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2013年3月

【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-059-

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「その説明の前に論より証拠、これを……ちょっと失礼、ご覧頂けるかな」
 理詰めには実例と権威で……ということであろうか。営業マン氏はやおらスーツとワイシャツをめくると、自らの腹部を露出した。
 そこには傷がある。胃袋の斜め下、位の場所であろうか、1本筋で、筋の両脇には赤黒い点々が幾つか並んでいる。手術で縫合した痕ということであろう、指でなぞって見せる。
 次いでその指を黒革カバンに入れ、診断書と書かれた紙を、王の勅令でも扱うように恭しく取り出した。
「お嬢ちゃんならそれ読めるわけだよね」
 営業マン氏が出したそれをレムリアは受け取った。営業マン氏の表情は、さながらジョーカーを切ったディーラーのように得意げ。
 対しレムリアは手術痕と診断書を数秒ずつ見た。
「だから?」
 答えはこれ。
「は?……なんだお嬢ちゃん読めないのかい……」
 営業マン氏が浮かべた勝ち誇った表情……が次の瞬間凍り付く。
「Duodenal Ulcer……十二指腸潰瘍ってのは判りました。迅速ウレアーゼでピロリが出ましたと。ピロリ腹に抱えてること自体は不思議じゃないんですけどね。治ったですか。よかったですね。で?これが彼女の目と何の関係があるんですか?」
 レムリアは診断書を、不要チラシでも扱うように指先でビシバシ弾いて文字通り“指弾”した。
 徐々にシワが増えて行く診断書を相原が上から覗き込む。診断書に書かれた医院の住所が代々木駅至近であることに失笑。
「あなた、何か疑問でも?」
 営業マン氏はアウトローの目を相原に向けた。
「いいえ、ただ、ピロリで十二指腸潰瘍になるのと、Hib(ひぶ)とが何で同じ土壌で語れるのかと」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-058-

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「私そんなキノコ食べてませんよ」
 レムリアはいきなり言った。
「え?」
 母親がとまどいの表情。その時、レムリアの目は怖いという印象を与えたかも知れぬ。
「姫ちゃん」
 明るく応じる声がし、由利香ちゃんが壁づたいに奥から出てくる。レムリアは彼女が来るのを待ち、一声掛け、その手を取った。
 続いて一人残されては無意味か“押しつけがましくないテレビショッピング”が、黒い革カバン片手に、営業スマイルを浮かべ、やってきた。
 オールバックでスーツの男。そのオールバックはピッシリとセットされている。
「あなたがそのお友達ですか?」
 口の端にしわを寄せ、ニッコリ。
「私そんなキノコ食べてません。勝手なこと言わないでください」
「これは参ったなぁ」
 ロボットのように笑う。男は口元こそ笑みの形を作っているが、放つ目線が凍るように冷たく、彼女を小馬鹿にしているのが見て取れる。フン、小娘が。そんな感じであろうか。
 再掲だが、“とげとげしさは、幾ら表情や口調を繕っても隠しおおせるものではない”。
「キノコなんかで治るわけがない。馬鹿馬鹿しい」
 レムリアの吐き捨てるようなそのセリフは、営業マンからスマイルの仮面を奪った。“カモの客”の面前で、見知らぬ小娘に露骨に馬鹿と言われては、反撃せざるを得ないであろう。
「おい君……」
「効くというならキノコに含まれるどんな成分が体内でどう変化してどこの器官や細胞にどう作用するのか明確に述べてください。あなたがおっしゃるように彼女のような症例で作用するというなら医学界が見逃すはずがない。ノーベル賞級の仕事ですからね」
 レムリアはたたみかけるように言った。だが営業マン氏はこの程度の問いかけは想定内であるらしく、怒りの表情から慇懃無礼とも取れる笑みに遷移し、ニヤニヤ。
「キノコがクスリのように作用するわけではありません。気功との併用で身体の持つ自然治癒力を高めるのです。判りますか?しぜんちゆ」
 聞き分けのない子どもをあしらう……営業マン氏の態度行動が、そういうスタンスであることは説明するまでもあるまい。
 対しレムリアはその黒々とした瞳でまっすぐに見返した。
「膝小僧すりむいて、そのキノコと気功を使うのと、ツバ付けてなすっておくのと、どちらが早いか試しましょうか?それで?自然治癒を主張するからには彼女の視力がそれで回復するという根拠があるわけですよね。だったら教えて頂けますでしょうか。現状所見、すなわち視力が失われている理由とその根拠。及び自然治癒によってどの細胞器官がどう変化して視力が回復するのか」
 営業マン氏のスマイルが徐々に正体を現してくる。目の前の少女が単なる小娘ではないと気づいたようだ。瞳孔がアウトロー特有の様相、刃のような鈍い銀色を帯び始める。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-057-

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 その後食事が運ばれたが、母親は父親と付き合っていた時代、いかに当初父親が頼りなくて、自分が小悪魔になって夫を鍛えたか、こんこんと解説した。レムリアは笑いながら、一切れ1200円の西京焼きをおいしく食べた。たかだか魚の切り身に1200円。含まれるタンパク質が何か特殊と言うことはあるまい。この価格は文字通り“おいしく”食べるためのコストなのだ。食べること自体は当たり前・当然という前提の元、それを楽しむ方面が有料化した物である。
 味のためにカネを払う。そういう余裕が日本にはある。
 つくづく平和な国だとレムリアは思った。同じ気配を相原や、彼の好きな街秋葉原にも感じる。平和ボケとののしるなと相原は言うが、その安心感がとても心地よい。平和ボケ上等ではないのか。
 思い出し笑いをするように、ひとり微笑むレムリアの隣で、相原はレアの和牛をつついていたが、美味であったかどうかは、定かではない。
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-7-
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 翌日。
 マジックショーは3時の約束だが、由利香ちゃんの家から誘いのメールが入り、二人は昼食に間に合うような時間に出かけた。曰く、前日に電車の中でレムリアが発揮した“気功”の能力が絶大であり、彼女の母親が話を聞きたいという。
 駅前の100円パークに車を止め、店を訪れる。
「ごめんください」
 引き戸をガラガラ開けるが反応無し。売り場には母子どちらの姿もない。
 奥の方から声が聞こえる。
「……別に」
 由利香ちゃん。つまらなそうというか、機械的な応じ方。
「気功の方は、どうですか?」
 ソフトな感じの男の声である。“押しつけがましくないテレビショッピング”相原はそんな感想を抱いた。
「……全然。こう言ってはアレですが、私の友達の方がすごいです。体中が温まります」
 その声音は急に力を帯びた。
「ほう、ではその方もこの……」
 男はナンタラというキノコの名を口にした。その友達……レムリアも食ってるから気功の能力があるのだという。
 これにはレムリアが瞠目。
「ほう」
 相原がぼそっと。そして腕組みして。
「典型的な健康詐欺だ。キノコ屋と気功屋が結託しとる」
 そのセリフに、レムリアは相原を見上げ、次いで声のする方を凝視した。それがあっちで行われていること?
 相原は頷いて見せた。由利香ちゃんの目にかこつけて、効きもしないキノコを売りつけ、気功に通わせるという手口だ。
 ハンディを食い物にする卑劣行為。
 果たしてレムリアは少しの間凝視した後、ゆっくりと頷き、動いた。まず、開けた引き戸を大きな音が出るように強めに閉める。
「こんにちはー。由利香ちゃん姫子だよー」
 程なく、母親が奥から現れた。
「どうもどうもごめんなさいね。お客様が見えてて……」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-056-

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 レムリアはぺこっと頭を下げた。
 今の彼女の素直な気持ちであろう。ただいわゆる恋心とは少々ベクトルが異なると思われる。相原に対する彼女の気持ちは明らかに依存の比重が高く、それはむしろ兄や父に対する感情に近い。
「だってよ学。こらこっち向け」
 相原は応じない。が、どぎまぎしている顔が障子ガラスに映っている。
 母親はレムリアに目を戻す。
「遊びに来るのは全く構わない。合い鍵を渡してもいい。あなたはいい子だ。でもひとつ、条件を出していいかい、姫さん」
 母親は言った。
「……ええ。はい」
 レムリアはまっすぐ母親を見返す。
「小悪魔でいなさい」
 母親は言い、狡そうに笑った。
「は?」
「少なくとも私の知る限り、この変態商品が家に女の子を連れてきたことなんて、宇宙創生138億年間で刹那の一瞬たりともない。ちょっと進みそうかな思ったこともあったけど、フラれてぴーぴー泣いてたしね。要するに頼り切れないんでしょ。親の私から見てもこいつ甲斐性無いからね。寄りかかって安心出来そうに見える?ないでしょ?針の先のダニの糞がいい勝負。
 だからツレなくして、徹底的にツレなくして、コイツが持っているであろうオンナに対する幻想と思いこみを徹底的に否定してやんなさい。優しくすると、つけあがると思って」
 フラれて泣いて甲斐性無し……さすがに相原が向き直った。
「そこまで自分の息子否定するか?普通」
「就職おめでとう。でも研修生の分際で何を言う。偉そうなことは親の巣に居候してないで、一国一城の主になってから言うもんだ。彼女は自活している。人の命を助けるという技を身につけている。あんたはどうだ。以上」
「ぎゃふん」
 擬態語を発し、拗ねて後ろを向き、タタミのケバを毟り始めた相原の背中に、レムリアは笑った。
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(つづく)

