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2013年4月

【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-089-

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「同じものの、ようですね」
 シスターは、言った。
「じゃぁなに?あのお姉ちゃんお姫様……」
「それ本物ってこと?ティアラ本物ってこと?本物をまいか姉ちゃんにあげたの?」
 シスターは、子ども達の問いに、都度、頷いて見せた。
 そして、まいかちゃんの母親に目を向ける。
「確かに、この雑誌の彼女、メディア王女が、ついさっきまで、ここにおいでになった、と考えるべきであるようです」
「え?……」
「彼女は今回、ボランティアのマジックショーをやるということで、もう一人、目の不自由な少女とここに見えました。そしてそれはそれは鮮やかなマジックを披露して頂きました。こうやって子ども達が興奮するくらいに。そして、そこでお嬢さんに緊急事態が発生しました。でも、彼女は慌てず、看護師さん達と心臓マッサージを行い、緊急事態は回避されました。
 彼女が、彼女であるならば、その全てはそれで当たり前であると、今は理解することが出来ます。
 彼女は、彼女のゆえに私たちの間に知られています。
 彼女は王女メディア・ボレアリス・アルフェラッツ。彼女が子供達に笑顔をもたらした時、それは奇跡の始まる合図。だからそう、そのページもこう書いてあるはずです。
 ミラクル・プリンセス、と」
「ミラクル……」
「奇跡か、ああ、そうかも知れんな」
 カメラマン氏が、エレベータの方向を見て呟いた。
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-9-
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 相原が受付で駐車チケットをもらい、ジュースのペットボトルを抱えてクルマに戻ると、少女2人はシルクハットを手に、おしゃべりしながら待っていた。
「待たせたね」
「何か言われた?」
「別に。はいどうぞ」
 ジュースを後席の二人に持たせる。
「安月給の安駄賃?」
「いいえ単純に喉が乾いたに相違ないと思ったから」
 由利香ちゃんを送って行く。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-088-

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「今は集中治療室で処置をされているはずです。ご一緒に……ああ大丈夫ですか?」
「良かった……」
 母親はへたり込んでしまった。
 と、ショルダーバッグからはみ出ていた雑誌が落ち、雑誌の間から印刷用紙が数枚バサバサと床に散る。
 シスターとカメラマンがしゃがみ込んで拾いに掛かる。
「ああ、すみません」
 母親は涙ながらに頭を下げる。
「ああ、そのままで」
 カメラマンは母親を制し、雑誌を手にし、そのまま視線が固まった。
「あれ?シスターこの子って」
 ページを広げて見せる。
「やはり、そうでしたか」
 シスターはゆっくり頷いた。
 母親が涙を拭い、
「それは、その子は、うちの娘が会いたがっていたお姫様です。無理とは判っていたんですが、ひょっとしたらと思って調べました。そしたら、医療ボランティアを支援している宗教団体の間では、有名であることが判りました。それで、こちらの教会にも伺ってみようと思ってたんです」
 母親は印刷用紙の方をシスターに見せた。
 それはレムリアの写真。手のひらにお菓子を持って、その両脇で子ども達が瞳を輝かせて。支援団体のホームページに載っていた、ソマリアの派遣先でのスナップ。
「それさっきの手品のお姉ちゃんじゃん」
 子ども達から声が上がった。
「え?」
 母親が目を見開く。
「そうだよ。それさっきのお姉ちゃんだよ」
「おばちゃん。そのお姉ちゃんならさっきまでいたよ」
 母親は目をしばたたく。理解を超えた事態に困惑の表情。
 その時。
「おお、これじゃん」
 カメラマン氏が雑誌の別のページを広げた。
 それはティアラを身につけ、着飾った姿のレムリアの写真。
 シスターは微笑んだ。その手にしたティアラを持ち、カメラマン氏の元へ。
 シスターが手にしたティアラと、写真のティアラを、突き合わせる。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-087-

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「だってあなたは、いいえ、あなた様は本当は……」
「彼女になるべく長く、プリンセスの時間を、お願いします。そのために、今回神様は待ってくださった。そんな気がします」
 レムリアの言葉に、シスターは、目を見開いた。
 涙がこぼれる。
「判りました。ええ判りましたとも。これは確実に彼女に」
「よろしくお願いします」
 レムリアは頭を下げ、由利香ちゃんと共に部屋を出ようとした。
「ああ彼女ちょっと待ってよ」
 カメラマン氏。
 レムリアは立ち止まり、振り返る。
「はい?」
「記事に……していいかなぁ。病院の提灯持ちじゃなくて新聞の地方版でさ。こんなドラマチックなことそうそうない、奇跡を見た思いだ。あ、君の写真を出そうとは思わないよ」
「ここは、子どもがいるべき場所じゃない」
 レムリアはそれだけ言い、歩き出した。
「えっ!?」
 論理の繋がらない唐突なセリフに、カメラマン氏は返す言葉がなかったと見える。しかし、氏は更に彼女に話しかけようとはせず、そのまま見送った。
 その代わり。
「彼女、最後に一つだけ。名前は?」
「相原姫子」
 レムリアは振り返ることなく、それだけ背中で言い、早足で歩き去った。
 呆然と見送るカメラマン氏の脇を、相原と堺さんが、それぞれちらりと頭を下げ、レムリアの後を追う。
 レムリア達はエレベータに乗って降りた。しかし、追記しておかねばならぬ事がある。
 レムリア達とほぼ入れ替わりに、ショルダーバッグを下げた女性がひとりエレベータから降り立ち、焦燥の面持ちで走って来た。
「まいかは。まいかは!?」
 女性は走って来ながら名を呼んだ。
 まいかちゃんの母親である。
 カメラマンがそれと気づき、室内のシスターに声をかけた。
「大丈夫ですお母様。まいかちゃんは大丈夫です」
 シスターが言った。事態が事態ゆえ、誰かが連絡したのだろう。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-086-

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「まいか姉ちゃんが院長や婦長と喋ってても笑ったの見たことない。でも、このお姉ちゃんがティアラを出したらまいか姉ちゃん笑った」
 子ども達が指を差したティアラに、婦長の目線が落ちる。
 それを見た相原がスッとティアラを取る。婦長は手元をびくりと震わせ、ごまかすように腹部に戻す。
「院長」
 と、高木看護師。
 院長は不機嫌な表情のまま、高木看護師に目を向ける。
「何かね」
「意識が回復していないこともありますし、ICUで様子を……」
「指図されなくても判っている!」
 院長は声音に任せて語尾をねじ伏せ、ふて腐れたようにベッドを自ら動かし、婦長と共にレクリエーションルームを出て行く。
 事実上の逃走である。
「あ、待ってください」
 看護師達が後を追う。レムリアにウィンクしたり、小さくVサインを見せながら。
 レムリアは手を振って彼女らに応じ、ベッドを見送ると、子ども達を振り返った。
「みんな今日はどうもありがとう。みんなのおかげで、まいかお姉ちゃんは、助かるでしょう」
 いえ~い、と拍手。
「でもね、私はもういられません。帰れって言うから帰ります」
 ぶー、と大文句。
「だって私がいたら、みんな院長と婦長泣かせるでしょ?」
 ウィンクして言うと、子ども達は笑った。
「冗談はさておきね。30分って約束だったから、これで帰ります。また呼んでね。今日は楽しかった」
 頭を下げるレムリアと由利香ちゃんに、子ども達は拍手した。
 辞することにする。子ども達の方はシスターに任せ、堺さんがエントランスまで送ってくれることになった。
 レムリアはシスターにティアラを託した。
 重量と輝きから、シスターはその可能性にすぐ気が付いたようだ。
「あなたこれは……本物ではありませんか?」
「え?どうしてですか」
 とりあえずとぼける。というか、自らそうです言うものでもあるまい。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-085-

