と確信を持って既に判っているのだった。
 地震。
「ま、まただ」
「でけえぞ!」
 確かにこの集落で感じたモノの中では最大級のようである。家鳴り鳴動し、ガラスがガタガタしてホコリを舞い上げ、家屋の躯体が大きくねじれながら揺動するのが見える。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-05-

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 彼女は唇を噛んで言い、ジーンズに巻いたウェストポーチに手を伸ばした。
「(えっ!?)」
 彼が逆に驚く。日本に友人自体はウソではない。
 見つめる男の子の前で、取り出したのは衛星携帯電話。一見すると軍用無線機を思わせる無骨さ。
 窓際に立ち、数百キロ彼方の電波を捕まえたことを確認し、発呼する。今の日本の技術でも最早見つからない。過去あったが今はない。そう言ってもらうのも、残酷だが一つの手だと思うからだ。自分が言ってもいいが、当の日本人なら説得力があるだろう。サンタクロースじゃないが、やがて無いと明らかになるもので誤魔化すのは二重に傷つけるだけ。
 呼び出し音。相手は歳8つ離れた勤め人の男であるが、日本は土曜の夜であり邪魔にはなるまい。
『はいよ。どした?マヌエル君の見舞いだろ?』
 相手が自分のスケジュールを把握しているのは、インターネットを介してコミュニケーションを取っているから。
 それで会話するのが寝る前(※)の習慣になっているせいか、声を聞いたら自分自身少し落ち着いた。(※オランダの午後11時で日本は午前7時)
「あのさ、古代の伝説に出てくる〝夜無き国の火を噴く氷〟って何だと思う?」
「(すっげー日本語だ!)」
 マヌエル少年が驚く。彼女は12カ国語を操る。
 声がデータ処理され、700キロ彼方の衛星に向かい、衛星間を中継され、アメリカ大陸にあるパラボラに降り、国際通信回線に入り、光ファイバケーブルで太平洋を横断し、日本の通信網を走り、携帯電話システムに載り、彼の電話に届き。
 恐らく彼が答え、同じ経路を通って戻る。
 その、タイムラグを、日本側が何か調べていると捉えたか、マヌエル少年は聞き耳を立てて彼女を見ている。
『アイスランドの氷河割れ目噴火のことだろ』
 あっさり訪れた答えに、マヌエル少年がこちらを見る目を輝かせた。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-24-

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 秘密の多すぎる集落のようであり、気持ちは判らぬでは無い。ただ、生け贄である自分達を受け入れないなら、見舞うであろう運命にどう対峙するのか。
 ……まぁ、その辺書いてあるのはこの書であり、この怒れる人々は知らないか。
 つまり、真実を知らぬが故に現状を維持したい。変化をもたらす者は去れ。
 ああそういうことか。
 美砂がスッと座をいざり、怒れる人々に向かう。
「私どもをナマズ様がお気に召さない……というのが皆さんの見立てと……」
「黙れ!よそ者が知った風な口聞くでねぇ!」
「組長!あんでごんなどごの馬の骨かもわがんね小娘に、ったらこど(そんなこと)喋っただ!」
 その対立に割って入るように、咆哮が雪原を呼ばわる。
 狼の遠吠え……に聞こえたのは、これまでの会話に基づく心理バイアス。
 が、もちろん、集落の人々には強い作用を及ぼした。
「犬神様じゃ」
「犬神様までもお怒りじゃ」
「娘ゴども出てけ!」
「そうじゃそうじゃ!……出てがねならブチ殺すぞ」
 とても21世紀日本で交わされるコミュニケーションとは思われなかった。スーツ等洋服を着ている自分達は時間旅行者だ。
「もう我慢なんね!」
 農機具を振り上げる男性あり。石つぶてを手に身構える若者有り。
 その瞬間、“風”の如きものが攻撃者に向け動いたことを理絵子は感知した。
 それは、空気、ではない、“空間を支配する何か”がごそっと動いたというのが正しい機序であるようだった。
 念動力。攻撃者達はそのまま、身体が動かせない。
 美砂は別段大げさなアクションや真言を唱えるなどしたわけではない。
 彼女の念動は物理法則に干渉する……すなわちイエス=キリストが見せた奇蹟、安倍晴明・弘法大師に代表される“スプーン曲げの化け物”とは機序が違うらしい。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-04-

