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2014年5月

【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-31-

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 熱湯や、調理器に触れたことによる火傷は、すぐに冷めたり、手指を反射で引っ込めることにより、より以上の熱を浴びることは無い。
 しかし食材が付着する場合は別である。高温体が貼り付いたままになるからである。赤ちゃんが炊飯器をひっくり返して大やけど、などの例はままある。
 さておき、二人の行為は公務執行妨害以外の何ものでも無かった。
 警官二人の手が、双方とも拳銃から離れたところで、相原は二人に相次いで柔道の背負い投げを噛まし、部屋の中へ文字通り投げ飛ばした。それで作れた猶予数秒、食卓イスからスーツのジャケットを鷲掴みにし、レムリアの手を引き、アパートの階段を駆け下り始める。
「どこへ」
「ドロボーだい」
 相原の意図はすぐ判った。
 止めてあったパトカーに乗り込む。エンジンは掛かったままだ。
「船に乗るのはいつもどこから」
 相原はパトカーを動かしながら尋ねる。テレパス一閃、レムリアは彼に指示し、回転灯とサイレンを作動させた。
 船。その空飛ぶ船のこと。隠密裏に活動している国際救助ボランティア。
「そこの運河で……しまった!」
 レムリアは遠ざかるアパートを振り返り唇を噛む。こちらから呼ぶ際に使う衛星携帯電話そのほか、一式入ったウェストポーチを部屋に置いてきた。ちなみに、手品として“出したり引っ込めたり瞬間移動したり”を魔法で見せるが、それは現物が手元にあるからできる。
 この距離だと満月の力が無いと無理。
 ちなみに相原の電話にはレムリアの番号しか入っていない。これは万が一にも救助隊へのアクセスルートが漏洩したら困るからだ。相原自身は船を操舵するまで出来るが、立場はあくまでオブザーバレベルである。
「ごめん。肝心な時に」
「いいよ。中央駅(アムステルダム中央駅)行くぞ。案内してくれ」
「でも」
 警察無線が音を出し、非常線と追っ手の存在を告げる。もちろん、このパトカー自身を呼ぶ声も何度か。
 パトカーが勝手に動いていると判ればそれまで。
 タイムリミットは見つかるまで。
「いいんだよ。駅からどこかへ行ったと思うだろう。探す場所が増えて困るだろう。そう思わせたいだけ」
 

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あとがき・今後・もろもろ

「しばらく来ないよ」とはエウリーからの伝言である。ショックを受けたというか、パラダイムの変換を感じ取ったようである。「今のままでは無理だ」とだけ伝えておきましょうか。まぁ、しばらく。
 
さてこの水曜枠(と勝手に名付けている)は6月より「水曜0時」の更新に変更します。理由?
・水曜0時+3日と半日=土曜12時
ただそんだけ。更新間隔を84時間にしたいだけの話。
 
お話ですが「ユカちゃんハテナ王国へ行く」という大人向けの童話です。ユカちゃん自身は幼稚園へ通う女の子ですが、読み手は大人です。ちなみにこれは歌手・うちやえゆかさんのツイッター上での一言「ハテナ王国」から生まれました。タイトルからして幾らでもバリエーションができそうな気配がぷんぷんしますが、さればエウリーの後釜かというとさておき。
 
・6/4~【大人向けの童話】「ユカちゃんハテナ王国へ行く」
・次【理絵子の夜話】「新たな自分を見つける会」
・その次【大人向けの童話】「ユカちゃんフルーツ王国へ行く」(仮)
 