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 院長は戸惑いを含んだ笑み。
「おいおい何で君がそんなに怒ってるんだ?君は関係ない……」
「CPR主導したの彼女です」
 まいかちゃんの担当看護師が言った。
「……は?」
 院長は首をかしげつつ、何をバカな?という表情で担当看護師を見返す。
「バイタルの確認、一次蘇生の着手と内容、大変場慣れした手際でした。婦長にも確認頂き、そのままCPRを」
 担当看護師は正面から院長の視線を迎えて言った。資格の有無よりも、腕は確かかどうかで彼女に任せた、と言ったのだ。
「いいえわたくしは認めた覚えはありませんよ!」
 婦長が戻り、戻るなり、全否定した。
「全てはこの少女の勝手な行動です。……ったく、蘇生したからいいようなものの。素人が……」
 レムリアは夫婦であるという二人を見た。
 怒りではない。哀れな者を見る表情だ。
「帰りたまえ」
 院長は唐突にレムリアに命令し、エレベータホールの方向を指さした。
「……君は医師でも看護師でもない素人なのに勝手なことをしたんだ。事故が起きたらどうするつもりだったんだ。冗談じゃない」
「そうですよ。勝手に」
 婦長が便乗する。無論、表向きの理由はそれだが、実際にはレムリアの行動は病院を出し抜き、コケにしたことになる。
 ……病院が、“まいかちゃんに心停止が生じる”、という事態の事後を、どう考えていたか、明確に書く必要はあるまい。レムリアはその“見通し”を覆したのだ。院長が“プライドを傷つけられた”と捉えても不思議ではない。
 結果、強権発動。高木看護師が何か言いたげに息を吸ったが、
 それより先に声を上げたのは子ども達だった。
「あんたが帰れよ院長」
「そうだよ。このお姉ちゃんまいか姉ちゃん救ったんだぜ?放っておけってのかよ?」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-084-

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「やった!」
 子ども達から歓声が上がり、祈りが喜びに変わる。レムリアは子ども達の中に飛び込んで行き、片っ端から抱きしめた。
「ありがとう、ありがとう、みんなのおかげだよ!」
 シスターは天へ向かい十字を切る。
 廊下を走ってくる足音。
 院長がドアの向こうに現れる。半ば呆然とした面持ちで立ちつくし、荒い息をしながら歓喜の輪を眺める。
「何をしている?これは?」
「蘇生しました。ドクターのご意見は伺っておりましたが……。あ、自発呼吸もありますのでAED外しますよ」
「ちょっと待て」
 高木看護師のセリフに、院長は不承不承、という表情で、まず聴診器をあてがった。
 次いでAEDを心電図測定モードとし、しばらく波形を眺める。
「……これで来たらと思ったが……うーむ。戻ったか」
 言葉尻を単純に解釈すると極めて残酷に聞こえるセリフをひとりごとのように言い、AEDのスイッチを切る。
 そこまで行い、非常リュックと、新品パッケージを開けたが故の袋や箱等を見、果たして院長は不機嫌になった。
「このAEDは非常用の……」
「非常事態でしたから使いましたが何か。普通に徐細動器があれば使わずに済んだんですけどね。彼女の状態ならベッドに常備していてしかるべき。それとも何ですか?もはや必要なかったとかお考えで?」
 レムリアは言った。
 口調に不機嫌な調子をはらんだのは否めないだろう。まいかちゃんに対する病院の見識は、状況を見る限り、心停止の発生を前提としていたが、対処を織り込んだものではない。
 レムリアに怒りが芽生えたと知った子ども達から、一斉に笑いの花がしぼんだ。
 まるで一心同体である。それはすなわち、レムリアと子ども達との間に、信濃町とほぼ同等の“絆”ができあがった事を意味する。
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(つづく)

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【恋の小話】星の生まれる場所(1)

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 駅前バスターミナルの上に作られ、周辺のビル間を結ぶ空中回廊。これをペデストリアンデッキという。都会を中心にままある風景。
 その回廊のそこここに謎のオブジェが配置される。これも、ままある風景。
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(JR八王子の場合・写真:オレ)
 ただ、そんな中の一つ、ガラス板で出来たピラミッドの類似品、“ピラミディオン”に、ショルダーキーボードを背負った女の子が貼り付いているというのは、ちょっと見ない光景。
 何やら一生懸命に手を伸ばして何かを掴もうとしているので、僕は声を掛けた。
「どうしたの?」
「歌詞書いたカンペが……」
 彼女のセリフをこう書いたが、そういう意味だと判ったのは少し後の話。
 カシカイタカンペ、とやらが、ピラミディオンのてっぺんに貼り付いた紙、だと判った僕は、少し勢い付けて駆け上るようにして、その紙を手にした。
「これ?」
 で、文字の羅列で歌詞書いたカンペだ。ショルダーキーボードからしてストリートミュージシャン。風でカンペが飛ばされて、というところだろう。
「あ、ありがとうございます。すいません。あ、あの、お礼と言ってはアレですけど、良かったら聞いてってくれませんか?お忙しいならいいですけど」
 まだ春先、服装的には寒さ対策万全、というところだろう、頬染めた彼女はビラを一枚差し出した。風になびく長い髪。
 自己紹介と向こうしばらくの行動予定を印刷したもの。フライヤーという奴だ。
 アーティスト名はひらがなで「あやな」大学生とか。
「いいよ」
 電車一本飛ばしたところで晩飯は逃げない。
「わぁありがとうございます」
 星の歌。幼い頃見上げた星と、夢舞台に立ちたい自分と、重ねた歌。
 声質は好きだ。だがしかし、これはそれこそ駆け出しのストリートさんに良くあるパターンだと個人的には思うのだが、声の範囲と曲のキーが合ってない。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-083-

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 それ自体は、恐らく、災害時などに備え用意していたのだろう。そして、どうやら……あってはならないことだが、通常の診察・治療に用いる除細動器を借り出す許可が取れず、これを持ってきたらしい。
 と、看護師達の間に一瞬躊躇。
 その理由をレムリアは大体読み取った。呼吸を高木看護師に代わってもらう。
「勝手に使ったのは部外者の私ということで。凄いですね。人命すらも合理化の対象ですか。それともとりあえずの搬送先が無い?」
 レムリアは相原と同じ皮肉を言い、さっさと装置の封を開き、パジャマの下にシール状の電極をセットし、ケーブルを繋ぎ、電源を入れた。まいかちゃんの担当看護師に年齢を再度確認し、性別をセットする。
 合成音声。『今から心電図を解析します』……各自まいかちゃんから手を離し、ベッド付属の電気装置のケーブル等も外し、心臓マッサージも一旦停止。
 解析が終了。心室細動という判定。
「大丈夫」
 レムリアはひとこと言った。
『徐細動処置を行います』
 ボタンを押せの指示が出、当該のボタンが赤く点滅する。
「みんな離れて。そして祈って」
 レムリアはボタンを押した。
 AEDが作動。ブザーが鳴り、まいかちゃんの身体が大きく動き、そして戻る。
 そのまま少し。
 心電図が再度解析される。
 多少の乱れの後、レムリアは心臓マッサージを再開しようとし、その手を引っ込める。
 一定のリズムを刻んで波形が描かれ始めた。
 成功。問題ない旨の音声。医師を呼べと繰り返す。
 この際看護師達に瞠目(一回で蘇生したためか?)が見られたが、レムリアは気付いていない。
 由利香ちゃんが手首を握る。
「脈拍感じます」
 それから程なく、まいかちゃんが大きく音を立てて呼吸を再開した。
 脳への血流が滞ったせいもあり、意識まで回復したわけではない。ただ、呼吸心拍とも安定しており、危機を脱したのは確かである。
 レムリアは子ども達にVサインを作って見せた。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-082-

