アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【111】
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少女は薬物で常時微睡んでいたのだ。それを強調したいために、テレビはこのセリフを取り上げた。レムリアは気が付いた。ただ、ニュースの曰く、青年の名前は明らかにされておらず、事情を聴取している、とあるのみ。
それは犯人扱いの意味ではない。言い換えると、まだ捕まっていない。
恐怖が身体を震わせる。
自分が、罪を、着せた可能性。
「彼女……大丈夫か。顔色が悪いぞ」
「いえ。あの、ドクター・中村。後をお任せしてもよろしいでしょうか」
「ああ、もちろん。次の任務かね?」
「ええはい。ではわたくしはこれで」
「忙しいな。変化があればEFMMにメールするよ」
「ありがとうございます。すいません」
挨拶も早々に病室を後にし、階段を駆け上がる。目指すのは病院屋上、ドクター・ヘリ用のへリポート。但しもちろん、そこに下ろしたのは、ヘリを装った船。
コンクリート打ちっ放しの階段ホールに響く自分の足音。照明が少なく薄暗いが、心の中は尚のこと暗い。恐怖をトリガとする悪い予感が発生し、前線の雷雲のように沸き上がり発達し、心の中をどす黒く占拠して行く。
〈どうしましたレムリア〉
予感を知ったか、セレネがテレパシーで訊いてきた。
その質問の答えは、言葉で用意する必要はない。
〈判りました。探しに行きましょう〉
耳に仕込んだ無線機から、雑音混じりに声が聞こえる。船長……あの青年……誘拐の嫌疑……。
緊急事態であれば当船に保護を。
鉄扉を開けて屋上へ出る。薄着を突き刺す寒さと、ビル風に舞う白いもの。
雪。
傷だらけの映画フィルムのような光景の中、装う必要のなくなった船は、リフレクション・プレートを開いて発進待機状態。
昇降口スロープ先端にはセレネの姿。寒いのに。
「すぐ出ます」
「すいません。私が一人で行けば良いのでしょうが……」
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(つづく)
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