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【恋の小話】ポラリス(6・終)

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 プログラムは佐藤の予想通り、ベツレヘムの星有力説の幾つか紹介とシミュレーション投影。
『あなたが東方の三博士だとしたら、どれをイエスの誕生と考えますか』
 どれも望遠鏡で見たら素敵だろうな……で、この流れ。
「正直言うとさ」
 オレは猛勉強したことを話した。
「だから、佐藤は、オレが今日誰とプラネタリウムに来てるか知ってる」
「そっか……」
 さくらちゃんはキャラメルマキアートどうたらこうたらが入ったマイマグカップをテーブルに下ろした。
「ごめんな。誰にも秘密って……」
「いいよ。むしろ反省すべきは私の方。私佐藤君振ったんだよね。率直ダサいし。星見るのいいけどコイツと一緒とか想像したくねぇって。ひどい女だよね。男の子をアクセサリー扱いしてるってことだもんね。いいよ軽蔑しても」
 オレは冷や汗が出てきた。同じような見方はオレも女子に対してしてるので大きなことは言えない。
 それよりも、佐藤は全て知ってて、それを黙ってオレに天文学の面白さを。という事実。
『頑張れよ。知ったかぶり言う時は「記憶が違ってたらアレだけど」って最初に言うんだぞ……』
「あいつは、そんなこと一言も言わなかった」
 オレは、それだけ言った。
「え?」
「だから大丈夫。あいつが黙っていたこと。教えてくれたこと。それをムダにしないのがオレ達のあり方だと思う。悪いけどオレ知らないこといっぱいあるし、オシャレなデートとか雑誌やドラマみたいに出来ない。でも、その代わり一緒にそういうこと考えて行けたらいいなって」
「私たちの行動基準ってことだね。賛成。探してこ、北極星」
 オレ達うまく行く。オレは確信した。
 そして、佐藤と親友であり続けるだろうことも。
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ポラリス/終
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恋の小話一覧

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-055-

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 ちなみに、二人が出会った真のきっかけ、及び秋葉原までの一部始終は、彼自身が物語の形にまとめているのでここでは触れない。なお、レムリアの入院はこのときの銃撃に伴うもので、ぶかぶかパジャマも、納豆たまご御飯の作り方も、入院中の出来事である。
「そういうことかい。じゃぁそのなんだ、あの頃こいつ足繁く通ってたのは秋葉原じゃなくて……」
「ええ。多分」
 微笑するレムリアに、母親はゆっくりとため息をついた。
「背景は理解したよ。でもね。……学こっち向きな。あんたも聞くんだ」
 相原は不承不承という感じで向き直った。
 そこで仲居さんが現れ、先付けを置いて行く。
 仲居さんが下がった。
「でもだからって、義理に感じてこんな所まで来ることはないよ。言ってる意味が判るかい?」
 母親の言いたいことは、“命の恩人”の見返りとして、息子の頼みを無理に聞いてやっているのではあるまいね、ということ。
 レムリアはやや目を伏せると、しかし唇の端に小さな笑みを刻んで、首を横に振った。
「なんだかんだで楽しんでるんです。私。学さんと一緒にいるの」
 相原は再び後ろを向いた。
 瓶入りウーロン茶を瓶のままラッパ飲み。
 バカである。
 レムリアはそのバカを横目でちらりと見、そっと口を開く。
「王女の時であれ、一人暮らしの学生の時であれ、救助隊活動であれ、コッカのタイメンとか、生活の組み立てとか、人の命とか、何もかも自分で考えて、決めて、動く、ということばかりやってきました。
 でも、この人と出会ってそれが変わった。
 前を見れば手をさしのべて待ってくれている。困ったら選択肢を用意してくれる。
 自分を判ってくれてるなって、すごく気が楽になるのを感じました。
 寄りかかってる自分がいるんです。居心地がいいんだと思う。
 だから、だからもしご迷惑でなかったら、時々遊びに来させてやってください」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-054-

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「んなもんだからさ。姫ちゃん来た時、あなた隠し子って言ったけど、ホントそんな気分になったよ。それで?こいつ後ろ向いてるようだから、聞かせてもらおうかい?“なれそめ”をさ」
「バカこけ」
 そう言う相原の背中に笑いながら、レムリアは“そもそもの始まり”を口にした。
「昨年、某超大国の軍事コンピュータが不正情報操作をされ、迎撃ミサイルが多数発射されるという事故がございました……」
 それは国防総省の防空コンピュータシステムが、強い電磁波(と、報道されている)によってハッキング、ありもしない弾道ミサイルに対して迎撃したという事故である。端的には核ミサイルが世界中……とりわけ旧冷戦時代の共産主義諸国にばらまかれた。
「ああ、あったねぇ。さすがに死ぬかと思ったけどね」
「某国はミサイルの自爆や破壊を試みました。幾つか失敗しましたが、これに欧州より超高速宇宙船を派遣、全ミサイルを追尾処理して事なきを得ました。しかし、某国は、高速宇宙船を事件の主犯として攻撃に出ました。何か罪をかぶせようとしたようです。船は最終的に東京秋葉原に不時着、マスコミを前に真相を公開して某国の間違いであると判るわけですが、その直前に高速船の乗組員が一人撃たれます。それが私です」
「ああ、あれテレビで見てたよ。……そうかい、あの時撃たれたのは姫ちゃんだったんかい」
「ええまぁ。それで、その場に居合わせたこの歩く変態商品さんに助けられて輸血までしてもらってと。そういう次第です」
 レムリアは、その時他ならぬ変態商品も一緒に船に乗っていたことは話さなかった。
 そのきっかけとなると、やや超自然的な要素を含むからであろう。一方で相原がちょうどその時秋葉原にいるのは何ら不自然ではない。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-053-

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「そういえばお父様は?」
 レムリアはハッと気付いたように座卓を見回し、箸でも数えたか、訊いた。
「死んだ」
 相原はあっけらかんと言った。
「は?……」
「ああ話したことないもんね。君が信濃町退院して少しだったかな。交通事故。夜遅く横断歩道歩いていて信号無視の酔っぱらいに突っ込まれた。よくあるパターン。折角難病治してこっちはポカーン」
 相原は人ごとのように喋った。レムリアの瞳から、見開いたままの瞳から、頬を伝う雫がひとつ。
「おいおい」
「ごめんなさいあたし……だって私の入院先に信濃町を選んだのはそもそもお父様の難病を治したからって聞いてたから……」
「いいんだって。そら直後は相当応えたよ。でも母親にとって俺しかいねーんだって自覚がそんなもん吹き飛ばした。男って失恋には女々しいが、こういう方面は逆に冷徹かも知れんね。変な話だけど、太古、部族間で闘争を繰り返していた時代には、いちいちメソメソしてる暇ないもんな。その遺伝子かな、と思った。背筋を伸ばして大学を卒業し、無事就職しましたとさ」
 レムリアは涙をぬぐいながら笑顔を作った。相原が本当に父の死を引きずっていないと理解したようである。
 母親が戻り、涙目のレムリア発見。
「……我が子息は私がいない間に姫ちゃんに何かする癖があるようだね」
「アホぬかせ」
「すいません。お父様の話を伺ったもので」
 レムリアのセリフに、母親は小さく笑った。
「そうだったのかい。泣いてくれたんだ。ありがとね。でも、私らは大丈夫だよ。男の子ってね、一瞬で父親になるんだ」
「よせやい」
 相原は言い、ウーロン茶のグラスを片手に後ろを向いた。
「照れるぜ」
 外を見ながらぐいっとあおる。
 バカである。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-052-