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 レムリアはその間に由利香ちゃんの右手にまいかちゃんの手首を持たせ、左手は脇の下へ触れさせた。
「あなたの方が判りやすいと思う。心臓マッサージに合わせて手首に脈拍を感じる?」
「うん。弱いけど動きはある」
「OK。それが感じないとか、脇の下体温低いなと思ったら知らせて」
「判った」
「お願いね。あ、呼吸私が代わります」
 レムリアは担当看護師と交代した。
「あなた、普通の女の子じゃないね」
 看護師の問いにレムリアは一瞬だけ笑顔で応じ、呼吸開始。と、そこで出て行った看護師の1人が戻って来る。
「ドクターだめだ。クスリは3つ持ってきた」
「だめ?だめって何?」
 二人は婦長を見た。
「だからこの子は……い、院長先生を呼んできます」
 婦長はいたたまれなくなった事もあろうか。逃げるように出て行った。
「高木は?」
 戻ってきた看護師が訊いた。
「AED」
「了解。あ、私代わります」
 戻ってきた看護師は相原からマッサージを更に引き継いだ。
 相原は手首をこね回しながらふぅと息をつき、
「とりあえずここに運べってシステムはないのかねここには」
 グチりながら子供達の様子を見る。子ども達が一言も発せず、静かだからである。
 そして、相原の目が見開かれた。
 祈りがあった。
 シスター二人が前に出、子供達と共に、手を合わせ、じっと、祈っている。
 祈る子供達に見守られ、女性達のCPR……心肺蘇生。
 廊下を走ってくる音がし、その高木看護師が“非常持出”と書かれたリュックを持って戻って来た。
「許可取れとかふざけたこと言うからこれ持ってきた」
 高木看護師は言いながら、リュックの中から体重計に近い形態、サイズのその機械を取り出した。
 AED。automated external defibrillator……自動体外式除細動器。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-081-

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 レムリアがいなかったらどうするつもりだったのか。どうなったのか。
 一連の彼女の動きが余りに場慣れ(当たり前だが)しており、看護師達にとけ込み連携していたせいもあろう。婦長がそこでようやく気づいた。
「ちょっとあなた勝手に何を」
「突っ立ってないでエピネフリンとか持ってきなさいよ!学、ペンライト」
 レムリアは婦長に一瞥もくれることなく、近づく相原に手のひらを出す。相原は心配そうに見守る子供達をごめんごめんとかき分け歩き、レムリアのポーチからペンライトを取り出し渡した。ちなみにエピネフリンは血圧上昇剤。
「しかし……この子に関するリスクは……」
「由利香ちゃん」
 レムリアは言い訳がましいセリフを遮って呼び、傍らのその手を握った。
 その額に汗。
「ちょっと代わって。心臓マッサージ」
「えっ」
 レムリアは由利香ちゃんの手を取り、その両の手のひらを重ね、まいかちゃんの胸骨の上に載せ、彼女の手もろとも力を込める。
 ぐっと胸骨が沈む感触がある。
「体重かけて、そう。今の感じ覚えた?」
「う、うん」
「じゃ、それを繰り返す。お願い。すぐまた代わる」
 レムリアは少女のまぶたを開くと、相原から受け取ったペンライトで瞳を照らした。
「大丈夫、反射あります」
 言って振り返り、看護師と目を合わせる。2人とも少しの笑みを浮かべる。
 マッサージを相原が変わる。経験のある方はご存じと思うが、心臓マッサージ(胸骨圧迫式)は、胸部がベコッとたわむくらいの力を必要とする。これを1分間に80回だの100回だの行うのだが、施術者は大変な疲労を伴う。畢竟、体力だけは優れる男の方が適任である場合が多い。ちなみに相原はレムリアの素性を知る以上、講習会に参加して体得している。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-080-

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 実は以前、信濃町に入院している際に、レムリアの向かいのベッドでやはりお年寄りが心停止になったことがある。この時彼女は相原に伝える意図もあったろう、心停止、人工呼吸と日本語で状況を口にしている。
 だが、この場でそう言えば子ども達が不安がる。そして同業者には略号で良い。
 レムリアは心臓マッサージを始め、動きながらベッドの下や周囲を見る。探している。
 一方、看護師達は、レムリアを手伝うでなく、一様に驚きの表情。
「徐細動器は!こんな強いの入れるのに用意してないの?」
 レムリアは誰にとも無く詰問を発した。比して看護師達は互いの顔を見合わせた。
 それはさながら予定外の状況に出くわした反応である。無論、その一つはレムリアが動いたこと、ではあろう。だが、この状況にはそれ以前の違和感が存在する。
「彼女の状態なら充分そういう……」
 発言の中身、強い副作用を伴う薬を投与する、それは心臓の筋肉に負担を与える。だから、血流を巡りやすくするため横たえた状態で、呼吸等補助が必要。ひっくり返して心臓の筋肉が止まりやすい状態。
 想定される事態への対処はしておくべき。なのになぜ。
「あ、はい。いえそんなことは」
 言いかけるレムリアに、まいかちゃんの担当看護師は絆されたように答えると、婦長を見、次いで躊躇があるのかやや緩慢な動きで、他の二人の看護師へ目配せした。
「じゃぁ私はドクターを」
「機器用意します」
 看護師達が慌ただしく走り出し、担当看護師はまいかちゃんの顔の方へ回り、人工呼吸を開始する。
 そこへ相原が首をかしげながら室内後方より歩き出す。彼にその動作をさせたのも他ならぬ違和感である。
 違和感。すなわちこの命の危機的状況に、対処に二の足を踏むような、ことごとくワンテンポ遅れの動き、病院にあるまじき反応はどうだ。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-079-

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 果たして婦長の顔が怒りを帯びる。
 そして婦長は……看護師を統括する者にあらざる軽率さで、怒鳴った。
「黙りなさい!」
 “ロッテンマイヤー”婦長は、調子づく子ども達を一喝したつもりだったのだろう。
 子ども達がびくりと身を震わせる。
 ベッドの少女も、頭の真上で怒鳴られ、身を震わせた。
 だが、彼女においては、単に怒鳴られる以上の深刻な結果を与えた。
 レムリアに対し、院長が事前に取った、あらかじめショーの内容を聞くという行動は、少なくとも正しかった。
 “驚かしてはいけない”
「う……」
 セリフの形で記することは不適当であるかも知れぬ。それは彼女が声として発したというより、気道を通過した空気が、声帯を震わせて出た音。
 ベッドの少女が前のめりに倒れ込む。頭から外れ、ベッドの上に落ちるティアラ。
 呼吸補助装置が異常を感知し、警報を発した。
 非常事態が生じたことは子供達にも容易に知れた。
「まいかちゃん!」
 少女の名前であろう。別の女の子が声を出す。
 場にいた看護師3名が動き出す。レムリアは少女の手首を取る。
 まいかちゃんの担当看護師がベッドのペダルを踏んだ。
 起こされた寝台が倒れ、少女の上半身が仰臥の姿勢へ。レムリアは少女の胸を見、手で触れ、口元に耳を持って行く。
「徐脈徐呼吸」
 レムリアは言った。意味、脈拍呼吸とも所定の回数以下。
 付き添いの看護師が円い目でレムリアを見る。
「あなた……」
 レムリアは少女の胸に耳を当てた。
「これ呼吸補助だけ?」
 尋ねると看護師は「はい」と頷いた。
「判りました。cardiac arrest。人力でCPR開始します。ドクターおよび除細動装置の手配願います」
 それは心停止であり、心肺蘇生を始めるという意味。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-078-