おちゃらけ成分が足りない。

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-30-

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「悪いがこっそり近づいてるのばれてる」
 相原は振り返ってニヤッと笑った。153センチ用エプロンがいかにもちんちくりん。
「ちぇっ」
 レムリアは笑って言った。昨夜着のままのブラウスのシワを伸ばす。
 その瞬間。
 呼び鈴が鳴らされ、破壊が来たと魔女の感覚が教えて寄越した。
 以下オランダ語であるが、邦訳を意味するカッコ書きを略す。
「はい。どなた」
「警察だ。不法売春の容疑で逮捕する。開けろ。東洋人の男を客に取っているだろう。通報があった」
 玄関向こうの男の声に相原が訝った。
「どうした?」
 レムリアは唇に指をして“しーっ”と言おうとしたのであるが。
「いたぞ!」
「開けろ!さもないと!」
 警告に対する彼女の反応よりも早く、玄関ドアに拳銃弾が撃ち込まれる。強引にして性急なやり方な気もするがさておく。オランダでは16歳以下の売春行為は違反である。
 この状況下で、それとは違うと証明できるのか。
 力任せに、ドアが開かれようとする。
 そのとき彼女が思ったことは。
 彼との、時間を、壊される。
「……!」
 自分が、発狂したのかと、彼女は思った。
 開いたドアの向こうへ、自分自身思いも寄らなかった金切り声の叫びを上げた。
 王族の娘であるから、いにしえの習わしに従い、城の上から触れを出す。そのための発声訓練を受けていた。
 応じた、大音声が、身体全体を震わせ迸った。
 警官達は2人組であり、拳銃こそ手にすれ、何か防具の類を身に付けていたわけでは無かった。
 彼らが耳を塞いだところへ、熱いフレンチトーストがフライパンごと、および、熱い紅茶の入ったガラスポットがそれぞれ投げつけられた。
 フレンチトーストは顔面全体に飛び散って付着し、一方ガラスポットは割れて刺さった。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】けだもののそんげん-32・終-

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 誰の目にも触れないということは無い。
「何だろう。この虚しさは」
 ナイアデスが人間サイズに身体を戻して言いました。
 気付いたのです。この組織や工場をこうして破壊したとしても。
 また同じ事を考える者が、マネする者が、必ず出てくるであろうことを。
 私たちのしたことは、正しかったのか。
 括られた男の一人がようやく正気に戻ったか、……最後、唯一の武器なのでしょう、ツバを吐き飛ばしてきます。
 が、バリアをかけてあるので弾き返され己れの顔へ。
「……」
 それは日本語で書けば「くそっ」という悪態ですが、日本語ではありません。
 東洋系の顔立ちですが、異国の者のようです。
 正しかったのか。自問への答えが垣間見えたような気がしました。
 男達のいや増す恐怖。それは……あろう事かシャーマニズム文化圏の抱くそれ。
「日本って、花鳥風月の国、ですよね」
 ナイアデス。
 それは、異国語に対する彼女の認識の表出。
「ええ、だから、でも、それは私たちには手を出せない領域」
 聞いています。“殺処分”された野良の犬猫、しかし慰霊碑があること。
 知っています。食肉加工で屠る時、敢えて人の手で行うこと。無為に殺すのでは無いときちんと意識させていること。
 だから食事の前には“いただきます”。
 そんな国、日本。私の活動エリア。
 それは、恐らく、本当は、幸せだったのかも知れません。
 他のエリアに比して最も、悲しい涙を流さずに済んだのかも知れません。
 動物だけじゃない。昆虫にも、子供が笑顔を見せる国。
 別のヘリコプターが接近してきます。
「小屋の連中が出てくるよ。最も、観念してるけど」
 ナイアデスが言いました。
「ならいいよ。もう、私らの出番じゃない。君たちもありがとうね。終わった」
 動物たちは去るのを見届け、
 私たちもその場から消えました。夜明けと共に。古来妖精の顕現に倣い。
 
けだもののそんげん/終
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-29-

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 そうなってもいいと思った。そうしてくれという意味では無いが。彼が求めるなら構わないとは思った。その結果、妊娠しても……。まぁタイミング的に今夜の結果がそうなるとは思わないが、と冷静に考えてる自分に苦笑する。すると、生じていた熱いドキドキ、および、高湿度の気持ちがスッと散った。
「結婚したらな」
 果たして彼はそう言って身をほどき、今度は緩く抱き寄せた。冷静に考えるとプロポーズなのだが、敢えて考える必要すら無い。
 そう答えると判っていたから。
「うん」
 彼女は頷いて身体を預ける。しなだれかかるという奴だ。
 何か飛び抜けた領域に自分達一気に達した。それを二人して認識していると判っていた。恋人同士とか、婚約したとか、そんな言葉で表現できる段階を一気に超越し、二人を結んだと認識していた。結婚して彼との子どもを産むのだろう、家庭を築くのであろう。それは予感というか既定路線に過ぎない。だからプロポーズとか意識しない。時間線の向こうにあるんだというだけの話。今、二人の間には、それだけでは表現できない何かがある。生物である以上、キスして抱き合ってそして遺伝子の混交が愛の終着点のはずだが。
 この気持ちと現状は。
 地球上で人間だけが得られる感覚。
 全部がありのままでいられる世界。
 魔法の国に生まれた一人の娘でいられる空間。
 感情だの体面だのを有する人間だからこそ、それを考えなくて済む。
 いや違う。そんな小理屈の世界じゃ無くて。
 
