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2013年9月

【恋の小話】星の川辺で-16-

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 接眼20ミリで中心に合わせ、輪のある姿をどうにか確認。9ミリに変換して中心に合わせ。表面のしましま模様を確認。
 もうワンランク上げたい所だが、都会の空では。
 こんなもんだろ。
「土星でござい」
 オレは安達美奈に見せようと思ったのだが、彼女は悠里を抱き上げ、先に接眼を覗かせた。
「土星さーん。はろはろ~。あ、お姉ちゃんもういよ。あたし前にも見たことあるから」
「そう?」
「そりゃ最初に見せるさ」
 オレは言った。
 すると、安達美奈は、悠里をそっと下ろし、胸に手をして目を閉じ、1回深呼吸。
「私は初めて」
 大げさな。普通ならそうなるだろう。でも、彼女に関して至って普通。
 何だろ、突然オンになるトランジスタみたいな。
「ピントはここで」
 彼女が接眼に目を当てたところでオレはピント合わせのダイヤルを手に持たせた。
 その手が震えている。真剣に緊張していると理解する。
 そしてオレは圧倒された。
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 天才のこぶと言いたる天体を我は輪としてこの目で見たる
 数多なる光の粒と同じに見えたるも真の姿は他とは違う
 目の中に手のひらの中に見えつつも実際の距離は幾十億キロ
 麦わらのツバかと思いし輪のありて無数の星のくずの集まり
 斜にしたシャッポをかぶったその姿次に見えるのは十数年後
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 それらは普通、一つ二つの感嘆の言葉で済まされる物であろう。それが彼女の手に(見識に?)掛かると五首の短歌に化ける。
 そこで一旦目を離して短冊と筆ペン登場。片っ端から書き出す。言ったこと全部覚えているらしい。
「勿体ないなって。すごいとかカワイイだけで終わらせるのって。そしたら、母が、昔の日本人はだから短歌や俳句にしたんだって教えてくれた」
 筆ペンの蓋を閉め、
「もっと見ていい?」
「もちろん。他の星?」
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(つづく)

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【大人向けの童話】どくろトンネル-6-

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 “どくろ”の片方はその工場の入り口に相当する側。幽霊の噂もこちら。但し、つぶれた理由は古くてレンガだったから、と聞かされていた。工場とは聞いてない。ちなみに“肝試し”はその入口から入り、潰れた部分まで行って戻るだけ。
「ここ、外側がこうやって崩れて、当時のレンガが出てること、誰も知らないんじゃないでしょうか。聞きませんから」
 サトルは言った。震災の後はまず水、そして食料、ガスや水道の復旧。
 70年前のトンネル残骸など気にも掛けないだろう。
 ひょっとしたら、自分達が初めて気付いたんじゃないだろうか。
「大体、工場のこと自体、今初めて知りました。町の歴史にも書いてなかったと思います」
 70年。小学生の自分にとって長い、長い、時間。人生そのものに近い時間。
 ここで、死んでしまってそのまま。
 戦災で亡くなって。戦災で忘れ去られて。
 震災で再び出てきて。震災で……
 また忘れたままでいいのか?
 サトルはレンガを踏まないよう気をつけながら、奥の方へ、山の斜面の方へ分け入った。山崩れはどうやら埋もれた工場を破壊しながら発生したようである。そりゃ70年前の穴が開いていて隙間だらけ。大きな揺れが崩れるきっかけになっておかしくない。
 クワガタ取りと言ってあるのでペンライトを持ってきている。
「ぼく、何をしてるの?」
「何か、手がかりというか、遺品、でしたっけ、あればと思って」
 探してあげなくちゃいけない。それはサトルが抱いた使命感。
「そんな、いいのよ。どうせ」
 おばあさんが立ち上がったその時。
 サトルは、見つけた。
「おかあさん!」
 思わず出た言葉。そして、
「これ、おとうさん、ですよ多分」
 女性は、和服を着たその女性は、吸い寄せられるように立ち上がり、そして歩いて来、サトルのライトが照らすその先を見た。
 人の骨であった。
 軍のものか、ぼろぼろになった茶色い服と、傍らの頭の骨。
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-15-