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 その物言いは、ある程度説得力を持つように聞こえるが。
「そうだと思うのなら何故このイベントをお認めになったのですか?来られない子に判らなければやっていいと?」
 レムリアは刃向かった。
「わけが判らない。受付は二つ返事。院長は無関心。そして婦長さんは……。だけどカメラマンがスタンバイ。一体どうして欲しかったんですか?マジックショーが“あったことにしたかった”だけですか?子供達が楽しそうにしてるの悪いことなんですか?それこそ神様は何をお望みなのでしょう」
「あんた、“ロッテンマイヤー”かい?」
 レムリアに続き、苦言を呈したのは、壁に寄り掛かって見ていたカメラマン氏。
「……な」
 予想外の人物から意表を突いた発言を受けたせいであろう。婦長は言葉が出ない。
「知らんのか。小児病院の看護婦が」
 じゃぁしょうがねぇとばかりにカメラマン氏が苦笑する。読者各位におかれては、名作“ハイジ”において、アルプスの少女ハイジを些細なことで厳しく叱りつけ、束縛する女史であることはご承知であろう。
「そ、そんなことはありません。見ました……テレビで」
 婦長のセリフはボリュームが尻すぼみ。
「アーデルハイド!」
 アニメにおいて、同女史がハイジを叱りつける際の口調を男の子が真似する。
「アーデルハイド!。廊下は静かに歩きなさい。神様が見てますよ」
 別の男の子が追従し、みんなして笑う。なおそれは、子ども達が普段婦長に言われていることを、アニメの口調で言い換えた物であると容易に推察される。
 昨日出会った女の子の反応の理由。……神様に対してとんでもない責任転嫁。
「あんたのやってることは、ハイジを知ってる人間のすることじゃないな」
 カメラマン氏は言い、立ち上がった。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-077-

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「どうぞ、お姫様」
 レムリアはプラチナのベースにジュエルを散りばめた王女の徴(しるし)を、ベッドの少女に戴冠。
 少女はそれを見てニコニコしていたが、載せられた重みに気が付き、その手を頭の上へ伸ばそうとする。
 バランスを崩しそうになる。一緒にいた看護師が手を伸ばし、触れた感触に目を剥く。
「あなたこれは……」
「私も女の子のなれの果てですから。女の子なら。一度は」
 プリンセス……それは女の子の多くが抱く、“一生に一度は……”という夢。
 一生に一度は。
 この時、後部のシスター二人が何事か気付いたように言葉を交わす。
 そして、傍らで腕組みしていた相原に。
「あの、失礼ですが、彼女の本名は……いえ、あの方の本当のお名前はメディア様と申されるのでは……」
 シスターは真剣なまなざし。
 どうしてそのような質問に至ったかの経緯は簡単である。医療ボランティアの派遣先で受け皿となるスタッフ・組織には、現地の宗教関係者が関わる場合が多いからだ。
 魔法のようなマジックを操り、子ども達を笑顔に変える、王女の素性を持つ娘。
 目立たないわけがない。しかも彼女のなしたことと、その結果を見た時、神の道を選んだ人々が何を感じるか。
 相原はどう返答しようかと一瞬考えた。
 その時だった。
 ルーム入り口のドアがガラリと開かれる。
 内部のイベントは周知であるから、その開け方は無遠慮と言える。
 婦長であった。
 子ども達の笑顔が一気にしぼんだ。
「はいそこまでです。騒々しい。こんなに騒ぐとは聞いてませんよ」
 氷の剣を突き立てたような、怜悧な物言い。
 レムリアは婦長に面と向かった。
「まだ時間には早いはずですが?それにこのくらいなら別段うるさいとは……」
「いいえ。遠くまで聞こえます。来られない子がこの騒ぎを聞いたらどう思うでしょう。神様は見ておいでですよ」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-076-

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「そっちが本物ですよ」
 カメラマンが慌てて見回し、内蔵メモリの画像を確認し、安堵の溜め息。
 次いでギョッとしてレムリアを、レムリアのシルクハットを見る。
 いつの間に?そう思うのは当然のこと。レムリアはカメラに、カメラマンに一瞬も触れていない。
 しかしレムリアは、“タネも仕掛けもございません”とばかりに、シルクハットの中を見せるだけ。無論、空っぽであり、収めたであろうイタズラカメラは、既に影も形もない。
 カメラマンは毒気を抜かれたように笑った。
「こりゃ、参った」
 追い回す表情は一変、カメラマンは気のいいおじさんの表情になって、頭をポリポリ掻き、壁沿いにしゃがんだ。
 レムリアは笑顔を見せ。
「という感じでテレポーテーション。こっちの帽子からこっちの帽子へ。やってみたい人!」
 数人が手を挙げる。もらったミニカーなりキーホルダーなりを、レムリアの帽子に入れると、由利香ちゃんの帽子から取り出せる仕掛け。
「すっげー。すっげーよお姉ちゃん」
「どうやってるの?」
「みんなが楽しんでくれてるからだよ。さて、後から来た彼女にはまだ何もプレゼントがなかったよね。由利香ちゃんちょっと」
 二人してベッドの傍らにシルクハットを並べる。
「どっちがいい?」
 女の子は指を動かそうとするがしかし。震えるだけで意志通りにならず。
 悲しそうな表情でレムリアを見る。
「判った」
 レムリアは、由利香ちゃんと、シルクハットのツバの部分同士を向かい合わせ、カポっと突き合わせた。
「ワン、ツー、スリー」
 数えて、開く。タマゴの殻を割るように。
 蛍光灯下にその輝きは周囲を圧した。
 ティアラ。レムリア自身の、王女メディア・ボレアリス・アルフェラッツの所有物。
 女の子達からどよめきがあがる。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-075-

