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2012年6月

【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-12-

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 相原はマヌエル少年の両肩に手をして言った。
 彼女レムリアがフランス語とオランダ語に訳すのを待ち、主治医が発言。
「(ミスターニッポン。それは水とメタンだけなんだよな)」
「おっしゃる通りです」
「(逆に言えば人体への影響はたかが知れてるわけだ。体積が増えるのは塞がれた血管の拡張なんかに使えるかも知れない。可燃性ってのも、焼き切って止血とか、使い道がありそうだ)」
 相原は頷いて。
「祖国のために。君の気持ちは判る。でも僕は君に、地球と人類のためにというスタンスを提案する。君が祖国から誇りと感じる存在になればいい。ちなみにオレが研究しているのは……人類が太陽系から飛び出すためのエンジンだ」
 相原は言い、立ち上がった。
 対し、ようやく、という感じで、遅れて顔を上げ、相原を見るマヌエル少年。
 その傍らでハイドレートの燃えっぷりを自ら試す主治医氏。
 レムリアは彼らに順次目線を向けた。今起きているこの事象は、悩める弟があり、導く兄がおり、その父が見守っている、の有様に思えた。
 その男同士のやりとりこそは。
 薫陶って奴だ、レムリアは気付いた。
 男だからこそ解決する、出来ることもある。以前相原が言ったこと。そして今回、彼は自分の失敗がその領域に入ったと悟って、飛んで来たのだ。
 かっこいい、学、あんたかっこいい。
 医師が手袋を外し、口を開く。
「(学者になれというミスターニッポンの提案に僕も賛成だね。祖国へ還元というなら、成果を持ち帰って生かせばいい。メタンハイドレートはメタンと水だ。祖国の水不足解消に繋がる部分もあるんじゃないか?)」
 主治医は言って、白衣のポケットに両手を突っ込み、相原の隣に立った。
「ページめくり機と燃える氷は持ってけ。君にやる。でも言った通り食うと舌べろが凍り付いて腹の中で膨れるからな」
 相原はケースの蓋を閉め、丁寧に留め金を掛ける。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-31-

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 美砂が言った。駆け寄った犬らはそのまま彼女らの傍らに座り、さながら相槌を打つように時折尻尾を緩く振っている。
 命令待機、そんな風情。
「組長だらは、あなだだち3人を指定したらかね」
「いいえ当初私だけです。ただ、ご一緒させて頂く事を条件にしました」
「だったら、『知らずして呼ばう時、より大きな謀(はかりごと)の暴かれる時』さね。その書のどこかにあるはずだよ」
 水を向けられ、登与は古文書をくるくる進めた。
 初めての書物で、指先で触れないと読めないが、彼女には当然のようにここと判った。
「『隠されるにつけ込んで悪事働くものあり。悪事の故に秘は秘とされ明かされる時を待つなり』さらに、『知らずして呼ばう時、より大きな謀の暴かれる時』。なんか、ナマズは地震そのものでなくて、地震に引っ掛けて隠された何事か、という気がしてきました」
 登与は言った。
「地震は隠語って?」
「有り体に言えばそうですね」
「じゃ、この地震は?」
「元々多いこの地を選んだ。隠語に合わせるために」
 美砂と登与のやりとりを聞きながら、理絵子は“根底に存在する闇・穴”という印象を持った。何かしら裏の社会・秩序が存在し、そことの接点がこの集落で、対決の構図がナマズと犬神の戦いに象徴されている。
 そして、最後の戦いになった時、犬神側が複数になる。
「ハルマゲドン、みたいな」
 理絵子の意識を読んで美砂が言った。新約聖書の黙示録、描かれた天と魔との最後の戦いハルマゲドン。ノストラダムスの予言とくっつき、1999年に地球を襲う災厄がそれだと言われた事があるとか。
「大げさすぎるけどコンセプトは同じ、かもですね」
 登与が言った。そして。
「であるなら、この書の最後にこうあります。おとめ達犬神を伴い端境の……え?これ」
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-11-

