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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-16・完結-

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「無理して何か言わなくて良し。うまい店教えろ。タリスのバー車酔っ払いが占拠してて昼飯食いっぱぐれた」
 タリスとは件のパリ発超特急。真っ赤なボディでベネルクス各国を疾走する。バー車とはアルコールを楽しむバーカウンタを備えた軽食サービス車だが、日本では馴染みが薄い。
 相原はスキポールからここまで移動中の超特急で食事するつもりだったのだ。
「アムステルダムの駅カフェは?英語なら通じるはずだけど」
「ギリギリの便だったからね。下りて食ってたら間に合わないよ。だから移動中食いたかったのさ」
 いつもの会話。のんきな会話。この他愛もない会話をするのが自分は大好き。
 いつもの調子で喋れる現実にまた涙が溢れでて来て止まらない。以上、少なくとも判ったこと一つ。あたしこの人と会うの嬉しいんだ。
「オランダで急性花粉症になるとは」
 彼女は照れ隠しのように言って自分のハンカチで……下品だが顔中拭いた。
「オッサン臭い14歳だな」
「大人のたしなみと言って」
 一旦身体を離し、腕を絡める。
 相原のワイシャツが自分の涙でぐしょ濡れなのを見て取ったが、彼は知らぬ顔でスーツジャケットの前を合わせた。
「やい学、デートしてやるから奢れ」
「3時のおやつたからせて下さいお願いします学サマ、じゃないのか?」
「女に要求させるもんじゃありません」
 言われた通りに言う代わりに、そう言って舌をベッとやり、絡んだ腕に頬寄せる。少なくとも、この男に好きだと言われるのは不快ではない。
 というか、実際は面白がってる小悪魔かも知れない。自分の肘が彼の脇腹肋骨に触れているが、その向こうで彼の心臓がバクバクしているのを如実に感じる。傍目には、真っ直ぐ前を向き、自分が腕巻き付けているのを当然のような顔して……でも、歩幅を自分に合わせて。
 表面は妹のワガママを聞いてるクールな兄さん。でもその内面は炎そのもの。
 冷たく見えて、でも熱い。
 ああそうか。
 彼女は思い至る。
 夜無き国から火を噴く氷がやってきたんだ。
 メガネを掛けた無精ヒゲの食いっぱぐれが。
 少年と、自分のために。


 


夜無き国の火を噴く氷/終
 
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