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2012年7月

今後・2012年後半の予定

「夜無き国の火を噴く氷」はこれで完結であります。
引きつづき同じくレムリアの短い話「リトル・アサシン」を始めます。8/4スタート、毎土曜日更新
 
理絵ちゃん(犬神の郷)はまだ続きます。いつ終わるか私も知りません。完全に成り行き任せです。
 
そのあと、ですが

・レムリア「ミラクルプリンセス」
・エウリーの小さなお話「つばめは人家に巣を掛ける」
 
と、ここまで見えてます。ミラクル・・・は彼女の称号みたいなもので、長いお話です。毎日更新になる予定。
エウリーは理絵ちゃん終わった後になるでしょう。
 
引きつづきよろしくお願いします。

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-16・完結-

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「無理して何か言わなくて良し。うまい店教えろ。タリスのバー車酔っ払いが占拠してて昼飯食いっぱぐれた」
 タリスとは件のパリ発超特急。真っ赤なボディでベネルクス各国を疾走する。バー車とはアルコールを楽しむバーカウンタを備えた軽食サービス車だが、日本では馴染みが薄い。
 相原はスキポールからここまで移動中の超特急で食事するつもりだったのだ。
「アムステルダムの駅カフェは?英語なら通じるはずだけど」
「ギリギリの便だったからね。下りて食ってたら間に合わないよ。だから移動中食いたかったのさ」
 いつもの会話。のんきな会話。この他愛もない会話をするのが自分は大好き。
 いつもの調子で喋れる現実にまた涙が溢れでて来て止まらない。以上、少なくとも判ったこと一つ。あたしこの人と会うの嬉しいんだ。
「オランダで急性花粉症になるとは」
 彼女は照れ隠しのように言って自分のハンカチで……下品だが顔中拭いた。
「オッサン臭い14歳だな」
「大人のたしなみと言って」
 一旦身体を離し、腕を絡める。
 相原のワイシャツが自分の涙でぐしょ濡れなのを見て取ったが、彼は知らぬ顔でスーツジャケットの前を合わせた。
「やい学、デートしてやるから奢れ」
「3時のおやつたからせて下さいお願いします学サマ、じゃないのか?」
「女に要求させるもんじゃありません」
 言われた通りに言う代わりに、そう言って舌をベッとやり、絡んだ腕に頬寄せる。少なくとも、この男に好きだと言われるのは不快ではない。
 というか、実際は面白がってる小悪魔かも知れない。自分の肘が彼の脇腹肋骨に触れているが、その向こうで彼の心臓がバクバクしているのを如実に感じる。傍目には、真っ直ぐ前を向き、自分が腕巻き付けているのを当然のような顔して……でも、歩幅を自分に合わせて。
 表面は妹のワガママを聞いてるクールな兄さん。でもその内面は炎そのもの。
 冷たく見えて、でも熱い。
 ああそうか。
 彼女は思い至る。
 夜無き国から火を噴く氷がやってきたんだ。
 メガネを掛けた無精ヒゲの食いっぱぐれが。
 少年と、自分のために。


 


夜無き国の火を噴く氷/終
 
レムリアシリーズ一覧

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備忘メモ

病気に良くない 破壊 治せばいい カラスを追ったり 私たちが お願いがあるんですけど
グリーンランド溶かしたか

…さてこれがそのうちお話に化けます。どうなるかはお楽しみ。

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【理絵子の夜話】犬神の郷-35-

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「本来は向こうまで尾根が続いていた、かな?」
「それが崩れた。地震で」
 そういう認識の元に見渡すと、露わになった土砂の部分は風化しているようには見えない。向こう側の尾根下には地下水脈があったようで、断ち切られた水道管のように水が流れ出、谷底に達している。谷底の水流は更にその部位の雪と土とを溶かしたらしく、クレバスを形成し、その中に流れ落ちている。群馬県だと思ったが、吹割の滝を思い出させる。
「向こう側なの?」
 理絵子は問うた。犬の表情からして本来はそうだろう。
「これ降りて登って……急だなぁ」
「飛ぶ?」
 ギャグマンガのようであるが、美砂に関する限り、それはふざけているのでは無いことに理絵子は気付いた。
 彼女は恐らく飛べるのだ。その筋の用語でレビテーション・空中浮揚。だが蛇使いのコブラのようなひょろひょろフワフワした挙動ではあるまい。弘法大師空海、役の小角が可能であったと言われる自由飛行を意味しよう。
 が、しかし。
「いや待って。その、この新たに出来た地形は古文書の……」
「ああ、お股っちゃお股だね。降りようか」
「君たち……いい?」
 理絵子は犬に訊いた。対して、
 あなたに従います。それが犬たちの答え。
 いやちょっと待った。
 