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 メタンハイドレート(Methane hydrate)。
 高圧・低温の環境下で、メタンガスの分子が水分子に取り囲まれ、そのまま凍ったもの。シベリアの永久凍土で成長したのが有名であるほか、深海底でも見つかった。20世紀後半には、日本の太平洋岸の海溝沿いに豊富に含まれていることが判り、燃料として産業化が模索されている。
「(オナラの塊を食うかい?)」
 主治医はスカンクに遭遇したかのように鼻をつまんで見せた。なお、確かに“屁”の主成分はメタンであり、メタンガスすなわちオナラのニオイというイメージがあるが、屁の悪臭成分は別である。メタン自体は本来、無色無臭。
「(実際食ったら腹の中で膨張するだろうな。気体の圧縮だし)」
 主治医の問いかけ。
「おっしゃる通りです。溶けると体積は100倍以上になります」
 相原学の答え。
「(君は爆発しちまうぞマヌエル)」
 マヌエル少年は膝の上で燃えるハイドレートを見つめ、燃え尽きるまで見つめ、そのまま動かない。
 相原学は手袋を取り、ジュラルミンケースの蓋を閉めると、マヌエル君の前に座り込み、見上げて顔を覗き込んだ。
「レムリアから話は聞いた」
 相原学は言った。レムリアは彼女のこと。本名は別だが、マジックショーの芸名をネット上でのハンドルネームに使っており、相原も日常彼女をこの幻の大陸の名で呼ぶ。
「夢叶えられなくてゴメンよ。でもね、現代は本が読めてパソコン叩いて論文書けりゃ学者になれる。こいつは見た通り石油に変わる燃料として期待されているが、海の底から取り出すのは難しい。シベリアの土の中で凍ってる奴は温暖化で溶け出している。メタンの温室効果は二酸化炭素の比じゃない。温暖化が進めばもっと溶け出すし、蒸発したメタンに火が付けば、火を噴く氷なんて悠長なことは言っていられなくなる。確かに君の手足はとても悔しいと思う。だが、このように解決するべき課題満載。そして、人類の未来を背負うのに決して手足は必須じゃない」
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-30-

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「おめさんそれは……そうかえ、あんた達が……そうかえ。犬ッコどもは決まったかえ?」
 佐伯さんは温和に尋ねた。それは、彼女らがここにいる理由について、聞かずとも把握していることを示した。
「失礼ですが、佐伯というお名前は、伝承の末裔……」
「そったら大げさなもんでもねぇよ。昔っから住んでるだけだでさ……どこまで読んだだね」
 佐伯さんは、顔色を変えた。
 


 
 否、それ以上の劇的な変化であった。老いて見えた表情は経験豊富な成人女性の落ち着きと聡明さを備え、刻まれていた皺すら減ったかと感ぜられる。若返ったというか、覚醒したというか。
「ばあさん……」
 組長氏がたじろぐように声を出す。リアルタイムで見ていたら気付かないかも知れないが、タイムラグをもって佐伯さんの前後を見たならば、別人と感ぜられるであろう……それが組長氏の認識。
「ばあさん、じゃないよ。おまんら(お前ら)、この子達に失礼働いちゃおるまいね」
 一気に萎縮した空気が支配する。出て行けぶち殺せ以上の失礼も無い。
「まぁええよ。それでもこの子らは、どころか、わしを助けてくれたでの。その意味に気が付け」
「あ、へへぇっ」
 組長氏は唐突に土下座した。
 居並ぶ人々がそれに続いて膝をつく。
「みっともないとこ、ごめんなさいよ」
「あ、いえ。よそ者がいきなり中心に入り込もうとすれば、疑念を持つのは当然かと」
「別に気にしてません。みなさんもどうか」
 美砂と理絵子は言い、萎縮恐縮の人々に顔を上げてくれるよう促した。
「犬が味方に付く、ということですか?」
 理絵子は佐伯さんの言葉を受けて尋ねた。古文書自体は登与が指を走らせる。
「これかな?ナマズの大きさに応じて必要数の犬神が遣わされる。応じた数の法力使いの処女(をとめ)を揃えろ」
「だったら私たち3人ともってこと?」
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-10-