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 仲居さんが飲み物の希望だけ先に聞いて下がる。アルコールを飲む者は無いので、全員ウーロン茶。
「実はさ」
 相原は意気揚々とメニューを選ぶ母親を呼んだ。
「ん?な~に?」
「俺ら友達の家でホットケーキたらふく食わされとんねん。晩飯ごちそうだからって断るわけにもいかんやろ」
「え?あらなんだそうなの?」
「なもんで、俺ら二人でひとつでええわ。味わうにはそれで充分だし」
 結局相原が最後に和牛ステーキの付くコースを頼み、レムリアは魚の西京焼きとご飯にみそ汁を単品で注文した。
「ちょっと失礼するね」
 母親が中座する。
「ごめんね、わがまま」
 母親が建て屋の外へ出たところで、レムリアが言った。厚意を無にしたと気にしているのである。しゅんとしたその姿は、輝くほどに元気な普段とは別人のよう。
「ん?ああ、気にしなくていいよ。『高い店に連れてきた』それだけで母親的には充分目的を達したから」
「そうなの?」
「そうだよ。テーサイとミエってやつさ。気になるなら俺のをちょこちょこつまむといい」
「ふーん……」
 レムリアは言い、少し考え。
「判った。あなたがそう言うなら、そういうもんなんだって思うことにするよ」
 小さく笑顔。
 相原は頷いた。
「そう思ってていい。母親的には突然娘が出来たみたいで喜んでるんだよ。何せ息子がどんどんひねくれて行って、子どもから毛の生えた別の何かに変わってしまったわけだからね。可愛い娘に悪い印象持たれたくないわけ」
「わかった」
 レムリアは今度は目から笑った。
 ウーロン茶を一口。
 相原も一口含んで。
「しかし母親……ごめんなぁ。君に何かかんか構いたくてしょうがないんだよ。俺の方が居候みたいな気分だわ。娘を得たら穀潰しなんかイラネ、だけど父親的用途という役目があるから、家にいさせてやるか、みたいな」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-051-

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「何かすごそうなんですけど」
 レムリアはクルマから降りながら、恐る恐るといった感じで言った。
「ここはね、山を丸ごと買い取って、そのあちこちに古い建物を移設して、中を個室にしてあるの」
 母親は言うと、意気揚々と、旅館のような建物の受付へ向かった。
 相原がクルマに施錠する。レムリアはその袖口をつんつん引っ張った。
「ん?」
「あの……私……こういう高級なのは……」
「抵抗ある?」
 頷く。理由は、彼女が救助隊として赴く土地は、貧困と飢餓にあえいでいるところが多い。なのにこういうところで飲食というのは、それこそ自分の行為が“お義理な施し”になる気がして、強い拒否感がある。
 だから相原の提示した昼飯三択の答えもラーメンなのである。
「ごめんな。母親そういうこと知らないからな。お姫様に対して目一杯のおもてなしのつもりなんだよ。まぁ、今回限りと言うことで、付き合ってやって」
「判った」
 レムリアは小さく頷く。但し、気乗りしていない表情は隠せない。
 先行した母親が、受付建て屋から振り返って二人を呼ぶ。
P72006881
 受付で少し待った後、仲居さんに先導されて沢沿いの飛び石を歩いて行く。通されたのは滝のそばにある平屋。2部屋あり、片方には既に商用接待と思われる連中がメートル上がっていい調子だ。
 靴を脱いで上がり込む。6畳タタミに掘りごたつの純和室。
 3人が座るのを待って仲居さんが正座で一礼し、挨拶。続いて。
「本日のおすすめでございます」
 メニューを開いて見せる。先付け、お造り……と続く和風のコース料理である。値段的には3ランクほど有るが、どれであれラーメンが何日分も食べられる金額であることに変わりはない。
 レムリアの肩がびくりと震え、その目が見開かれるのを相原は見過ごさなかった。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-050-

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「そうですか……」
 レムリアは首をかしげた。納得行かぬも道理。受付は歓迎、院長はどうでもいい、婦長はあからさまに不快。
 外面と実態?タテマエとホンネ?テレパシー使えば探れるだろう。だが、行使するのが怖い。知りたくない。
「見抜かれたら困る内情があるものの、マジックショーのメリットと比較したら、じゃね?」
 相原は意見した。ちなみに院長の名前と、口コミ情報掲示板みたいなものも検索したが、院長は2代目で、学会論文も幾つかある権威のようで、腕は立つ方と推定される。なるほど若くして院長が務まるなりの実力というところか。一方で口コミに関してはプラスもマイナスもない。
 最も、掲示板での評判記は一般にオトナのすること。親がつきっきりで内情ばっちりというわけではないし、子どもは入院中であって書ける環境にそもそも無い。仮に退院したとしても、一般に子どもが自らネットの掲示板に書きに行こうと思わないだろう。最もそれ以前に、子ども達は言われた事に従っているだけで、他と比べる機会などあるまい。なお、論文の中身自体は無料で見られる状態のものは無かった。
「まぁ、こっちには一期一会でも、向こうにはまたかよ面倒くさいな、みたいな話なのかも知れない。あなたがぶーたれてると、子ども達、見抜くよ」
「……そうですね」
 母親に言われて、レムリアはようやく顔を上げた。
 でも、そのままじっと、窓の外を見るだけ。
 走ること10分。
「はい着きましたよ」
 予約時刻を過ぎること5分少々、夕闇の中、軽自動車が到着したのは、山懐の旅館のような建物。
 しかし駐車してあるクルマの数に対して、建物の収容力は明らかに小さい。
 長時間の順番待ちかと思いきや、よく見ると山の斜面あちこちにいわゆる古民家が点在し、それら家屋と家屋の間の小道を、和服姿の仲居さんが料理を持って移動中。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-049-

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 院内でオフにしていた携帯電話の電源をめいめい入れる。相原の電話にメール着信。母親から帰宅時刻を報告せよ。
 現在時刻5時15分。夕食の予約は6時なので、気を揉んでいるのであろう。
 電話して予定時刻を伝える。2駅向こうで乗り換えてさらに1駅。
「駅までクルマで迎え来て……怖い?って何が。いや、そこでオレが運転代わればいいだろ?」
 であれば、家に戻らずに済み、充分に間に合う。
 電話を切る。レムリアの顔には不平不満と書いてある。
「はいはい。まずはご飯食べて。少しの間忘れましょう」
「うん。あ~疲れた」
 レムリアは頷いた。
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 相原が就職早々にローンで買った軽自動車を運転し、予約した店へと向かう。ちなみに、母親の怖いというのは、姫君乗せて走る、すなわち命預かる責任を負うから、の意。
 市街地を背にして西へ。行く手は夕日と、浮かび上がった関東山地のシルエット。
 その道中、レムリアが我慢出来ないとばかりにぶちまけた。あれじゃ病院とは名ばかり。受け入れて、食事与えつつ手術や投薬、終わったら出すだけ。治療工場。子ども達には監獄。
「そんなに雰囲気悪いんかい」
 母親は眉をひそめた。
 ちなみに出発前、インターネットで病院を調べて来たのだが、充実の設備で安心の医療、大切なお子様のために万全を、みたいな能書きが並んでいた。例のレクリエーションルームで人形劇か何かをしている写真もあった。無論、一緒に映っている子どもはモデルであろうが。
「ショーの提案をされた時、病院はどう言ってたんですか?」
 レムリアは助手席から身体をひねり、後席母親に尋ねた。
「別に。ええもちろん結構です、代表者の氏名と簡単な内容を書いてファックスか電子メールで……って。ファックス送ったらすぐ電話が来て打ち合わせ云々って」
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(つづく)

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【恋の小話】ポラリス(5)

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「という説の説明なんじゃね?最新がコレで、他に三連会合とかあるんだけどさ。で、これはオレの私見なんだけれど、この木星チラリだと、3月20日なんだよ。星占いって3月21日がスタートだろ。これ農作業開始の合図なんだけどさ。当時も暦の始めがそこだった可能性が高いわけだよ。新年の始まり、そんなベストタイミングで王の星がきらり」
 オレは佐藤の話を感心して聞いてしまった。
 聖書ネタ、星占いネタ、ギリシャ神話、イエスの誕生日が間違ってた話、西暦にゼロ年はないこと。
 いろんなこといっぱい絡んでくる。
「おもしれえな」
 オレはぼそっと言った。
「だろ?だろ!?ドコに何座があって何等星。それを無理くり覚えるのは勉強って言うんだよ。興味持って調べて考えるのとは全然違う」
 佐藤は目をキラキラさせて喋った。内容の高度さ、その考え方の硬派さ。
 なのに何でこいつ女の子にモテないんだろう。オレがその時思ったのはそんなこと。
「どうした?」
「別に……ああ、DVDでわかんないとこあったら訊いていいか?」
「もちろん」
 そして……やりとりして判ったこと。歌詞やドラマの星見てちゅっちゅって天文学バカにしてないか。
 例えば天体望遠鏡は、今いる緯度に合わせて角度を調整し、北極星に合わせることで経度を調整し、地球の自転に合わせて星を追いかける。よく考えれば当たり前だ。すなわち、自分が地球のどこにいるか把握し、正しく南北を合わせないと、地球の回転と同じ方向に動かせない。
 自分が、地球のどこにいるか。
 普段意識しないことを意識する。
 すると、地球の動きに望遠鏡が完全にシンクロする。
「目の前の望遠鏡が地球と一緒に動いてるんだなってね。ちょっと感動した」
 オレは目の前のさくらちゃんに言った。
 プラネタリウムが入っているのは超高層のビルのてっぺん。ここは見終わって地下の喫茶店。
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(次回・最終回)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-048-