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 両の足を交差させて上半身を折り曲げ、シルクハットを持った腕を、円を描くように動かし、頭を下げる。
 重病の少女と、近い年代の少女達によるボランティアのマジックショー。しかも一人は視覚にハンディを持っている。
“絵になる”と踏んだのかも知れぬ。鳴りを潜めていたシャッターが連続して切られ、フラッシュが焚かれた。
 信じられない出来事が起こったのはその時である。
「あんた、邪魔だぜ」
 最年長であろうか、小学校高学年、という感じの、男の子が言った。
 頭髪が抜け落ちているが、強い薬の副作用である。
 静まりかえる。カメラマンに向けられる子供達の視線。彼がこの場で唯一“浮いた”存在なのは確かである。子供達は確実に楽しんでいるのだが、そこをオトナの勝手でちょこまか動き回られては、興を殺がれる。
 うつむくカメラマン。しかし、レムリアは振り向くと、言った。
「どうぞ」
 女の子のベッドに寄り添い、揃ってカメラに顔を向ける。
「ああ、悪いね」
 カメラマンはぎこちない動きでしゃがみ、カメラを向け、ピントを合わせ……。
「(意図したこと形をなさず。流れとどまらず光よそそげ)」
 耳元で聞こえたであろうレムリアのつぶやきに、ベッドの女の子は目を見開き、レムリアを見た。
 シャッターが切られた。
 カメラのレンズの部分から、ポンとオモチャの花が飛び出た。
「えっ?」
 大爆笑。
 カメラマンが慌ててカメラを見回す。再びシャッターを切ると、今度はストロボ発光機から、びっくり箱よろしくバネ仕掛けでピエロの指人形が飛び出した。
「失礼しました。まぁ、そんな血眼にならず、ひととき楽しんで行っては下さいませんか?」
 レムリアは笑顔を見せて言うと、花と指人形がびよんびよんしているカメラを受け取り、自分のシルクハットに収めた。次いで由利香ちゃんの持っているシルクハットから、別のカメラを出して記者に渡した。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-074-

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 一通りプレゼントが行き渡ったところで、手品少女二人は、部屋の前後に離れる。レムリアは腕組みしている相原の頭からシルクハットをひょいと取り、その際、相原傍らのシスター二人に会釈。なおここまでの間、カメラマンは“見せ場”が次々に、しかも離れた場所で起こるため、シャッターどころかピント合わせすら一度も成功しなかったと付記しておく。
「さて次は不思議なテレポーテーション手品です」
 そこでルームのドアが開き、移動ベッドに横たわった少女が看護師に伴われ現れる。輸液(点滴)装置がセットされ、酸素吸入補助装置のパイプを鼻にセットし、頭にはバンダナ。表情は一見して辛そう。
 彼女こそ、魔法を求めた当の女の子であった。辛そうな表情のゆえは、痛みが間断なく続いているせいであろう。年齢は9歳というが、憔悴の見えるやつれた身体は、表情の幼さを除けば、成人以上の年代かと思わせる。
 少女のベッドの電動装置がペダル操作され、上半身が起こされる。
 レムリアはベッドの動きが止まるまでの間、まばたきもせず彼女を見た。
 下唇を噛んで目を閉じる。端から見れば次の出し物を考えているようだが、その仕草の真意を知っているのは相原だけ。“一瞬で状況を把握する”。ちなみにこれは“薬剤の投与”であると知る。端的には大げさな注射と言えば理解しやすいか。極めて強い副作用を有するため、あろうことか投薬自体が命がけなのだ。
 レムリアは相原をちらりと見る。相原は腕組みしたまま頷く。
 レムリアは気を取り直したように、女の子のベッドに近づき、シルクハットにスーツ姿、を生かして、中世貴族が姫君にする風に、恭しく挨拶。
「本日はわたくしのショーにお越し頂き誠にありがとうございます」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-073-

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 レムリアは言い、男の子のズボンのポケットを指差し、指先をぱちんと鳴らした。
「え?」
「ポケット見てみましょう」
 男の子が半信半疑という顔でポケットに手を入れると、きちんと組み立てられたバスのミニカー。
「あ、すっげー!」
「いいないいな~」
 他の男の子達から羨望の眼差し。ずるいという声もある。なお、ただ見て歓声を上げていただけの子供達が、レムリアと会話するようになったことに注意されたい。
「ハイハイ判りました」
 レムリアは笑って。
「さっきの紙ヘリコプター拾った男の子手を挙げて!」
 応じたのは5人か6人か。
「そのヘリコプターの紙を開いてみましょう……」
 レムリアのセリフに誘われて、男の子の1人がカミコプターを開く。
 そこにはトラック。
「あっ!」
 残りの子供達もめいめい開き、トラックの存在を確認。
大喜び。だが、この時点であと3人ほど何ももらっていない男の子がいる。悲しそうな目でレムリアを見る。
「由利香ちゃん、帽子を取ってください」
「はいはい」
 由利香ちゃんがシルクハットを取る。
レムリアはそのまま、彼女を悲しそうな男の子の元へ連れて行った。
「お手々出して」
 男の子が手のひらを差し出す。そこに由利香ちゃんがシルクハットを伏せてかぶせ、
「ワン、ツー、スリー」
 パッと取ると手のひらにスポーツカー。
 その時女の子でカミコプターを取った子が、同様に紙を開いた。
 中に入っていたのは糸とビーズ。
 更にもう一人の子の紙には、宝石を模したプラスチック。糸通しの穴が空いている。
「それは、今日ここに来られなかったお友達に、作ってあげてくれるかな」
 レムリアは言った。つまり、糸とビーズと、プラスチックの宝石でネックレスなどアクセサリーを。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-072-

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 ショーの開幕である。オトナたちのくだらない駆け引きなど、どうでもいいとばかりに。
 子供達から再度拍手が沸き上がる。
 まず由利香ちゃんの手のひらから、レムリア自身の手のひらから、ぬいぐるみの付いたキーホルダーをを次々出す。握って開いただけで出てくるので、マジックとしては極めて鮮やかだ。子供達の声は楽しそうというより驚きに近く、それはオトナ達についても、身を乗り出して覗き込むという動作から、同様に驚きを与えているようだ。
 カメラマンの動きがにわかに慌ただしくなる。とにかくタネを仕込んでいる風は一切無いのだ。“その瞬間”を捉えようという、カメラマンとしての本質的欲求が生じてもおかしくない。
 しかしカメラマンが幾ら二人を先回りし、レンズを向けても、その瞬間は撮れない。レムリアにレンズを向けたら由利香ちゃんが出す番だったり、シャッターを切るタイミングが微妙にずれたり。
 ことごとく、決定的瞬間をカメラに収めることが出来ない。
 二人はカメラマンを煙に巻くように椅子の間を歩きながら、ぬいぐるみを出しては女の子に渡した。
 一通りに行き渡る。
 こうなると我慢ならないのが男の子である。一人が立って手を差し出す。なにかちょうだい。
「あらボクも欲しいの?」
「うん」
「そうか。じゃぁ、由利香ちゃん来て」
 レムリアは由利香ちゃんと二人、男の子の前に自分たちの拳を並べる。
「さぁこの4つから選んで」
 まず由利香ちゃんの右手。
開いたらバスのミニカー……のボディだけ。
「なんだよこれぇ」
 不機嫌そうな膨れ面で今度は由利香ちゃんの左手。そっちは車輪があるだけ。
 じゃあとばかりにこじあけたレムリアの手には、座席の部分と窓ガラス。
「全部外れじゃんよ!」
「アタリはぼくのポケット」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-071-