 
 フレンチトーストを焦がした匂い。
 起きて部屋が暖かく、朝餉の匂い(但しそれゆえ焦げ臭い)が漂っている。
 こんな、こんな幸せな朝をこの部屋で迎えたことは過去に無い。
 ベッドを這い出す。布団の上にコートがかぶせられてあり、キッチンにおよそ場違いなYシャツにスラックスの168センチ。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】けだもののそんげん-31-

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 身ぐるみ剥がされて野性に放り出されれば、今の人間さんには何も出来ないでしょう。
 それは悲しいかな人間さんが“野性”の生き物では既に無くなっている証です。
 地球の自然は、自然に背を向けて生きて行こうとする皆さん、人間さんという生き物に、どう作用するのでしょうか。
〈これは何が起こっているのだ?〉
 クマは私に尋ねました。微動だにしない人間の有り様(ありよう)を逆に怪訝に感じているようです。
「逃げることも立ち向かうことも出来ない状態ってこと」
 私は身体のサイズを変え、クマと彼らの間に入ってみました。
 唐突に女が出てきたわけでどう反応するのでしょう。
 目だけ動きました。顔と胸元を見られます。すごいです。男です。
 しかし金縛り状態からは変化しません。自縄自縛と言いますか、一種の自己催眠・自己暗示に近い状態と推察されます。私の力がそう作用したのでしょう。
「社員達は?」
 私はナイアデスに訊きました。
 トラック用エレベータの所に放置してきた発狂者1名を含む4人。その方向には煙がまだ見えます。
 空が白々と明けてきました。
「動けるようになったみたい。詰め所みたいな所に入ってじっとしてる」
「逃げるかな」
「その、おかしくなっちゃった人を病院へと考えてるみたい。で、散り散りになるのは得策ではないとの考え。電話も通じないけどそのうち誰か来るだろう」
「判った。放っておこうか」
「それでいいんじゃないですか?」
 さぁこの男達です。プロの殺し屋。もちろんアンダーグラウンドの人間。
「相手がクマでは諦めモードですか殺し屋さん」
 とは言え、元より会話する気はありません。何やらピアノ線を一巻き持っていたので、念力使って取り上げ、そのまま全員の足首を括ってつなげて一丁上がりです。
 白日の下にさらす。目的はこれで達せられるでしょう。国道の真ん中にヘリコプターがひっくり返り、国立公園にクレーターが生じて煙を噴いているのですから。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-28-

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 その後曲折あり、彼にとってそれは夢の記憶と混交し、追って“夢に出てきた娘”を主人公に、物語に書いていたという。
 そこへ再び、空飛ぶ船で降り立ったのが1年半前。
 共に船に乗り、現実だったと認識し直した彼は、船での活動において、幾度となく自分を守る盾となった。
 彼の好意はその時知った。自分に対して色々気を遣い、動いてくれる……心地よくあり、それを前提に動き、彼を困らせたこともしばしば。
 その気を遣ってくれる理由は何故?そんな形で彼から言葉を引き出した。目に見えて赤くなる彼が面白かった。幾度か言わせた。
 ただ、引き出した言葉の意味の重さは、多分その時はまだ、気付いてなかった。
 比して今。
 自分が、その時彼に言わせた“好き”と、たった今聞いた“好き”が別の意味で聞こえていると感じている。
 すなわち、自分に到来しているこの感情は、突き動かす情動は、彼が、自分に抱いた、その言葉とほぼ同意。
 いや、彼は、その特別な感情が意味する対象どころではなく、もう間違いなく、“自分を構成する一部”なのだった。
 つまり。
「ありがとう」
 彼女は、言った。
 そして、自分の心の事実に、任せて良い。
 だから。
「もう、離れていかないで」
 出てきたのはそんな言葉。
「これから、ずっと、一緒にいて」
「永遠でも」
 自分を抱きすくめる力が強くなる。多分、今、ふたりはひとつ。
 その感覚を欲する自分がいる。この感情は言葉にするなら、好き、では不十分。
 彼女は彼にしがみつく。否、抱き締め返す。
 愛する者を包むつもりで。
「私には、あなたが、必要。一生」
「君のためなら」
 そして、このまま、気持ちに対する証しが欲しいというなら。
「しても……いいよ。看護師ですから。知識は充分」
 