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 女の子は廊下に描かれた(おそらくはテープを貼った)“センターライン”をまたがないように注意しつつ、給食ワゴンを避けつつ、うつむき加減でこちらへ歩いてくる。
 そのすれちがいざま。
「こんにちは~」
 レムリアは女の子に声を掛けた。
 それは信濃町の場合、次の瞬間には子ども達に囲まれる事を意味した。しかし。
「こ、こんにちは……」
 女の子はおどおどした感じで型どおりにそう返しただけで、すぐに目線を外し、元通り黙々と歩き出した。
 レムリアは立ち止まったまま、去って行く女の子の背中を追う。その向こうには、ナースステーションから半身を出して見ている婦長。
 婦長がこちらを見て目が合う。レムリアは唇を噛んだ……が、しかし一瞬だけで、ニッコリ笑って会釈をし、再び歩き出す。
「例の女の子に会わなくていいのけ?」
 相原の問いに答えず、もちろん、会いに行くこともなく、エレベータに乗る。
 ドアが閉まると、文字通り溜め込んでいたのを吐き出すように、大きなため息。
「今日はやめといた方がいいと思った。そんだけ」
 レムリアは言った。
「ごめんなさいね」
 堺さんがぽつり。
「効率第一で、どうしても素っ気なくなってしまって……院長先生と婦長さんはご夫婦なんです。だから誰も……」
 そこでエレベータは1階に着いてしまったが、この病院にはテレビドラマ的ドロドロが裏にあると容易に想像が付いた。堺さんが唐突にそんなことを口にした理由は、察してください、であることに相違あるまい。
 堺さんに辞し、入場者バッジを受付に返して病院を後にする。
 レムリアは車寄せで立ち止まると、背後のビルを見上げた。おもちゃの国のお城のような外見であるが。
「あの状態で会いに行ったら逆に当の彼女に迷惑掛かるかもと思ったの。ここはまるで企業秘密を隠してる工場みたい」
 呟き、背にして歩き出す。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-047-

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 笑顔を伴うでなく、お高くとまった感じで言い放たれたそのセリフは、レムリアを小馬鹿にしているニュアンスを含む。
「子供達に親近感を持ってもらえればと思いまして」
 レムリアはまずは無難に返す。但し目は婦長を見ない。
「同情の押しつけなら、要らないのよ」
 二人は、婦長の態度と、その裏の意図を解した。
 “お義理な施し”……マジックショーの趣旨をそう曲解したのだ。
 歓迎側の態度じゃない。更に言えば上意下達で仕方なく従っただけ。そんな背景すら読み取れる。
「そうですね」
 レムリアは斜め彼方に視線を向けた。
「子ども達鋭いですからね。そうと見抜けば、多分みんな病室へ帰ってしまうでしょうね。廊下に出て遊ばずとも充分楽しい病室みたいですし」
 彼女一流の逆襲であった。“子ども達鋭い”というフレーズには、言外に“自分もそうした鋭い子どもの範疇”という意図を含む。すなわち、
 “アナタの意図は私にはお見通し”
 しかし婦長には通じていないようである。レムリアのセリフを“敗北覚悟宣言”とだけ受け取ったようだ。
「ええ、子ども達はドライですよ。表面的なのは見抜きます」
「わかりました。判断は子ども達に任せたいと思います。本日は院長先生のお招きでご挨拶に伺いましたので、婦長さんにも是非にと参った次第です。お忙しいところをお手間取らせました。申し訳ありません。明日(みょうにち)はよろしくお願いいたします。失礼します」
「ああ、そう。頑張ってね」
 レムリアは頭を下げると、ナースステーションに背を向けた。
 もう顔も見たくない、そんな風情。
「では……」
 相原と堺さんはそろって婦長に会釈し、ナースステーションを後にレムリアを追う。
 と、右方病室のドアが開き、女の子が一人。
.
(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-046-

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「あ……はい。明日の彼女ね。待ってください」
 応対した若い女性看護師は、にこやかに言って席を立った。
 その間にレムリアは廊下を見渡す。良く病院を白ビルと称するが、それは殺風景で“人の手の温かみ”を感じないことを意味する。それから行くとこの病院の内部は、外見とは不相応に全くの“殺風景”であり、衛生管理関係のポスターと、食事配膳用のワゴンがぽつりぽつりとあるだけ。
 子供達の声も聞こえない。時間的に夕食時の所為もあろうが(病院の夕食は5時前後が多い)、廊下が住宅街の道路さながらだった信濃町とは、おおよそ様相が異なる。
「どう思う?」
 レムリアが訊いた。
「5Sの行き届いた……」
 工場のライン、というセリフを相原は飲み込む。レムリアには意図さえ伝わればいいからだ。ちなみに5Sとは整理、整頓、清掃、清潔、躾(他の4つが習慣づけられているか?)を意味し、それぞれローマ字表記の頭文字を取ったもの。製造現場などの合い言葉である。
 これが出来ているかどうかは現場管理の指標になる。製造現場で発揮される分には全く構わない。
 堺さんが、自分たちの会話に耳をそばだてていることに、2人は気付く。
「すっきりしてますね。清潔で気持ちがいい」
 相原は言った。
 後方より声が掛かり、若い看護婦に先導された婦長が現れる。40歳台であろうか、“お母さん”が似合う年齢帯であると感じる。ただ、その表情は仕事に対する姿勢の表れか峻厳で、醸す態度は威圧的。子ども達が萎縮してしまうのではと思うほど。少なくとも、小学校低学年の教員には向かない。
「明日のマジックショーを依頼した相原姫子と申します。ご面倒をおかけしますがよろしくお願いします」
 レムリアは頭を下げた。
「かわいいマジシャンだこと」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-045-

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 要は横柄だ。
「どうぞ……」
 その女性……堺さんが現れ、廊下へのドアを開く。
「申し訳ありませんね、お待たせした上に……。わたくしから代わって失礼をお詫び致します」
 堺さんは頭を下げた。
 レムリアは慌てて、お控え下さいと両の手を広げて小さく左右に振り、
「いいえ、そんな。何もあなたが……。あの、申し訳ありませんが、明日使わせて頂ける場所を下見したいのですがよろしいですか?」
「え?あ、はい、どうぞ」
 案内されたのは、エレベータで上がって6階、レクリエーションルームと称す部屋。
 小さなステージがしつらえてある。大きな小児病院には、大抵、院内学校が併設されているが、ここはその講堂に相当すると説明を受ける。
 レムリアは見渡す。白い壁、白い天井、蛍光灯、窓。
 以上。建築に関する法規には違反していません。その合理的な素っ気なさ、外見の洒脱さに比して何?
 他に誰もいない室内は、しんとしていて静止しており、“アクティブな感じ”がない。
「そんなにしょっちゅう使う場所ではないんですね」
「え、ええ……」
 レムリアのセリフに、堺さんはためらいがちに答えた。
 相原は腕組みした。
 レムリアは“レクリエーション”と言いながら、その実、ここがそういう目的では余り活用されていないと見抜いたのである。
「ナースコールのボタンは?」
 彼女ならではの心配。
「当日は数名のナースが現場にいるはずです。人工呼吸器を付けた子どもさんもいますので」
「判りました。あ、ここはもういいです。ありがとうございました。あと……よろしければ婦長さんにもご挨拶を」
 3階へ移動する。婦長はこのフロアのナースステーションに専用の部屋があるという。
 ナースステーションに赴いて来意を告げる。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-044-