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「(どうせ……)」
 男の子が独りごちる。この手足では、傷癒えて故国に戻っても笑い者になるだけ。働く口はないうえ、
 部族のために戦うことも出来ない。
「(だったらせめて、家族に会いたい)」
 本に書いてある通りの氷を、入手したい。
 揺らめく瞳に見つめられ、彼女は気付かれないようにため息をついた。自分の解釈では、この話は事実と言うよりは教訓、寓意。すなわち、
 〝不可能を可能にするには死ぬほどの決意と努力が必要だ〟
 或いは、70年は単なる寿命であり、努力が実は生き甲斐になっていて、従って、生き甲斐とは努力するものがあるかどうか、と言いたかった。
 もっと単純に、両親は想像していた幻か、死を目前にした故の霊的な交流で、みたいな可能性もある。どっちにせよ“死後”に出会えたことは確かだろう。……もっとも、それでは教訓と言うより皮肉になってしまうが。
「(大昔でも70年で見つけられたんだ。……そういやニッポンの友達って言ったよね。ニッポンの技術ならすぐに見つかるんじゃないのか?なぁ、訊いてみてくれよニッポンの友達に)」
 男の子は話す途中で思いついたのだろう、声のトーンを上げ、ベッドから身を乗り出した。
「(え……)」
 彼女は躊躇した。即答できる言葉を持っていなかった。
 それは全て想像の産物、おとぎ話だよ……言えるか?
 日本の友人に訊く。知らないと言われて終わりだろう。恐らくは。
 だからって、日本の友人など実は嘘で……
 いずれも彼が納得できる答えになるまい。落胆と裏切りの傷しか彼には与えない。
 男の子の表情から、笑みと興奮が熱冷めるように去った。
「(……判ってるんだ。全部ウソなんだろ)」
 対して、ただ黙っていても結果は同じ。
 ならば。
「(待ってよ)」
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-23-

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「前回はいつ?」
「安政の頃、と聞いております」
「記録は……」
「残念ながら……」
「あるわけないか」
「やってみりゃいいじゃんって気がするのは私だけ?」
 美砂が口を挟む。
「伝承を真実とするなら、判る者には判る時に判るんだよ。だから残ってないし残す必要も無い……えーと、揺れます」
 予感があり、美砂が言葉を遮り、地鳴りがして地面が震える。
 地震だが、震度と規模は腰を浮かせるほどでは無い。理科年表か新聞か忘れたが“滅多に地震が無い土地なので、誰かが家を揺らしているのかと思った”みたいな住民インタビューを見たことがある。感想としてはそれと同じ。
 しかし、組長らがひれ伏してしまう。揺れと言うより神秘的な恐怖の故に。
「ナマズ様の宣戦布告?」
「まさか……あの、お顔を上げて下さい。恐らくは単なる偶然です」
 そう言って組長氏が素直に納得するとも思えなかったが、しかし、
 顔を上げて動かざるを得ない事態が生じた。
 誰かがこの建物に走って近づいてくる足音。
 


 
「疫病神、疫病神だ!」
 などというセリフと共に農機具を武器よろしく振りかざす……一揆の再現のような場面に彼女達は出くわした。
 建て屋の引き戸が荒々しく開かれ、そうした人々が彼女らの引き渡しを要求する。
 誰が誰だか判らぬようにするための故意であろう、ぼろ布を着ぶくれ、顔は忍者のように手ぬぐいで覆って目だけ出している。
「落ぢ着げ。あに失礼言ってるだ。理絵子様だぢはおでらのお願いを聞いて下さるちゅーんだど」
「嘘こくでねぇ。この娘ゴだぢが来でがら地震(なゐ)がひどくなっだでねぇか」
「んだんだ!ナマズ様のお怒りだ」
 排他だ。理絵子が得た印象がそれ。
 ナマズ様が生け贄を嫌っている……という口実の元に、よそ者を入れたくない。
 
(つづく)

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