 
 超感覚を備えた娘が3人も揃ってその時点まで気付かないとはどうしたことか。
 牙を剥き、唸る犬たちに促されるように振り返ると“何か”がいる。
 五体の造作は人間のようであり、しかし頭部中央に大きな目が一つ。鼻孔であろうか穴一つ。耳まで裂けた口には乱ぐい歯。顎の幅や形が上下で違う。結果かよだれがダラダラ垂れて荒い息づかい。
 全裸であり体毛薄いが平気なようだ。オスと見られ性的に興奮した状態。……但し、そこ、は人間のそれとは到底思えぬ、異様かつ巨大。
「単眼症(作者註:ネット検索するな)、巨人化し四肢先端肥大、ミュータントで超能力を備える……学術的にはそんな感じ?キュクロプスのいわれの元って感じ」
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-15-

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Schiphol
(スキポール空港・読者様ご提供m(_ _)m)
 
 オランダの空の玄関、国際空港スキポールはロッテルダム近郊にある。
「火を噴く氷って税関でガーガー言われなかった?」
 カマ掛ける。掛けてからズキッと胸が痛む。どうして正面から訊けない自分。
「いんや。こっちの現地法人に高圧凍結で作らせたものだから。人造だよ。宇宙に燃料持ってく際の保管形態候補」
 相原学は声音を変えずに言った。ならいい。だったらいい。本当に出張だったなら。
 自分の爪の力が強くなる。痛いだろうなと思うが力が抜けない。抜くことが出来ない。逆にいっそうかじりつくような状態。
 ただ、相原は身じろぎもしない。
「私あなたに頼りすぎてる。だからって私、あなたに残酷なこと言わせようとした。サンタなんかいないんだよって話をあなたに押しつけようとした」
「君は何でも一人で解決しようと思いすぎてる……否定じゃない。大人なら当然の心理だ。習い性ってのもあるんだろうけどさ。でも、もっと堂々と利用してくれていいんだぜ。チームで解決するってのも大人のミッションのスタイルだし、その、パートナーのコミュニケーションだと思うし」
 付け加えた言葉のちょっと照れて。心臓の音が良く聞こえる状態なので、リズム変わる程のドキドキは良く判る。
 彼の気持ちは炎。
 自分に対する気持ちは炎。
 それは知ってる。そして居心地はいい。ただ、肯定も否定も返したことはない。
 出会ってどのくらいになるだろう。
「でも……私がちゃんとマヌエルに話していれば……話さなくちゃ」
「言える性格か?言ったら逆に君じゃないだろ」
 その言葉に、レムリアは自分でも驚くほど身体がびくりと震えた。
 顔を見上げたいが涙ぐしゃぐしゃ見せたくないので目一杯ワイシャツにしがみつく。
「むしろ電話してくれてオレもエエカッコでけたな、そんな認識。ただ、次は切羽詰まる前に電波飛ばしてくれ」
「物わかり良すぎ」
 ワイシャツの中で声が籠もった。嬉しいが悔しい。
「オレお前好きだもん。好きな女に全力出して文句あるか」
 相原は言うこと言って彼女を、しかしそっと、腕の中から解放した。
 姫君を城に返すように。
「あの……」
 彼を見上げる自分の顔が涙だらけなのは判ってる。
 
(次回・最終回)