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 その気配は相原も如実に感じているようである。レムリアには尚もって濃厚。
「ええそうです」
 レムリアはまず頷き、
「実際の演目は私と、本日都合で参っていませんが、もう一人の女子中学生との二人で、こんな感じで」
 レムリアは相原の右の拳を指差した。
 相原は拳を開いた。
 万年筆。
 若き院長は現れた万年筆に目をやり、一瞬置いてその目を見開くと、己の白衣の内側を見つめた。
「スリみたいだな」
 乾いた笑い。レムリアは一旦唇を噛み、解放。
 次いで万年筆を返し、目を伏せて。
「失礼しました。こんな感じで、物が現れるとか、物が移動するとか、そういった類のマジックをします。音や光、動物等は用いません。お菓子を出してプレゼント、というパターンがあるかと思いますが、その際には氷砂糖を紙に包んだ物にする予定です」
 レムリアが相原の手元を指さし続けるので、相原は左右の手を交互に握ったり開いたり。
 開くたびに、手からはお菓子が現れてはこぼれ落ちる。無関心院長も、さすがにこれには目が大きくなったようで。
「ほう……これは鮮やかだな」
「特段シナリオめいた物は作りません。即興で、子供達からリクエストが有ればそれに応えよう。そんな感じで考えております。時間的には30分」
 レムリアは言うと、出した菓子を回収してウェストポーチに戻した。
「以上雑駁な概要ですがいかがでしょう」
「まぁいいだろ。じゃぁ明日の3時で。おーい堺君」
 若き院長は言うと、先ほど案内してくれた女性を呼び、自分は早々に席を立って院長室へ戻った。
 要するに“用が済んだら帰れ”。
 えっもう?と、誰もが思うであろう。そのあまりの早さには二人とも唖然である。2時間待って診察3分……主に総合病院の対応を揶揄する言葉だが、それほどではないにせよ、こういうことをされると、身体的に楽とは言えないお年寄りや妊婦さんが、果たしてどんな気持ちか、想像が付こうというもの。
.
(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-043-

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 小一時間して、院長秘書と名乗るスーツ姿の女性が現れ、ようやく奥へ通される。
 案内されたのは院長室脇の応接室。遅れた理由は回診の時間が延びたとか。しかし。
「ああ、どうぞ」
 応接室の奥から出て来た白衣の院長……その肩書きの割には若いと言えるだろう、40歳代と見られる背の高い男は、二人を一瞥すると、別段詫びることもなく、応接室の巨大なソファに着座を勧めた。1時間待たせるは病院では常識であろうとも一般的にはさすがにちょっと失礼であって、レムリアは露骨に苛立ちを見せたが。
「本日はお忙しい中、お時間を頂戴してありがとうございます。私連絡いたしました相原香(かおる)の息子で学と申します。口頭だけでは失礼と存じますのでこちらをお納めください」
 相原はあくまで平身低頭で、就職先技術部門の名刺を渡した。この辺り会社の新人研修の成果であろうか。
「ああ、うん」
 院長は名刺を見もせず胸のポケットへ。一般に名刺交換と言うが、この場は一方通行のようだ。院長はさも当たり前のように自分の名刺は出さない。無いのかも知れないが。
 相原は間を取るように1回まばたきして。
「こちら従妹の姫子です。中学生ゆえご挨拶だけでご容赦ください」
「相原姫子です。本日はありがとうございます」
 レムリアは目を合わせることはせず、しかし尋常に一礼。
「まぁ座って」
 ラフな口調で勧められ、2人は着席。レムリアは両の手を交差させ腰元へ、相原は両拳を引き据えて腿の上。
「マジックショーと」
 若き院長はどかっと自席に腰を下ろし、ひとこと言った。
 興味津々という風には見えない。お義理で事務的な対応というか、意思の有無と注意事項だけ述べに来た。そんな意図を感じる。
 要するに“何をするだけ知りたい。あとはどうでもいい”。
.
(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-042-

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 この手の“納得させるもの言い”はレムリアの得意とするところなのだが、この場に限っては母親の方が一枚上手だったようだ。
 かくしてレムリアが選んだのは、会社の受付嬢を思わせるスーツ姿に、本当にマジック用の、タネも仕掛けも設定可能なシルクハット。
 相原は断った。明日のショーは何もしないし、“たまたま従妹の娘が東京に来ただけ”。ちなみに、レムリアの言う“イマイチ甚だしい”問題の正体は、相手が子供達なので、できれば仕掛ける側も子供だけにしたい、という意味であることも承知。自分は単なる付き添い。
「ではありがたく頂戴いたします」
「いえ、このくらいしかできない私たちをお許しください。本日は娘に対し重ね重ね格別のお心配り、心より感謝申し上げます」
 和の謝意と返礼。レムリアは大過なくて本当に良かったと応じた。
 その後の段取りであるが、これ以上ない恐怖体験をした由利香ちゃんの精神安定のため、彼女はこのまま自宅で静養。病院への説明は二人で行くことにした。翌日は相原のクルマで迎えに来る事にし、頂戴した衣装はその時にと。
 辞する事にする。件の子供病院は駅に戻って別の線で3駅ばかり。
「それでは」
 二人は席を立つ。
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-5-
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 財団名の後ろに、キリスト教の聖人の名を冠した小児疾患専門病院は、武蔵野の面影を残す森の中、他と隔絶され、教会と一体となってあった。欧州の田舎の病院を建物ごと移設した、そんな洒脱な外見であり、日本に多い四角四面のコンクリート建造物とは様相を異にした。
 正面入口に回ると閉鎖中。土曜日であり、外来の診療はないからか。待合室の照明も間引かれて薄暗く、人はまばら。
 休日入口からぐるりと受付へ周り、応対した女性に来意を告げる。到着したのは約束の5分前であり、二人の側に落ち度はない。
 しかし、そこから薄暗い待合で待たされる。
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(つづく)

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【恋の小話】ポラリス(4)

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「これで例えば2035年皆既日食とか……」
 太陽が真っ黒。
「すげぇ」
「それで」
 ふたご座流星群。12月中頃に良く流れ星を飛ばす。ふたご座はオリオン座の隣というか上というか。
「オレは校庭で寝転がって見てるけどね」
「なんだそりゃ」
「流星は仰向けがベストポジション。星空以外のものが見えるのは邪魔だし見逃す元」
「なるほど」
 真夜中に丁度真上に来るから、ふたご座が見つからなくても楽しめると佐藤は言ったが、真夜中に中学生の女の子連れ出すわけにも。
「で、こいつ起動したのはベツレヘムの方なんだ。聖書に……」
「宗教は勘弁してくれよ」
「クリスマスだからしょうがねーだろ。ネタとして知っとけよ。聖書の中に、不思議な星が現れて、それを見た東の国の3人の博士がベツレヘムって街までイエスに会いに行く、ってのがあるんだよ。で、欧米の天文学者はその星が何か真剣に考えてるわけ。多分、その案や学説の紹介でしょ」
 佐藤は言いながら、シミュレータの時間を戻した。
 紀元前6年3月20日。夕暮れらしくそういう空の色で表示され、地平線の近くには真っ黒い丸(文字通り●)と、「木星」の文字。
「クリスマスって西暦0年12月25日じゃないのか?」
「平成元年は0年じゃないだろ。同じだよ」
「ああ、そうか」
「だから西暦紀元1年の前の年は紀元前1年。で、紀元前で3月なのは、後で求めたイエスの誕生日が実は間違ってたから。エクシグウスとかいうオッサンだっけな。真冬に馬小屋で赤ちゃんとか普通寒すぎだろ?」
 ここで作者が割り込んで箇条書きしておく。
・この年この日の夕刻、「新月を18時間経過した月の向こうから木星が顔を出してすぐ沈む」という現象がイスラエル周辺で観測された
・木星はギリシャ神話で王の中の王ゼウスとされているように王権を象徴する
・従って聖書に預言された「新しい王」の誕生を示唆する
 割り込み終わり。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-041-

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「由利香、まったく心配させて……そのお友達は?」
 二人は店外で会釈。
「どうぞどうぞお入りください。わざわざどうもすみません。あの、店番があるので申し訳ないんですがこちらで」
 母親はちゃぶ台をその2畳のスペースに出し、お茶を用意した。
 事の次第を説明する。レムリアは自らを相原姫子と名乗り、由利香ちゃんが知ってるのと同内容……看護師でボランティア団体に所属……まで話した。
「看護師さん?その歳で看護師さんなの?由利香と同い年で?」
 果たして母親は当然と言うべきか、驚愕の反応。
「ええまぁ。それで由利香さん、杖がない以外に、一人で電車にというのはちょっと怖いかなとも思いまして、厚かましくもお送りさせて頂いた次第です」
「いえいえ助かりました。本当にもうなんと申し上げてよいやら」
「そんなお母様。友達ですもん」
「友達……」
 畳に手をつこうとした母親は、意表を突かれたという顔で言い、レムリアを見上げた。
 由利香ちゃんもそうだが、この母子の“友達”というフレーズに対するこうした反応は、母子の持つ“友達”のイメージと、レムリアの言動とに、大きな差違があることを意味する。
「それでねお母さん」
 由利香ちゃんがマジックショーの事を話す。
「ああそれでしたら幾つかありますのでお持ちください。今後もなされるでしょう。差し上げます」
「あのお母様そこまでは……」
 レムリアは首を横に振り、押しとどめるような形に両の手を出す。
「いえぜひ。あなた様方は娘の命の恩人です。しかも娘がこんなに楽しそうに誰かの事を話した事なんてない。ぜひ使ってください。日本中の、世界中の子供たちが、私どもの衣装を着たあなた様によって楽しんでくれる。これ以上の幸せはありません」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-040-