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 これには堺さんが動いてくれた。カメラマンに説明する。
「すいません。新聞記者さんだそうです。広報部が……」
 堺さんは戻ってきて言った。
 それは病院が意図して、この企画を喧伝に利用しようとしていることを意味する。
 いや、ひょっとして、そうできるから認めたのではないか?
 レムリアは眉をひそめた。なお、この間に単なる運転手に過ぎない相原は、客席後部へ回り、腕組んで直立し、オトナの観客に加わった。オトナの観客には他に、キリスト教系の病院ということもあり、装束をまとったシスターが2名見え、相原と会釈。
 院長と婦長はいない。
 ステージ脇に視線を戻す。
「私は病院の宣伝に来たんでしょうか、子供達のために来たんでしょうか」
 レムリアはシルクハットを脱ぎ、天地をくるりとひっくり返した。
 客席に目を走らせる。冒頭からのトラブルに、子供達は不安な表情。
「すいませんごめんなさい」
 堺さんが頭を下げる。
 そのタイミングで、レムリアは、シルクハットをフリスビーよろしく、客席へ向けて投げた。
 それは怒りにまかせてモノを投げた……ようにも見えたが。
 シルクハットからは、回転の遠心力に乗り、ひらひら舞う物が周囲に振りまかれた。
 紙を折り曲げてプロペラ状にした“カミコプター”である。くるくる回転しながら子供達の間へ落ちて行く。
 子供達からわぁと声が上がり、それを取ろうと手を伸ばす。シルクハットは客席後部に達し、相原がその手に収め、自分の頭の上にひょいと載せた。
 虚を突かれた記者らオトナ達は呆然。
「どうも皆さんこんにちは。マジシャンの勉強中の姫子と、こっちは由利香です。今日は少しの間ですが、どうぞ楽しんで行ってください」
 レムリアはカメラマンを、そして堺さんをも無視するかのように言った。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-070-

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 堺さんを待ち、6階へ。
 エレベータから下りる。こちらも引き続き静かなフロア。
 小児病棟だからといって、いつも賑やかとは限らないであろう。ただ、“楽しさ”の有無の違いは歴然だ。
「子供たちいるの?」
 由利香ちゃんが呟いたほど。
 レクリエーションルームへ歩く。その道中で、堺さんがようやく由利香ちゃんの目に気づいたらしく、相原に耳打ちして確認を取った。レムリアがアシストしているからやっと判ったという。“そういう風に見えなかった”そうだ。
「失礼ですが、マジックの助手ってどういう風に……」
「そこが彼女のマジックなんですよ」
 相原はそれだけ言った。
 レクリエーションルームに到着する。
 ドアの前で止まり、外から伺う中は静かである。誰もいないかと思うほどだ。特に、肝心な病の少女はどうか。やはり昨日ムリにでも会っておいた方が良かったか。レムリアの表情にはやや不安の色。
 ともあれ。
 レムリアはウェストポーチを外して相原に渡した。フッと小さく息をし、由利香ちゃんを促し、用意してきたシルクハットを、二人してかぶった。
 ドアを、開く。
 すると、まるで図ったかのように拍手の嵐が一行を迎える。ステージには色とりどりの折り紙やらモールやらで飾り付けがされ、スポットライトも用意。客席部分にはパイプ椅子に座った子供達の他、女性看護師に伴われ、車いすや移動ベッドの子供達の姿もある。
 更に、カメラマンとおぼしき頭の薄い中年男性が現れ、フラッシュが瞳を射る。
 レムリアは慌てて由利香ちゃんの目を腕でカバーする。彼女の瞳孔は開いたままの状態だからである。傷付いているのは伝達神経系であり、網膜自体は健全である可能性が高い。ならば、強い光で網膜痛める必要はどこにもない。なお、彼女が常時サングラスをしているのはそういう意図である。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-069-

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 レムリアは、言った。
 以上、彼女レムリアによる一連の言動によって、実はそれこそ、この母子の心理構造に劇的変化が生じたことは、敢えて書くまでもあるまい。霊やイエスの実在性は主題では無い。囚われないで頂きたい。
 母親は一度、涙を拭った。
 そして、娘の手を取り、言った。
「由利香、生まれてきてくれて、ありがとうね」
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※1:2008年末より日本でも流通開始
※2:通常細胞を機能分化前の細胞に変質復古する「iPS細胞」の開発で日本人が2012年ノーベル賞。これから所望の細胞・器官を産生する方向へ研究が進む
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-8-
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 ショーの衣装は面倒なので店から着ていった。助手役を由利香ちゃんにバトンタッチしたので、相原はマネジャーよろしく出勤スーツである。
「……とっちゃんぼうや」
「言葉を慎みたまえ。君は運転手の後ろにいるのだ」
 著名なアニメをパロディしたその会話に、由利香ちゃんがクスクス笑う。
 出会った当初は“おどおど”した感じが拭えなかった彼女であるが、今はすっかり馴染んでおり、雰囲気も明るい。これは、単にレムリアと親好が深まった、というだけではなく、彼女の“居場所”が出来た、という事もあろう。
「あードキドキする。こういうの初めて」
 由利香ちゃんは胸元を押さえた。
「大丈夫。昨日と同じ」
 レムリアはその手を握った。
 病院に近づくにつれ、レムリアの方が、表情がこわばってくる。
「……どうしたの?」
 レムリアの変化に由利香ちゃんが気づいた。
「気にしないで。ただ、見知った病院じゃないからさ……」
 クルマを止めて受付へ。到着は10分前である。その旨は連絡してある。
「お待ちしておりました」
 引き続きにこやかな、いや昨日より笑顔がはじける受付。
 ここの応対は普通の病院並みか、それ以上なのだが。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-068-

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「そういえば……」
 と、由利香ちゃん。
「その話に出てくる彼って、治った後、自ら物乞い経験をカミングアウトしたり、なんか悪そうな宗派と真っ向渡り合ったりするよね。差別されるかもしれないのに、異端扱いされるかも知れないのに、そんなのどうでも良くなっちゃった……」
「かも、知れません。もちろん、キリストは本当に一瞬で彼を治したのかも知れません。それはそれで彼の能力は気功に比して遙かにレベルが高いからだと言えます。でもどちらであれ、盲目の彼にとって、超絶の体験であったことには変わりありません。彼はイエスとの出会いで精神的にめちゃくちゃ強くなった、という可能性は少なくとも確かでしょう。ただ、ここで一つ注意したいことがあります。キリストは他にも色々手当を見せますが、それで治った人々は、決して彼を『頼っていた』、のではなく、『信じていた』、ということです。この信じる、という言葉には、宗教的努力、信心深さという意図も含まれますが、よくある神仏におすがりして、金だけは出すので何とかしてくれ、では決してありません。信じることに対価を求めていた人たちではないということ」
「ただ行くだけの気功に効力はない」
 相原が付け加えた。
 レムリアは頷いて……由利香ちゃんを抱きしめたままなので、頷いたことは彼女にも判る。
「私のやりかた聞いただけの気功が、由利香ちゃんに効力を持ったのだとしたら、それは、あなたが私を受け入れてくれたから。私からあなたへの通り道が、あなたの中に出来たから。霊的なエネルギーであるなら、その通り道はココロでしょう。あなたがココロを開いてくれたから、私からあなたへ流れることが出来た。
 そして全ての原点は、あなたが、前を向いて進もうとして、秋葉原へ来たから。あなたに必要なのは、金が目当ての気功じゃない。だってそういうエネルギーの源泉たる方には、そもそもお金など意味はないでしょ」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-067-