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「だから、表は虫に食われたり水分が蒸発したりするのを防ぐため、閉じる。ただ、そういう仮説ね、現段階あくまで」
P9280212
(閉じる)
 説明したがもう聞いてない。悠里の四つ葉探しに付き合っている。と言っても、昼間ココにあったわけで。
「あ、あったよ」
 ほぼ同じ場所なので当然そうなる。
「わ、ホントだ。お兄ちゃん見てみて四つ葉!四つ葉のクローバー!初めて見た!」
「でも取らないでおこうよ。これは幸せをプレゼントしたい誰かにあげるもの。悠里ちゃん今楽しいでしょ?だったら取ったらかわいそう」
 安達美奈はそんな物言いをした。
「うんそうする!お姉ちゃん優しい」
 オレは三脚の脚を広げながら、正直魂消た。
 普通四つ葉見つけたら引っこ抜いて独り占めするだろう。幼子なら尚のこと。
 それを納得させたこと、そして恐らく、悠里は安達美奈と一緒にいるのが楽しい。
 憧れのお姉さん、ということか。
「兄ちゃん」
「んあ?」
 赤道儀をセットする。ネジを締めてモータドライブに電池を接続。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん結婚したら、お姉ちゃんは本当のお姉ちゃんになるんだよね」
 ぶっ。しかしオレが何か言う前に安達美奈が口を開いた。
「そうだよ。お兄ちゃんが18歳にならないと結婚できないけどね」
 何を話してるかこいつらは。
 無邪気と知識の同居……オレが安達美奈に下した一次判断。
 境筒載せ。動力確認。
「あ、動いた」
 悠里がモータのウィウィ唸るに気付き、三脚下の布袋に手を伸ばす。
 その布袋は巾着袋で似顔絵のアップリケ。
「悠里が作ったの」
 フェルトを切って福笑い。ボンドで貼ってあったのを母親がミシンで縫い付け。
「これお兄ちゃん?」
「うん!」
 中から取り出す接眼レンズ。別途ファインダーを取り出して付ける。このファインダーで狙った星を概略捉え、以下モータドライブを微調整し、接眼レンズ覗いた中心に星の像を追い込む。この一連の作業を天体の“導入”という。
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(つづく)

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【大人向けの童話】どくろトンネル-5-

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「もうすぐね」
 傾いた日差しに照らされた表情が輝いて見える。女の人って心ときめくと年齢まで変わって見えるのかとサトルは思う。
 ガサガサ歩いて少し。トンネルが貫く山に沿って地面が盛り上がり、木が生え。
 散らばるレンガ。崖崩れの痕跡。変に斜めの方向に伸びて枯れてる沢山の広葉樹。
 サトルは気付いた。そのレンガは、角が取れたり色あせたりして古そうな反面、そうでない部分や、割れてる所はまだ新品のよう。
 その理由。
「これは……何があったのかしら」
 動揺するようなおばあさん。でも、サトルは理由の推理が出来た。
 確信を持って。
「この間の地震です」
「震災……」
 東北地方太平洋沖地震。マグニチュード9.0。
 千年に一度というこの超巨大地震で、この地域は震度6弱の揺れに見舞われた。
 サトルの学校も体育館への連絡通路にヒビが入ってずれ動き、給食センターが動かないので3学期末まで短縮授業だった。
「で、崩れたんですよ。でも。こんなレンガのなんかあったっけ」
 すると、おばあさんは、ぺたりと正座の形に座り込んだ。
「ああ大丈夫ですか」
 熱中症か……そうではなかった。
「ここはね。昔、日本軍の秘密工場だったんだよ……」
 昭和19年。1944年。
 太平洋戦争で敗色濃厚となった日本にはアメリカ軍機が頻繁に飛来、機銃掃射や爆撃など、軍人、軍関係施設のみならず、一般市民までもがその犠牲になるようになっていた。
 そこで、軍は必要な物資を作る工場を地下や山中に移設した。トンネルを掘削し、その中に設備を持ち込んで操業したのである。
「ここも、そうした工場の一つ。でもね」
 夜間操業中の煙を見つけられ爆撃。旦那さんはその際に生き埋めになったという。
 トンネルは埋没したが工場の復旧が優先で捜索されること無く再建、そのまま戦争終了後、県境越えトンネルに作り替えられた。
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-14-