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【恋の小話】カエルの子はかえう

 夏になって、カエルが鳴くと、いつも思い出す心残り。
 小学校最後の年、好きだったあの娘に「プレゼントだよ」とウソ付いて、顔にカエルをくっつけて泣かせた。
 悔しかったから。
 ずっと、ずっと、オレと仲良しだったのに、急にあいつと喋るようになったから。
 悪いことしたかな、とちょっと思った。カエルが嫌いなこと、もちろん知ってた。
 親に言いつけるかな、そしたらオレ怒られるな。そしたら、謝ればいいや。
 でも、何も言われなかった。だから、謝るタイミングを失った。
 そのまま、何も喋らないまま、オレは卒業し、引っ越した。
 後悔したのは、ずっと、ずっと、後になってから。
 傍らにいつも長い髪の毛が眠るようになってから。
 辞令に懐かしい街の名前を見た時、オレは最初にあの娘の所に行こうと決めた。散歩してくるから……よちよち歩きの手を引いて連れ出した。
 過ぎた時間は長すぎた。知らない道が出来ていたし、知ってた田んぼはもう無かった。
 公園も遊具がすっかりボロボロにさびていた。この向こう、そう思った時、公園と判った子どもが走り出した。
 砂場で遊ぶ知らない子。一緒に遊ぼう、オモチャ貸して。おいおい。
「ああ、ごめんなさい、いきなり」
 オレは保護者と思しき若い女性に頭を下げた。
「いいえ構いません。……私も小さい頃近所の男の子にやられました」
 その笑顔。あれ?まさか。
 すると。
「かえう」
 砂の中から、緑色のアマガエルを見つけたのはウチの娘。
「パパ、こえ、こわがるひともいるんだよね」
「えっ」
 目を丸くしたのは若い女性。ああ、やっぱりそうだ。
「そうだな。パパ小さい頃、仲良しだった女の子の顔にカエルくっつけて泣かせたことあるんだ。でも、ごめんなさいっていうの忘れちゃってな」
「でも、その女の子は、その時の経験のおかげで、大きくなって生まれた男の子と、一緒にカエルで遊べるようになったんだって」
 どうやら、うちの子に最初の友達が出来そうだ。
「パパ、ごえんなさい、は?」
 はい、ごめんなさい。

 カエルの子はかえう/終

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【理絵子の夜話】犬神の郷-34-

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「富士山ってカルデラ……」
「じゃないコニーデ。カルデラなのは箱根山。でも遠すぎる」
「君たち、何か知ってる?」
 理絵子は犬らに問うた。それは息詰まった議論のガス抜きを狙ったギャグのつもりだったが。
「普段、どこにいるの?」
 それが解決の糸口であると、質問を発してから知った。
 犬は穴居民族だからだ。
 走り出す彼らについて行く。それは西でも東でも無く、北の方。雪崩で塞がれたとされる方だ。途中、三角コーンやら並んだ急ごしらえの通行止め柵があり、そこから先で雪崩が生じたと判る。
 犬たちはその柵を越えて分け入る。方角は正確に真北のようである。
 何か意味があるのだろうとは思う。雪崩のせいか雪が周囲より減少している、全層雪崩であったらしく、ところどころ地肌が覗いている。それは変なたとえだが、表面のクリームだけ舐め取られたケーキのような状態。
「雪崩が起きてたら行くのを避けるだろう。普通、隠すとしたらそういう場所だもんね」
 美砂が言った。だとすれば、雪崩は意図的、ということになるが。可能なのか?
「故意の雪崩、あり得るでしょ。大きな音を立てるな、とか、足跡が切り取り線みたいになってそこから崩れた事故とか、そんな推理ドラマのトリック、聞かない?」
 登与が言った。あり得ることだろうが、故意となると信じがたく思えるのは、推理ドラマという奴が嘘くさいからか。
 結論さておき雪崩によって切り取られ、雪の断崖とでも称すべき状態の場所を犬と共に歩く。ほぼ尾根の上であり、雪崩は斜面全体に及ぶ大規模なものであることが見て取れた。
 程なく、犬が立ち止まった。
 こちらを振り返り、指示待ちというか、困ったような。見れば行く手の尾根線は途切れており、大きく崩れ落ちてV字状の谷になっている。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-14-