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「(おお、これだよ。ミスターニッポン)」
 主治医が差し出したのは分厚い手袋。相原学が彼女を通じて事前準備を依頼したもの。
 相原学はマヌエル君の車いすの前にジュラルミンケースを置き、留め金を外し、借り受けた手袋を手に嵌めた。
「(手に持てないほど冷たいのか?)」
 マヌエル君が尋ねた。
「マイナス25度。ドライアイス並だ。素手で持ったら皮膚が損傷してくっついてしまうよ」
 相原学はそう言いながら、ケースの蓋を開けた。なお、病院には多く液体窒素冷却されたサンプル等の扱いがあり、この種の手袋は珍しい物ではない。
 中の冷気に空気中の水分がサッと凝結して霧を生じる。相原がパタパタ追いやると、黒に着色された発泡スチロールの容器に、理科の実験でおなじみの三角フラスコが嵌め込んであり、その中に、〝氷〟が入っている。
 一見すると砕いた氷菓の如し。
「これが、火を噴く氷だ」
 相原学はフラスコを傾け、霧たなびかせるそれをコロコロと手袋に載せ、握り砕いて幾らかのカケラとし、その一つを持ち、少しそのまま置いた後、これまた主治医から借り受けたライターの炎を次第に近づけた。
「(おっ!)」
 ボッと音を立てて氷が炎を噴き、マヌエル少年が目と口を揃えて丸くする。それは固形燃料か、或いは角砂糖に点されたブランデーの炎か。
 文字通り氷が直接燃えるという状況を呈しながら氷は溶け、炎もろとも消えた。
 マヌエル少年は声も出ない。
「(判ったぞミスターニッポン。メタンハイドレートだ)」
 主治医が指をパチンと鳴らした。
「ざっつらいと」
 相原学は言って、手袋をマヌエル少年の腿に置き、もう一度そこで燃やして見せた。
「(それを食うのは医師として感心しないぞマヌエル)」
 
(つづく)

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新作ちゅーかその後の話なんだけど【レムリア】

「こんばんほ」
「ほ」
「あの後の話ね」
「うん」
「結局極東スタートのブランチあってもいいって結論になったけど、アルゴ号そのまんま持たすわけにも行かんじゃろうと」
「まあそうだね」
「んでね、宇宙航行機能を省いた『ミニアルゴ』作ろうって」
「なるほどね。でも陽電子どーすんだい」
「電池みたいにごっそり交換するタイプならいいだろって。コルキスで充電して、届けてもらって。カラッポを引き取る」
「理解した」
「じゃ、そゆことで。でも…もっと豊かな国だと思ったんだけどな」
「声を上げないから、見えてないだけ」