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 電車が走り出す。夫人が、いつまでもこちらを見送る姿が去って行く。
「ねぇ、今何したの?」
 由利香ちゃんが尋ねた。
「あなたから……その“気”が出ているのを感じたから、こっちへ引っ張っただけ。今のおばあさまは間接リウマチを患われてた」
 レムリアは言った。彼女の“一瞬にしてその病状を知る”はこのように発揮される。先にも書いたように特異能力であり、医学的な説明は出来ない。しかし、内容ゆえに彼女は派遣先で憶せず用いる。医師達は彼女を不思議がるが、疑うことはないという。
「私から“気”?」
 由利香ちゃんは自分を指差した。まさかとばかり首をかしげる。
「うん、多分“勇気”」
 レムリアは笑って言った。
「そういうことか」
 由利香ちゃんは笑顔で応じた。
 下車駅に着く。規模の大きな駅で、JR線路の上をモノレールが南北に横切っている。
 家は歩いて10分もかからないという。改札を抜け、バスターミナルの上を覆うペデストリアン・デッキを横切り、商店街の一本裏を北へ向かう。
 するとなるほど、古くからあると感じさせる、「貸衣装」の看板のかかった店が目に入った。
 モルタル壁に瓦屋根の2階建て。木枠にガラスをはめ込んだ入り口引き戸を、ガラガラと開く。
 店内にはあちこちにマネキンやガラスケースが置かれ、和洋さまざまな衣装のサンプルがハンガーに下がってびっしり並んでいる。和服の小物は販売もしているようだ。奥手に2畳の畳と姿見。その姿見の脇にはウェディングドレスがスタンバイという感じで置かれている。どちらかと言うと呉服屋の造りである。居住エリアは一段高い左手奥方で、板張り廊下が続いている。
「おかあさんただいま」
 二人は店外でそのまま待機した。
 店の奥から、白髪交じりで頭髪を束ねただけ、という感じの女性が姿を見せる。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-039-

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 老婦人は言うと、到着のアナウンスに席を立とうと、ステッキに力を込めた。
 電車のブレーキがぐっと強くかかる。
「へたくそ」
 相原が言い、そのブレーキ操作から予見したか、立とうとした老婦人に腕を回す。
 果たして婦人はバランスを崩す。
 とっさに、しかも相原より早く、由利香ちゃんが老婦人の肩に手を回した。
 次いでレムリアが前へ。相原は二人に任せるとばかり腕を引っ込めた。
「大丈夫ですか?」
 女の子二人同時。
 レムリアは老婦人の両の手を取り、その目を見つめる。
 夫人が見返す。目線と目線がしばし行き交う。
「ああ、これは辛いですね……由利香ちゃん肩の手そのまま。強張りがあるでしょ……」
 レムリアは言うと、左手は老夫人の手を持ったまま、右の手のひらを手首に、肘に、膝に、素早く走らせ、ふわりと触れた。
 電車が止まる。
 レムリアは婦人の手をどうぞとばかりに引いた。
 婦人はその目を大きく見開いた。
「大丈夫です。怖いようでしたらゆっくり」
 電車のドアが開く。レムリアは夫人の手を取って、そのドアへ誘う。
 夫人は恐る恐る両の足で立ち、ハッと気付いたように背筋を伸ばし、歩き出す。
 ステッキを使わず。
「あなたは……」
「お薬はきちんと。食事は栄養のバランスを考えて。規則正しい生活を心がけてください。そして病院には、改善状況を確認に行く、位の気持ちで。治してもらうのではなく、治らないと諦めるのではなく、治すという強い意志を持って下さい」
 レムリアは夫人から手を離した。
 夫人はそのまま、ステッキを使うことなく、車体とドアの段差を越え、ホームに降り立った。
 何か言いたげに振り返る。何か口にしたかも知れない。しかし発車メロディの電子音で何も聞こえず、電車のドアが閉まる。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-038-

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 その間、席が席であるゆえお年寄りの姿もあり、強い興味を持った表情で、レムリアの“治療”を見ている。
 レムリアは手を離した。
 既に剥がれ掛けている湿布を剥がすと、手首患部は汗でびっしょり。
 レムリアはウェストポーチからミニタオルを出して、汗をふき取る。
 するとまるで、その部位だけ、生まれたてのように白い。
「これは……」
「わかりません。見た目はお風呂でふやけた指先と同じように、と言えば判るかな?医学的な説明は困難でしょう。今はいいけど、温度が下がればまた痛みが出てくるとは思う。でも、前ほどじゃない。あなたにとって痛みはストレスだった。痛みは痛みを意識すると周辺の筋肉に力が入って尚痛くなる。私は今、あなたに安心して欲しいと願った。そしてあなたは私を信じてくれた。その結果、ストレスが外れて、痛みが緩んだ」
 それは確信。
「私、代々木行くのやめて、あなたにやってもらおうかな」
 由利香ちゃんは手首をさすりながら言い、汗で接着力を失った湿布を丸めてポケットへ。
「それでいいよ。私と反応が違う時点で効いてるとは思えない。でもなんで気功なんかに?」
「母なりの責任感なんだと思う。私の目は幼い頃の高熱が原因と聞いたの」
 女の子二人の会話を、ゆっくりした女性の声が遮った。
「失礼ですけど、あなた目を?」
 隣席の老婦人。歩行補助用であろう、ステッキを手にしている。
「ええ、はい。全盲です」
「とてもそんな風には見えないわ」
「え……ああ、杖でしたら折れてしまってそれで友達に家まで……」
「ううん、そういう意味じゃないの。生き生きしてるの。光り輝いて見えるわ」
「え……」
 指摘に驚く由利香ちゃんに、隣席の老婦人は、生きる望みが半減していたところだ、と語った。何でも、薬と病院通いを一生続ける慢性病の宣告を受けたのだという。
「自分が世界一不幸に思えたけど、あなたの姿を見たら些細な事に思えてきたわ。そっちのお友達の女の子、あなたにずっと気を送っていたのかもね」
.
(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-037-

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 やられた相原は一瞬眉をぴくりと動かし「おお」と一言。そして、
「由利香ちゃんにやってみ……手先握るだけで十分だよ」
「そう?」
 レムリアは由利香ちゃんの両の手を握った。
 みるみるうちに由利香ちゃんの表情が驚愕に形作られる。
「な、何これ、なにこれ!」
 その声は周囲の乗客たちが驚くほど。
 やがて由利香ちゃんはゆっくりと深呼吸し、
「手がこう……お湯でも流れているようにじわーっと全体が熱くなって行く。それがだんだん痺れるような感じに変わって、とろけるような、ほぐれるような……。温泉で腕だけプカプカ浮かしているような……不思議……心地いい……」
「……なるほど」
 レムリアは、由利香ちゃんの反応に感心したように言った。
 手の配置をいろいろ替えてみる。左手は手首を持ったまま、右手は彼女の頬へ。
 更に軽くかがんでそっと抱きしめる。はぐ。
「あ……」
 由利香ちゃんは言ったきり、黙り込んだ。
 陽だまりの猫の表情。
「こうなると人間ハイパーサーミアだな」
 相原が言った。Hyperthermia:温熱治療装置。細かく言うと、ガン細胞と健全細胞で温度上昇速度が違うのを利用し、ガン細胞だけを選択的に死滅させる、ガン治療法の呼び名である。
 レムリアは相原を見て、
「それ直感的には判りやすいかも知れないけど違うと思う。まず安堵や落ち着きを与えている。次に精神的な不安や苛立ちと身体との相互作用、心身相関現象を断ち切る。結果、身体本来の自然治癒能力を引き出す……ちょっと待って」
 そこでレムリアは気付いたように身体を離すと、由利香ちゃんの怪我した手首を両手で挟み包んだ。
「わぁ……」
 由利香ちゃんがマンガの表現よろしく、小さく“O”の字に口をあけた。
「すごい。そうやってもらうと痛みがスーッと消える。温かくなって、その中に痛みが混じって広がって消えて行く」
 レムリアは数分、そのままの状態を保った。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-036-