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「さて、飯でも食いに行くか?」
 車いすを見送り、そのままストップモーション状態のレムリアに相原が言った。
 彼女は振り返って彼を見る。ポケットに手をしたメガネの顔はいつもの笑顔である。
 ちょっとヒゲの目立つ。
 その姿がゆらりと歪む。
「おおどうしたいきなり。メタン目に飛び込んだか?」
 おろおろという口調で自分に手を差し伸べる相原の腕の中に、レムリアは逆に飛び込んだ。
 泣く。
 中から沸き上がる衝動に任せて泣く。自分でもどうしたかと思うくらい大声で泣く。
 爪立ててしがみついて泣く。もう幼女に戻ったように。
 相原が狼狽えたのは、レムリアの目から突如涙があふれ出したのを見たから。
「……さい」
 〝ごめんなさい〟と言いたいのだが言葉が紡げない。
「……っぱい、……したのはあたし……のに、あなたに……押しつけ……」
 〝失敗したのはあたしなのに、解決をあなたに押しつけた〟
 どうにか言葉にしようとするが、それよりも何よりも、
 そんなことどうでも良くなった。
 爆発するように涙と泣き声が止まらない。みっともなくて情けないが、それよりは全部出してしまいたい。
 相原が自分を抱き止め、周囲から隠すように両腕でキュッと締めたと判った。
 そのまま身を預ける。抱きしめられるのは何度目か。彼が自分に好意以上の好意を抱いていることを知っているが、それを当然のように思っている自分を確認する。その立場に甘えている自分を知っている。
 知っている。そう、だから、頼った。
 何とかしてくれるだろうと思って、窓際から電波飛ばした。
 寄りかかっている自分と、支えてくれる彼と。
 この状態が当たり前で、居心地がいい。
「……ごめんなさい」
 どれほど泣いたか時間の感覚がない。どうにか苦労して出した声は干からびていた。
 対し特に言葉はなく、ハンカチが出てきて目の下を拭う。
「どうせありもしない話だと思って、でも、彼を落胆させたくなくて。だけど、ウソは付きたくなくて」
 ゾッとする思いが浮かぶ。まさか学の出張なんて実はウソで、ただこれだけのためにジェットで半日1万キロ飛んで来た……。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-33-

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 理絵子が笑って見せたら、犬は一つ吠えて尻尾を振った。各々、傍らに控えて立つ。送り狼という言葉があって良からぬ意味に使われるが、実際はこうしたボディガード犬の事だったのではないか。……犬神明の話で読んだが、その通りという気がしてくる。
 出かける準備。白い死に装束にわらじ履き。
 持ち物は錫杖(しゃくじょう)一本。お地蔵様が手にしている多数円環の付いたあの杖だ。3人で一本。代表して理絵子が持つ。
〈美砂姉が持っても……〉
 この杖はオカルト面では超能力の指揮棒だ。当然、最大の力を持つ美砂が適すると理絵子は思ったが。
〈だめだめ。私のは機序が違うから。何て言うかな、あなたが密教なら私は魔法〉
〈北欧系の魔神さんに九字切ったことあるけど〉
〈私が適当に杖振り回したら特定の起動コマンドになりました。じゃヤバイでしょ〉
 見送られて出発する。この集落には3箇所から入れる。理絵子達が越えてきた尾根。集落脇を流れる川の下流から、そして上流から。組長らが来たのは上流ルート。但し雪崩で潰れた。とりあえず足を向けたのは西側。その理由。
「道無き道の西側尾根に入り口?」
「普段出入りしないとすればそこだけど……キーワードが原点始まりなら西より東でしょう」
「東には祠があったし」
「でも、地形が……お股に似てた感じでは……」
 ちょっと躊躇。何か悔しい。無知なおぼこの無駄な恥じらい、みたいな。
「逆に考えると、どんなのが似てる?」
 女の子3人で何の議論だか。
「カルデラ。外輪山と内輪山」
 美砂が言った。
「真っ赤な血が出て大地が出来て行く。私個人は神話がセクシーなのはそういうのの反映じゃないかと」
「じゃぁ、火山?」
「近場はあの人」
 登与が指さしたのは富士山である。地理的によく見える。
 
(つづく)