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「一筋の光描いて天を行く天空先端研究所のあり」
「その通り。しかしまぁ良く何でも三十一……」
「あー消えちゃう……あそこに人がいて、最先端の研究してて」
「そこへネットでメッセージ送れるんだなこれが。みんなツイッターやってるから」
「何かすごい。すごすぎる。私たちとんでもない未来に生きてる気がする!」
 あこがれのヒーローに出会った幼児のように足をじたばた。
 合わせて悠里も面白がって足をじたばた。
 それはさながらタイムスリップしてきた万葉人と評すべきか。
 短歌俳句好きなら、教科書が相手なら、文字になっているのは古い世界や視点、価値観が主だろう。
 万葉から1000年過ぎてる。
 以下、川までの道を星空解説しながら歩く。今年は土星がスピカの近くで白く輝く。
「土星の輪ってそれで見えるの?」
「合点承知の助」
 すると彼女は急に早足になった。
「見たい見たい土星見たい。早く行こう」
「お姉ちゃん速いよ」
 手を引かれる悠里がバランス崩すのを見て、彼女は抱き上げて小走り。
「ちょ……もう」
 機材を落とすわけにも行かないのでそのまま自転車を引いて行く。
 川べりに着いたら安達美奈は立ち尽くして呆然としていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん固まった」
 悠里の言葉の通り。ただ、果たして彼女はゆっくりこっちを向いた。
「閉じてる」
「は?」
 指さしたのは足もとシロツメクサ。
 クローバー共、葉を閉じてる。
「ああ」
 オレはとりあえず頷いて見せ、自転車のスタンドを立てた。彼女の今の疑問には応えることが出来る。
「ああ、ってことは、これ当然当たり前のことなの?」
「就眠(しゅうみん)活動って言うんだよ」
 植物一般の生活サイクル説明。昼は光合成。夜は呼吸。光合成に必要な葉緑素は表に多く、呼吸に必要な穴は裏に多く。
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(つづく)

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【大人向けの童話】どくろトンネル-4-

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「それ、自転車のカゴにどうぞ」
「そうかい?済まないね」
 代わりに虫かごなんかはバス停に置いて行く。どうせ帰り道通るしいいだろ。
 歩き出す。が、そのおばあさんの足取りでは、トンネル着くまでに夜になる。
「どうぞ」
 荷台に座ってもらい、サトルは自転車を引いて歩き出した。上り坂人を乗せて、であるが、さほど重くないのが救い。
「重ね重ね済まないねえ」
「いいえ。夜になったら危ないです。イノシシとか出るから」
「そうかい。そういえば旦那もこうやって私を乗せて自転車引いてくれたっけねぇ」
 夕陽に手をかざすその姿は一瞬、若い女の人のようにサトルには見えた。
「ああ、そっちそっち」
 気を取られていたらおばあさんが言った。
「え?」
 “そっち”と指さす方向は、県道から外れた草むらの中。
 そこはこの先キノコの養殖場へ続いている。それこそクワガタ取りに良く行く。
 だから“クワガタ取りに行く”で疑われない。
「こっちが近道でね。自転車じゃムリだろう。降りますよ」
 おばあさんは軽い足取りで降り立った。
「じゃぁ案内しますよ。クモの巣とかあるし、マムシ出るし」
「あら、頼もしい」
 サトルは自転車荷台のゴム紐解いて手に持ち、振り回して草むらにぶつけ、ガサガサ音を立てながら進んで行く。
「足もと大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。小さい頃こういうところで遊んでいたから、かえって面白いわ」
 微笑むその顔はおばあさんと言うのがウソのよう。足取りもさっきに比べて随分軽い。
 ガサッと音して動くニョロリ。
 ガサガサと草を動かしながら距離を取り去って行く。
「ああ、マムシですね。大丈夫逃げました」
 途中もう一度分かれ道、左は斜面を下って日陰にあるキノコ養殖場。
 右は行ったことが無いが、おばあさんはその右だと言った。
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(つづく)