(仮)魔女が飛ぶのにほうきは古い 開始時期未定

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【理絵子の夜話】犬神の郷-29-

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 真言を掌に載せ、胸元に手技一閃。
 佐伯さんという老年の女性は、咳き込むと同時に、口腔より雪の塊を吐き出した。
 にわかにガタガタ震え出す。体温が下がっているので当然の反応。
「おお、気が付いたけ。さ、暖かいとこさ」
「んだんだ」
 背後に登与が来た。と理絵子は知った。
 言葉にされずとも伝わる。他に集落内で人的な影響はないとのこと。
 めいめい、外套や防寒着を一枚二枚脱いで佐伯さんにかぶせる。戸板の上に横たえ、男手で移動開始。
 美砂が倒壊家屋から飛び降りる。直後、やじろべえがバランスを崩し、ガラガラと大きな音。
 数十から数百キロの木材が動こうとするのを美砂は止めていたのだ。理絵子は知った。
 佐伯という女性を先ほどの建物、集会所に運び込む。
 囲炉裏の炎が一段大きくなったが、気付いた者は無いようだ。
 美砂は火をも操るのだ。発火能力をその筋の用語でパイロキネシスと言うが、それだけで表現できない自在さを彼女には感じる(と、テレパシーで美砂がぽつり。煽るだけ、着けたりは出来ないよ)。
「この子らが見づげでくれだども」
 佐伯さんが落ち着いたところで、組長氏は彼女らを引き合わせた。
 この出会いが重要な意味を持つのは考えるまでも無かった。佐伯というのは、その古文書に出てきた名前そのものだからだ。
「村の子(ご)じゃねぇな」
 佐伯さんは外見と一致しない、転がるような声で、3人に問うた。
「ええ」
「ごんな格好でごめんよ。組長に呼ばれたんらかね」
「ええ、先ほどこれを見せて頂いたところです。そこで地震が起きました」
 美砂は巻物を手にして見せた。その動作に組長が首を傾げる。何故なら、組長の記憶では、先ほどの“一揆”状態の時、組長自らが巻物を所定の場所に戻したからである。
 それを今美砂が持っている。すなわち、
〈テレポーテーション!〉
〈手品に近いよ。この位しか扱えないし〉
 この会話はテレパシー。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-09-

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 それは、彼女においても見慣れた情景だったが、いつもと違うのは、その足もとに、プロカメラマンが持ち歩くような、立方体に近い形状のジュラルミンケースがあること。
「(以上で終わりです。どうもありがとう)」
 3日後に誕生日というおばあちゃんに花束をシルクハットから取り出し、みんなでお祝いして会はお開き。
 自力で、或いは車いすや介護ベッドを看護師や助士が押して、めいめい自室や病棟に戻って行く。
 残ったのはマヌエル君と、彼女と彼と、マヌエル君の主治医の男性。
 この病院のイベントホールはドア壁で仕切っているわけではなく、ガラス天井から陽光が注ぐ、いわば〝屋内の中庭〟であるが、午睡タイムに入ったこともあり、行き交う入院入所者の姿は見えず、事実上彼らだけ。
「(え?え?)」
 自分だけ特別扱い、の雰囲気にマヌエル君はたじろいだ。ちなみに彼の車いすは彼女が担当してきた。
「(特別マジック)」
 彼女は言った。
「学(まなぶ)」
 学と呼ばれた日本の彼、相原学(あいはらまなぶ)が、傍らのケースを持ち上げて歩き出す。
「ぼんじゅうる」
「(日本から来ました)」
 彼女の通訳にマヌエル少年は目を見開いた。
 以下、彼女の通訳後の状態で記す。
「(日本のあんた、その持ってるものは……)」
「夜無き国から火を噴く氷を持って参りました」
「(なるほど、君が食いたいと言ってた奴だな、夢が叶ったなマヌエル)」
 主治医氏も興味津々。但し、氏がここにいるのは、マヌエルの不安定な心理を踏まえてのこと。彼女が事の次第を話したら、〝氷〟で心が溶けるのか見届けたいと同席を申し出たのだ。なお、マヌエルはフランス語、主治医はオランダ語である。
「あの、お願いしていた奴を」
 相原が何か主治医に頼み事。
 
(つづく)