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 固辞するのは不自然だし、彼女が負担に思うのは確かであろう。二人は彼女の家で選んでみる事にした。住所は都内だが多摩地域。相原家の最寄り駅に近い。要するに帰る道すがらである。
 由利香ちゃんは電車に乗る前に、自宅に連絡を入れた。杖を折ってしまったので送ってもらう……。
「人の多いところに行くからだとさんざ怒られました」
 由利香ちゃんは舌をぺろっと出した。
「でも、便利な場所ってたいてい人が多いんですよね。それに大体……」
 代々木は、母親が薦めた“気功”治療院に通うためだと、彼女は頬を膨らませた。
 電車がその代々木に止まり、そして発車する。
 新宿で特別快速に乗り換える。“特別”と冠がついてはいるが、車両がゴージャスなわけではなく、特段高速なわけでもない。オレンジストライプを巻いた銀色の通勤電車。
 土曜の昼下がりである。優先席に、彼女の席だけは確保できた。
「素朴な質問だけど、気功ってどんなのなのなの?」
 レムリアがどちらにともなく尋ねた。彼女の出自は西洋の魔法の国である。東洋の神秘を知らなくて当然。ただ、おそらく理解は早い。
 なお、彼女のセリフは、書き間違えたわけではない。
 相原が説明を買って出る。
「端的には身体の中の超自然エネルギーの流れを整える。あるいは自分のを注入する。君的には“月からの流れ”がそれに当たると思う。それのこっちの呼び名が“気”。雰囲気なんて言葉に付いてる気の字はこの気から来ている。気が合うとか気に入るとか、精神状態を意味する気も恐らく同じ」
「ふ~ん、どんな風にやるの?」
 この問いには由利香ちゃんが、
「私が行ってる所では、右の手のひらをお腹の辺りに、左手を背中に、で、“気”を入れる」
 由利香ちゃんは自分の身体に手を当てて示した。
「こう?」
 レムリアは隣に立つ相原を使ってそのようにした。人体実験。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-035-

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 ナースステーションの外では子供たちが鈴なり状態で“姫様のお姉ちゃん”が戻るのを待っている。ちなみに子供達がレムリアに付ける“姫様”という冠であるが、これは別にわざわざ子供達に素性を説明した結果ではない。病院関係者が姫様言うのを、アイドル、といった意味合いに受け取って定着した、と見る方が雰囲気的には合っている。
「行ってあげて。ところで怪我の事、お嬢さんの親御さんには?きっと心配していらっしゃるわ」
「あ、はい。では」
 レムリアは、今度はみんなのポケットにいつの間にか紙風船が入っているという業を見せると、また来ると約束して小児病棟を離れた。
 エレベータに乗ると、さっそく由利香ちゃんが訊いて来る。
「ねぇ今のどうやってやったの?。私何もしてないのに……」
「マジック、だからだよ」
 相原が言った。
「でも、あーいうのって、私があらかじめ持っていて、とか、タネが……」
 この問いにレムリアは小さく笑って。
「そこは企業秘密。うふふ。でもどうかなぁ。こんな感じで、私が言った通りに動いてもらえばいいだけ、なんだけど、助手、やってもらえる?」
「……あ、うん、そういう感じでいいんなら」
「ありがとう!」
 レムリアは両の手をぱちん、そしてさらに続けて。
「衣装2人前いるね。今から……なんだっけ」
 レムリアは店名を忘れたようである。
 相原は本来行こうとしていたその名と目的を口にした。
「……行くんだけど、一緒に付き合ってもらっていいかな?」
「マジックショーの衣装ですか?」
「うん」
「単純に燕尾服にシルクハット、みたいなヤツなら、うちの店にあると思いますけど」
 レムリアと相原は顔を見合わせた。曰く、由利香ちゃんの家は貸衣装の店なのだそうだ。
「色々お世話になったし、ウチに寄ってください」
「でも……」
「お友達ですから」
 由利香ちゃんにやり返される。
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(つづく)

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【恋の小話】ポラリス(3)

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「森さん太郎坊のこと知ってるから……相当だと思うぜ。あそこは“いつ何が見えるか知っている”人間が、最高条件で見たいと思って出かけるとこだから」
 プラネタリウムを見た。その後……を考えてオレは怖くなった。あのプログラム面白かったね。あれは……。
 何か訊かれたらどうしよう。
「オリオン座も判らないじゃ軽蔑されるな」
Orion
「そうか?『天文って深いなぁ。星光ってるの見るのが好きじゃダメだなぁ』でいいじゃん。彼女の方が沢山知ってたって別にいいんじゃねえの?」
「かっこ悪いじゃんか」
「知ったかぶりの方が余程かっこ悪くねえか?大体、彼女に対する裏切りじゃんか」
 ハッ、とした。
 佐藤はオレより背が低いし服ダサいし、スポーツも駄目。
 対して、下駄箱に何度か手紙が入っていたことのあるオレ。
 なのに今、多分佐藤の方が男としてかっこいい。オレは思った。
「なぁ、天文の勉強ってどうやるんだ?教科書に書いてあるのは知ってるけど、その先は……」
 オレは訊いた。興味が無いことってどうやって知るんだろう。
 ロボットのスペックはゲームで必要だし、カッコイイと思ってそれ系の本を読んだから。
 もうそのゲームもアニメも終わったけど。
「とりあえず一夜漬けだろ。いつ行くんだプラネタリウム」
「まだ決めてない」
「行く日決めて、ネットで内容見て予習したら?来いよ」
 佐藤の家のパソコンで、都内のプラネタリウムを幾つか検索したら、そのアニメの声優がナレーションを担当してるところがあった。
「いいじゃん、小さい頃この人の声好きだったって言えるじゃん」
「ああ、そうか」
 そしてプログラムは“ふたご座流星群とベツレヘムの星の謎”。
「全っ然わかんねぇ」
「12月だからなぁ」
 佐藤は言うと、そのままパソコンで“星空シミュレータ”を起動した。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-034-

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 右の手のひらを開き、左の手指で触って確かめ、口をあんぐり。
 キャンディの包み。
「え……」
「このお姉ちゃんがみんなに、って。手のひら握って開くとあら不思議」
 まさかという表情で、由利香ちゃんが言われたとおりに手を動かす。
 キャンディ2つ。
「みんなで何人かな?」
「目測25人」
 これは相原。
「じゃぁお姉ちゃん両手を合わせて。開いて」
 山のように。
 由利香ちゃんは唖然。
「な……」
「さぁお姉ちゃん、子供達にお菓子を配ってくださいな」
「う、うん」
「わーいちょうだい!」
「あ、セコい!」
 子供たちに配る。というより子供達の方が勝手に取って行く。その頃には通りがかりの看護師が、微笑ましく即席のショーを見ている。
 一通り行き渡ったところで、また後で、と、ナースステーションへ移動。
「あなたはすごい」
 由利香ちゃんが言った。
「子供たち、みんなあなたの事を大好きなんだね。ものすごく、びんびん伝わってくる」
「助手ってこんな感じ」
 レムリアははぐらかすように由利香ちゃんに言った。
 ナースステーション窓口に来意を告げる。奥の方より、婦長とおぼしき、体格の良いメガネの女性が振り向き、席を立ってやってきた。
「お久しぶりね、お元気ですか?」
 にこやかに一言。
「ええ。すいません突然」
「いいのよ。あなたが来ると子供たちの表情が変わる。食事や薬に対する姿勢まで変わってしまう。退院した後、しばらく泣いていた子もいたくらいよ。まるで魔法……あらそちらは?」
「友人ですが、トラブルで手首を怪我して、近かったのでこちらに……」
「そう。……あらあなたは……そう、それは怖かったでしょうね。でも彼女なら安心していいわ。送って行く途中なのね」
「そうです」
「じゃぁ引き止めちゃ悪いわね」
 相原はそこでチラッと腕時計に目をやった。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-033-

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「おおそうかい。そりゃ子供たち喜ぶわ。あっちの婦長にメール打っとくからナースステーションに寄って」
「判りました。由利香ちゃん悪いけど寄り道させて」
「え、あ、うん。あの私ならいいよ、親に来てもらうから」
「いいえ、あなたに来てもらわないと困るの」
 レムリアは言い、腕を取って歩き出す。そして、小児病棟へ向かうエレベータの中で、この歩く変態商品と企んでいることがあって、と話した。
「私が助手?」
「そう。元々誰かに手伝ってもらったほうが盛り上がるかなぁ、とは思っててさ。でもこのヒトじゃイマイチこう華やかさという点で甚だしい問題が」
「イマイチ甚だしいって何だよ」
 相原のセリフに女の子二人吹き出す。
「……でも私で勤まるの?だって手品なんて私」
「まぁ慣れてもらったほうがいいのは確かで。だから来てもらったわけ」
 レムリアは言った。
 エレベータが速度を落とし、着床を示すチンというチャイムを鳴らす。
 この時点で、既にドアの向こうが賑やかしいのが聞き取れる。
 ドアが開く。廊下を行き交う子供達とその喧噪。まるで学校近くの道路を思わせる。
「あっ!姫様のおねーちゃん」
 早速、リハビリであろうか、廊下を歩く松葉杖の男の子がレムリアを見るなり言った。
 周囲の目がエレベータホールに向く。
「うそだろ!」
「あ、マジだ。マジで姫様のお姉ちゃんだ」
 その伝播速度、院内電子メールの比にあらず。
 あっという間にレムリアは子供たちに囲まれてしまう。これだけ有名なのは、もちろん、彼女が入院中にここを訪問し、ボランティア活動同様、いろいろやったからである。
「はいはい、ちょっと離れて。こっちのお姉ちゃんがびっくりしちゃうから」
 そこで由利香ちゃんが何かに気付いた表情。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-032-