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「そんなことを言う人間は、言われた人がどれだけ傷つくか判ってない。つまり人の心の判る人間なんかじゃない。だから当然、心だけの存在である霊など判るわけがない。私はそう思います。誰かが悪いわけでも、何かが悪いわけでもありません。ただ、そのおかげで、私は、由利香ちゃんと出会えました」
 レムリアは言い、母の瞳を見つめた。
 母は、レムリアを見返した。
 その母の瞳が見開かれ、涙が堰を切ったようにとめどなく溢れてくる。レムリアは傍らに少女を抱きながら、他方の手を母へと延べる。相原は何も言わず、そうして手を取り合い、或いは見つめ合う女性達の有り様を、少し距離を取って見ている。
 レムリアは今、この母子の心に押しつけられ、重石のように居座り続けた責任感と罪悪感、「迷惑掛けてばかり」と言わしめた心理すらも、汚泥を流す清流のように押し流し、涙として体外へ取り払ってしまった。
 少しの時間が流れた。
 涙が収まるまで待って、レムリアは静かに、そして少し厳かに、口を開く。
「手当という行為を、キリストを例に、気功や難病完治の事例と比較してみます。福音書の記述では一瞬で治ったことになっていますが、ひょっとしたらそれは文書(もんじょ)化する際の誇張で、実際には少しずつ治っていったのかも知れません。むしろその方が普通でしょう。そして、キリストの行為自体は、神サマに直結した人ですから、そこから与えられた霊的なエネルギーを、その男性に流したのだ、と解釈してほぼ間違いないと思われます。するとここに、体のバランス回復、及び、彼に出会ったという超絶の体験によって心の持ちようが劇的に変化、“どうでもよくなっちゃった”の域に達し、その結果、自然治癒力が驚異的に活性化され、生まれつき失われていた視力を得た、というシナリオが描けます」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-066-

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「そうすると気功というのは?」
「それだけ捉えてインチキというのは正しくない。と言えるかも知れません。但し条件があります。よく病気やケガを治すことを“手当て”と言いますが、これは本来病んでいる部分に手のひらを当てたり、かざすことを意味します。動作は気功ソックリですよね。この大家が例えばキリストさんです」
 レムリアは言った。譬えとしてこの大工の息子がスッと口を突くあたり、彼女が欧州の出自であること、および、魔法が過去キリスト教と繋がりを持っていたこと、と、無関係ではあるまい。ただ、多く日本ではこの手の話が登場すると強い拒否反応が示されるものであるが。
「そして、シロアムの池に行って洗いなさいと言われた。そこで、彼は行って洗い、目が見えるようになって、戻ってきた」
 由利香ちゃんは新約聖書“ヨハネによる福音書”の一節をすらすらと口にした。おっと、宗教臭いと読み飛ばさないで頂きたい。由利香ちゃんが即座にこの一文を持ち出した理由を、レムリアは見抜いている。ちなみにこの部分は、生来視力を失っていた男性が、イエスによって見えるようになる、という内容である。
「ひょっとして悪霊のせいだとさんざん言われましたか?」
 レムリアは尋ねた。
「ええ。はい」
 母親が目を伏せる。その悪霊を祓えば……。典型的な霊感商法詐欺である。そしてその過程で、由利香ちゃんは聖書のこの文言を再現してやる、など言われたのであろう。内容が内容だけに憶えてしまったに相違あるまい。
 目は病気が原因である。しかも由利香ちゃんが物心つく前の話。意図したことではない。
 それをいきなり悪霊のせいにされる。そして、悪霊が取り憑いたのは自分たちのせいだ、と言われる。
 レムリアは衝動的とも取れる動作で由利香ちゃんを抱きしめた。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-065-

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 母親の表情が沈んだ。
「現在の医学では、限界です」
 レムリアは躊躇せずきっぱり言った、但し、その手は由利香ちゃんの手を強く握った。
 由利香ちゃんの鼓動の乱れが、手指を介して伝わってくる。その手をレムリアは両の手で包む。
「現在では、です。最新情報的なことを申し上げますと、まずHib対策自体は良いワクチンが開発され、有効であることが判っています。これは予防という方面で活用されます(※1)。一方視力の回復ですが、これは細胞再生というバイオ面(※2)、電気信号を神経細胞に流すという電子技術面双方から、アプローチが続けられています。時間こそ掛かるでしょうが、不可能という結論を私は知りません」
「そうですか……では待つしかないと。気功はやはり何の作用もないんですね?」
「えーでも姫ちゃんにやってもらうとほわ~んってなるけど?」
 由利香ちゃんはレムリアと手のひらを合わせる。
「それについては解釈が難しいのですが」
 レムリアは前置きして。
「気功というのは、体内を流れる何らかのエネルギー……今は霊的な流れとなっていますが、このバランスを取る物だとこの人から聞きました。流れの方向をどちらかに傾けず、プラスマイナスゼロに保つ」
 “この人”と指差したのは相原である。
「その結果として、躁でもなく鬱でもない、精神的な安定が得られます。その次に身体的な不満点が解消されて行く。これが大まかな流れでしょうか。以上がまず一つ。
 その一方で、不治の病が何かの弾みで治ったという例も実際に存在します。そして多くの場合、治った人は、臨死からの回帰や形而上的存在との邂逅、人命救助などの超絶的な経験をしており、それによって人格や性格、精神状態に変化を来し、良く聞く話として“病気なんかどうでも良くなっちゃった”状態になります。すると逆に病気が治り始めるという経過を辿っています。この場合、不治と言われたものが治ったのですから、それこそ自然治癒力が極めて活性化したと解釈できます。ある意味ショック療法かも知れません。
 この二つの事実から言えるのは、精神の状態が肉体の状態を変えるということです。逆に病気になる事例が神経性胃炎です」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-064-

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「そ……そうですか」
 母親は頷いた。が、表情はキツネにつままれたよう。
 仕方あるまい。言い争いに続いてレムリアが見せたのは、一般的には“超常現象”である。このギャップはあまりに大きく、突拍子もない。
 順序立てて説明した方が良さそうである。レムリアはHibというフレーズに男が飛びつくかどうかで反応を見た、と、まず言った。Hibはヘモフィルス-インフルエンザb型菌(Haemophilus influenzae Type b)のことである。略してHib、ローマ字読みしてヒブ。由利香ちゃんの視力を奪った直接の原因……幼い頃の高熱は、これの感染による。彼女はこの結果視神経を損傷し、視力を失った。ちなみにこのことから判るように、彼女の視力に作用を及ぼすのであれば、視神経の回復という答えが必要になる。従って仮に男がHibを病原菌と認識し、それを自分のピロリ菌と同様に何とかすると主張しても、それは視力の回復自体を意味しない。すなわちHibに反応しなければウソツキ、反応してもHibに対する効能を謳うのならば、内容をよく判っていないということでやはりウソツキ、となる。要するに二重のワナを仕掛けたのだ。なおここで、Hibの名称に入っている「インフルエンザ」という文言は、流行性感冒の病原ウィルスとして余りに著名な「インフルエンザ」とは全く別物(発見時の勘違い)であるので注意されたい。
「要するに姫ちゃんがインチキ追い払ってくれて、二度と来ないように魔法かけたわけね?」
 由利香ちゃんが、合点が行ったらしく要約し、笑顔を見せた。
「まぁ、そういうことになるかな?」
 レムリアは苦笑した。“魔法”というフレーズにちょっとドキッ。
 と、母親が居住まいを正し、恐縮の表情。
「……何かもう何と申しましょうか重ね重ねどうもありがとうございます。……でも、それってことは、由利香の目はやっぱり……」
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(つづく)

