アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【36】
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「姫様と言うより普通の女の子」
南アフリカからという女性はこう評した。同じ列車で一夜を過ごした〝仲間同士〟の気の置けない感じがこのサロンには花咲く。往事華やかなりし時代もそうだったのだろうか。
ウィーンでさらに観光組が大挙下車。乗客はケルン発車時のおよそ四分の一となり、列車は東欧圏へ進路を取る。陽が高くなり、線路沿いには見物目的であろう、カメラの類を持ち、こちらに手を振る人々がチラホラ。
そろそろ下車の準備だ。
コンパートメントに戻って最後のお茶を頂き、荷物をまとめる。
停車のアナウンス。本来的にはスチュワードが担当客の下車駅を把握しており、一斉放送は行わない。
行うのは異常かイベントであるが、聞こえてきたのは『皆様名残惜しいことですが列車の花とここでお別れです』しかも英語とドイツ語で。
大げさですってば。
カーブを曲がり、山並みの向こうに白い城壁が見えてくる。
コルキス王国。
お城と城下の街並。それだけで成り立つ極めて小さな独立国家である。国の敷地の半分が王宮、1割がコルキスの駅構内。すなわち〝国民〟が住むのは全体の4割。
カーブ途中より列車が速度を落とし始め、幾重もの転轍機で線路が左右に開いて輻輳し、大きなドームに覆われたプラットホームへ進入する。国の規模に比してアンバランスなサイズの駅だが、王宮の目の前でこぢんまりではサマになるまい。それと判らないくらい緩やかに減速し、2号車停車位置には赤絨毯が敷かれ、シルクハットの紳士が一人。
ドアノック。ジェフ氏の迎えだ。
「お世話になりました」
「ご利用ありがとうございました。この先あなた様がお見えにならないかと思うと、私の人生は永遠のトンネルのようです」
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(つづく)
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