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-4-
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 由利香ちゃんの手首の診断は“左手尺骨(しゃっこつ)の骨挫傷(こつざしょう)”であった。端的に言えば“ヒビが入る一歩手前”である。
「だったら普通に湿布していれば治りますね」
「そう……ですね。これは……」
 若い医師とレムリアが液晶モニタの画面見ながら議論。映し出されているのは3次元レントゲン。飛び交う専門用語。
 ちなみに、医師は普通看護師にこう懇切丁寧に説明しないが、レムリアの場合は医療ボランティアに所属しているせいか、ついでだから知っておくといいぞ、みたいなニュアンスで、所見とそのわけを説明してくれる医師が多いとか。
 中略。
「湿布と痛み止めを処方しておきます。お嬢さんよかったね。骨折にはなってないよ。それに何より、この彼女に見つけてもらったのは幸運だった。彼女は……知ってるかな?“国際自由意志医療派遣団”の看護師だからねぇ」
「え?」
 由利香ちゃんは包帯を巻くレムリアに顔を向けた。当該、“派遣団”は、レムリアが所属するボランティア団体の名称。
「だって13歳って」
「そうだよ。でも試験受かった。外国だけどね。日本だと准看護師に相当」
 レムリアは答えながら、医師に向かって人差し指を口に当て、“しーっ!”とやっている。
 実は先に触れた入院後、彼女の正体は冒頭の雑誌から病院中が知るところとなり、“姫様だった”と語り草になったという。
 そして今日、突然その伝説の少女が現れた。この整形外科の医師は、一目で彼女が彼女と判った、と言った。
「すごいんだね。あなた」
「恵まれた環境でのほほんと育つのがいやだった、と言ったらカッコつけすぎ?」
 レムリアは言いながら、由利香ちゃんの腕を取り、立ち上がった。
「じゃぁどうもありがとうございました。……小児科病棟に寄って帰りますね」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-031-

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「ありがとうございます。由利香ちゃんジュース。飲んで。落ち着くから。……駅員さん、近所にレントゲンを備えた病院は?」
「さぁすぐには……調べてみないと……」
 駅員は首をかしげる。
「信濃町(しなのまち)行くか?」
 相原が言った。
 信濃町。それは代々木の2駅隣であり、著名な大学病院がある。
 その病院にレムリアは“撃たれて”入院していたことがあるのだ。
 ……追って説明する。やがて交わされるであろう『女二人の秘密の話を』記述すれば、事は足りよう。
「ああ、そうか」
 レムリアは両の手を叩いてぱちんと鳴らした。ちなみにこれは嬉しいとか、得心が行った時の彼女が見せる癖である。
 相原は駅員に病院の名を言った。
「それならタクシーを手配します。当駅からも連絡を入れておけば話は早いでしょう。……あと、警察はどうされますか?被害届とか」
「後回しにしてください。彼女は今痛いし、怖がっています。この場を離れたいし蒸し返されたくもないはず」
 レムリアは強い調子で駅員に言った。
 13の娘の物言いではない。最前線で臨機応変に“今何が必要か”考え続けてきた経験が放った言葉だ。
「わ、判りました」
 信念に基づく真っ直ぐな瞳に気圧されるように、駅員は答えた。
 タクシー待ちの間に由利香ちゃんはペットボトルを口に運ぶ。
 かなりの量喉に流す。
 それで少し落ち着いたようである。その間もレムリアは手を放さない。
「ごめんね」
 由利香ちゃんはレムリアの手を握り返し、小さく一言。
 レムリアは握り返した手を更に両手で包む。
「なんで謝るの?あなたは被害者だよ。そんな事言う必要は全くないよ」
「だって……迷惑かけてばかり」
「へ?友達じゃん」
 レムリアはけろっと言った。
「え……」
 由利香ちゃんは動作を止めた。
「あ、自己紹介してなかったね。私は姫子。この人のいとこ。よろしく」
 相原はフッと笑ったが、さすがのレムリアもそんな相原には気付かなかったようである。
 自己紹介する前に友達になるヤツがあるかい!
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-030-

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 程なく背後の止まった電車、すなわち新宿方面行きの運転士が確認に訪れ、少し遅れて担架を持った駅員が到着。
 脚立の半分を思わせる非常階段が線路とホームの間にセットされる。映画なら格好良く抱き上げて、となろうが、線路面とホームの間はレムリアの首ほどもあり、一般的ではない。
 ブザーが解除されて鳴り止み、相原と駅員が担架を持つ。別の駅員にリュックの男の子が事態を説明している。
「酔っ払いのおじさんが目の不自由な女の子を邪魔だと突き飛ばした」
 その酔っ払いはというと、ゴミ箱の脇で手が後ろに回っている。乗降客の多い駅には(自殺防止の観点で)鉄道警察官の巡回があるが、首都圏は土地柄その殆どが対象駅。
 これで、目下注意を向けるべきは、由利香ちゃんの怪我の状態。
 駅事務室へ移動し、救護用ベッドへ座らせる。
「怖かったでしょう怖かったよね。でももう大丈夫、犯人捕まったし私たちはあなたのそばを離れない」
 レムリアは言うと、自分のウェストポーチの中身と、駅の救急箱を使って応急処置をした。額は消毒して絆創膏。手首は消炎剤を塗って包帯でぐるぐる巻き。
 由利香ちゃんは恐怖のせいか小刻みに震えながら、鼻をぐすぐす。
 ……ただでさえ線路に落ちるなど怖い経験である。線路上から身を動かせば済む話なのだが、恐怖は時に人をその場から動けなくしてしまう。
 まして彼女は。しかも手が。
 その感じた恐怖は、一体どれほどであっただろうか。
「おでこの傷はたいしたことない。でも手首は病院で診たほうがいい。ほかにぶつけたり、痛い所は?」
 レムリアは由利香ちゃんの手を握ったまま放さない。
 由利香ちゃんは、問いの答えには首を横に振った。
 と、駅員がドア(開けっ放しではあるが)をノックし、ペットボトルのジュースを持って入ってきた。
「飲みますか?」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-029-

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 ブザーが鳴り渡って程なく、新宿を出た電車から大きな音が発せられる。バシャッという空気の吐出音であり、それは非常ブレーキの作動を示す。
 相原は線路に着地する。ここに到達せず止まるであろうという判断による。傍らには既にレムリアが降り立っている。
 すると背後、隣の線路に電車が滑り込んでくる。原宿方より新宿方へ向かう外回りの山手線電車である。
 同様にこちらにも急ブレーキが掛かっているが、ここまで行き着いてしまったのである。30トン近いステンレスの塊が11両。その慣性モーメントは容易に速度をゼロとはさせない。
 電車が減速する。運転士と、窓際の乗客達が、こちらの線路の状況に目を向ける。
 何かが折れる鋭い音が、その外回り電車の先頭から聞こえた。
 跳ね上がり、くるくる回りながら飛んで行く、白い棒状のもの。
 彼女の杖。
 折れ飛ぶ彼女の白い杖。
「大丈夫?ねぇ大丈夫?」
 線路の上でレムリアが声をかける。由利香ちゃんは額から血を流し、端から見て判るほどにぶるぶる震えている。
「私たちだから。さっきの秋葉原の私たちだから」
 呼びかけて手首を取る。
 その瞬間、由利香ちゃんが痛そうに身体をのけぞらせる。
「手を打った?手を打ったんだね?」
 レムリアの問いかけに由利香ちゃんは頷いて答える。そして、そのまましがみついて泣き出してしまう。
「……学だめだよ」
 レムリアは由利香ちゃんを抱き寄せながら、厳しい母親のようにひとこと言った。
 相原の目を見、その心に芽生えた義憤に気付き、釘を刺したのである。
「確かに、あの男のしたことは万死に値する。でもだからってあなたが動く必要はない。そんなことであなたが人生棒に振るような価値が、あんなのにあると私は思わない。だからお願い。その矛は収めて」
 相原は何も答えず、ホームを睥睨して目を離し、散乱した由利香ちゃんの荷物を紙袋に戻し始めた。
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(つづく)

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