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夜無き国の火を噴く氷【目次】

01 02 03
04 05 06
07 08 09
10 11 12
13 14 15
16・完結

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【理絵子の夜話】犬神の郷-28-

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 犬たちの注目は一点に集まった。そのやじろべえを成す梁の一端、中途で折れ曲がった引き戸の下。そこに人体が埋もれているのだ。
 次いで、固まった、という認識を理絵子は得た。
 美砂が念動力を行使したのであった。
「ここです」
 老若男女ありったけの人手で動かす。下を掘り下げ、部材を押しのけ、スコップをつっかえ棒の代わりに立てて空間を確保し、
〈少し動かすから〉
 美砂からテレパシー。タイミング良く引き出してくれ。
 美砂の髪が風も無いのにふわりと動く。
 彼女の能力がイエス=キリスト、弘法大師空海並に巨大であることはすぐに判った。が、彼女の能力行使は慎重を極め、必要最小限もいいところ。この作業だって本来なら彼女一人で事足りるであろう。
〈そうしないのは理由があるから。判る?向こう側の連中が集まって来ちゃう〉
 この意味の解説は略す。追って必要であれば記する機会があろう。
〈行くよ〉
 言下、倒れなかった部分から幾らか落下物があり、積み上がった梁や戸板が偶然の如く動き、やじろべえのバランスが変わる。
 理絵子は気付いた。
「今です」
「今ずら」
「けっぱれ!」
 男手を持って女性は引き出された。半分、雪に埋もれている。
 払いのけるが微動もしない。失神状態であり、皺深い顔は苦悶に歪み、乱れた白髪がまとわる。理絵子はその髪をのけ、頬に、首筋に手指を添える。体温と脈拍は……。
「病院さ行がねど……」
「だどもこの雪じゃよ……」
 その必要は無いと理絵子は知った。この女性は今、呼吸と心拍が極端に低下し、仮死状態にある。それは自分の知る密教的な束縛によるものと状況がよく似ている。
 であれば。
 理絵子は手印を結び真言を唱える。内容は伏せる。心身に強い衝撃を与えるもので、悪用すれば逆に危害を加えることにも使える。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-08-

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『えらい大はしゃぎだな彼は。……ああ、回路ったって、ロケットエンジンの燃焼系の回路なんだよ。燃料の性質知らずして燃焼制御回路作れるはずもないだろ?お前直接行ってこいと。まぁ君の悩みには解決の心当たりあるから、ついでに寄らせてもらうよ。じゃぁ決まりでいいね、タネの仕込みの指示をするぞ。まずその彼に……衛星写真で夜景を貼り合わせて世界地図に仕立てたのネットにあるべ、北朝鮮が真っ暗なやつ。アレの日本を見せてやってくれ』

Ee7b8bab
(アレの例)
 それが〝夜無き国〟に他ならないことに彼女は気付いた。
 ……日本から何か持ってくるのか?
『で、1週間待っててね、っと。その病院のマジックショーに設定してもいいぜ。手品みたいなもんだし』
 それは少し意地悪が見え隠れする口調。え、ちょっと待って。
「あの……それで火を噴く氷の正体って?……自分で訊いておいて悪いんだけど」
『教えてあげません』
 彼は勝ち誇ったように言った。
 からかわれた気がして、彼女はぶ~と膨れたくなった。が、そういう心理を抱いたことに少し罪悪感もあり。
『それは内緒ってことで。お前さん自身も知らない方が彼のワクワクも更に増すってもんでしょ。なんだ大したことない、って君が思ってしまったら、彼にも以心伝心するしね。ナゾはナゾのままに。たまにはオレにも魔法を使わせてくれ。じゃぁ追加あればネットで』
 彼は電話を切った。
 そして一週間後。
 〝魔女のレムリアのマジックショー〟は、昼食後の30分イベントとしてホールで開催された。併設のホスピスからも多くのお年寄りにも来てもらい、大いに楽しんでもらった。
 日本の彼はイベントの最初姿が見えずヒヤヒヤしたが、気が付くと観衆の後方に立ち、次第を見ていた。そこには面白がって見学に来ていた病院スタッフもいたのだが、彼は背の丈167センチの日本人であって、メガネを掛けてスーツ姿であることから、埋もれるでもなく探すに労するでもなく。表情を変えず、慣れた風に、観衆を驚かせる彼女を見ていた。
 
(つづく)

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