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お知らせ

いつもアクセス頂きありがとうございます。まぁキャラクタに恵まれてますわね私は。
プロットが~伏線が~なんも考えてないもん。
さて本題。
「アルゴ・ムーンライト・プロジェクト」(第1部相当分)を、電撃に投稿します。
web公開の投稿は別に構わんとのことですが、投稿後結果が出るまでは引っ込めておくように、とのことなので、当ブログ搭載の各話、およびアーカイブ状態になっている「館」本体の全文掲載ページの公開を4/10を持って一時休止します。
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以上ご了承下さい。何気に凄いこと書いてますがまぁ気にするなw

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-063-

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 まるで強制リセットボタンを押されたロボットである。きょとんとなり、それまでの動作を全て忘れた、そんな表情で店の売場に立ちつくす。
「あの、えーと、私は……」
「いらっしゃいませ。何かご用ですか?」
 レムリアは可愛らしく小首をかしげて問い、落とした携帯電話に足を載せて隠した。
「いえ、あ、すいません、何かの間違いです。失礼します」
 恥ずかしそうな表情を見せ、慌てて店を出ようとする。
「いいえ、二度と来ないでくださいやがれ~」
 引き戸を開けたその背中に、レムリアは『またお越し下さいませ』のイントネーションで、ニッコリ笑って丁寧に言った。ちなみに“くださいやがれ”は、相原から教えてもらったネットスラングである。
「はい、二度と来ません……」
 男は首を傾げながら、しかし素直な口調で応じ、走り去った。
 レムリアはその姿が視界から消えたのを確かめ、携帯電話を拾い上げた。
「もう来ないでしょう。これはコピーを取って。領収書や診察券があれば、一緒に警察へ渡してください」
 レムリアは言い、手のひらから“戦利品”であるパンフレットと“売り込みマニュアル”を出現させると、携帯電話もろとも母親に渡した。
「は、はぁ……」
 母親が困惑に眉をひそめる。言い争いで専門用語が飛び交ったかと思うと、一転して男は“全て忘れた人”になり、立ち去った。理解せよという方が困難。
「申し訳ありません。看護師としてキノコの話聞き捨てならず差し出がましいことを致しました。端的に申しますと、今の男は気功治療院と手を組んだ健康詐欺です。キノコにそんな効能はありません。しかも、しつこいようですので、催眠術を少々用いました。これであの男には“ここは来てはならないところ”という刷り込みがなされたので、来ることは二度とないでしょう。もちろん、代々木の気功も行く必要はありません」
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-062-

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 レムリアは構わず、とどめの一撃。
「あなたはうそつきです。あなたは、あなたの言うキノコと気功のセットは、彼女の状態へ対する作用はおろか、基本的な効能さえも説明することが出来ない。自分で自分の能書きを裏書き出来ないようなものを売りつけるな」
 その口調は13の娘から発せられる物ではない。さながらインチキを叱る教師である。
「小娘に何が判る。専門家でもないのに」
 果たして営業マン氏は言いながらスーツの内ポケットを探る。なお、こういう方向で人格攻撃に移るのは、議論では負けたと自ら認めたオトナが取る、特徴的行動。
「そっくりお返しします。えーと、重病であればあるほど、医学に対する限界感、失望感から、非医学的な手段に強い興味を示す。特に年寄りは神仏にすがるという観点からの関連性からも霊的なというフレーズを盛り込むと落としやすい。……ほう、医学的なツッコミを受けた時には私に電話せよか」
 レムリアはパンフレットとは別の白い紙を広げた。
 営業マン氏は内ポケットから出した携帯電話を取り落とし、真っ青な顔でレムリアを見た。
 ついでカバンの口をガバッと広げて中をかき回す。
「いつの間に!」
 怒りをあらわにレムリアに手を伸ばす。
「返せっ!」
 それはすなわち全てが嘘である証明。
「お母様これっ!」
「え?え?」
 レムリアは紙を丸めて投げる振りをした。
 営業マンが後ろの母親を向く。
 その刹那。
 レムリアは人差し指を自らの唇に当てる。それは静かにして欲しい時の“しーっ”の動作に似て。
「(意図したこと形をなさず)」
 日本語にすると、そんな意味になる文言を小さく口にし、指先を営業マンに向け、フッと吹く。
「……あれ?」
 営業マンの動きが止まった。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-061-

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「あなたこそ言ってることが判ってませんね。その自然治癒力によって細胞が再生するなり病原菌が駆逐されるなりするわけでしょう?彼女の場合具体的にそれがどの組織に起こるのか、説明してくださいと申し上げているんです。相棒も申しましたがHibに作用するならすごいことですからね。で、その肝心なキノコの豊富な栄養成分、拝見しましょうか」
 レムリアは言うと、手の中から何か取りだして広げた。
 丸めた診断書……否、キノコの販売パンフレットである。デカデカとキノコの写真があり、医学博士某のコメント、含まれる成分の化学式、下の方には体験談が載っている。相原の見る限り化学式はどう見ても炭水化物とタンパク質であり、要するにありきたりな栄養素に過ぎない。
 いつの間に、という表情が営業マン氏と母親の顔に浮かぶ。しかしレムリアは止まらない。
「えー『含まれております核酸は、細胞の元である染色体の構成物質です。これが、有機ゲルマニウムなどと総合的に作用しあうことにより、信じられない相乗効果』……難しい言葉並べれば誤魔化せるとお考えですか?細胞は染色体が直接の材料でできてるわけじゃないし、総合的な作用ってモノスゴイあやふやですけど具体的になんですか?何かと何かのシナジーでより高い何かが得られるって事でしょ?何が起こるんですか?」
「それが自然治癒力です」
「ということは、治癒という結果に着眼した場合、服用しない場合と有意な差があるわけですね?だとしたらそれ臨床的にデータ取れますね。取れるはずですね。治癒という言葉を使う以上、そういうデータ揃えて許可得ないと法に触れますもんね」
 法。この文言に営業マン氏から舌打ちが、小さい音ではあったが洩れた。
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(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-060-

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 相原はそれだけ言った。ピロリとは、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因として名高いヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter Pylori)のことであり、迅速ウレアーゼはピロリ菌の有無を検査する簡易な方法の一つである。また、Hibはそれこそ由利香ちゃんを失明に至らしめた感染症の主因たる病原菌の名前。相原はレムリアから聞いて知ったが、敢えて略号のまま言った。
 Hibが何であるか知っていれば、レムリアの質問に対する答えとして、営業マン氏の口から出てきてしかるべき語であるからだ。
 しかし。
「で、これで?あなたはピロリがキノコと気功で消失したと、こう申されたいわけですか?」
 レムリアの方が先に動いた。
「ええ、そういうことです。ですから……あっ」
 レムリアは営業マン氏に二の句を継がせず、不要チラシを握り潰すような仕草をして、“診断書”をそのままかき消した。
 取り戻そうとした営業マンの手が宙を掻き、その目が剥かれる。
 その虚をレムリアの舌鋒が突く。
「結論から申しましょうか。彼女に勧める理由にも証拠にもならないですよこれ。あなたがもし万が一仮に百歩譲って本当に十二指腸潰瘍に罹患して治ったのだとしても、それとこれとは病理が全く違う。で、答えて頂きたいんですが、それが彼女にはどう作用するとおっしゃるので?答えになってませんよ」
 営業マンは即答を避けた。
「ですから」
 一呼吸置いて。
「説明が不足したかも知れませんが、これは保有する豊富な栄養成分が気功との相乗効果で自然治癒力を高めるんです。身体自身の治そうとする働きを活性化させる。私のはその結果の一例としてご紹介しただけです」
.
(つづく)

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