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【恋の小話】星の川辺で-13-

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「うん、入ってきたよ」
 風呂に入ってきた。同級生の女の子。
 物凄く、ドキッとした、と書いておく。何故かは判らない。
 ティッシュを出して悠里の顔をぬぐい、それでべっちょりのオレのTシャツもぬぐう。
「ゴメン、オレ風呂入ってないどころか鼻水付き。悠里乗るか?」
「やだー。お姉ちゃんとお手々つないで行く。お兄ちゃん落とすもん」
 何を言うか自分でバランス崩したくせに。
 女の“客観的事実の把握の欠如”ってこの歳から既にあるのか。
 さておき川へ向かう。天候は晴れでOK。悠里が覚えたてか、“たなばたさま”の歌をノンストップパワープレイ。
「でもここからじゃ砂子って見えませんよね」
 この時々敬語混じり。何かあるのだろうが、心理学の本をめくればいいのだろうが、
 そういうことしたら逆に“自分のナチュラルな反応”失いそうな気がする。
 ちなみに砂子はその歌の歌詞に出てくる金銀砂子のこと。星屑のキラキラを指す。
「まぁ街中だしね。でも望遠鏡なら星の大集団なのは見えるから」
「『午后の授業』みたい。あ、あれって流れ星?」
 午后の授業、は宮澤賢治“銀河鉄道の夜”冒頭の副題と判った。というか星ネタだから付いて行けてる。そして、流れ星?と彼女が指さしたのは……天を横切って行く光の点。
「ゆーほー?」
 悠里が見上げる。二人の反応と記憶の限りでオレは答えを知ってた。
「国際宇宙ステーション」
「うそっ!?」
 こっちが驚くほど大きな声を出した安達美奈。
 その驚き方は悠里のそれと大差ない。
「お姉ちゃんびっくりしたよ~」
「ごめんね。え?あれって見えるの?」
「400キロ上空ではまだ太陽が見えてるわけ。逆に言うとその光が反射してオレらの目に届いてる。同じ理屈で人工衛星なんか朝夕に時々見えるよ。流れ星は大体0.3秒で消える」
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(つづく)

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【大人向けの童話】どくろトンネル-3-

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 タカシ達は待つことなく加速して行く。サトルはギブアップして自転車を降りた。
「ちくしょー」
 ひょっとして騙された、というか、嫌がらせされてるのか?とサトルは思う。
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-お前頭いいしな
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 イヤミみたいに良く言われる。
 道路は本格的に峠道の様相を呈し、そこからはつづら折り。
 何でこんなと思いながら自転車を押して歩く。夕刻と言うには早いギラギラ西陽、アスファルトの陽炎、どこまでも続く雑木林、セミの鳴き声。
 もうタカシたちの声も聞こえなくなった。
 一つ急カーブを曲がる。屋根付きベンチ付きのバス停。
 隣町から来ていたバスは、沿岸が津波でやられて客がゼロ。廃止になった。
 なのに、おばあさん、と書いちゃっていいだろう。和服姿で白髪の老年女性。
 廃止を知らないに相違ない。タカシたちは気付かなかったのか、無視したのか。
 サトルはタカシ達を呼ぼうとし、とっくに聞こえないだろうと諦めた。
「あのー、ここのバス、震災で無くなりましたけど……」
「え?そうなのかい?道理で来ないと思ったよ」
 時刻表の上には“廃止”の張り紙があったのだが、セロテープで留めてあっただけらしく、テープの切れっ端だけ残っている。
「その……どちらまで?ぼく、タクシーか何か呼んできましょうか?」
「大丈夫よ。それなら歩くまでのこと。旦那のお墓参りに行くところでね」
 新聞紙にくるまれた花と、紫の布(袱紗、なのだがサトルの語彙にその語はない)に包まれた箱。何かお供え物だろうか。
 そういえば、お盆だ。
 ただ。
「お墓ってどの辺ですか?」
 確かこの先に墓地とか無いはず。
「ああ、旦那が事故で死んだ場所に行くのよ。上にトンネルがあるでしょ」
 それこそどくろトンネル。
 なら、どのみち目的地。
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(つづく)

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