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【妖精エウリーの小さなお話】けだもののそんげん-30-

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 各人、手にしている得物、外見上は銃器ですが、
「麻酔銃だね。で、気絶したとこロープでくくって枝から下げれば自殺偽装の出来上がり。本物の殺し屋だよ」
 されど彼らは狼狽しているようです。ヘリコプターを破壊された上、最前まで見えていた人影が突如消失したのですから。
 加えて。
「抑えた」
 私は言いました。彼らは暗視スコープを装着しています。それを破壊し、なおかつ、彼らの身動きを拘束しました。空間にピン留めされたように動けなくなります。
 その時。
〈ここは、我々にやらせてもらえんでしょうかね〉
 訊いてきたのは……ここまで行動を共にした面々ではありませんでした。
 クマです。ツキノワグマ。
 そして、その申し出は、危害を加えるという意図ではありません。
 彼らの銃器を取り払う。ただそれだけ。人間が動物に対し、アドバンテージの依拠としている銃器とレーザ、スコープを取り上げるというのです。
〈いいよ〉
 私は許可しました。
 粉骨砕身という言葉があります。かほど努力するという意味の言葉ですが、クマの腕に掛かった人体にも同じ言葉が使えます。クマは多く腕を振るって獲物を仕留めますが、その威力は人体を粉骨砕身状態にします。
 暗視スコープが壊されて闇の中です。身体は何をどうしたか動かせません。そこにクマが来て腕を振り、銃器を叩き落とし踏みつけ、変形させて用なし。次いで目を眩ませる目的であっただろうレーザマーカはひしゃげ、そしてゴーグル型のスコープも、一撃でアスファルトに叩き付けられ、ただのガラクタに姿を変えます。
 “クマに襲われている”と認識したか、股間に失禁のシミを作った哀れな男の顔3つ。
 私はそこで念動の拘束を解きました。しかし、男達は動きません。
 いえ動けないのです。恐怖に凝固・萎縮してしまい微動もできない。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-27-

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 視界が確保されたので彼の顔を見る。
「アップルティーでも作ろうかと思ったんだけど、全部投げちゃったよ」
 彼はあっけらかんとした口調で言った。
 良く来たな、また来たか、いらっしゃい……それは、彼がその都度変える、自分を迎えるセリフのトーンとリズムであった。
 ただ、違うのは、彼はベッドの上に仰向けにあり、
 自分が、その上に、完全に体を載せていること。
 この世に生まれ出、母の胸に抱かれた幼子のように。
「ごめ……ありが……」
 泣きすぎて腹膜が痙攣しているか、しゃっくりが邪魔して満足に言葉にならない。
 彼は何も言わず、彼女を支えて起こし、ベッドに座らせ、コートを脱いで彼女に覆い被せ、キッチンに立った。
「どれが湯わかし用でどれが煎じる用だい?」
 紅茶を入れる際のポットの使い分けのこと。
「ステンレスのと、ガラスのと……」
 その、首をひねって問いかける背中に、見慣れた背広に、
 彼女はこの距離にもどかしさを覚え、言葉を千切って素足で床に降り立つと、駆け寄って後ろからしがみついた。
 しなやかで柔軟な、若い女の腕が、相原学の腰の部分に巻き付いた。
「会いたかった……」
 相原学は少し驚いたようで、感電したように身体を小さく震わせた。
 次いで、己の腹部でギュッと結ばれた彼女の細い左右の手先を両手で握り、
 解いて開き、手を握ったまま向き直り、
 少し身をかがめて目の位置を合わせ、彼女の目を見、
 引き寄せて抱きしめた。
「お前が好きだ」
 耳元から、相原学のそう言う声が聞こえてきた。
 自分の顔より大きな、彼の掌(てのひら)が、自分の後頭部を優しく支えている。
 彼から同じ意味の言葉を聞いたのは1年前の病院ベッド。
 彼との出会いは2つ前の冬。空から突然船が降りて来て、国際犯罪組織に誘拐された少女を、「後を頼む」と託された。彼はどんなに面食らったことだろう。
 

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