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【魔法少女レムリア短編集】夜無き国の火を噴く氷-13-

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 マヌエル少年は〝父〟と〝兄〟の発言を交互に見つめた。言葉の意味は判らなくても鼓舞しているとは気付いているようで、レムリアが訳す前にその瞳が輝き出す。
 それは、その輝きは電球、炎……否否。
 星の誕生。
 無秩序のように見えたガスやちりが、何かのきっかけで集まり集まり凝縮して渦巻き、融合して熱く明るく輝き出す、その機序は、輝きだしたその姿は、星の誕生そのもの。
「(図書館行くか?付き合うぞマヌエル。コトバのヘタクソは勘弁してくれよ)」
 主治医はニヤッと笑って言った。ややたどたどしいフランス語。最も、オランダは相原の乗ってきた超特急がパリ発であるように、ベルギーを介してフランスとつながりがあり、バイリンガル、トライリンガルは珍しくない。
「(この身体でも……祖国に貢献……)」
「(当然だ。君は原始人でも野蛮人でもない。身体的ハンディキャップは機会の不利を意味しない)」
 主治医は言った。
「日本に来たらアキハバラ行こうぜ」
 相原学はニヤッと笑って、午後のひげ面の顎をポリポリ掻いた。
「(あ、うん!行くよオレ日本に。ありがとうミスターニッポン。先生、図書館連れて行ってくれ)」
「(請け合った。魔女っ子ちゃん、彼を借りるぜ)」
「(判りました。お願いします)」
 レムリアに断りを入れ、主治医はハイドレートのジュラルミンケースをマヌエル君の腿に乗せ、車いすを押しながらイベントスペースを後にした。
「(ここに人類の課題が入ってる……誰も解決できてない問題が入ってる……なぁ先生、オレもっと勉強したい。そうだよな、手が無くても足が無くても勉強できる。国で一番になって……)」
「(国?セコいこと言うな。世界一の宇宙物理学者は、病気で手足どころか声も不自由だぞ……)」
 〝父と息子〟の会話が次第に遠くなる。
 
(つづく)

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【理絵子の夜話】犬神の郷-32-

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 そこで登与は読むに詰まった。美砂が代わって、
「ああ、女陰口(ほとぐち)。子ども産まれるところさね。そこに入れと。昔の人は地形を人体に例えたから、多分、そんなような窪地(あち)か穴でしょう。溶岩風穴を女体入り口とか呼ぶでしょ。同じ」
 美砂は表情一つ変えず、どころか“ずけずけ”という印象すら持つ歯切れの良さで説明した。比して、14歳おとめ端くれとして頬赤らめて然るべき言葉が飛び交ってるな、と理絵子は思った。が、そうならない重い理由がそこに隠れていることにも気付いた。
 何故なら、そういう命名は言わずもがな“原点”を暗喩するからだ。日本の神話で最初に書かれるのは男女の逢い引きと性行為である。この巻物の依拠を神話に取るなら、同等の高位の意図がこの地に隠されていることになる。
 ああ、という納得感と共に、それで正しいと理解する。古の神社に連なる伝承、日本武尊を彷彿させる物語、シンクロしているではないか。
「行きましょう」
 理絵子は言った。しかし。
「女陰口がどごがわがんねんだ。書いてねぇべ?」
 佐伯さんがため息。
「おめさんらが探して見つけろってことだが思うがよ」
「でしょうね」
「この雪だ。どうしたもんだが思うだよ」
「あのー、佐伯のばば様よ」
 組長が呼んだ。
「雪ならこの娘ゴだち問題ねぇべと思うだよ」
 あの小技を披露しろということだ。彼女達は気付いた。
 めいめいスニーカーのまま積雪の上に立つ。
「これは……」
 居合わせた人々は一様に驚いて見せたが、当の佐伯さんは特段顔色を変えるでなく、ただ、ゆっくり頷いて笑みを浮かべた。
「頼んでいいらかね?」
「ええもちろん」
「ほっだら、任せた。その犬コたちはそれぞれおめさん達の守り犬だ」
「よろしくね」
 
(つづく)

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備忘っちゅーかメモちゅーか

妖精エウリーの小さなお話
・つばめが巣を作るわけ
・夜はお任せ
・(仮)食わせる者が食い物にする

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